その矩形の窓には、淡い翡翠色の型板ガラスが嵌っている。
蒲鉾の様な繊細な鱗模様が掘られた6mmのガラス板だ。
本来それは半透明のはずだったが、しかし霧がかかった様に曇ってしまって、中の様子は見えない。
汚れではなく、その正体は結露だった。
窓のサイズは人の顔が見える程度の控えめな小ささで、四方枠は柾目の焼杉でイモ組されていた。
直ぐ隣には、気化した油と埃でべったりと固まったキャビア色の換気扇がある。
立派な蜘蛛の巣が張られたそれは、長年ろくに動いている気配がない。

汚れた換気扇の隙間越しに、中の様子が見えた。
飴色の木が敷き詰められた床、壁には薄い青竹色の細かいブリックタイル。
隅にはメモがびっしりと張り付いた小豆色の冷蔵庫、その側に、散乱するのは黒豆色に光るフライパン。
壁際からステンレスの天板がにょきりと迫り出し、使い古されたシンクが埋まっている。
その左隣に、コンロが6口。そのうち一つに、澄んだ青い火が点いている。
くつくつと、白い吐息を吐く銀鍋がその上に座っていた。
コンロの前に、収穫したばかりの完熟トマトの色をしたビロードの椅子が一つ。
その座面に人が一人、腕を組み何やら浮かない顔で座っている。

ぼさぼさの頭、外に跳ねた黒髪、小さく編み込まれた左のもみあげ、短いスカート。
言わずと知れたノリと勢いだけはあるアンツィオ高校が誇る副隊長、ペパロニであった。
ペパロニは唸りながら、視線を落とす。
そこには彼女に支給されたレーションセットと、この民家から拝借したパスタ、酒、調味料、野菜。
目を細め、再び彼女はううん、と唸った。
うん。そう。もう察したとは思うが、彼女は別にこのゲームでの身の振り方を悩んでいるとか、
アンツィオの為の戦略を考えるとか、そんなことは一切、全く、全然、すべからく気にすらとめていなかった。
思考は至極、動物園のチンパンジー並に単純明快。




彼女はこのくそったれな殺し合いゲームの会場で――――めちゃくそ腹が減ったので、今日の昼メシの献立を考えていた。





ガルパンロワ 第40話

『鉄鍋のペパロニ! ~T型定規作戦~』




「腹が減ったっスねぇ」

溜息と共に呟きながら、運がない、と。そう思った。
銃声止まぬ街を歩き続けて、誰とも会わず数時間。
アンツィオ以外の生徒と関わるのが面倒臭かったとはいえ、うんざりするくらい聞こえてくる銃声から、
わざわざ遠ざかるような経路で街中を進んできた事がまずかったのだろう。
腹が鳴ると同時に、足がぴたりと時間停止魔法をかけられた様に止まり、思わず大きな溜息を再び吐く。

なるほど人生ってやつぁうまくいかねーし、全部まずい方向にしか転ばない。
いや、作るメシの美味さにだけは自信があるのだけれど。
ともあれ、腹が減ってはなんとやら。空腹では戦も恋もろくすっぽできやしない。
というかそもそもの話、支給品がクッソ不味いレーションとは何事なのだと声高に誰かさんに問いたいというものだ。
お前は馬鹿ですかと。やる気あんのかと。
誰なんだ、たいしてミリタリネタに詳しくもねえくせして調べるのが面倒な軍用品なんかに無駄にこだわった奴は。
だいたいだってあれじゃん、もう今日日、レーションとか手に入れる方が難しいじゃんかよ。
ほら、別によくある普通のパンとかでいいんだよ。
菓子パンでいいの、菓子パンで。そっちの方が安いし美味いじゃん。
そしたら“ほー いいじゃないか。こういうのでいいんだよ こういうので”って参加者も納得して食べるよ。

「なんでもいいから、そろそろ腹に入れないとまじーなぁ……」

アンツィオの非公式(?)校則の一つに、“一日に三回、おやつの時間”がある。10時、15時、18時だ。
回数が多すぎる? とんでもない!
むしろ血の気が多い彼女達が真面目で平和な学生生活を送れているのは、その伝統によりモチベーションを保っているからなのだから。
そのうち18時分を無くし、おやつは一日二回のみという拷問に何とか耐えて、
彼女達は秘密兵器P40を気が遠くなるくらい長い長〜い年月を掛けて手に入れた。

しかし、今回は更に酷い。なにせ10時のおやつすらないのだ。
こうなるともう拷問どころの話じゃないし、なんならどっかの46門砲どころかP1500モンスターが発射する800mm砲に当たって、
中空で爆発四散しろと言われているようなものだから、最早実質処刑である。ジーザス!

