「さて、これからどこへ行こうか?」
Nがルッカに、行き先を問う。
「この地図で、私が気になる場所があるの。」
作業用の手袋に包まれた指は、『遊園地廃墟』を指していた。
「へえ……意外だな。そんな場所だなんて。まあ僕も遊園地はスキだけどね。
特に観覧車が好きなんだ。あの幾何学的な形がね。」
Nの言葉も他所に、ルッカは歩き出す。
この世界での遊園地とは、どのような場所なのか二人には分からない。
だが、遊園地とは、発明に適した場所なのである。
発明家である彼女が遊園地と聞いて思い出すのは、故郷であるトルース村のリーネ広場。
遊園地と呼ぶにはスケールがやや小さい。
それでも広い土地と、度々記念祭の舞台になり、多少の騒ぎを許されるその場所は、幼い頃から発明や実験の舞台になっていた。
たとえ工具箱がなくとも、新たな道具が手に入るかもしれない。
彼女、いや、彼女らの冒険の始まりも、元はと言えばあの場所から始まった。
恐らく、「廃墟」と名が付くとは言え、この世界でも首輪やロボをどうにかする手段を提供してくれると期待する。
『ごきげんよう、みんな。殺し合い楽しんでる? 』
遊園地への道すがら、マナの放送が、戦いの会場全体に響いた。
(13人……!?)
その中にはルッカの仲間であるマールディアや、カエルも入っていた。
(なぜ……。)
参加させられていたことは薄々気付いていたが、それ以上に衝撃を受けた。
あの二人は、自分と違って回復魔法に長けていた。
つまり、命を守ることに関しては、自分より優れていたはず。
なのに、こんなにも短時間で殺されてしまうとは。
改めてこの戦いの恐ろしさを実感した。
確かにロボや、病院で会ったあの金髪の女性のように、殺し合いに乗っている者がいたとは分かっていた。
しかし、あの二人だけでこの時間、13人もの参加者を殺せたとは到底思い難い。
恐らく、彼女が想像している以上に、この戦いに乗っている者が多いだろう。
主催者の息がかかった参加者も、ロボ以外にもいるかもしれない。
「誰か、名前が呼ばれたの?」
ルッカの強張った表情と、冷や汗を案じてか、Nが声をかけた。
しかし、Nはルッカとは対照的に、顔色一つ変えていない。
「それよりも、僕は聞こえるんだ。トモダチの悲鳴が。」
知り合いの死を「それよりも」で済ませ、貰ったばかりの名簿に赤線を引いていく。
「悲鳴?どこから?」
「キミは聞こえないの?この島全体に、トモダチの恐怖や痛みの籠った叫びが、流れている。
彼らを助けてあげなきゃ。」
Nの言う『トモダチ』が何者なのか知らないが、やはりこの男は何か自分達の知らない何かを感じ取れるのだとルッカは実感した。
そして、ルッカは転送されたという名簿をめくってみる。
予想通り、クロノの名前があった。当たって欲しくはなかった予想だったが。
放送で呼ばれた、カエルやマールディアの名前も。
仲間のエイラや、父や母が名簿に載っていなかったことは少し安堵したが。
(……まさかね。)
名簿の『マールディア』が書いてあった欄のすぐ近くの名前が目に入る。
『魔王』
ルッカにとって、魔王と言うと中世で戦い、古代で意外な形で再会し、その後カエルによって討たれたあの男だ。
強大な魔術を操り、凶暴な魔族を従え、ガルディアの住民を何百人も殺害した魔王。
しかし彼もまた自分と同じで、ラヴォスを滅ぼすことを目的としていた。
彼とはついぞ相容れることはなかったが、共に戦える可能性があった気がした。
この世界でもし再会出来たら、彼の力は脱出に役立てるかもしれない。
最もこの戦いには様々な世界の参加者がいることはあの図書館で分かったことだし、別の世界の「魔王」なのかもしれないが。
それを考えると、贅沢は言えたものではないが、名簿に写真がないのはどうにももどかしい。
