「殺し合い…か。やれやれ、今回は随分と物騒なミッションだ」

厳つい顔の男が溜息をつく。
彼、ソリッド・スネークはこの殺し合いの中でも冷静だった。
幾つもの死線を潜り抜けてきた彼に殺し合いに対する恐怖などない。
代わりにあるのは、胸に秘めた小さな怒り。

「…マナにウルノーガ、だったか。あいにく俺はあんたらの部下じゃないからな。好きにやらせてもらう」

上司だったとしてもお断りだけどな、と心中で毒づく。


―スネーク、俺達は政府や誰かの道具じゃない
―戦うことでしか自分を表現できなかったが、いつも自分の意志で戦ってきた。


それは、かつての友の言葉。
そうだ、俺はあんたらの道具になるつもりなどない。
俺は俺自身の為に、信じるもののために戦うだけだ。

「とりあえず、まずは所持品を確認するか」

デイバックを開き、地図や水などを取り出して一つ一つ検分する。
そして出てきたのは…紅白のボール。

「なんだこれは?」

見たところ、赤と白の間にあるまるい部分がボタンのようだった。
押して見たくなるが、しかし爆発物かもしれない。

(押すにしても、距離を取るべきだな)

スネークは、ボールを思いっきり投擲する。
数メートル先で地面に落ちたボールのボタンが押され、中から飛び出してきたのは…

「ポカ~!」

…見たこともない生物だった。

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「なんだこいつは?」

突然現れた生物に、スネークは忍び足で近づく。
見たことない生き物ではあるが、印象としてはオレンジの豚、という感じだった。
オレンジの豚——ポカブは、しばらく辺りをキョロキョロ見まわしていたが、

「ポカ~!!ポカ~!!ポカカ~!!!」


突 然 、で か い 声 で 叫 び だ し た!


「なっ!おい、静かにしろ!」

スネークは慌ててポカブに接近する。
どこに敵が潜んでいるか分からない中で叫ばれては、たまったものじゃなかった。
ちょっとした物音を聞きつけた兵士に見つかって窮地に陥ったことが、これまで何度あったことか。

口を塞ごうと接近してきたスネークに、ポカブはビクっと一瞬身体を震わせる。
しかしその表情はすぐにスネークを睨みつけるものに変わり、

「ポカアアア!」
「なっ!?ぐほっ!」

体当たりをくらい、スネークは尻もちをつく。

「ポカァ!」
「待て、落ちつけ!…ぐはっ!」

尻もちをついたまま2発目の体当たりを食らうスネーク。
しかしポカブは相変わらず興奮した様子でこちらに3度目の体当たりを仕掛ける!

「なめるなよ!」

しかし、さすがに攻撃を見慣れたスネークは、立ち上がるとすぐさまその場を離れ回避する。
不意打ちで2度もくらったとはいえ、体当たりの軌道は単調なもので、避けるのは難しくはなかった。

「ポカッ!?」

攻撃を回避されたポカブは、そのまま前方の木へと激突。
目を回しながらその場に倒れた。

「よし!捕まえたぞ!」
「ポカッ!?ポカブ~!」

スネークはポカブを両手でホールドする。
捕まったポカブは暴れるが、拘束から逃れることができない。
やがて口も塞がれ、森は再び静寂を取り戻す。

「ふう、やれやれだ」

スネークは安堵していた。
しかし彼は気づいていなかった。
ポカブに、変化が生じていることを。



ソリッド・スネーク。
伝説の兵士であるビッグ・ボスの遺伝子によって生み出された彼は、一部では伝説の英雄とも呼ばれる。
そんな彼との戦闘は、短時間とはいえポカブに成長を促した。


―ポカブはレベルが上がった!
―ポカブはひのこを覚えた!

