目覚め/wake up girls! ◆PatdvIjTFg
◇
輿水幸子はいつもよりも早く起きた。
朝というには早過ぎる時間、無性に眠れなくてこの時間帯まで起きていたことはある。
しかし、この時間に起きたことはない。
今日の新聞さえ未だ届いていない、と思うと何故か世界に自分だけしかいないような錯覚に囚われた。
当然、そんなことはない。
「おはよう、サチコ」
幸子よりも部屋の主然として、彼女のサーヴァント――
クリシュナが、サチコの学習机に(椅子ではなく)腰掛けて多機能携帯電話をいじっている。
「……お早うございます、クリエーターさん。で、これが何か説明して欲しいんですが」
「説明しろって、どれから?」
まず幸子は未だ自分が夢の中にいるのではないかと疑い、クリシュナの頬をつねろうとして逆につねり返された、痛い。夢ではない。
そして、再び周囲を見回す。
まず、自分の部屋の大きさが変わっている。明らかに昨日よりも二倍、三倍も大きい。
タンス、本棚、棚、お気に入りの小物、カワイイぬいぐるみ。明らかに数が減っている。というか、ベッドと学習机以外の元から部屋にあった家具が消滅している。
部屋の中で時代劇の中でしか見たことのないような、江戸時代の町人(幸子にはそれが侍なのか商人なのかよく区別がつかなかった)が部屋の中でぐるぐると回っている。
そして、クリシュナが触っているのは幸子の多機能携帯電話だ。
「えーっと……」
今のボクには理解できない。
「そりゃ目の前にある現実なんて受け入れない方が、お幸せに暮らしていけるけどさ。
一応、僕のマスターなんだから、もうちょいシャキッとしようよ。だから昼休みに学年の違うお友達と集まることになるんだよ」
「……………………………………………………友だちが一人もいなさそうなクリエーターさんよりはマシです」
「…………別に、そんなものいらないよ」
相討ちの様であった。
互いが互いの心の触れられたくない部分をおもいっきり、刺しあった。
幸子は、カワイイボクと142'sで集まる時間がとても心地よいものであることを知っていると同時に、そこ以外に居場所が無いことを知っている。
そしてクリシュナは、散々に求めながら、愛を手に入れることのないまま、一世一代の告白が見事に玉砕し、結局のところ一人で死んだことを思い出した。
「やめましょう、ボク達が喧嘩したからって何の得があるっていうんですか」
「そうだねマスター、僕が悪かったよ。ごめん」
「そ、そうやって素直に謝ってくれるのなら、ボクだって広い心で許してあげますよ、クリエーターさん……ボクも、その、ごめんなさい。
えっと……大丈夫ですよ、クリエーターがそうやって素直にいるならカワイイんですから、きっと友だちが出来ますよ」
しかし幸子はここで自分が友達になるとは言わないし、言えない少女である。
「それで、クリエーターさん。えーっと……まず…………ボクの部屋はどうなったんですか?」
「罠に作り替えてる」
「言っている意味がわかりません」
「まあ、簡単に言うと他のマスター……といっても区別する手段は無いから、僕とサチコ以外がこの部屋に入ったら、
起きながらにして夢を見ることになるんだ。幻覚のようなものと思ってくれたほうがいいかな。
それはひたすらトラウマを刺激するものだったり、本当に何の意味のないものだったり、自分の幼年期の記憶を客観的視点で見つめ返すものだったり、
そんな光景を一瞬で叩きつける、相手は圧倒的情報量に苦しめられて……
まぁ、サーヴァントは無理だと思うけど、マスターぐらいなら混乱、発狂、頑張れば自殺……は無理かなぁ?
