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I hear always the admonishment of my friends.
私は我が友の忠告を常に聞く。
"Bolt her in, and constrain her!"
「彼女に閂を掛け、拘束せよ!」
But who will watch the watchmen?
しかし、誰が見張りを見張るのか?
The wife arranges accordingly, and begins with them.
妻は手筈を整えて、彼らと事を始める。
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貧困層が暮らす地区の路地裏は、ドブ底という言葉が相応しかった。
何年も掃除が施されていないそこは、今や浮浪者すら毛嫌いする程だ。
この様なゴッサムの底辺に住む者など、それこそドブネズミくらいだろう。
そんなドブ底に、似つかわしくない"緑"が現れたのは何時の話か。
誰もが知らぬ内に、どの生物にも気付かれぬまま、それは草を生やしていた。
こんな汚物まみれの場所に、健康な緑が生まれる事などあり得ぬというのに。
その草木に幾つも実った、極彩色の果実。
酷く禍々しい風貌をしたそれは、とてもこの世のものとは思えない。
そんな果実の存在を嗅ぎ取ったのか、浮浪者が一人近づいてきた。
彼は果実をまじまじと見つめた後、草木から実をもぎ取る。
そして、一切の躊躇を見せる事なく、露出した果肉に噛り付いた。
まるで餓死寸前の人間が、高所得者の御馳走を貪るかのように。
男は一見不気味な果実を、余すところ無く食い尽くした。
彼は別段飢えている訳でもないにも関わらず、だ。
変異はその直後に起こった。
男は急に跪き、胸を押さえて苦しみだす。
まるで毒を煽ったかの如く、彼はもがき始める。
当然だ。道端に生えた詳細不明の果実など、本来喰らうべきものではない。
だが男は抗えなかったのだ――実が醸し出す強烈な誘惑に。
彼の精神力では、湧き出てくる食欲に打ち勝つ事は出来なかったのだ。
浮浪者の様態が変わってほんの数秒後、再び変異は起こる。
彼は焦点の合わない瞳を天に向け、絞り出した様な悲鳴を放つ。
刹那、彼の肉体から生え出た植物が、自身を覆い尽くしたではないか。
男が食した果実は、本来口にすべきではない代物なのだ。
摂取した者の遺伝子構造に劇的な変化を及ぼす異界の果実。
深緑が男の全身を喰らうのは、言わば進化の兆しであった。
身体を覆う植物が収束し、男の姿が外気に晒される。
その頃にはもう、男は男ではなくなっていた。
緑を基調とした体色、虎の面影を見せる顔面、片腕に備えられた堅牢な爪。
彼の肉体は人間のそれを逸脱し、怪物のものへと変化したのだ。
静まり返る路地裏の中、怪物は吼えた。
もはやこの生命には、理性など一欠片として残されていない。
彼は殺戮を繰り返す害悪として、ゴッサムを彷徨うだけなのだ。
似た様な現象が、このゴッサムで幾度か起こっていた。
人が行方知らずになったと思いきや、別の人が死体になっている。
果実を喰らった者が怪物となり、他者を襲っているのだ。
行方知らずの人間も、襲撃された人間も、もうこの世にはいない。
ゴッサムに巣食うのは、今や犯罪者だけではない。
心惑わされし者の成れの果て、"インベス"。
文明を喰らう森が解き放った、侵略の尖兵達。
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あらゆる事業に手を出しては、莫大な利益を上げるウェイン産業。
世界的大企業であるその会社の名を知らぬ者など、ゴッサムの中にはいないだろう。
何しろ、都市部の中心にはそのウェイン産業の本社が置かれているのだ。
そんな状況に身を置いたのなら、嫌でも名前を憶えてしまう。
そんなウェイン産業の本社――即ち、ウェインタワーの屋上。
本来ならば何者の侵入をも許さないその場所に、一人の男が佇んでいた。
近未来的な外見のビルとは似つかわしくない、民族衣装を身に纏った中年。
彼は屋上からゴッサムの闇夜を見下ろし、僅かに頬を釣り上げた。
「インベスが人を殺し、サーヴァントが人を喰らう……随分派手にやらかすもんだ」
男はゴッサムシティの全てを理解していた。
悪徳の街で何が始まり、何が終わったのかを。
それだけではない、彼はこれより始まる聖杯戦争の全てさえ把握するだろう。
マスターとサーヴァント、そして彼等が起こす闘争の記録さえ掌握するに違いない。
当然だ。彼の本体は、もう既にゴッサム全域に広がっているのだから。
微笑む男は人に非ず。他を誘う為に人の形を取ったに過ぎない。
彼は"蛇"である。惑いし者に運命を運び、闘争へと導く蛇である。
そしてその蛇もまた、永遠を渡り歩く異界の一部に過ぎない。
ある惑星の住人は、その異界を"
ヘルヘイム"と呼んだ。
"ヘルヘイム"とは、無限に広がり続ける大樹海である。
文明社会に忍び寄り、その世界の生命を脅かす宇宙規模の外来種。
あるいは、文明を刺激し急激な進化を促す一種のシステム。
そして現在、ゴッサムシティはヘルヘイムの侵略を受けている。
他でもない聖杯が、この侵略者を呼び寄せたからだ。
願望器がヘルヘイムに宛がった役割は――監視者(ウォッチャー)。
聖杯戦争を監視せよと、全ての戦いを最後まで見守れと。
お前達がこれまでそうした様に、願いの成就を見届けろと言いたいのだ。
「マフィアに汚職、おまけに怪物騒ぎときたもんだ。
どうするんだお前達、この街に
