声が聴こえる――――この種を食い殺せ、と。
◆
「いいか、これから会ってもらう人物は『美味しい』出資者なんだ」
マックス・シュレックは、珍しく焦りを覚えていた。
名士であるマックスですら慌てる人物だ。
マックスが相対する男は珍しいものを見て、おかしそうに笑った。
「世界一の大富豪とも呼ばれている」
「世界一、凄いな……いや、本当に世界一か?
実は世界二位だったりしないのか?」
男は、異形の怪人だった。
まるで樽に脚と顔をつけた畸形。
水の入ったコップを持つ手は常人のそれとは大きく異なり、『水かき』がついているではないか。
怪人は面白可笑しく、笑いながら言葉を続けた。
「ひょっとすると、世界十位だったりするかもしれないんじゃないか?
いや、そうだ、きっと十位だ。
選ばれた十位に違いないぞ、なんとなく十位な気がする」
「そんなことはどうでもいい!
大事なことは、とてつもない金持ちだということだ!」
大真面目な顔でつぶやき始める丸太のような樽の怪人を、怪人の参謀役であるマックス・シュレックは怒鳴りつける。
何が質の悪いことかと言えば、この怪人はふざけているのではなく、大まじめに言っているのだ。
ヒレのついた、おおよそ人間であるはずのない手で尖り過ぎた高すぎる鼻に触れている。
どのような人の手も介在していない畸形、怪人としか言いようのない『ペンギン男』。
人は神を模して作られたというが、そうだとするのならば、この怪人は間違いなく神が作り上げた失敗作。
その名を
オズワルド・コブルポット。
人々には『ペンギン』という愛称のほうが通りの良い、市長選立候補者だ。
「いいか、お前は今から市長選に打って出ようという立場なんだぞ……!」
マックスとは頭一つも二つも違う短躯を見下ろしながら、ペンギンに言い聞かせる。
ペンギンは愉快げに笑うだけで、反省をしている様子もない。
シュレックは頭を抱えたままだ。
疲れたように肩を落としながら、言葉を続けた。
「いい加減、自覚というものを持て、『ペンギン』!」
その瞬間、短い腕が翻った。
男の鼻先を、怪人の『水かき』が掠める。
ぞっとした表情でシュレックはペンギンを見る。
先ほどまでの愉快げな表情は消え、憎悪と激怒を相混ぜにした表情がペンギンの顔に張り付いていた。
「『コブルポット』さんと呼べ!」
つらり、と。
鼻頭に血が流れ、マックスはぞっとした顔で血を拭った。
沸点が低すぎる。
「いや、悪かった。オズワルド、とにかく相手は大事な『お客様』だ」
「それぐらいわかっている」
ペンギンは口では謝ったが、マックスの意図を理解しているとは思えない。
いや、決してペンギンの知能が低いというわけではない。
ただ、マックスとは考えが異なっているだけなのだ。
何を重要に思い、何を軽んずるか。
そして、譲れないものはなんなのか。
そう言った事実が、『優秀なだけの常人』であるマックスとは異なっている。
「心配するな、友人よ。お前が俺を手伝ったように、俺もお前を手伝うさ」
ペンギンは笑い、マックスは頭を抱えた。
不安しかないマックスを他所にペンギンはずかずかと来客用の部屋へと向かう。
勢い良く、礼儀などないように扉を乱暴に開けた。
「いや、待たせたな」
せめて、『待たせましたな』だ。
参謀役であるマックスは頭を抱える。
しかし、客人である富豪は笑ってみせた。
と言っても、笑っただけだろうが。
腹の中では不満を抱いているに違いない、ペンギンの態度は明らかに礼儀に欠いている。
それでも、客人はニコリと笑って、鞄の中から二つの人形を取り出した。
エジプトのお守りだと、客人は言った。
「これを……私にどうしろと言うんですかねぇ、ええ」
ペンギンの言葉にマックスは再び頭を抱える。
この富豪ならば、ペンギンへの嫌がらせのためだけに対抗馬の候補へと出資をしてもおかしくない。
しかし、富豪は笑った。
そして、語る。
その内容は、単なる富豪の主張にすぎないためにマックスは聞き流す。
ただ、富豪がエジプト王朝に傾倒しているという事実を思い出した。