といっても、所詮夢だから……強く気持ちを保たれたらどうにもならないんだけどさ」
クリシュナの言葉に、幸子は俯いて唇を噛み締めた。
わかっていたことだ、自分は今聖杯戦争――殺し合いの中にいる、だからクリシュナも勝利のために最善を尽くす。
しかし、それが幸子にはどうしても受け入れられなかった。
「……やめてください」
「悪いけど、やめない」
幸子の拒絶の言葉に、しかしクリシュナもまた。止まる気などは無い。
「サチコのためにやってるだなんて言う気はないし、別に聖杯も欲しいわけじゃないけどさ、
ただ……負けるのは大嫌いなんだよね。
ねぇ、サチコは目の前で父親のような人を殺されたことある?奴隷として売られたことは?
好きな人が自分じゃない仲間を引き連れて楽しく旅をしているのを見た?
辛いことがある度に思ったよ、世界中の皆が――僕を嫌っている。
ねぇ、サチコ……きみ、なんでそんなに自分のことをカワイイって言わなきゃいけないのさ?」
淀みなく吐き出される言葉、想像したこともない目の前のサーヴァントの闇。
それが幸子にはどうしようもなく恐ろしい。
ライブ前でも感じたことのないような緊張感――喉が渇く。
「ボ、ボクがカワイイからです……ボクがカワイイからカワイイって言って、な、何が悪いんですか?」
「サチコがカワイイってのは、見りゃわかるよ」
褒められている――しかし、全く喜ばしくない。
無感情な声、無感動な目、クリシュナが幸子をカワイイと言ったのは、機械的な――無機質な判断。
「なんで、見りゃわかることを一々アピールしなきゃいけないってことを言いたいんだけどさ。
まぁ、自分でも気づいてるでしょ……自分がカワイイことを伝えたい相手がいるんでしょ?」
乳を求める赤子のように――必死で泣き叫ぶようにして、とクリシュナは結んだ。
父親の顔、母親の顔、クラスメイトの顔、教師の顔、ファンの顔、何人もの顔が、幸子の中で、浮かんでは消えた。
最後に残ったのは、自身のプロデューサーの顔だった。
愛されたいんでしょ――と、クリシュナは吐き捨てる様に言った。
幸子は何か返事を返そうとして、何も言葉が出なかった。
「キミは……愛されるために、あるいは嫌われないために……かな、どっちでもいいや。
そうやって、自分の可愛さを世界に訴えかける。
僕は違う、誰も僕を愛さない。それを知っている。
だから、結論は至ってシンプル。
相手が誰であろうとも、勝つ。
見下されたくないし、哀れみを受けたくもない、キミが何を言おうとも僕は敵を殺す」
憎悪、無力感、悲痛――クリシュナが生前に溜め込んだ濁流のような感情の波に曝されて、何かを言おうとして、言葉が出なかった。
次に、想像した。
プロデューサーに出会えなかった自分を、幸子は思い描いた。
それはきっと、泣きたくなるぐらいに悲しいことだった。
「じゃあ、その……特別です!」
輿水幸子はプロデューサーのためのアイドルだった。
自身の可愛さを、親よりも友人よりもファンよりも誰よりも伝えたかったのは、プロデューサーだった。
でも、今目の前に偶像【アイドル】を求めている少女がいる。
だから、一歩だけ歩を進める。
「クリ……シュナさんを、カワイイボクファンクラブの特別会員にしてあげます!特別ですよ?良かったですね、クリシュナさん」
「頭おかしくなった?」
「違いますよ!」
何を言おうか、考えるよりも先に言葉がすらすらと溢れだしていく、
クリシュナの前に立つのは、輿水幸子ではない。
アイドルの輿水幸子だ。当者比10倍の可愛さ。
「ボクはアイドルなんです、それでアイドルっていうのはファンを幸せにするものなんです!
つまり、クリシュナさんがボクのファンになれば、カワイイボクが幸せにしてあげます!簡単な事ですね!」
「理解に苦しむよ」
「殺したり、殺されたり、そんなくだらないことより皆さんがボクのファンになって、
ボクのステージを……いえ、カワイイボクと142'sのステージを見て、幸せになったほうがよっぽど建設的だと思いませんか?」
「思わないけど」
「クリシュナさんはボクのファンになったんですから、そう思うんです!」
「思ったよ」
「ボクはアイドルなので、アイドルとして戦います。そうやって勝ったら、クリシュナさんも満足するでしょう?」
「いや、しないけど」
「……します」
自信に満ちた表情。
自分のサーヴァントに立ち向かうと決めた少女の表情。
輿水幸子の表情。
「クリシュナさんが見下されてきたっていうなら、ボクが頂点まで連れて行きます。
そしたら、クリシュナさんは満足します……カワイイボクのいうことだから、間違いありません!
