視界を飛びずさる枝葉。耳元を擦った草。
 木の根を飛び越え揺れる視界と、突き出した己の腕。握った拳銃。
 人はいないというのに、何かが蠢く気配――――酸素を奪われて白くぼやけつつあるその光景の中、後ろに流される。

 殺す――殺すしか、ない。
 今ここで逃げ出されて殺せないのは――怖い。
 それが、友人やドゥーチェの耳に入ってしまうのも――怖い。
 それよりも怖いのは、彼女たちまでもがカルパッチョと同じ人間と思われてしまうこと。
 殺人者だと糾弾され、逆さ吊りにされるドゥーチェ。
 それを止めようとして、腹に弾丸を撃ち込まれて倒れるペパロニ。
 殺人者の一味だろうと、弁解も聞き入れられずに棒で囲んで叩かれるカエサル。
 それは、避けなくてはならない。

 賽は既に投げられた――――かのローマの、友人の彼女が好きな、偉人の言葉であるが。
 今まさに、カルパッチョの置かれた状況はそれだ。
 だから、殺さなくてはならない。
 故に、殺すしか他ない。
 殺す以外の手段なんて――――もうどうにもならないのである。

 全力疾走に奪われる酸素の中、何とか彼女の頭が判断した結論はそれだ。
 だから、撃たなければならない。
 故に、討つしかない。
 これは仕方のないことだ。
 これは仕方のない事なのだ。
 言い訳が――――頭をぐるぐると渦巻く。
 そして運命の神は、彼女に整理の時間を与えぬまま、賽の目を決めた。

「きゃっ!?」

 倒れた、小さな背中。すぐに追いつく。
 木の根に足を引っかけてしまったのか、倒れ伏したアキの身体。
 もうすぐ森を抜けて――ゴルフ場の芝生へと足を踏み入れる矢先であったのに。青空の元へと向かえたのに。
 運命は彼女を見放し、カルパッチョに味方した――――。
 いや、本当に味方したというのか。

「う、撃たないで……!」

 涙を浮かべて、首を振るアキの瞳がやけに大きく見える。
 上がり切った息と、服を湿らせる汗の大河。上下する照準。
 自分がこれからするのは、たぶんきっと身勝手極まりなくて――――相手からしたら、なんと言われても受け入れられない事だろう。
 だが。
 その身勝手に更に上塗りをさせて貰えるなら――――本当に自分勝手極まりないが――――先ほどまでの方がよかった。

 顔を見なければ。
 背中を向けたままなら、こうも苦々しい気分にならずに、引き金を引けたのだから。
 深呼吸を一つ。
 じりと、倒れたままアキが後退する。せめてと地面を蹴り空転するその足の、白さが眩しい。
 ああ。
 ここが、太陽の下でなくてよかった。
 だったらもう少し、もっともっと引き金は重くなっていただろうと――――照準を合わせて。

「え……?」

 足元に、何かが転がり落ちた。
 灰色の、筒状の――――――噴出する白煙。

「かっ」

 定めた覚悟も、集めた殺意をも根こそぎ奪うような強烈な刺激。
 細かい熱した砂の粒が喉と目玉を余すことなく多い、栗の毬(イガ)めいて喉奥と眼球に棘を突き立てる。
 辛子を直接粘膜と皮膚に塗りたくられたような灼熱の渇きと苦痛。

 たまらず噎せる。舌が自然に突き出て、喉の異物を吐き出さんと咳き込む。
 吸おうと口を開けば、体が吐こうと咳を出す。
 目玉を押さえつけたい。押さえたら痛みが消えるだろうか。いや、触ったら余計に痛みが来るかもしれない。痛い。
 細められた瞳を、吊り上がり引き締められた目元を、視界を涙が滲ませてそれが垂れ落ちる。

 連続した咳き込みと異物感に、すぐさま肩の付け根と胸の筋肉が引き攣った。
 冷汗が止まらない。
 寄生生物めいた宇宙人の幼体に顔面を拘束されたように顔を抑えながら、カルパッチョは奇妙とも呼べる踊りのような蹈鞴を踏んでいた。
 何かの毒ガスかと思える、苛烈な反応。

 汗を掻いた皮膚まで痛い。背中が焼き付いて突っ張る。
 苦悶の呻きを漏らして、哀れカルパッチョは軟体タコの生け作りめいた不思議なダンスを躍っていた。

 その遠くで、声が聞こえる。

「あ、プラウダの……」
ノンナです。……さあ、早く」

 銃を向けようと、片手を上げる――もう片方は膝。丸まった背中。呻く。腕が振るえる。
 涙の視界の中、相手の背中が遠くなる。引き金を引いても絶対に当たらない確信。
 それどころか、こんな状態では逆襲の銃撃すら躱せない。
 ガスから、相手から離れなければ――――。
 顔を抑えるカルパッチョは、這う這うの体で森の奥へと逃げ込んだ。


 ◇ ◆ ◇


 フードコートの椅子に腰を下ろした桃は、一先ずはと吐息を漏らした。

「あとは何か、軽く口に入れられるものも選んでおいた方がいいかもしれんな」

 急な糖分が欲しくなるとか、少し小腹が減るなんてこともあるかもしれない。
 こんな場面で悠長に昼食だから一旦休もうと言っても――最悪誰かに出会ってしまって――それが聞き入れられない可能性もある。
 それにこの食料、正直味がどうなのかまでは解らない。
 桃の忠言を理解したのか、愛里寿も幾つか好みなのか菓子を選んでいる。
 一頻り、つまみ上げてからの事だった。

「お金は……」
「ん?」
「お金は、どうしよう?」

 恐らくは独り言だったのだろうが、言われて桃は押し黙った。
 この場はもう、殲滅戦のフィールドだ。撃ち合いの場面だ。建設中の看板や保育園を戦車が吹っ飛ばすように、あればお構いなしのそういう舞台だ。
 使えるものは使って何も問題ない。サバイバルだ。自然の摂理なのだ。
 愛里寿の無言と、桃の無言が交わり……。

 溜め息が一つ。
 唇を結んだまま掴み取った商品の幾つかを棚に戻し、代わりにレジに一枚札を叩き付けた。
 それからドリンクバーの分もだと、もう一枚叩き付ける。
 親友が、桃ちゃんそういうとこ小市民だよねと笑った気がするが――うるさいと脳内で怒鳴る。

「……意外に持ってないんだ」
「う、うるさい! いいから選べ!」

 若干十三歳に財布の心配をされるとは、なんとも屈辱的だった。


「……それじゃあ、本当にいいんだな?」

 桃の問いかけに愛里寿が小さく頷いた。
 結局広げた武器のうち、サブマシンガンは桃が扱うことになった。
 彼女としても訓練なしに――しかも人に向けてなんて――叶うなら向けたはない――ちゃんと使えるとも思えなかったが、
 それよりも、自分よりなおも年若い少女に持たせる方が問題に思えた。
 代わりに、愛里寿には桃に支給されたデリンジャーを手渡した。
 自己防衛にはそれでも心許ない感じもするが、彼女がそれでいいと言ったのでは桃に否定できるものでもない。

「チームリーダーも、私でいいんだな?」
「……お願い」
「ああ、任せろ」

 ……どこまでできるかは判らないがという言葉は、飲み込む。

「チーム名は……自由か……」

 しかし、自由と言われても――と特に共通点も思い付かない。
 困ったものだ、と首を捻る。
 新・カメさんチーム――というのは避けたいし、ならば広報さんチームだろうか? ……それも変だ。
 だったら水族館さんチームとか、それともペンギンさんチームとか――――。
 そこまで考えて、気付いた。
 ネーミングセンスが、毒されていた。センスのない方向に。

 ……と。

「ボコ」
「え?」
「ボコがいい」

 ……いや、あんな怪我だらけの可愛くもないぬいぐるみとは、余りにも不吉ではないか。
 なんか、生き残れる気がしない。
 散々怪我をしてボコボコになって、そのままくたばりそう。

「……ちょっと待て。不吉じゃないか?」
「ボコなら……最後まで、諦めないから」
「……」
「……ボコは、絶対に、気持ちじゃ負けないから」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……判った。なら、ボコグマさんチームで――」
「ボコられグマのボコ」
「……」
「ボコられグマの、ボコだから」

 ボコグマなんて言うパチ臭い名前では断じてないと、ちょっと強めに目を向けられる。

「……な、なら、ボコられグマのボコさんチームだな? 判った」

 とりあえず、指紋認証は済ませた。
 ボコられグマのボコさんチーム……非常にセンスの欠片もない名前であると思うが。
 ようやく愛里寿が子供らしい我が儘を言い出したことに、桃は少し安心していた。

「できたらバックヤードも見ておくか……」

 水族館は当然表に向けられている以外に、生き物の飼育――その管理にかかる裏方もまた膨大なものになる。
 普段は中々お目にかかる機会はないが、こんな機会なのだ。
 調べておいてもいいだろうし、万が一となったときに立てこもり、或いは隠れる用意となるかもしれない。
 しかしそれにしても――管理室には、どうやって入るんだろう。
 一般の客に入場されると困るとなると、施設の外に裏口でもあるのか。
 それとも、この館内にあるのか。
 どうしたものかと考えて――――先ほどまで、外から不吉な遠雷が響いていた。

 迷う。
 だけども、ここから身を晒す事は避けておきたい。
 そもそも水族館に人がいると思われなければ、生存の可能性もグッと上がるのだから。
 ペットボトルや菓子を詰め込んだ背嚢はパンパンに膨らみ、女性の割に体格がいい桃でも担ぐと少し声が出る。
 特に肩紐。かなり食い込む。今後を考えるなら、タオルでも挟んでおくのがいいかもしれない。
 愛里寿を見る――桃でこうなら、愛里寿は余計にというところだろうが……。

「これぐらいは、大丈夫だから」
「……そうか」

 本人がそうするというのであれば、そこに桃から踏み出すことはできない。
 決して強くはない――――本当の意味で、踏み出して重荷を持てるだけには、まだ心の余裕がないのだから。
 そしてさっきと逆順で階段を上る。
 右手には室内プール――――というか、イルカのショー会場と観客席。青いプールベンチが並ぶ。
 ここには、何もないだろう。
 そう頷いて、館内を更に奥に進む――――その廊下だった。

「あ……」
「ん、どうした?」
「何も、食べてないのかも……」

 愛里寿が声を上げたその向こうを見てみれば――数羽のペンギン。
 ショーに慣れたのか人を見付けたペンギンは、ガラスの遥か向こうだというのに桃たちに近寄らんと頼りない足取りを向けていた。
 つぶらな、黒い瞳。
 自分たちだけでは生きて行けず、取り残された瞳。
 何も知らずに信じて――人と言うだけで、無条件に歩み寄ろうとする瞳。
 あまりにも覚束ない足取りで、懸命に、桃たちの元を目指している。

 あのペンギンには、自分たちがどう見えているのだろうか。
 友人のつもりなのだろうか。恩人のつもりなのだろうか。情を向けているのだろうか。安心しているのだろうか。
 ただの動物だから、何も考えていないのかもしれない。
 だけども――――本当によちよちと頼りない動きで二人目掛けて歩こうとするその様を眺めると、言い知れないものが胸奥からこみあげてきた。

「……行くぞ。上手く行けば、冷蔵庫に餌が保存されているかもしれない」
「そうね……」

 その、無垢な瞳に背中を向けて――来た道を引き返し、二人は水族館の外へと足を踏み出した。
 耐えられない。
 何も知らずに生きていこうとしている彼らの姿を見てしまったら、耐えられない。
 そこで、だ。
 金髪を翻して、水族館を目指す影が見えたのは。

「あれは……アンツィオか?」

 少し――――少しは頼りになりそうな相手ということで、内心溜飲を下げたのは内緒だ。
 だが、次の瞬間には硬直する。
 その手には、太陽光を反射する――リボルバー拳銃が握られていたのだから。
 既にそこで、「ひっ」と声を上げた。
 まだ、何の準備もできていない。生き残ると決めたばかりだ。それなのにいきなりこんなのとは――聞いていない。
 これが授業なら、テスト勉強の時間も確保できないぐらい無茶な話だ。

 若干尻ごみしそうになるそこで――桃よりも早く、後ずさる愛里寿。ちゃぽんと手の中で揺れた水筒。
 そうだ、いかんと――気持ちを入れ直そうとする。
 だけども、ひょっとしたらこのまま二人で逃げた方がいいかもしれない。隠れていればやり過ごせるかも。
 妙案だと思ったが――――時すでに遅し。二人の姿を捉えたアンツィオの生徒――カルパッチョは、歩行の速度を上げていた。
 ぐ、とサブマシンガンのストックを握りしめる。
 やるしない。やるんだ。ここでやるしか――――己を奮い立たせて、声を上げた。