バットマンはいないんだぞ?」
そう、この街にバットマンという名のヒーローは"まだ"いない。
彼が不在だからこそ、ゴッサムは今も邪悪が跋扈している。
マフィアは罰せられず、汚職まみれの警察は悪事に手を染める。
「……この街には何もない。真っ新な犯罪都市だ」
だが逆に、この街にはヴィランが不足している。
ジョーカーも、スケアクロウも、トゥーフェイスもいない。
ゴッサムを騒がせた喜劇役者が、こぞって行方を晦ましている。
正確に言えば、"今はいない"と言うべきなのだろうか。
聖杯が求めるのであれば、彼等もまたこの街に集うであろう。
少なくともまだ、ヴィランの足音が近づく気配はない。
「堅物な悪党だけってのは案外退屈なんだ、とっておきの喜劇役者がいないとな」
世界を護る賛歌か、世界を壊す嘲笑か。
どちらでも構わない、願望器は刺激を求めている。
演者(キャスト)が演じ上げる、命懸けの物語(シナリオ)を。
「悪徳に身を委ねるか、それとも正義に殉じるか……お前達はここで何を為す?」
怪物から市民を護るのか、怪物と一緒に市民を殺し尽くすのか。
死によって完成する聖杯を否定するか、屍を踏み越えてでも聖杯を肯定するか。
選択肢は二つに一つ、どちらを取るかはマスター次第だ。
どちらを選んだとしても、聖杯は大いに歓迎するだろう。
ゴッサムに現る願望器は、血と肉が織り成す演劇(コメディ)に飢えているのだから。
「俺は見届けるだけだ。お前らがこの街に何を刻み込むのかをな」
男――"サガラ"は街の光を見つめ、今一度笑う。
ゴッサムで幕を開けるは、願いを賭けた一大喜劇。
大舞台で終局を演じ切るのは、果たしてどの主従か――――。
――――気を付けるんだな。お前達は今、運命を選ぼうとしてる。
【クラス】ウォッチャー
【真名】ヘルヘイムの森
【出典】仮面ライダー鎧武
【属性】中立・中庸
【パラメーター】筋力:- 耐久:- 敏捷:- 魔力:- 幸運:- 宝具:EX
【クラススキル】
戦況把握:EX
「監視者」のクラス特性。
ウォッチャーは既にゴッサムシティ全域に根を下ろしている。
それ故に街の状況を常時把握しており、マスターやサーヴァントの居場所も察知している。
最早、ゴッサム全土にウォッチャーの監視の目が行き届いていると言っても過言ではない。
真名看破:B
本来はルーラーのクラス特性であるが、ウォッチャーはルーラーの変形クラスであるため所持。
直接遭遇したサーヴァントの真名・スキル・クラスなどの全情報を即座に把握する。
真名を秘匿する効果がある宝具やスキルなどを持つサーヴァントに対しては幸運判定が必要。
【保有スキル】
侵食:EX
他者を、周囲の世界を己自身で塗りつぶすスキル。
ヘルヘイムの森は惑星に寄生し、侵略する植物群である。
森は現界すると同時に街に根を張り、着実に世界を森へと変えていく。
監視者(ウォッチャー)としての責務を任された今回でも、それは例外ではない。
外界接続:-
干渉先の世界を「ヘルヘイムの森」に繋げる能力。
聖杯戦争の妨げになりかねない為、このスキルは封じられている。
その為、現在は如何なる手段を用いてもヘルヘイムの森に移動する事は出来ない。
それが聖杯からの要請なのか、それとも他からの干渉によるものなのかは、現在不明である。
【宝具】
『星喰らいの森羅(ヘルヘイム)』
ランク:EX 種別:対文明宝具 レンジ:∞ 最大補足:∞
永遠に蔓延る者。空を越えて茂る者。
ウォッチャーという存在そのものが宝具である。
時空・距離・次元の壁を乗り越え、侵食する異世界からの外来種。
干渉先の文明に植物と怪物(インベス)で干渉し、自身に取り込んでしまう。
ウォッチャーとは文明を破壊する侵略者であり、同時に文明に進化を促すシステムである。
『禁忌の果実(ヘルヘイム・ベリー)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
ヘルヘイムの森に自生する極彩色の不気味な果実。
この果実を口にした生命体は遺伝子に急激な変化を及ぼし、インベスと呼ばれる怪人に変質する。
インベス化した生物は自我を喪失してしまい、喪われた精神を元に戻すのは不可能と断言していい。
生命体を惹きつける性質があるらしく、劇中でも数名の人間が魅入られたようにその身を喰らっている。
果実自体に魔力が宿っている為、魔術に心得のある者かサーヴァントであれば、その危険性に気付く事が可能だろう。
なお、戦極ドライバーを装着したサーヴァントがもぎ取れば、錠前型の宝具『禁忌の錠前(ロックシード)』となる。
(マスターでもドライバーさえあればロックシードに変換可能だが、その場合は宝具とはならない)
『運命を誘う蛇(サガラ)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
ヘルヘイムの森が持つインターフェース的存在。
接触先の文明に溶け込み、時に助言し、時にそそのかし、事態の変革を図る。
他の参加者への干渉はこの宝具を用いて行われ、その際には中年男性の姿をとる場合が多い。
ヘルヘイムがゴッサム全域に広がっている為、この宝具は何処にでも出没できる。
なお、彼もまたヘルヘイムの森の一部であるため、滅ぼすのは事実上不可能である。
【背景】
謎の怪物"インベス"が生息する樹海。その正体は侵略を繰り返す一種のシステム。
幾多の世界を侵食してきた言わば"外来種"であり、文明を強制的に進化、もしくは滅亡させてきた。
ヘルヘイムが他世界に干渉する理由などない。鳥が飛ぶのに理由が無いのと同じである。
最終更新:2015年04月12日 01:45