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楽園からの追放

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楽園からの追放 ◆lcMqFBPaWA



東の空から太陽が上る。
太陽と言えば、古代においては崇敬の対象とされ、人々から最も多くの信仰を集めた『神』でもある。
世界中の宗教を紐解いても、多神教においては必ず信仰の内に含まれるどころか、主神として崇められている存在である。
古来より、人は恵みと希望を齎す太陽に、感謝と畏敬の念を抱いていたのだ。

そう、この殺戮の島にも太陽は昇る。
古代エジプトにおいては、一日が立つと沈み、再び次の朝に昇る太陽は再生の象徴ともされていた。
殺戮と言う破壊が蔓延するこの島においても、いずれ、再生の時は訪れる。
絶望と言う夜の時間も、いずれ明ける時が来る。
あるいは、『彼』はそのように祭壇の羊達に告げたいのかも知れない。

そうして、その陽光の降り注ぐ中、人一人居ない駅を徘徊する怪しい男が一人。
どのくらい怪しいかというと上半身は裸である。
いや、上半身のみならず、脚部にも見事に何も無い。
あるのはただ、股間を申し訳程度に覆う布きれのみ。
そして、何よりも、男はその己の状況を何ら恥じては居ないようだった。
その鍛え抜かれた(?)肉体を存分にさらけ出し、己の道を阻むものなど何も無い、ただ前に進むのみ、と言った趣。
人の目があるやも知れぬと言うのに、何一つ臆することなく、堂々と駅の内部をうろつき周っている。

だが、待って欲しい。
そもそも、男が恥ずかしがらねばならないというのは、誰が決めたのであろうか。
古代のオリンピックにおいては、裸で競技に参戦するのが当たり前だったのだ。
この殺し合いという舞台において、男が全裸であったとて、何かおかしいことがあるだろうか。
男は、或いはその事実を理解しているのであろう、何一つ恥じる事無く堂々としている。
…もしくは、彼はこう言いたいのかもしれない。

「蛇に誑かされ、知恵の実を食べるまで、人は皆全裸であった。
 だから、私は全裸でありたいのだよ、清らかであった神の子として」

……ゴメン、多分に誇張が入った。
そもそもだ、殺しあうのに全裸なんて危ないだけである。
男が堂々としているのは、単に諦めの境地に達しつつあるというだけだったりする。

だが、まあ兎に角その男、名前は大十字九郎
アーカムシティという危険な町で、私立探偵と言う胡散臭い職業に就いており、しかも魔術という怪しい業を扱う、全裸でなくても怪しい男である。
その九郎が、全裸で何故駅を彷徨っているのかというと、

「どうだ、奏さん?」
「いえ、コチラにもありませんでした」
「……そうか」

大十字九郎と、当面の相方である神宮司奏

彼らは、B-7駅にあった書置きに従い、アル・アジフとその同行者である羽藤桂を追って、少し前にこのF-7駅へと辿り付いたのだが、
「……ここで、降りたの…か?」
前の駅に存在した「書置き」がこの駅には存在していなかったのである。
念のためと思い、くまなく、それこそ駅舎から待合所まで見た周ったのだが、結局発見することが出来なかった。
そうなると、二人はこの駅で降りたのだろうか。

「しかし、なあ」
その可能性はあまり高いとは思えない。
何故かと言うと、この駅から最も良く見える施設は『遊園地』なのである。
いくらなんでもこんな殺し合いの最中に遊園地に行くなんて事は。

(…………いや、……ある、かも)
暗い考えが頭をよぎる。
多少、頭を落としながら、九郎は考える。
探し人の一人であり、彼の本来の(一応の)相方であるアル・アジフは、遥かな年月の間存在し続けた強大な『魔道書』である。
だから、殺し合いの最中に遊園地に行くなど考えられないかというと、そうでも無い。
精神の成長は肉体に依存するという言葉の通り、外見が幼女なアル・アジフは、かなり子供っぽい部分が存在しているのだ。
なら、あるいは遊園地にまで足をのばしているという可能性も、……無い、とは言い切れない。
……本人が聞いたら怒られること間違いない考えだが、九郎は割りと真剣に考えていた。

「……さん…」
しかし、だ。
(単に忘れただけという可能性もある、か)
或いは、はたまた別の第三者が無意識に、もしくは悪意を持って、書置きを持っていったという可能性もある。
そう考えると、ここで迷っている間に、アル達との距離が、更に離れてしまうかもしれない。
(と、すると……)
「九郎さん!」
「えっ!? あっ何です奏さん!?」
と、そこで奏の声で思考を中断させられる。
咄嗟に強い口調で呼ばれたので思わず敬語になっているあたり、普段の苦労が忍ばれるが…
「電車が……」
「えっ?」
と、そこで“プシュー”という音。
そして、少しして“ゴトンゴトン”という音が響きだす。
彼らの目の前で、電車は発車してしまった。