「それ以上前に進むな! 武器を捨てろ!」

 思ったよりも、ちゃんと声が出た。自分を褒めたくなった。
 そのまま、続ける。

「いいか、それ以上不審なことをしたらこっちも撃――――」

 銃声。

「ほ、本当に撃ってくる奴があるかぁ!」

 完全に涙声になりながらも、桃が片手を上げて怒鳴る。
 うるさいと、返答には銃口。

「お前、子供相手に銃を向けて恥ずかしくないのか! ひぃっ!? ひいいぃぃぃぃぃいっ!?」

 銃声、二つ。
 コンクリートを削って、煙が上がった。肝が冷える、空気を引き裂く鋼鉄の爪音。
 理屈ではない。本能だ。
 あんなものを目の前にして冷静さを保つなんてことは、桃には不可能だった。
 愛里寿の手を引いて、一目散に逃げ直る。

 誰か何とかしろと叫びたかったが、ここには何とかしてくれる誰かなどいない。
 やるしかない。
 愛里寿は真っ青になって、桃の手を強く握りしめている。
 これが――――この華奢な、しかし強く送られる力が、今の桃の責任。命の重さ。

「こ、ここは水族館だ! 何とかなる!」

 言いながら、奥を目指して走る。階段を駆け上がる。先ほどまでの感傷なんて知ったことかと、必死に足を動かす。
 上り切れば、骨格が宙づりにされた、明るい灰色のフロアに出た。
 相手も追ってきているだろう。だが、走っては来ていない。追い詰めて狩るつもりなのか。遊びのつもりなのか。

 悔しさを覚えるが、事実でもある――いや!
 いや、何とかしてやる。何とかできたらいい。何とかなると思う。
 何とかなる。そうとも。
 ここなら仮に――――というかあまり成功を思いたくない――――射撃が失敗しても、足止めになるものは多い。
 そう、何とかなる。何とかなる。

「大丈夫だ……大丈夫……」

 多量の水が襲い掛かれば無事とは行くまいし、それこそパニックムービーさながらにサメなどが飛び出しぶつかれば、良くて戦闘不能となる。
 自分が巻き込まれないように注意を払えば、防御としては最高の使い道となるだろう。

「なんとか……」

 だけれども――だけれども。
 撃つのか? 殺すのか? 襲撃者は死なない可能性もある。桃たちも無事生き残る。だけど――水から出たら確実に、魚は死ぬ。
 正直なところ、思い入れがある訳ではない。
 でも――――何も知らないで、電源が落とされたような街の中で、辛うじて起動している非常電源で、ただ生きている彼らに死を押し付けるのか?
 そんな――――そんな残酷なことを?

(ええいっ!)

 心の中で、喝を入れる。
 そうこうしている間にも、未だ自分たちに危機は迫りくるのだ。迷えば迷うだけ、魚どころか自分と愛里寿の死が近づく。

 だから――――……。
 そう、こんなこと、悩むことすら馬鹿馬鹿しい。考えるだけ無意味だ。魚を大事にして自分が死にましたなんて、悪い冗談にもならない。
 会長なら、「しょーがないよねー」と申し訳なさそうに笑いながら済ませるだろう。
 柚子は、「ごめんね……」と悩んだ末に、勇気を出して涙を堪えるに違いない。
 自分だって、こう考えながらもいざその場に行けばなりふり構わずに撃ってしまうかもしれない。
 だが――――だけど――――。

「クソぉ!」

 あのペンギンを。
 桃たちの事情など露知らず悠々と水槽を泳いでいる熱帯魚を見ていたら、とてもではないが――――そんな気分になれなかった。

「どうするの……?」
「しょ、消火器だ! 消火器がある!」

 視界を潰す。
 それで、相手の弾が切れるまで待って――――逃げ出す。一目散に逃げる。どうにか逃げ延びる。
 そうだ、それしかない。
 階段を上がってくるカルパッチョの姿を見届けた瞬間、消火器目掛けて構えたサブマシンガンの引き金を目いっぱいに絞る。

「喰らええええええ――――――!」

 ……さて。
 撃ち尽くされた弾丸と、床と音を立てた薬莢。それはいいとしよう。
 銃口からは硝煙の煙が立ち上り、

「あ……ああ……」

 ――――ここで外すか? 一発残らず? 完全に?

「うわあああああああああ――――――――ッ!」

 勢いをつけて、サブマシンガンを投げ飛ばす。
 しかし、それすらも無駄な抵抗かと思われたのか。
 カルパッチョは僅かに身を捩る事もせず、悲しき放物線と共にサブマシンガンは階段へと吸い込まれていった。
 滑り落ちる音。桃の吐息。カルパッチョの足音――つまりは静寂。

「貴女は、たかちゃんの学校の……」
「か、河嶋桃だ! そんなものを向けて、なんのつもりだ!」
「何のつもりって……もう少ししたら、判ると思います」
「もう少しとはどういうこ――――ひぃっ」

 改めて、銃口を構え直される。身を強張らせた。言葉の意味。
 確実に撃ち抜くためか、徐々に詰められる距離。
 それでも、背を向ける事はできない。向けたその瞬間に、瞬く間に撃ち抜かれるであろうから。
 ガタガタと、震える桃。距離は残り、七メートル。
 どうしようかとあたりを見回して――所詮は無駄な抵抗かと思われているのかそれとも――咄嗟に愛里寿が両手で握りしめる水筒を掴み取った。
 勢いをつける。へっぴり腰。カルパッチョは動じない。
 案の定、水筒の蓋は何の呪いか空中で外れ、唯一の頼りである質量すらも宙に投げ出した。

 最早何の障害たりえないそれが、カルパッチョにぶつかって――

「~~~~~~~~~~~~~~~っ」

 軽い音と共に、カルパッチョが呻き声を上げた。
 これは、桃の知る由ではないが――――。
 彼女が以前浴びた催涙ガスというのは、水に反応して作用し痛みを生み出すもの。
 服に残っていたそれが、無様に飛んだ水しぶきに濡れた服と共に、カルパッチョに再びの痛みを齎したのだ。

「今だ――――んなっ!?」

 しかし、行かせまいと壁に撃ち込まれた弾丸。
 走り出そうとしたその体から、力があっという間に抜けていく。
 屈み腰にリボルバーを向けるカルパッチョの、苦悶に満ちた瞳。

「ごめんなさい。……でも、こうしないと、生き残れないから」

 今、桃から受けた抵抗というのは――――それがせめてもの贖罪であると言いたげな、苦々しい顔のカルパッチョ。
 最後の抵抗は、不発に終わった。
 五メートル。
 ここまで来たら否応なく意識せざるを得ない、死線。キルゾーン。
 震える愛里寿がポケットに手を伸ばそうとするその時に、桃が抱いていたのは諦め――――

「……一発だ」

 ――――では、なかった。

「え……?」
「相手の残りは一発だ! 一発に違いない! ……だから」

 呼び掛けられた愛里寿が向ける瞳。震えた目。
 桃の言わんとすることが理解できぬからではない。
 むしろ聡明な彼女はその意味をすぐに噛み締めてしまって――咀嚼できず、咀嚼はしたが嚥下はできず、それでも意味を理解した。
 桃が腰を沈める。

 怖い。膝が笑う。泣き出しそうだ。耐えきれない。嫌だ。死にたくない。助けてほしい。どうにかしてくれ――――だけど。
 だけども。
 もし、これが今自分にできることというのなら。
 本当に無様で、本当に情けなくて、本当にもっと上手にできないのかとか――まだ誰かが助けてくれたり、相手が思い直してくれることを期待するけど。
 それでも。
 それでも桃にできるとしたら、体当たりでもして自分に銃口を引き付ける事ぐらいしか――。

 だが、しかし。
 それ以上、カルパッチョは近づかない。
 最後の策――――策と呼べないような精一杯の抵抗も、殺された。
 銃口は、桃の頭部を捉えている。
 結局のところ。
 桃にできることなんて――――きっと、なかったのだ。

 あとは、無慈悲な処刑が行われるだけだった。
 果たして、二人に向けられたリボルバー拳銃の撃鉄が蛇の鎌首めいて頭を擡げ――

「『君は私の贔屓の女優を退場させようとして、私の観劇の喜びを台無しにしてくれた』」

 突如として割り込んだ声に、停止した。

「いいこと? 勇気と犠牲の心は違うわ。勇気というのは、覚悟というのは……暗黒の海原で進むべき道を示す灯台のことよ?」

 コツコツと、階段を叩く足音。

「『君は私の贔屓の女優を退場させようとして、私の観劇の喜びを台無しにしてくれた』――」

 ぎょっとして振り向いたカルパッチョの指先が止まる。

「『よって、我らの名誉の章典に従い』」

 桃と愛里寿は、思わず目を向けた。

「『君に私を殺害する機会を与えよう』」

 それは道化めいた舞台台詞であり、あまりに不釣り合いな前口上。

「『私は今、ここで君に決闘を申し込む』」

 階段を悠々と昇り上がり姿を現したのは、聖グロリアーナの隊長。特徴的な金髪を結わったダージリン


「――――ッ」

 時間が戻る。
 硬直から立ち直ったカルパッチョが銃口を向けると同時に、彼女の隣の消火器は撃ち抜かれ白煙を吹き出した。
 何がと、桃と愛里寿の二人は伺う隙もない。
 白煙を掻き分けて、ダージリンが飛び出して来たのだから。

「行けますわね?」

 あまりに堂々と舞台に登場したかと思えば、まさか拳銃を握った凶手の真横を駆け抜けてきたダージリン。悪戯っぽく笑う。
 思わず口を開いてしまって――可愛らしい犬歯が剥き出しになって――すぐのちに己を取り戻した桃は、頷くなり愛里寿を伴って走り出した。
 煙を補うように、銃声が響く。
 コンクリートの撃ちっぱなしの壁に火花が散り、展示用のガラスショーケースが罅割れる。
 跳弾が宙づりにされたクジラの骨格模型を穿ち、破片をグレーのリノリウムの床にばら撒いた。
 ダージリンは殿を務めて弾幕を張る。弾切れになったのか、カルパッチョは悔しげな声と共に頭を出さない。

 アクションムービーめいた銃撃戦。
 巻き込まれた水槽が爆発四散し、サーモスタットに保護された熱帯魚は訳も判らず穴へと巻き込まれた。
 火花が舞う。支えを打ち抜かれた骨格模型が空中で一旦停止したのち重力のくびきを思い出し落下。再び爆発めいた四散。
 カルパッチョは悲鳴を上げる。直撃すれば、大怪我をしたかもしれない。
 その間に――――銃撃相手は、消えていた。

 息せききって階段を駆け下り、左右を見回した桃は銃声に押されるように手近な部屋へと飛び込んだ。
 何とか首の皮が繋がった、救世主。
 十分に距離を取ったスタッフルームの中で膝に手を当てて喘ぐ桃の真横、開く扉。
 俄に悲鳴をあげそうになった桃に構わず、悠々とダージリンは部屋へとエントリーを果たした。
 そして、一言。

「……こんな格言を知っていて? 『北風がヴァイキングを作った』」
「……?」

 どこか困ったようなダージリンの笑い。

アッサムから多少は聞いてるわ。廃校の件、随分苦労されたみたいで……困難とは乗り越える為にあるとも言うけど……お強くなられたのね」
「私は……」
「謙虚と卑下は違うもの……貴女は立派よ。そうではなくて?」
「う……」

 意外なる称賛の声。それに、衒いもない。
 面映ゆい気持ちを誤魔化すように、桃は声を張り上げた。

「そ、それにしても! なんださっきのは!」
「シェイクスピア……だったと思うのだけれど……違ったかしら?」
「そうじゃない! なんで声をかけずに撃たなかったんだ!?」

 余計なことをしていなければ、今もこうしてドアの向こうを気にする必要はなかった。
 突き止められて逃げ場のない場所で、撃ち殺されることを気にする必要はなかった。
 咎める桃の怒声に――まるで紅茶でも啜るように軽く瞳を閉じて、

