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ガール・ミーツ・ジンチョ・ゲーザーズ・ネクロマンス◆EAUCq9p8Q.


「ウィー……アァー……」

  ミズマル・ガジロは社会不適合NPCだった。
  与えられた設定はこうだ。
  もともとはカチグミ・サラリマンだった彼も、ファンド暴走によって起こったサラリマン・ショックの煽りでリストラを受け。
  学生時代センタ試験の勉強しかしてこなかった彼にまともな再就職先など見つかるはずなく。
  慣れない日雇いの仕事を都度こなし、稼いだ金の大半をつぎ込んで明け方まで深酒を煽る。
  それが彼のこなすルーチンだった。

「ンダコラー……ザッケンナ、テメッコッノー……スッゾコラー……フィーヒ!!」

  早朝の道と酒はいい。ガジロはなによりその2つが大好きだった。
  早朝の道は人が少なく、自分のためにこの大きな道があるのだとガジロに錯覚させた。
  酒は、元来肝の小さいガジロの気を大きくし、世界の支配者のような優越感を与えた。
  今この一時だけは、ガジロは現実の、弱くちっぽけな自身を捨てることが出来た。
  帰る途中にマッポに叩かれることもあった。
  飲んでる最中イタマエに店から叩き出される事もあった。
  それでも、世界の支配者たるガジロは、酩酊した早朝の道の上ではいつだって高らかに笑っていた。


  その日もいつもどおり、常軌を逸した量の酒をたしなみ、早朝の道の上をダイミョ・パレードのように闊歩していた。
  世界の支配者のお通りだ。人も、車も、道を開けろ。ここは俺の世界だ。
  ダイミョめいた堂々たる素振りでガジロが朝の道をゆく。
  そうして、いつもどおり商店街のゲートまで辿り着いた。
  大きなフクスケの飾られたこの商店街のゲートに、立ち小便をひっかけるのも、ガジロの日課の一部だった。
  当然、今日も日課をこなそうとする。

「ウィーーー……アァー……」

  チュン、と上から音が聞こえたのは、まるでスズメのさえずりのような音。
  鳥風情が支配者を見下ろすとは何事だ。
  ガジロはぎろりと、仰々しい動きで空を見上げる。
  その時ガジロは見た。
  空から今まさに落ちてこようとしている何かを。

「アイエッ!?」

  慌ててその場から、すっ転ぶように飛びのくガジロ。
  数秒後、ガジロの居た場所の直ぐ側に、バケツをひっくり返したような音を立ててアルミとアクリルの巨大な瓦礫が落ちてきた。
  目を凝らす。それは、商店街の入り口で愛され続けてきたオイナリ・フランチャイズ・レストラン「オイナリ・ベーカリー」の看板だった。
  もう一度、空を見る。もともとその看板があった場所を見上げる。「バイオ・オアゲ製法」「イナリが入ってる」「実際ノークレーム」と書かれていた看板は、三枚まとめて見事に袈裟斬りに切り落とされていた。

  瞬間、ガジロの頭が謎でうめつくされる。しかし、全ての答えは直ぐに分かった。
  ガジロの耳には届いていた。朝の道の王にして世界の支配者たる彼の知らない音たちが。


  チュン、チュン。チュン、チュチュン。亜音速のツバメのついばみのような音。音がするたびに周囲の建物に傷が増えていく。
  音の主は、入り口から5m程の場所に立っているカソックコートの大男。手にはうねるにび色の鎖を携えている。
  どぅるるるるるる。地獄から響くような駆動音。そちらの音の主は、商店街のゲートの上に居た。
  真っ黒いロングコートを着た男が身の丈ほどもあるチェーンソーを、キサマの頭をスイカのようにかち割るぞとばかりに構えていた。
  T字路の交差点、商店街の入り口、道と道の交差するこの場所で、異様な男たちが睨み合う。

「お前はここで殺す、バラバラにする! 俺が!」

  鍔広のウエスタンハットを被った男が、一言叫び握った鎖をやおら引っ張る。
  彼の手元に、二枚のバズソーが集まる。チュン、チュンというのは、あのバズソーの音。
  チェーンソー男は何も言わず、ただチェーンソーの音で答える。どぅるるるるるというのは、あのチェーンソーの音。

  最初に動いたのはバズソーの男だった。雨除けめがけて左のバズソーを全力で放り投げる。
  ぢゅん!と鈍った音が響く。
  ゲートに飾られた巨大フクスケのメタル・マゲが切断され宙を舞う。
  しかしそこにもう当初の獲物は居ない。チェーンソー男はオイナリ・ベーカリーの方へと飛んでいる。
  空中逃亡、実際悪手とばかりに今度は右のバズソーが放たれる。しかしチェーンソー男はその超人的な身体能力でその窮地を切り抜ける。
  オイナリ・ベーカリーの壁を足場にチェーンソー男は三角飛びの要領でバズソーの上空を飛び越え、そのままチェーンソーを振りかぶってバズソーの男に肉薄したのだ。

  しかし、バズソーの男もかなりの腕前。
  既に引き戻して手に構えていた一投目の左のバズソーで、はるか上空からのチェーンソーの一撃を受け止め、切り結ぶ。

  「イヤーッ!」。一合。チュンチュン、どぅるるる。右からのチェーンソーの一撃を左のバズソーが弾く!
  「イヤーッ!」。二合。チュンチュン、どぅるるる。左からのチェーンソーの一撃を左のバズソーが弾く!
  「イヤーッ!」。三合。チュンチュン、どぅるるる。右からのチェーンソーの一撃を左のバズソーが弾く!
  「イヤーッ!」。四合。チュンチュン、どぅるるる。左からのチェーンソーの一撃を左のバズソーが弾く!
  「イヤーッ!」。五合。チュンチュン、どぅるるる。右からのチェーンソーの一撃を左のバズソーが弾く!
  「イヤーッ!」。六合。チュンチュン、どぅるるる。左からのチェーンソーの一撃を左のバズソーが弾く!
  「イヤーッ!」。今度は続かない。カラテの込められた右のバズソーがぐるりと輪を描くようにチェーンソー男を背後から襲撃。
  チェーンソー男は超人的直感から攻撃を察知して身をかがめ、背後のバズソーを避け、そのまま地面に敷かれたアスファルトをぎゃりぎゃり削りながら掬い上げるようにチェーンソーで斬りつける。

