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破天荒筋肉!(前編)

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破天荒筋肉!(前編)



スラム街らしい狭い道、壁の至る所に描かれた落書き。
治安の悪さを象徴するかのように、ゴミ箱や公衆電話などの気の利いた設置物も何一つない。
建物も、ほとんどが一階までしかない平屋。
複数階ある建物は、一部屋あたりがネコの額ほどの広さもない安アパートのみ。
高層ビルなんていうブルジョワな建物とは一切縁がない町並みだった。
スラム街とは貧困層が過密的に居住した町のことであり、日本などを除けばどこの国にもある荒廃した街のことだ。
そして、公共サービスが受けられないほどのスラム街で跋扈するのは、正義と秩序ではなく、無秩序と悪徳と犯罪。
しかし、ドラッグ、セックス、暴力が蔓延るこの街も、今は人っ子一人見当たらない。
人の暮らした足跡や痕跡は残っているものの、そこで生活していた人間はいなくなっている。
しかし、誰一人いないとその色褪せた思われたスラム街にも例外はいた。
真人とトーニャと、ついでにダンセイニはそんな誰一人いない古ぼけた町並みを見せるスラム街を抜けて、爆音のした方へ向かっていた。

「おい、こっちでいいんだよな?」
「どうでしょう? こっちでいいとは思いますが」
「てけり・り!」

真人が一度方向を間違えたこと、そしてドライとの戦闘もあって、爆音がしてからはすでにかなりの時間が経っている。
さらに、ドライとの戦闘で道の入り組んだスラム街を縦横無尽に走り回ったことにより、さらに爆音のした正確な方向も曖昧となっていた。
トーニャが推測するに、爆音はTNTかなにかの爆弾が爆発した際に生じたもの。
そしてTNT爆薬を料理に使うなどという馬鹿げた話はトーニャは聞いた事ない。
爆音は間違いなく戦闘があったと思われる証拠だ。
今二人と一匹(?)が向かっているのはその音がした方向。

「あぁん? 頭脳担当なんだろ? 分からねぇのかよ!?」
「文句はあのドライに言ってください。無茶苦茶に逃げ回ったおかげで、正確な方向も分からなくなったんですから」
「てけり・り」
「なんだてめぇ、ドライヤーに襲われたことよりも誰かさんが最初に方向を間違った方が悪いんですよ。
 その無駄に誇らしい筋肉をもっと脳みそにまわすことでもしたらどうですか、とでも言いたげだなぁ!」
「ドライヤーじゃなくてドライです。ドライヤーが襲ってくるって下手なホラー映画よりも怖いですよ。
 『お前の濡れた髪を乾かしてやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!』とでも言って襲い掛かってくるんですか?
 それとその鮮やか過ぎる言いがかりも止めてください。ついでに、静かにしていただけると助かります」 
「てけり・り!」

いつしか二人の歩いている背景が家の壁から木や草に変わる。
二人の会話のテンポは相変わらず止まることはない。
いや、正確にはトーニャは周囲を警戒してなるべく黙っていようとするのだ。
だが、真人がことあるごとにしゃべり、トーニャが静かにするよう嗜めつつもそれに応え、
ダンセイニが理解できてるのか理解できてないのか分からないような相槌を打つ、そのサイクルが出来上がっているのだ。
傍目には中々いいコンビとも言える。

「っていうかよ、走らねぇのか? もう爆発から大分時間が経ってんだぞ」
「だからです。大分時間が経ってるからこそ、もう誰もいない可能性の方が高いんです」
「てけり・り」
「でもよ、誰かがいる可能性だってあるんだぜ。 もしそれが鈴や理樹だったら……」
「でしたら走って行ってください。 私はグッピーの頭脳担当を申し出ましたが、私の指示を無理強いするつもりはありません。
 ただし、これだけは言っておきます。 ……不必要に体力を消耗すると、いざというときに棗鈴さんや直江理樹君はおろか自分の身も守れませんよ」
「てけり・り!」
「……チッ、分かったよ。ダンセイニもお前の指示を聞けって言ってるしな」
「言葉が分かるんですか……」

しかめっ面をしながらも、トーニャの指示通りに歩いていく事を決めた真人。
真人の抱えた筋肉チョッキから顔を覗かせたダンセイニが、心なしか嬉しそうに筋肉チョッキの中で蠢いている。
これがドライとの戦闘前のやり取りなら、真人もトーニャと決別して、単身で走って行っただろう。
しかし、ドライとの戦闘は、二人は口に出してはないが、互いが互いを助け合って危機を乗り越えた証として、二人の間に確かな信頼関係を築いていた。
己が身の危険も顧みず、恐れて逃げることなく銃を持った敵に立ち向かい、そして最終的には敵を撃退。
二人は隣にいる人物が、当面は背中を預けて戦うにふさわしいパートナーと判断したのだ。
しかしながら、残念なことに二人の間に芽生えた微かな仲間意識とは裏腹に、彼らの向かっている方向は爆発のあった方向とは微妙にずれていたのだ。
本来の爆発があった場所よりも東に進みすぎた彼らに待つものは、爆発の跡ではなく、まだ見知らぬ人物との邂逅であった。

