ルッカが廃病院から逃げ出して、20分ほどが経過した。
あの金髪の女性も、ロボも追ってはこなかった。
(本当に『プロメテス』なのね。)
ロボが追ってこなかったということは、即ち廃病院に不法侵入するものを排除し続けるのだろう。
工場に侵入する者を無差別に排除する、Rシリーズのように。
歩いた先は十字路。
振り切ったと思ったらまた敵に襲われる、なんてことはもうないように、辺りを見回す。
よくよく見れば、鉄や見たことのない金属で作られた建物が並ぶ、トルース村とはまるで違う風景だった。
道も、木材や石材、レンガではなく、コンクリートというルッカの知らない物質で舗装されている。
ラヴォスに破壊されなければ、未来の都市はこのような見た目だっただろう。
明かりは付いている。しかし、人気はおろか、ネズミ一匹いないのが逆に不気味だ。
(ラヴォスに破壊された未来の廃墟都市でさえ、ポーションをくすねていくネズミがいたというのにね……。)
落ち着くと、体がズキリと痛んだ。
金髪の女性から受けた炎の呪文と、ロボから受けた打撃のダメージは、命に関わるほどでないにしろ、決して軽くはなかった。
ルッカは回復呪文は使えず、治療道具もない。
それに周りは人工の光に照らされた、人のいない町。
人がいない、ということは自分の命を狙ってくる者もいないが、反面助けてくれる者もいない。
おまけに明かりに照らされているということは、自分の位置は容易に知らされるということだ。
今こそ動く者の気配は感じないが、いつ狙われるか分からない。
武器もなく、魔法こそ使えても、遠からず限界が来る。
(最後に一人で戦ったのって、いつ以来かしらね……
一人でクロノを助けに、ガルディア城へ突撃した時?)
肉体的な痛みと夜の闇、それに孤独。
全て、人の心を狂わせる条件だ。
いっそ、あの女性のように殺しの衝動に身を委ねてしまえば、楽になれるのに。
そんな考えさえよぎってしまう。
未来を救った天才サイエンティスト、ルッカといえど精神は人間の物だ。壊れることは容易い。
だが、楽になること、それは彼女自身が許さなかった。
今出来ないことがあっても、やがて出来るようになるかもしれない。
それがサイエンスというものだ。
(可能性はゼロに等しい、しかし0でない限り、かけてみる。)
いつかの時の賢者が遺した記録。
そしてルッカ達はその0に近い賭けに、勝ったのだ。
あの時ロボが助けてくれなければ、自分は串刺しにされていた。
ロボが、限りなく小さな可能性を作ってくれたのだ。
その可能性を棄てて、ロボを棄てて、楽になることなんて許されない。
一度は止まりかけた彼女は、再び歩き始めた。
それから無人の都市部を歩いた先に、一つの掲示板が目に入った。
↑
図書館
←遊園地 八十神高等学校→
一人だと地図を見ている間に襲撃される可能性もあるので、こういう掲示板は役に立つ。
自分は病院から南下したことは覚えているが、それからどれくらいの距離を歩いたかまでは実感がなかった。
ルッカはとりあえず、図書館へ行ってみようと考える。
病院の時と同じで、脱出のカギになる書物は置いていない可能性があることも考慮に入れつつも。
更に歩いていくと、周囲の建物とは少し風貌が異なる建造物が見えた。
直方体で出来ている建造物ばかりの中で、楕円の形を造っている。
扉の前へ近づくと、それは機械的な音を立てて、何もせずとも開いた。
ジール宮殿や未来のドームにあった、ペンダントに反応して開く扉のように。
(この世界、あの未来の世界をモチーフにしてるのかしら?)
