私はずっと、後悔し続けて生きてきた。

もう17年前の話になる。
親交の深かったユグノア王国が、魔物の集団の襲撃によって崩壊した。

当時の私は弱かった。
エレノア様が命と引き換えに私たちを逃がしてくださり、その際にまだ赤ん坊だった彼を任された。だというのに、私は魔物の集団から彼を守りきれなかった。

川に落ちた彼に手を伸ばすもその手は空を切り、彼は濁流に呑み込まれて消えていった。
私はロウ様に助けられて命は繋ぎ止めたけれど、彼を失ったショックは消えなかった。あの時ロウ様に助けられたのが私じゃなくて彼だったら──幾度となくそう思った。
しかしその後悔は、私が強くなる糧となってくれた。

そして16年もの旅路の末、何と私たちは生きていた彼と再会することが出来たのだ。

今度は彼の仲間として、彼の隣で戦う日々が続いた。
16年の修行で手に入れた力を彼のために駆使して、彼の役に立てていると自負していた。
この時のために王女という立場も捨てて厳しい修行に臨んで来たのだ。
16年の後悔も報われた……と、そう思っていた。

しかし命の大樹に辿り着いた時、私たちはウルノーガの策略によって再び引き裂かれた。
彼は勇者の力を失い、私は魔物の手に堕ちてしまった。
私はまた、彼を守れなかったのだ。

ただし今度は、彼の方から私を助けに来てくれた。
その時、私は思い知った。私は彼を守る対象としか捉えていなかったことに。
しばらく見ない間にとても大きく見えるようになった彼を、いつしか私は「きみ」とは呼べなくなっていた。

私は安心していたのだ。
今度こそ彼と一緒に平和な世界を取り戻せるって。
強くなった彼の背中を見て、私はにっこりと微笑んでいた。

それでも結局、彼はいなくなってしまった。

ウルノーガを倒して、その中で 死んだベロニカの供養のために再び集まった私たちに提示された新たな冒険。
この世界を捨てて過去の世界に旅立つ──もしかしたらベロニカも助けられるかもしれない世界を求めて。

ただし、過去に戻れるのは彼だけだったのだ。

止めたかった。
行ってほしくなんてなかった。
だけど止められなかった。
手を伸ばしても取りこぼしてしまった命への後悔がどれほど胸を突き刺すのかを、私は知っているから。
結果的に彼が生きていて、私は16年間の後悔から解き放たれた。だけどあなたがベロニカを守れなかった後悔からは、この機会を逃せばもう解き放たれないのだ。

笑顔で見送ろう。
彼が後悔しないように、笑顔で。

『行ってらっしゃい』

彼の姿がとこしえの神殿から消えた瞬間、貼り付けていた笑顔は消えて、代わりに涙がどっと堰を切って流れ出してきた。

今度は魔物の侵攻でも、魔王の攻撃でもなく、彼自身の意思で……私は彼を完全に失ってしまったのだ。

そうして彼が居なくなってから数ヶ月の月日が過ぎた。
ウルノーガが滅びてもなお世界には魔物が残っていたため、私は彼を除く仲間たちと共にその残党狩りを依頼されてきた。
それは魔王を倒した私たちにとって、手が余るほど軽い仕事だった。

そしてそんな簡単な魔物討伐から帰還する度に思うのだ。
『ああ、この世界に彼は本当に必要なくなったんだな』と。

勇者がいなくても平和が維持できる世界。
違う……私はこんな世界を作るために戦ってきたわけじゃない。どうしてあの時、彼を止められなかったの?

考えてしまった。
もしウルノーガをまだ倒せていなかったのなら、彼は過去に戻ることはなかっただろうと。
彼がいなくても私たちが大丈夫な世界だから、彼は過去に旅立ったのだろうと。

(あの時、あなたを失いたくないともっと強く言えていたら……私は大丈夫じゃないと伝えていたら……あなたは残ってくれていたの……?)

あ……。

これは、駄目だ。

また私は、後悔してしまった。
今度は二度と解き放たれない後悔を……。

それを感じてからは、自分の精神が次第に蝕まれていくのが分かり始めた。

想いは止まることなく募っていく。
もし私が彼に恋していたのだったら、もっと話は簡単だったのかもしれない。
しかし人生のおおよそ3分の2を彼を守るために捧げた想いはそんな尺度では測れなかった。

『あなたの居ない世界なんて、私には救った意味も無いのよ……。』

魔物の残党の屍を放り棄てながらそう吐き捨てた。何かが狂い始めているのが自分でも分かった。

そのままに流れていく灰色の生活。
その果てに、彼女はこの世界に集められた。

参加者全員が集められた最初の会場。
誰もが困惑し、そして誰も絶望したであろうこの殺し合いの始まりの舞台。
そこで私は──彼の姿を見つけた。

群衆の遥か先に見えた彼。
後ろ姿だったけれど、見間違うなんて有り得ない。その姿を認めた瞬間、私は走り出した。

見知らぬ少年が見せしめに殺されようとも。
仲間が殺し合いに反抗しようとして殺されかけていようとも。
かつて倒したはずの宿敵が現れようとも。

私は……おそらく私だけは……そんな"ノイズ"など気にも留めずに走っていた。

群衆を掻き分け、何人かにぶつかりながらも、もう少しで背に触れられる……。
私は手を思い切り伸ばした。

『 これでルール説明は終わり! じゃあみんな、頑張ってね』

しかし主催者の最後の一言を聞いた次の瞬間、私たちはそれぞれ別の場所に飛ばされていた。

伸ばした手は、彼に触れることは叶わなかった。

あの日のユグノアでの光景がフラッシュバックする。
もう一歩踏み込めていたら掴めていた彼の体と、彼を守れない無力な私。

気付けば私──マルティナは見たことの無い世界に独りで立っていた。

ここは殺し合いの世界。
彼がこんな催しに乗るとは思えないけれど、他の参加者は何を考えているか分からない。彼が易々と負けるとも思えないけれど、他の参加者がどれだけの力を持っているのかも分からない。

だったら私のすべきことはひとつだ。
もちろん第一に彼──イレブンを探す。そして……彼と合流するまで、出会った人間は全員殺す。誰かが彼に危害を加える可能性をことごとく排除して回る。
もちろん分かっている。それが許されないってことくらい。
それでも私は、もう後悔したくはないの。

私はすでに………あなたを3回失っているのだから。


【D-3/一日目 深夜】
【マルティナ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:健康
[装備]:光鱗の槍@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1~2個)
[思考・状況]
基本行動方針:イレブンと合流するまで他の参加者を排除する。
1.もうあなたを失いたくない……。
2.カミュや他の仲間と出会った時は……どうしようかしら。

※イレブンが過ぎ去りし時を求めて過去に戻り、取り残された世界からの参戦です。イレブンと別れて数ヶ月経過しています。


【光鱗の槍@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
本編ではミファーの形見となった槍。三又の形状をした名槍で、耐久力も高め。「祭事の槍」という模造品も存在する。

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NEW GAME マルティナ 030:灯火の星

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最終更新:2019年08月04日 16:37