463 : 光の翼番外編 日登町防衛戦(5) 1/62016/01/25(月) 11:51:41.45 ID:qClcKGx+0
「生徒はシェルターへ! 全員逃げ切るまで食い止めてやっから焦るなよ!」
モノクロMSの襲撃により、学校は大混乱に陥っていた。
休日とはいえ、学校には部活などに参加する生徒が多く登校していた。
「とんでもないことになったな…」
呟いたのは、MSクラブのアセムだ。混乱の中どうにか校舎の中に逃げ込んだが、まだ外には多くの生徒がいる。
教師やシン達が守っているが、圧倒的多数を相手に苦戦しているように見えた。自分も行くべきだろうか。
「キオ、俺は…って、おい、キオ!?」
一言告げる前に、キオは走り出していた。
「ごめん兄さん、僕ちょっと行ってくる!」
「こんな状況でどこに行くつもりだ!?」
「大丈夫、あのザンネックを追うだけだから!」
キオの指さす先には校舎から離れていくザンネックの姿があった。
「わ、わかった!」
ファラのフォローをしにいくのだろう。そう思い、アセムも負けてはいられないと格納庫へ走る。

「………なんで」
走りながらのキオの呟きはアセムに聞こえなかった。聞こえていても意味がわからなかっただろう。
――先ほどのザンネックが白黒MSの大軍を率いていたところを、アセムは見ていないのだから。

  •  ・ ・
校舎の外では激しい戦闘が繰り広げられていた。腕に覚えのある教師と生徒が次々に襲ってくるMSを屠っていく。
「なんなんだ、こいつら!」
「わからない!」
「シン坊や、ヅラ! あんたらもシェルターに入りな!」
ブルッケングを駆るのはルペ・シノ。敵がすべてモノクロカラーのおかげで見分けがつきやすいというのはありがたかった。
「ヅラじゃないです、ザラです!」
「俺たちは平気です! 他の生徒が逃げ切るまで守り切ります! 先生こそブルッケングなんかで大丈夫なんですか!」
「生意気を言うんじゃないよ!」
「…正直、助かってるのは事実だけどな」
ぼやくように言ったのはアカツキを駆るネオ・ロアノーク――ムウ・ラ・フラガだった。こちらもルペやシン達に負けず敵を落としている。
「情けないことを言うね!」
「普通ならこんな情けないこと言いませんがね! この数、俺たちだけじゃカバーしきれないのはわかってるでしょ!」
なにしろ敵の数が多い。学園の敷地の広さゆえに戦力が分散してしまっていることもあり、生徒の力を借りてもまだカバーしきれないほどだ。
幸いにも今のところ負傷者は出ていないが、教師のみで戦っていたら学校にも生徒にも大きな被害が出たことだろう。
そのあたりはルペもよくわかっているのだが、わかっているがゆえに気に入らないのだ。舌打ちして、ネオに言葉をぶつける
「今の言葉、覚えとくよ!」
「ご自由に!」

464 : 光の翼番外編 日登町防衛戦(5) 2/62016/01/25(月) 11:52:43.54 ID:qClcKGx+0
  •  ・ ・
拝啓 故郷のお父様お母様、あとついでにおじいさま。この学校に赴任してそれなりの時間が経ちました。
毎日毎日死にかけながらもこれまで生き延びてまいりましたが、どうやらここまでのようです。

