俺の直感が告げていた。
あのビームはヤバい、と。
でも大丈夫、オレの足ならちょーっと本気を出せば切り抜けられる。
自慢の速さを景気よくビカビカ光ってる何か変なのに披露してやろうと思った最中の事だった。

視界の端に、必死に駆ける黄色いあいつを捉えてしまったのは。
そして直感的に理解した、あれじゃあ逃げ切れないってね。
一瞬の判断だった。オレは速度を落とし、あいつに向かって手を伸ばした。
……しかし、それは罠だった。
もう少しで手が届く、その瞬間にあいつに迫っていた光線が急にスピードを上げたのだ。
あいつは飲み込まれ、次の瞬間オレの体もビームに呑まれていた。

……Shit!やられたなぁ。
そう思いながら空を見上げると、空を切り裂いて進むピンクの流れ星が映った。
速さはオレよりも遅かったけど、不思議と安心できた。
まだあいつがいるなら大丈夫だ。
あの丸いピンクの英雄が生き残っているなら、灯火の星は消えちゃいない。
それがオレの意識が光に塗りつぶされる前の、最後の記憶。

……そして、気が付けば、此処に連れてこられていた。
『大乱闘』とは違う、本物の勝ち抜き戦。命の保証はどこにもないバトルロワイアル。
命を賭けた冒険には慣れっこだが、流石にこんな悪趣味なパーティに巻き込まれたのは初めてだ。


「リンクとゼルダに…スネーク、クラウド。マリオたちはいなかったな」


殺し合いを告げられた場所で見た知り合いの顔は思いの外少なかった。
オリンピックや大乱闘で何度も競い合った『Mr.ニンテンドー』の姿も見たところいなかった。
かといって全く知らない奴らだらけというわけでもなく。
特に見つけた中ではゼルダとリンクは大乱闘で初めて知り合ってから十年来の付き合いだ。
噓、そんなに付き合ってないと思う、多分。あと最近会ったらイメチェンしてた。
スネークも付き合いは長い方に入る…と思う、メイビー。暫く会ってなかったがこれまた最近再会した。
初めて知り合ったときは何故か俺を避けてた気がするがきっと気のせいだろう。
クラウドは他のメンバーに比べれば付き合いは浅いが、こんなゲームに乗る様な奴でもなかったはずだ。
大乱闘ではあの超究……ナントカとか言う技にはずいぶん手を焼かされたが。


「とりあえず向こうはカービィに任せるとして、こっちはオレが何とかするか」


一先ずあのビカビカ光ってた変な奴の始末はピンクのヒーローに任せることにしよう。
オレの参戦は、先にこのバカげたパーティーを潰してからだ。
先ずは知り合いと合流して、この首輪を外す方法を探す。
爆弾の扱いに長けたスネークなら何とかできそうだな、ついでにテイルスもいないかねぇ。
でも、その前に。



「Hey!とっくに気づいているぜ。出て来いよ!!」


背後の気配に向けて、声を挙げる。
少し前から後ろの方に誰かいるのには気づいていた。
警戒しているのか、出てくる気配はなさそうだったので声をかけたが、どーにも剣呑な雰囲気、サイアク。


「――――貴方、魔物ね?」


出てきたのはサムスにちょっと似た黒髪の少女。
しかしこのオレを捕まえておいて魔物呼ばわりとは参るぜ、まったく。
『大乱闘』ではBIGな食虫植物とか魔王とか、うじゃうじゃしてるけどな。
出てきた女の子は「…魔物なら」とか何とかブツブツ呟いてる。
どーにも、一人で頭の中が空回りしてる様子だ。



「あー…一つ訂正しておくと俺は魔物じゃない。ついでに言っておくとこの殺し合いにも―――ッ!!」


言いかけた言葉は最後まで紡がれることはなかった。
何故なら、サムス似の少女が持っていた槍を構えて突っ込んできたからだ。
流石のオレでもアレに串刺しにされたら命はないだろう。
だが、遅い。俺を捉えるには余りにもSlowly。
一瞬のうちに急始動・急加速、空中でターンして背後に回る。
少女からすればオレが瞬きの間に消えたように映っただろう。
だけど彼女も中々やるらしい、直ぐに背後のオレの気配を察知して振り返る。


「……ッ!?……貴方、一体……!」


その問いに、オレは不敵に笑って答えた。


「オレはソニック―――ソニック・ザ・ヘッジホッグさ」



正直なところ、私は少し安心していた。
最初に出会ったのがどう見ても人ではない、魔物だったことに。
そう、いつだって魔物は敵だ。人を襲い、村を焼き、彼に仇をなす。
だから、倒す。目の前の青い魔物が人語を介していた所で、それが何になるというのか。
むしろそれは力を持った魔物であることを示す可能性が高い。益々以て屠らなければならない存在だ。
だというのに。