  そこから更に一合、二合、三合。切り結ぶ、切り結ぶ、切り結ぶ。
  四合目、上段からかち割るように振り下ろされるチェーンソーを、一対のバズソーが受け止める。
  ぎゃんぎゅあんぎゃんぎゃんという不協和音を立てながら鋼と鋼がぶつかり合う。

  二人の男の突然の戦闘を立ちすくみ見ていたガジロに、不意に子どもの頃の記憶が蘇った。
  『それ』はどこからともなく現れ、超人的な身体能力で戦い、任務が終われば煙のように消えていく。
  幼い日には、男ならば、誰もが憧れたヒーロー像。いつしか憧れられなくなる影のヒーロー。

  これは、これは、もしかしなくても『あれ』なんじゃないか。
  ごきゅりと生唾を飲む。生唾を飲んだというのに、ガジロの喉はまるでカンパン・スナックを袋ごと丸呑みした後のように乾いていた。
  片方の男は、自分の手足のようにバズソーを振り回している。その上まるでスリケンめいた投擲をしている。
  もう片方の男は、人間離れした身体能力で壁を蹴り、地を割り、狂乱したようにチェーンソーを振り回す。
  その立ち回り。
  その身体能力。


  もしや、この二人は……
                 ……
                     ……『ニンジャ』なのでは?


  その答えに到達した瞬間、ガジロの緩んでいた膀胱はその役割を即座に放棄!当然失禁!
  ニューロンが条件反射のようにその信号を脳から全身へと駆け巡らせる。
  そして、その悲鳴が、遺伝子に刻まれた叫びが、当然のように口から飛び出した。


「アイエエエエエエエエエエエエ!!? ニンジャ、ニンジャナンデ!!?」


  ガジロの叫び声が、穏やかな朝の空気を切り裂いた。


        ◆ガール・ミーツ・ジンチョ・ゲーザーズ・ネクロマンス◆


―――


  ブーン、ブンブン。
  ブンブン、ブーン。
  ブーン、ブーン、ブブブブブブブ……

  クラシカルなエンジン音を静かな朝の街に轟かせ、郵便バイクが走り去る。
  その音で、少女・雪崎絵理は目を覚ました。
  時計を確認する。時刻は五時中頃を指している。
  いつもより一時間以上もはやく目を覚ましてしまった。
  夜に備えてもう少し寝ようと横になったが、意識は既に覚醒しきっている。いくら横になったまま目を瞑ろうとただ無為に時間が過ぎていくだけだった。
  こうなってしまっては仕方がない。
  絵理は少しだけ不機嫌そう眉をしかめると、身体を起こしてキッチンダイニングの方へ向かった。


  いつも通り、誰もいない広い家の中。
  四人でも少し広かった、一人ではとても広すぎる家。
  コーヒーを淹れ、朝食を作りながら考える。

  はやく起きてしまった理由に、絵理はぼんやりとだが心当たりがあった。
  起きた時から、正確には寝ている間から胸に何かもやもやとした何かが居座っている。
  あまり心地の良いものではない。
  不安というべきか。虫の知らせというべきか。
  それとも超科学的に予知とでもいうべきか。
  そんな、よく分からない『予感』があった。
  この『予感』が何を表すものかも分からない。
  吉兆なのか、不吉なのか、それとも単なる気のせいか。
  ただ、そんなもやもやが残り続けるのが不快だということだけは、十分すぎるほど理解できた。


  絵理は、手早く朝食を済ませると、少しだけ身だしなみを整えて。
  どうせ家にいてもやることなんてなにもないから(勉強をしなければならないが、それは今は別問題)。
  少し散歩でもして胸のうちにとどまり続けているそのもやもやを晴らすきっかけにでもなれば、と思い。
  胸のうちに宿った『なにか』に導かれるように、そのまま家を出た。

――――


  朝の街は、特別だ。
  薄暗さの残る道を歩きながら絵理はそう思った。
  昼や夜の活気は嘘のように静まり返り、明かりもついておらず、人の気配を感じない。
  薄いもやの立ち込める早朝の街は、不気味なものだ。

  ふらふらとどこを目指すともなく、時間つぶしに歩いていると、気がつけば商店街の前まで来ていた。
  (地図上ではC-2に位置する)商店街。
  いつもは活気にあふれているが、やはり時間が時間だからか、その面影は一切ない。
  どこもかしこもシャッターがしまっており、まるでゴーストタウンのようなおどろおどろしさがある。
  特に、絵理の居る入り口側は、ゲートに飾られている巨大な福助人形のミスマッチさも相まって、

  一歩踏み込む。
  こつり、というローファーがタイルを踏み鳴らす音が、やけに大きく響いた。
  そのままなんともなしに、こつり、こつりと進んでいく。

  商店街も中程に差し迫った時、ちょうど向こう側から歩いてくる少女に気づいた。
  金髪で片目を隠した、背の低い(140cmくらいだろうか)少女。
  誰かと話しているように、時折誰もいない空間を見ながら微笑む。
  見えないものが見えているのだろうか。
  こんな時間に徘徊するくらいだし、あまり良い素性の人物ではないのかもしれない。
  もしかしたら、実際に見えないものが見えるようになる何かを摂取しているのかも。
  そこまで考え、小さく頭を振った。
  この時間に徘徊するのが素性の悪い人間だというなら、絵理もその条件に当てはまってしまう。
  それに、あまりじろじろ眺めすぎるのもよくない。

  そう思うのだが、目が追ってしまう。少女の姿を……正確には、少女の見つめる先を。
  少女に近づく度に、胸の中のもやもや強くなる。

(……本当に、何かが、居る?)