中は、外から見るより広かった。
正面にロビーと無人の貸し出し口。
貸し出し口から曲がった先に、正方形の大広間。
壁一面、そして中央の柱の部分が本棚になり、そこに本がずらりと並べられている。
4隅に休憩用のソファーが置いてあり、ここで手に取った本を読むようだ。
入ってすぐ左の本棚に、工学に関する本が並べられていた。
(でも、これじゃないのよね。)
並べられてある本は、内容からして重要そうに見える。
しかし、たとえ理論が成立していても、道具や環境と言った条件が整っていないと成せないのが科学の欠点だ。
工具箱か、その代理に当たるものが手に入らない限り、どんな知識があっても、首輪解除とロボの修理は難しいだろう。
ルッカが求めていたのは「歴史」、「世界」といった分野の本。
本来の彼女の分野とは少し離れているが、それらの本を読むことで、この世界が少しでもわかるかもしれない。
ルッカは最初に手に取ったのは、『イッシュ神話』だった。
イッシュ。聞いたこともない国だ。
だが、その白と黒で囲まれた表紙は、ルッカを誘惑するような魅力を含んでいた。
昔、ある所に一匹のポケモンあり。
ポケモンは双子の英雄と協力し、イッシュ地方に新世界を創造す。
やがて双子和を乱し、ポケモンも二体に分かれた
兄に付き白き炎を纏うレシラムは真実を、
弟に付き黒き雷を纏うゼクロムは理想を追い求める。
双子は戦いを収めたが、その子孫が再び争い始める時がいずれ来るだろう。
(ポケモン……?人間の言うことを聞くモンスターみたいなものかしら。)
この本が脱出の手がかりにも、世界を知るカギにもなる可能性は低い。
しかし不思議とこの物語に魅入られてしまう。
「キミはその世界に、興味があるんだ。」
急に声をかけられて振り向くと、奥のソファーに青年が座っていた。
青年は真っ白な服と深々とかぶった帽子に身を隠し、ぺらり、ぺらりと読み取れているのかどうか分からない速さでページをめくっていた。
「あなた、何か知っているの?」
ルッカは見知らぬ青年に話しかける。
どこか命の躍動を感じず、話しかけづらい。
「………知っているも何も、僕はそこに書いてあるポケモン、ゼクロムと一緒に、理想のために戦ったことがあるからさ。」
意外と、今読んでいる本はどこか別の世界とつながっていた。
最も青年の言うこと自体はルッカにとって半信半疑だった。
どう見ても青年はこの本に描かれているような猛々しい生物を操って、戦いに身を乗り出すような風体には見えない。
「理想ってどんなこと?」
「人々に囚われているポケモンを自由にする。でもそれは昔の話さ。
僕の理想は間違いだった。あるトレーナーとの戦いで知ったんだ。」
青年は無気力そうに本を読んでいたが、どうやら読み終わったようだ。
本を戻し、『数学』と書かれた本棚から別の本を取る。
その時、後ろに生物の気配を感じたと思ったら、山吹色のフードをかぶった何かがルッカを見つめていた。
黒目が無く、煌々と光る瞳。
右手には包丁、左手にランタン。
そして山吹色のローブから覗かせる魚のそれと同じ形の尻尾は、モンスターであることを物語っていた。
(………!!)
身長こそ、ルッカの腰の辺りにも届かない。
だが、その異様な姿は、ルッカの心臓を飛び跳ねさせた。
「驚かせてゴメンね。その子……トンベリって名前らしいけど、優しいトモダチなんだ。」
トンベリは、ゆっくりと青年の所へ向かう。
青年が赤と白のボールを取り出すと、そのモンスターは吸い込まれた。
「ちょっ……!!それって、どーゆーメカニズムなのよ!!」
ルッカは後ろに未知の生物がいたこと以上に驚く。
あり得ない、どう考えても、そのボールとモンスター、サイズが合わない。
「メカニズムって……モンスターボールを知らないの?」
「知らないわよ!!」
ルッカはつっけんどんに言い返す。
そして、様々な考察を巡らせる。
あのモンスターが実は固体ではなく、色のついた気体だった。
あのモンスターはただのホログラムで、あのボールのスイッチがトリガーになる。
あのモンスターが幽霊のような存在で、見ることが出来るが質量がない。
そこから青年が答えるまでのほんのコンマ数秒、ルッカは様々な仮説を立てた。
「聞いたことがない?ポケモンの衰弱時に身体を収縮して狭い所に隠れる本能と、球状を利用した内部の質量と磁力を遮断するシステムを用いて………」
青年は早口でモンスターボールのシステムをルッカに説明する。
結局モンスターボールのシステムを、ルッカが完全に理解することは出来なかった。
とりあえず仲間のモンスターを収納するケージの役目を果たすことは分かった。
「ところで、僕の方からも質問していいかな?君はどうしてここに来た?」
ルッカは説明した。
自分達は、時を越えて、地球の敵ラヴォスを倒し、滅びゆく未来を変えた。
その後この戦いに呼ばれた。
ここに呼ばれてすぐにかつての仲間のロボに会ったが、コードを書き換えられていて、襲い掛かってきた。
突如襲ってきた金髪の女性。一瞬だけ記憶を取り戻したロボ。
ロボを取り戻す手がかり、資料を探しに、この図書館にやって来た。
「へえ……僕としては、時を越えることの方が、モンスターボールなんかよりよっぽど不思議だと思うけどね……。
そんなの、あの本の世界だけだと思っていたよ。」
(………!!)