「あら、面白いことを言うのね。つまりこう言いたいのかしら? ――――『横合いから来て』『何も気付いてない無抵抗の人間を』『撃ち殺せ』と」
「ぁ」

 言われて――血の気が引いた。
 確かに恐怖を感じていたし、身の安全を考えたらそうなるし、合理的に考えたらこの結論が正しい。
 しかし、それは桃の考える正しさと――同じ方向か?
 弾丸を浴びせられるという恐慌に激昂してしまった彼女を誰が咎められるかという話か、それとも無責任だと言うかはさておき……。

「いや、わ、私は……」
「……ごめんなさい、冗談が過ぎたわ。初めてここで“人”に会えたから」
「あ、いや……その……」

 涼しく頭を下げたダージリンは、起こしたその顔は、柔和というより……何かを期待して心待ちにしているように不思議な笑みだった。
 恐怖を噛み殺そうとして、それでもなんとか息を吸おうとした笑みではない。
 腹から浮かんでくる何かを噛み堪えようとしているような、好戦的とは一見感じさせない好戦的な笑み。
 うすら寒いものを感じながら、桃は二の句を飲み込んだ。

「それで、ここからどうするんだ?」

 選択と責任を投げ渡す言葉に若干の自己嫌悪を覚えて――でも、愛里寿がいるから余計に頼りになる人間に頼るのは必然だと己に訴えて。

「そうね……先ほどと、同じなのはどうかしら」
「先ほどと言うと……――まさか一人で!?」
「ええ……その方が相手も圧迫感を感じずに済むかもしれないし……あの戸惑った様子なら、まだ、説得の余地があるのでなくて?」

 本当か、と問い詰めたくなった。だけども、穏やかな笑みに殺される。

「貴女方二人はここから出る……今ならきっと、無事に出られるでしょう?」
「ま、待て! だ、だが――! …………だ、が」

 皆で挑んだ方が、数の上では優位だ――――それは机上の空論。人の死なない戦車道の話。
 だが、この場で? 撃てるのか? 本当に?
 撃てる、撃てない……或いは説得。ここでダージリン一人にやらせていいのか?
 だが、愛里寿は? 彼女も危険に付き合わせる? いいのか? だが一人にできるのか?
 そんな桃の葛藤を飲み込む風に、泰然と微笑みかけるのはダージリン。

「王には王の、料理人には料理人の道がある……いえ、私は別に王と言うつもりはないけれど――――人には役割がある。そうでしょう?」

 それは、他ならぬ桃が理解しているだろう?――そう問いかけるような目線。
 愛里寿に目を向ける。
 彼女は、何もできない自分では発言権がないのかと思っているのか――――桃の手を握って、じっと床を見ていた。
 それとも、打開策を考えているのかもしれない。
 戦車道と戦場での人の動かし方が似ているなら、或いは彼女の聡明さは頼りになるだろうが――。

「……」

 そして桃は、決断を下した。

 リボルバーの再装填を済ませたカルパッチョは、己を落ち着けるように水槽に手を当てて歩く。
 映画や西部劇の主人公が使うというのはよく知っていたが、それにしても装弾数が少ないというのはここまで心許ないものだとは思わなかった。
 追っていった先は上下に伸びる階段やアスレチックめいた鉄枠が並ぶ。
 ともすれば宇宙船めいていて、映画の中の近未来的な構造物を思わせる様相の塔の集まり。赤い魚のお頭がどこか不気味だ。

 カルパッチョは考えた。
 ここでは、隠れる場所も、行く場所の選択肢も多すぎる。
 どこかから狙われているかも知れないし、迂闊に撃てば簡単に弾切れしかねない。そもそもこの場にいないかも判らない。
 身を隠して俄かに逡巡――――その後、閃いた。
 出入り口を塞げば、基本的にどこへも行きようがない。
 別の入口から抜け出し市街地を目指そうとしたところで、それはカルパッチョの視界に入る。
 どちらにしても、袋のネズミも同然だ。

 カルパッチョが出入り口目掛けて踵を返そうとした、その矢先だった。
 物音。振り返れば、上ってくるエレベーター。
 大洗の電力供給は止まっているという話だったが、この施設には非常電源があるというのか。
 罠。或いは挑発。
 駆け寄ってみれば、エレベーターは最下層から上ってくるようだった。

「……」

 覚悟を決める。
 ――――手の震えは未だに酷い。それでも奮い立たせた。己は殺人者だと、言い聞かせる。
 握りしめたグリップが痛い。
 乗り込んだエレベーターの表示を眺めている――降りていく。下に。下に。地獄に。
 光の届かない海の底目掛けて。沈降していく。
 途中で通り過ぎる階に臨んだ水槽のサメ――――捕食者。海の絶対的な殺戮者。なら自分は?
 魚の薄切り。魚のカルパッチョは日本発祥――――ならば自分は?
 エレベーターが止まる。地獄の最下層。暗黒の海。歩き出した水槽で蠢くのは深海の生物たち。エイリアンめいた醜悪な体――ならば自分は?

 コツコツと、一歩ごとに己が作り替えられていく錯覚。
 薄暗い室内。どこから仕掛けてこられるか判らない。手の内の中のリボルバーだけが頼り。
 相手から殺されるかもしれない。
 そんな緊張と恐怖が、カルパッチョに免罪符を与えてくれる気がした。

「もし撃ち損なってしまったら、オリーフィアのようになると思わない?」

 深海を抜けたその先――――サメや魚、亀、一つの生態系を為すような筒状の大型水槽の前に彼女はいた。
 カルパッチョも、圧倒される大きさだった。
 こんな殺し合いの場でもなければ、足を落ち着けて眺めてみたい壮大さ。或いは友人と共に来るのも、いいかもしれない。
 手を当てて、その巨大な水槽を仰ぎ見るダージリン。
 餌が与えられていないからか、サメが捕食を繰り返したが故か水は濁り始めている。
 ダージリンが改めて振り返る。その手には、ワルサーPPK=英国が生んだ伝説的スパイ:ジェームズ・ボンドの愛用拳銃。
 騎士甲冑の如く銀色に磨かれたその銃身を見れば、どこまでも芝居がかった女だと思えた。

「オリーフィア…………先ほどのは……シェイクスピアでは、ないですよね?」

 カルパッチョとて詳しい訳ではないが、あんな口上を聞いた覚えはなかった。

「あら、そうなの?」

 しばしの沈黙。

「………………、……そうだったの? ………………そう」

 バツが悪そうに視線を落とすダージリン。釣られて、カルパッチョも何故か微笑んでいた。
 人と人、向き合えばその感情は伝染すると言うが……。
 自然といつのまにか、カルパッチョも恐怖や焦燥を忘れ始めていた。
 これが舞台のように――――大舞台に立つそのときのように、緊張感が締め付け抑える奇妙な高揚感が前腕を満たす。
 きっと今度は、無様を晒さない。

 心臓は喉元を乾かせ、口の中が渇くのに――どこか楽しみにしている自分がいる。それを他人事のように眺める余裕はない。
 喉が鳴る。
 言い訳のできない殺人の壇上に、足を掛けて上っているのが彼女にも判った。
 喉が焼き付いて、肌がひりつく。噛み殺すように頬が吊り上がる。
 このまま撃ち込んだならダージリンを貫いた弾丸は、正面から水槽のガラスを容易く破壊し、途方もない水量がカルパッチョに襲い掛かるというのに。
 それでも――奇妙な高揚感が、カルパッチョを包んでいた。

「『君は私の贔屓の女優を退場させようとして、私の観劇の喜びを台無しにしてくれた』――」

 声が重なる。
 一方のダージリンは、身震いを呼気として漏らした。
 知っているだろうか。人間の精神反応だ。
 たちの悪いジョーク。戦場で繰り返されるそれ――――「なんで女子供を撃ったかって? 撃ちやすいからだよ」悪趣味なジョーク。
 それは、痛みを感じぬからではない。
 誰よりも心の痛みを感じるから、だから、笑い飛ばしてジョークにして――「こんなことは大したことではないのだ」と言い聞かせる。
 混乱した人間は、耐えきれなくなった人間は、高揚感に身を任せる。
 だから、ダージリンも同じく埒外の痛みに心の平穏を保とうとした――――

「『よって、我らの名誉の章典に従い』」


 ――――のでは、ない。


「『君に私を殺害する機会を与えよう』」

 シェイクスピアに曰く――――世の中の関節は外れてしまった。あぁ、なんと呪われた因果か。それを直すために生まれてきたのか。
 ああ、そうだとも。
 そうだとも。

 正さねばならない。
 ここで、決めなくてはならない。
 あらゆる手を使って――――――あらゆる手段を使って。できること全てを使って、意味を作る。

 ――『死を忘れるな(メメント・モリ)』.


 ――――射殺した少女が、頭に新たに作った眼孔から、観客としてダージリンを眺めている。
 死ぬつもりはない。
 意志のある人間を殺させるつもりもない。殺されるつもりもない。
 精々、優雅に、胸を張って、己にできる最大のことをするしかない。

 だから――笑え。微笑め。絶対に屈するな。笑いは、威嚇と同じだ。
 誘い出したここ。
 マグナムの威力なら、確実にダージリンを貫いてなお、水槽を突き破る。
 そうなれば、巻き込まれるのはカルパッチョも同じ――――廊下で出会いがしらに発砲なんてのとは、余りにも遠い領域。

 なればこそ、そこに余地は存在する。
 事実として――――ダージリンの芝居がかった言動に、桃も、愛里寿も、目の前の少女も平穏を取り戻した。
 或いは間違った平穏かもしれない。
 だが、焦りを、恐怖を、焦燥を――――舞台に上げれば、人は飲み込んでいく。
 思考を、落ち着けていく。

「『私は今、ここで君に決闘を申し込む』」

 そこにこそ、人として行えることの余地が存在するのだ。
 舞台は整った。細工は流々。役者は上々――――――となれば後は。
 語り手と、筋書きを組み立てるしかない。



「誰か……誰か連れてこよう」

 愛里寿の手を引いて抜け出した河嶋桃は、誰でもなく自分に言い聞かせるようにそう呟いた。

「私にできるのは、それぐらいしか……」

 改めて銃撃という現実に晒されて、強い焦燥感と恐怖が内臓で躍り回っていた。吐きそうなぐらい、五月蝿い。
 一重に彼女が今だ立ち止まって泣き出さないのは――勿論成長もあるだろう。他に頼れる人間がいないというのもあるだろう。
 それ以上に、今ここには自分を頼るしかない人間がいるから。
 そんな彼女へと、チラリと視線を送ってみれば――

「……私たち」

 呟いた。

「私たち、だから」

 そう、桃とは視線を合わせずとも声を漏らして、手をきゅっと握り締めてくる。
 その声はどこか、悔しげな響きに満ちている。
 きっと、桃が抱いているものと愛里寿が持つものの正体は同じだ。
 ああ、だから――。
 そうだとも。本当なら、どうしてこんなことになったと。何が起きていると。誰か何とかしてくれと――泣き出しているかも知れないけど。

 この、今は。
 結局は他人任せに他ならないけど。

「……ああ、そうだな」

 この小さな手を離すわけにはいかないと――――それが自分にできることだと、桃は改めて頷いた。
 道を、南下する。
 生き残る為なら、身を隠しておく方がいいに決まっているけれども。
 それでも、そうだとしても――――自分達を庇ったダージリンを見過ごして震えることは、きっとそれは出来ることをすることは違うから。
 愛里寿の手をしっかりと握り返して、走り出した。
 ――――そこで、だ。突如としてスマートフォンが音を立てたのは。


 ◇ ◆ ◇


 森を抜けだした二人は、ひとまずは市街地に飛び込んでいた。
 徐々に昇り上がる太陽と、青い空。
 その下を駆ける女性にしては長身なノンナと、華奢で可愛らしいアキ。
 付け加えるとしたら、

「あの、ノンナさん……それって……」
「返り血ですが」

 だからどうしたと言いたげな言葉に、アキは口をつぐんだ。
 正直なところ、恐ろしい。機械――――氷で出来た姫か何かのようで、伺い知れないから。
 それに、明らかだ。彼女は人を殺している。この場で。
 次は自分ではないか――――そんな考えが過りもするが、すぐに反論が浮かんでくる。“なら、何故彼女は助けてくれた”?
 躍起になって撃破数を増やしたい人間が、得物を横取りしにくる――という話はなくもないだろう。

 ただそれは、試合とか、ゲームの話だ。
 この場で、こんな命のかかった場で、自分の手で敵を倒すことに拘る人間がいるのか?
 恐らく――――目の前の女性は、そこと一番遠い風に思えた。
 だったら、助けてくれたことを信じていいのではないか。返り血にも、理由があるのではないか。
 アキの至った結論はそこだった。

