「麻子……大丈夫?」
あれからどれだけ時間がたっただろうか。
数十分、数時間泣き続けていたような気がする。
だが、実際スマートフォンを見ると十五分程度しかたっていなかった。
いっその事このまま四日間たってくれたら良いのに。
いつもみたいに寝坊してそのまま四日が終わってくれたら、何も考えずにいられるのに。楽なのに。
いつまでもここにはいられない。
これからどうするか。何とどうやって戦うのか、きちんと決めなければならない。
「……静かだな」
「え?」
「何も変わらない、いつも通りの町だと思ってな。
こうやってぼーっとしてると、いつもと何も変わらないように思える」
本当にそうだったら良いのに。
なのに、現実は。
「麻子……」
聞き慣れた声。
今の私にとっては沙織の声だけが日常で。
今、この町で確実に信じられるのは沙織しかいない。
「チーム、組も?」
こんな異常事態でも私を頼ってくれる。私と一緒にいたいと言ってくれる。
うれしかった。
生き残るんだ。沙織と、みんなと。
誰も殺し合いなんか望んじゃいない。みんなで生きて帰れるなら帰りたいはずだ。
だから、私は。
「悪い……ちょっと考えさせて欲しい」
「えっ……そ、そっか」
沙織の誘いには乗れない。
「そうだよね。麻子も自分の考えがあるもんね。私なんかと組んだら、邪魔だよね。
ほら、私ってドジだし、いざって時何もできないから足手まといになるって言うか……ね。
ごめんね、こんなときまで無茶言っちゃって」
「違う」
「えっ……?」
違う。前提からして違う。
私だってできることなら沙織とチームが組みたい。
でも、それじゃダメなんだ。
絶対にどこかで詰まって、終わってしまう。
もし、私たちが本当に生き残りたいならチームは組んではいけない。
「沙織は……人を殺せるか?」
大事な確認だ。背嚢に目をやりながら問う。
そこには当然銃やナイフあるいはそれに準ずるものが入っているはずで、沙織も確認しているだろう。
酷な問いだとはわかっている。
ただ、本当に生き残りたいのならここではっきりさせないといけない。
「……無理」
「そうか、分かった」
「麻子は……麻子は殺せるの!?」
「……殺せない、と思う」
本当は、分からない。
もし、目の前に人殺しがいたとして私はそいつを殺せるのか。人殺しになるのか。
その覚悟があるかはその時にならないと分からない。
ただ、殺意のない人間にまで手を出すなんて事は決してない。
沙織もそうでよかった。
きっと、今から私が言うことにも納得してくれるはずだ。
「よし、一つ決まった」
「何が決まったの……?」
「生き残るための方針だ」
私たちが生き残るために、そしてみんなが生き残るために。
私たちは前に進まないといけない。
「沙織は、この殲滅戦でチームを組むってことがどういう事か分かるか?」
「えっと……お互いに連絡を取りあって敵の位置や情報を交換したりするってことでしょ? 通信士と一緒で」
「もちろん、それもある。でも、他には?」
「……他?」
そう。大事なのはそこじゃない。
この
ルールは、そんなに単純じゃない。
目の前で沙織は頭を捻って考えているが、表情からこの事について考えていなかったのが分かる。
「分からない……ねぇ何なの麻子?」
「もし、チームを組んだ状態で別の人間と出会ったらどうなる?」
「それは、一緒に行動しちゃえばいいんじゃないの?」
「じゃあ別のチームと出会ったら?」
「それも、なんとか話し合って一緒に……」
「生き残れるのが三人なのにか?」
「それは……」
生き残れるのは最大三人。変えることができないルールだ。
おそらく、今後何があったとしても変わることはない。
「チームを組むってことは、チームを組んだやつ以外と敵対するって宣言になりかねないんだ。
二人チームを組むと、二人以上の相手に、三人チームを組むと全員に敵対宣言したのと同じなんだよ」
「そんなことないよ! ほら、例えばみぽりんが誰かとチームを組んでたとしても、私は一緒に行動できるよ!」
「ダメだ。それが一番危ない」
「そんなっ、どうして!」
チーム。友達。
こんな絶望的で孤独な状況だと、どうしてもすがりたくなる。
でも、ダメなんだ。それじゃあ。
「四人だと一人が欠ければ三人になる。 生き残れる人数の限界だ。
私と西住さんと沙織ともう一人が行動を共にしたとして、
西住さんと一緒にいたのが他の学校のやつだったらどうしてもその空間に居心地の悪さを感じる。
そいつが、自分が殺されるんじゃないかって疑い始めたら……もう終わりだ」
「でも、そんなことって……一緒に戦った仲間じゃん! そんな事起こらないよ!」
「沙織はプラウダやサンダースの三人のなかに入っても自信をもって同じことが言えるのか?」
沙織の表情が目に見えて曇る。
意地悪な質問をしてしまった。だが、そう言うことだ。
いくら他の学校と一緒に戦ったといったって、素性を深くまで知っているわけではない。
それで本当の信頼関係を結べなんて無理な話だ。
「だから、四人の中で一人孤独になるのだけはダメなんだ。危険すぎる。
孤独を恐れた一人が裏切りかねないし、三人の側もそれを恐れて警戒しないといけない。
そうなってしまったらチームを組んだ意味がなくなってしまう。」
「……でもそれならどうすれば!」
そう、四人ならダメだ。
チームを組む段階でお互いに警戒しあわなければならない。
だから、
「六人だ。六人集めれば何とかなる」
「六人……?」
「ああ。六人いればこれは起こりにくい。集団として裏切る方向にはいきにくいし、団結の方に行く」
六人だと個人としてよりも集団としての意識が働く。故に裏切りも起きにくい。
何よりもこの状況で人数がいれば安心できる。
敵に襲われても自分が狙われる確率は低いし、なんなら返り討ちにもできる。
その状況を自ら壊すほど愚かな人間はいないだろう。
「でも、六人って! さっきよりも難しいんじゃないの?
