部屋には一人。たった一人だけ少女がいる。
陶磁器のような白い肌に結った金髪。
しかし、その西洋人形のような容貌は、些かくたびれているようだった。
白い肌には青みが混じり、髪は所々乱れている。
それもそのはず、人が、殺されたのだ。
まるで、腐った果実のようだった。
飛び散る肉片は生暖かさをもち、ドロリと溢れ出る赤黒い液体が止めどなく床を汚す。
その死体には顔がない。もはや『誰か』であるそれは鮮烈に瞼の裏に滲んで、染みを作った。
そうして、彼女は削られる。そうして、彼女は孤独になる。
誰が味方か、或いは鬼か。不透明なままの追いかけっこに暗闇を落ちて行くような感覚になる。
先が見えない。
死にたくないのなら殺せ。それが真理だとでも言うかのように告げる口ぶりに体が凍りつく。
手から温度が失せる。
自分の仲間は無事だろうか。会ってどうする。銃口を向けられたら?刃先を向けられたら?まさか黙って受け入れる訳あるまい。
喉の奥から恐れと怖れが込み上げて、嘔吐きそうになる。
然れど、彼女は死んでいなかった。
きっとそれは空元気だ。なけなしのプライドだ。
それでも縋ることの出来るものがある。正しく信じられるものがある。
きっと皆は大丈夫。
何の根拠もない。
きっと私は大丈夫。
何の確信もない。
でも、それでも。
一人の少女は立ち上がった。
部屋には一人。たったひとりだけ少女がいる。
赤みの差した頬におかっぱの黒髪。
しかし、その日本人形のような容貌は、ひどく荒れた果てているようだった。
こけた頬に土色の肌。髪はぐちゃぐちゃに乱れている。
床に四肢投げ出して、時々ピクリと痙攣する。
仲間が死んだ。それはあまりにも唐突で、悲劇的で。
あまりにもあんまりな最期。モノになった彼女は、瞳と瞼の隙間にもうしかいない。
思えば沢山のことがあった。風紀委員の活動も戦車道もずっと一緒だった。私がソド子の隣に立って、パゾ美もいっしょにいて。
目を閉じる。おもい出す。目を開く。霧散する。
もう一度、目をとじて彼女の顔をおもいだして、
浮かべた頭に、硫黄と火とが降り注いだ。
「あ、ああ」
腕と足が震える。自分の意しで制御で来ない。ただ、ただ、ガタガタと床に四肢を打ち付ける音だけが頭の中に響く。
咀嚼。
グニャリと音を立てて視界が歪む。ぐるぐる回る。霧が被さる。溶けて消え去る。
前後不覚。落ちる。落ちる。
咀嚼。
底が見えない。顔が、体が動かない。ただ彼女の顔が、黒く、黒く、黒く、黒く!
「あ、ああああ、あ、あ」
喘ぐ。苦しい!
肺から空気が抜けて、息が掠れる。
咀嚼する。
胸が痛い。頭が痛い。体の中身全部が痛くて、吐き出しそうになる。
咀嚼、する。
光が点滅する。耳鳴りがずっと響く。鉄と酸の混じった味と、ヘドロの臭いが胃を引き絞る。
咀嚼、咀嚼、咀嚼―――
「ああ、ああああああ!!!」
どうして彼女なのだ。彼女の何が間違っていたのだ。
彼女は正義だった。正しく、正しさを求めていた。
なら、何故か彼女が殺された。何故、なぜ。
きっと間違っているのは私達。彼女が死んだのにわたし達は生きている。
無意味に死んだ彼女。無意味に死んだ彼女。
みんな、みんな死んでしまえ
ガチャリ
ガチャリ
とびらが2回、開く音
「あはははははははは!」
死神だ。しにがみがやって来た。
二つの目がこちらをのぞく。
きっとわたしをころす。みんなころす、やっと、やっと、ようやく。
そうだ。一緒。いっしょだ
均等に、きんとうに。平等に、びょうどうに。
みんな、かのじょといっしょだ。
あれ、かのじょってだれだっけ?
しにがみがつぶやく。ぶつぶつ、ぶつぶつ。
わたしは笑う。けらけら、おかしくってたまらない。
青いおめめ。金色のかみ。しにがみってきれい。
わたしは?わたしの顔はみえない?
かのじょのかおをけさないで!
まだ、眠たくないよ。起きて、やらなくっちゃ。わすれちゃたこと。やらなくっちゃ。
お話しよう?わたしのこと。あなたのこと。みんなのこと。
かのじょのなまえをおしえてよ!!
つめたいな。あったかいほうがいいのに。
くるしいな。きもちいいほうがいいのに。
うたをうたった。うなりごえがした。
においをかいだ。よだれのにおいだ。
かゆい。かいた。しずくがこぼれる。
おなかがへった。もうよるなのかな。
まっくらだ。でもなにかがみえるきがする
「出来ることなら、もっと早く……御免なさい」
あ、ソド
パンッ
【後藤モヨ子 死亡確認】
【残り 34人】
部屋には一人。たった一人だけ少女がいる。
陶磁器のような白い肌に結った金髪。
しかし、その西洋人形のような容貌は、些かくたびれているようだった。
白い肌には青みが混じり、髪は所々乱れている。
目の前の自分が殺したモノを見下ろす。
叫び声を察知して見に来たが、既に正気を失っていた。それも、最悪の方法で。
だから、殺した。
自分が間違っていたのか。或いは救いとなったのか。
判らない。悩んでも、どうにもならなくて重くのしかかる。
これが、こんなことがあの男の望んだことなのか。
「 …………こんな格言があるわ。 『絶対に屈服してはならない。絶対に、絶対に、絶対に』」
誓いだった。覚悟だった。立ち上がるという意思だった。
自分がここで震えている訳にはいかない。
自分の仲間がここにいるのなら。或いは、かつて戦った相手がここにいるのなら。
自分の手が例え汚れているのだとしても、自分には義務があるのだ。この手は差し伸べるべき手なのだ。
死なない。絶対に。
傍らに投げ捨ててある支給品を拾った。
きっと、この惨劇を終わらせてみせる。必ず皆で生きて帰ってみせる。
彼女の死が『意味』と『価値』のあるものとなるように。
踏んだ錠剤が一つ、音を立てて砕けた。
【A-7・民家/一日目・朝】
【
ダージリン@フリー】
[状態]軽度の疲労
[装備]聖グロリアーナ女学院の制服
[道具]基本支給品、不明支給品(ナイフ、銃器、その他)、後藤モヨ子の支給品
[思考・状況]
基本行動方針:『 私は庶民の味方だ。そういう人間なんだ』
[備考]
後藤モヨ子の支給品の内、昭五式水筒、信号灯、スマートフォン、不明支給品(ナイフ、銃器)を獲得しています。
後藤モヨ子の支給品:基本支給品、不明支給品(ナイフ、銃器 )、ヒロポン(3/50)
登場順
最終更新:2016年08月16日 12:58