金木犀が焼ける匂いがした。
甘い匂いと煤の臭い。
夏の終わりの切ない気配も混じって、頭の中はアルコールを注射されたみたいにくらくらする。
お酒は飲んだこと、ないけれど。
そういえば、うんと小さな頃、夏にかけっこをしていて、石に躓いて転けたっけ。
膝を擦りむいて、思いっきり泣いて、お母さんは私を背負って家まで送ってくれた。
嫌がる私の砂利が混じった膝を水で洗って、お母さんは泣きじゃくる私を無視して、傷に消毒液をかけたっけ。
白い泡が血に滲んで、少しだけアルコールの臭いがしたのを覚えている。
『痛いでしょう。これが生きているってことよ』お母さんはあの時、そう言った。
“生きることは痛いこと”。
それが最初のアルコールの記憶だった。

腐った土の味がした。
うんと昔、夏休みに、田舎のおばあちゃんの畑に入った。
自分より背の高いひまわりを抱いて、土だらけになりながら畑を走り回ったっけ。
お母さんが私を呼ぶ声がしたけれど、気付いた時には辺りはまるで高層ビル。
自分より背が高い野菜や草で、今自分がどこにいるのか分からなくて、私は二度とお母さんに会えないような気がして泣いた。
『泣き虫、みーつけた』お母さんは泥だらけの私の頭を優しく撫でた。
それが最初の土の記憶だった。

少し遅れて、咽せ返るような血の味、いのちの味。
土の味と血の味が混ざり合って、傘を忘れた土砂降りのあの日みたく、どうしようもなく惨めな気分になる。
お母さんがいなくなって、お父さんはずっと一人で私を育ててくれた。
戦車道は決して安全な競技なんかじゃない。
口の中だって切るし、痣だってできるし、たまには火傷したり、場合によっては骨を折りだってする。
でも、お父さんはいつも全力で応援してくれた。
『私、戦車道やるんだ』……あれって確か、夏の日だったっけ。
お父さんは、何も言わずに私の頭を撫でてくれたよね。
全然上手くない撫で方で、笑っちゃったけど。

風が肌を撫でつける。
青春の終わり、最後の猛暑日のような、太陽が腹から必死に絞り出したような。
そんな熱くて、渇いていて、酷く寂しい風だった。
身体中が痛い。じくじくと内臓の内側から針で刺されるような痛みが全身をくまなく蠢いている。
腕を動かそうとすると、骨の芯に電流が走るような鋭い痛みが、肩を突き抜けた。

『ダメだろう、あんなことやったら』痛みと共にフラッシュバックする記憶。今年の夏のこと。
あの惨めな試合のあと、お父さんは、私を初めて怒鳴った。
『うるさい! 何も知らないくせに!』びっくりして、そのことが何だかショックで、恥ずかしくて。
それを隠そうと酷い台詞を吐き捨てて、部屋に篭った。
私はただ、サンダースを優勝させたかった。皆から褒められたかった。
私はナオミみたいにかっこよくないし腕も良くない。隊長みたいに可愛くなければ、カリスマだって、からっきし。
そばかすだってあるし、背だって低いし、胸も大してないし、頭もよくないし、片想いだし、すぐに怒っちゃう。
誰かに誇れる様な取り柄が無いから、私なりに、出来ることを頑張っただけだ。

私だって、皆みたいな、ヒーローになりたい。
ケイ隊長に、ナオミに、タカシに、お父さんに、お母さんに……誰かに、認めて欲しかった。
頭を撫でられたかった。それだけだった。
だけど、頑張って頑張って頑張って、結局一回戦敗退は、誰のせい?
ああ、でも、酷いこと言っちゃったな。
私ってば、お父さんにまだなにも謝れてない。
まだなにも、返せてない。
ごめん、ごめんね。ごめん。
ねえ、お父さん、お母さん。
ごめんなさい。

ぱちり。

瞳を開く。二対の濁った硝子玉が、灰色の空を飲み込んだ。
煤けた空気の向こう側、天が広がっている。
青は無く、牛乳を零したようなのっぺりとした硬い白に濁っていて、火柱に左右を切り取られていた。
炎は猛る閻魔のようにごうごうと唸り、黒煙はもくもくと天に昇っている。
大地と空を繋ぐ鎖のように、途切れず、長いとぐろを巻いて。