なお、痩せる気はあるだなんて声高にSNSで叫ぶ輩もいるが、ところがどっこいなんとアンツィオの学生はダイエットをしない。
夢じゃありません……これが現実……っ!
しかしそれは決して痩せる気があるのではない。純粋な話、“太らない”のだ。
何故ならアンツィオ高校の生徒達は毎日運動だけはしっかりとしているからである。
何もノリと勢いと料理の腕だけがしっかりとしているわけではないという事なのだ。
なにせ朝は料理の仕込みで早起き、おやつとメシの度にダッシュで校内を駆け回り、昼は全力で調理場で戦争。
夜は食材調達にまた戦争だ。
なんと奴ら、全神経がメシの為だけに動いていやがる。動物園かよ。
勿論、海上なので農作だって自分でするし、収穫も加工も、全部自分でする。
そして数は数十~百人分の料理を作り、一気に提供する。敵も味方も友人も学年も先生もスタッフも関係なく、全員が全員にだ。
それを毎日毎回繰り返す機動力、パワフルさはどの学校のそれにも引けを取らない。

あまつさえ、アンツィオのCV33カルロ・ベローチェは砲撃の威力をその車体の軽さで和らげ、
横転と復帰を繰り返さねばらない機動力と不死身の生命力が勝負の戦車だ。
アンツィオの学生は常に転がった鉄の塊をひっくり返しながら戦線復帰するくらい、
基礎運動能力だけは、並の重戦車乗りを凌駕するほどピカイチなのである。
惜しむらくは、生徒が皆ノリと勢いだけで生きる、ちょびっとだけ喧嘩っ早い野郎共だということ。
主導者がチョビだけにってか! ガハハ!

「うーん……腹もペコちゃんだし、昼メシでも食って一息つくかぁ」

まあ、とにもかくにも、ペパロニの腹は疾うに限界を突破していたというわけだ。
ポルシェティーガーのエンジン音のように低く唸る腹をさすりながら、彼女は目の前にあった店をふと見上げる。

……ただ、なんとなく、そこにあったから。

見上げた理由を何故かと敢えて問われれば、それ以上も以下もなく、純粋にそれだけだった。
けれど。
けれどもその店は、この瞬間ペパロニの視界を、胃を、鼻を、耳を。
およそ感覚を司る器官その全てを、巨大なミートボールスパゲティを丸ごと平らげる様に、綺麗に奪い去った。

ブラックコーヒーに垂らした真っ白なミルク。
例えるならそんな真逆の色と味が、しかし抜群の相性で存在している―――そんな印象だった。
特筆すべき事は何もない。だが、妙に“しっくりくる”。
光沢のある胡麻ペースト色の磁器タイルの柱を左右に構え、
横目地の入ったビスケット色の左官壁に、煮詰まった飴色のアルミ窓枠とドアが嵌っている。
その上には、アーチ状の五枚割アクリル看板が構えられていた。
年季の入ったその看板には、茶色い塗料で手書き文字が入っている。

「き、っ、さ、ぶ、ろ、ん、ず」

思わず、口を尖らせて唄うように店名を口に出す。
言い終えて、訳もなくはっとした。腑に落ちる、という言葉そのままの感覚だった。
―――喫茶ブロンズ。
もう一度、ペパロニは咀嚼するように胸の奥で呟く。ええ響きやんけ、と。
とはいえ逆立ちして見ても、珍しくもなんともない店の名だ。
人の名で例えるなら安斎千代美くらい普通の、よくある、なんの変哲も面白みもない名前。
シモ・ヘイへくらいインパクトのある名前だったらよかったのだが、そうでもない。
ただ……そう、ただ何か胸の内側から響いて来るような妙な因縁めいたものがあった。
故にペパロニは、その店の扉に手を掛ける。
まるでペンネの穴にでも吸い込まれる様に、彼女はこうしてその店に“来店”したのだった。


「おっじゃましまーっす……」


からんからん、と扉についた真鍮のドアチャイムが透き通った音色で“当店は誰でもウェルカム……!”てな感じで彼女を招き入れる。
同時に、何処かで誰かが放った遠く啼く銃声が、一発。
パァン、と、静かな港町にやけに乾いた音が響いて、同時に暗がりに飲まれた埃っぽい店内を、光と海風が通り抜ける。
銃声の残響が、鍋に焦げ付いた油のように、いつまでもいつまでも耳にしつこくこびりついていた。
真っ暗に影が落ちた店の入り口で、光を背にしてペパロニは無言で立ち尽くす。

奇妙な感覚だった。
煙のようにもやもやとした、冷たくもなく暑くもなく居心地の悪い空気が、体中にじとりと絡みつく。
自分が今何処に何故立っているのか、気を抜くと忘れてしまいそうだった。
そのドアを境に現実と幻想が混ざり合い、そこに足を揃える自分は今、きっと白昼夢を見ている。そんな感覚にさえ襲われた。