 ともすれば彼女は、また相手から狙われる――――なんてことになるのが、怖かったのかもしれない。
 連れられて、建物に逃げ込む。階段を駆け上がる。喉元をひりつかせる吐息に漸く気付いた。
 そして部屋の敷居を跨いで――腰から崩れ落ちるように、靴箱に背中を張り付けた。

「怪我をしているようですね」

 そんなアキを見下ろして、ノンナが太ももを指差した。
 どこかで枝に引っ掻けてしまったのか、白い太股に赤い筋が入っていた。気付くと、ひりひりと痛みが湧いてくる。

「手当てをしましょう」

 言うなり、ノンナは土足のまま部屋の奥へと向かってしまう。
 いや、それは流石にこの部屋の持ち主に悪いのではないか。そもそもあまり、そんな室内に土足で踏み込むという行為自体に馴染みがない。
 だが――。
 そう、例えばまた襲われた時に、靴がなければ逃げられないし、ましてや履いている間に撃ち殺されるなんて笑えない。
 逡巡する。
 手当てをしてくれると言ったノンナを待たせるのも何か悪い気がして、かといってやっぱり土足で踏みいるのも気が咎めるが――……。

「お、お邪魔しまーす……?」

 結局アキは、心の中で激しく家主に謝って、とてとてと華奢な背中でノンナを追った。
 風で扉が閉まる。

 扉が、閉まる。

「ノンナさん、その……着替えて来たりしないんですか?」
「いえ、これからまだ汚れるかもしれませんので」

 言うなり、キャップを捻って突き出されるペットボトル。
 口に運べば、漸く行き返った心地がした。それほどまでにアキは、走り追い詰められていた。
 ノンナがスマートフォンを取り出す。何か、名刺のようなものを撮影していた。

「ここに来るまで、他に誰かに会いましたか?」

 スマートフォンを持ったまま、ノンナが問いかける。
 逡巡――――。
 当然彼女も自分と同じように、同校の友人を探しているのかもしれない。
 そう考えたアキは、体験したまま言うことにした。特に誤魔化す理由などない。

「うーんと……会ったのはさっきのアンツィオの人だけかなぁ」
「そうですか」

 努めて潜めるような声のまま、ノンナが携帯電話をテーブルに置いた。
 カメラのレンズは、下向き。
 そのまま、片手にはタオル。 

「え?」

 ゴトンと、携帯電話の隣に置かれたものをみたアキは絶句した。
 工具箱。そしてそこから、電源コードのない――電導ドリルを取り出した。
 急速に、悪寒がアキの背筋を這い上がる。工具箱――なんで? ドリル――なんで?

 よく見たら、部屋の内装がどこかおかしい。
 何者かの手によって、すでに“集められている”ように。
 そう言えば先程言っていた――――“これから汚れるかもしれませんので”。
 ノンナが、タオルを片手にアキの背後に回り込んだ。立ち上がろうとすれば、両肩を静かに押さえ付けられて首を振られた。

「う、嘘……だよね?」

 伺うアキの目に――極めて冷酷なノンナの顔。据わった目。
 囁くように、耳元で告げられる。

「Агонии……断末魔という言葉がありますが、末魔というのは痛みの強い経絡のことらしいです」

 笑いかけたノンナ――何故だろう、その笑みが酷く恐ろしい。

「人間の身体には、そんな場所がいくつもある。それを絶つと上げる恐ろしい絶叫……だから断末魔の悲鳴と呼ぶそうです」


 話は少し、遡るとしよう。

「これは……」

 近藤妙子の支給品を手に入れたノンナには、二つの驚きがあった。

 一つ目――それを銃と呼んで良いものなのか判断に困る代物。
 口径から言えば間違いなく銃ではなく、構造から言っても紛れもなく銃ではない。
 ただ、飛ばす弾は無誘導だ。飛ばす弾に推進力はない。
 その理屈で言えば戦車の主砲も銃になってしまうが――――ふむ、とマジマジとそのものを眺める。
 個人で携行可能な火器ではある。長時間に渡り持ち歩くのは、おおよそ馬鹿げているものであるが。

 二つ目――それは、アプリのコード。
 殺し合いなどしたことはないが、各校問わずのチームというのは少し変わっていると思った彼女への、更なる驚き。
 こんな観念的で、象徴的なものまで支給されるのか――――と素直に驚いた。顔には出ないが。
 そこで、僅かに顎に手を当てて考える。
 やることは、変わらない。やるためも、変わらない。
 だが、こんなものがあるなら――――やり方は多少、変わるのではないかと。

 プロパガンダという言葉がある。
 情報媒体を用いて工作を行うというのはすでに、半世紀前から行われている手法である。
 だからここでもそれは、行われる。
 そんな、権利だ。

 そして彼女は、動き出した。
 覚悟は決まっている。僅かな感傷は捨てた――――そのつもりだ。
 だからあとは、覚悟を鉄槌で殴り付けて完全なものにするだけ。底の底を超えるだけ。
 その為に、用意をした。
 集められるだけの殺意を、一つの“箱”に詰め込んだ。
 話は、戻る。


「え、う、嘘です……よね……?」
「すみません」

 謝罪の言葉は、しかし形式的なものだった。

「助けて、ミカ、ミッ――――――――」

 同時、猿轡が噛まされる。
 抵抗をしようと手を必死に振るえば、こめかみをドリルの底で叩かれる。目の奥で火花が散る。
 頭を上げると、いつの間にか前に回り込んだノンナ。腹部への一撃で呼吸を奪われ、返す刀の頬への裏拳で戦意を奪われた。

 泣いていた。
 今まで振るわれたことのない暴力に、アキの涙腺は緊張を手放した。
 見下ろすノンナの冷たい眼差しと、腹部目掛けて振りかぶられた爪先。
 一発、二発、三発、四発、五発……十発……――――。
 執拗なボディに蹲れば、気付いて顔を上げたその時には、アキの両手両足はすっかりと拘束されていた。
 視線の向こう。テーブルに置かれたドリルを再び手にするノンナ。
 その向こうには、窓。カーテンが開いて、そこから空が見える――青い空が。

 試し撃ちが如く引き金を引かれて、空転して哭くドリルの刃先。
 ノンナは、彼女自身知らず歌を口ずさんでいた。
 ドリルが、歓喜の雄たけびを上げる。或いはそれは正しく使われぬ悲哀か。
 断末魔が、始まる。

「ンン――――――――――――――――――――――――――――――っ」

 ――――Калинка, калинка.(カリンカ、カリンカ)

 電動ドリルに特別なコツはいらないが、それを頭蓋に突き立てようとした場合キックバックと湾曲で遣い手が怪我をしかねない。
 故に狙う箇所は体幹にほど近く、かつ稼働方向が限られている箇所が望ましい。
 ノンナは少女の大腿に膝を乗せ重心を向けて、右手のドリルの尻に左手首を噛ませる。

 ――――калинка моя.(私のカリンカ)

 すがるような目つきのアキを前に、ノンナは努めて無表情を保つ。
 小さく激しくなった鼻息。ゆっくりと右手の人差し指に力を籠める。
 イヤイヤと、涙を潤ませた瞳を向けられる。合わせてはならない。

 ――――В саду ягода малинка.(庭には木苺)

 猿轡でくぐもった悲鳴。
 切っ先が埋まる。大腿が激しく抵抗する。
 椅子がガタガタと床と音を立てる。前後に振り乱された髪。

 ――――Mалинка моя.(私の木苺)

 抵抗すればするほど刃は左右に動かされて、骨の表面を滑る。
 しめやかな失禁。結び付けられた手すりの軋み。

 ――――EЙ,Калинка, калинка.(カリンカ、カリンカ)

 頬に血が跳ね返る。
 猿轡ごしの絶叫。

 ――――калинка моя.(私のカリンカ)

 殆ど騒音同然の床と椅子のオーケストラ。

 ――――В саду ягода малинка.(庭には木苺)

 激しい痙攣。再び失禁。

 ――――Mалинка моя.(私の木苺)

 響くカリンカの歌声は、断末魔の声に塗り潰された。

「ッ……ンー、グスっ、ンー……ンー、ンッ……ンンッ……う、うう……」

 過呼吸めいた鼻息。
 まるで性行為の後の如く浮かび上がらせた珠汗と、しっとりと照って湿った肌。
 アキには、もう訳が分からなかった。
 太ももに心臓ができたような、電撃を発する氷を入れられたような、灼熱の砂を肉の間に満たされたような猛烈な激痛と寒気と焦燥の津波。
 痛みに圧迫されて引き攣った呼吸と、それとは別に涙が出てくる。

 訳が分からない。
 なぜこんな暴力が許される? なぜこんな暴力を行える? そして、それが我が身に降りかかるのだ?
 夢だと思えたらどれだけよかったか。いっそ、ここで意識を失って夢にしてしまえたら。
 だが、痛みの警報が意識を手放す事を許さない。
 “おまえは”“ここに”“いるのだ”と――――無慈悲に、真実を突き付ける。
 震えた吐息で何とか痛みを誤魔化すしかない現実。

「……多少は傷みますね」

 刃を眺めたノンナが、小さく溜息を漏らす。
 外された刃。
 そして――――……付け替えられる、刃。

「あと二箇所です。仲間と会いたいのでしょう?」

 ノンナのそんな冷たい瞳と、構えられる電動ドリル。
 その行き先は――――アキの、小さく白い手の甲。
 筋張ってもいなければ、象の足のように皮膚が関節でたわんでもいない。
 塗りたくった白い壁みたいに、或いは白い陶器の如く整った肌。滑らかに滑るだろう手の甲。
 桃の表面みたいに子供っぽくてあまり好きになれない産毛の零れる、汗が色艶となったミルク色の小さな手。
 ちんまりとつつましい掌に連なる、可愛らしい指先。小さな白魚めいた指の腹は、未だ幼さを残してぷっくらと膨らんでいる。

 手首をタオルで固定されたそれは、俎板の鯉。
 そこに、男性器めいてドリルの刃先が跡をつける。
 場所はここだと確認するように。何度も何度も、手の甲にキスをしては離れる。

「動くと、指が落ちるかもしれませんので」

 甲高い、刃が擦れる音が唸りを上げた。
 そして――絶叫。


 ――――Калинка, калинка.(カリンカ カリンカ)
 ――――калинка моя.(カリンカ マヤ)

 ――――В саду ягода малинка.(フ サドゥ ヤガタ マリンカ)
 ――――Mалинка моя.(マリンカ マヤ)

 ――――EЙ,Калинка, калинка.(エイ カリンカ カリンカ)
 ――――калинка моя.(カリンカ マヤ)

 ――――В саду ягода малинка.(フ サドゥ ヤガタ マリンカ)
 ――――Mалинка моя.(マリンカ マヤ)


 ――――EЙ,Калинка, калинка.(エイ カリンカ カリンカ)
 ――――калинка моя.(カリンカ マヤ)

 ――――В саду ягода малинка.(フ サドゥ ヤガタ マリンカ)
 ――――Mалинка моя.(マリンカ マヤ)

 ――――EЙ,Калинка, калинка.(エイ カリンカ カリンカ)
 ――――калинка моя.(カリンカ マヤ)

 ――――В саду ягода малинка.(フ サドゥ ヤガタ マリンカ)
 ――――Mалинка моя.(マリンカ マヤ)


 ――――EЙ,Калинка, калинка.(エイ カリンカ カリンカ)
 ――――калинка моя.(カリンカ マヤ)

 ――――В саду ягода малинка.(フ サドゥ ヤガタ マリンカ)
 ――――Mалинка моя.(マリンカ マヤ)

 ――――EЙ,Калинка, калинка.(エイ カリンカ カリンカ)
 ――――калинка моя.(カリンカ マヤ)

 ――――В саду ягода малинка.(フ サドゥ ヤガタ マリンカ)
 ――――Mалинка моя.(マリンカ マヤ)


 ――――――――。
 ――――――。
 ――――。
 ――。
 ――。


 ◇ ◆ ◇


 桂利奈は、落としたスマートフォンを拾えないでいた。
 余りの残酷な映像に恐れをなし、持っていることに汚らわしさを覚えたから――――――では、ない。
 視線のその先には、無言でスマートフォンを眺めるミカ。
 いつもの静かな笑みが消えただけで、叫びあげたり、怒鳴りつけたりしている訳ではない。

