殺し合いなんてやりたくないから。そしてそう考えているのは自分だけではないと分かったから。もしかしたらこのまま、皆で協力して殺し合いを打破することが出来るのではないか。事実、これまで出会ってきた人物は悪意の無い者ばかりだった。このままこういう人たちばかりと出会い続ければ、もしかしたら誰も死ななくていいかもしれない。
それは、1人の少年の抱いた夢。
簡単に実現しないことはうっすらと分かっていたけれど、それでも信じていたかった。現実を直視するのが怖いから、まだそれに縋っていたかった。
そんな儚くも尊い夢が──粉々に砕ける音がしたような気がした。
悪夢のような定時放送の声が告げたのは、13人の死者の名前。
その中のほとんどは知らない名前だったけれど──たったひとつ、彼のよく知る名がその中に混ざりこんでいた。
「──グレイグ……?」
少年──イレブンは耳を疑った。グレイグが死んだという、想像できる未来の中でも特に起こり得ないであろう出来事をマナは語った。
人の死は唐突に突きつけられるものであると、特にイレブンは知っている。行方の分からなくなった仲間たちがいつの間にか死んでいるようなことは起こりうるのだ。
だけど、少なくともグレイグは生きているという信頼をイレブンは置いていた。それは単に年長者であるからかもしれないし、仲間たちの居場所が分からなくなって不安だった時にも彼は最初から自分と共にいてくれたからかもしれない。とにかく彼が居なくなるというイメージが、イレブンには浮かばなかった。
『もしかしたら、死んだ人は皆最初に出会った幽霊のような魔物に殺されたのかもしれない。』
『それなら、今までと同じように魔物さえ倒せばいい。』
もしも放送で呼ばれた名前に彼の名前が無かったら、まだそのような儚い夢に縋ることが出来ていたのかもしれない。
だけどあの程度の魔物なんかにあの人が殺されるわけが無い。紛れもなく、グレイグを殺したのは人間だ。
そして、これもまたひとつの現実──グレイグを殺せるような人間が、この世界には居るということ。
幸か不幸か、イレブンがこれまで出会った参加者はダルケルとベルの2人だけ。ライデイン1発で沈んだあの幽霊にあれだけ苦戦していたということは、ダルケルもきっとそれほど強くは無い。おそらくはパーティーの誰が戦ったとしても勝てる相手だろう──真偽のほどはともかく、ナイトゴーストに物理攻撃が効かないことを知らないイレブンはそう思っていた。
そして当然、ベルも自分や仲間たちと渡り合えるような力は持っていない。この世界の大多数はそういった者たちなのだろうとすら思っていた。
だけどこの世界には、どんな手段かは分からないがデルカダールの英雄を殺した実力者が少なくとも1人はいる。1人いるということは2人いるかもしれなくて。延長していけば5人、10人、最悪の場合は60人以上いるかもしれなくて。
命の大樹が崩壊した時、世界中の魔物がより強く生まれ変わった。邪神が復活した時、世界中の魔物がより邪悪な存在へと変わった。世界のパワーバランスが崩れることなら2度経験している。
だけどこの世界は、とにかく未知だ。
敵の強さが分からない。
誰が敵なのかも分からない。
そんな世界で僕は、ベルを守れるだろうか──
……最悪の想像を振り払うように、頭を思いっきり横に振った。
過ぎ去りし時を求めてもなお脳裏に焼き付いて離れない、大切な人の死を目の前にした光景。
ここまで死と隣り合わせの世界だと嫌でも思い出してしまうし、ネガティブになってしまう。
もう誰にもあんな思いはして欲しくなかったから。もう誰も犠牲になって欲しくなんかなかったから。だから僕は、過ぎ去りし時を求めた。
その先の世界では、ベロニカを含む全員が笑っていられる世界なのだと信じて────
「──チェレン…………?」
その時、イレブンの隣から声が聞こえてきた。
「今の放送……呼ばれてたのは死んだ人なんだよね……?」
まるで、この世の終わりを見たかのような、か細い声。
「そんなの、うそ……だよ……ね……?」
『──お姉さま……私たちを助けるために……。』
声の主であるベルの姿が、ベロニカの最期の記憶を見たあの時のセーニャの姿と重なった気がした。そんなベルの姿を見た時、ようやく理解した。
僕は失敗したんだ。
皆が笑顔になれる未来を作れなかったんだ。
また僕は、平和な"時"を失ってしまったんだ。
「いやだ……いやだよぉ……」
イレブンだけではなく、ベルも分かっている──あの放送は現実のものであると。そう断言出来る根拠こそ無いが、自身に嵌められた首輪の意味することくらいはベルにも分かる。
『警告:居場所を特定される危険性アリ。参加者ベルは声を抑えるべき。』
ポッドが客観的かつ的確な"正論"を下すも、ベルは黙る様子は無い。
「チェレンはまだ14歳なのに死んじゃうなんて、そんなの……!」
野生のポケモンという物理的な脅威を乗り越えるためにかがくのちからを発展させてきたベルの世界の人間は、一部のポケモンの能力が医学分野に活用出来ていることも相まって平均寿命が高い。即死で無い限り怪我も病気も基本的に治るため、寿命以外での『死』に疎いのだ。つまり、魔物の脅威に晒され続けているイレブンの世界の人間とは『死』というものへの向き合い方が根本的に異なると言える。
特にカノコタウンという、強い野生のポケモンのいない閉鎖的な町で生きてきたベルにとっては、なおさら死は無縁のものであった。
だけどそんなことはイレブンの知る話ではない。あるいは知っていても関係ない。
重要なのは、また目の前にウルノーガのせいで悲しんでいる人がいるということだ。
「ベル……」
僕は彼女に、何と声を掛ければいいのだろう。
髪を切ることを皮切りに心を一新して立ち直ったセーニャとは違う。そんな強さを持っていないベルに、僕は何が言えるのだろう。
たくさん伝えたいことはあった。だけど言葉にならない。こんな時にまではずかしいが先行する自分が、はずかしい。
そうしてベルの名前だけ呼んで何も言えなくなったイレブン。
どうすれば、彼女の涙を止めてあげられる?