「し、しまったーーーー!!!」
思わず絶叫する九郎。
その隣では、奏が微妙に溜息を吐いていた。


『遊園地』
娯楽施設としてであるそれは、その個々においては様々な特色を持つ施設群である。
おとぎの国を表現したものがあれば、近未来的な施設を集めたところもあるだろう。
或いは既に見ることの出来ない古い町並みを再現したものや、はたまた遠い異国の地をそのまま映し出したような場所もある。

だが、それらには一つだけ共通する項目が、ある。
それは、つまるところ『非日常』の演出である。
普通に生活を営む上で、まず目にすることの無い、施設、衣装、演出。
それらの『非日常』が、人を現実という頚木から解き放ち、そのある種の『異質さ』を楽しませてくれるのだ。

……多少飛躍した意見かも知れないが、それは言い換えれば、『楽園』や『理想郷』への憧れと一致する部分が存在するのかもしれない。
古来より、人の世とはかけ離れた『楽園』というのは、枚挙に暇が無い。
東方にあるとされる黄金郷『ジパング』、英雄のみがたどり着くとされる北欧の喜びの園『ヴァルハラ』
アーサー王が眠りに着いたとされる妖精の島『アヴァロン』、海の底にありこの世のものと思えぬ楽園『竜宮城』
そして、その起源、はたまた根源とも言うべき場所。 人がかつてあったという『エデンの園』

兎にも角にも、それらの理想郷に共通することは、『遥か遠くにあり、たどり着くことの困難な場所』ということだ。
人は、それらの『楽園』が、所詮は『理想の郷』であると知りながらも、それを求め続けたということだ。
そう、『理想郷』とは所詮『理想郷』に過ぎない。
非日常を演出しようと、それはいつかはそこから離れなければならない。
それは、或いは『楽園よりの追放』と言い換えても良いのかも知れない。
夢のような時間、非日常の世界はいずれ終わりを告げ、そうして人は偽りの『理想郷』から追放されるのである。

そう、望もうが、望むまいが。
『必ず』楽園からは追放される定めなのだ。


赤いモノが吹き出す。
巨木に突き立てられたナイフは、その表皮を削り、中に詰まった樹液を流させる。
…婉曲な表現は止めておこう。
目の前に迫った脅威に怯えた少女、佐倉霧は、咄嗟に所持していた短剣で、その脅威に対して攻撃を加えていた。
咄嗟のことであり、恐怖と言う動力源でもって行われたその行為は、しかしそこから流れた血液という物質によって、急速に彼女を冷めさせる。
目の前にいるのは危険な人物ではあるが、かといって攻撃してよいなどという思考は『まだ』霧には無い。
故に、彼女は己の手が齎した結果に対して、僅かに恐れと悔恨を抱き、僅かに停滞した。

…それが、致命的であった。

気が付いた時には、既に危険人物は霧の姿を視界に捉えていた。
片方の腕に少女を抱き、もう片方の腕からは血を流している。
そして、何よりもその顔を覆う、何処かの民族のものと思しき仮面。
その異形は、霧の身体に更なる停止を余儀なくさせ、
そして、
「えっ!?」
仮面の奥の瞳が光ったと霧が認識した次の瞬間、彼女の身体は男の空いていた腕に抱え上げられていた。
“カラン”と、軽い音がした。
驚いた霧の手より、短剣が地面に零れた音だ。
だが、その事を霧が悔やむ間も無い程の短い時間の間に、

男は、次の行動を起こしていた。


チャンスだと、男は思った。
しまった、とも男は思った。

どちらも、同じ男―怪しげな誘拐犯を追いかけていた加藤虎太郎、が同時に覚えた思考である。
誘拐犯の後方に隠れていたらしい学生服の少女が、恐らく誘拐犯に怯えて、手にしていた短剣で男に傷を負わせたのである。
その事自体は、まあ事が終わってからゲンコの一つでもくれてやらないといけない行為ではあるが、どちらかといえば嬉しい部類の誤算だ。
人間離れした体力を誇る誘拐犯の動きが、ごく短い時間ではあるが止まったのだから。

だが、同時にそれは更なる危機を招く誤算でもある。
手負いになった男が、逃走の手段を選ばなくなる…腕の中の少女を人質として利用するようになるかもしれない。
見た限り、少女は虎太郎の少し後方で立ち止まっている当面の相方、エレンとは違い、冷静に対処できるような少女では無いようだ。
最も、それが普通ではあるのだが、この場合は困る事態だ。
最悪、人質が二人になる可能性もある。