マックスは笑みを浮かべて、人形を手に取り、ペンギンに促した。
しかし、見るからに不気味なものだ。
呪われそうなものだ。
マックスはそんな感情を浮かべながら、冷戦構造について語る富豪を眺めた。
◆
地球上の誰かがふと思った。
人間の数が半分になったらいくつの森が焼かれずにすむだろうか。
『人間が増えて困るのは、他の生き物でも、ましてや地球でもない』
地球上の誰かがふと思った。
人間の数が100分の1になったらたれ流される毒も100分の1になるだろうか。
『人間が増えて一番困るのは、人間自身だ』
誰かがふと思った。
『人間を滅ぼすのは、人間自身だからだ』
――――みんなの未来を守らねば――――
◆
――――顕現した瞬間、ペンギンの側に居たパートナーは消え去った。
ペンギンの目の前でいともたやすく行われた、『殺人』という気安い行為。
シャブティという、ペンギンにとってはガラクタにしか見えない人形が泡のように溶け出した、すぐ後のことだ。
その泡は、良く見慣れた泡だった。
ぶくぶくと、下水の中で膨れ上がるそれと同じものだ。
泡は五つの蛇へと変化し、一つの蛇が鋭い刃へと変換した。
刃は、まるで当たり前のようにマックス・シュレックの首元へと伸びた。
触れるような柔らかさでマックスの首へと食い込み、なんの反発もなく奥へと進んでいく。
数秒もしないうちに刃へと変質した蛇はマックスの首を切り落とす。
「Hyh……」
ごとり、と。
目を丸くしたマックスの顔が地面へと落ち、それを見てペンギンは肩をすくめた。
頭部を切り落とした蛇は首の断面から生じる血の奔流を飲み込むように、マックスの身体と同化する。
ぐにゅぐにゅ、と。
不気味な様相で蛇は膨らみ、曲がり、形を変えていく。
やがて、その蛇が変形した姿が頭部へと変わる。
マックス・シュレックであったものは、別人へと変わる。
寄生と呼ぶには、あまりにも暴力的なまでの乗っ取り。
「……………来い」
その頭部の口が、小さく動いた。
声に呼応するように、残された四匹の蛇たちは吸い込まれる形で、マックスだった身体に吸い込まれていく。
四匹の蛇がマックスだった身体の四肢を簡単に切り落とした。
ペンギンはその姿を見て、下水に流れてきたボロボロのプラモデルを思い出した。
四匹の蛇は、頭部の蛇のように不気味に姿を変える。
四肢を喰らい尽くしていく蛇が姿を変えていく中で、頭部に変換した蛇が口を開いた。
「……貴様が、俺のマスターか?」
頭部が四肢に生える――――わけもなく、当然のように四肢が再生される。
しかし、それはマックス・シュレックが持ち得ていた常人の四肢とはわけが違う。
その一つ一つが、五本の『刃』なのだ。
『五つの刀』を持つ『剣の英霊<<セイバー>>』。
その名は。
――――後藤 / 五頭 / 五刀。
「そうだ、俺が貴様のマスターだ!」
ペンギンは自身が召喚してみせたサーヴァントを見て、楽しげに笑った。
もはや体型が球状にまでなった畸形の腹を抱える。
畸形のペンギンを見て、表情を一切動かさずに、口のみを動かした。
そこには嘲りも、怯えも、侮辱も存在しなかった。
「そうか……中々、ユニークな男だな」
セイバーはペンギンを見て、呟いた。
体型だけを見ての感想。
事実だけを言われたことに対して、ペンギンは特別怒りも覚えなかった。
何故ならば、『寄生生物<<パラサイト>>』と呼ばれる後藤のほうがよっぽどに『畸形』であるからだ。
自分よりも醜いものに対して、怒っても仕方がない。
「マスター」
「オズワルドさんと呼べ、マスターと呼ぶのならば、もっと敬意を払え!」
「オズワルド、寝起きだが腹が減ってな……」
そう言って、地面に転がったマックス・シュレックの頭部と四肢を指さす。
そして、頭部を爪先でこんこんと叩き、サッカーボールのように宙へと浮かせた。
人の頭部を扱っているとは思えない気軽さで、マックスの顔を掴みとる。
ペンギンはその様を見て、豪快に笑ってみせた。
「ああ、食え! 幾らでも食え!