「…………ぁぁぁぁぁ……………~~~~~………!!!」

向かっている先の森の奥から、突如聞こえてきた声。
真人もトーニャも自然と立ち止まり、警戒する。
二人が耳をすませてみると、どうやら誰かが大声で叫んでいるようだ。
そろそろ東の空が明ける時間とはいえ、森の中で無用心に声を出す理由とは何だろうかと両者は考える。
一番可能性があるのは、声の主は誰かに襲われてるので、助けを求めている。
その可能性に気づいた真人は声のした方に走り出さんと足を踏み出そうとしたが、トーニャの待て、という視線に渋々従う。
なんでだよ?と真人も視線で聞き返すと、トーニャが小声で疑問に答えた。

「あの声、誰か知り合いに心当たりでもありますか? たぶん、これは成人男性の声ですよ」
「いや、無いけどよ……」

真人の中途半端に濁した言葉の先の意味をトーニャは読み取る。
無いなら無いでも、誰か襲われてるなら助けに行くべきではないのか?真人はそう言いたいのだ。
その疑問にも、もちろんトーニャは答えを用意している。
答えはもちろんイエスだ。しかし、その答えを出すにはある前提が必要となる。
つまり、この声の主は本当に誰かに襲われていて、助けを求めているという前提条件が。
声はさっきから断続的に続いており、しかも、トーニャと真人のいる方向へ向かってきているらしい。
しかし、どうもこの声を注意深く聞いていると、この声には必死さが無い。
襲われている者の心に現れる恐怖心や、誰か助けてくれという必死さが全く伝わってこないのだ。
有り体に言えば、聞こえてくるのは悲鳴ではなく、単なる叫び声だ。
まるで、自分の声は世界一大きいのだと、森中に主張しているかのような感じさえ伝わってくる。

「もう少し様子を見ます。 いいですね?」
「おう。 ダンセイニも静かにしてろよ」
「てけり・り」

二人と一匹は緊張感と共に、その場に留まることを選択。 丁度いい木陰に隠れることにした。
さらに大きくなっていく声。 声の主が間違いなく二人の下へ進行している証拠だろう。
そこに、新たな事実が発覚する。 どうやら、もう一人いるようだ。
トーニャとそう変わらない年頃の女性の声もまた響いてきた。
少なくとも、二人組かそれ以上の集団で行動していることがこれで判明した。 だが、まだ二人は動くことはしない。
物音を立てず、周囲の背景に溶け込むように沈黙を保ち、自らの気配を消すことに努める。
大分距離も近くなってるようで、声もかなり鮮明に聞き取れるようになってきた。

「ホワァァァァァァァァァァァァァィ!? 嗚呼、何故! 神はかくも苛烈な仕打ちを我輩に与えるのかぁ!?
 この、我輩が! この、大・天・才! ドクターウエストが! スペシャルウエスト感謝デーとして特別にみなに会ってやろうとしているのに!
 誰もこないとは何故なのであるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「そんな奇声上げながら動く変質者になんか誰も近づきたくなんかないわ!」
「ハッ!? さては恥ずかしがっているのであるか? 『愛しのドクターウエスト様、貴方にお会いしたくてたまりません。
 けれど、凡骨の私はこうして木陰からウエスト様のお姿を見つめることしかできません、クスン』
 おお、憎い! 神をも震え上がらせるこの頭脳が! 
 一般ピーポーを恥ずかしがらせる、このスペシャルでデラックスでウルトラでグレートでアトミックな頭脳が憎い!!!
 だが許せ娘よ、天に二物も三物も与えられたこのドクターウエストが世に生れ落ちたのは所謂必然!
 偶然の産物たる一般ピーポーと違って天才は生まれるべくして生まれるもの。
 決して凡骨に生まれた自分の不幸を呪ったり、コンプレックスに苛まれてはいけないのであ~~~~る!」 
「な訳あるか! 周りに誰もいないからに決まってるでしょうが!」