…そして、その最悪は、直後に現実のものとなる。
少女は、誘拐犯の空いている手に抱えられてしまったのだ。
しかも、少女は驚いて短剣を取り落としてしまっていた。

どうするか、そう思い、僅かに停止した瞬間、誘拐犯は再び走りだした。
(ちっ…!)
どうやら、迷っている暇はないようだ。
不幸中の幸い、というか、少女は誘拐犯の拘束を解こうと必死に抵抗を繰り返している。
その状態でも逃げる速度がほとんど変わらない辺り、実に恐ろしい相手ではあるのだが…
と、そこで

「ええいっ!
 少し大人しくしておれ!!」

初めて、誘拐犯が声を上げた。
新しく左腕に捕らえた少女に向けて発したものだ。
太く、そして大きな声であった。
その声を聞き、正しく誘拐犯であると虎太郎は確信し、同時に少女の必死の抵抗に答える為に男に迫る。

そう、誘拐犯は『足を止めていた』のだ。
恐らくは少女の抵抗の賜物であろう。
何はともあれ、絶好の機会である。
走り寄り、拳を握り締める。

「年貢の納め時だっ! 誘拐犯!!
 八咫雷天流――」

だが、その一撃は、


「…うぅまううううううううううぅぅぅぅぅー!!!!」


いつの間にか、虎太郎の方を向いていた男より放たれた衝撃に、阻まれた。


「やっ! ちょっ! 離せ!!」

男は困っていた。
仮面の所為で表情の変化は外には漏れないが、それでも困っていた。
名前は不明だが、兵であるスーツの男と、同じく兵である双剣の少女。
非常に悔やまれる事だが、恐らくはこの殺し合いを肯定した者達。
平和的かつ、友好的に若人達に大人気だという言葉を放ち、自らには敵意が無い事を告げたのだが、帰ってきたのは容赦の無い攻撃のみ。

(…惜しい)
実に、惜しい。
男、―竜鳴館学園館長、橘平蔵は、そう、心の中で呟いた。
男も、少女も、その肉体から放たれるのは、丹念な研鑽の結晶たる見事な『技』であった。
平蔵の教え子であり、竜鳴館に伝わりし“地獄蝶々”を授けた少女、鉄乙女と、競わせたい。
或いは、この地にある他の教え子達、生徒会のメンバー達に、目標の一つとしてあって欲しい。
そう思える程に、感嘆を禁じえないものであったのだ。

そう、故に、惜しい。
その技が、よりにもよって『他者を害する』と言う目的の為に振るわれる事が。
そして、何よりも、そのような目的でありながら、その技には、目には『何一つ曇りがない』という点が。
平蔵の心の中は、煮えたぎる怒りで満ちていた。
目の前の二人に、他者を傷つける事に何の疚しさも覚えない教育を施した教育者に対しての、赦されざる怒りだ。

それと共に、衝動が訪れる。
深く、激しく、強い衝動が。
目の前の二人を、正しい道へと導きたい。
その“技”を、人のを救うと言う目的の為に振るわせたいと。
そのように、自らの拳でもって、存分に語り合い、理解したい、させたいという衝動が。

…だが、平蔵は自制した。
その腕の中に、和服の少女を保護しているが故に。
少女を抱えたまま戦えるほど、目の前の二人は容易い相手ではない。
それ故に、彼は“逃げ”を選んだ。
逃げることは恥ではない。
つまらぬ事にこだわり、優先順位を違えることこそが真の恥である。
そう考えて、撤退を選んだ矢先の事だった。

突如、左の腕に走る熱さ。
その場で振り向くと、そこには一人の少女。
学生服を纏った、和服の少女や双剣の少女と同年代と思しき少女が、黒塗りの短剣を構えていた。
その身体には明らかな震えが走り、その目には恐怖の色。
一目で、平蔵は状況を理解した。
理解したが故に、傷を負った左手で少女を抱き上げた。

「えっ!?」
少女の喉から驚愕の声が発せられるが、それには構ってはいられない。
明らかに、少女は恐慌状態にある。
そのような相手は、ゆっくりと落ち着かせることが重要ではあるが、この場ではそれは許されない。
故に、有無を言わさず保護した。
目前にある窮地―何ゆえか双剣を持った少女の方は先ほどの場に留まったままだが、それでも二人の人間を庇ったままでは戦えるものではない。

…そうして、再び逃げを選んだのだが、

「ええいっ!
 少し大人しくしておれ!!」

思わず、平蔵は声を荒げた。
少女は恐慌状態にある為か、両の手足を振るい暴れている。
無論、平蔵にとってはか弱い女子高生が暴れたところで何の痛痒もないのだが、この場合は勝手が違った。
『制限』とやらの所為か、肉体の能力のみならず、体力まで低下しているようであり、しかもその状態であの二人とやりあった所為で、
平蔵は、久しく忘れていた己の体力の限界を、その内に感じ始めていた。
それ故に、思わず荒い口調で少女に告げてしまったのだ。
そうして、無論それは失策。
少女は、更に激しく暴れ始める。
その抵抗が、平蔵の腕の傷と相まって、僅かな停止を余儀なくさせる。
そうして、それを逃さず襲い来るスーツの男。
それに加えて、最悪な事に双剣の少女も平蔵に向かい走り出している。

(ぬ、うぅ……!)