病院で襲ってきた金髪の女性の名前も、結局分からずじまいだ。
結局少しでも多くの人と直接会わなきゃいけないのだと痛感する。
ルッカ達は足を速め、目的地へと向かう。
地図の示した辺りの場所へやってきた。
そこには、二人の予想を上回る光景が広がっていた。
「タのしイネ!楽しイネ!」
遊園地の入り口では、大量の機械生命体が歩き回っている。
「何……!?コイツら……!!」
未来世界にいた、自分達人間を襲うロボットを思い出したルッカは、魔法詠唱の姿勢を取る。
「喜びヲ!分かち合オウ!」
「アオウ!」
しかし、ロボット達はルッカとNを無視して、踊り続ける。
ある者は紙吹雪を散らし、ある者は風船を飛ばしている。
行動こそ違いはあるが、どれも二人との接触を行おうとする気はないようだ。
首輪を着けていないことからも、参加者と言うより一つのギミックだと伺える。
「この子たちは、トモダチと何か違うのかな?」
Nは早速、近くにいたピエロの帽子をかぶった機械生命体を一体捕まえようとする。
寸胴体型に丸い頭。ルッカにとってどこかロボを思い出す風貌だった。
上手くやれば、ロボを助ける手掛かりが見つかるかもしれない。
ルッカも紙吹雪を飛ばすロボットを、触ったり耳を傾けて電子音を聞こうとしたり、小突いたりする。
「「うわっ!」」
ピエロの帽子のロボットは、体を揺らし、Nを突き飛ばす。
紙吹雪を飛ばすロボットは、右腕からルッカに紙吹雪を飛ばした。
「喜びヲ!分かち合オウ!」
それから特に攻撃をしようとはせず、別のロボットと同じように遊園地を巡回する。
「N、大丈夫?」
紙吹雪まみれになったルッカの心配も無視して、Nはロボットに話しかける。
「驚かせてゴメンね。僕らと、友達にならない?」
「タのしイネ!楽しイネ!」
ロボットはなおも我関せずという様子だ。
「……どうやらここにいる子達とは、意思疎通が難しいみたいだね。」
Nの言う通りだ。
どうやらここにいるロボット達は、敵になることはないようだが味方にもならないらしい。
解体して、データや設計方法を分析することも、工具箱が無い今では難しい。
入口のロボットとコミュニケーションを取ることを諦め、遊園地の中へと進む。
「いラッしゃイマせ!」
「アラ!こんにちは!」
空飛ぶ洗面器のような物体に乗ったロボットが、出迎える。
しかし、それより奥へ進むと、異様な光景の中に異変があった。
同じ形のロボット達が、何台か壊されていた。
「気を付けて……参加者が誰かいるかもしれない。」
「そうだね。」
Nもモンスターボールからトンベリを出し、何が起こっても良いようにする。
恐らく二人がここへ来る前にいた誰かがこれらのロボットを壊した。
そう考えるのが妥当だ。
路地裏へ入って、さらに進むと、長身の金髪の男性が倒れていた。
「もう、動かないみたいね……。」
身体を斬り裂かれ、呼吸も脈も止まっていた。
先程の放送に呼ばれた中で、ルッカとNの知り合いではない、10人のうちの誰かだと認識する。
「血は乾いているようね……。」
血の乾き具合、そして硬直の仕方から、殺されたのは大分前のようだ。
恐らく、もうこの場には男を殺した殺人者はいないのだろう。
「この人……何か書いているよ……。」
Nが注目した、男の指先に血で何かが書かれていた。
『チェレン』
恐らくいまわの際に自分を殺した相手の名前を血で書いたのだろう。
だがその殺人者の名前も放送で呼ばれてしまった。
「どうやら、チェレンは殺し合いに乗ってしまったようだね。
それより、殺人者、二人いるよ。」
知り合いが殺し合いに乗ったことに関して、Nは大してショックを受けたような顔もせず、トンベリに何かの指示を出す。
(!?)
