「芸能事務所…」
気が付いた時、天海春香は見知った事務所の中にいた。
辺りを見回すが、やはりここは自分たち765プロのアイドル達が所属する芸能事務所だった。
「さっきまでのは…夢?」
先ほどまでの出来事を思い返す。
マナという女の子に殺し合いをしろと言われ。
首には首輪がしてあって…
「あ…首輪……」
あの時のように首に触れようとして、たちまち現実に戻されてしまう。
そう、あの出来事は夢なんかじゃない。
ここは、殺し合いの舞台——!
ガチャ
「っ!」
突然の音に、春香はビクリとする。
ドアノブの音だ。
誰かが入ってくる!
(怖い人だったらどうしよう…)
すぐそばにはデイバックがあったが、頭の中が真っ白になっていた春香は、そこから自衛の為の道具を取り出そうという発想には至らなかった。
そして、ドアが開いて、現れたのは…
「…え?女の子?」
「!あなたは…」
そこにいたのは、金髪の女の子だった。
歳は春香より少し上くらいだろうか。
しかし、その雰囲気は見た目以上に大人びた印象を抱かせた。
そしてなりより目を引くのが…全身黒ずくめの服。
(暑くないのかな…)
黒という色は熱を吸収しやすい。
そんなことを思い出して、そんな間の抜けたことを考えてしまった。
そして次に春香の脳裏に浮かんだのは、「黒→悪」というイメージ。
黒ずくめの男を追いかける少年探偵の漫画を思い出した。
(綺麗な人だけど…悪い人なのかな)
怯えながらも、春香はじっと目の前の女性を見つめる。
黒衣の女性は、自分の姿を見て驚いたような表情をしていたが…やがて口を開いた。
「春香!?あなたも殺し合いに巻き込まれたの!?」
「……え?」
自分の名前を呼ばれて、春香はキョトンとする。
天海春香はアイドルだ。
最近はテレビ出演の機会だって増えてきてるし、知名度もそれなりに上がってきてると思っている。
だから目の前の女性が自分を知っていることに関しては別に不思議には思わない。
しかし…この黒衣の女性は春香を初対面で呼び捨てにし、まるで知り合いと話をするかのような態度だった。
「えっと…すみません。どこかでお会いしましたっけ?」
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「…というわけで、私とあなたは知り合ったの」
「あ、アーク?プエラ…エテルナ?」
黒衣の女性、ミリーナ・ヴァイスの話を聞いた春香は、大混乱だった。
なんでも自分は、永遠の少女「プエラ・エテルナ」として、アークと呼ばれる異世界に召喚されたらしい。
そして、そこで色々トラブルがありつつも、ミリーナの仲間とライブを行い…春香は元の世界へ帰った。
しかし、帰る前に、アークのまとめ役であるワイズマンの計らいによって『シャドウ』という自分のコピーをミリーナ達の世界『ティル・ナ・ノーグ』に残し、それ以来彼女たちの冒険に同行しているらしい。
「えっと…それ、冗談ですよね?」
「信じられないなら、無理に信じることはないわ」
「あ、その!ミリーナさんを疑ってるわけじゃなくて!」
「いいのよ。こんな話、いきなり信じろって言う方がどうかしてるわ」
「あうう…」
春香は申し訳なさそうに俯いた。
ミリーナが嘘を言っているとは思えない。
しかし、受け入れろというにはあまりにも荒唐無稽な話だった。
それに、春香自身がそのような出来事について全く身に覚えがないのだ。
「でも、異世界でライブかあ…なんだかワクワクする話かも」
「私、春香の歌のファンなの。あなたの歌には…いつも勇気をもらってたわ」
「そ、そうなんですか!えへへ、嬉しいです!」
春香は照れ臭そうに笑う。
身に覚えのない話とはいえ、ファンと言われて嬉しくないわけがない。
「そうだ、春香。一つ、お願いがあるんだけど…あなたの歌、聞かせてくれないかしら?」
「へ?私の歌を…ですか?」
「ええ、久しぶりに春香の歌を聞きたいなって…ダメかしら?」