「――――――――まるで、世界の終わりね」

斯くして少女は、アリサはぽつりと……そう、まるで愛した人の墓前に花を供えるように皮肉げにぽつりと、呟いたのだった。






「慎重すぎるあの子を、貴女には支えてあげて欲しいの」
ダージリン様が私におっしゃられあそばれました。
あの子っていうのがどなたのことなのかとか、色々さっぱりでしたんですけれど。
あとでそのことをアッサム様に相談しましたところ、溜息を吐かれて、そういうことは自分で考えなきゃダメよ、と言われてしまいました。
そう言われましても、自分で考えて分からないから、アッサム様に聞いているんですのに。
教えてもらえなかったものですから、誰のことを言われたのか、今でもよく分かりません。
考えるだけ疲れるので、そのうち考えないようにしました。
これは自慢ですが、私はお頭があんまり良くありませんでしてよ。

「貴女には、クルセイダー隊の隊長をやって貰うわ」
ダージリン様が私におっしゃられあそばれました。
素直にチョー嬉しくて、皆様に自慢しました。
オレンジペコさんが何か言いたげな顔で私を見ていたような気がしましたが、何も言ってきませんでしたし、多分気のせいです。
つーか、マジですのって感じでした。だって、そりゃあもう、なにせ私はまだ一年生ですし。
上級生達が車長をお務めあそばさっているのに、小隊のリーダーだなんて。
一体ダージリン様は、どういうおつもりだったのでしょう。まったくもって、偉い方の考えはさっぱりわからんのですわ。

「クルセイダー隊は、そもそも昔から“弾かれ者”が集まった小隊なんだよなぁ」
ルクリリ様が私におっしゃられあそばされました。
ソーダをストローで音を立てて飲み干して氷を口に含むと、ルクリリ様は、わかるかローズヒップ、と続けられました。
さっぱりわからんですわ。私はコーラを飲みながら答えました。
ちなみにその日ルクリリ様に誘われて見に行ったサメ映画はクソオブクソ映画でした。アカデミー賞クソ映画部門とクソCG部門でダブル受賞ですわ。
「戦車道をやる人間には、大きく分けて……あー……まぁ幾つかタイプが居て、そのうちの“走り屋タイプ”ってやつなんだよ」
「でもでもルクリリ様ぁ。戦車なんか、走って暴れて撃ちまくってなんぼではないのでして?」
私が伺いましたら、「だからお前がクルセイダー隊の隊長なんだよ」と、ルクリリ様は言って、笑いあそばされました。
なんですのぉ、それはぁ???

「いい? 作戦の骨子を守った上ならば、それ以外は貴女が考えて自由に動いていいのよ?」
ダージリン様が私におっしゃられあそばれました。
「自由……自由ですの?」
「そうね。自由っていうのは……まあ、あまり深く考えず、いつも通りにすればいいってことよ」
「かぁ〜〜っ!! ダージリン様のお言葉は深いですわね〜〜そのうち深イイ話に出れますわ。視聴率天元突破、間違いなし! ですわ!」
「……どういたしまして……」
最初はそれがなんのことやらクソさっぱりでしたが、バニラやクランベリー達と協力しているうちに、その意味がなんとなく分かってきた気もします。
アッサム様曰く、私達の被弾率はすっごい低くて、あと、ようどう? 作戦に向いているのだそうでして。
あと、迷いがないから、きてん? が意外と効くのだとか。
ふんふん、なんかよくわからんのですけれど、結果良ければ全て良し的な感じですわよね?

「ローズヒップ。貴女、ペコとは普段話しているかしら?」
ダージリン様が私におっしゃられあそばれました。
いいえ、話してませんですわ。私はお答えしました。
ダージリン様は少しお悩みになられて、「うまくいかないわね」と溜息を吐かれながらおっしゃられました。
それから暫く経ち、大学選抜チームと戦った後……あの時をきっかけに、私達の間でまともな交流が始まった気がします。
オレンジペコさんは本当にお聡明で、お行儀も良くて、お腕も確かで、お羨ましいです。
同じ一年生だっつーんですから、驚きですわ。

「ローズヒップさん、貴女は家でもいつもそんな感じなんですか?」
オレンジペコさんが私におっしゃられあそばされました。
はい、と答えました。というより、うちにいる時は試合なんかよりもよっぽど恐ろしい戦争ですわ、とも。
「オレンジペコさんは、いっつもそんなに、無口なんですの?」
私はお返しに質問致しました。
オレンジペコさんは少しだけ呆気にとられたような表情を浮かべた後に、むくち、と復唱しました。
「だって、半年間、私達殆ど会話してませんでしてよ」
「そうでしたか」
「そうですわ!」
「そうでしたよね……」
「はい!」
「あはは……」
オレンジペコさんは、ばつが悪そうに笑いあそばされておりました。