だから……その創造能力は、ボクのステージや衣装作りに有効活用させてあげますよ?」
「……そう」
気怠げに、頷くとクリシュナは携帯電子端末の標準メール機能から、幸子宛に届いた
ルーラーからのメールを開いた。
フェイト・テスタロッサの捕獲任務。
具体的なことはわからないが、ルーラーに目をつけられるような何かを行ったマスターが既に存在するという証左。
「いきなり危ない人がいるけど、頑張れマスター」
「が、頑張るに決まってるじゃないですか!」
続いてメールに記載されたURLから掲示板に飛び、クリシュナはあるスレッドを開く。
スレッドタイトルは『みんなのアイドル
諸星きらりだにぃ☆』
内容は――
◇
「みんなー、今日も元気に絶望してる?
江ノ島盾子ちゃんだにぃ☆」
意図的に作られた声、特徴の誇張、悪意ある模倣、江ノ島盾子にとって特に意味があるわけではない。ただの遊びだ。
江ノ島盾子は架空のアイドルになりきって遊んでいる。
自室にて机の上のノートパソコンを前に、江ノ島盾子は考える。
といっても、考えるという行為そのものよりも遊びに費やす時間の方が長い。
椅子を目が回るぐらいにぐるぐると回転させ、目を渦巻状に変えながら『にょわああああああ』と叫んでみる。
そんな江ノ島盾子の様子を、彼女のサーヴァント――姫河小雪は、心の底から無感動な様子で見ている。
「あれれ~☆どうしたのランサーちゃん?ランサーちゃんもいっしょにハピハピしないの?」
普段よりも数倍鬱陶しく、ぐいぐいと自身の体を押し付けてくる江ノ島盾子に対し、ランサーは構わない。
構えば、確実に面倒になるというのが一点。
もう一つ、
蜂屋あいについての思考を中断されたくないというのが一点。
蜂屋あいに関して、姫河小雪が――魔法少女スノーホワイトとしての経験で語るのならば、結論はたった一言。邪悪。
正直な事を言うならば、江ノ島盾子との会話の合間に切り込んで、殺してしまいたかった。
あの光景は江ノ島盾子が二人で――あるいは、鏡と会話しているようなものだった。
だが、マスターを――それもあんな少女を攻撃するのは躊躇った、己の心の問題。
江ノ島盾子が令呪を用いて、邪魔をする可能性。
江ノ島盾子と同様に、蜂屋あいの心もまた読めなかったこと。
あの場に姿を見せなかったサーヴァントという要素のために、あの時蜂屋あいを攻撃することは出来なかった。
だが、蜂屋あいもまた、江ノ島盾子と同様に絶対に止めなければならない相手だろう。
江ノ島盾子と蜂屋あいは再会する、その時が勝負だ。
だが、口惜しい。
蜂屋あいを止めても、小学校のあのシステムは結局何時までも動き続けるだろう。
死神様ではなく、死神様を利用したものを正義の名の下に処刑するシステムが。
「ランサーちゃん、無視しないで欲しいにゃあ……あっ、これ違うわ。みくにゃんのファンやめます。舞園さんのファンもやめます。別にファンじゃないけどね」
姫河小雪に無視されながら、江ノ島盾子もまた、考えていた。
江ノ島盾子は昨日、死神様について調査を行いつつ、自身が通う高校で起こった殺人事件について調査を行っていた。
女子高生数人が、まるでバイオレンス格闘漫画の様な殺され方で死亡した事件――十中八九サーヴァントか、人質を取られた超高校級の格闘家の仕業だろう。