決断、せねばならない。
この場で、少女二人を置いて戦うか、どうにかして逃げ延びる、いや、恐らくは体力の尽きるまで逃げる続けるか。
だが、その時。
(…むぅ!!)
平蔵の目に、一つの道が飛び込んできた。
そう、それは正しく道と呼ぶに相応しい。
この絶対の死地から自分達を逃しうる千載一隅のチャンス。

足を止める。
全身の気を丹田に集める。
息を吸い、肺にありったけの空気を込める。

男が迫る。
何事かを叫んでいたが、今の平蔵には届かない。
平蔵にあるのは、
ただ、


「…うぅまううううううううううぅぅぅぅぅー!!!!」


集めた力を全力で放つ、その事柄のみ。
全力で、叫ぶ。
それこそ喉がつぶれよとばかりに、
その音波、いや、それは既に音の衝撃と読んでも差し支えのないそれは、追っ手の足を止めるのに充分なものであった。

その、機を、逃さず、
平蔵は、全速力でその場から離脱した。


虎太郎たちは、確かにその時ガラスの割れる音を聞いた。
…実際は割れてはいないのだが、恐らくは人の心の内にある本能がその絵を映し出したのであろう。

集合意識という概念がある。
人の意識は、意識できない程の深さの部分で繋がっているという概念だ。
平蔵が世界そのものを砕けよとばかりに声を放ったが故、その時の平蔵のイメージが虎太郎達に伝わったのかもしれない。
だが、だからと言って、実際に声でガラスが割れるのであろうか?
答えは、是。
割れるのだ。
この場にありしは橘平蔵。
先の大戦のおり、「平蔵が三人居れば戦争の結末は変わっていただろう」と称される、現代の豪傑。
その彼ならば、『音鼓受句重苦調』の秘儀を極めていたとしても何ら不可思議は無い。
ゆえに、虎太郎達から見える位置には無かっただけで、実際にはガラスが割れていても不思議は無い。
兎にも角にも、平蔵が窮地を脱したことだけは事実だった。

※『音鼓受句重苦聴』
その昔、真の男児を算出すると称された、伝説の学び舎『OTOKOZYUKU』
その長が、生徒達の成長と発展を願い、編み出したとされる伝説の雄叫びが存在する。
彼は、生徒達が真の男児になることを願い、事あるごとに生徒達を勇気付ける為にその雄叫びを発したと言う。
その雄叫びは校舎を震わせ、気の弱い者の意識を失わせ、窓ガラスを割ったという。
その雄叫びの内容までは現代に伝わっていないが、実に簡単な単語であり、それでいて他のものには発することの出来ぬものであり、
生徒達は、入学した直後、その言葉を聞くだけで学び舎の長の名を知ったと伝えられる。
その雄叫びは、いかなる時も生徒達と共にあり、いかなる苦難が訪れようと、長の顔を思い浮かべるだけでその言葉と共に勇気が浮かんだという。
そうして、数多くの苦難を乗り越え、一人前の男として成長した生徒達は、最後にその雄叫びと、舞い散る桜の花びらと共に巣立ったという。

……余談だが、現代において塾と称される学び舎が、そう呼ばれるようになったのは、
音鼓受句の部分を『男塾』と読んだ男が真の男を学んで欲しいと考えたが故に、そう呼ばれるようになったという。

明民書房刊『わしが男塾塾長■■■■■である』


「漸く、来たみたいですね」
「ああ、そうだな」

暇であった。
ただ、何もせずに電車を待ち続けるのはこれ以上無いほどに暇であったのだ。
そんなことやっている暇があるのなら、服を探せと御思いかもしれないが、甘い。
ここは、『遊園地』なのだ。
遊園地、というのはそもそも現実との乖離こそがその根源に存在する。
いかに、そこが夢の国であると演出するか。
長い話はさておき、つまるところ、この駅の内部に服と呼べるものは、『着ぐるみ』しか存在していなかったのだ。
流石に、これを着ようとは九郎を思えなかったらしく、(一応デイパックには入れておいた、非常に便利ですねえと奏は感心していた)
現在も裸にタオル一丁のままである。