青年が指を刺した方向にあったのは、ルッカも知っている名前が記された本。
『シルバード 時を渡る翼』
中身もかつて自分達が未来で手に入れた、時の賢者ガッシュが作りしシルバードの内容だった。
「僕も読んでみた。確かに一定のスピードを超えれば、時間を超越できるって理屈は正解だ。
でもこの素材、デザインではそれこそ魔法の力でも使わない限りエネルギーの放出量に機体が耐えられない。」
確かに青年が言う通り、理屈では不可能だ。
実際にその設計者でさえ、この機械を使いこなし、ラヴォスを打ち滅ぼす確立など極めて低いと認識していたから。
「それが、成功したのよ。私たちはこれに乗って時を超えて、未来を救ったの。この戦いだって同じ。あの怪物に勝てる可能性も0に近いけれど、0じゃないからやってみる価値はあるわ。」
青年は驚いた顔をしていた。それまでルッカに目を合わそうともしなかったのに、ルッカの希望に満ちた眼を見つめている。
「いや、君はウソをついている眼をしていない。僕はこのタイムマシンは信じられないけど、君は信じられる。」
「協力してくれるかしら?」
確かにこの青年は、自分よりも優れた頭脳を持っている。
ルッカはそう認めざるを得なくなった。
自分達が今いる場所が本であふれる「図書館」なら、彼自身もまた、一人の知識にあふれる「図書館」である。
そしてこの人物の協力があれば、首輪解除、そしてロボの救助に近づけると確信した。
「どうしようかな……じゃあ、もう一つ教えて。
キミは、『理想』を持ってる?
トモダチを直したいとか、あの怪物を倒したいとか、『誰かに押し付けられた』モノじゃない。
もっと大きな、キミを造るものさ。」
ルッカは知らないことだったが、青年には今、理想がない。
青年が理想だと思っていたものは、彼の育ての親、ゲーチスによって無意識のうちに植え付けられたものだった。
それをポケモントレーナー、トウヤによって知らされた反面、それまで培ってきた理想も失ってしまった。
青年から意外なことを問われ、一瞬戸惑うも、すぐにこう答えた。
「この私、ルッカ様の力で、科学を発展させる。だから、こんなところで死ぬわけにはいかないのよ。」
「なるほどね。人に押し付けられたものではない、それでいて誰かの為になろうとしている。素晴らしい理想だ。
いいよ。キミのトモダチを助けるために協力しよう。」
やはり仲間と言うのは良いものだ。
たとえ目の前の青年が見知らぬ存在だとしても。
「ありがとう。でも、名前を聞かせて。」
「『N』。そう言ってくれて、構わないよ。じゃあ、行こうか。」
(!?)
やっぱりこの人、どこか変な気がする。
まあ、名前なんてどうでもいいか。
「え!?私、まだここの本を読み終わってないのに……。」
「管理人がいないし、勝手に目ぼしい本を何冊か持って行っていいんじゃないかな。それに、キミもトモダチを直すため、欲しい道具があるんでしょ?
僕も、この子が失くしたっていう、包丁を探してあげたいんだ。」
「結構、勝手ね……。」
言われるがまま、ルッカは気になる本を何冊か拝借し、図書館を後にした。
「ねえ、ところで工具箱とか持ってない?」
「僕はナイフとこのモンスターボールだけだった。どうやら、誰かを探さないといけないみたいだね。それとも、知らない所に捨てられているのかな?」
丁度その時、この世界初の朝日が顔を覗かせる。
それは理想を、同時に真実を追求する者の新たな冒険の始まりを告げていた。
【E-5 図書館入り口/一日目 早朝】
【ルッカ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(小)、MP消費(小)
[装備]:水の羽衣@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2個(工具の類は入っていません)、医療器具 図書館の本何冊か(何を借りたかは次の書き手にお任せします。)
[思考・状況]
基本行動方針:人と工具を集め、ロボを正気に戻す。
1.多少は割り切ることも必要なのかもしれないわ……。
2.工具箱が見つかれば、この首輪の解析でもしてみようかしら。
3.ロボが居たってことは、もしかしたらクロノたちも……?
4.Nって不思議な人ね……
【N@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康
[装備]:モンスターボール(トンベリ)@FF7、毒牙のナイフ@DQ11(トンベリが所持)
[道具]:基本支給品 本何冊か
[思考・状況]
基本行動方針:ルッカの理想に付き合う
1.ルッカと共に行動をする
2.新しい理想を手に入れる。
※ED後からの参戦です。
【モンスターボール(トンベリ)@FF7】
Nに支給されたトンベリが入ったモンスターボール。
普段は大人しいが、敵を見つけるとゆっくり襲い掛かり、一撃必殺の「ほうちょう」をお見舞いする。本作では愛用のナイフではないため、一撃必殺の力こそはないが、それなりな威力を持つことが予想される。
また、今後の展開次第で、相手の殺害数によってダメージが上がる「みんなのうらみ」や相手の歩いた距離によってダメージが上がる「ほすうダメージ」を持つ可能性も?
あるいはマスタートンベリへと進化する可能性も?
最終更新:2021年01月17日 12:33