もっとも、調査と言ってもそう大したことはしていない。
別に探偵漫画の主人公でも無い以上、江ノ島盾子に真実を突き止める必要はない。
ただ、犯人っぽい誰かをでっち上げるだけでいい。
そして如何にも犯人であるという風に訴えかけて、冤罪ならその絶望を美味しくいただき、有罪ならばいきなりハンデを背負うこととなる。
一方的に吹っ掛けるだけ吹っ掛けられる無責任な立場というのは最高なものだなぁ、と江ノ島盾子は考える。
江ノ島盾子は教室をいくつも回り、欠席している生徒の名前と、それが継続的なものなのか、単発的なものなのかを調べ、
クラスメイトから噂話を聞き出す、死んだ被害者と仲の良かった生徒、あるいは悪かった生徒。
聖杯戦争参加者ならば、クラスメイトを殺して平然とした顔で出席してもおかしくはないだろうし、
むしろ、そちらのほうが怪しまれないために自然ではあるが、人を納得させようというのならば動機と証拠が必要になる。重要なのはそれっぽさだ。
そして、江ノ島盾子は発見する。
殺人事件の後、不登校。
転校生。
良い意味で目立つ容姿。
いじめられっ子。
32000点。
絶望的につまらない少女達の中で、彼女というアイドルはさぞや輝いたことだろう。
それはもう、色んな意味で。
しかし、プロデュースは未だ終わらない。
いや、始まってもいない。
あんな、少女達じゃダメだ。
彼女をプロデュースするのならば、アタシじゃなければならない。
江ノ島盾子が諸星きらりをトップアイドルに導く。
「きらりちゃん?間違ってたら……盾子、誤るにぃ」
謝る気はない。
「……うっし、こんな感じかな」
諸星きらりがアイドルデビューするならば、どんな形が良いだろうか。
散々にイメージトレーニングを重ねて、先程まで江ノ島盾子は自分の想像する架空のアイドル『諸星きらり』に成りきっていた。
うん、このぶっ飛んだキャラクターは中々良いのではないだろうか。
既に諸星きらりには、初日にしてスターダムを駆け上がったフェイト・テスタロッサという強力なアイドルがいる。
生半可なキャラクターじゃ、勝てない。
それにしても、蜂屋あいが許されて、フェイト・テスタロッサに捕獲クエストが出されるとは、一体可愛い顔をしてどれほどのことをやらかしたのだろうか。
「超高校級のギャルのアタシと、あいちゃんと、フェイトちゃんで……うん、凸レーション。
信じていたプロデューサーがアイドルとして敵に回る、中々絶望的なシチュエーションね、きらりちゃん」
信じて送り出した絶望的プロデューサーがフェイトのテスタロッサさんの絶望的調教にドハマリしてファンのアヘ顔ピースビデオレターを送ってくるなんて……
「将来的な展望はさておき、きらりん☆レボリューションしとこーっと」
江ノ島盾子はスリープ状態になっていたノートパソコンを目覚めさせ、あるURLへと飛んだ。
少女聖杯用に用意された掲示板。
今は未だ、何のスレッドも立っていない。
だから、自分が処女を奪う。
スレッドタイトルは『みんなのアイドル 諸星きらりだにぃ☆』
このスレッドは、聖杯戦争にとっては小さな一歩であるが諸星きらりの絶望的なアイドル人生にとっては大きな一歩であると信じて……
ご愛読 ありがとうございました!