 だから――――怖い。
 触れたもの全てを燃やし尽くさんばかりの黒い炎が、ミカから立ち上っている気がしたから。
 スマートフォンから響くくぐもった絶叫を前に、陽炎が如くミカが立ち上がる。
 思わず、息を飲む。声はかけられない。
 どんな助言も忠告も感想も同意も、今の爆発物めいた彼女にかけたのなら首を掻き切られても不思議でないのだから。
 だというのに、

「待て」

 西住まほは、ミカの肩に手を置いた。

「まさか、止めるなんて……言わないね?」

 細められたミカの瞳。
 桂利奈は思わず、悲鳴を漏らした。言ったならどうなるのか。想像に難くない。
 だというのに、彼女の肩に手をかけた西住まほは一歩も引かない。判っていると、小さく頷いた。
 しばし二人の視線が交錯する。

「……私に考えがある。少し下がっていてくれ」
「考え?」
「場所を突き止める」

 ブロック塀に塗りたくられた粘度のような何かに差し込まれたプラグと、繋がったケーブルを手にまほが二人を見る。
 用意はいいかと、睨んでいる。スマートフォンからは絶え間ないくぐもった絶叫。

「三秒を十に割って……数えてくれ」

 三。
 二。
 一。
 そう数えて、まほがスイッチを押し込む――――強烈な熱波が、ブロック塀を寸断した。

「映像との爆音の時間の違い…………概ねこの辺りか」

 桂利奈が立ち上げたマップ画面を指さして、まほが頷いた。
 素直にすごいと思った。これが、黒森峰を率いているリーダーの資質なのかと。
 押し黙ったミカも、感心するようにその手際を眺めていた。

「……ありがとう」
「礼は後にして……今は彼女を助け出すのが先だ」
「ああ。……そうだね。その通りだ」

 落ち着いた――というよりは、精製されたような印象。
 方向性なく立ち上る黒い不浄の炎が、内に向けて収束していく。氷柱のように。刃物のように。錬鉄される。
 殺意が、憤怒が、黒い火薬となる。  

 ◇ ◆ ◇


 狙撃位置に注意を払いながら道を進むナオミは、思わず膨らませたガムを破裂させてしまっていた。
 スマートフォンから流れる映像。そして音声。
 椅子に座らせた少女が映し出されただけであるが――――間接照明だけの室内はお世辞にも明るいとは言えず、奇妙な予感を抱かせる。

 そう。
 まるでこれは、処刑の前を映し出したようで――――。
 咄嗟にスピーカーを塞いで、画像に目を向ける。
 いや、画像はもう映っていなかった。カメラを倒したのか、音声だけが実況されているようだ。
 スピーカーを離してみれば、口を塞がれているのか鼻から抜けるような絶叫と響くドリルの音。
 意図しているのか、その惨劇の主の声は確認できない。
 フィクションのスナッフムービーか、或いはどこかの過激派がインターネットにアップした処刑動画じみた狂気の放送。

(……damn it.流石に趣味が悪すぎる)

 どんな原理を使ったのかは知れないが、チーム内チャット画面への他者からの動画のアップロードと強制再生。
 その内容が、過激派集団も裸足で逃げ出すような拷問の中継。
 一体、どんな良識があるなら顔見知りの女子高生に――――というか人間に対して、こんな惨劇を行えるのか。
 既に人一人を殺害したナオミの言えることではないが、あまりにも趣味が悪すぎる。

 いや……心当たりは、ある。
 つい先ほど別れたばかりの人間だ。
 やるときはやる――――というか中々に酷い風聞だろうが、彼女ならやりかねない。そんな気配があるのだ。ノンナという生徒はどこか異質だ。
 実際直面してそう思った。あれはキリングマシーンだ。
 眉一つ動かさずに人を殺せるし、何ならこれまで裏で幾人もの人間を葬ってきたという与太話を受けても、俄かに笑い飛ばせない。

 いや、

(私が撃ったのと――――同じか?)

 そうこれまではそう考えていたし、これからもまず間違いなくそう考えるだろう。
 だが先ほどの会合で――――どことなく、ノンナは迷っている風に感じられた。
 甘さがあるというか、驚きがあるというか――――。
 ここでやり合って余計な怪我をしたくない。それは真実だろう。
 出会う障害をただすべて平らに殺して主の元に向かう。それも真実だろう。
 騙し上げた女子生徒を、何のことなく執拗に切り刻んで殺害する――尤もキルスコアはナオミのものだが――紛れもない事実だ。
 背を向ければ襲ってくるつもりでいたし、その気でやり合えばどちらが死んでもおかしくない。
 本当にそこらは、不気味だった。

 だというのに――――本当に気のせいだろうか。
 言葉は合理的だ。態度は平静的だ。実行するのも現実的で――――綻びなんてものはなかった。殺しに躊躇いもなかった。
 しかし、そうか。
 なら、何故意味のない会話に付き合った? 何故、ナオミのセンチメンタルな行為に付き合った?
 ひょっとしたらどこか……どこかしらにまだ、何らかの感傷を抱いていたのではないか?
 冷静に殺人を行う手先とは切り離されているが、何かしら思うところがあったのではないか?
 ともかく、あの鋼鉄のような、氷吹雪のような少女でもやはりこんな異常な舞台に引っかかりを覚えるはらしい。
 彼女の技量に驚かされた反面、そんな人間味があったと安心して――ちょっと親しみを覚えるのは、本当だ。
 自分が動揺していたことも確かにあるが、どこかしら会話を楽しんでいたのも、無意識に彼女に人間味を見出していたからではないか。

 とすれば……。
 これは――――彼女なりの、不退転の踏み絵だというのか。
 既に一人を殺したのは真実であるし、ナオミが何をしなくても殺していただろう。
 だとしても、平然と一人目を殺せるからこそ、二人目に移るその前に――――真実、万全の万全を期そうとしたのではないか?

(それと、私に向けてか……なんてうぬぼれかな、ノンナ?)

 直ぐに会うつもりなどお互いにない。それぞれの目的の為に進むだけで、次に出会ったら殺し合いになる。
 彼女もそう思うだろう。ナオミもそう思う。そんな別れだった。そういう流儀だ。

 それはともかくとして……。
 それは意図してないのかもしれないが――――。

 こんなことを目の当たりにしたら多くのものは心が折られるだろうし、惨憺たる現状に目を覆うだろうが……それでも或いは。
 それでも中には正当なる義憤を抱く人間もいる。こんな蛮行を目の当たりにして吠え掛からぬほど、躾けられてはおるまい。
 それよりもそのうちに――いや、もっとあり得る可能性の話をしよう。
 例えばこれが、同じサンダースのチームメイトに為されていたらどう思うか。
 話す必要もない。

(狩場まで作ってくれるとは……ね)

 集まった人間の輪に溶け込むもよし。
 或いはこれ幸いと、数を減らすもよし。
 それとも自分は別の道を進むと、背を向けるもよし。
 さてどうしたものかと、バックルで肩に担いだライフルと共に、ナオミは考える。
 そこで、爆音が響いた。


 ◇ ◆ ◇


「……対処が早いですね」

 遠雷が如く響く間延びした爆音を耳にしたノンナは、タオルで掌に飛び散る血を拭って溜息を漏らす。
 対処が早い――冷静な、場慣れした対応。
 つまりは相応のリーダー格。各校の隊長クラス。
 そして、ともすれば無意味かもしれなかった凄惨な拷問劇に意味が生まれた。
 震えそうになる吐息を押し殺すように、彼女はアキへと向き直る。太ももへの応急手当は行われた、重傷の少女。

「仲間を呼んで貰えますか」

 耳元に、スマートフォンを突き付けられるアキ。
 項垂れたアキが頭を起こせば、それに合わせて汗が滴り落ちる。
 もう、彼女は首しか動かせない。
 手すりごと穿たれた手の甲に結びついたのは針金。腕と椅子は、すっかりと固定されていた。

 それ以前に激しい痛みと抵抗で、彼女はすっかりと消耗しきっていた。
 或いはその様は、凌辱を受けた少女も斯くやというほど憔悴している。
 耐える事を諦めたか、それともほとんど痛覚がどこかへ行ってしまったの――。
 湿気を含んだ吐息は寝息が如く漏れ、汗で肌に張り付いた服と薄い胸が上下する。

「仲間を呼んで貰えますか? 余計なことを言ったら……判りますね?」

 ドリルの先端で、体液に湿ったスカートの裾が持ち上げられる。
 アキは引き攣った声を上げた。
 より強烈な痛みを、より多くの苦しみを与える場所はあるのだと……ここが底ではないのだと、判らせるような動き。
 断末魔。その通りなのだろう。
 きっと、もっと痛みがある。想像がつかないぐらいの痛みが、ある。

「……素直に話し合いたいと、思いますね?」

 有無を言わせぬ口調。
 テーブルに白い皿と、ペンチが置かれた。

「貴女にももう、素直に話し合うことの大切さが判りますね?」

 アキがコクコクと頷けば、満足したように閉じられた目と取り除かれた猿轡。
 絶叫の余韻にしとどに濡れたタオル。いつの間にか皮膚まで交えて食いしばって居たのか、血が滲む。
 ノンナが、スマートフォンを起動させた。再びのカメラ撮影。
 己を映し出すレンズを覗き込みながら――――ノンナから告げられたマップ上の位置を噛み締めて、アキは、

「ミカ、ミッコ、来ちゃだめ――――! これは、わな――――」

 ガツンと口の中に突きこまれたペンチは、アキから二の句を奪った。
 ぎりぎりと、照準する鉄の顎。
 再び頬を伝う涙。もう一生分泣いたと思っていたアキであったが、収まりつかず涙が溢れる。
 イヤイヤと首を振る。

 痛みと恐怖で桃のように朱に染まった頬を、未だ幼く産毛の生える整った白い肌を流れて、顎先から零れ落ちる。
 まるでとても愛しい恋人とキスでもするように――頭に腕が回される。
 むずがる彼女を手籠めにするように、執拗に力の籠る腕は揺るがない。
 アキの目の前に突き出された、豊満なバスト。ジャケットを下から押し上げる母性の塊。
 だけど耳元で続いた声は、どこまでも冷酷に――

「……残念です」

 大絶叫。


 ◇ ◆ ◇


 西住まほにも、ミカにも、共通点というのがある。
 それは一見して内心が伺えないこと。
 片や一方は鉄面皮で。片や一方は飄々とした態度と、柔和な笑顔の仮面で。
 その二人の気持ちが――――今は桂里奈にも判った。
 桂利奈はどちらかと言えば恐怖を覚えている側であったが、この二人は違う。
 まほはまだ、おそらく胸を痛めている。
 だが――――ミカは、

「この辺りの筈だ」

 住宅地の真ん中、先ほどの爆音の聞こえる時間の違いから割り出した概算の位置。
 まほが、首を回す。
 既に画像は途切れていて、音声というのは止まっている。ヒントはない。
 怖いのは狙撃だ――つまり映画の定番だ。桂利奈も見よう見まねで繰り返すが、特にレンズの反射光のようなものは見えなかった。

「呼んじゃいますか!?」
「いや……また声が出せないようにされていることもある。犯人も、私たちの呼びかけを頼りに攻撃するかもしれない」

 ならば、どうするのだ。
 二人の目線を受けてか、まほは顎に手を当てたのち……改めてスマートフォンを突き出した。

「すまない……もう一度、動画を開いてもらえるか?」
「あいっ!?」

 あの身の毛も弥立つ音声を聞かねばならないのかと身を固くしてみれば、無言で眺めるまほ。
 人一人の命がかかっている。
 そんなことも言ってられないと――桂里奈は、グループチャットに外部からアップロードされた動画を開いた。

「そこだ、止めてくれ」
「あ、ここですか?」
「ああ……この部屋の明るさなら、カーテンは開いている。それに、東向きの窓じゃない」
「他の建物の影が入っている風でもないから……」
「ああ。高さは限られる……数階建て以上のマンションかアパート」

 条件に当てはまる建物は――――いくつか。
 しかし彼女たちは見付けた。その内、ベランダに吊るされたタオルが靡く一室。血が滲んだタオル。開いた――故意に開け放たれた窓。
 これはメッセージ。
 明らかに誘い込むための罠。
 だが――

「……行こう」

 まほが頷いた。
 ミカは、言われるまでもないだろう。
 桂利奈はふつふつと湧き上がる不安を堪えながら、二人に続くと決めた。

 そのアパートの鉄錆びた階段を上がるとき、桂利奈が覚えたのは不安だ。
 もし、犯人がまだそこにいたら。
 もし、そこに罠が仕掛けられていたら。
 もし――――もしも、凄惨な拷問の末に息絶えた死体を目の当たりにしてしまったら。