  すれ違うかどうかのその瞬間。
  不意に絵理は、そんな確信めいた感覚に襲われた。

  そうして、その感覚に気づいた瞬間。
  絵理の背後から、どるん、と音が響いた。







  どるん。






  響く唸り声。





  どるん、どるん。





  地獄の底から『あいつ』が追ってくる靴音が聞こえる。





  絵理は慌てて時計を確認する。
  時間は朝六時を回ったところ。絵理の知る『あいつ』が来るわけない。
  だが、この『予感』は。
  そうだ、この『予感』は。
  起きた時から胸中でひしめいているこのもやもやとした『予感』は。
  気づいてみれば、『あいつ』が来る場所が唐突に分かる時の直感とよく似ている気がする。

「あ、え……わっ……」

  すれ違おうとしていた金髪の少女が立ち止まる。
  口元を押さえ、目を見開いている。
  絵理は嫌な予感を打ち消すために、ゆっくり、ゆっくりと振り返る。

  どるるん。
  どるるん。
  どぉるるるるるるるるるる―――――

  道の向こう。
  朝もやの奥。

  非現実的なムードの立ち込める朝の商店街に。
  まるで陳腐なパニック映画のワンシーンのように。

  そいつは立っていた。

  「オセンベ」「そでん本舗」「和三盆」「ナスビー重点」「那珂ちゃんヤッター!」。
  数々の看板の向こうから、数々の看板を通り過ぎ、その男が駆けてくる。

  見間違うはずがない。その姿、そのチェーンソー。間違いなく『チェーンソー男』だ。
  だが、何故朝に。
  襲撃時間は完全に把握しきっており、それ以外の時間に出てくる例外なんてなかった。
  一瞬混乱した頭を深呼吸で落ち着かせ、走ってきているチェーンソー男と向き合う。なんでもいい。出てきたならば戦う。
  そうしなければ、もし逃げたりすれば、すぐそこに居る見ず知らずの少女が犠牲になってしまう。
  もう、『悪』なんかの身勝手で何かを奪われるのはこりごりだ。
  考えるのは後でいい。今は戦う。戦って、奴を倒すだけ。
  絵理はすぐさま臨戦態勢に入った。
  チェーンソー男は人間離れした速さで絵理へと駆け寄りながらチェーンソーを振りかぶる。
  絵理は振り下ろされるチェーンソーの軌道から半身を躱し、逆に一歩を踏み込んだ。

  通常の女子高生ならば自ら死地に飛び込むようだが、絵理は違う。
  彼とはじめて出会った時に、何故か常人離れした―――それこそ、目の前のチェーンソー男とも戦えるくらいの戦闘能力を手に入れていた。
  『チェーンソー男と戦うためのもの』と彼女が呼ぶ、正体不明の力。
  その力の全てを持って、チェーンソー男と戦う。それが絵理の青春の一ページ。


  踏み込んできた絵理に対し、チェーンソー男はスイッチを切り替えたように機敏にチェーンソーで逆袈裟に斬り上げる。
  しかし、その一撃も絵理を傷つけるには至らない。
  そもそもチェーンソーの一撃は大振りだ。常人離れした動体視力と運動神経を得た絵理には避けることなど造作も無い。
  絵理が身をかがめれば、彼女の頭上を悪魔の足音が通り過ぎる。
  思い切り振りぬかれたチェーンソーの二撃目。
  それを避ければ、絵理の眼前に男のがら空きの左わき腹が晒される。
  その必勝のチャンスを見逃さず、絵理はいつもどおりにトドメを刺しにかかった。
  いつものようにナイフを投げようとし……そこで、ようやく失態に気づいた。
  ない。
  あるべき場所にナイフが、一本もない。
  それもそのはず、今は朝。
  戦闘の可能性がある夜ならまだしも、全く想定していなかったこの遭遇、ナイフを携帯しているわけがない。
  だって、敵も居ないのにナイフを肌身離さず持ち歩いていたら完全に変質者だ。
  良識ある絵理が、そんな物騒なことをするわけがない。

  気づいた時にはもう遅い。
  男は振りぬいたチェーンソーをそのままに、今度はチェーンソーではなく、チェーンソーを振った勢いで助走のついた脚で絵理に攻撃を加える。
  すかさず腕を顎の前でガードするが、失態とそれに伴う一瞬の混乱のせいでガードが甘い。
  チェーンソー男の蹴りが絵理のガードの上から突き刺さる。
  絵理は後方へ1mほど吹き飛び、さらに1mほど地面を転がり、閉店中の店のシャッターにしたたかに背中と頭を叩きつけられた。
  天地が真逆になったような衝撃。脳をだいぶ揺さぶられたらしく、頭痛と吐き気が止まらない。

  どるるるるるるる、どぅおるるるるる。
  ぐわんぐわんと揺れている頭に、唸るようなエンジン音がどろどろに溶けて染みこんでくる。
  はやく体勢をたてなおさなければという心とは裏腹に、腕はがくがくと震えているし足元はおぼつかない。

「だ、駄目っ……!」

  誰かの声が響く。
  その場に居たのはチェーンソー男と絵理と見知らぬ少女の三人だけ。
  ならばその声は当然少女のもの。
  焦点が定まらずいまだぼやけた視界でなんとか目を凝らせば、少女がチェーンソー男に抱きついている。
  その光景を見た瞬間、絵理は叫んでいた。