◇
結局、
双葉杏は目が冴えて眠れなかった。
今まで未来に対して不安を覚えたことはあまりない、双葉杏はやればできる子で、働かないことを選んでいるだけだからだ。
それでも――今は、聖杯戦争という現実が、双葉杏を押し潰さんとする。
怠惰に対する罰であるように巻き込まれた強制参加のデスゲーム。冗談じゃない。
だから、積極的に不参加を決め込んだ。
いつもどおりの変わらない日常、周りが殺し合おうが関係なく悠々自適のニート生活。
澱の様に沈殿する焦燥感。
このままで良いのか。
いつか誰かがお前を殺しに来る。
だが、どうしろと言うのだ。
サーヴァントは強そうに見えない。
自分も成績優秀でアイドルでニートとはいえ、所詮は一般人。
やらなければならない。
しかし、やるだけ無駄だ。
どうしようもないので、働かない。
「ランサー、ゲームしよ」
寝ているランサーを起こし(ここで、杏にはサーヴァントには睡眠の必要が無いのではないかという疑問が生じたが、
もしランサーの睡眠が趣味ではなく仕様であった場合、非常に恐ろしいので突っ込まないことにした)双葉杏はゲーム機を起動させる。
コントローラーは一つで十分だったはずなのに、対戦がしたければネットで十分だったはずなのに、
アイドルになったから、友達なんてものが出来てしまったから、
だから、この街に連れて来られて、ただのニートに戻っても、この部屋のコントローラーは4つ揃っている。
隣でコントローラーを握る、のんきな顔のサーヴァントを見ていると、少し安心した。
ジョインジョイントキィデデデデザタイムオブレトビューションバトーワンデッサイダデステニーナギッペシペシナギッペシペシハァーンナギッハァーンテンショーヒャクレツナギッカクゴォナギッナギッナギッ
フゥハァナギッゲキリュウニゲキリュウニミヲマカセドウカナギッカクゴーハァーテンショウヒャクレツケンナギッハアアアアキィーンホクトウジョウダンジンケンK.O. イノチハナゲステルモノ
バトートゥーデッサイダデステニー セッカッコーハアアアアキィーン テーレッテーホクトウジョーハガンケンハァーン
FATAL K.O. セメテイタミヲシラズニヤスラカニシヌガヨイ ウィーントキィ (パーフェクト)
「マスター!これクソゲーニャ!いくらなんでもひどすぎるにゃ!」
「ごめん、ゲーム選択間違えた」
結局。NPC2人を交えて、人生ゲームをすることになった。
椀に大量のチョコボーと飴を盛って、家に友達を呼んだみたいにだらだらと。
「ランサー、また車に轢かれたの?」
「なんでゲームの中でまでトラックに負けないといけないのにゃーーー!」
「あ、宝くじ当たった」
「病院にまでトラックが突っ込んでくるとかこのゲームどうかしてるにゃ!!」
「国民ニート栄誉賞授与だってさ」
「ぎゃーーーーとうとう上からトラックが降ってきたにゃーーーーー!!」
クソゲーだ、これ。
「もう食わなきゃやってられないにゃ!」
「待って、私も食べる」
自棄とばかりに、チョコボーを口に放り込んでいく
ジバニャンと、その様子に触発されたのか何となくチョコボーを優先する杏。
最後の一本は、同時に二人の手に握られた。
「ランサー、ここは当然私のものだよね」
「何言ってるのにゃ!マスター相手だからってこのチョコボーは譲れない大切なものにゃ!
