狂気。
真島吾朗という男を説明するのに、最も頻繁に用いられてきたのはその言葉だった。
国内でも屈指の武闘派として知られる極道「真島組」――。その組長として君臨する真島の人物像を正確に語るのは、長年の舎弟ですら不可能だろう。
面倒見の良い兄貴分のような一面を覗かせたかと思えば、つい先程まで談笑していた舎弟を半殺しにする。その背中に彫り込まれた般若のように、目まぐるしく変わる彼の本質を理解できたものはそういない。
実際、真島の親分たる嶋野やライバルの桐生でさえ、彼の行動理念を読み切ることに成功してはいなかった。
誰にも飼いならすことができず、また誰にも理解することが不可能な「嶋野の狂犬」。
それが、真島吾朗という男だった。
「アホくさ。なんで俺が殺し合いせなアカンのや」
アスファルトの上に降り立った真島が最初に口にしたのは、そんな言葉だった。
最も、その台詞は倫理観や正義の意思から紡ぎ出されたものではない。裏社会で極道の代紋を掲げてきた以上、今更暴力を忌避する理由は真島にはなかった。
それでも殺し合いに乗ろうとしなかったのは、単に他人の言うことに無条件で従ってやるのはプライドが許さないというだけの話に過ぎない。爆弾付きの首輪ごときで従えられるほど、己の暴力は安くないつもりだ。
それに――真島には殺し合いよりも遥かに重要なことがある。あの子供が訳の分からないことを言っていた空間で、声を上げた一人の男。
真島はその男の表情を思い返し、ニヤリと笑みを浮かべる。
「それにしても、流石は桐生チャンやで。相変わらず変わらへんなぁ」
堂島の龍、桐生一馬。あの場において、桐生は殺し合いに対して明確に反旗を翻した。「筋の通らないことはしない」――かつてそう語った彼らしい、一本気な行動。
真島はそんな桐生を誰よりも気に入っている。彼との喧嘩は真島の生き甲斐であり、ライフワークだ。殺し合いの舞台であろうと、それは変わらない。
つまるところ、真島にとっての行動方針はいつもと同じ。桐生と喧嘩し、それ以外は気の向くまま。首輪を付けられているとは思えない自由さだが、それこそが真島吾朗という男の本質である。
「ま、俺は精々好き勝手にやらせてもらうで?」
空中に向けてそう呟き、真島は周囲を見渡した。真っ暗な景色の中からは、生きている人間の気配は感じられない。……もちろん、自分の姿を見て逃げ出したという可能性もゼロではないだろうが。
真島の格好はいつも通りの蛇革のジャケットに眼帯――カタギの人間なら、そう気軽には近寄れない風貌だ。それに加えて、今回は物騒な得物というおまけまで付いている。
自らの右手に握られた大仰な日本刀を軽く振って、真島は笑みを浮かべた。デイバッグの中に入っていた支給品というやつだが、使い勝手は存外に悪くない。愛用のドスには劣るが、喧嘩には使えるだろう。
「……とはいえ、どないしたもんかのう。得物があっても桐生チャンがおらんかったら、面白ないで」
桐生を探す、とは言ってもアテがある訳でもなく。頭を掻きながら、真島は無人の路上をフラフラと歩き始めた。桐生の居場所はおろか、ここが何処であるのかも分からない。
歩道の周囲に雑居ビルが建ち並ぶ様は神室町によく似ているが、見覚えのある景色ではない。
「なんや、もう始まっとるんかい」
ふと、真島は眼前の光景に足を止めた。車道のど真ん中に、誰かが寝転んでいる。ここが殺し合いの場であることを考えれば、それが何であるかは容易に予想がついた。
一つ息を吐いてから、真島はゆっくりとその死体に近づき――。
「……アホらし。生きとるやないか」
「死体」の正体は、禿げ頭の中年男だった。酒瓶を片手に、爆音でイビキをかきながら眠っている。男は高級そうなスーツを着ていたが、品性は全く感じられなかった。
神室町のホームレスたちと同じ匂いがする、とでも表現すべきだろうか。もっとも、道端に寝転んでイビキをかいている時点で品性も何もあったものではないが。
半ば呆れながら声をかけようとして、真島は一瞬踏みとどまった。男の首には、銀色の首輪が光っている。ここで寝ている男も「参加者」ということなのだろう。
真島は刀を握り直してから、革靴の先で男の身体をつついた。進んで殺し合いをするつもりはないが、全員がそうとは限らない。最も、並みの連中に喧嘩で負ける気はないが。
「オッちゃん、大概にせんと風邪ひくで?」
イビキの音に合わせて何度か軽く蹴りを入れると、男はふらふらと立ち上がった。寝起きの頭をゆっくりと降りながら真島の顔と周囲の景色を見比べて、呻くように呟いてみせる。
「……ここはモーテルの部屋だと思ってたが?」
「……要するに、何にも聞いてなかったんか。難儀な奴やで」
真島は肩の上で刀を揺らしながら、溜息を吐いた。
「聞く必要がなかっただけさ。サンアンドレアスじゃ殺し合いは日常茶飯事だからな。今更
ルールなんて知る必要があるか?」