おかわりもあるゾ! 幾らでもあるぞ!」
ペンギンは笑った。
後藤はピクリとも表情を変えず、頭部の状態を変えた。
ぐにゃぐにゃと顔を変え、それはもはや顔と呼ぶことも出来ないものへと変わる。
強いていうならば、巨大な口。
ペンギンはパニック映画の名作、『ジョーズ』のポスターを連想した。
がぶり、と。
巨大な口となった後藤がマックスの頭部と四肢を丸呑みにしてみせた。
それを見て、ペンギンは愉快げに笑った。
「ゴッサムに血の雪を振らせてやろうってだけだ!
聖杯ってのはアレだろう、イエスの使い古しのグラスだろう!
イエスの誕生日になぁ、俺は祝われたことなどなかった!
だからイエスの血を注いだワイングラスをぶち撒けてやろうってのさ!
満足に祝われてきたくせに、平気な顔して不満を口にしやがって……!」
ペンギンは激しくまくし立てた後、ふう、ふう、と肩を怒らせる。
後藤は黙してペンギンの怒りを見るのみだ。
次第にペンギンの怒りは収まり、代わりに笑みが浮かび上がってきた。
「いいぜぇ、始めようぜ。ジェントルメェン」
「始める、か?」
「そうだ! 始めるんだ! 聖杯戦争ってやつを!」
ペンギンは手に持った傘を広げる。
そこからは無数の蝙蝠が飛び出した。
イリュージョン。
しかし、後藤は顔色一つ変えることはない。
『人間離れ』しただけのペンギンとは異なる、あからさまに『人間ではない』存在。
人を殺すための、人の殺害を、人自身に乞われた、か弱い超生物。
それがセイバーのサーヴァント、後藤であった。
【クラス】
セイバー
【真名】
後藤@寄生獣
【パラメーター】
筋力:A 耐久:C+ 敏捷:A+ 魔力:D 幸運:C 宝具:D
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
対魔力:C
二工程以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法等、大がかりな魔術は防げない。
対魔力が皆無なため、セイバーのクラスにあるまじき低さを誇る。
騎乗:C+
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
野獣ランクの獣は乗りこなせない。
人間の意志を奪って乗りこなす騎士である。
【保有スキル】
霊長の殺人者(偽):B
不完全にしてか弱いPrimate muder<<プライミッツ・マーダー>>。
『ガイアの怪物』、あるいは、『アラヤの総意』、いずれにしても不確定な概念が根源に根付くスキル。
『この種を食い殺せ』という激しい殺人衝動が昇華され、ヒトに対する『殺害権利』という概念を所持している。
相手が霊長の要素を所持している場合、『殺人』という『結果』を導く『行動』を、どのようなスキル・宝具でも無効にすることが出来ない。
ただし、蘇生を無効化することは出来ず、また空間ごと隔絶された場合は異次元を渡ることが出来ないために攻撃できない。
自己改造:A
自身の肉体に、まったく別の肉体を付属・融合させる適性。
このランクが上がればあがる程、正純の英雄から遠ざかっていく。
【宝具】
『虐殺器官(パラサイト)』
ランク:D 種別:対『人』宝具 レンジ:1-10 最大捕捉:5人
後藤は寄生生物<<パラサイト>>である。
パラサイトっとは、自らでは生きながらえることを可能としない生命体。
蛇のような形をして、たんぽぽの綿毛のような何かに包まれて、どこからか現れた。
寄生先の脳を丸々食い取り、そのまま自らを脳へと変質させて身体を奪い取る。
人間の肉体に寄生するために霊体化することが出来ず、また、現界に魔力以外にも人の肉を必要とする。
しかし、人の肉を食い続けることでマスターからの供給魔力を少量で抑えることが出来る。
また、自由自在に細胞を変質させ、数十メートルの長さに伸ばすことや、刃のように薄く鋭く変化させることが可能。