「逃げて!」

  叫んでから理解が追いついた。
  そうだった。
  いつだってチェーンソー男は、『邪魔する奴を殺しにかかった』。
  絵理以外は殺さないような殊勝な精神の持ち主ではない。
  絵理と山本と二人で戦っている時もそうだ。山本が横から一脚で応戦すれば、決まって奴は山本の方に矛先を向けた。
  近くに居るやつを殺す。邪魔するやつを殺す。
  ならば当然、あの見ず知らずの少女だって対象になる。

「逃げて! はやく!!」

  絶叫虚しく、チェーンソー男が金髪の少女を突き飛ばす。
  小さな少女は抗うこともできず、ころん、とこけてしまう。
  どるるん、どるるん。
  朝もやの中でひときわ強くチェーンソーが煌めく。
  少女がひ、と小さく息を呑む。
  動かなければと心は焦るが、痛みと眩みで身体が言うことを聞かない。

  絵理の焦燥どこ吹く風と、ゆっくりとチェーンソーが振り上げられ、そして―――

  ―――チェーンソーは振り下ろされない。
  空中で止まったまま、どぅるるるるるると刃を空回しし続ける。

「てめェはなンだ」

  なぜなら、万力めいた力でチェーンソー男の振り上げた腕が押さえつけられているから。

「なんのつもりだ」

  ぐるりとのっぺらぼうな顔が後ろを向く。
  チェーンソー男と、『そいつ』が顔を合わせる。

「俺のマスターを襲うってことは、てめェがそうか。サーヴァントか」

  チェーンソー男のがら空きの脇腹に乱入者の蹴りが突き刺さる。ネクロカラテの一撃だ。
  チェーンソー男は、それまでの凶行が嘘のように、タンブルウィードめいてごろごろと商店街の舗装道路を転がっていく。
  蹴りの衝撃で乱入者の肋骨の下あたりから、アルコールと内臓の破片らしき腐肉がぶちまけられる。すえたような酷い臭いが立ち込める。

「ヨタモノやヤクザじゃなくサーヴァントか? てめェの、魔力の、この感覚が! そうか、てめェが!!」

  男の袖口からじゃらりと音を立ててにび色の丸鋸が飛び出す。
  左右一対の鎖付きバズソー。それこそが男の獲物。敵へと向ける必殺の武器。

「俺は!!」

  バズソーが放たれる。狙いは違わず、チェーンソー男の腹部と胸部。
  放たれたバズソーにカラテが注ぎ込まれ、音を立てて高速回転を始める。これが直撃すれば大怪我では済まない。
  しかしチェーンソー男は身を捩り、バズソーは男の脇腹を掠めるだけにとどまった。
  チェーンソーが乱入者を威嚇するように低く駆動音をあげる。標的が、三度切り替わる。

「ドーモ、ジェノサイドです! 無視し続けるつもりか!! エエ!? ナメやがって、俺は、俺はジェノサイドだ!!!」

「バーサーカー、さん……?」

  少女がその名を口にする。
  その男。そのサーヴァント。
  鍔広のウエスタンハット。彼ほどの巨体でなければ裾を擦るだろうサイズのカソックコート。
  目には緑の光を称え、包帯でその皮膚のすべてを隠す。真名を隠すこともなく、狂乱に狂乱を持って斬りかかる。
  バーサーカー、『ジェノサイド』。狂戦士のエントリーだ。

「イヤーッ!」

  ジェノサイドが握った鎖をウワバミのように波打たせる。その波に合わせてバズソーが踊り、跳ね回る。
  タンコ・ブシめいた複雑怪奇な動きでバズソーはチェーンソー男を襲撃。
  しかしチェーンソー男は襲い来るバズソーを、あるいは弾き、あるいはくぐり、あるいは飛び、全て超人的な身体能力で回避。ワザマエ!
  ぢゅんぢゅんと嫌な音を立てながら商店街の建物に無数の傷が刻まれていく。

  激しい鋸同士の応酬が続く。
  優勢に立っているのはジェノサイドだ。
  最初は商店街中程で出会った二人だったが、ジェノサイド側がじりじりと押し返し、今はもう絵理たちからはだいぶ遠くまで離れている。
  二人の距離も既に5mは離れたが、それでもお互いの戦意は失せず、互いの動向を探り続けている。
  どぅるるるるるるる、どるるるるるんるん!
  チェーンソーの音はやまない。まだ獲物を狙っている。戦意を見せながらもバズソーの射程距離外へと逃れている。

  その様子を見て今度はジェノサイドが、重機関車めいた突撃を繰り出す。両手にバズソーを持ち突撃するさまは、まさに殺人列車。
  そして、鎖の範囲に再びチェーンソー男をとらえた時、両者が動く。

「ゼツメツ!!!」

  バズソーが、朝もやを切り裂き、チェーンソー男を追う。チェーンソー男は真正面から受けて立ち、その膂力でバズソーを弾き飛ばした。
  弾かれたバズソーは商店街入り口付近の3つ連なった看板を全部まとめてぶった切る。
  ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり、きゃりきゃりきゃり。
  間髪入れずの二枚目のバズソーが、アスファルトを削りながら地を這うような超低空でチェーンソー男に迫る。狙いは脚部、大振りなチェーンソーでの防御が難しく、そして当たれば実際痛い場所。
  チェーンソー男は、一投目を弾いた後でバランスもままならぬ身体を無理やり引き起こし、そのままムーンサルトの要領で高く、高く飛び上がり、商店街の入り口を飾るゲートの上に着地した。
  足を狙われぬようにするならば、足場より下にさらなる空間を作るか、足を狙えぬほどに肉薄するかだ。それをチェーンソー男は誰に言われるでもなく知っていたのだ。