着ぐるみどちらがマシなのかと聞かれると、人によって意見の分かれるところではあろう。
まあ、どちらも変人であることには違いが無いのだが。
全裸の変態と、着ぐるみの変態。
捕まらない分だけ後者の方がマシなような気もしなくもないが…

だが、まあ不幸な事ばかりでは無い。
折角時間があるのだからと、アル達に習って、

『1. 羽藤桂、千羽烏月浅間サクヤ、若杉葛、ユメイ、蘭藤りの、アル・アジフ、ウィンフィールドは信頼出来る。
 2.ティトゥスは殺し合いに乗っている可能性が極めて高い。
 3.ドクター・ウェストは天才だが大莫迦。信頼出来るかはグレーゾーン。
 4. 空港に軍用の戦闘機が放置してある。
 5.この紙の筆者である大十字九郎と神宮司奏は殺し合いに乗っていない。今から電車に乗って、先に電車に乗ったらしい羽藤桂とアル・アジフを追いかける予定』

という書置きを駅舎に残しておいた。
これでまあ行き違いの危険は減ったと考えて良いだろう…多分。
兎にも角にも、待ちくたびれた所で漸く訪れた電車に、九郎達は乗り込もうとしたところで、

“…うぅまううううううううううぅぅぅぅぅー!!!!”

突如響いた轟音。

「なっ! 何だ!?」
「えっ…警笛ではないのですか!?」

奏の勘違いも無理は無い。
あのような轟音が人の喉から放たれたなど、恐らく人に言っても信じないであろう。
だが、それは事実、

「のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉり!!!!」

この場に、重戦車もかくやといった勢いで迫る、一人の人間の放ったもの。
「…え?」
あまりの事態に、奏では停止を余儀なくされる。
両の手に少女を抱え、何処かの民族のものとおぼしき仮面をつけた男が、もの凄い速度で迫ってきている。
階段を平地と変わらぬ速度で駆け上がり、そのまま真っ直ぐに奏達に向かってくる。
しかも、その口からはこれまた意味不明な叫びが発せられている。
そんな意味不明な光景の所為で停止した奏を他所に、九郎は、

「奏さん! 危ない!!」

咄嗟に、奏の手を掴み、横のドアに移動しようとする。
だが、

「こめええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「うひゃ!!」

男の喉から汽笛のように発せられる声に、奏の足が僅かにすくむ。
その為、九郎に寄りかかるような体勢になってしまい、回避が遅れる。

そこに、
「ぐぼぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
自動改札をジャンプで飛び越えた男が、肩から九郎に突っ込んだ。
九郎の喉から、断末魔と読んで差し支えの無い叫びがほとばしる。
だが、その叫びを奏は認識出来ない。
何故なら、
「へ? えっーーーーーーー!?」

奏は、男の左手に襟首を掴まれて、そのまま電車に突入したからである。



平蔵は焦っていた。
暴れていた少女は、若人に人気と言う先ほどの声に安心したのか、大人しくなっている。
だが、予想よりも、追っ手の足は速い。
このままでは、仮に電車に辿り着いたとしても、追っ手もたどり着いてしまう可能性がある。

そして、何よりも、
(ぬぅぅぅぅぅ!!)
電車の目の前には、新たな若人。
具体的な外見は見ている暇などないが、どちらも真面目そうな外見である。
何よりも、片方の青年。
この危険な島において、褌一丁で歩き回るとはなかなか見上げた若人ではある。
だが、その二人もこのままでは追っ手によって危機に晒されかねない。
だが、どうすればいい?

と、そこで一つの方法が平蔵の頭を過ぎる。
成功率は低くは無い。
制限下にある平蔵の肉体であっても、何とかなる。
だが、問題は、

「のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉり!!!!」

あの二人にその意図が伝わるかである。
平蔵が考えたのは、ただ電車に乗り込むことでは無い。
その先までたどり着けるかは賭けであるが、それでも少しでも成功率を上げねばならない。
故に、平蔵はとりあえず二人に電車に乗るように告げる事にした。

「こめええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

そうして、その意図はどうやら通じたようではある。
二人とも、その場から動こうとしだした。
平蔵の心に、僅かな安堵が浮かび、

「うひゃ!!」

次の瞬間に凍りつく。
少女の方が、転びそうになったのだ。
恐らくは、後ろから迫る追っ手の脅威を感じたが故だろう。
青年が、慌てて助けようとするが、

(…遅い……!!)
自動改札を飛び越える。
既に、電車の発車を告げる音楽が響き出している。
だが、既に追っ手も平蔵の少し後に追いつこうとしている。

刹那の思考を経て、
(すまん…だが、お前の肉体を信じようぞ…!!)
全速力で、肩口から青年に突っ込んだ。
「ぐほっ!!」
青年がフライングボディプレスを受けたような悲鳴を上げる。
だが、構っている暇は無い。
咄嗟に、近い方の手でもう一人の少女の服を掴み、そのまま速度を落とさず電車の中に入り、
そして、『加速した』
そのまま、僅かに右側に進む。
目的は『窓』