ああ、そう。
夢だったら良かったのだ。

ペパロニはそう思って自嘲する。
あの甲板の血飛沫も、この殺し合いも、さっきの銃声も、全部、全部、全部、

「――――――夢なら、……。……………」

びっくりするくらい情けない声が、生気の無い影の中にぽろりと溢れた。
思わず、口を両手で塞ぐ。冷や汗が、額に一筋。
一体、なんだってそんな自分らしくない言葉。
ペパロニはかぶりを振り、しんとする店を見渡す。
いつもならば、賑わう時間であろう正午前。
しかししんと静まり闇に染まる喫茶店内は、成程現実感は無く尽く死んでいて、
そして銃声が轟く無人の街は、死のゲームの舞台であるはずなのに、この喫茶店よりも遥かに生を匂わせている。

逆、である。

確かに何かがズレていて、どうにもおかしい。
そういう意味で此処は、このドアは、確かに幻想と現実が混ざる異世界の境界線上だった。
ペパロニはもう一度かぶりをぶんぶんと振る。
らしくない。難しい事を考えるな、と言い聞かせる様に、じっくりと深呼吸を一回。
どちらも現実だ。それに変わりはない。
腹が減っては、戦どころかこの現実を生きていく事すら難しくなる。
ならば今自分がやるべきは、銃弾を詰め死んだ街に命を証明する音色を上げることよりも、
死んでしまった喫茶店へ、再び火をつけてフライパンを振る音で満たす事だ。

ペパロニは意を決したように足を踏み出し、ドアを閉める。
瞬間、むわりと鼻腔を抜ける懐かしい匂い。
使い古した油と煙草の残り香が混ざったその香りは、お世辞にも年頃の女の子が好む臭いだとは言えなかったが、
しかしペパロニにとってそれは今も昔も変わらずある“日常”の香りだった。

―――肩の荷が下りた。

一言で纏めれば、そんな気分。
気怠げな欠伸を一つすると、ポケットに手を突っ込み、頭をぼりぼりと掻きながら、店の真ん中をズケズケと歩いて進む。
遠慮とやらで鼻をかんでゴミ箱に丸めて捨てたような、そんな図々しさが現れた歩き方だった。
席は15席ほど、いい感じにこじんまりとした店内。
薄い木のテーブルに、ピーナッツバター色の椅子。床はテラコッタ調の塩ビタイル。壁には腰の位置まで木板調のクロス貼。

店の真ん中ではたと足を止め、ペパロニは頭をもたげる。
タバコのヤニに黄ばみ、油で固まった鼠色の埃がへばりつく天井が視界に広がった。
確かにそれは汚いのだろうが、しかし今のこの“非日常”の中では紛れもない“日常”の残り香であり証左である様に思えて、彼女は妙に安心した。
それに正直なところ、彼女は煙草の匂いもどちらかと言えば好きだった。
何故かというと、まあ、ざっくばらんに言えばペパロニが不良女子高生であるからだ。
ペパロニ is フリョウ。
これほどまでに簡潔、且つ的を射た紹介はないってくらい、彼女は俗に言う不良だった。
そもそもアンツィオ自体が不良集団みたいなもんなのだが。
ともあれ声高に言うべき事ではないが、故にそいつらの嗜み方も彼女は知っていたのだ。
それを敬愛するアンチョビに見つかって、叱られ、その度に頭を掻きながら謝って。
そんな生活が、ペパロニは堪らなく好きだったのだ。

「誰か居るッスかぁ~……なんつって。居るわきゃねーよな」

キッチンに向かう入り口の暖簾を掻き分け、無人のそれを見て、苦笑する。
良い意味でレトロ。悪い意味で小汚い。いかにも昔の喫茶店って感じのキッチンだ。
深呼吸を、一つ。
ぱん、と頬を叩いて、近くの椅子に垂れ下がった、汚れたタータンチェック柄のエプロンを手に取る。
それからは、あっという間だ。
コンロを回してガスが繋がっているのを確認すると、調理棚に転がっていた湿気ったマッチを擦って火をつけた。
辺りを見渡せば、近くにはラゴスティーナの白銀色の鍋。傍らには、グローバルの包丁。
自分が愛用しているものと一緒で、思わず含み笑い。

「……サテンの癖に良いモン使ってんなぁ」

ふと、水は止められているんじゃないかと蛇口を捻ると、幸い勢い良く水が出た。
それを見て少しだけ胸を撫で下ろす。水がなければ始まるものも始まらない。姐さんのいないアンツィオ状態である。
空鍋に水をたっぷりと入れて火に掛けると、ペパロニは背負っていた背嚢を床に下ろして、
同時にそこらに転がる油でギトギトの赤い椅子にどかりと座った。
ふと溜息を吐いてだらしなく足を組むと、側にあった錆びたコーヒーテーブルに目が映る。
茹でたほうれん草の様な深緑色の天板に、くすんだ真鍮の灰皿が置いてあった。
その側に、目が痛くなるくらいの真っ赤なパッケージの小箱が転がっている。