  チェーンソー男がゲートの上に陣取ると同時に響くのは、小さな悲鳴とけたたましい破砕音。

「アイエッ!?」

  こうして、物語は冒頭へとつながる。

◆◆◆◆

  ガジロは、濡れそぼった股間を抑えながら、勝負の行く末を見守っていた。
  いや、見守っていたというのは正しくない。
  『勝負が付く前に動けば自分が死ぬ』と半ば予知めいた直感に従い、その場でただ、救いの時が来るのを待っていた。

  ガジロは心の中で叫んだ。

  酒なんかこりごりだ!朝の道なんて歩きたくない!
  酒もやめる!朝帰りもやめる!まじめに働く!
  貯金して、老後の幸せのために使おう!生きてるだけで十分だ!
  世界の支配者なんて馬鹿げた夢を見るのはもうやめだ!
  とにかく、こんな危険な場所になんていられない!そうだ、キョートに行こう!
  キョートは古めかしい都市!マイコが踊ってヤツハシが空を飛ぶ!刀は全部おみやげ!実際安全!
  キョートへ行ってインスタント・ブディストになろう!たるんだ精神を叩きなおし、社会に帰ろう!
  ジンリキシャーを引いてテンプル・ツアーのリキシャーガイドになるんだ!
  だからどうか!ああどうか!ブッダよ!私をお救いください!!



  閑話休題。



  哀れな男の刹那程の神への祈りが終われば、現実が再び流れだす。
  ギャリギャリと回り続ける鋸とカラテを流した鋸でつばぜり合いをしていた二名が動く。

「イヤー!」

  動いたのはジェノサイド、両手に携えたバズソーでチェーンソーをいなしながら放つのは、ネクロカラテによる蹴りの一撃。
  ヤクザキックめいたその一撃を、今度はチェーンソー男の腹めがけてぶちかます。
  単調な蹴りを何度も受けるほどチェーンソー男も甘くない。組み合っていた三枚の鋸を振り払い、大きく後ろに跳躍。
  だが、ジェノサイドは既にその回避を読みきっている。

「イヤー!!」

  右のバズソーを、右のバズソーの鎖を大きく振り上げる。
  じゃりん。
  鎖の揺れる音とともにチェーンソー男の跳躍が止まる。チェーンソー男の背にぶつかったのは、バズソーの鎖。
  ジェノサイドはフクスケのマゲを切り捨てたバズソーを回収する際、大きく弧を描くように自身の元へ引き戻していた。
  当然鎖はチェーンソー男の背後に残ったままである。弛んでいた鎖を引き上げれば、そのままそれが逃亡を阻害する障壁と化す。
  チェーンソー男は哀れにも蜘蛛の巣に捕らえられた虫のように空中で一瞬磔に。これが勝敗を分けた!

「イヤー!!!」

  左のバズソーが宙を舞う!
  ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ。
  骨が削れる音が、朝もや立ち込める商店街に響き渡る。
  バースデーケーキよろしく頭をバズソーで切断されたチェーンソー男は、そのまま魂が抜けたように自由落下。
  狂戦士同士の勝負は、ジェノサイドに軍配が上がった。


  糸が切れたジョルリ人形よろしく地に伏したチェーンソー男を見ながら、ジェノサイドは訝しんだ。
  サーヴァントも、出血はするはず。
  なのに、頭をかち割られたというのに血の一滴脳の一欠片もこぼさず、ただ倒れるだけというのはどういうことだ。
  消滅する様子もない。ということは、何か裏があるはず。何かの罠か。誘っているのか。
  どうでもいい、ならば死ぬまで殺すのみとジェノサイドがバズソーを構えた次の瞬間。
  ゼツメツ必至の致命傷を負っていたチェーンソー男が起き上がり、大きく飛び上がった。

  大怪我などとは見てくれのみ。実際ノーダメージめいた動き。
  依然動きに鈍りはない。頭をかち割ったというのに。
  ワイヤーアクションのように高く、高く、ジェノサイドとの戦いでも見せなかったほど高く飛び上がるチェーンソー男
  そして、オイナリ・ベーカリーの屋上に着地し、ジェノサイドを見下ろす。
  ジェノサイドは屋上の方へ跳躍しながらバズソーを投擲。
  するとチェーンソー男はまるで別人のように背を向け、朝もや晴れぬ街の中へと消えていった。

  パッポウ。パッポウ。
  商店街のどこかで鳩が鳴く。
  ぽーぽぽーぽぽー。ぽーぽぽーぽぽー。
  山の向こうでドバトが鳴く。
  ちちち、ちちちち。
  電信柱でスズメが鳴く。

  それが合図。
  勝負の幕引きを示す合図。

  朝が来る。人々が起きだす。朝もやが晴れていく。
  しばらくすれば戦闘で起こったあ様々な音を耳にして、人々が集まりだす。街が活気を取り返していく。
  怪人同士の戦いは、朝が来るまでやってはならない。
  陽の光を浴びるには醜すぎるズンビー。ジェノサイドは振り返り、自身のマスターの無事を確認。
  周囲にサーヴァントの気配がないことを確認すると、しめやかに霊体化。
  バーサーカーアーたるジェノサイドは実体化するだけでマスターへの負担が大きい。
  その上ジェノサイドには重大な『時限爆弾』が仕掛けられている。マスターからの指示がない限り、戦闘以外での実体化は避けるべき案件だ。

  そうして二体の怪人は、朝もやとともに雲散霧消。
  その存在と戦いを、傷跡だけを刻み込み、過ぎ去ったはずの夜へとその身を隠すのであった。

「ア、ア、アバ」

  へたりこんでいたガジロが声を上げる。
  なんとマッポーめいた光景だろう。
  ハットの男のバズソーが煌き、フードの男の頭をフードごと切り裂いた。
  死んだ!と思ったもつかの間、フードの男はすぐに起き上がり、街の中へと消えていった。
  それを見届けたあと、煙のように消えてしまった。