「ブフォオ!」
「あちっ!」

口を塞いでいた手から熱さを感じ、スネークはポカブへの拘束を緩めてしまう。
その隙に、彼の腕から逃れるポカブ。

「こいつ、炎が吐けるのか…」
「グルルルル…」

しばし、にらみ合う両者。
お互い相手の次の出方をうかがっている。
そんな緊張感あふれる状況の中、


「おいおい、もうバトってんのか?血気盛んな奴らだ」


突然の第三者が、そんな空気を引き裂いた。
スネークもポカブも、声の主の方へ振り向く。

「なに…!?」

そこにいたのは、黄色い体毛に赤いほっぺ。
ギザギザ模様のしっぽに、ウサギのような耳。
見た目は可愛らしい謎の生物が…

「そっちはポカブか?…ん?首輪をしてない?もしかしてオレと違って参加者じゃないのか?そっちのおっさんの支給品か?」

可愛らしさからはほど遠いおっさん声で喋っていた…!
オレンジ豚——ポカブも奇妙だったが、目の前の黄色い生物はそれ以上に怪しいと言わざるを得なかった。

「人語を話す黄色いウサギ…だと?お前は…何者だ?」

そんな奇妙な生物に、スネークは思わずそう聞いていた。
すると黄色いウサギみたいなやつは得意げな顔で喋り始める。

「オレか?オレの名はピカチュウ…」

持っていた”探偵帽”を頭にかぶると、そいつは続けて言った。

「名探偵ピカチュウだ」



「名探偵…ピカチュウ?」
「ああそうだ……ん?」

名探偵ピカチュウと名乗った生物は、スネークを驚きの目で見つめながら言った。

「お前…お前も、オレの言葉が分かるのか!?」

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「ポカポカ、ポカブ~」
「ふんふん、なるほどなあ」

ポカブが、ピカチュウを相手に話をする。
それをピカチュウは、相槌を打ちながら聞く。

「どうだ、何かわかったかピカチュウ」
「ああ、どうやらこいつはベルって子のパートナーポケモンで、その子からはポカポカと呼ばれているらしい」
「ポケモントレーナー、というやつか…」

スネークは、ピカチュウから彼やポカブの世界について簡単に説明を受けていた。
そこでは人間と彼らポケモンが共存しており、ポケモンを持つ者をポケモントレーナーというらしい。

「それでそのパートナーの名前を呼びながら叫んでいたら、顔の厳ついおっさんが迫って来て、ビビって襲ってしまったそうだ」
「悪かったな、恐い顔で」

スネークがポカブの方を見ると、ポカブはビクッとしながらピカチュウの後ろへと隠れてしまった。
どうやら嫌われてしまったようだ。

「しかしおっさん…ええと」
「スネークだ。ソリッド・スネーク」
「ああそうだったな。スネーク…あんた本当にポケモンを知らないのか?」
「ああ、初めて聞いたし、お前たちみたいな生き物に出会ったのも初めてだ」
「そうか…」

ピカチュウは腕組みをしながら考える。
彼の言葉を理解できるのは今まで相棒のティムだけだった。
しかし今、彼の目の前には二人目がいた。
ポケモンのポの字も知らない、おそらくは全くの別世界の人間がだ。

(まさか、この殺し合いの舞台では全員オレの言葉が分かるのか…?)

他の参加者に会ってみないことには確証はないが、そう思わずにいられなかった。
まあ、言葉が通じて別に不都合などないからいいのだが。

「まあいい。それよりスネーク、あんたはこれからどうするつもりなんだ?」
「とりあえず、最初の放送まではこの森の中に潜み、極力移動しないつもりだ」

スネークの行動方針、それは最初の6時間は動かないということだった。
理由は二つある。
一つは、闇夜の移動は危険を伴うため。
もう一つは、放送によってもたらされる情報…それによって動きを決めたいからだ。

「マナという女は死者の名を発表するからメモしろと言っていた。確証はないが…おそらく放送後、参加者の情報が解禁される可能性が高い」

参加者がどれだけいるのか。知り合いはいるのか
その中でどれだけの人数が最初の放送で呼ばれるか。
それによって、危険な人物がどの程度いるのかも推し量ることができる。
知人の有無や敵の勢力の推測が立てば、こちらの動きも決めやすい。

「言い分は分かるが…少し消極的じゃないか?」

スネークの話を聞いたピカチュウは、やや不服そうな表情だ。
ピカチュウは探偵だ。
そして探偵は足で稼ぐ仕事だと思っている。
いろんな人に聞き込みをし、現場や周辺の怪しいものを調べ。
とにかく動き回ってこその仕事だ。
そんな彼にとって、スネークの自分とは真逆とも言える行動方針は、性に合わなかった。
それに、犠牲が出ることを前提として話をしているのも気に入らなかった。

「ここは戦場だ。戦場では、自分の命を守ることが何よりも重要だ。そして慎重すぎるくらいがちょうどいい」
「…いや、すまねえ。戦闘のプロのあんたに、専門外のオレが偉そうなこと言えた立場じゃないのは分かってるんだ」

ピカチュウはポケモンではあるが、バトルはからっきしだ。
電撃も、電光石火も、まともにできない。
あるのはこの頭脳だけだ。

(だが…その頭脳も、この世界では通用するのか…?)