そう、平蔵の考えたのは、己が肉体でもって窓を突き破り、隣の電車に乗り込む事。
誤算もあって、青年の肉体を間に挟んでしまっているが、それでも他に方策は無い。
そのまま、全力を持って窓に体当たりをした。

その衝撃は、
「も゛っ!!!!!???」
という青年の断末魔とともに、窓を貫き、
反対側に停車中の電車へと、平蔵自身と若人達を押し込む。

……だが、

(ぬ、ううう)
青年と、平蔵、そして右脇に抱えた和服の少女。
ここまでは、良い。
しかし、だ。
(しまっ……)
電車に乗り込む直前。
そう、丁度、少女を左手で掴み上げたその時。
平蔵の左腕に、痛みが走った。
何が起きたのか、理解している暇はなかった。
だが、その痛みは平蔵の左腕から、力を奪う。
それによって、まず腕に抱えていた少女。
次いで左の腕に掴んだ少女の肉体が、平蔵の腕から離れ落ちた。

(たわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!)

悔恨の気持ちに包まれながら、度重なる疲労故に、平蔵は意識失った。


「ええいっ!
 少し大人しくしておれ!!」

その声を聞いて、漸く、エレンは走り出した。
仮面の男は、間違いなく誘拐犯だ。
それも、明らかに殺す事よりも、連れ去ることを目的としている。
それ故に、エレンは、アインは男を追うことを決意した。

誘拐、というわけではないが、
そもそも、エレン自身、いやアインを含むファントムとは、奪われた人間だ。
エレンには、己の過去は無い。
それはツヴァイこと吾妻玲二も同じだ。
過去を奪われ、己を奪われ、ただ殺戮のみを目的とした部品とされる。
あの、少女達にも、或いはそのような運命が待っているのではないか?

その思考が、エレンを動かす。
男の雄叫びは頭に響いたが、それでも距離があった為か、足を止めるには至らない。
僅かに停止した虎太郎を叱咤し、ついでに落ちていた短剣を拾い、誘拐犯を追いかける。
そうして、誘拐犯が駅への階段を上り始めて、漸くその目的に気が付いた。
虎太郎と一つ頷きあい、速度を上げる。
電車に乗って逃げられては、終わりだ。

…だが

(間に、…合わない……!)
タイミングが、悪い。
恐らくは、誘拐犯に逃げられてしまう可能性が高い。
エレン自身の足は決して遅くはないが、それでも男は異常だ。
両の腕に女性を抱え込んでおきながら、その速度は僅かにしか衰え無い。
仮面の所為で表情は見えないが、その動きはまるで変わらない。
あり得ない体力と膂力と言わざるを得ないだろう。
男の両腕が自由な状態であったと考えると、身体が思わず震えかねないほどだ。
そうして、男はこのままではまんまと二人の人間を攫い、離脱せしめるだろう。
いや、あるいは男の影に見え隠れする複数の人間も、危険であるかも知れない。
ならば、

(どうすれば…)

そうエレンは自問し、そこで先ほど拾った短剣の存在を思い出す。
任務においてそれほど使用した経験はないが、それでも投擲の訓練は受けている。
そして、おそらくこの短剣は『投げる』事に特化した武器だ。
瞬時に構え、そして、
…放つ。

狙いは余さず男の背中へと向かい、そして、
「えっ!?」
刹那、男は右に避けた。
いや、短剣は腕を切り裂いたのだから、避けたわけではないのだろうが、それでも意図した結果とは別の結末が訪れたのは事実。
そうして、男の勢いは止まらず、まんまと、電車の中に逃げ込まれてしまった。

「……まだだ!!」
虎太郎は、それでも足を止めない。
まだ、追いつけるかもしれないと、そう、信じて。
故に、エレンも少し遅れて再び走る。
だが、その時に、轟音。

何と、男は電車の窓ガラスを突き破り、反対側の電車に突入したのだ。
だが、それでも諦めない、このタイミングなら、虎太郎はなんとか間にあう。
そう、考えたのだが、
「え?」

何故か、虎太郎は電車の前で停止した。
何故?と思い、次の瞬間エレンも理解する。
丁度、電車のドアの位置に、男に抱えられていた少女の体。
そう、このまま、ドアが閉まれば、あの少女の身体はドアに挟まれる。
そうなれば、最悪そのまま引きずられるかも知れない。
故に、虎太郎は少女の体を抱き上げ、次の瞬間、電車のドアが閉まった。