  まるで嵐のように。
  二人の怪人は突如現れ、商店街に消えぬ傷跡とボーズカットのパンク・フクスケだけを残し、忽然と消えた。
  この事実を話して、誰が信じようか。
  チェーンソーのニンジャ、バズソーのニンジャがイクサをしていたなんて荒唐無稽な話。

  だが、そんな夢物語のようななか、歴然とした真実が一つ。
  ガジロは生きている、怪我一つ無い。
  ニンジャが跳梁跋扈し、マゲが飛び、看板が落ちるような戦闘に居合わせながら、無傷で生還。
  それは、信心の浅いガジロにしても、ブッダの救済以外に言いようのない奇跡だった。
  ガジロは慌てて神に向かってドゲザでオジギ。

「ナマダブ、ナマダブ!ホレンゲッキョ!」

  両手をすりあわせ、顔をのぞかせた太陽に平服。そのままバンザイ・スタイルで三礼。
  神の救いはここにあった!神は私を見ていた!
  二人の怪人の両方を消し給うた!実際妙手!アブハチトラズ!

  その後、ガジロはその日のうちに誓い通りキョートへ向かい、キョートでインスタントではなく本格派の信仰逞しいブディストになったが、それはもう聖杯戦争とは関係のない物語である。

【JINCHOUGAZER'S NEKROMANCE】



【JINCHOUGAZER'S NEKROMANCE】

「そ、その……大丈夫……?」

  心配そうに絵理の脇腹を撫でる少女。
  金髪のアシンメトリーヘアーで、小さな貝のような可愛らしい耳に不釣り合いなピアスを付けた少女。
  その少女が、自分を救おうとチェーンソー男に飛びかかった少女だと気づくのに、絵理は数十秒の時間を要した。
  少女に手を引かれ、絵理はなんとか立ち上がる。
  まだ蹴られたところは痛むが、それでも少し前のように前後不覚に陥るほどではない。

「私は大丈夫、あなたの方は平気?」

「う、うん……」

  少女は少し恥ずかしそうに、口元をだるだるの袖で隠しながら照れ笑いを返した。
  その動作は、小さな体躯も相まって小動物のようで可愛い。と、絵理も素直に思うほどだった。
  改めてお礼を言うと、少女は小さく会釈をし、そして何事かに気づいたようにきょろきょろと周囲を見回し始めた。
  そのうちに少女は道の端に転がっていた瓶を見つけ、駆け寄って拾い上げると、またまたきょろきょろと周囲を見回し始める。
  どうやら先ほど突き飛ばされた時に何かを落としたらしいということが、遠目に見ても分かった。

  助けてもらった恩がある。それに、ここで無言で立ち去れるような性格はしていない。絵理はわりとお人よしな少女なのだ。
  絵理も周囲を見回し、ちょうど絵理の左にある立て看板の足元に同じような瓶が転がっているの見つけた。

「ねえ、これじゃない?」

  少女に声をかけ、瓶を拾う。
  そして何気なく瓶のラベルを確認して、どきっとした。
  瓶にはでかでかと20歳未満の摂取を禁ずると書かれている。
  少女が同じものを拾っていた、そしてまだ探している、ということはこれは彼女の持ち物で間違いないだろう。
  ぱたぱたと寄ってきた少女に尋ねる。

「あなた、やっぱり不良?」

「……?」

「お酒の飲める歳じゃないよね」

「……あ……これは、私じゃなくて、バーサーカーさんが飲む物だから……」

  バーサーカーさん。
  この少女は先ほど、あのカソックコートの男(らしきなにか)をそう呼んでいた。

「あの人は知り合いなの?」

  『あの人』がさすのは当然、ジェノサイドと名乗っていたカソックコートにウエスタンハットの大男。絵理と少女の命の恩人である彼だ。
  少女は少し戸惑ったような素振りをみせ、おずおずと答えた。

「……う、うん……」

  短い返事。
  それ以外は何も語らない。
  カップ酒を少女に手渡すと、少女はオーバーオールの腹部にあるポケットに酒をしまった。
  そして、無言のままどちらともなく歩き出す。傷の刻まれた入口側ではなく、出口の方に向かって。
  商店街の出口ゲートが見えてきたあたりで、今度は少女のほうが口を開いた。

「あ、あの人……チェーンソーの……あの人、知ってるの……?」

  今度は少女の方から、絵理に話しかけてきた。
  『チェーンソーの人』というのは間違いなく、チェーンソー男のことだろう。
  でも、話すべきか。
  できれば話したいことではない。
  チェーンソー男の説明をするならば、どうしても絵理の心の傷を曝け出す事になってしまう。
  なおかつ、あの男の存在全てがあまりにも荒唐無稽すぎる。そのまま話して信じてもらえる話だとは思わない。

  だが、彼女も被害者だ。絵理の想い人である山本の言葉を借りるなら少女も『被害者』であり『知る権利はある』。
  それに、彼女が(正確には彼女がバーサーカーさんと呼んでいる男が)居なければ絵理は死んでいた。
  そして、突然変わってしまったチェーンソー男について、情報を整理するいい機会にもなるだろう。
  そう結論づけて、折衷案として自身の生い立ちや彼が現れるに至った経緯をぼかして説明を始めようとしたが。
  まだ自己紹介もしていなかったということを思い出し、定型句で問うた。

「あなた、名前は?」

  少女は少し黙ると、消え入りそうな小さな声でこう答えた。

「わ、私……白坂小梅、です」

「白坂さん、ね。私は雪崎絵理

  その後、年齢などの簡単な自己紹介を済ませ、絵理はいつかのようにこう切り出した。
  『白坂さん、笑わないでよ』と。

◆◆◆◆

  雪崎絵理と共に歩きながら、白坂小梅は考えていた。


  小梅が商店街を通りかかったのは完全に偶然だ。
  ジェノサイド用の酒を買いに、時間を選んでこっそり外出したのが始まりだった。
  ジェノサイド一人だと怪しまれる、ということで少し離れたコンビニまで二人で行き、お小遣いでワンカップ酒を買い、その帰り道で事件は起こった。
  チェーンソーを持った大男が何故か突然襲いかかってきたのだ。