「あー……用意良すぎじゃねーの、コレはさぁ……」


そのくしゃくしゃの箱――ナチュラルアメリカンスピリット・オーガニック――の中に、煙草が五本、入っている。
辺りをきょろきょろと伺い、誰が居るわけでもない事に気付いたペパロニは表情だけで笑う。
どうせ、これはどこまでいこうがくそったれな殺し合いなのだ。
先生なんか居なければ、警察も当然居ない。とっくに法律やらなんやらは蚊帳の外。
ならば多少食材や煙草の一、二本、盗んだところでバチなど当たるものか。

一本。

皺だらけの箱から湿気た煙草を出すと、フィルターを机に二、三回軽く打つ。
目を細めながら、コンロの火に前髪を燃やさない様に咥え煙草を運んだ。ちりちり、と煙草の先端が赤く燃えてゆく。
椅子の上で胡座をかくと、ペパロニはそれをくゆらせた。

数ヶ月ぶり、である。
せめてアンチョビが隊長でなくなる時までは、そう決めていた事だったのだけれど。

だけど、それはもう分からない。
分からないのだ。
だからきっと、これはある種の“自棄吸い”でもあるのだろう。

大学選抜チームと戦った時、ペパロニはアンチョビを一度たりとも“姐さん”と呼ぶことはなかった。
アンチョビがそれに気付く事は終ぞ無かったが、ペパロニは……勿論カルパッチョだって、
それがアンチョビを“ドゥーチェ”と呼べる最後の公式の試合になるであろう事を知っていた。
二人乗りの豆戦車。三人で肩を寄せ合い、しかしどう足掻いても鮨詰めで。
その事にやれウィッグだのなんだのと悪態をつきながらも、しかしペパロニの心の奥の柔らかい部分が、ガラにもない事を思っていたのだ。

嗚呼―――この瞬間が、いつまでも続けばいいのに。

だから、最後だけは。
彼女と共に戦い、喜び、泣ける内に、精一杯戦車道を楽しもう。
なれば、呼び方はいつもの“姐さん”ではない。
彼女は、アンツィオが誇る世界一の“ドゥーチェ”なのだから。

「……あ〜あっ。怒るだろうなぁ、姐さん」

だからこそ、苦笑を浮かべながらそう呟いて、背を丸めて膝を抱く。
部屋の中は嘘のように静かで、独り言には何の反応もない。
それが、少しだけ、寂しかった。

―――あっ、お前! 今なにしてた、隠しても遅いんだぞ、おいなんだその手、見せろ。
なんだお前はまた吸ったのか、あれだけ言っただろう、何かあったのか、相談しろ、つらくはないか。
また酒は飲んでないだろうな、わかってるんだろうな、お前は未成年だぞ、体に悪いんだぞ。
そこらへんの不良に絡まれたらどうするんだ、喧嘩は良くない、子供が産めなくなるぞ、将来に響くんだ。
料理人失格だ、戦車道に反する、副隊長の立場でなにやってるんだ、おやつ抜きだ、休学ものだ、反省文だ!

……なぁんて、くどくどと説教する姿が目に浮かぶようだ。
とは言え、なんだかんだで怒られるのは、嫌いじゃなかったけど。

「バッカだね~、マジで」

ペパロニは前髪をぐしゃりと握って、力無く嗤う。

そう。嫌いでは、なかったのだ。
でも、それ以上に心配させたくはなかったから。
だから、ペパロニは少なくとも馬鹿なりに真面目で正直に生きてきた。
それがアンツィオでの“役割”なのだと、知っていたのだ。
しかし、そんな時に放り込まれたのがこのゲームである。
ペパロニは手を真っ赤に染めてでも、アンツィオの面子と生きて外に出る事を選んだ。
それが生半可な事でもなければ、アンチョビが喜ぶ様な正しい道でもないことくらいは、ペパロニの足りないおつむでも判る。

「バカだ、私」

故にこれは敬愛するドゥーチェに対する最大の裏切りに他ならず、
煙を吸う行為もある意味でそれを自己肯定する為の“儀式”であった。
きっと、そうしてあれもこれも全部纏めて、煙に巻きたかったのだ。

「ふう~~~~っ」

やや甘さとスパイシーさが混ざった煙を口と肺に満たし、ゆっくりと味わう様に吐く。
白煙が、何かで滲み霞んだ目の前に満ち広がった。

「……あー、うめぇ」

旨い。
そう思った。
思う事に意味があった。
納得する事に意味があった。

一言で味を表現するならば、森、である。

そんな気配を感じる味だ。
自然の中で育った木の実のような僅かな甘さが、まず口に広がる。
その陰にある、ささくれた枯れ木のようなやや荒削りで棘のある味。しっとりと湿った土の匂い。
それらが混ざり合い、疲れた心に染み渡る。
しかし次の瞬間、切なさと言い様のない虚無感と不安が、雪崩の様に胸に押し寄せた。
その旨さはやはりどこか悪魔的且つ背徳的で、
代わりに何か大切なものが煙と混ざり合って中空へ上がるような、そんな味だった。
胸から込み上げた何かと一緒に口から漏れた煙は、何かを求め彷徨うように、
或いは何も求められずに逃げ迷うように、電気の消えた暗いキッチンの中をゆらゆらと舞い踊る。
たただだ、奥行きを喪った暗がりを、舞い踊る。