「いえ、それは構いませんけど…何かリクエストとかありますか?」
「そうね…」
ミリーナはしばらく考え込み…やがて、顔を上げる。
「その…私の作詞した歌、歌ってほしいな」
「え!?ミリーナさん、作詞家さんなんですか!?」
「…さっき話したアークで、バンドをしたことがあって。その時に、作詞を担当したの」
「へええ…ミリーナさんの歌、歌ってみたいです!」
「分かったわ、それじゃあ歌うわ。曲は…『Mr.Right』」
そして、歌が始まった。
(ミリーナさん、歌上手いなあ)
ミリーナの歌は、アイドルの自分からしてもなかなかの歌唱力と断言できるものだった。
しかし…
(なんだろう…本当はもっと明るい曲なのに、暗いような…そんな印象を受ける)
見れば、歌っているミリーナの表情は悲しそうだった。
なにか、悲しい思い出でも詰まった歌なのだろうか…
そんなことを考えていると、いつの間にかミリーナの歌は終わっていた。
「どうかしら、春香」
「はい、短い曲みたいですし…数回練習すればなんとかなると思います」
「そう、良かったわ」
「じゃあ、別の部屋で練習してきますね」
そういうと春香は、ミリーナからもらった歌詞のメモを手に部屋を出ていき、練習を始めた。
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それから数十分。
練習を終えた春香が、ミリーナのもとへ戻って来た。
「おまたせしました」
「待ってたわ、春香。それじゃあ、さっそく聞かせて」
「そのことなんですが…ミリーナさん、一緒に歌いませんか?」
「え!?」
春香の提案に、ミリーナは目を丸くする。
「付け焼刃の練習だったので、まだ少し不安ですし…だから、一緒に歌ってください」
「でも…」
「私、ミリーナさんと歌いたいんです!」
「春香…どうしてそこまで」
「だって…ミリーナさんに、元気になってほしいから」
天海春香はアイドルだ。
そしてアイドルは、お客さんに笑顔を、元気を届けてあげるのが仕事だ。
ミリーナは、先ほど歌っていた時、悲しそうだった。
春香にはその悲しみの理由は分からないが、せめて少しだけでもその悲しみを和らげてあげたかった。
「1人より2人で歌った方が、きっと楽しいですよ!だからミリーナさん…一緒に歌いましょう!」
「…やっぱりあなたは私のよく知る春香なのね。みんなに元気を届ける…太陽のような存在」
「た、太陽だなんて…大げさですよ」
「…分かった、一緒に歌いましょう」
「はい!」
ミリーナが、春香の隣に並び立つ。
「ワン……ツー……ワン、ツー、スリー、フォー!!」
♪ ♪
暗闇の中で怯え 全てに目を逸らす despair
終わらぬ nightmare 声を上げられずにただ耳塞ぐ
何かが欲しくて遠く伸ばした手を
何も言わないでそっと包み守ってくれたのは君だね
君を守るためなら闇など怖くない
You are Mr.Right 愛してる 身体中で
君を守る光に僕もなれるかな
掴んだその手 未来に導く
♪ ♪
「ふう…ミリーナさん、どうでしたか?」
「…ありがとう、春香。最高だったわ。おかげで…覚悟が決まったわ」
「良かった!」
ミリーナの言葉に、春香は自分のことのように喜ぶ。
そんな春香を見てミリーナもまた、薄く微笑む。
「春香、私、あなたと最後に一緒に歌えて、本当に最高だった」
「私もです……って、え?最後?」
それってどういう、という続きの言葉が紡がれるよりも前に、
「花霞」
春香の意識は、そこで途切れた。
二度と目覚めることなく、永遠に。
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『魔鏡技!スタック・オーバーレイ!!』
『イクス———————っ!!』
愛しの彼は、自らの身を犠牲にし、結晶の中に閉じ込められた。
あの日以来、ミリーナは彼を救うことだけを考えて生きてきた。
例えそれが…世界を滅ぼす結果を齎そうとも。