漫才コンビ?
ハッキリと聞こえてきた声に対して、トーニャが抱いた感想はまずそれだった。
もう声どころか、その姿さえ確認できる位置にまで二人組は近づいている。
基本的に緑色の髪をした成人男性が奇声を発し、制服を着た女学生がツッコむ形のようだ。
特に、緑色の髪の男はエキセントリックな言動が著しく目立つ。
たぶん、テレビに登場すれば、登場時間の90%がピー音と『しばらくお待ちください』の画面に切り替えられそうだ。
所謂キチ○イという表現がこの世で最も似合っているのではないのであろうか。
ああ、なんかどこかで見たことある光景だ。 トーニャはそう思った。
そしてすぐにその既視感の正体に気がつく。 さっきまでトーニャと真人がやっていたやり取りに瓜二つだ。
真人がアホな発言をして、トーニャがツッコむという形と、あの二人組の会話のやり取りは非常に似ている。

「おい、あの男の方、別の意味でかなりヤバそうじゃないか?」
「ええ、そうですね(ああ、この筋肉にまで心配されるとは、あのキチ○イに少しだけ同情しないこともありませんね)」

トーニャが真人の言葉に頷く。
自意識過剰という言葉でも足りぬほどの自尊心を言葉に漲らせ、夜の森を恐れずに闊歩する男は間違いなく異常者であった。
平時なら間違いなくノーサンキューゴーホームな人物ともいえる。
同時に僅かながらだが、そんな男と同行するあの女学生に親近感を覚えたトーニャであるが、思考回路は別のことを考えていた。
このままあの二人と接触するべきか否か?
たぶん、あんな漫才やってる人物が殺し合いを肯定しているとは考えにくい。
とはいえ、性急な判断はいずれ死を招く。
ここは一人で決めることはせずに、相方にも聞いてみることにした。

「どうします? 接触しますか?」
「ん? 俺が決めていいのか?」
「基本的に私が頭脳担当ですが、グッピーにも選択肢は与えますよ。 それとも人形のように一から十まで指示された方がいいですか?
「んなこと言ってねぇよ。 で、まぁ会っていいんじゃねぇか? どっちもいい筋肉持ってるし、鈴や理樹のこと知ってるかもしれねぇ」
「また筋肉が判断基準なんですね……その筋肉至上主義な思考回路には少しだけ敬意を表します」
「まぁな。 俺くらいの筋肉の持ち主になると、筋肉と会話もできるんだぜ」
「へーすごいですね、パチパチパチ(超棒読み)。 ちなみにそれ、100%幻聴ですから速やかに精神科に行った方がいいですよ」
「てけり・り!」
「お、ダンセイニも言ってるぜ。 接触しようってな」
「私の忠告は無視ですか、まぁいいですけどね。 それでは接触しましょう」

あらかじめ真人の答えを予測していたトーニャの行動は素早かった。
ガサガサと故意に音を大きめに立てて、二人組に誰かいるということをアピール。
二人組が物音に気づいたことを雰囲気で察して、次の行動にでる。
そして、まずは軽い挨拶から始め、敵意のないことを伝えた。

「おはようございます。 とりあえず敵意はないことを証明するため、このまま姿を見せてもよろしいでしょうか?」
「ななな、何者であるか!? 姿を見せるのである!」
「え? だ、誰? あっとと、いいよ。 こっちも敵意はないから」

その言葉を聞いて、木陰から二人組の視線に晒されるように出る。 真人にはまだ姿を見せないように指示している。
一応、向こうは敵意はないと言っているが、まだそれが本当だと確定した訳ではない。 対策はいくらでも打つに越したことはない。
無手を装ってはいるが、必殺の武器、キキーモラに神経を集中させ、不意打ちに備える。 
背中に隠したキキーモラは二人組の視界からは見えない。
不意打ちされても、大抵のものはキキーモラで防ぐことができるし、いざとなったらこのキキーモラで逆襲も可能だ。

「ありがとうございます。 先ほどからお二方のやり取りを見させて貰いましたが、危険な人物ではないと判断して姿を見せました。
 とりあえず、お互い知っている限りの情報を交換したいのですが、お時間を戴けますか?」

丁寧な口調で話を切り出すトーニャ。
些細な言葉の行き違いからのすれ違いを防ぐためにも、できる限り穏やかに物事を進めようとする。
ちょっとした営業スマイルも忘れずにつける。

「フン! 我輩に知らぬことなどナッスィング! 我輩にできぬことなどインポッシブル! 
 我輩にインヴィジブルなものはなにも……実はたくさんある。
 いずれ宿敵大十字九郎を倒し、世界でドクターといえばこのドクターウエストしか思い浮かばない世界を造るのだ!!!
 その大天才たる我輩に目をつけたその眼力、認めてやらんことも無い! だがしかし! 少し礼儀を弁えてはどうだそこな凡人よ!
 情報を交換して欲しいというなら土下座百回と肩揉み千回でしてやろう!
 だが、その前に名乗ったらどうなのだ! それとも貴様は名無しの権兵衛なのか? や~い、名無しの権兵衛~! お前の母ちゃんデベソ~!」