っていうかこの前マスターがおれっちのチョコボー食べたんだから、今度はマスターが譲るべきにゃ!」
大岡裁きの様相である。
子を引っ張り合うようにして、二人がチョコボーを引っ張り合っている。
大岡裁きならば先に離した側が勝者になるのだが、チョコボーは痛がらないし、喋りもしないので、純粋にこの大人げのない綱引きに勝利した側がチョコボーを手に入れる。
「はーなーせー」
「こっちの台詞にゃ~!」
ここで、杏に電流走る。
この勢いでチョコボーを引っ張れば、間違いなく袋が裂ける。
袋が裂けて中身のチョコボーが、宙を舞う。
この勝負は、先に空中のチョコボーを口に入れた方が勝つ。
別にそこまで、チョコボーはいらないな。
突如、力を抜いた杏。
ジバニャン側の力だけが過剰反応し、その勢いでジバニャンは三回転し、壁にたたきつけられる。
しかし、チョコボーは死守!ジバニャンはこの不毛な戦いに勝ったのだ。
「勝利の味にゃ!」
「おめでとう、あっ、メール来てた」
満面の笑みでチョコボーを食べるジバニャンを横目に、杏はこの街では誰からも来るはずのないメールの存在に気づく。
不審である、しかしチェックしないわけにもいかないだろう。
杏は多機能携帯電話を起動し、メール画面を開く。
「…………はぁ」
本格的に聖杯戦争とやらが始まったことを知らせる通知と、フェイト・テスタロッサという謎の指名手配犯(杏は間違いなく危険人物であると判断した)
そして、5000円分の電子マネー(これは即時の判断で課金へと用いられた)
どれだけ楽しんでも、どれだけだらけても、現実のほうが杏を追い詰めようと迫ってくる。
寝よう――と、杏は思った。
丸一日寝ていたい。
寝ている間に何もかも、終わっていて欲しい。
掲示板のURLを開く、何か書き込みがあったかを確認した後、杏は何がなんでも眠ろうとするだろう。
「なにこれ……?」
掲示板にあるスレッドはたったひとつだけ、
スレッドタイトルは『みんなのアイドル 諸星きらりだにぃ☆』
◇
1 名前:諸星きらりファンクラブ[] 投稿日:20XX/0X/XX(X) XX:XX:XX ID:ensmjnk0
このスレッドは、早速数人ブチ殺した皆のアイドル諸星きらりちゃんについて語るスレッドだにぃ!
女子高生がトイレで殺された事件については【URL】(このURLは、その殺人事件についてのニュースサイトにつながっていた)
きらりちゃんが犯人っていう証拠は【URL】
(このURLの先のサイトには諸星きらりが被害者にいじめを受けていたこと、殺人事件の翌日から不登校になっていること、転校生であることなど、
諸星きらりがどれほど怪しいか、聖杯戦争参加者と思われるかを訴えるテキストと諸星きらりの顔写真が何枚か載っていた)
みんなもフェイト・テスタロッサちゃんだけじゃなくて、諸星きらりちゃんを応援しよ!ね☆
2 名前:名無しメイデン[] 投稿日:20XX/0X/XX(X) XX:XX:XX ID:ksmzsciO
デマです!きらりさんはそんなことをする人じゃありません!
3 名前:諸星きらりファンクラブ[] 投稿日:20XX/0X/XX(X) XX:XX:XX ID:ensmjnk0
2
4 名前:名無しメイデン[] 投稿日:20XX/0X/XX(X) XX:XX:XX ID:ksmzsciO
やめてください!怒りますよ!
◇
輿水幸子は激怒し、クリシュナは冷ややかな視線でそれを見た。
「きらりさんは……アイドルなんです」
それはアイドルという存在そのものへの畏敬の念が含まれていた、
真の意味で自分がなれなかったアイドルという存在への、自身が今この街でなろうとするアイドルという存在への。
「とってもカワイイ、素敵な人なんです……」
「ふ~ん」
「ボクはこの人を絶対に許しません」
「別にこの人サチコに許されたいわけでもないと思うけどさ、で?どうするの?やっぱり殺すの?」
「殺さないって言ってるじゃないですか!」
「じゃあ、どうするのさ?」
どうすればいいのだろう、幸子は考えあぐねていた。
いつかは出会うことになるだろうが、少なくともこのスレを立てた人間を探すことは自分にはできない。
しかし、諸星きらりは確実に狙われる。
マスターに関する情報が不足している以上、疑わしき諸星きらりは罰されるだろう。
「きらりさんに会います」
「へぇ」
クリシュナは興味なさげな視線を幸子に向けると、ベッドへと潜り込んだ。
「まぁ、あんまり興味ないけどさ、頑張ってよアイドル活動」
◇
「ちょwwwww釣れたwwwwwwwwwwあwwwwwwwwww」
江ノ島盾子がノートパソコンに向けて声をあげて笑った瞬間、姫河小雪――否、スノーホワイトの拳がノートパソコンを粉砕!