虎太郎もエレンも動けない。
ドアを破壊した場合、向こうにいるもう一人の少女にも被害が及ぶかもしれないから。

そうして、電車は走り出す。
その内に、おそらくは絶望を秘め。

【チーム『ぱっと見先生と生徒+1』】
【F-7 駅/1日目 早朝】
【加藤虎太郎@あやかしびと -幻妖異聞録-】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、凛の宝石10個@Fate/stay night[Realta Nua] 包丁@School Days L×H、タバコ
【状態】:肉体疲労(中)
【思考・行動】
基本方針:一人でも多くの生徒たちを保護する
0:……くそ!
1:気絶している少女(霧)が起きるのを待つ
2:子供たちを保護、そして殺し合いに乗った人間を打倒す
3:誰か、火を貸してくれんか?

※制限の人妖能力についての制限にはまだ気づいていません。
※ライターは破損、タバコのみです。
※仮面の男(橘平蔵)を危険人物と判断。


【エレン@Phantom -PHANTOM OF INFERNO】
【装備】:干将・莫耶
【所持品】:支給品一式
【状態】:健康
【思考・行動】
0:……
1:対主催、専守防衛
2:玲二に会いたい
3:人間らしい吾妻エレンになりたい
(キャルED後の設定です)

※仮面の男(橘平蔵)を危険人物と判断。

【佐倉霧@CROSS†CHANNEL ~to all people~】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、ダーク@Fate/stay night[Realta Nua]、ドラゴン花火×1@リトルバスターズ!
【状態】:気絶中、若干の恐怖
【思考・行動】
基本:山辺美希との合流
0:???
1:山辺美希と合流するため、リゾートエリアを捜索
2:他の参加者に黒須太一支倉曜子の危険性を伝える
3:美希との合流後、H-4に若杉葛を迎えに行く
4:気が向いたら、出会った相手に「死んだことがあるか」という質問をしてみる

※登場時期は少なくとも支倉曜子に殺されそうになったイベント以降です
※若杉葛の知り合いはこの場にいないと聞かされています。
※人妖関連の話を聞いていますが、理解できていないので、断片的にしか覚えていません。
※エレン、加藤虎太郎、橘平蔵の三人(名前は知らない)は、殺し合いにのっていると判断。



そうして、ドアが閉まる。

「九郎さん…」

大丈夫だろうか…
だが、それよりも、追いかけてきたあの二人組。
女の人の方は良く見えなかったけど、男の人の顔は良く分かる。

あの時、仮面を被った男の人は、『乗り込め』と言った。
多分、あの人たちに襲われて、必死の思いで電車にまでたどり着いたのだろう…。
女性を二人もその手に抱えながら、漸く、たどり着いた。

(…けど)
頬に付いた血を、手で拭う。
割れた窓の近くに落ちている黒い、いや、まだらに赤い、短剣。
これが、あの時男の人の腕を切り裂いた。
そして、あの女の子の運命を、変えてしまった。

「殺し、…合い」

漸く、その単語の意味が理解できて来た。
開始早々に電車の上に下ろされ、そのまま九郎、サクヤといった善人にばかり遭遇していたことで、いつの間にか消えていた警戒の心が、再びその口を開き始める。
そう、恐らくあの二人は、積極的に他者を殺している。
そして、その危険人物は、恐らくあの二人だけでは無い。

「殺し…………合い」

初めて、一人になって、神宮司奏は、その単語の意味を理解しだした。

【F-7 下り列車内/1日目 早朝】 

【神宮司奏@極上生徒会】
【装備】:SPAS12ゲージ(6/6)@あやかしびと -幻妖異聞録-
【所持品】:支給品一式。スラッグ弾30、不明支給品×1(確認済み)
【状態】:疲労(小)。爪にひび割れ、顔に返り血
【思考・行動】
0:殺し…合い…
1:できれば、九郎たちと合流したい。
2:蘭堂りのを探す。
3:電車に乗って南下し、アルたちを捜索する。
4:大十字九郎に恩を返す。

※ダーク@Fate/stay night[Realta Nua]が電車内に落ちています。
※加藤虎太郎とエレン(外見のみ)を殺し合いに乗ったと判断。
※浅間サクヤ・大十字九郎と情報を交換しました。
※第二回放送の頃に、この駅【F-7】に戻ってくる予定。
※ウィンフィールドの身体的特徴を把握しました。


…そうして、彼女は目を覚ました。
言い換えれば、夢の中という楽園より追放されたとも言える。

(ここ、は?)