隣でデイバッグの水を浴びるように飲んでいる男――トレバー・フィリップスは、自分が何をするためにここへ集められたのかということさえ把握していなかったのである。
ルール説明の真っ最中に酔っぱらって寝ていたと本人は語ったが、恐るべき豪胆さではある。実際、真島から軽く状況を聞いた後でさえ、トレバーはさして驚いた様子を見せなかった。
「エラい神経しとるで、ホンマ。殺し合いの最中に寝る奴がおるとはな」
無論、真島が絶句するのも無理からぬ話ではある。
トレバー・フィリップスという男は「常識」という言葉から最も程遠い存在で、正常な視点から彼の言動を理解するのは不可能と言っても過言ではない。
強盗や窃盗を日々のルーティンワークとしてこなし、「単なる趣味で」人を殺して喰うような男の思考回路を理解できるような人間がいたとすれば、それは彼と同類の――いわゆる「狂人」に類する者だけだろう。
ある意味では最も
ルールに縛られない男と言えるかもしれないが、殺し合いが日常茶飯事だという彼の言葉は、比喩表現でもジョークでもなく紛れもない事実だった。
「……で?お前はこれに乗るんか?トレバー」
ふと、真島はトレバーにそんな問いを投げかけた。実のところ、眼前の酔っ払いが殺し合いに乗るか否かはどうでも良い。最初に子供が言っていたように、ここは「そういう場所」だ。
自分が生き残るために、他人を殺す。その選択を咎められるほど、真島は純粋な正義を持ってはいない。ただ、トレバー・フィリップスという男がどちらに立つのか――そこに、真島は興味を抱いていた。
桐生のように、筋を通してみせるのか、それとも――。
眼帯越しに向けられる視線を浴びながらトレバーはデイバッグをかき回し、向けられた台詞に答えた。
「……そいつはあまりいい質問じゃないな、マジマ。聖人の気分なら悪党どもを締め上げるかもしれないし――ムカついてたらバラバラにして喰った後でトイレに流すかもしれん。俺は理性的じゃないからな。マイケルみたいに家庭を持ってる訳じゃないし、フランクリンみたいに成り上がりたい訳でもない。盗んで、撃って、犯して……あとはたまに喰うくらいだが、俺は好き勝手暴れる以外にやり方を知らん。だから、ここでもそうするだけだ」
そこで言葉を切り、デイバッグから取り出した銃を空へ向ける。夜闇の下で、真っ黒な銃口に僅かな光が反射していた。
「要するに――楽しむだけさ、ブラザー。好き勝手に暴れてな」
それから一拍後、夜空に一発の銃声が響き渡った。
「お前はどうする、ミスター・ヤクザ!戦争するなら手を貸すが」
薬莢がアスファルトの上を転がっていく音に合わせ、トレバーが呟く。真島はそれを聞きながら、小さく笑い声を上げた。
殺し合いに乗るか、限界まで逆らってみるか。この場所で選べるのは2つだけだ。だがもし、3つ目の道を選ぶことができるとしたら?
死と隣り合わせの場所で、思いっきり暴れ、思いっきり楽しむ――。並の人間なら、そんな選択肢を選びはしない。
だが、トレバーは選んでみせた。自分の命さえも担保に預け、ただ一瞬の感情のためだけに行動する。それはまさしく、「嶋野の狂犬」と同じ感覚だった。
夜風の中を伸びていく硝煙の匂いを嗅ぎながら、真島はもう一度刀の柄を握り直した。
「……気に入ったで、トレバー。ほんなら精々――思いっきり暴れようやないかい!」
※C-1付近に銃声が響きました。
【C-1 市街地付近/一日目 深夜】
【真島吾朗@龍が如く 極】
[状態]:健康
[装備]:共和刀@MGS2
[道具]:基本支給品、民主刀@MGS2、ランダム支給品(0~2個)
[思考・状況]
基本行動方針:好き勝手に行動する。
1.面白なってきたで!
2.桐生チャンを探しに行こか。
※参戦時期は吉田バッティングセンターでの対決以前です。
【トレバー・フィリップス@Grand Theft Auto V】
[状態]:二日酔い
[装備]:レミントンM1100-P(6/7)@バイオハザード2
[道具]:基本支給品(水1日分消費)、ランダム支給品(0~2個)
[思考・状況]
基本行動方針:好き勝手に行動する。ムカつく奴は殺す。
1.とりあえずはマジマと好き勝手にやる。
2.マイケル達もいるのか?
※参戦時期は「Cエンド」でのストーリー終了後です。
※
ルール説明時のことをほとんど記憶していません。
【レミントンM1100-P@バイオハザード2】
レミントン社製のショットガン。バイオハザード2本編ではガンショップにてレオンが入手する。
射撃範囲が広く横に広がった複数の敵に攻撃を加えられるが、威力は離れれば離れるほど低下する。
今回支給されたものは専用の「カスタムパーツ」が装着されたもので、装弾数と威力が増加している。
【共和刀&民主刀@MGS2】
刀身を高周波で振動させて切れ味を増した、日本刀を模した武器。
ソリダス・スネークの愛刀でもある。2本セットでの支給。
最終更新:2019年10月31日 02:35