どこかから、ばらららら、と無機質な機銃の音。
喰らえば人間などひとたまりもないな、とぼんやりと思う。一発でも腹に貰えば、瞬間、真っ赤な飛沫だ。
つまりこの音のするほうでは、今まさに命が散っているのかもしれないということ。
それを聞きながら一服とは、まったくもって呑気なものだ。
煙を間抜けな顔で吐きながら、あまりの現実感のなさに笑いがこみ上げる。
あの遊園地跡に集った戦友達の死ぬか生きるかが、こんな乾いた音一つで決まるのだ。
これを可笑しいと言わず、笑わずにしてどうするというのか。

目を細めて、口角の上がった唇で煙草を咥える。
かさかさの唇が、浮かぶ煙に霞んだ。ペパロニはリップクリームが嫌いだった。
小さく赤く燃える白いシガレットペーパー、灰になる刻。
湯気を上げる水、ぽつぽつと、小さな泡沫が鍋の底から上がり始める。
青く燃えるコンロの火、光の無いキッチン。
炭化した塵、油の匂い、遅い鼓動。
息を僅かに遅く吐く。
かたかたと揺れる窓、蛇口から落ちた水滴がシンクに跳ねる音。
空気は少し湿っていて、やや生温い。
身体にいやにまとわりつく不快な紫煙を払って、椅子の背もたれに背と頭をもたげた。
頭は熟れたスイカのようにずっしりと重く、全身にはどっと疲れが押し寄せる。

……色々な事を、考えた。

今のこと、今までのこと、これからのこと。
チームだのなんだのとか、身の振り方とか、生きる為の事とか。
生き抜いたとしてとか、罪とか罰とか、アンツィオのこととか。
そりゃあもう片手で数え切れないくらい、山程のこと。
ところが深く考えれば考えるほど、見えてくるのは大概が失敗して焦げたトマトソースのように碌でもない結果ばかり。
想像するだけでこめかみがきりきりと痛みだし、肩がこってしようがなかった。

「やだね、ホント」

煙と共に吐き出した言葉は酷く掠れて焼き魚の内臓のように苦くて、喉奥に突き刺さるようだった。
きっと、馬鹿は考えるだけ無駄なのだ。
無論それだけが理由ではない事くらいは疾うに判っていた。
いたのだが、いかんせん自分の頭が足りないのは悔しい事に本当で、答えが見つからないこともまた事実だった。
ただ、はっきりとしている事は一つあった。
“自分が選択して、その選択を信じて生きるしかない”という事だ。
アンツィオ以外の誰も信じる事が出来ないのなら、自分達しか信じられないという自分を信じるしかないのだから。
自分すら信じられなくなってはオシマイ、なのである。

「……。……焦るんじゃねぇ、私ぁただ腹が減っただけなんだ」

そう、しかしまずは腹だ。
ただただ純粋に腹が減っただけなのだ。
だったら小難しい悩みは捨てて馬鹿であるという事に甘える以外の選択肢はペパロニには毛頭なく、そして、それが彼女であった。
肩を竦めながらかぶりを振ると、ペパロニは気持ちを切り替えて床に放っていた背嚢の口を開く。
武器や毛布を掻き分けた先の先、奥を漁れば、一際大きなド派手なショッキングピンク色のパッケージの箱が顔を出した。

「ぉ」

思わず、声を漏らして目を丸くする。
出てきたのは、豪勢だけが取り柄のイタリア軍のコンバット・レーション。
食を尊ぶアンツィオにとってはまさかの“当たり”の支給品、棚からぼた餅ならぬ棚からピッツァである。
ただピンクのパッケージが目印の馬鹿でかいその箱は、どう見ても持ち運びに不便で。
しかし驚く事なかれ、なんと1日分の食料や爪楊枝、紙ナプキンや嗜好品まで入っている無駄仕様なのである。
やったぜペパちゃん、料理が増えるよ!

「モジュールは……Fっと。うぉ、当たりじゃん」

イタリアのコンバット・レーションには、“モジュール”と呼ばれる種類がAからGまでの7つが存在する。
それぞれ入っているものが微妙に異なり、気分によって一日の食事を選択でき、一週間毎食違うものを食べる事すら可能なのだ。
なんとも食にこだわるイタリアらしい逸品。レーションなんかよりまず使える戦車の開発をしろやと言いたくなる。
M30機関銃なんて主力兵器にしては性能も酷いもんだぞ。どうしてこうなった。
さて、それはそうとこのレーションボックス、入っているものはざっと下記である。