元の世界でピカチュウは、相棒のティムと共に様々な事件を解決してきた。
ポケモンが暴れだす危険な事件はあったが…殺人事件のようなものに直接関わったことはなかった。
ティムの父ハリーと相棒だったころには関わりがあったかもしれないが、記憶喪失の彼にはその頃の記憶はない。
しかしここは力こそが正義の殺し合いの舞台。
どうあがいても、殺人は起きるだろう。
そんな世界で、果たして自分の頭脳は力を発揮することはできるのか。

(はは…ティム、お前がそばにいないからかな。柄にもなく不安になっちまってる)

この場にいるのかどうかも分からない相棒の姿を思い浮かべる。
離れてみて、ティムが自分にとって最高の相棒だということを改めて実感していた。

(…なんて、いつまでも弱気のままじゃあいつに笑われちまうよな)

少しセンチメンタルになってしまった自分を恥じつつ、ピカチュウは赤いほっぺをペチペチと叩いて気合を入れ直した。

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「それじゃあ、オレは市街地の方へ向かうぜ。探偵は足で稼ぐものだからな」
「待て」

一人で行こうとするピカチュウを、スネークが呼び止める。

「こいつ…ポカブも連れて言ってやってくれ。言葉が通じるお前といた方が都合がいいだろうし…俺は嫌われてるみたいだからな」
「ポカ!」
「オレは構わないが…あんたはいいのか?」
「俺は一人でもなんとかなる。単独の潜入捜査には慣れているしな」
「おう、分かった。それじゃあこいつは連れてくぜ。ほら、こっち来いよ」

ピカチュウがポカブを呼ぶ。
しかしポカブは一瞬ピカチュウの方へ向かいかけたかと思うと、足を止めてスネークのいる方へと向き直った。

「どうかしたのか?」
「ポカ!ポカ!ポカ!」

ポカブはスネークに向けて何か言ったかと思うと、再びピカチュウの方へと向かった。

「なんて言ったんだピカチュウ?」
「『襲い掛かってごめんなさい。鍛えてくれてありがとう』とのことだ」
「…生意気な豚だと思ってたが、意外と可愛げがあるじゃないか」

ピカチュウすら置いて去っていく後ろ姿を見ながら、スネークはニッと笑った。

「っておい!オレを置いてくな!じゃあなスネーク!」

慌ててポカブを追いかけていったピカチュウも姿が見えなくなったのを確認すると、スネークもまた身を隠すのにちょうどいい場所を探してその場を去った。

「あ、ていうかスネーク!あんたオレのことウサギとか言ってたが、分類上俺はネズミだ!!」

遠くから、そんなどうでもいい情報が聞こえてきた。
…ポカブといいこいつといい、頼むから静かにしてくれ。

【C-6 森/一日目 深夜】
【ソリッド・スネーク@ METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:手に軽い火傷
[装備]:不明
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0~2個)
[思考・状況]
基本行動方針:マナやウルノーガに従ってやるつもりはない。
1.放送までは極力動かない。

【ピカチュウ@名探偵ピカチュウ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、モンスターボール(ポカブ)@ポケモンBW、ランダム支給品(1~3個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
1.市街地の方へ向かい情報収集。
2.ティムやポカブのパートナーを探す。



【モンスターボール(ポカブ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
スネークに支給されたポカブが入ったモンスターボール。
イッシュ地方で新米トレーナーに渡される3匹の内の1匹。
パートナーはベル。ニックネームはポカポカ。
覚えている技はたいあたり、しっぽをふる、ひのこ。
ただし弱い分伸びしろがあるため新しい技を覚えてこれらの技を忘れる可能性もあり。

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最終更新:2019年09月26日 11:49