(殺し合い?冗談ではない…!)
「せああっ!」
手にした斧を振り下ろす。
それより一瞬早く放たれた敵のレーザーが胴を焼くも、そんなもの構うものかと斬撃を叩き込む。男の捨て身の一撃によって、目の前の朽ちたガーディアンは動かなくなる。
一体のガーディアンを破壊しても、男はまだ止まらない。
(殺されるべきは……俺なのだ。)
この場所はハイラル城。
かつて厄災ガノンによって占領された城である。ただしこの殺し合いの場においては、朽ちたガーディアンが固定砲台としていくつか設置されているのみ。
(これが、俺の罪なのだから。)
既に朽ちて動かない個体も未だに動き続ける個体も、男はひとつひとつ破壊していく。後々この場所に来る者が脅かされることの無いように。半ば自暴自棄的に破壊を続ける男の行動は、少なくとも正義に則った行為である。
(そう、これは然るべき裁きなのだ。)
一発。二発。そして三発。
朽ちたガーディアンのレーザーが男の身を焼いていく。
左手に持った盾で受け止めれば跳ね返せるそれも、男は甘んじてその身で受ける。
「天下無双ッ!うおおおおお!!」
それら全てを受けきってなお、高速の6連撃で次のガーディアンを破壊する。
(ウルノーガ……よりによって、お前が俺を裁きに来たのか?)
男はその名を、グレイグといった。
その胸に渦巻いているのは、深い深い自責の念。
彼は彼の周りで起こった悲劇を、全て背負い込んでいた。
勇者イレブンが、失った仲間の1人、ベロニカを取り戻すために過去へと旅立った。
そしてそれを見送ったマルティナ様は、次第に心を病んでいった。
突き詰めれば自分のせいだ。
主君が魔物と入れ替わっていたことすら気付かず、命の大樹までウルノーガを招いたからこそベロニカは死に、イレブンは二度と戻ってこない旅へと向かったのだ。
さらに言えば、旧友のホメロスが劣等感を抱きウルノーガの配下となったことも、自分がもっと早くホメロスに感謝を伝えていれば防げた事態だったかもしれない。
そうすれば強力な部下を得られず、ウルノーガの侵攻もあれだけの勢いで進むことはなかっただろう。
全てがたらればであることは分かっている。
しかし自分の行いがことごとく悲劇の引き金となっているのは思い返してみれば間違いのないことなのだ。
だから自分はこの世界で死ぬべきだ。偽りの主君ウルノーガの姿をした裁きの執行者によって、自分は殺されるべきなのだ。
グレイグに参加者を手にかけてさらなる悲劇を生むつもりはない。例え相手が無差別マーダーのスタンスを取っていても、だ。
となれば彼の鬱屈の向かう先が、参加者を襲うNPCに向かうのは当然の理屈であった。
しかし参加者とは違うNPCのガーディアンとはいえ、その実力は馬鹿にならない。
何発も受けたレーザーによって既に身体はボロボロ。いつ致命傷を受けてもおかしくはない。
だがそれでも、歩みを止めるつもりはない。
「ここで終わるのなら──本望ッ!」
グレイグの決意に応えるが如く、一発のレーザーがグレイグの心臓に向けて放たれる。
「──やれやれ。見てらんないね………サンダガ!」
しかしそのレーザーは、グレイグを貫くことはなかった。
同じくハイラル城を訪れた第三者の唱えた電撃の魔法によって、グレイグへと向かうレーザーは朽ちたガーディアンごと焼失した。
電撃といえばイレブンが得意としていた呪文だ。
グレイグはまさかと思い、雷の出処の方向へと振り返る。
しかしそこにはイレブンの姿はなかった。
代わりに、イレブンよりはカミュの方に印象が近いような少年が立っている。
少年はゆっくりグレイグの方へと歩み寄り、語りかける。
「オッサン、まだ生きるのを諦めるには早いんじゃねーのか?」
「……放っておいてくれないか。俺には死なねばならない理由があるのだ。」
戦死に向かうのを邪魔されたグレイグは、不服な様子を隠せなかった。
「まあアンタが死にたいほど追い詰められてる理由にも色々あるんだろうさ。無実なのに処刑されそうになった時なんかは、まあ俺もたまんなかったね。」
次に少年が何となく語った一例は、あくまでも少年が昔体験した出来事の話。
しかしイレブンを無実の罪で追い回した側のグレイグからすると、その言葉は自分を責めているようにしか受け取れない。
何が言いたい、とグレイグは少年を睨みつける。
「で、だ。死にたくなるくらいの理由があったら死を選ぶ。それがアンタの"在り方"って奴か?」
するとこの時には、少年の目付きが変わっていたような気がした。
「だったら言わせてもらう。自分にはこの在り方しかないとか思い込んじまうのはさ、勿体なくないか?」
飄々としたイメージだった少年の目は、いつの間にか真剣にグレイグの目を捉えていた。
「視野を広げようぜ。アンタはもっと自由だ、何にでもなれる。」
それは少年──クロノの昔からの座右の銘のようなものであった。
彼の幼なじみのルッカ。
彼女は小さい頃、機械の誤動作で母親の足が切断される様を目の当たりにした。
そしてもう二度とそのような事がないようにと科学の勉強を始めたのだ。
クロノは思った。
小さい頃から賢く、色々なものに興味を注いでいたルッカを科学一筋の道に進ませたあの事故が無ければ、ルッカは本当にやりたいことが見つけられていたのではないか?