  • ビスケット
  • ジャム(ピーチ味とアプリコット味)
  • インスタント飲料(カプチーノとレモンティー)
  • 気付け薬 30ml
  • 砂糖
  • 浄水剤 4錠
  • 使い捨て歯ブラシ 3本
  • つま楊枝 3本
  • ゴミ袋 3枚
  • ストーブ
  • 燃料タブレット 6個
  • マッチ箱 1箱
  • 紙ナプキン
  • スプーン
  • 説明書

下手すりゃそこらへんのビジネスホテルより豊富なアクセサリーの類が入っている中でも、特筆すべきは“気付け薬”。
何を隠そう、その正体は“酒”である。飲んどる場合かーッ!
それも見てくれこの驚異のアルコール度数40%! 戦争なめてんのか。
しかも驚くことなかれ、上記は全て“朝食用”である。
ジャムや飲み物って選ぶ楽しさ入れる必要ある? しかも朝から酒? 馬鹿かな? と言いたくなるラインナップだ。
因みに“昼食用”のボックスの中は下記である。

  • ミネストローネ缶詰
  • 牛肉ゼリー寄せ缶詰
  • クラッカー 2パック
  • フルーツサラダ缶詰
  • ビタミン剤 4錠
  • インスタントコーヒー
  • 小麦を固めた錠剤 10錠
  • 砂糖
  • 紙ナプキン
  • 食器セット

これも中々に豪勢。
各国の缶詰だけのレーションに比べれば、最後の晩餐かな? これ食って死ねってことかな? て感じになること請け合いである。
ここまでくるとおかわりをしなくてもお腹は膨れるし、なんならただいまより毒ガス訓練が開始されても不思議ではない。
そして“夕食用”ボックスは下記だ。

  • ミートソースのラビオリの缶詰
  • ツナと豆の缶詰
  • クラッカー
  • インスタントコーヒー
  • 砂糖
  • フルーツ・シリアル・バー 2枚
  • 紙ナプキン
  • 食器セット

やはり豪華である。
主食、副菜、デザート、ドリンクまで揃っていて、これがレーションだっていうのだから驚きだ。
ただ、それでも当時のイタリア軍人は満足しなかったのだという。
何故なら、そう。もうお分かりだろう!




「でも、やっぱり“足りねェ”よなァ~~ッ!」




――――パスタが! 無いからである!!!

パスタは言わばイタリア料理の生命線。
戦車道にまぐれなしと言うように、パスタ無くしてイタリアンなしと言っても過言ではない。
しかしペパロニも伊達に料理人の端くれをしていない。根拠もなく足りないだなんて喚くほど愚かではないのだ。
そう。何せ此処は“喫茶店”。
電気は切れているが冷蔵庫もあれば野菜も調味料も、なんならパスタだってあるはずなのだ。
腐らない乾物麺類、最高!
咥え煙草を灰皿に雑に押しつけると、ペパロニはさてと腰を上げて、伸びとあくびを一つ。

「うしっ。やるか」

ぼこぼこと湧くお湯の火を小さくすると、ペパロニはキッチンの片隅にある業務用冷蔵庫をばこりと開けた。
思った通り、そこには食材の山。それもまだ腐っていない。
ペパロニは指を鳴らす。読み通りだった。

到底公式とは言えないであろう、戦車なしでの実弾と刃物での殲滅戦。
そもそもが犯罪だし、控えめに言ってテロの類で、幾ら何でも政府がこれを許しているとは思えない。
ならば、用意と手回しはあっても、大洗住民の退避や諸々は、誰かに気付かれないうちに素早く決行せざるを得ないはずだ。

遅くとも、二日。

馬鹿だが頭の回転だけは早いペパロニの勘では、それが住民退避にかかる最短かつ、誰かに気付かれない最長の時間だった。
そしてそのくらいであれば、業務用冷凍庫の肉や冷蔵庫の野菜は余裕で耐える事を、ペパロニは知っている。
そう、つまり! もうお分かりだろう!!


「肉の時間だぁぁぁあぁぁぁああぁぁああああああアアァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」


肉が! 食えるのである!!!
誰かの声を借りるなら、ひゃっほぉう! 最高だぜぇ〜! ってやつだ。

(つっても、パスタに使える肉しか使わねーけどな)

ペパロニは冷蔵庫を開けると、手当たり次第の肉を取り出す。
挽肉、ベーコン、豚バラに鶏腿、牛はなかったが十分過ぎる。

(さて……)

そうして、冒頭へ戻るのであった。
ペパロニは腕を組み、食材と睨めっこを始めた。ここからが包丁人ペパ平の腕の見せ所ってもんだ。
数秒悩んで、やがて頷き、組んでいた腕をとく。
鼻歌を歌いながら、いくつかの食材を棚と冷蔵庫から慣れた手つきで取っていった。
玉ねぎ、にんにく、ベーコン、挽肉、バター、オリーブオイル、トマトジュースにパルメザンチーズ。
ほうれん草、チェダーとゴーダがミックスされたとろけるチーズの袋、そして乾燥パセリと鷹の爪。
ここまでは基本みたいなものだ。

(つっても、どうせだしレーション使いてーよな)