目が覚めたばかりなので、その記憶は曖昧だ。
(確か、観覧車に乗っていて…)
だが、その彼女の目に飛び込んできたのは、

…それは、あえて例えるなら、『蛇』とでも表現するべきモノだったのかもしれない。
古来より蛇といえば、イブをそそのかし楽園から追放したものといった『堕落』の象徴とも言い表せる。
…だが、そもそも人は何故蛇を恐れるのか。
瞬きをしないから、ヌレヌレとうろこが気持ち悪いから、異質な生き物だから、と諸説ある。
…まあ、この際その辺りの話は関係が無い。
あるのは、
「いっ!!」
それが、ユメイの目の前に倒れている男性、要するに九郎の「アレ」であるということだ。
「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

恐れる時、人は、攻撃的な衝動が巻き起こることが多々ある。
このときが、それだ、
あまりの出来事に赤面し、涙目になりながらも、
思わず、放たれたその一撃は、
狙い、あたわず、

『ソコ』へと突き刺さった。

「……くぁせdrftgyふじこlp!!!!!!」

なにやら、言葉にならない言葉が放たれた。
そう、それは断末魔の叫び。
神の似姿として創造されたヒトという存在の内、先に作られし存在のみが知りうる痛み。
それは、あるだけで動きを奪う破滅の衝撃。

現に、九郎はしばらく痙攣していたが、やがて、動かなくなった。

そうして、涙目であった彼女は、漸く、
「……ここ、何処?」

最初の疑問にたどり着いた。
恐らくは、動いている電車の中。
目も前には、全裸の男性と、怪しい仮面を着けた男性が二人。
どちらも動く気配は無い。


ゆめいはこんらんしている。
ゆめいはわけもわからずたちすくんだ。

【おおむね変態チーム】
【F-7 上り列車内/1日目 早朝】

【大十字九郎@機神咆吼デモンベイン】
【装備】:物干し竿@Fate/stay night[Realta Nua]、手ぬぐい(腰巻き状態)。ガイドブック(140ページのB4サイズ)
【所持品】:支給品一式、不明支給品×1(本人確認済。不思議な力を感じるもの)
【状態】:悶絶、気絶、疲労(大)背中にかなりのダメージ、股間に重大なダメージ、ほぼ全裸。右手の手のひらに火傷。
【思考・行動】
0:気絶

※神宮司奏・浅間サクヤと情報を交換しました。
※第二回放送の頃に、この駅【F-7】に戻ってくる予定。

【橘平蔵@つよきす -Mighty Heart-】
【装備】:マスク・ザ・斉藤の仮面@リトルバスターズ!
【所持品】:支給品一式、地方妖怪マグロのシーツ@つよきす -Mighty Heart- 不明支給品0~1】
【状態】:気絶中、肉体的疲労(大)左腕に二箇所の切り傷
【思考・行動】
基本方針:ゲームの転覆、主催者の打倒
0:許せ…若人よ
2:女性(ユメイ)が目を覚ましたら、次の協力者を増やす
3:生徒会メンバーたちを保護する
4:どうでもいいことだが、斉藤の仮面は個人的に気に入った

※自身に掛けられた制限に気づきました。
※遊園地は無人ですが、アトラクションは問題なく動いています。
※スーツの男(加藤虎太郎)と制服の少女(エレン)を危険人物と判断、道を正してやりたい。

【ユメイ@アカイイト】
【装備】:メガバズーカランチャー@リトルバスターズ!
【所持品】:支給品一式、不明支給品0~2
【状態】:健康、精神的疲労中、赤面、
【思考・行動】
基本方針:桂を保護する
0:ゆめいは、こんらんしている
1:桂を捜索する
2:烏月、サクヤ、葛とも合流したい
3:桂が悲しむので殺し合いには乗りたくないが、もしもそれ以外の手がなくなれば……
※霊体化はできません、普通の人間の体です。
※月光蝶については問題なく行使できると思っています。
※メガバズーカランチャーを行使できたことから、少なからずNYPに覚醒していると予想されます。



061:D6温泉を覆う影 投下順 063:破天荒筋肉!(前編)
061:D6温泉を覆う影 時系列順 063:破天荒筋肉!(前編)
050:何気ない遊園地に、数々の出会い アイン 099:どこでもいっしょ (前編)
050:何気ない遊園地に、数々の出会い 佐倉霧 099:どこでもいっしょ (前編)
050:何気ない遊園地に、数々の出会い 加藤虎太郎 099:どこでもいっしょ (前編)
050:何気ない遊園地に、数々の出会い ユメイ 081:Crossing The River Styx
050:何気ない遊園地に、数々の出会い 橘平蔵 081:Crossing The River Styx
053:Destiny Panic! 大十字九郎 081:Crossing The River Styx
053:Destiny Panic! 神宮司奏 086:1/6の夢旅人

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