「殺した…春香を」
動かなくなった春香の遺体を見つめながら、ミリーナはつぶやく。
自分は今、たった今、殺した。
かけがえのない仲間だった少女を。
春香の方は知らなかったとか、そんなことは関係ない。
自分は…殺したのだ。
「これでもう…後戻りはできない」
ミリーナは当初、優勝を目指していた。
目的はもちろん…幼馴染であり愛しの存在であるイクスを救うため。
だが、最初に会ったのはよりにもよって知り合いだった。
故に、揺らいでしまった。
「ありがとう春香…あなたのおかげで、覚悟を決めることができた。全てを犠牲にしてでも…イクスを助ける覚悟が」
『Mr.Right』
あれは、大切なイクスを想って作った歌。
それを、春香と一緒に歌ったことで彼女から元気をもらって、おかげで心の底から声を出して歌うことができた。
だから、覚悟を決めることができた。
「本当にありがとう、春香」
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ミリーナは、春香のデイバックを確認する。
そして…そこで見つけた。
彼女のよく知る物を。
「これは…魔鏡」
ミリーナが見つけたもの、それは魔鏡と呼ばれる鏡だった。
魔鏡とは、魔鏡技と呼ばれる、いわゆる必殺技を使えるようになる鏡だった。
別の世界を例に挙げれば、ポケモン世界でいうZ技、クラウド達の世界でいうリミット技みたいなものだ。
「しかもこれは…私の魔鏡」
実はミリーナには、自身の魔鏡が一つ支給されていた。
しかし、春香のデイバックにはそれとは別の、ミリーナ用魔鏡があったのだ。
これでミリーナは、魔鏡技を2種類使うことができる。
しかし…
「これは…いらない」
ミリーナは、その魔鏡を地面に落として叩き割ってしまった。
「この魔鏡技を私が使うなんて…そんなの、許されない!」
春香に支給されていた魔鏡。
それは『Ex-clipse ボーカル』
『Mr.Right』のバンドを成功させたことにより具現化された魔鏡だった。
「春香を!アイドルを!歌を!殺した私が、この魔鏡を使うわけには、いかない!」
そう叫びながら、ミリーナはその場に泣き崩れた。
ごめんなさい、ごめんなさいと、春香の亡骸に向けて謝りながら。
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ミリーナは、芸能事務所を後にした。
その顔には、もう涙はない。
「私はもう迷わない」
イクスを救うため、この場にいる者たちを殺す。
たとえどれだけその手が血で穢れようとも。
たとえ相手が仲間であっても。
もう彼女は迷わない。
「世界だって滅びても構わない。それが、「私」なのよ」
【天海春香@THE IDOLM@STER 死亡】
【残り66名】
【D-2/765プロ付近/一日目 深夜】
【ミリーナ・ヴァイス@テイルズ オブ ザ レイズ】
[状態]:健康
[装備]:魔鏡「決意、あらたに」@テイルズ オブ ザ レイズ
[道具]:基本支給品×2、不明支給品0~2、春香の不明支給品0~2
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する
1.他の参加者を探し、殺す
※参戦時期は第2部冒頭、一人でイクスを救おうとしていた最中です。
※魔鏡技以外の技は、ルミナスサークル以外は使用可能です。
【魔鏡「決意、あらたに」@テイルズ オブ ザ レイズ】
ミリーナに支給された支給品。
魔鏡技「幻夢断鏡闇」を使えるようになる。
原作ではミリーナ専用だが、この場で他の参加者が使えるかどうかは不明。
【魔鏡「Ex-clipse ボーカル」@テイルズ オブ ザ レイズ】
春香に支給された支給品。
魔鏡技「ハーモニー・エウロギア」を使えるようになるが、ミリーナ自身の手で破壊されてしまった。
最終更新:2019年09月26日 11:51