後藤は自ら以外に四体のパラサイトを四肢に寄生させており、その四体全てを自由に統率できる。
【weapon】
四肢の寄生生物を刃などに変質させて攻撃する。
他の四体を統率するために、頭部を変質させることはめったに行わない。
【人物背景】
ある日、どこからか現れた蛇のような何か。
人間に寄生し、脳を食い取り、その身体を己のものとする生物、パラサイト。
後藤の場合、一人の人間の肉体に五人のパラサイトが寄生している。
頭部及び四肢の全てがパラサイトであり、また、寄生先である人間の胴体部にもプロテクターのようにパラサイト生物が覆っている。
後藤は自身も含めた五体全てのパラサイトを『統率』することが出来る。
後藤以外にも右腕として扱われている『三木』が統率者となれ、自身以外の4匹の意識を支配し、完全に統率できるのは後藤だけである。
母体である人体の大半がパラサイトに置き換わっているために、かなりの自由度でその姿を変える事ができる。
体はパラサイトの鎧(プロテクター)で守られている。
対向走行しているトラック同士の交差による激突の衝撃にも耐え、ショットガンの直撃を複数受けるなどしても基本的にダメージを受けない。
『この種を食い殺せ』という声を聴いており、その声の正体を知っている。
曰く、『人が増えて一番困るのは他の生き物でも地球でもない。人間たち自身だ』。
【マスター】
オズワルド・コブルポット@バットマン・リターンズ
【マスターとしての願い】
復讐
【weapon】
『蝙蝠傘』
武器はギミックを仕込んだ傘。
劇中ではマシンガンを仕込んだ物と、相手に催眠術をかける物、先端に刃を仕込んだ物が登場。
また、死の直前に
バットマンを攻撃しようと手にしたのは、自身の選択ミスにより、何の機能もないただの傘だった。
【能力・技能】
特殊な技能は持たない。
作中では指令電波を出して無数のペンギンを操っていた。
【人物背景】
名家コブルポット家の長男として誕生。
だが、その凶暴さと奇妙な外見から、呪われた者かの様にとられる。
生まれてから数日後のクリスマスに、実の両親によって揺り篭ごと下水道に流された。
閉鎖された動物園で、置き去りにされたペンギン達に育てられ成長。
その後、奇形サーカスに入団するなどして仲間を増やしていき、地下の下水道を通じて犯罪を繰り返していく。
自分のアイデンティティを求めて、自らが率いるサーカス・ギャングを使った自作自演を行う。
赤ん坊を救ったヒーローとして地上に出て、ゴッサム・シティの市役所であらゆる戸籍記録を調べ上げる、自分の出自と本名を突き止める。
さらに名士マックス・シュレックの陰謀を嗅ぎ付けて彼と共謀、市長選に打って出る。
だが、他人から愛されたことのない事で、人の心を理解しきる事が出来ず、性格は悲しいまでに捻じ曲がっている。
自らの発言が元でバットマンに失脚させられる。
自分を簡単に見捨てたシュレック、愛され育つ全ての子供、バットマンに対する復讐を誓う。
戸籍記録を調べた際にリストアップしていた、自分とは正反対の両親と愛情に恵まれた長男を一人残らず部下に命じて誘拐させる。
シュレックに対しても彼の長男を拉致しようとする。
だが、シュレックの説得と彼に対する憎しみから双方を折衷する形でシュレックの長男は見逃し、シュレック本人を拉致した。
さらにロケット弾で武装したペンギン達を使ってバットマンを殺そうとする。
しかし、ペンギン達のコントロールを奪われた挙句逆に自分がロケット弾攻撃を受け、誘拐した各家庭の長男達も救出される。
自身も重傷を負う等全ては失敗に終わる。
最期は「氷水でもいいから…」と、喉の渇きを訴えたペンギンの最後の言葉を聞き届けたペンギン達に見取られ、池の中に静かに沈んで逝った。
その最期は、愛された事の無かった者ゆえの、何処かしら悲しく哀れなものであった。
【方針】
祝われなかったクリスマスに、イエスの遺した聖杯をぶちまける。
最終更新:2015年05月18日 23:20