僕は無力なんかじゃない。
そう証明したくて僕は一人の男を殺し、世間の注目を浴びた。
とても気分が良かった。
画面越しとは違う本物の視線を浴びて、僕は自分が認められているのだと思っていた。
やってやったんだ。僕はそこらの人間とは違う特別な存在なんだ。
けれどそれは突然現れた僕のニセモノに否定された。
お前は虚無だとかなんとか好き勝手言って、まるで僕の全てを知っているような口振りだった。
違う。僕はなんにも出来ない人間なんかじゃない。
そうやって怒鳴り散らして、後から来た八高のやつらにも思いっきり啖呵を切ってやった。
その瞬間僕の意識は途絶えて、気がついたらニセモノが消えて探偵気取りの高校生に囲まれてた。
偉そうに説教を垂れて、僕をまるで下に見ているようなあいつらの態度が気に食わなかった。
そうして僕は逮捕された。
これで僕の全てが終わるのだと思ったらあまりにも滑稽で、無様で、泣きたくなった。
僕を否定するやつらを全員殺してやりたい――そう心の底から願った瞬間、僕は”あの場所”にいた。
■
「はは、はははは……なんだよ、なんだよこれっ!」
僕は興奮していた。
男も女も、大人も子供も関係なく集められた殺し合い――まるでゲームのようだ。
僕自身がゲームの登場人物(キャラクター)に選ばれたようで心が躍る。それも、自分の力を示すにはもってこいの内容なのだから。
そうだ、やっぱり僕は特別な存在だったんだ。
あそこで終わるのは惜しい人間だと神がチャンスを与えたんだ。
そう考えれば考えるほどに笑いが込み上げて鼓動が高鳴る。街路の真ん中で空を仰いで、僕を連れてきた神様とやらに感謝した。
「そうだ……そうだよ。僕が、このオレが! 諸岡を殺せたオレがあんなやつらに負けるなんてありえないんだよッ! おかしいだろ、そんなの!」
思いっきり笑いながら近くにあった花壇を踏みつける。名前も知らない青い花が無残に潰れた。
今の僕は無敵だ。僕は選ばれた人間なんだから誰にも負けるはずがない。
僕はリュックを下ろして支給品を取り出した。手のひらにゴツゴツとした感触を返すそれを見て僕はやっぱり”選ばれた”んだと確信する。
「これ、これっ……! すげぇ……じゅ、銃だ!」
拳銃だ。見たことない形だけどそんなの関係ない。
ずっしりした重みに未来的な見た目、手に吸い付くみたいな独特の感触が堪らなかった。
試しに標識に向かって引き金を引いてみた。聞いたこともない銃声と反動で思わず声を上げて尻餅をつく。
標識には当たらなかった。けどオモチャなんかじゃないというのは今ので思い知らされた。
勝てる。これなら優勝できる。
なんだよ、殺し合いなんて回りくどい方法しなくても僕の優勝は決まってるじゃないか。
ああ、そういえば願いを叶えるとかも言っていたな。何を叶えようか……いざ考えるとなると結構迷う。
金も女も自然と手に入る。だから僕は名声が欲しい! 僕に相応しい大きな名声が!
頭の中で風船のように膨らむ妄想は止めようがなかった。
自然と溢れる笑い声を必死に押し殺そうとして空気の漏れるような音が唇から聞こえる。
そのまま優勝した後の僕の英姿を想像し続けてはや五分。僕のそれは不快な足音に遮断された。
「ひッ……!?」
意思とは関係なく掠れた声が漏れた。
コンクリートを踏みつける音の方向に目を向ければ、丁度裏路地から表通りに出ていく男の姿があった。
背中にでっかい岩みたいな変な武器を持っているその男はまだ僕には気づいていないみたいで、間抜けにも横を向いている。
僕は建物の影を伝ってバレないように男の後ろ側に移動した。
なんだ、ビビることないじゃないか。
よく見れば警戒心の欠片もない間抜け面だし、第一あんな大きな武器人間に扱えるわけない。
それに筋肉はそれなりにあるみたいだけど所詮人間だ。銃に敵うはずない。
「へ、へへ……ラッキー……!」
慎重に、標識を撃つ時とは違ってしっかりと狙いを定める。
動き回ってるわけじゃないし距離的にも当てられるはずだ。でも顔は面積が小さいから背中でも狙っておこう。
どこに当たっても痛みで反撃なんかできないはずだ。
僕は熱い高揚感に導かれるままに引き金に指をかけた。
(――死ねっ!)
そして、銃弾が発射された。
■
(……は?)