「きらりちゃんは止めるのに、アタシが新しいお友達作ろうとするのは邪魔するの?ランサー」
「……諸星きらりは、正直なところ私もクロだと思います。だから、止めなかっただけのこと」
「ふ~ん、きらりちゃんかわいそ」
「ただ……今のでわかった、もうあなたに通信手段は与えられない」
「へぇ、じゃあ……」
ジャラ、ジャラ、ジャラ、ジャラ、ジャラ、ジャラ
ジャーンジャラジャララ ジャーンジャラジャララ ジャーンジャラジャララ ジャララジャララ
果たして、それを何処に隠していたのだろうか。
江ノ島盾子がスカートをたくし上げれば、大当たりとでも言わん勢いで大量の多機能携帯電話が溢れだす。
「どうぞ、アタシのスマホを好きなだけ壊しなよ」
言われるまでもなく、スノーホワイトは多機能携帯電話を踏み壊して回っている。
「でも……ランサーちゃんはアタシを止められるかな?」
奇術のようにして、突如、江ノ島盾子の右手に新たな多機能携帯電話が現れた。
それを、スノーホワイトは奪い、破壊!
「アタシ、ほら……超高校級のギャルだから。ランサーちゃんの想像以上にスマホ持ってると思うよ」
◇
「きらり……」
この街にきらりがいるとは思っていなかったが、掲示板にきらりが――皆を勇気づけるようなメッセージを書き込むというのは、如何にも彼女がやりそうなことであった。
だから、開いて、心の底から失望して、気分が落ち込んだ。
きらりが――あの誰よりも優しくて、アイドルたらんとした子が、私がだらだらとしている間に、かつても、そして今も悪意を向けられ続けている。
きらりを虐げた人間や、今きらりを追い詰めようとしている人間への怒りよりも、自分自身への失望が勝った。
「ごめん……」
こういう時も、杏にはきらりの笑顔しか思い浮かばない。
何時だって、きらりは笑っていた。
辛さも苦しさも押し殺して――誰よりも繊細なのに、笑顔の仮面を被って。
「ランサー」
「マスター?」
普段と違う声音、真剣味と責任感の混じった声。
それは杏に今、訪れた変化ではなく、昔、きらりが杏に贈った感情だった。
「どうやら、友達に会いに行かないといけないみたいだ」
【C-4/マンション/1日目 早朝】
【輿水幸子@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]健康、怒り
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]中学生のお小遣い程度+5000円分の電子マネー
[思考・状況]
基本行動方針:この聖杯戦争をカワイイボク達で止めてみせる
1.諸星きらりに会う
【クリエーター(クリシュナ)@夜明けの口笛吹き】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:勝つ
1.幸子の言うことは放って、自身の幻想世界を完成させたい
[備考]
※幸子の部屋は現在、クリシュナの幻想世界に作り替えられている途中です。
※完成した際、マスターとサーヴァントに対する精神攻撃として作動します
【D-2/マンション/1日目 早朝】
【江ノ島盾子@ダンガンロンパシリーズ】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]大金+5000円分の電子マネー
[思考・状況]
基本行動方針:絶望を振りまく
1.諸星きらりをプロデュースするために、一度会っておきたい
2.放課後になったら、蜂屋あいと会う
【ランサー(姫河小雪)@魔法少女育成計画】
[状態]健康
[装備]ルーラ
[道具]四次元袋
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針: 出来る限り犠牲を出さずに聖杯戦争を終わらせる。
1.江ノ島盾子と蜂屋あいの再会時に蜂屋あいのサーヴァントを仕留める
【D-3/双葉家/1日目 早朝】
【双葉杏@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]健康、焦燥感
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]高校生にしては大金持ち
[思考・状況]
基本行動方針:なるべく聖杯戦争とは関わりたくなかったが
1.諸星きらりに会う
【ランサー(ジバニャン)@妖怪ウォッチ】
[状態]健康
[装備]のろい札
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:なんとなく頑張る
1.双葉杏に付いて行く
最終更新:2020年06月28日 00:00