ヒトリノ夜 ◆EAUCq9p8Q.
―――
夕日の道。河川敷。
大きな歩幅が一人分。伸びる影は二人分。
「悪いねえ」
上から聞こえるのんびりとした声。
ぶっきらぼうに聞こえるけど、ただただ本当に面倒くさがりなだけで、本当はとっても優しい女の子の声。
アイドルになることが決まったきらりが最初に出会った、優しい女の子の声。
「大丈夫だにぃ☆ きらり、とぉーっても、強い子だから!」
優しい女の子を肩車して、きらりは河川敷を歩いていた。
向かう先は、女の子が今住んでいるという家。
のっしのっしと歩けば歩くだけ、景色が流れていく。
すれ違う散歩中の犬。遠くに聞こえる学校のチャイム。駆けていく小さな子どもたち。
ノスタルジックな光景を二人で眺めながら、ゆっくりと時間が過ぎていく。
流れ行く時間を、他愛のない会話が埋めていく。
出身地のこと。年齢のこと。アイドルを目指した理由のこと。
趣味のこと。特技のこと。好きなもののこと。嫌いなもののこと。うさぎのこと。飴玉のこと。かわいいもののこと。
「あ、ここ。杏の家」
楽しい時間にも終わりが来る。
名残は尽きないが、だからってわがままは言えない。
初めて会った女の子。きらりの勝手で困らせたくはない。
「じゃ」
よいしょと掛け声。もう気持ちを切り替えたと家に向けて歩き出す女の子。
一抹の寂しさを覚えるのは、きらりが彼女を特別視しすぎたせいだろう。
初めて会った人。同じアイドル事務所に入ることになった人。ただそれだけの人でしかない。
きらりが彼女のことをとても素敵だと思っていても、逆がそうだとは限らない。
「続きはまた明日ね」
くるりと振り返り、女の子はそうきらりに言った。
顔は、夕日の逆光でよく見えない。
「ね、きらり」
「なあに、杏ちゃん」
「明日の朝さぁ、迎えに来てよ」
突然の提案。
きらりはどんな顔をしていただろう。
表情を見た女の子は、きらりの表情をどう受け取ったんだろう。
驚きが駆け回る頭の中からなんとか答えを引っ張り出そうとして、少し見つめたまま黙ってしまう。
そんなきらりに、女の子は言った。
「いいじゃんいいじゃん。
だってきらりは、もう―――でしょ?」
聞き取れない言葉。
「杏ちゃん、今……」
きらりが聞き返すと、女の子は眠そうな目のままへらりと笑って。
「だからぁ―――」
―――
「きらりはもう、ひとごろしでしょ」
―――
跳ね起きる。
両手が勝手に胸を押さえる。どくどくとけたたましく鳴る鼓動が両手に伝わって来る。
鼓動の速さに負けないくらいに息も上がっている。起きたばかりなのに全力で走り抜けた後みたいだ。
ぜえぜえという息遣いが耳に染み込むたびに目頭がきゅうと縮んで涙が浮かんでくる。
鼻の奥から目に向かって何かが登ってくる。それもやっぱり、涙だった。
溢れる涙を拭くために顔に触れて、滴る汗に気付いた。どろどろとした、不快感の強い汗だった。
身を起こす。服装は外出した時のままだ。
「……そっか、きらり……」
体の不調に意識が向いて荒れ放題だった頭が、少しずつ現実を取り戻していく。
あの後。
きらりのせいで何もかもを壊してしまった後。
せめて誰にも迷惑をかけないようにと身を隠しながら家に帰り。
どうにもならなかった、どうにも出来なかった現実に打ちひしがれて、泣きぬれて。
そのまま憔悴して寝てしまっていたのだろう。
一眠りして、体の疲れは多少取れていた。でも、事態が好転してくれるわけはなかった。
きらりに残されたのは、孤独と絶望、ただそれだけだった。
「……杏ちゃん」
きらりのせいで、傷つけてしまった友達。
「……盾子ちゃん」
きらりのせいで、手放してしまった出会い。
残ったのは、きらりと、バーサーカーの二人だけ。
その現実は、きらりの大きな体に不釣り合いな他の女の子とおんなじちっちゃなハートには重すぎて。
起きた時みたいに涙は出なかった。でもそれは、心がうんと疲れてしまって涙が出ないだけ。
どうしようもない世界の真ん中で、きらりは壁に背を預け、膝を抱き、ぼんやりと過ぎていく時間を数えていた。
☆
どれくらいそうしていただろうか。
カコン、と小さな音が、玄関の方からなった。
郵便受けに何かが入る音。時計を見る。郵便配達にしては随分遅い時間だ。
気になって見に行く。郵便受けには、薄紫色の封筒が入っていた。
取り出して眺める。薔薇色の蝋で固められた封筒は、本当にこの世のものかと疑ってしまうくらいに、綺麗だった。
封を開ける。
中に入っていたのは、外側の幻想的な見た目とはかけ離れた、どうしようもない現実。
きらりを取り巻く新しい環境……聖杯戦争の通達だった。
目を通す。
綺麗な文字で彩られた、素敵な文章。
でも、その素敵な文章が示すのは、戦争が少し進んでしまったという事実。
誰かと誰かが戦っている。