トンベリはナイフで、スパリと男の首を切り落とした。辺りに血が飛び散る。
首輪が外れ、地面に落ちる乾いた音が聞こえる。
「ちょっ……何してるのよ!!それに、殺人者が二人いるって?」
ルッカはNと、トンベリの行動に驚く。
「ああ、槍で突かれたような傷と、剣で斬られた傷があったからね。
それと、これ。」
Nは血で汚れた首輪をルッカに渡す。
解除するには確かにサンプルが必要だ。
Nが「首輪解除するのに必要だ」などと口にしなかったのは、盗聴を気にしていたからか。
「あ、ああ。そうね。
でもさ、Nは知り合いがこんな戦いに乗って、しかも死んじゃって悲しくないの?」
「悲しい……と言えばそうだけどね。彼と僕自身はそこまで仲良くもなかった。」
たとえ敵にデータを書き換えられていたとしても、ロボが襲ってきた時のショックはルッカにとって大きかった。
そして、マールやカエルが死んだときも同じくらいの精神動揺があった。
たとえ仲の良い相手ではなくても、それなりに落ち込むだろう。
どうにもNのようにドライにはなれない。
首輪を回収し、さらに遊園地の奥へ進む。
遊園地のジェットコースター乗り場へ続く道。
かつては、アンドロイドの移動を円滑にした転送装置があった場所に、異様な物が置かれていた。
「何だろうね……コレ。」
Nも不思議そうに見つめる。
だが、二人にはそれが、「元々この世界になかったもの」だということは瞬時に分かった。
他の機械は「遊園地廃墟」と名乗るだけあって、錆や埃にまみれているが、この機械は傷一つなく、まぶしいばかりの光沢を放っているからだ。
機械から見えるガラス張りのケースに、何か見慣れぬ本や機械が置いてある。
どこか自動販売機のような形をしているが、金の入れる穴はない。
代わりに頭頂部に、何か物を乗せる秤のようなものが10ほど置いてある。
(何か条件を満たせば、中の道具が手に入る?)
ルッカは裏側を見る。そこには二つ紙が貼ってあった。
『おめでとう!よくこれを見つけたね!!
この機械の上に首輪を乗せたら、この戦いに有利な道具が手に入るよ!!
だからいっぱい参加者を殺してね!!』
『良く見つけたね』と書くほど、隠してあるようには見えない、とルッカは思ったが、二枚目の紙には更に予想外のことが書かれていた。
首輪×3 顔写真付き名簿
首輪×5 首輪レーダー
首輪×7 オーブ探知機
首輪×10 首輪解除キー
(これって……。)
首輪7つ集めれば手に入るらしい「オーブ」探知機というのも何か気になるが、10個集めれば手に入る道具。
こんなものが手に入れば、ゲーム自体が崩壊するのではないか。
Nは景品には興味を持たず、謎の機械を興味深げに機械を叩いたり、さすったりしている。
とりあえずルッカは、レオナールの首輪を機械の頭頂部に乗せる。
商品が並べられているガラスの横のモニターの『0』の数字が『1』になった。
これが規定の数字になった時、アイテムが手に入るのだろう。
「ん?今何かした?」
ルッカの行動気付いたNは、声をかける。
しかし、ルッカはそれを無視して、文字が書かれた紙を近づけた。
『この機械、何の為にあると思う?』
先程の放送で、マナは『声だけでしか分からないのが残念なくらい』と言っていた。
ならば、この首輪で思考を読んだり、何をしているか視覚的に見たりすることは不可能なのだろう。
それならば、言葉が聞こえない筆談で、首輪で関することは話した方が良いとルッカは判断した。
『ゲームから脱出できる可能性を見せびらかす。
あるいは貰える物の奪い合いを起こす。』
即座にルッカの意図を理解したNは、同じように筆談で返答を行う。
その中身は、この機械を置いた物や、それに影響された参加者の悪意を予想したものだった。
人間は醜く、そのために他人もポケモンも何でも利用する。
それが原因で傷ついていたポケモンをNは何度も見てきた。
トウヤとの戦いで、全ての人間がそうではないと分かったが、Nにはまだ人間への猜疑心が払拭されたわけではない。
「ちょっと静かにしてて、この機械の欠片の観察をしたい。」
『急に黙り始めたら、盗聴する側も怪しむ。』
言葉を話しつつ、Nは急に静かになった理由付けを行う。
その間にルッカはもう1枚、新たな紙に自分の意見を記す。
『だったら、「生還させる」と1番下に書かない?』
『それは、エサとして露骨すぎない?根拠はここ。』
サラサラとペンで言いたいことを書きながら、Nは首輪をペンを持っていない指で突く。
『カギと言われても、首輪にカギ穴どころか、針一本通す穴さえ見つからない。
君に会う前に、図書館にあった鏡できちんと見た。
だから、ここに展示しているカギも、偽物だと思う。』
機械の上に置かれたレオナールの首輪を見つめる。
Nの言う通り、どうやって自分達に付けたのかおかしいくらい綺麗な金属環だ。
おかしな箇所があるとすれば、首輪の裏側にある、首との接触面の僅かなスキマのみだった。