何が起こったのかわからなかった。
引き金を引いて、やっぱり尻餅をついた僕が目にした光景は予想していたものと違った。
確かに銃弾は届いたはずなのに。男は傷一つ負ってないどころか背負っていた岩の塊を”片手で”持ち上げ、僕の方に体を向けている。
銃弾を弾かれた。
その時の僕はそんな非常識なこと思考の片隅にも浮かびさえしなかった。
そんな馬鹿げたことに気がついたのは、僕が尻餅をつきながらがむしゃらに弾を撃ったときだった。
「う、うわっ、うわああああぁぁぁぁぁッ!!」
狙いなんて知ったこっちゃない。当たりさえすればいい。
けど男は僕の期待に応えてくれなくて、岩を軽々と振り回しながら涼しい顔で銃弾を弾いていた。
男と僕の距離が無くなるのはあっという間だった。まるで自動車がトップスピードで向かってきているように感じた。
「く、くるなっ! くるなくるなくるなぁッ!」
いつの間にか僕の目の前まで迫っていた男の顔に銃口を向ける。
この距離なら顔でも当たるはずだ! そう思って引き金を引こうとした瞬間、
「よっと」
「いづッ!?」
男の足が僕の手を蹴り上げてしっかり握っていたはずの拳銃が宙に舞う。
蹴られた手が痛すぎて拳銃に手を伸ばす余裕なんてなかった。気がつけば拳銃は男が握っていて、銃口を向けられていた。
「ひッ……あ、あ……!」
「……なんだ、子供じゃねーか。こんな物騒なもん子供が持っちゃダメだろー?」
死を確信して怯える僕と対照的に男は笑顔で拳銃を仕舞っていた。
上手く働かない思考の中でもわかる。僕はこの男にナメられている、馬鹿にされている、と。
ふざけるな! 僕だって、もっと武器が良ければお前を殺せてたんだ!
運が悪かったんだ。たまたま僕に雑魚い武器が支給されて、お前が強い武器を持っていただけなんだ!
そう真実を突きつけてやりたいのに言葉が出ない。
悔しくて、惨めで、情けなくて、涙が溢れた。
「お、おいおい! 泣くことねーだろ? 先に撃ってきたのはお前の方なんだし……俺、悪くないよな?」
「うるさい! 黙れ黙れ黙れよッ! オレをそんな、そんな目で見んな……! 見んなよ……」
「はぁ? 何言ってんだよ、お前」
もう男が何を言っているかなんて知らない。ただ掠れた涙混じりの声で懇願した。
気に入らない。ついさっき僕に殺されかけたっていうのにそんな事忘れたって顔してるのが。
気に入らない。いつでも僕を殺せる状態だったのに何もしないで勝った気でいるのが。
「……よくわかんねーけど、気ぃ悪くしたなら謝るよ。な? えっと、立てるか?」
「っ! さ、触るなぁっ!」
生意気に男が僕に手を差し出す。
思いっきり叩いてやった。それが僕にできる最大の抵抗だったからだ。
けど男はつまらなそうに眉を顰めて首をかしげるだけ。その人を舐め腐った態度が余計に僕の怒りに油を注いだ。
だけどもうとっくに炎は消えている。銃も奪われてるんだから、こんな化け物に抵抗する手段なんてなかった。
やっぱり現実は腐ってる。涙に混じって絶望の笑いが込み上げてきた。
「は、はは……なんだよ、これ。終わりかよ……オレ、終わりなのかよ……」
「は? 終わり?」
「そうだよ! ……ほ、ほら、殺せよ。それで満足なんだろ!? 自分より弱いやつボコボコにして、痛めつけて、プライドとか全部ぶっ壊して! 高いところから見下ろしてんのが楽しいんだろ!? ふざけんな、ふざけんなよ……チクショウ……、……だせーよ、オレ……こんなクズに殺されんのかよぉ……」
もう生きる気力なんてなかった。
結局僕にチャンスなんてなかったんだ。どん底に堕ちた僕を救い上げる振りしてもっと下の掃き溜めに落としやがった。
こんなみっともない醜態晒して死ぬなんて嫌だった。けどもうどうにもならない。
お望み通り蹲って地面に顔を向けて理不尽な死を待ってやった。
「ザックス」
なのに、返ってきたのは意味不明な単語だった。
は? と聞き返す僕は自然と顔を上げて男の表情を見た。
そこにあったのは憐れみとか、怒りとか、そういうのとは違った見たことのない視線だった。
「な、なんだよ……意味わかんねーよ……」
「ザックス。俺の名前。で、お前は?」
なんだ、それ。
いきなり自己紹介とかキモいっつーの。
でも、どうせ従わなきゃ殺すんだろ。むしろなんで生かしてんだよ、そんなに自分の力見せつけたいのかよ。
くそ、胸糞悪い。こんな自己中な奴に従わなきゃいけないなんて反吐が出る。
「く、久保……美津雄……」
「美津雄か。うっし、行くぞ!」
「い、行くってどこに……」
「わかんね。でもま、その辺歩いてれば他の奴らと会えるだろ。もし危ないやつが来てもしっかり守ってやっから安心しろよ、美津雄!」
反論したいのに吃って上手く言えない。
っていうか、守るってなんだよ。どうせ盾にでもする気なんだろ。
外ヅラで優しく偽って、綺麗事ばっかり吐き捨てて、勇者か英雄気取りかよこいつ。だせーよ、マジで。
なんだよ、僕だってなれるんだよ! お前みたいな内面真っ黒の偽善者とは違う、本物の勇者に!