だって、三人チームを二つも引っ付けなきゃいけないし……」
「方法はある。私と沙織がいったん別れて、二人のチームとそれぞれ出会う。
そして、集合場所を決めてもう一回集まればいい」
「確かにうまくいけば良さそうな案だけと……」
無茶だ。自分でもわかってる。
「……どうなるかは分からない。殲滅戦に乗ったやつに途中で出会うかもしれない。
二人チームじゃなく、三人チームと出会えばめんどくさいことになりかねないし、
そもそも三人のチームを組めたところでこの話に乗ってくれるかもわからない。でも」
そど子は一人でも抗おうとした。
この理不尽に対して声をあげて抗おうとしたんだ。」
「少しくらいリスクを負わなければ、みんなで日常に戻るなんて無理だ。
だから、協力してほしい」
これが今の最適解。
私に考えられる精一杯だ。
人数を集めて団結し、この殲滅戦を主催してる文科省に対抗する。
私たちみんなが生き残るにはこの方法しかない。
「分かった。要は、私と麻子が別々に動けばチームをたくさん組めて敵が減るってことでいいんだよね?
うん、大丈夫。私、頑張ってみる」
「……ありがとう。沙織」
沙織の声は震えていた。
もしかしたら、私の声も震えていたかもしれない。
何が正しいのかなんて状況次第で変わるし、
たとえ何人で組んだところで、文科省に対抗できないという意識が強くなればどうしても裏切りは出てきてしまう。
でも、屈したくない。簡単にあきらめたくない。馬鹿げてる。
だから、抗う。
動くなら早い方がいい。
まだ、きっと人殺しが少ない今のうちに。
疑心暗鬼の芽が生まれるその前に。
今ならまだ間に合う。
「さ、麻子。行きましょ。今度会うときは仲間も一緒でね」
立ち上がった沙織が私に手を差しのべる。
沙織なりに決意を固めたようだ。その目にはもう迷いはなかった。
大丈夫だ。
最後に勝つのは私たちだ。
こんな目を出来る人間が負ける世界なんてあってたまるか。
最後にはきっとみんな笑っていられるんだ。
「ああ、行こう!」
その手を取って立ち上がり、扉を開け、外に出て――――
――――ドゴォン!
「ひっ!」
「なっ……!」
爆発音が鳴り響く。
戦車に乗っていても警戒するくらいの近さだ。
ましてやカーボンの守りもない今ならなおさら警戒せざるを得ない。
「麻子……」
戦車に乗っていたら沙織を守れたかもしれない。
いくらでも敵から逃げてやる。
でも、私たちは今生身だ。
私たちを守ってくれるものは何もない。
怖い。身体が震える。
先程までの決意が揺らぐ。
ダメなのに。動かないと何も進まないのに。
沙織の方を見やると、私と同じく震えていた。
「ごめん、麻子……無理……
やっぱり一人は怖いよ……」
その声は震えていた。
怖い。動けない。何もできない。身体が言うことを聞いてくれない。
ああ、いつもみたいにこれが夢だったら。
寝ている間にすべてが終わればいいのに。
どうして今日はこんなにも、目が冴えているんだろう。
【C-4・商店街の建築資材屋/一日目・午前(朝の直後)】
【冷泉麻子@フリー】
[状態]健康、深い悲しみ、恐怖
[装備]大洗女子学園の制服
[道具]基本支給品一式、不明支給品(ナイフ、銃器、その他アイテム)
[思考・状況]
基本行動方針:みんなで学園艦に帰りたい
1:チームを組んで殺し合いを止めたい……けど怖い
2:沙織や仲間達を死なせたくない
[備考]
※水道が生きていることを把握しました
※C-4での爆発音を聞きました
【武部沙織@フリー】
[状態]健康、悲しみ、恐怖
[装備]大洗女子学園の制服
[道具]基本支給品一式、不明支給品(ナイフ、銃器、その他アイテム)
[思考・状況]
基本行動方針:みんなで学園艦に帰りたい
1:チームを組んで殺し合いを止めたい……けど怖い
2:麻子や仲間達を死なせたくない
[備考]
※水道が生きていることを把握しました
※C-4での爆発音を聞きました
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最終更新:2016年09月06日 01:59