  そのサーヴァント(小梅にはステータスが見えていたからそれは間違いない)は、彼と戦っていた少女――雪崎絵理によれば『チェーンソー男』というらしい。
  まるでB級のパニック映画のタイトルのような名前のその男。その実態は『世界に悲しみをもたらす悪の怪人』。
  手に持っているチェーンソーで他人を殺しに襲いかかって来る。毎夜毎夜、どこかで、絵理と戦っていたとのこと。
  素敵な設定だ。
  あの『いかにも』な格好に、『いかにも』な武器も素敵だ。
  初対面で見惚れてしまったのも「わぁっ」と感嘆の声が自然と漏れだしたことも仕方ないことだろう。


  でも、絵理が殺されそうになり、このままじゃまずいと慌てて飛びついたが振り払われ、逆にチェーンソーが小梅の方に向けられた時。
  目の前でどるんどるんと音を立てて回転するチェーンソーをつきつけられた時。
  とても恐ろしかった。

  スプラッター映画は好きだけど。
  ショッキングな雑貨は好きだけど。
  『皆』は友達で、大好きだけど。
  ジェノサイドもかけがえのない友人だけど。

  それでも、自分が死ぬのは怖かった。

  あのチェーンソーが振り下ろされたら、小梅が死んでしまったら。
  もう二度と、お父さんにも、お母さんにも、『あの子』にも、ジェノサイドにも会えないのだと。
  そしてもう、幸子にも輝子にも会えなくなるのだと考えると、怖くて、寂しくて、悲しかった。
  わりと気丈な方の彼女が少しだけ涙ぐんでしまうほどに怖かった。


  そういった経緯を踏まえ、白坂小梅は考える。

(バーサーカーさん)

*1

(バーサーカーさんは……サーヴァントを食べなきゃいけないんだよね……?)

  ジェノサイドは黙る。
  そう、これこそが彼に組み込まれた時限爆弾。
  ジェノサイドはズンビーであるがゆえに、他者を……それも他のサーヴァントを捕食しなければ顕現を続けることが不可能なのだ。

  ジェノサイドが小梅を守り続けるためには、戦える状態を維持しなければならない。
  戦える状態を維持するためにはサーヴァントを捕食する必要がある。
  捕食するとなれば、その相手を見つけなければならない。
  その相手を(できれば食べても誰も困らない相手を)見つけるのが彼女ら二人の聖杯戦争の第一の課題だったが、運良くというか運悪くというか、すぐに出会うことが出来た。

(あの人なら……あの、チェーンソーの危ない人だったら……食べても、大丈夫……?)

*2

(……あの人、かっこいいけど……いろんな人に迷惑かけるのは、駄目だから……)

  今が早朝だったから良かったが、もしこれが人の多い昼や夕方だったらどうなっていたか。
  おそらく、あのチェーンソー男はNPCをバッタバッタと切り倒しながらこちらに向かってきただろう。
  そういうのは、映画の中だといいけど、とても素敵だけど、実際にやっちゃいけない。創作と現実は一緒にしてはいけない。
  だって、誰かが悲しむのは、よくないことだから。
  小梅はそう判断し、絵理同様あのチェーンソー男を『倒さなければならない存在である』と認識した。
  そして、『倒さなければならない存在』であるならば『食べてもいいんじゃないか』と論理をつないだ。

「あの……絵理、さん……」

「なに?」

「もっと、お話……聞かせてほしいな。『チェーンソー男』のこと」

  絵理が立ち止まり、小梅を見つめる。
  興味を向けたことを不思議に思っているようだ。
  経緯を説明しようと思い「えっと」と口に出し、そこで一旦口をつぐむ。さすがに直球で『食べるためです』とはいえない。
  そうして、少しだけ黙って考えて、こう続けた。

「……バ、バーサーカーさんが、あの人のこと、気になってるみたい……だから……」

*3

  バーサーカーの溜息が聞こえた気がした。

【C-2/商店街/一日目 早朝】

白坂小梅@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]魔力消費(小)
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]R絵柄の私服、スマートフォン、おさいふ、ワンカップ酒×2
[所持金]裕福な家庭のお小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:幸子たちと思い出を作りたい。
0.死ぬのは、意外と怖い……かも。
1.絵理からチェーンソー男のことを聞きたい。チェーンソー男が他人を襲うのは危険。
2.チェーンソー男を、ジェノサイドに食べさせる……?
[備考]
※霊体化しているサーヴァントが見えるかどうかは不明です。
雪崎絵理を確認しました。彼女がバーサーカーのマスターとは気づいてません。
 バーサーカー(チェーンソー男)を確認しました。彼に関する簡単なこと(悪の怪人ということ・絵理と戦っていること)も理解しました。
※まだ通達を確認していません。


ジェノサイド@ニンジャスレイヤー】
[状態]霊体化、カラテ消費(小)、腐敗進行(軽微)
[装備]鎖付きバズソー
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:コウメを……
0.俺はジェノサイド……
1.チェーンソー男は、コウメを殺そうとしやがった。
2.女(雪崎絵理)はチェーンソー男のことを知ってるのか?
3.次倒したら、チェーンソー男を食うかどうか。
[備考]
※バーサーカー(チェーンソー男)を確認しました。
 バーサーカーの不死性も理解しましたが、ニューロンが腐敗すれば忘れてしまうでしょう。