 手の内の拳銃が、酷く重い。重いのに、頼りない。
 どうせなら、戦車のような鉄の壁を為す鎧があればいいのに――そう思ってやまない。
 先行するのはまほとミカ。
 まほは何がしか――――確か戦争映画で見た、二次大戦のドイツ兵が使っていたような拳銃。

 頷きながら角を確認し、幾つかの部屋のドアに銃口を向けて、目的の一室を目指す。
 ふと――まほと視線が交わった。

「不安か?」
「えっ!? は、はい!?」
「そうか」

 大声を出すなと、唇に人差し指を突けながら――

「妹から……みほから聞いてる。それに決勝戦で戦った、私たちだから知っている」
「え……っと」
「あのとき、君たちは勇敢だった。だから……不安かもしれないが、怯えずにそのとき自分にできることをしたらいい」

 まほに代わって、ミカがクリアリングする。

「自分にできること……?」
「ああ。……その場から必死に逃げることでもいい。とにかく、怯えずに前を向いて諦めないで進むことだ」

 段々と、その部屋が近づいてくる。階段を上がってから、一番端の部屋。

「今はまだ無理かもしれない。だけど、いつかは必要になる」

 それでもう、話は終わりだとまほが離れた。
 ミカと二人、ドアを挟むように立つ。
 入口に何か仕掛けられている。その可能性が高い。逡巡する――――しかし時間をかけてもよい結果にはならない。そう言いたげな二人。
 そこで、桂利奈は一つ思いついた。
 だが……だが、言えるのだろうか。自分よりも余程判断が優れていそうな、この二人に。

「西住まほさん、どう思う?」
「……私が相手なら、ここに何かする」

 まほが相手なら――――つまり友人を傷付けた相手なら容赦はしないと目を細めつつ、ミカも頷く。
 それから、アパート周りを見回す。どこに潜んでいて、何を仕掛けているか判らない。
 狡猾で残酷な敵なのだから。

「ここは、西住流の通りに進むしかないのかな?」

 冗談めかした口調で、己を落ち着けようとしているのか流し目をするミカ。
 対するは、軽口を飛ばす余裕がないのか性格でないのか。眉を寄せて視線を落とすだけのまほ。
 やがて、顔を上げた。
 頷き合って、ドアに手をかけ――――

「あ、あの!」

 大きな声を上げた桂里奈に向けられた、咎めるような目線。
 思わず臆してしまいそうになるそこを――何とか堪える。
 つい先ほど、言われたことだ。そして今は、そのときだ。

「ドアを……爆破しちゃうっていうのはー……?」

 そういうのを、アニメで見ただけだった。
 ただ――

「どう思う、まほさん?」
「確かに……そうだな」

 丁度先ほど距離を確かめる折り、まほはプラスチック爆弾を使っていた。
 なら、ドアを開いた瞬間にうっかりと吹き飛ばされるよりは、離れた場所からの起爆でドアを切断する――――多少は安全なそれが行える。

「……ありがとう」
「い、いえっ! 西ず――リーダーが、さっき言ったとおりにしただけで……」
「それでも、お礼を言わない理由にはならないよ。……ありがとう」

 作業を終えて導線を握るまほが、二人の元まで来る。
 全員で頷く。
 ボタンを押し込んだ――――沈黙。そして次いだ爆発音と、吹きあがる白煙。噴出は続く。
 目くばせ。噴出が止まるのと同時に、銃を握る全員が勇ましく部屋を目指した。
 まず、目と喉を鋭い痛みが襲った。煙――それが罠として仕掛けられていた。
 咄嗟に口を塞いで目を細めようとしても襲い掛かる強烈な刺激に、立ち眩む。
 瞼を持ち上げようとしても痛みと涙に引き攣って、何度も咳き込んだ。
 液状の辛子を塗りたくられているような強烈な異物感。
 前に進めない。立ちながらのたうつように足を縺れさせる。
 周りに首を動かせば、まほも、ミカも、桂里奈と同じように呻き踊っている。
 強烈な灼熱感。目の周りの筋肉が収束するのを止められない。抑えようとも、首を振ろうとも突き立てられる痛みの熱。

「さ、さぃ……る、い……だ、ん……!」
「奥へ……!」

 咳き込み、膝を抑え、千鳥足になりながらまほが告げた。
 この室内では、自然に薄まる事もない。それに既に受けてしまった。どちらにしても、抜けるしかない。
 止まらぬ涙のまま、痛みに悶えながらも室内を目指す。牛歩か、それ以下の混乱した足取りのまま。
 背中に重荷を背負った老人めいた姿勢。止まらぬ涙。唾液。鼻水。

「アキ!」

 フローリングを、土足のまま踏みしめる三人の足音。
 一直線に目指した先はリビング。テーブルが置いてあるとしたら、おそらくはそこであろうから。
 はたして。

「あ……」

 桂利奈は思わず絶句した。一瞬――自分の痛みが薄らいだ。

 テーブルの皿の上に置かれた白い歯は、どこか角が丸まっている乳歯めいた歯は実に十二本。
 ストロベリーソースをかけたチーズケーキめいて、皿の血だまりの元で存在を主張している。
 穴を空けられ、針金で椅子と結び付けられた両手。
 紅葉の如く小さく滑らかに白かった指先と、その先端にあったであろうかつては桜貝の如く薄桃色で可愛らしく乗っていた爪は、握りしめ過ぎたせいか罅割れている。
 どれほど暴れたのだろうか。
 その穴は裂け広がっており、中から飛び出した血と脂と骨のかけらが、椅子の手すりに染みついていた。
 見慣れない筋や欠片が、椅子の手すりに引っかかり血を滴らせている。

 ふっくらとした左の太ももに巻きつけられたタオルは朱に血を吸い貯め、飛び散った鮮血は肌を赤黒く彩っていた。
 皮膚の皺に溜まって、茶黄色く変色する。
 香木を端正に磨き上げたように、滑らかな曲線を持つ薄い太腿。
 すらりと涼しさを感じるぐらいに華奢なその足の、陶器めいて乳白色な肌に残った痛々しい痣。
 どれだけ抵抗したのだろうか。それを、どんなに押さえつけたのだろうか。

 傷口のすぐそばの皮膚は鬱血して、少女に与えられた拷問の過激さを物語っていた。
 床に垂れた体液の溜まりからは、アンモニア臭と鉄血臭が立ち上る。
 噛まされた猿轡。
 脂汗を浮かべて、俯いた少女――被害者――アキ。

「……」

 ミカが、無言で近寄り猿轡を外す。
 愛おしむように――慈しむように。
 顔はくしゃくしゃ。催涙ガスの痛みで手元は覚束ない。それでも。

「ぁ……み、か……」

 ぼんやりと視線を起こしたアキと、屈んだミカ。その二人の視線が交錯する。

「み、かぁ……!」
「……遅くなったね」

 間に合ってよかったと――ミカは、アキの小さく……そしてここまで懸命に苦痛に耐えた体を、抱きしめた。

「どうして、きた……の……?」
「さあ。自然と、声に呼ばれたのかもしれないね」

 無事とは到底口にできぬ惨状であるが、それでも何とか生きては居る。
 キチンとした処置さえできれば、一先ずは生きながらえるだろう傷跡。

「話はあとだ。ここから出よう」
「ああ。……これ以上こんなところにいたら、治る傷も治らなくなるよ」

 三人の元へ、目の痛みを堪えた桂里奈も駆け寄ろうとする。
 一先ずはあの残酷な針金をどうにかしないと、助け出せるものも助け出せない。
 正直、直視が憚られるほどの強烈すぎる傷口だ。
 なるべくなら――本当に失礼だけど――それをマジマジと眺めなければいいと、あとで思い返さないといいと、そう祈って。

「……待て」

 咳き込みつつ、呟いたまほの視線を追って――――桂利奈は絶句した。

 プロパンガスボンベ。台所用油。ボンベ。油。ボンベ。ポリタンクの灯油――――それらがベランダに面した部屋に、並べて置いてあったのだから。
 総毛立つ。
 何者かが用意した悪意の巣穴――――殺意の巣窟。
 一刻も早くこの場を離れなくてはならないと、本能が警告する。

「椅子を掴んで! 出るぞ!」

 まほがそう叫んだ、そのときだった。
 アパートが揺らいだ。肩から左右に揺さぶられるような衝撃に、頭が泳ぐ。
 直後に聞こえたのは、爆音。戦車のそれほどではないが、それでも、銃声などよりは大きすぎる爆発音。
 まさか……

「砲撃!? なんで!?」

 まさか、戦車を用いぬ殲滅戦だというのに、その話は嘘であったのか?

「いや……」

 まほが首を振る。それは決して考えにくいと、断固とした瞳。

「発射音がここまで聞こえない……迫撃砲だ」

 つまり、アパートごと完全に吹き飛ばされることはないという意味であるが……。
 だが――。
 ボンベ。油。ポリタンク――――その意味。
 来てはならないという、意味。
 なぜアキの手に針金を巻き付けたのか。その足に穴を穿ったのか。

 初めから――――初めから。
 助けに来た人間を、もろとも殺害するために。
 非情の罠が、人食い鮫の大顎が、用意されている。

「相手が一人なら、発射には時間がかかる……行くぞ!」

 まほの合図で、椅子の足を持ち上げる。針金が擦れて、アキが悲鳴を上げるが構わない。
 それよりも――――早く。
 腰を屈めながら、出口を目指す。一刻も早く抜けなければ、全員が巻き込まれて死ぬ。
 カーペットに足が引っかかり、転びそうになるのを何とか堪える。まほの力強い声に押されて、踏ん張って何とか足を出す。
 力を籠めようと息を吸えばくしゃみめいた咳を噴き出して、その場で丸まりそうになる。

 皆も同じだ。何とか堪える。傷口があるアキの悲鳴に我に返り、なんとしてでも外に出なければと己を奮い立たせる。
 無我夢中で、家具を押しのけた。
 催涙ガスの効果で、皆が体を捩る。本来なら膝を抑えて悶えたくなるほどの痛み。
 惨劇を目の当たりにした最中も忘れないほどに突き立っていたそれを、また思い出す。
 それでも、早く出なければと――――それだけを考えた。

 そして、果たして。
 結論から言うとしたら――――――間違えがあった。

 何とか脱出を済ませたそのとき。
 ドアを吹き飛ばしてしまっていたが故に。
 襲いかかる爆風を、遮るものがなかったのだから。

「……」

 爆炎に煤けた頬。やけどに引き攣った肌が痛い。目も未だに刺激を続けられて、きちんと開くこともままならない。
 だが、辛うじてまほは――――三人は、生きていた。
 部屋はごうごうと黒煙を上げ、窓ガラスから何からはすっかりと吹き飛んでいる。
 熱波の直撃を受けた手すりは歪み、今もその間を立ち上る煙が撫でつけていく。

 幸運だったのは、得てして熱波や爆発は、上に逃げる割合が大きいというところ。
 体を屈めていた為に、致命傷を負うほどではなかった――――それでも暫くは立ち上がれず、耳も片方が使い物にならないが。
 地面が近く、倒れやすい姿勢であったのも大きい。そうでなければ今頃は手すりに跳ね飛ばされ、相当に体を痛めていただろう。
 ともすればそのまま、三階から為す術もなく階下目掛けて落とされていたかもしれない。

 ……そう。
 基本的に、上に膨らみながら爆発は広がっていく。

 ……だから。

「う、あ……」

 目元を抑える桂利奈が呻いた。
 その眼前に倒れているのは、椅子の破片が背中を貫き腹部を抜けて、血だまりに倒れるアキ。
 内臓が、飛び出していた。道化師のバルーンアートめいた現実感のない色彩/膨張/九十九折り。
 肩や足にも、多くの破片が突き刺さっている。
 ミカは……そんな彼女の手を握って、傍に膝をついていた。

 助かる見込みはない。ここにいても無駄だ。すぐに離れよう――――そう言えたら、どれだけいいことだろうか。
 ……これが西住流なら。
 辛いことは多かった。苦しいことは多かった。悩みもすれば、葛藤もした。
 だから彼女は、西住流として完成した筈だった。
 実際のところ彼女は、母親の期待通りに鋼鉄の戦車の如き心を有していたのだろう。
 或いはそれは彼女の母なりに、或いはそれはこんな舞台が存在する事をどこかで聞いていたから、少しでも娘が生き残れる為に行ったのかもしれない――。