どうすれば、彼女が悲しまなくていい?
どうすれば────
それ以上考えるより先に、イレブンは動いていた。
「──ラリホー。」
イレブンの呪文を受け、ぱたりと意識を失ってその場にベルは倒れ込む。先ほどまでと同じように、また寝息をたて始めたベルは、現実のショックから悪い夢でも見ているのだろうか。その目から涙はまだ止まらない。
そんなベルの姿を見て、イレブンはただただ申し訳なくなった。
(ごめん……僕が……ウルノーガをもう1回倒しきれなかったから……)
自分が過ぎ去りし時を求めたせいでウルノーガを滅ぼしきれない世界線になってこの殺し合いが開かれたのではないか──グレイグの死とベルの悲しみを突き付けられて、イレブンは罪の意識を背負ってしまった。自分が過ぎ去りし時を求めなければ、ウルノーガが殺し合いを開くこともなくあのまま平和が訪れていたのではないか。勿論全てはたられば論に過ぎない。しかしイレブンの心に影を落とすには充分な仮説であった。
『疑問:参加者イレブンのMPは極わずかのはず。戦い以外に使うのは非効率。』
横からポッドがまた客観的な意見を述べる。イレブンは今、自然回復していたMPまでもを使い切った。確かにそれは非効率的な行いなのだろう。
「うん……。でも──」
だがポッドが何を言おうとも、イレブンにはそうするしか無かった。冷静な分析など、あの状況で出来るはずもなかった。
「たぶん、これでよかったんだと思う。」
それに──結果論ではあるがベルを眠らせたことについてイレブンは後悔していない。
『……理解不能。』
ただし、はずかしくてこれ以上の言葉を発せないイレブンの言葉ではポッドに理解させることも納得させることも出来ないようだ。
デルカダール王に化けたウルノーガによって自分が悪魔の子だと全世界に通達されていたあの時、誰が自分を狙っているのか分からなくて、罪もない人たちが自分を恐れているのが申し訳なくて、本当に不安だった。
だけどそんな中で支えてくれたのは、他ならぬ仲間たちだった。
今でも覚えている。グレイグの部隊に襲われて、海に落ちた自分を離さずにいてくれたマルティナを。彼女自身も落ちて怪我をしていたにも関わらず、気を失った自分を背負って小屋まで運んでくれた。記憶の奥底に残っているあの時のマルティナの体温はとても暖かくて、安心できた。
不安定な時くらい誰かに任せて眠っていたっていい。今はベルの分まで、僕が現実を背負うから。
「……行こう。」
このままベルが起きるまで立ち止まっているわけにもいかないため、イレブンはベルを背中に担ぎ上げる。
童顔で小柄なイレブンの見た目とは裏腹に、ベルの身体はひょいと持ち上がりイレブンの背に収まった。
チェレンの名前が呼ばれてからはメモをする暇の無かった禁止エリアをポッドから聞いて、ベルを背負ったままイレブンは歩き始める。
目的地はイシの村。
早く仲間と合流出来そうな場所に向かいたい。ベルも落ち着いて話せる場所に連れて行きたい。
「……あっ。」
その時、イレブンは思い出した。
確かに、イレブン自身はマルティナに背負われている時、どこか安心感を覚えていた。だけどそれ以上に、強く感じた気持ちがあったことを今の今まで忘れていた。
そしてその気持ちは、背負う側・背負われる側の立場が逆転しても変わることは無いということに気付いてしまった。
『疑問:参加者イレブンの脈拍数の上昇を確認。何故?』
背負い上げたベルの身体が、イレブンの背中に密着する。よくない夢でもみているのか、時々嗚咽の混じる寝息がイレブンの髪の毛を揺らす。
イレブンは思った──この状況、かなりはずかしい、と。
【A-3/森/一日目 朝】
【イレブン@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:MP0、恥ずかしい呪いのかかった状態
[装備]:絶望の鎌@クロノ・トリガー、ポッド153@NieR:Automata
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(2個、呪いを解けるものではない)
[思考・状況]
基本行動方針:ああ、はずかしい はずかしい
1.イシの村へ向かう。
2.同じ対主催と情報を共有し、ウルノーガとマナを倒す。
3.はずかしい呪いを解く。
4.この殺し合いが開かれたのは、僕のせい……?
※ニズゼルファ撃破後からの参戦です。
※エマとの結婚はまだしていません。
※ポッドはEエンド後からの参戦です。
【ベル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:眠り
[装備]:ランラン(ランタンこぞう)@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:最初の一歩を踏み出す。
1.イレブンについていく。
2.ポカポカ(ポカブ)を探す。
※1番道路に踏み出す直前からの参戦です。
※ランタンこぞうとポッドをポケモンだと思っています。
【モンスター状態表】
【ランラン(らんたんこぞう)】
[状態]:睡眠中、モンスターボール内
[持ち物]:なし
[わざ]:メラ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルについていく
1.睡眠中
【ポッド153@NieR:Automata】
[状態]:健康
[持ち物]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:???
最終更新:2020年01月01日 11:53