雪崎絵理@ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ】
[状態]魔力消費(?)、身体に痛み、軽度のショック
[令呪]残り三画
[装備]宝具『死にたがりの青春』
[道具]スマートフォン、私服
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:チェーンソー男を倒す。
0.なんで、明け方からチェーンソー男が……?
1.ついでにナイフを取りに帰る必要がある。
2.小梅と話をする……?
3.チェーンソー男の変化について調べる。
[備考]
※聖杯戦争への理解がどの程度なのかは後続の書き手さんにお任せします。
チェーンソー男の出現に関する変化に気づきました。ただし、条件などについては気づいていません。
※『死にたがりの青春』による運動能力向上には気づいていますが装備していることは知りません。また、この装備によって魔力探知能力が向上していることも知りません。
白坂小梅&バーサーカージェノサイド)を確認しました。真名も聞いています。
※まだ通達を確認していません。


◆◆◆◆

  怪人たちの狂演が終わり。
  少女たちの出会いの物語が終わり。
  いつか。
  どこか。
  その男は居た。
  自身の主の下ではなく、ただどこか、彼を受け入れる場所に居た。
  霊体化中か実体化中かもわからない。
  そこがどこなのかは誰も知らない。
  おそらく、彼自身も知らない。
  彼にはきっと、理性と呼ぶべきものがないから、知ることが出来ない。

  誰が呼んだかチェーンソー男
  その正体は、世界に悲しみをもたらす悪の怪人。


  彼はサーヴァントとして顕現する際に2つの枷を負った。
  それは、他のサーヴァント同様、聖杯戦争をとり行うための基本ルール

  一つ、サーヴァントとして聖杯戦争に参加できるよう、彼が全快の状態でマスターがサーヴァントに近づいた際、彼は実体化して戦闘を開始するというもの。
  チェーンソー男は、聖杯戦争中でも本来のペースでの襲撃を行う。
  夜9時~深夜の間、街のどこかに絵理を誘い出し、彼はいつもの様に戦闘を行うだろう。
  ただし、絵理がサーヴァントの存在を察知した場合、彼女が望む・望まないにかかわらずチェーンソー男は現れ、絵理を襲う。
  これが、彼がサーヴァントとしての職務を全うするために、聖杯によって与えられた枷の一つ。

  もう一つ、致死に至れば再戦までに相応の時間を要するというもの。
  サーヴァントという枠に押し込められたため、その不死性が少々変化した。
  逸話に違わず、彼は一度敗れれば姿をくらます。
  その後、絵理の魔力もしくは自身の魔力を用いて肉体を戦闘可能な状態まで修復しなければならなくなった。
  これが、彼がサーヴァントという枠から逸脱しないように、聖杯によって与えられた枷のもう一つ。


  突如与えられた2つの枷。
  どちらも彼の存在に大きく干渉する枷。
  ただし、2つを合わせてみれば、それが必ずしも彼にとって悪い方へと働くわけではない。
  もし、魔力や傷の深さや遭遇の機会に恵まれたのならば、チェーンソー男は日に5度でも6度でも現れうる、ということだ。
  この枷があったからこそチェーンソー男はサーヴァントとしての顕現を受け入れた。
  そうすればそれだけ、彼は願いを叶えやすくなるから。

  彼の願い。
  それは雪崎絵理の殺害。
  それが彼の存在理由。
  彼は雪崎絵理を殺すためだけに生まれ、そのためだけに動き続ける。
  聖杯戦争参加前も、聖杯戦争中も、ずっと、ずっと。

  そんな彼の願いや存在理由と彼の持つ宝具『死にたがりの青春』が、雪崎絵理に一つの力を授けた。
  それは身体能力の強化に伴った魔力探知能力の向上。
  そもそも絵理は完全な一般人であるため魔力への干渉や察知は不可能。
  だが、『死にたがりの青春』によって、ことサーヴァントの索敵という一点に関してのみ鋭敏な知覚能力を手に入れた。
  絵理は、今後も『チェーンソー男出現の予感』という形でサーヴァントの存在を察知し、彼らに近づくだろう。
  そして、その度にチェーンソー男は願いを叶える機会を得ることになる。

  何度でも蘇り、絵理を殺しに行く。
  何度でも、何度でも、何度でも、死ぬまで殺しに行く。
  あの不気味なエンジン音と共に、彼女を殺しに行く。
  どんな時でも殺しに行く。
  地の果てまで追いかけて殺しに行く。

  チェーンソー男は、聖杯戦争の舞台で、2つの枷を背負ったことで更なる怪物として生まれ変わった。


  いつか。
  どこか。
  霊体化中なのか。
  実体化しているのか。
  分からない。
  それでも、彼は、どこかで待ち続ける。
  雪崎絵理に『悲しみ』を刻み込むその時を待ち続けている。



【???/???/一日目 早朝】

チェーンソー男@ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ】
[状態]復活までまだ時間が必要
[装備]チェーンソー
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:雪崎絵理の殺害
[備考]
雪崎絵理がマスターだとかそういうことは関係ありません。
※聖杯戦争中、チェーンソー男は夜以外にも絵理がサーヴァントの気配を感じた場合出現し、当然のように絵理を襲います。
 このことには絵理も気づいていません。
※致命傷を受けての撤退後、復活にはある程度の時間を要します。時間はニュアンスです。
白坂小梅&バーサーカージェノサイド)組を確認しました。





[地域備考]
※C-2商店街に小~中規模戦闘の跡が残っています。
 戦闘の直接の目撃者は小梅・絵理・ガジロの三名のみですが、音を聞いた人は居るでしょうし、破壊痕から噂にもなるでしょう。

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008:砂糖菓子の朝はほろ苦い 投下順 010:開幕/きらりん☆レボリューション
時系列順

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000:前夜祭 白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド 019:情報交換
-005:白坂小梅&バーサーカー
000:前夜祭 雪崎絵理&バーサーカー(チェーンソー男 019:情報交換
-004:雪崎絵理&バーサーカー

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最終更新:2020年06月28日 00:05

*1 どうした

*2 ……そうだな。あいつなら、食っても文句は言われねえだろ

*3 ……