「死ぬううううう! 今度こそ死ぬ! 死んじゃいますぅぅぅぅぅ!」
そこまで書くとナトーラはいきなり立ち上がり、頭を抱えて絶叫した。
「うるせえ! 教師がパニックになってどうする!」
カトックが狂乱して叫ぶナトーラの頭を軽く叩いて渇を入れる。
場所は職員室――の、はずである。いつもの机や椅子はどこかへと消え、代わりにレーダーやモニターをはじめとした精密機器が並んでいる。
部外者による攻撃の一報を受け、カトックが教頭の机に隠してあるスイッチを押した結果である。まるで戦艦の艦橋のようだ。
「少しはファラ先生やハマーン先生を見習ったらどうだ」
「無理です、私にあの迫力は無理ですぅぅぅぅ…」
何もしなくとも屈強な男を縮み上がらせるような迫力を持つ二人を思い出す。あれで自分より年下らしいが、どういう育ち方をしたのだろう。
年上のくせに慌てている自分を、あの二人が侮蔑の目で見下す様子を想像しナトーラは身震いした。
「落ち着いて、ナトーラさん」
混乱の極地で今にも泣きそうなナトーラを、マリューがそっと抱きしめた。
「ふえ…?」
「大丈夫だから、ね。はい、深呼吸」
優しい声。なんだかやわらかくて、甘い香りがする。言われた通りに深呼吸すると、余計にそう感じられた。
普通の家のお母さんとかお姉さんって、こういう感じなのかな――などと思いながら、心が少しずつ落ち着きを取り戻していくのがわかった。
「そう、大丈夫よ。落ち着いてね」
「…マリュー先生は怖くないんですか?」
「怖いわ。でもそれ以上に生徒たちを救いたい。だって私、先生だもの。生徒たちのためならなんだってできるわ」
それを聞いて、こんな自分でも慕ってくれる生徒がいると教えてくれた、ある生徒のことを思い出した。
あの時は本当に嬉しかった。自分が生徒たちの役に立っていることに誇りすら感じた。
「…私、先生なんだ」
あの子たちのため――いや、生徒たちのために頑張らずに、何が教師だ。これでは何のために教師になったのかわからないではないか。
何かを察したか、マリューが体が離した。ナトーラはあれほど混乱していたのが嘘のように落ち着きを取り戻していた。
「大丈夫?」
「はい。…取り乱してしまってごめんなさい」
「いいのよ」
短い会話の後、ナトーラはカトックに向き直った。
「…あの。私ができること、何かありませんか。こういうとき、どうすればいいのかわからなくて…」
こんなことを聞いて、怒られるかもしれない。でも、何かをしたい。生徒たちのために。

465 : 光の翼番外編 日登町防衛戦(5) 3/62016/01/25(月) 11:53:51.57 ID:qClcKGx+0
「レーダーは見られるな?」
「は、はい」
研修でやったところだ。知識は一通り頭に入っているし思い出せる。するとカトックは部屋の一角を指差した。
「よし。レーダーを見ながらマリュー先生のフォローをしろ」
「はい!」
「さて、マリュー先生。準備はいいか?」
「はい」
「準備、ですか?」
「ああ、お前さんはまだ知らないんだったか。この学校の校舎、なんでこんなに頑丈なんだか知ってるか?」
頭にクエスチョンマークを浮かべるナトーラに代わり、空の教頭席についたマリューが答える。
「答えは、戦艦を改造して作ったから。――さあ、久しぶりの出番よ。アークエンジェル!」
マリューの号令とともに、校舎が揺れ始めた。

同時刻、校舎外。
「こ、校舎が…変形してる?」
「お、動きやがったな」
突然揺れだし、轟音を立てて変形を始める校舎を見てシンは驚きの声をあげ、ネオがにやりと笑った。味方全員に通信を送る
「校舎からドでかい一発が飛んでくるぞ!各員きちんと避けろよ!」
「ドでかい一発って…」
何のことか聞こうとして、やめた。校舎の壁が変形し、巨大な砲身が現れ始めたからだ。まるで戦艦の主砲のようなサイズ。
「あの校舎は戦艦を改造したもんでな、我らが誇るインチキ技術の結晶だ。飛べるかはまだ試してないらしいが、主砲は撃てる」
「意味わかんねーです…」
つまりあの校舎は元は戦艦だったということらしい。意味が分からない。
「ちなみに俺たちが学生だった頃はリーンホースで、そん時は飛べた」
「聞いてないっす」
『ゴッドフリート、撃てー!』
マリューの号令とともに砲身から放たれた光が、数多の敵を飲み込んだ。
「す、すげえ…」
学校がビームを出して敵を蹴散らすという、はたから見ればシュールな光景にシンは呆れながらも驚嘆の声をあげる。
「流石だぜ、マリュー! さあ、このまま一気に――って、おい坊主!」
「え? …うわっ!」
敵に大打撃を与えたことでわずかに気が緩んでしまったのか、それとも状況についていけなかったのか。
棒立ち状態のデスティニーがゾロの接近を許していた。ゾロはすでにサーベルを手に持っており、反撃は間に合いそうにない。
「シン!」
その時。横から飛んできた緑色のビームが近づいてくるゾロを打ち抜いた。
「うっそ、当たったよ…」
「ここぞという時は当たるのよ!」
聞こえてきたのは少女二人の声。レーダーに大小二つの影が映っていた。