現在でこそルッカは天才発明家を自称して活き活きと科学の道を進んでいるものの、ネガティブな動機で科学を勉強し始めた頃のルッカの様子はとても見ていられるものではなかった。
それを見ながら育ってきたクロノとしては、人は自由に、自分のなりたい自分になるべきなのではないかと考えるようになっていた。
さらにクロノは時間を超えて未来を変えてきたことで、現在の行いひとつで未来は簡単に変わるということを知ってしまった。それによりクロノは、自分のかねての座右の銘が間違いでなかったことをさらに実感したのだ。
また、クロノがガルディア王国建国千年祭で出会った少女マールディアに恋をしたのも自然な話であった。
彼女は自分の立場から逃れて、自由を追い求めていた。
王族でありながらも、普通の女の子でありたい──まさにクロノの信念を体現したような生き方を彼女は貫いていたのである。
確かに平民と王族は結ばれないだとか、そもそも自分は王女誘拐の疑いで彼女の父親からも追われている身だとか、クロノの恋路の邪魔をする逆風ならびゅんびゅんと吹いていた。
それでもマールディアとの結婚を王家に認めさせたかった。そのために──
『決めたよ、マール。俺はこの世界を救ってみせる。』
──そう。そのために、クロノは世界の未来を救った。
ただのいち平民ではなく英雄と呼ばれる立場まで登り詰めた。
そしてクロノはマールディアとの交際、さらには婚約を申し込むため、ガルディアの王に直に会いに行くことにした。
おそらく返事は決まっている。冒険の中で起こった出来事を経て、ガルディア王は娘の意思を尊重する親へと変わっていった。
それでも、確かな緊張を以てガルディア王国へと歩みを始めた。
クロノがこの世界に呼ばれたのは、そんな時のことであった。
クロノは考える。
これは真に英雄となるための最後の試練なのだと。
この世界でも人々を救ってみせろ──何か得体の知れない大きな存在に、そう囁かれているような気がしたのだ。
クロノとグレイグは、互いに互いの境遇や経緯を話し終える。
初めはクロノを邪険に扱って追い返そうとばかり考えていたグレイグだったが、いつの間にクロノとの話に引き込まれていた。
恋心を叶えるために英雄となった少年。しかしその腕にはそう呼ばれるに相応しいだけ振った刀の重みがあることは、同じく英雄と呼ばれたグレイグには分かる。
楽観的な思想だけで語っているのではない。
世界を救うという確かな栄誉を以て、叶えられない夢を叶えた上で語っているのだ。
最初はただの無礼な少年かとも思ったが、次第にその認識は変わっていった。
「……礼が遅れたな。助けてくれたこと、感謝する。」
「グレイグ、アンタはこれからどうするんだ?アンタはまだここで何にでもなれる。ここで犬死にする負け犬にでも、暴虐の限りを尽くす殺人鬼にでも……まあそんときゃ俺が止めるけどさ。あるいは──」
クロノは、ニヤリと笑って告げた。
「──こんな殺し合いの企画をぶっ壊して皆の命を救う、英雄にでも。」
『英雄』──それはかつてグレイグが呼ばれたものである。
イレブンが消えてより大きな罪悪感に苛まれるようになってから、グレイグは自分のことを英雄だと思えなくなっていった。
元々ホメロスと2人で『双頭の鷲』と呼ばれていたのだ。自分のせいでホメロスを失ってしまったことで、むしろ英雄という座を貶めたようにも感じていた。
「俺は……英雄の名を捨てた男だ。仕えるべき主君が偽物であったことにも気付かず……大切な人に深い哀しみを遺してしまった。」
そう、つまりグレイグはずっと忘れていたのだ。
自分の"在り方"について。
「だがこんな俺に赦しの機会が与えられるのなら……俺はこの殺し合いを止め、英雄を守る盾となろう。」
2人の英雄は、手を取り合う。
彼らはまだ知らない。
それぞれの大切な人たちもまた、この世界に呼ばれているということを………。
【A-4/ハイラル城/深夜】
【グレイグ@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]: ダメージ(中)
[装備]: グレートアックス@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて 古代兵装・盾@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド
[道具]: ランダム支給品(1~2個)
[思考・状況]
基本行動方針: 主催者に抗う
1.元の世界の悲劇は俺のせいだ……。
※イレブンが過ぎ去りし時を求めて過去に戻り、取り残された世界からの参戦です。イレブンと別れて数ヶ月経過(マルティナの参戦と同時期)しています。
※元の世界の仲間が参加していることを知りません。
【クロノ@クロノ・トリガー】
[状態]: 健康
[装備]: 白の約定@NieR:Automata
[道具]: ランダム支給品(1~2個)
[思考・状況]
基本行動方針: 英雄として、殺し合いの世界の打破
※ED No.01 "時の向こうへ"後からの参戦です。
※元の世界の仲間が参加していることを知りません。
【グレートアックス@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて】
グレイグに支給された斧。
『攻撃時8%でヘナトス』の効果を持つ。
片手武器なので、盾と一緒に装備できる。
【古代兵装・盾@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド】
グレイグに支給された盾。
ガーディアンのレーザーを反射する力を持つが、その効果は利用されなかった。
【白の約定@NieR:Automata】
クロノに支給された太刀。
特殊効果として『攻撃速度UP』、『白き加護』が付与される。 『白き加護』はHPが最大の時に攻撃力が20%上昇する効果。また、本ロワオリジナル効果として、想い人の死を知った時に戦闘能力が向上する(この効果はHP最大の時に限らない)。
【備考】
ハイラル城内部の朽ちたガーディアンは全滅しました。
最終更新:2019年08月03日 02:31