「ああ、そうそう。これ返しとくぜ」
「え……え、っ、これ……」
ふつふつと湧き上がる怒りをザックスとかいう男が遮った。
乱暴に投げ渡されたのはさっきの拳銃だ。別に何か細工されたわけでもない、いつでも撃てる状態だ。
こいつ、正気か? またいつ撃たれるのかわからないのに、こんなに簡単に武器を渡すなんて。
そう思った瞬間にさっき目の当たりにした超常現象を思い出す。ことごとく銃弾を弾いて僕に迫るあの姿は多分一生忘れられない。
「持っときな。ま、俺には通用しなかったけど無いよりはマシだろ?」
「……ちっ、……」
まただ、またあの目だ。感じたことのない不可思議な視線。
蔑まれてるわけでも見下されてるわけでもない。正直言って、不快じゃなかった。
けどどうしようもなく不気味だった。目の前の男が、それに従っている僕が。
「じゃ、行こーぜ美津雄。こんなふっざけたゲーム、ちょちょいとぶっ壊してやろうぜ!」
いいよ、わかったよ。今は見逃してやる。
けど殺せる機会になったら絶対にぶっ殺してやるからな。
拳銃を握りしめながら僕は意志を固める。だけど引き金に指は掛けられなかった。
■ □ ■
美津雄が一人にしたらダメな人間だという事はわかっていた。
言ってしまえば廃人になってしまったクラウドのように放っておけない人種だ。
わけもわからず自分を攻撃してきて返り討ちにあったのだから、彼を一人にすればどんな結末が待ち受けているのか容易に想像できる。
そんなこんなでザックスは美津雄のことを切り捨てる事ができなかった。
(……ま、あちらさんは俺の事を信用してないみたいだけどね)
今こうして背を向けて歩いている最中でも美津雄からの殺気が痛いほどに伝わってくる。
それもしかたないかもな。とザックスは自分の行いを反省する。沈静化するためとは言え銃弾を弾きながら猛スピードで迫られたら泣きたくもなるだろう。
美津雄は神羅兵でもなんでもない、見たところただの子供だ。
殺し合いという状況に錯乱しているのかもしれないし、尚更自分が守らなくてはならない。
そのためにはまず信用されることからだ。ザックスは無言の時間をできるだけ作らないように度々美津雄へ声を掛けていた。
「な~美津雄~、腹減ってないか? ハーラ!」
「……別に」
「あっそ。俺、減ったから食べちゃうもんね」
言いながら器用にデイパックから食糧を取り出す。
缶詰だ。缶切りがなくても開けられるタイプだったので、乱暴に蓋を開ければそのまま逆さにして口の中へ流し込む。
逃亡生活中では味わえなかった鶏肉とコーンの食感が幸福感をもたらした。場を和ませようとしたための行動だったが本気で堪能してしまった。
ちらりと後ろを見れば美津雄は俯いたままぶつぶつと呪文のように何かを呟いている。
クラウドよりよっぽど扱いづらいな、とザックスは頭を掻いた。
(ま、こんなもんこんなもん。英雄になるにはこんくらいの障壁乗り越えてみせなきゃな)
だが、ザックスに迷いはない。
美津雄は守るしこの殺し合いもぶっ壊す。
両方やらなくちゃならないのが英雄の辛いところだ。
【D-1/一日目 深夜】
【久保美津雄@ペルソナ4】
[状態]:健康
[装備]:ウェイブショック@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1~2個)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して自分の力を証明する。
1.なんなんだよ、こいつ……!
2.強い武器がほしい。そしてこいつを……。
※本編逮捕直後からの参戦です。
※ペルソナは所持していませんが、発現する可能性はあります。
【ザックス・フェア@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:健康
[装備]:巨岩砕き@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0~2個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いをぶっ壊し、英雄になる。
1.うっし、適当にぶらついて仲間でも探すか!
2.美津雄のこと、しっかり守ってやらなきゃな。
※クラウドとの脱走中、トラックでミッドガルへ向かう最中からの参戦です。
【ウェイブショック@クロノ・トリガー】
久保美津雄に支給された銃。元の世界ではルッカ用の武器。
海底神殿で手に入り、これが手に入る段階の武器の中では間違いなく最強格。
高い攻撃力に加え被弾した相手に60%の確率で混乱効果を与える。
しかし流石に強すぎるので本ロワでは制限対象となっており、確率が10%まで下げられている。
【巨岩砕き@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
ザックスに支給された大剣。というか岩の塊。元の世界の持ち主はダルケル。
大剣の中では最高級の硬度を誇り、破壊力もかなり高い。
ダルケルはこれを片手で軽々と振るっていたが、並の人間が使いこなすにはかなりの熟練が必要らしい。
最終更新:2019年08月04日 17:08