466 : 光の翼番外編 日登町防衛戦(5) 4/62016/01/25(月) 11:54:31.52 ID:qClcKGx+0
「インパルスとレグナント…ルナマリアとルイスか!」
「…はぁ。三馬鹿娘のもう一人はどうした?」
もう何を言う気も起きないらしいルペが問いかけた。
「三馬鹿って…」
「あのそばかすの生意気な娘だよ!」
「ネーナですか? なんか宇宙に用があるって宇宙港に」
「こんな状況で宇宙に上がったのか!?」
ネオは驚愕した。宇宙港も無事ではないはずだ。いやむしろ、シャトルなどを目当てに積極的に狙われてもおかしくない。
「でもお兄さんたちと一緒だから大丈夫だって言ってましたよ」
「そんなわけないだろ…おっと!」
ルペのブルッケングに迫っていたゾロがビームに焼かれた。同時に、通信が入る。
「よそ見してんじゃねえよ」
相手はデシル・ガレットだった。ただし、いつもの少年の姿ではなく大人の姿。
「あのクロノス…デシルの坊やかい! 何してんだ、とっととシェルターに入りな!」
「誰が坊やだ。そんな量産型に守られてると思うと危なっかしくて仕方ないんだよ。お前こそ俺に任せてシェルターに入ってな」
「はっ…生意気なことを言うようになった。あたしとしちゃ、あんたのほうが危なっかしいね」
砲撃機に乗っているというのに味方との連携を考えず敵のど真ん中で突撃しようとしたという話を聞いたことがある。
「兄さん、俺は裏手に回る!」
「私はゼハートさまのお供に!」
ゼハートとフラムの声。空にガンダムレギルスとそれに続くフォーンファルシアが見えた。
「勝手にしな! 俺も勝手にやる!」
「あの二人まで来たか…」
「俺の弟とは思えねえほど阿呆な腑抜け野郎だが、母校のピンチに駆けつけないほど薄情じゃねえってことだ。
 そして、そういう生徒はこの学校に大勢いるんだよ」
周囲を見渡すといつの間にか白黒以外のMS、すなわち味方が増えていることに気が付いた。
「…なんだい、この学校。男も女もいい奴がそろってるじゃないか」
普段は問題ばかり起こしてこちらを困らせるくせに、こういうときに限って。
わずかに涙腺が緩んだが、なんとなく癪だったので泣くのはやめた。

一方、中等部の校舎の防衛にあたっているのはハマーンだ。熟練のファンネルさばきで相手を次々と撃墜していた。
「(一度戻らなければエネルギーが持たんが…ここで私が離れるのはまずい…)」
校舎裏をファラ、表をハマーン。この二人だけで付近の防衛にあたっているのである。
明らかに人員不足だが、そこは熟練二人の腕とMSの性能で補っていた。しかしエネルギー切ればかりはどうしようもない。