 だが。
 だが、倒れ伏したアキの姿が重なった。
 もしもそれが、自分の後輩だったら? もしもそれが、自分の家族だったら?
 もし今こうして倒れているのが西住みほで――――自分が誰かから、「助からないから置いていけ」と言われたら?
 ……本当に。
 ……それだけは本当に、無理な話だ。

 故に、

「……私が止めに行く。二人を頼む」

 出来ることは、一つしかない。
 これからのことを考えると――――頭が重くなるが、すべきことは判っている。
 第三射はさせない。
 そして、ミカに、せめて友人との分かれの為の時間を作る。

「え、あ……」
「君にしかできないんだ。できるな?」
「あ、あい!」
「……いい返事だ」

 迫撃砲はその特性が故に、放物線を描いて着弾する。銃弾ほど判りやすくもないが、その放物線を遮るものの傍では使えない。
 また、速度は確かに早い。だが進む距離も大きいため、決して目で追えないとも言い切れない。
 西住まほはワルサーを片手に、建物の外へと駆け出した。


 ◇ ◆ ◇


 みか、いままでたのしかったね。
 うん、けいぞくにはいってからいろんなことがあったよね。

「そうだね」

 みかはちゃんと、たのしんでた?
 いっつもあんなかんじだから、すこしきにしてたんだけど。

「……楽しんでたよ。ただ、楽しむことと顔に出るということは別なんじゃないかな」

 なにそれ。もう、みかったら……。
 でもね? たしかにたのしかったけど……たのしかったけどね?
 きゃんぷもさ、わるくはないんだけどさ。
 つぎからはもっとさぁ、けいかくをもとうよ。

「そうだね。気を付けるよ」

 あと、おいてあったとか、よばれたっていうのはだめだとおもうよ。
 だいじなものをとられたひと、きっとおこってるよ。
 ひとりでいいものをたべるのも、みかずるいよ。
 みか、きいてる?

「……ああ、ここにいるよ」

 みかは、やればできるんだから、もうちょっとちゃんとしよう。
 そうしたらもっと、みんなのちからになれるよ。

「……そうだね」

 うん、みんな……みんな。
 ああ……。
 くやしいなあ……もったいないなあ……。
 せっかくだから、もっとみんなとしゃべってみたかったなあ。

 あ……。

「……アキ?」

 ……。

「アキ!」

 ……あ、うん、ごめん。
 ……。
 ごめん、ひとつだけおねがいがあるんだけど、いいかな?

「……なんだい、アキ」

 えっと……その、みかとみっこには、がんばってほしいのとね。
 ぁ……えーっと、へへ……。

「大丈夫、ここにいるから」

 えーっと、はずかしいんだけど……。
 これ、ないしょだよ? あと、わらわないでね?

「笑わない。笑いたくないときに、笑う必要はないからね」

 もう、なにそれっ。
 で……えーっと、おねがい、なんだけど……。
 ……。

「アキ……? アキ?」

 あ、そうだ……おねがい。
 おねがい、だったよね……。

「ああ……なんだい?」

 わすれないでね。

「――」

 わたしのこと、みんなとやったこと、わすれないでね。 

「ああ……忘れない。忘れないよ、アキ」

 たのしかったこと、わすれないで。

「絶対に、忘れない」

 うん、じゃあ、ごめんね……みか。

「お休み、アキ」

 おやすみ、みか。




「こんなの……こんなの、絶対に許せない……!」

 落涙は、未だ続く催涙ガスの後遺症だけではない。
 映画の中ならそれは、有り触れている。
 だけれども現実で――――まさに人が事切れる瞬間を、それも誰かによって命を奪われる瞬間を見るのは、桂利奈としては初体験だ。
 恐ろしいものだと、彼女は普段なら思うだろう。

 だけれども。
 目の前で、アキが譫言のようにミカに囁いているとき。
 それをミカが、拳の震えを握りしめながら笑いかけて聞いているとき。
 ほとんど途切れ途切れで小さくて、喘息のような呼吸に掻き消されても――――それがミカへの思い出を綴っていると判ったとき。
 ミカが、静かに相槌を打っていたとき。
 そんな様を眺めたとき、桂里奈に湧いてきたのはこの凶行に対する――犯人に対する、途方もない怒りだった。

 ごく普通の友人関係が。
 幸せが、一方的に奪われる。
 身勝手な理由で、惨憺たる悪意と共に奪われる。
 恐怖よりも――――怒りが勝った。

 だから。
 だから次に彼女が抱いたのは、当惑であった。

「“絶対に許さない”……か。それは、違うんじゃないかな」
「えっ」

 膝立ちでアキの隣に寄り添っていたミカが、ぽつりと漏らした。
 薄い笑み――出会って、チームを組んだばかりの時と同じ。
 なのに、何故だろうか。
 何故――笑みが消えていたその時よりも、怖いと思うのか。

「こいつは……こんなことをした奴は、きっと殺してもいい奴だ」

 息絶えたアキの目を閉じて、ミカが立ち上がる。
 桂利奈は、息を飲むしかない。それほどまでに、見事な立ち振る舞いだった。
 ――カシャン。

「こいつは、殺していい奴だよ」

 薄ら笑いを浮かべたまま、ミカはスライドのコッキングを済ませた。生弾が転がる。
 ゆっくりと彼女は、それを拾い上げた。
 行こうかとは、言われない。
 階段を下り始めるミカのその背。拒まれた訳ではない。ただ、追いづらい。

 迷う。
 これ以上この死体の――アキの傍にいる意味はない。むしろ、それは彼女の為にならない。
 そうとでも言いたげなほど、彼女はもう次を見付けていた。

 迷う。
 せめて、どこかに埋めてあげたいが……だが、桂利奈一人でできる訳もない。
 しばし首を左右に動かして――。
 結局手を合わせて、廊下を駆け抜けミカを追って階段へ飛び出す。
 そこで――――アパートへ、三撃目が襲い掛かった。


 ワルサーを握って燃え盛るアパートを後にしたまほは痛む目からの落涙を堪えて、十分に開くことも叶わぬ視界で双眼鏡を頼りに辺りを見回す。
 あれだけ、正確にアパートを撃ち抜いたのだ。
 とすれば確実に相手はまほたちを捉えられる位置に陣取っており、そして確実に弾着の確認をしている。
 ならば探せぬ道理はないと――――双眼鏡を片手に周囲を索敵する。
 戦車砲と違って放物線を描く飛距離の分だけ、その軌跡は風の影響を受けやすい。
 あれほど精緻に爆撃を試みるとしたら、距離はそう離れてはいない筈だと――――そう結論付けて。

 不意にまほは、

(――――)

 自分と同じくこの場にいるであろう、西住みほのことを考えた。

(――――――――)

 とん、と。
 視界が揺らいだ気がした。
 回っている。いつの間にか音が消えた。やけに緩やかに。
 白く染まった世界。回っている。踏ん張ろうと思っても、体に力が入らない。
 為す術もなく、倒れた。

 他人事の、カメラごしに事故映像でも眺めているように、周りながら地面に画像が寄った。
 そして、二度三度跳ねる。
 銃は、手放してしまっていた。離れて、転がっている。
 手を伸ばそうとして――腕の感覚がないことに、気が付いた。
 理解したのは、何かを間違えたということ。
 自分一人で飛び出してしまった、そのツケ。

 本当に彼女が正しく西住流で、揺るがぬ心を持っていたなら三人共にアパートから脱出を図っただろうし。
 決して迫撃砲の主を探そうともせず、その場からの離脱を優先したかもしれない。
 だが、結果はそうはならなかった。

 そもそもからして――――家族愛ゆえに、彼女は西住流たらんとした。
 だからこそ。
 消えていく少女の命を妹に置き換えてしまって――だからこそ、何とか二人の時間を作ろうとした。

 或いは彼女が。
 或いは彼女がまだ、妹と違えた仲を取り戻していなければ――結果は変わったのだろうか。
 それは、神ならぬ余人には知りえないだろう。
 ただ――――一言、非情な話を言うとするなら。

 西住まほには――。

 彼女には――。

(み、ほ…………)

 西住流と言うには、情がありすぎた。


 ◇ ◆ ◇


「……ふぅ」

 一仕事を終えたナオミは、改めて大きく息を漏らした。
 狙撃中に息を止めるのは素人の所作で、叶うならば呼吸を続けるべきだし、或いは吐ききってから吸うまでの僅かな間に行うのがいい。
 とは言っても、大きく思うままに呼吸をできないというのは確かだ。

 三人組――――。
 既に組んでしまっている三人は、ただの障害にしかならない。
 特にそれが西住まほともなれば――――殺せるときに殺しておくに限ると言えるだけの強敵。彼女はまた、油断ならない女。
 スコープ越しに倒れて立ち上がる気配のない西住まほを確認して、ナオミは漸く銃口を下げた。

 狩場を自分の為に用意したと先ほどは評して、事実としてその通りになったが――。
 やはりそれはうぬぼれであったのだろうな、と息が漏れる。
 初めからあの、プラウダのブリザードは他人を当てにしてはいない。自分で仕掛けて、自分で殺しつくす予定だったのだ。
 執拗に撃ち込まれ続けた迫撃砲を見て、そう思った。
 恐らく入口のドアにでも仕掛けてあった催涙グレネード――――先立って窓から漏れた白煙は、砲撃の合図だったのだろう。
 恐ろしい狩人だと、改めて思う。

「……?」

 そして、市街地目掛けて駆けてくる二人組が見えた。
 色々な意味で大小凸凹のコンビ。何かを追い求めようとするその顔にはしかし、何としても敵を打倒せんとする覇気がない。
 だが、無駄な怯懦も見られない。
 二人組。
 大学選抜の隊長と、大洗の――生徒会であったか。
 丁度いいかもしれないと、ナオミはガムを弾いた。

「お前、サンダースの!」

 そして計画通り彼女たちの進路に飛び出したナオミは、呼び止められた。
 大学選抜の隊長――島田愛里寿を庇おうとする涙目の河嶋桃と、彼女のスカートを握りしめる愛里寿。
 両方の瞳には、強い恐怖心。
 顔も完全に青く染まって、近づかれたら爪を立てそうな子猫を思わせる。
 肩を竦めて、両手を上げる。
 それでも二人は安心しない。毛を逆立てるように、警戒を厳としている。

 さて――どうしたものかと眺める。まるで、レイプされた生娘だ。

(……オーケー)

 努めて視線に表さぬよう短時間で上から下まで眺めて――片方は制服、片方は私服だ――ナオミはライフルを肩から下ろした。
 手にかけただけで二人が硬直する。軽く笑いかける。
 そのまま片手を向けて、銃を道路に横たえた。それでもまだ安心しないのを見て、数歩距離を取る。
 余程の事があったのかと――内心ほくそ笑んだ。
 悪くない。
 ああ、悪くない。

「どうかしたのかい?」

 敵意はないと両手を向ければ、逡巡ののち――やがて、踏み出すように桃が叫ぶ。

「今、向こうでグロリアーナとアンツィオが! じゃなくて北風がヴァイキングを……でもない! 銃撃戦と拷問が……ああもう!」
「アンツィオの装填手が撃ってきて、聖グロリアーナの隊長が庇いに入ってくれた。それと……」

 言った愛里寿は口元を押さえて、目を伏せた。
 理由は……まあ、大方は察せられる。
 ナオミも見ていた。――つまり広範囲にあれは配信されていたのだろう。
 そのことに気付いてか気付かぬか、奮い立たせてかは知れぬが続いた桃の大声。

「そう、それだ! だから――」
「……オーケー、詳しく話を聞かせて貰っても?」

 二人組。年若い少女と、慌て性。
 まともそう――――とはあまり言い切れないにしても、どちらも見たところは弱者で、隠れ蓑にするには丁度いいかもしれない。
 少なくともこの二人を連れていれば、警戒される可能性はグッと低くなる。
 運が向いてきたかと、ナオミは内心で口元を釣り上げた。




【C-6・北/一日目・午前】

【☆河嶋桃@チーム・ボコられグマのボコ】
[状態]健康、疲労、強い恐怖となんとかかなりの痩せ我慢
[装備]大洗女子学園の制服
[道具]基本支給品一式、不明支給品(ナイフ、その他アイテム)、スポーツドリンク入りの水筒×2
[思考・状況]
基本行動方針:みんなで学園艦に帰る
1:生き残ることが最優先。たとえ殺し合いを止められなくても、その助けになれる時のために
2:愛里寿を保護し支える。ダージリンの救援を誰かに頼む。
3:共に支え合う仲間を探す。出来るなら巻き込まれていてほしくないが、いるのなら杏と合流したい
4:状況とそど子の死は堪えるが、今は立ち止まるわけにはいかない
[備考]
 スマートフォンに「アキに対する拷問映像」が入っています