予想以上に汚い言葉の数々に、筋肉チョッキを始めて見たときと同等の怒りが湧いてきた。
平常心を心に念じて、トーニャはできる限り心を落ち着かせようとする。
今すぐにでも目の前の男を殴りたい衝動を根性で抑える。 
だがしかし、この男の言うとおり、情報交換の前に名乗らなければならないのもまた事実。
言ってることは正しいのだが、これ以上ないほどその態度が癪に障るのだ。
とりあえず脳内ではキキーモラでこの男を八つ裂きにして、名乗ろうと口を開きかけた瞬間、予想外のことが起きた。

「てめえ……言うじゃねぇか」

木陰から真人が現れ、ドクターウエストと名乗った男を睨み付けているのである。
二人組に警戒心が走ったのが、トーニャの目に見えた。 そのまま心の中で舌打ちをする。
この状況での真人の登場は二人組の不審を招く。
何故、今までこの人物の存在を隠していたのか、という疑問がぶつけられるのは容易に想像できるだろう。
もちろん、まだ完全に信用していなかったらというもっともらしい理由をつけることは可能だし、事実トーニャたちもそのつもりだった。
しかし、ここでは些細なすれ違いが重大な事件を起こす可能性もある。
この回答は、二人組の疑心を完全に振り払うに値する回答ではないのだ。
最悪、疑心が疑心を呼び、取り返しのつかない事態が発生することも起こりうる。
この事態をどう収集するかトーニャが考え始めたとき、さらに真人が口を開いた。

「聞かれて名乗るのもおこがましいが、名乗れと言われたからには名乗らないと、俺の筋肉がすたるってもんだ。
 いいか、俺は『究極の筋肉』井ノ原真人!!!」
「フッ、良くぞ名乗った井ノ原真人よ。
 では我輩も名乗ってしんぜよう。 耳の穴、目の穴、鼻の穴、エトセトラエトセトラ……人体に存在する全ての穴をかっぽじって、よ~く聞くのである!
 我輩は『一億年に一人の大・天・才』ドォォォォクタァァァァァァァァァァ―――ッ・ウェェェェェェェェェェストッッッッ!!」

明けの空に吸い込まれていく二人の絶叫。
ああ、何故この二人はノリノリで自己紹介をしているのだろう。
トーニャと向こうの相方らしき女は思った。
そもそも、予想外の人物の登場で戸惑うはずの場面で、ドクターウエストは何故に事も無げに自己紹介をしているのだろう。
しかも、『究極の筋肉』とか『一億年に一人の大・天・才』とかいう恥ずかしい二つ名までついていた。
ただ、二人の男のアホなやり取りで、余計な疑心とも言うべき空気が消えたのは僥倖というべきか。
しかし、起こった事態に女二人の脳の処理が追いつくまでに、男二人はさらなる自己紹介を始めた。

「いい自己紹介と筋肉だ。こっちもそれ相応の返事をしてやらないとな。
 コイツは『至高の筋肉』の持ち主、ダンセイニだ!」
「てけり・り♪」
「いやああああああああああああああああああ!!!」

ドクターウエストの相方の女が悲鳴を上げる。
本物と見まごうばかりのリアルな筋肉チョッキから、正体不明の軟体粘液動物が馴れ馴れしく触手を出して返事をすれば、誰だって驚くだろう。

「フン、ならばこっちも! この凡骨リボンは『光坂高校に咲く一輪の薔薇』藤林杏である!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? なんで勝手に人の自己紹介すんのよ!?」

さらに何を思ったのか、ドクターウエストは相方の自己紹介も始めた。
もちろん、恥ずかしい二つ名もセットだ。
勝手に自己紹介されたことに対してか、恥ずかしい二つ名をつけられたことに対してかは不明だが、藤林杏と呼ばれた人物がウエストの襟を掴んで文句をつける。

そして――――



「そして最後に! コイツは『筋肉の妖精』マッスル☆トーニャだ!!!」



この世でもっとも恥ずかしい二つ名をつけられた女の自己紹介がされた。


062:楽園からの追放 投下順 063:破天荒筋肉!(後編)
062:楽園からの追放 時系列順
055:二人目のルースカヤ アントニーナ・アントーノヴナ・ニキーチナ
055:二人目のルースカヤ 井ノ原真人
041:GET TO BURNING ドクター・ウエスト
041:GET TO BURNING 藤林杏

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