467 : 光の翼番外編 日登町防衛戦(5) 5/62016/01/25(月) 11:55:16.82 ID:qClcKGx+0
「ハマーン先生!」
そろそろ限界かと思ったとき聞こえたのは、聞きなれた女生徒の声だった。
「…その声は」
「かわいい生徒が援軍にきました!」
「ハマーン先生はいったん戻ってください!」
「ここは任せて!」
ルナマリア・ホークルイス・ハレヴィ、ルー・ルカ、アレンビー・ビアズリー、ファ・ユイリィ。
よく問題を起こすクラスの女生徒たちだ。
「…誤射や同士討ちはするなよ、貴様ら」
「あ、ひっどい!」
「こういうときはちゃんとするんですから、私たち!」
「――まあ、助かった。礼は言っておく。私は一度エネルギーの補給に戻る。…この場を頼むぞ」
「うわ、ハマーン先生が私たちに頼み事! しかもお礼も言われた!」
「明日は雪かしら…」
あんまりな言いよう。ファがコックピットで頭を抱えているのが見えるようだ。
少し感動して見直したと思ったらこの態度である。しかし、いつも通りの態度に少しだけ安心した。気張りすぎるとろくなことにならない。
「ことが終わったら覚悟しろよ、貴様ら」
実は怒っていないが、そういうフリはしておく。アクシズのハマーン・カーンは意地っ張りなのだ。

「頼まれちゃった以上は、頑張るしかないよね」
校舎へと向かったキュベレイを見て、ルナマリアが呟いた。
「ルナ、シンと一緒じゃなくていいの?」
「私でも時と場合くらい弁えるわよ。今は学校を守ることが最優先!」
「あらかっこいい。あんた本当にルナマリアさん?」
「ひどっ!」
「ハマーン先生に感謝されるなんてね。ネーナの奴の悔しがる顔が目に浮かぶわ」
いつもハマーンに怒られている悪友の顔を思い出す。
「(宇宙で何してるのか知らないけど。悪いことではないんでしょ)」
帰ってきたらドヤ顔であることないこと自慢してくるはずだ。だから、こちらも負けないような武勇伝を語ってやるのだ。
そう意気込んで、ルイスは気を引き締めた。
「目にもの見せてやるわよ、みんな!」
母校を守るため、少女たちも戦場へ駆けていく。

468 : 通常の名無しさんの3倍2016/01/25(月) 11:59:53.02 ID:qClcKGx+0
一方、AGE-2ダブルバレットに乗ったアセムは中等部の校舎裏で圧倒的多数を相手に見事な立ち回りを見せるゲンガオゾの姿を見つけた。
「そのゲンガオゾ、ファラ先生!? ザンネックに乗ってたんじゃ…」
「ザンネック? こんな状況であんな取り回しの悪いマシンを使うわけないだろ」
確かに、ザンネック・キャノンによる超長距離射撃が持ち味のザンネックを乱戦時に持ち出す意味は薄い。むしろ接近戦は苦手な部類だ。
使おうと思えば使えるだろうが、この状況ならゲンガオゾで戦ったほうがいいだろう。
「じゃあ…」
先ほどキオはファラを――ザンネックを追うと言って校舎を出て行ったのだ。しかしファラはザンネックになど乗っていないという。
キオが追っているザンネックは誰の機体なのか。アセムの顔から血の気が引いた。
「アセム?」
「すみません、先生! 俺キオを――」
言いかけたその時、AGE-2の隣を光線が通り抜けた。
「え…」
「俺を置いてどこに行こうってんだ、ガンダム…」
射線をたどると、一機の黒いガンダム――ネオガンダム一号機がGバードの銃口をこちらに向けているのが見えた。
「いい具合だな、このバーサーカーシステムってのは。次から次へ闘志が沸き上がってくる…!」
「お前…」
「あの白黒どものリーダー格ってとこかね…素直に通しちゃくれないみたいだ」
「当たり前だ…俺と戦え、ガンダム!」
ファラに任せ、戦わずに逃げるか。いや、ガンダムを相手に逃げ切る自信はない。そもそもファラにこれ以上負担をかけるわけにはいかない。
ならばとるべき道は一つだ。
「(早く倒して、キオを助けに行く!)」
周りを巻き込みながら、白と黒の機体が激突した。


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最終更新:2017年05月24日 21:01