「オレはソニック―――ソニック・ザ・ヘッジホッグさ」


目の前の魔物は風の様に素早く、掴みどころがなく、そして気圧されそうになるほどの自信に満ちていた。


「なぁ、オレは名乗ったんだぜ?そっちも名前があるなら教えてくれよ」
「……マルティナ」


ソニックと名乗った魔物の雰囲気に引きずられたのか、気づけば私は名乗ってしまっていた。
名乗りながら、脳裏にある考えが過る。
目の前の青いハリネズミには魔物の纏う雰囲気というモノがない。
ソニックという名前の魔物は果たして世界を巡った旅路の中で、出会ったことがあっただろうか。
本当に、ソニックは魔物なのだろうか?


(――考えてはいけない、ソニックは魔物。そう、そのはず)


意図的に思考を狭める。考えてはいけない、あれはきっと今まで出会ったことのない地方の魔物だ、と。
仮に魔物でなくとも、イレブンと再会するまで出会った者は全員殺すのだ、躊躇して何になるというのか。
不意に緩みそうになる槍を握る手に力を籠めなおす。
戦意を解かない私の様子を見て、ソニックはなおも言葉を紡いでくる。


「……ohh、もう魔物でもいいよ。でも一つだけ聞かせてくれ。何でそんなに―――」
「―――私は、もう後悔したく無い。もう喪いたくない。それだけ」
「……All right.分かった、それじゃ少し遊んでやるぜッ!」


ソニックの問いに、自分に言い聞かせるように、そう答えて。
最早私に言葉は必要なかった。ここからは、ただ結果だけがあればそれでいい。
心の中にある耳を塞いで、謎の魔物、ソニックに向かって突進する。
選んだ技はさみだれ突き。見た所ソニックの間合いは短い。
先程は不意を打たれたが、ちゃんと注視していれば自慢の速さも追いきれない速度ではない。
だからこそ、点ではなく面の攻撃を仕掛ける。
一発でもかすれば、そこから強烈な痛打に繋げる事が可能だ。しかし、



(―――疾い!)


ソニックが選んだのは体を丸めた猛烈な回転だった。
的は小さくなり、速度は飛躍的に上昇する。回転エネルギーによって当たった攻撃も弾かれる。
仲間がいれば即座にサポートが入っただろう、しかしここは私一人だ。追いきれない。
眼にも止まらない速度で、蒼の砲弾がボールの様に跳ねながら突っ込んできた。


「あぐッ!」


脇腹に命中、苦し紛れに槍を振るうが、既に目標は槍の間合いから脱出済み。
凄まじい速度で突撃してきたソニックはステップで軌道を変え再び突っ込んでくる。
私は迎撃のため薙ぎ払うが、何とソニックは空中で回転し方向転換、流星の様にキックを叩き込んできた。
その動きはとても洗練されており、人と戦いなれているのは明らか。
かといって魔物の様に攻撃に殺意はなく、手加減しているのか一撃一撃はそう重くない、
だが、余りにも素早すぎるのだ。
メタル系の魔物だって、ここまで素早くはないというのに。


「――――マルティナ。あんたには速さが足りてない」


ちっちっちと指を振りながら、ソニックはまた私の攻撃を避ける。
煩い、と心中で毒づきながら、氷結乱撃を繰り出す。
イレブンとの旅路は、いつだって仲間がいた。
たった一人で、ここまでの素早さを兼ね備えた敵と戦った事はなかった。
イレブンと再び離れ離れになった時に強い魔物に単身挑んだことはあるが、その時の顛末は思い出したくもない。
私一人の力では、ソニックには及ばないのかもしれない、でも、やらなければならない。
それが彼を三度守り切れなかった、三度手を掴むことのできなかった私の贖罪なのだから。


「――アンタの事情はよく知らないけど、ハッキリ言うぜマルティナ。
灰色の心じゃ、オレの速さにはついてこれない」
「それでも…私にはこれしかない!!」


まるで底なしの泥沼に沈み込んでいくようだった。
私のこの行動が間違ってるとするならば、もうどうしていいのか分からない。
ウルノーガを倒す以前の私なら、ゲームに逆らう事を選んだだろう。
それはきっととても高潔な選択。
でもそうして生きて、結局得たものは勇者のいない色を失った世界だった。
きっとソニックには分からない。彼の速さなら掴みそこなった手など、一つもないのだろう。


「いいや違うね、無くしたくない物がまだあるんだろう?ならそのやり方じゃダメだ。
アンタが分からないならそれでもいいさ、オレが教えてやる。だからこのゲームを一緒にぶっ壊しに行こう」