【島田愛里寿@チーム・ボコられグマのボコ】
[状態]健康、疲労、重度の恐怖、吐き気、混乱
[装備]私服、デリンジャー(2/2 予備弾:6発)
[道具]基本支給品一式、不明支給品(ナイフ、その他アイテム)、イチゴジュースのペットボトル、スポーツドリンク入りの水筒×1
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない
1:何が出来るかなど分からないが、出来ることがあるなら探したい
2:桃について行く。少しボコみたい。助けてくれたダージリンの救援を誰かに頼む。
3:殺し合いには乗りたくない。誰も殺したくない
4:みほや大学選抜チームの仲間達が心配
[備考]
 H&K MP5K(0/15)は A-7水族館の三階に投げ捨ててあります。
 スマートフォンに「アキに対する拷問映像」が入っています。

【ナオミ @フリー】
[状態]健康
[装備]軍服 M1903A4/M73スコープ付 (装弾3:予備弾10) スペツナズ・ナイフ
[道具]基本支給品一式 不明支給品(その他) チューインガム(残り10粒)
[思考・状況]
基本行動方針:サンダースの仲間を優勝させるため、自分が悪役となり参加者を狩る
1:チームを組めるまともそうな人間を探す。基本ステルスで、チームを隠れ蓑にして上手く参加者を狩りたい
2:とりあえず目の前の二人の話を聞いて、チームが組めるなら組んでおくべきか?
[備考]
 スマートフォンに「アキに対する拷問映像」が入っています。




(……来ませんね)

 誰かしら一人、ひょっとしたら生き残って自分の元を目指してくるかもしれない。
 油断はせぬよう着弾点を双眼鏡で確認しながらも――――轟炎が上がる――――アパートをすっかりと火だるまに変えたのを確認して、迫撃砲を手放した。
 取っ手のついた筒。個人でも撃発できる支援火器。
 ダークグリーンのケースに入った八発は、その半分を撃ち尽くしていた。

 持てない重さではないが、女の手では長距離の携行には向かない。体力の消耗が激しすぎる。
 またいずれ使う機会があれば、そのとき取りに来ればいいだろうと繁みに蹴倒す。目的は果たしたのだ。
 即ちは、狼煙。
 屋内に籠り逃げ隠れていれば生き永らえるなどと考えている羊に――――非情な現実を突きつける為の。

「……」

 己のスマートフォンを見て、再びフリーとなったことを確認したノンナは安堵の溜息を洩らした。
 指紋認証。手を押さえておけば、容易くできる。
 あとはそのGPSの位置情報を頼りに、砲撃の精度を上げる。目標を容易く選定する。
 相手は仲間を見捨てられない。そんなのは判り切っていた。
 仕掛けたトラップ、白煙が立ち上った時点で人が来たのは察知できた。

「……」

 目を閉じる。
 ドリル。ペンチ。
 人を切り殺すのとは、また違った感触が指に染みついていた。
 これが――底。
 おおよそ人間が人間にできる、最大の悪意と最低の害意。
 これ以上のことは、どう足掻いたってあり得ない。

「……覚悟は、済ませた筈です」

 震えた掌。耳に残る残響を飲み込んで、ノンナは歩き出す。
 太陽から背を背けて、歩き出す。




【C-6/一日目・午前】

【ノンナ @フリー】
[状態]健康・血塗れ
[装備]軍服 オンタリオ 1-18 Military Machete 不明支給品(銃)
[道具]基本支給品一式 M7A2催涙手榴弾 8/10・広報権・近藤妙子の不明支給品(ナイフ)、アキの不明支給品(銃・ナイフ・その他)
[思考・状況]
基本行動方針:同志カチューシャの為、邪魔者は消す
1:移動し、見付けた参加者をあらゆる手を使って殺害する
[備考]
※スマートフォンに「アキに対する拷問映像」が入っています
※「広報権」を使用して、拷問映像を配信しました。配信範囲は後の書き手に任せます
※近藤妙子の支給品 M224 60mm迫撃砲(残弾4発) はC-6のどこかの繁みに放置してあります




「……」

 沈黙するミカは――燃え盛るアパートを眺めて、思う。
 これで、アキの死体は焼け落ちるだろうか。それとも焼け残るだろうか。
 これ以上、彼女の身体が傷付けられることがなければいいと――――そう思う。

「……ああ」

 そうとも。
 忘れない。忘れないとも。
 この怒りは――――決して、忘れない。

 償わせる。
 なんとしても――――仲間への侮辱を、償わせる。
 なんとしても。
 何に変えても。

「こいつは、殺していい奴だ」

 百分の一でも十分の一でもアキへの仕打ちを後悔させて――絶対にその息の根を止める。




【C-6・燃え盛るアパート近く/一日目・午前】

【ミカ@フリー】
[状態]健康、目と喉への鋭い灼熱感と落涙、髪と肌に軽度のやけど、深い悲しみと激しい殺意
[装備]継続高校の制服、
[道具]基本支給品一式、不明支給品(ナイフ、銃器、その他アイテム)
[思考・状況]
基本行動方針:継続高校の仲間達を救いたい
1:アキの死を償わせる。なんとしても――――なんとしても。
2:残る継続高校の仲間達と合流したい
3:まほの方針には従う気でいる。なるべくチームワークを乱さないように行動する
4:継続高校の仲間達を守るためなら、誰であろうと遠慮なく殺す
5:カンテレを没収されたことに若干の不満
[備考]
若干スマートフォンの扱いに不慣れです
チームリーダーが死亡したため、フリーになりました
チームリーダーの西住まほの死体と支給品一式(銃:ワルサーP38)は、C-6・燃え盛るアパート前にあります
スマートフォンに「アキに対する拷問映像」が入っています

【阪口桂利奈@フリー】
[状態]健康、目と喉への鋭い灼熱感と落涙、髪と肌に軽度のやけど、強い不安
[装備]大洗女子学園の制服
[道具]基本支給品一式、不明支給品(ナイフ、銃器、その他アイテム)
[思考・状況]
基本行動方針:みんなで学園艦に帰りたい
1:ウサギさんチームや、大洗女子学園のチームメイトと合流したい
2:一人じゃ生き残れないことは目に見えているので、まほ達の力を借りたい
3:人殺しなんてしたくないし考えたくもない
4:ミカさんが、怖い
[備考]
※まほとミカの殺意に関する話を聞いていません
※チームリーダーが死亡したため、フリーになりました
※スマートフォンに「アキに対する拷問映像」が入っています




【A-7・水族館・塔状水槽前/一日目・午前】

【カルパッチョ@フリー】
[状態]健康
[装備]軍服 S&W M29(装弾数:6/6発 予備弾倉【12発】)
[道具]基本支給品一式  不明支給品(ナイフ、その他アイテム)
[思考・状況]
基本行動方針:アンチョビ、ぺパロニ、カエサルを生き残らせる。それ以外は殺す。
1:ダージリンを殺す。
2:殺すのは悪いことなんかじゃない。仕方のないことだ。

【ダージリン@フリー】
[状態]軽度の疲労、それを忘れさせる義務感
[装備]聖グロリアーナ女学院の制服、ワルサーPPK(6+1/6 予備弾倉【12発】)
[道具]基本支給品、不明支給品(ナイフ、その他)、後藤モヨ子の支給品
[思考・状況]
基本行動方針:『 私は庶民の味方だ。そういう人間なんだ』
1:『生きるべきか死ぬべきか。それが問題だ』
2:『世の中の関節は外れてしまった。あぁ、なんと呪われた因果か。それを直すために生まれてきたのか』

[備考]
  • 後藤モヨ子の支給品の内、昭五式水筒、信号灯、スマートフォン、不明支給品(ナイフ、銃器)を獲得しています。

  • 後藤モヨ子の支給品:基本支給品、不明支給品(ナイフ、銃器 )、ヒロポン(3/50)




【アキ 死亡確認】
【西住まほ 死亡確認】

【残り――――32人】




[武器解説]

  • ハイスタンダートデリンジャー
 全長129mm、重量315g。装弾数2発。.22LR(5.6×15mm)弾を使用する中折れ式ダブルアクション拳銃。
 銃身が短いため飛距離は少ないものの、押し当てて使用すれば十分に殺傷する能力を持つ。
 小型で潜ませやすい為に、フィクションを問わず暗殺者や女スパイなどが使用する傾向にある。
 ハイスタンダート社のデリンジャーはトリガーガードのない、三日月を崩したような独特の形状をしている。

  • ワルサーP38
 全長216mm、重量945g。装弾数8+1発。9mm×19 パラベラム弾を使用するドイツ製ダブルアクション拳銃。
 日本では、ルパンⅢ世が使用する拳銃として有名。

  • ワルサーPPK
 全長154mm、重量568g。装弾数6+1発。9mmクルツ(9mm×17)弾を使用するドイツ製ダブルアクション拳銃。
 携帯性と性能に優れたワルサーPPKは数多く生産され、欧州各国の軍・警察で使用されたベストセラー。
 民間では、ドイツのゲシュタポが使用していたことからいい印象が持たれなかった銃であるが、007シリーズの影響で人気を博す。
 PPKとはPolizei Pistole Kurz(小型警官用拳銃)の略。

  • 広報権
 音声・画像配信を行うことが出来る権利。
 名刺サイズの紙に記されたQRコードを読み込むことで、『広報権アプリ』をスマートフォンに入れることが可能。
 アプリを使用することで、『一つだけ画像・音声・動画をアップロード』、『他チャットのグループ機能に配信し、それを強制再生する』ことが可能になる。
 『広報権』の使用に並んで選択することで、都度一定範囲内の全てまたは任意のチームにそれらのデータを配信し、強制再生。その後も保存される。
 一度インストールしてしまうと、記されたURLは無効となる。
 名刺サイズの紙の表はQRコードだが、裏面は上記のようなアプリの簡単な説明が書かれている。

  • ABC-M7A3催涙手榴弾
 帯状の赤色がされた灰色の筒状手榴弾。約440グラム。平均的投擲飛距離40メートル。
 信管が作動してから約2秒ほどで、15秒から35秒ほどにわたって催涙ガスを噴射する。
 目に、引き裂き感や羞明(強い光を見たときに与えられる不快感や痛み)を伴った灼熱感を。
 喉には激しい痛みと窒息感を伴った灼熱感を与えて、暫くの間意識的な行動を阻害し、暴徒を鎮圧する為の催涙グレネード。
 濡れている場合、皮膚にも同等の痛みを与える。
 なんの処置も行わなかった場合、医療処置は必要ではないが30分から60分ほど回復に時間を有する。
 なお、ジュネーブ議定書により戦争中でのこれらの催涙兵器の使用は禁止されている。

  • M244 60mm迫撃砲
 砲身1000㎜、重量8200g、60mm榴弾を使用。最大射程:70-3,490m。今回は個人携行用。
 筒に取っ手と引き金が付いたような形状をしている。使用する際は足で底盤を踏みしめて、砲身を握って行う。
 筒の中に入れれば即座に激発されるが、トリガーによって発射の管理も可能。
 屈強な男が腕を振り回される程度に反動と衝撃がすさまじいものの、一応手に持って打つことも現実として不可能ではない。






登場順
Back Name Next
009:狩猟者の資格 カルパッチョ 022:越えるべき死線、叶わない死闘
001:狼二匹と、それと、兎 ミカ 033:搭乗人数制限有
001:狼二匹と、それと、兎 阪口桂利奈 033:搭乗人数制限有
002:薔薇は赤い、菫は青い、砂糖は甘い。そして、貴女も。 ノンナ 036:白い箱庭、赤いドレス
002:薔薇は赤い、菫は青い、砂糖は甘い。そして、貴女も。 ナオミ 033:搭乗人数制限有
006:真実の強さ 河嶋桃 033:搭乗人数制限有
006:真実の強さ 島田愛里寿 033:搭乗人数制限有
017:いつも貴女に心を ダージリン 022:越えるべき死線、叶わない死闘
001:狼二匹と、それと、兎 西住まほ GAME OVER
009:狩猟者の資格 アキ GAME OVER

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2016年12月14日 01:34