だが、ルッカも冒険の中で、カギ一つとっても、様々な形の道具を見ていた。
ペンダントに反応して開いたジール王国の扉のように、鍵穴の有無は関係なこともある。
『なら、一番上の「写真付き名簿」ってどういうこと?どちらかというと襲撃側に不利よ。
それともこれも罠?』
マナは、『偽名を使ってる人も心配ない』と言ったが、まさにその人に対処できる道具だ。
Nと一緒に、病院で襲ってきた女性の名前を知ることや、Nにロボやクロノの姿を教えることも出来る。
仮に名前と写真がバラバラであっても、元々知っている人物の顔と示し合わせればすぐに偽物だと気づく。
Nは文字で一杯になった紙を裏返して、新たに言葉を綴り初める。
『そこが、相手を誘う方法。
最初の3つまで、戦いに有利になる道具を用意しておいて、信じた所で裏切る。』
Nの言うことは、一理あるとルッカも考えた。
パンの欠片をちりばめておいて、その欠片の先にあるパンの塊に口を付けた瞬間、仕掛けが作動する。
典型的だが、知らず知らずのうちに掛かってしまいがちなワナだ。
『最初の3つまで、戦いに有利になる道具を用意しておいて、信じた所で裏切る
↓
なら、一番下の道具を残してそれ以外を取るのは?』
だが、幸運ながら、自分達は一人も殺すことなく首輪を一つ入手出来た。
折角主催者側が送ってくれた「プレゼント」なのだ。
どうにかして有効活用する手もあるだろう。
罠だとしても、パンの塊に口を付けずに欠片だけ貰っておけばよい話だ。
『どうかな。オーブが何なのか分からないからね。』
実はNの方も仮説を断定するには証拠が少なすぎている。
たとえこの機械が渡すものが本物だろうが偽物だろうが、今は役に立たないのは事実。
この機械を使うにせよ使わないにせよ、他の参加者に出会わなければならないようだ。
そして、遊園地には二人以外には誰もおらず、ロボを修理する手がかりもないようなので、他の場所へ行くことを提案する。
「ここで出来ることはないようね。」
「そうだね。じゃあ、別の場所に行こうか。」
「ここからなら、この学校とか近いかしら?」
この遊園地には、ロボットこそ多くいたが、それを分解、観察するための工具はない。
遊園施設で壊されていたロボットから回収したボルトや歯車、金属板ぐらいだ。
新たな情報や手がかりを得るために、二人は遊園地を後にする。
しかし、この時二人は気付いていなかった。
それまで二人に無関心だったロボット、いや、機械生命体のうち一台が二人の後を付けてきていることを。
それが一体何なのか、二人はまだ知らない。
【E-6 遊園地廃墟入り口/一日目 朝】
【ルッカ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(小)、MP消費(小)
[装備]:水の羽衣@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2個(工具の類は入っていません)、医療器具 図書館の本何冊か(何を借りたかは次の書き手にお任せします。) 素材(機械生命体の欠片、ネジ、金属板など)
[思考・状況]
基本行動方針:人と工具を集め、ロボを正気に戻す。
また首輪を集め、解析、あるいは景品交換用に使う。
1.多少は割り切ることも必要なのかもしれないわ……。
2.工具箱が見つかれば、この首輪の解析でもしてみようかしら。
3.首輪を集めたら、首輪景品交換所を使う。
4.Nって不思議な人ね……
5.何のためにあんな機械を?
※遊園地廃墟にある、首輪景品交換所の情報を知りました。
【N@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康
[装備]:モンスターボール(トンベリ)@FF7、毒牙のナイフ@DQ11(トンベリが所持)
[道具]:基本支給品 本何冊か
[思考・状況]
基本行動方針:ルッカの理想に付き合う
1.ルッカと共に行動をする
2.新しい理想を手に入れる。
※ED後からの参戦です。
※遊園地廃墟にある、首輪景品交換所の情報を知りました。
※【E-6】 遊園地に、首輪と引き換えに戦いに有利になる道具を支給する機械が配置されています。
機械の上に乗せた首輪の数に応じて、道具が支給されます。
※他の場所にも似たような機械があるかどうかは、次の書き手にお任せします。
【支給モンスター状態表】
【トンベリ@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:健康
[持ち物]:毒牙のナイフ
[わざ]:ほうちょう みんなのうらみ
[思考・状況]
基本行動方針:Nと行動を共にする、自分のほうちょうがほしい。
【機械生命体@Nier Automata】
[状態]:オールグリーン
[装備]:なし
[道具]:?
[思考・状況] ?
基本行動方針:ルッカとNを追いかける。
最終更新:2022年03月15日 21:08