そう言ってソニックは私に向かって手を伸ばしてくる。
自分の力を信じてると言わんばかりの表情で、どこまでも真っすぐに。
眼を見れば彼に敵意がない事は分かった。そして、イレブンに対しても同じはずだとも。
でも、私は。


「……ありがとう。でも、ごめんなさい」



私は、彼を拒絶した。
あの時、イレブンの手を掴めなかった私が、他の誰かの手を取れるはずもなかった。


握った槍に魔力を込め、開放する。
紫電の雷がソニックに襲い掛かるが、先程までと同じく彼には当たらない。
けれど、それでいい。私は既に彼と戦い続けるつもりはなかった。
まだバトルロワイアルは始まったばかり、ソニックの様な素早い相手を仕留めるなら、消耗してからの方がいいはずだ。

ソニックが私の放ったジゴスパークに気を取られている内に、デイパックから支給されたアイテムを取り出す。
取り出したのはキメラのつばさ。
これが無ければ、尋常ではないスピードを誇るソニックを撒くのは至難の業だっただろう。


……そうして私は雷がやむのと同時に彼の前から姿を消し、また独りきりで最初にいた場所に降り立った。
着地と同時に、ソニックと出会った場所から逆方向に駆ける。
彼とはできるだけ会いたくはなかったから。
けれど駆けながら、考えてしまう。


もしあの時彼の手を取れていたら、何かが変わったのだろうか。
もし私にソニックのあの風の様な強さがあれば、イレブンが去った世界でも強くいられたのだろうか。
そこまで考えた所で、強引に思考を打ち切る。
余り考えすぎると、動けなくなりそうだったから。


(そう、私が彼の手を掴めなかった事実は変わらない)


過ぎ去った時を求める権利があるのはイレブンただ一人。
私には掴めなかった手を掴めていたらと夢想する権利さえ、許されてはいない。


【D-3/一日目 黎明】
【マルティナ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)
[装備]:光鱗の槍@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:基本支給品、キメラの翼@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
ランダム支給品(1~0個)
[思考・状況]
基本行動方針:イレブンと合流するまで他の参加者を排除する。
1.もうあなたを失いたくない……。
2.カミュや他の仲間と出会った時は……どうしようかしら。

※イレブンが過ぎ去りし時を求めて過去に戻り、取り残された世界からの参戦です。イレブンと別れて数ヶ月経過しています。


「柄でもないことはするもんじゃないなぁ。まったく」


本来なら諭すなんて柄じゃないのは自覚してる。
でもあんまり泣きたいのに泣けないって感じの顔をしてるから、ついおせっかいを焼いてしまった。
マルティナは結局、オレの前から姿を消してしまったし。振り切れるわけないと油断したぜ。
知っていたらデイパックの中に入っていたとっておきを使ってでも止めたかもしれない。
けれど、過ぎたことだ。それならそれでいい。オレの足は速いのだから。
彼女が会場のどこにいようと、必ずまた見つけてみせる。Piece of cake(楽勝だ)


―――オレに掴まれ、ピカチュウ!


オレだって何でも掴めるわけじゃない、掴みそこなうことだってある。
あのビームが飛んできたときもそうだった。
救えなかった。目の前にいた仲間を消された。俺なら、助けられたはずなのに…!
けれど、それで終わりにするつもりはない。何度だって手を伸ばすさ。
あの時取れなかった手を、今度こそ掴むために。
さぁリベンジと行こう―――Are you ready?


「――――できてるよ」

【C-2/一日目 黎明】
【ソニック・ザ・ヘッジホッグ@大乱闘スマッシュブラザーズSP】
[状態]:健康
[装備]:スマッシュボール×2@大乱闘スマッシュブラザーズSP
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1~2個)
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルの打破。もたもたしてると置いてくぜ?。
1.知り合いを探す。
2.マルティナを見つけて説得する。

※灯火の星でビームに呑まれた直後からの参戦です。
※リンクやクラウドやスネークと面識があり、基本的な情報を持っていますが、リンク達はソニックを知りません。でも「こいつスッゲー見覚えあるな…」くらいは感じるでしょう。


【スマッシュボール@大乱闘スマッシュブラザーズSP】
スマブラ恒例の虹色に光る玉。
破壊する事で最後の切り札を一度だけ使用することができる。
ソニックの場合彼の最強形態の一つであるスーパーソニックに変身できる。

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022:ポケットにファンタジー 時系列順 031:星のアルカナ
029:夢の中へ 投下順
011:伸ばした手はまた、虚空を掴む マルティナ 058:殺意の三角形(前編)
NEW GAME ソニック・ザ・ヘッジホッグ 047:優しいだけじゃ守れないものがある

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最終更新:2020年12月30日 18:06