その事実が、夢の中に置いてこようとしていた現実を揺さぶり起こす。
ぐっと胸が締め付けられる。あの日、バーサーカーと出会った日の同級生たちの■■を思い出す。
肺が絞り上げられ、胃が締め上げられ、喉まで上がってくる懺悔と後悔。
膝を折って口元を抑え、咳き込む。突っ伏してしまわないように手で体を支えながら、体を突き抜けようとする衝動が収まるのを待ち続けた。
みしりという強い音。
背中をさする優しい手。
振り返れば、バーサーカーが立っていた。
「■■■■■」
その姿には、怒りも、憎しみも、宿っていない。
きらりを守るための強くて深くて黒い心を手放した、戦わない時のバーサーカーだった。
「ごめんね、バーサーカーさん」
「■■■■■」
言葉は交わせない。でも、たしかに今だけは、心は通っている。
バーサーカーが再び身を隠す。きらりの体力の消耗を思ってのことだろうか。
でも、残されたきらりに、この可愛いものと闇で埋め尽くされた部屋は、広すぎた。
寂しさに潰されそうな心の逃げ道を探して、通達にもう一度目を通す。
素敵な文章の後には、打って変わって事務的な文章が書き連ねられていた。
内容は、きらりの孤独を見透かすような特殊
ルールの話。
デイリークエスト。
内容を確認しながら、頭の中で考える。
これを使えば、杏や
江ノ島盾子の居場所を知ることが出来る。
いや、それより、杏や江ノ島盾子がこの場に来ている可能性もある。
桜やあい、桜の探す
大道寺知世、そういった子たちと出会えるかもしれない。
もう一度、誰かに会うことが出来る。
もう一度、やり直すことが出来る。
「……」
本当に?
問いが頭に湧き上がる。
会えば、やり直す事ができる?
みんなが仲良くなる機会を潰してしまったきらりを。
掲示板で悪人だという情報が出回っているきらりを。
もうすでに同級生を三人も殺してしまったきらりを。
杏は、江ノ島盾子は、桜たちは、受け入れて、許して、もう一度仲良くしてくれる?
答えは出ない。
否、答えは出せない。
頭を働かせれば、最悪の答えを導き出してしまうことは明らかだったから。
きらりは再び部屋に戻り、膝を抱えて座り込む。
闇夜が生み出す沈黙を、一人ぼっちで埋めながら。
【D-4/諸星きらりの家/2日目 未明】
【諸星きらり@アイドルマスターシンデレラガールズ(アニメ版)】
[状態]精神的疲労(中)、絶望(中)、魔力消費(小)
[令呪]残り二画
[装備]なし
[道具]通達の手紙(第一回)
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:バーサーカーを元に戻し、元の世界へと戻りたい
1.誰かに、会いたい―――?
2.
双葉杏、江ノ島盾子と合流したい。でも、杏には会えない……?
[備考]
※D-4に諸星きらりの家があります。
※
木之本桜&セイバー(沖田総司)、
江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)、双葉杏、
蜂屋あい&キャスター(
アリス)を確認しました。そして、全員を信用しています。
ランサー(
ジバニャン)はしっかりと確認が出来ていません。
※三画以上の令呪による命令によって狂化を解除できる可能性を知りました(真実とは限りません)
※
フェイト・テスタロッサの捕獲による聖杯戦争中断の可能性を知りました(真実とは限りません)
※
ルーラーの姿を確認しました。
※バーサーカー(安慈)がルーラーと同じような怒りを杏、ランサー(ジバニャン)、ランサー(姫河小雪)、セイバー(沖田総司)、木之本桜に向けていることを知っています。
令呪二画ではその怒りすべてを鎮めることはできないと理解しています。
※掲示板が自分の話題で賑わっていることをしりました
【
悠久山安慈@るろうに剣心(旧漫画版)】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:
???
0.■■■■―――
[備考]
※
雪華綺晶の存在を確認しました、再会時には再び襲いに行く可能性があります。
双葉杏、ランサー(ジバニャン)、ランサー(姫河小雪)、木之本桜、セイバー(沖田総司)、キャスター(アリス)を敵と認識しました。
標的が増え、標的が多方に散っているため自分から襲いに行くことはありません。ただしある程度接近した場合は襲撃します。
※江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)を確認しました。
スキル『こころやさしいひと』の効果できらりの精神の安定に江ノ島盾子&ランサーが役に立っていると察知しイレギュラーが発生。
狂化中ですが敵意を向けられない限りこの二人を襲いません。
最終更新:2020年07月26日 21:17