ペパロニはモジュールの箱を開き、ううんと唸る。
なんと殆どが単体で食べる前提のため、使えそうなものがほとんどないのだ。
クラッカー系はちょっと気分的にノーセンキューだし、フルーツ系はなんなら冷蔵庫にあるうえ、飲み物系はそこらのインスタントコーヒーで事足りる。
つか喫茶店すげえな。なんでもあんじゃん。

(んー。使えるのはせいぜいミネストローネ缶とツナ豆缶くらいか)

スチールの缶をいくつか拾い上げ、ペパロニは再び腕を組む。
なんとなくノリで食材は選定したが、肝心なのはメニューだ。
なにを用意したかではなく、なにをするかが大切なのだ。
P40だってそうだ。秘密兵器を買ったから云々という話ではなく、それで勝たなきゃ意味がない。
なにせおやつを無くしてまで購入したのだ。こちとら伊達に我慢していない。
まぁ大洗には勝てなかったし、なんならネットでカンパ募ってるがな!

(挽肉か……ラー油と豆板醤は……あるな。肉味噌作れんじゃん)

開いた冷蔵庫を覗き込み、ペパロニは再びに唸る。
肉味噌は作れる。作れるのだが―――おいそれってYO、イタリアっぽくないじゃねーの。
でもだったら簡単で、それをイタリア風にすりゃあいいだけの話である。
言うほどイタリア風にする必要あるか? という疑問はあるが、アンツィオとはそういうものだ。
だって中華一番がいきなりフレンチやりだしたらおかしいでしょ。そんなんもう中華二番じゃん。
特級厨師も龍の柄した服着れねえよ。

(肉味噌パスタ……イタリアさがねーけど、ミネストローネ缶使ったトマトパスタに肉味噌……。
 うん、味的にはイケるかもな……担々麺風トマトパスタ……? いやスープパスタか? そうだな、そうしよう)

スープパスタであれば、と腕を組みながら考える。使う麺は相性を考えればスープとよく絡む所謂フェットチーネ。平打ち麺である。
シンク下の地袋を漁ると、都合よく麺が見つかった。
なんでもありかよこの茶店。

(ツナ缶は……豆抜いてオムレツにすっかな。豆はパスタに入れよう。
 卵は冷蔵庫にあったし、玉ねぎとバターとチーズ、オリーブオイルはさっき出した。
 生クリームか牛乳はっと……おー、牛乳あんじゃんか。流石だな喫茶店〜)

しかし、とペパロニは頭を掻きながら考える。
スープパスタは確かに美味いのだろうが、少し彩が足りないように思えた。
冷蔵庫の中を覗けば、大根、にんじん、キャベツ、白菜、オクラ、カイワレ。うーむ、難しい。

(コレ使えそうなんオクラくらいだな。オクラと担々麺は……うん、多分いける。トマトの酸味と合うし。
 担々風だしチンゲンサイとかあればもっとよかったけど、まぁオクラでも大丈夫っしょ。
 ……でも念の為味はトマト寄りに仕上げるか)

ペパロニはオクラを取り出すと、次は香辛料の棚を漁る。イタリア料理にハーブ(合法)は欠かせない。
言わば歴女チームにとってのコスプレ要素のようなものだ。
なくてはならないし、ないと何なのかわからない。

(ワインは……よし、白がある。
 香辛料……は、一応一通りあるな。さすがに乾燥モノしかねーけど。
 ……ブーケガルニ……は、面倒だな。ま、別にそこまでこだわる必要ねーか)

ワインを見て少しだけ魔が差すが、流石にそれは自重する。
酩酊状態で戦闘など自殺未遂もいいところだ。というか未成年は酒を飲んじゃだめなんだぞ。めっ!

(あとはブイヨン……いちいちじっくり煮てる時間ねーし、コンソメ使うか)

タイムとローレルとチリペッパーを手に取りなんとなくで裏返すと、案の定賞味期限が半年前。別に食えなくはないが。
ふと、隣にあったナツメグが目に入る。これも入れてみるか、と手に取った。
賞味期限は見なかった。どうせ過ぎている事は想像に難くない。
どこかの予約期限みたいなものである。なぁに大丈夫。かえって免疫がつく。
多少(賞味)期限が過ぎていても、最終的に出来上がったものが美味ければそれでいいのだ。

(よし。レシピはなんとなくできた)

そこまで考えてからは、早かった。
オクラをさっと緑が鮮やかになるくらい茹でて、同時に鷹の爪は細かく輪切り、ニンニクは芯を取って潰す。
そうして火にかけたフライパンにケチケチしない大量のオリーブオイルと一緒にぶち込んだ。
やがてニンニクの香りが飛んできたら頃合いだ。惜しみなくラー油を入れてすぐにミンチを入れ、さっと強火で素早く炒める。
豆板醤と入れて焦がさないように何度か混ぜ合わせたら、最後に花椒とナツメグを少しだけ。

(完成〜。中華風肉味噌っと)

出来た肉味噌はタッパーによそい冷蔵庫へ。
せっかくの作りたてを冷やすのかと驚かれそうなものだが、ここが後に効いてくるポイントなのだ。
ペパロニは冷蔵庫を閉めながら舌でペロリと唇を舐めると、支給品袋から小さな手斧型のナイフを取り出す。

“メッツァルーナ”。直訳すると“半分の月”。
ペパロニにナイフ枠で支給された武器……もとい、イタリアの調理器具である。
一見すると拷問器具のような弧を描いた馬鹿でかい刃の正体はチョッパー。
別の地方では“ウルナイフ”と呼ばれ動物を解体する道具でもあるのだが、細かい事は気にしないことが吉、である。
見た目は扱い辛そうだが、シーソーのように適当に食材の上でメッツァメッツァに動かしているだけで、効率的にみじん切りができる便利な代物だ。

それを使って、玉ねぎ、マッシュルーム、ニンニクをあっという間にみじん切り。
熱した鉄のフライパンにバターとオリーブオイルを入れて、バターが溶けたらニンニクと玉ねぎを放り込む。
俗に言う飴色になるまで炒めるってやつだ。
全体に火が通ったら、皮ごとざく切りしたトマトとトマトジュースと白ワインを入れて、
ミネストローネ缶、ツナ豆缶の豆、ベーコン、ほうれん草、
マッシュルーム、ローリエ、タイム、鷹の爪、ナツメグ、塩、コンソメをぶち込む。
ここら辺はそれなりで、適当だ。
まあまあ美味ければそれでいいし、ペパロニが思うイタリアンなんてそんなものだった。
安い、早い、美味い! 手を抜いてもそれが実現できる素晴らしい料理、イタリアン!

「うん、うまいトマトソースだ。いかにもトマトって感じのトマトだ。
 良い出来だなこりゃ。はー、自分相変わらず天才じゃねーかな。店開けるわこりゃ」

暫く煮込んだソースに指を突っ込んで味見をすると、あまりの美味さにペパロニは口角を上げてうんうんと頷く。
パスタソースはこれでほぼ完成だ。あとは麺を茹でたらトッピングするだけ。
平打ち麺と塩を沸騰した鍋に放り込み、ペパロニは、さて、とエプロンの腰紐を縛り直す。

(あとはオムレツでも作るか)

ツナ豆缶の余ったツナをスプーンでかき集め、玉ねぎのみじん切りと余ったミンチをさっと塩胡椒で炒める。
火は中火、焦がさないよう、慎重に。
フライパンを、振る。換気扇が唸る。鉄が擦れる音。香ばしい匂い。
額から汗が流れる。一心不乱に、我を忘れて手首を動かす。
跳ねるフライパン。火の粉をあげながら。一定のリズムで前後に動く。
一見すれば、一連の動作は弾丸の装填に似ていた。
そうして具ができれば、あとは牛乳をといたフワトロ卵で包んで、すぐに完成。

そうこうしてれば麺が茹で上がるので、驚くことにもう完成である。
大きな皿に平打ち麺を入れ、トマトスープを注いだら、牛乳を少し足す。
チーズと冷蔵庫の肉味噌をその上にトッピングして、最後に刻んだオクラと乾燥パセリを乗せてやる。
そうしてパルメザンをふりかければ……。

「ペパロニ特製トマトスープ肉味噌担々風パスタの出来上がりってね!」

肉味噌を冷ましたのは、固まった油分と旨味に、暖かいスープに混ぜた瞬間に溶け出して欲しかったからだ。
これをするのとしないのとでは、圧倒的に味と風味が違う。
油が冷えて白く固まり、半固形となった冷たい肉味噌を少しずつ崩して、熱々スープとオクラ、そして麺へ絡める。
これこそが、ペパロニの考えるこの料理の真髄である。
戦車道でもそんくらい頭使えよなっていうツッコミは野暮だ。

鼻歌交じりに器をホールに運び、ペパロニは席に着く。既に口の中はよだれで一杯だが、そこは料理人。
しっかりとエプロンを脱ぎ、手を合わせて、一人のみじめイタリアンだろうが、感謝を天に向けるのだ。

「っし! いただきまあ――――――「……あら?」――――――す、ぅ?」

出会いはいつだって唐突である。
からんからん、と乾いたベルの音。
ペパロニが間抜けな顔をあげれば、ドアの内側に立つ一人の女生徒。
ギブソンタックの金髪に、淡いブルーのカラーコンタクト。
すらりと真っ直ぐ伸びた足は細く、立ち方一つからでも気品が漂って来るようだった。

一人だけの孤独なパーティ。
光のない喫茶店で行われていたそれに、突然の来訪者が訪れた瞬間だった。






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018:it's me ペパロニ 040:スパイスは紅茶の後で
018:ノブレス・オブリージュの先に ダージリン 040:スパイスは紅茶の後で

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最終更新:2018年03月03日 13:00