「私、実は、ローズヒップさんのことが少し、苦手だったんです」
オレンジペコさんが私におっしゃられあそばされました。
練習試合の後、二人きりになったロッカールームで。丁度、今日から三日前のことでした。
「今まで黙っていて、御免なさい」
オレンジペコさんが、シニヨンを解いた頭をお下げになられました。
「わたくしは、オレンジペコさんのこと、好きですわよ」
私は答えました。オレンジペコさんは鳩が豆鉄砲を食ったようなツラでした。
「……そういうところが、苦手だったんです」
オレンジペコさんは困ったようにお笑いあそばされました。

「ローズヒップ。貴女は誰にでも平等過ぎるわ。
 そんな貴女の事が私はまぁ……好きだけれど、周りにはよく思わない人も居る。気を付けなさい」
アッサム様が私におっしゃられあそばされました。
確かあれは、休日に私がアッサム様のおうちに突撃隣の晩御飯をしたときでした。
泊まるお用意を忘れてきた私を、アッサム様はお泊めにあそばされ下さったのです。
ベッドに二人で入っている時、急にアッサム様がダベり出しました。だから、どういうことですの、と私は伺いました。
「貴女の良いところは沢山あるわ。
 真っ直ぐでひたむきで正直で、努力もしてるし、いつも頑張ってる。そのことは、皆、理解しているわ」
アッサム様は、一つ一つ、お高いチョコレートの箱から悩みながら好きな粒をつまむように、ゆっくりと言葉を選んでおっしゃられました。
「ただ、頑張っていれば報われるとは限らない。
 努力すれば、実るとは限らない。
 夢を持っていれば、いつか叶うとは限らない。
 そう思うからこそ、貴女を嫌う人も居るの」
アッサム様は私の自慢のお髪を撫でながら、言いました。
「アッサム様、私、よくわからんですが、そんなの自分には関係ないと思っていますわ」
私は言いました。アッサム様がこちらを見ています。
「失敗も嫌われるのも、知ったこっちゃないですわ。
 私はみなさんのことが大好きですし、色々しくじっても、こなくそ! クソッタレですの! って、いつも思ってますわ。
 負けるもんか、やり返してやる! って。
 嫌われるのを上書きするくらい、好き好き砲弾ブチかましますわ!」
アッサム様は笑いました。
私は、アッサム様の笑った顔が一番好きです。
普段はあまり笑いあそばされませんが、私と居るときだけ、たまにこうして笑ってくださるのです。
「貴女は……本当に、強いのね」
アッサム様は、優しそうに言いました。

「さ、寝るわよ。おやすみなさい」
「おやすみなのですわぁ」
「……ねぇ、アッサムさまぁ」
「なあに? ローズヒップ。早く寝なさい。夜更かしは肌に良くないわよ」
「わたしは、みなさんのことが、だいすきですわ」
「そうね」
「アッサムさまのことも、だいすきですわ」
「………そうね」
「おやすみなさぁい」
「はい、おやすみなさい」

私は、この学校のことが、大好きです。






   蝶が、好きだった。
   わたしみたいに無口で、臆病で、だけど自由で、どこへでも飛んでゆけるから。


どうして、と呟いた。
弾ける頭を見て、どうして、と呟いた―――どうして、こんなことに?
目の前で泣きじゃくり項垂れる少女を見て、どうして、と呟いた―――どうして、泣いているの?
砲撃の音が聞こえて、どうして、と呟いた―――どうして、街を壊すの?
拷問映像を見て、どうして、と呟いた―――どうして、そんなことが出来るの?
先輩の無残な死体を見て、どうして、と呟いた―――どうして、死んでいるの?
燃える街を見て、どうして、と呟いた―――どうして、思い出を壊すの?
トラップを踏み抜いた自分を見て、どうして、と呟いた―――どうして、私が此処にいるの?
指にナイフを入れる金髪の少女を見て、どうして、と呟いた―――どうして、まだ生きているの?
馬鹿みたいに喚きながら銃口を向ける少女を見て、どうして、と呟いた―――どうして、戻ってくるの?
どうして、どうして、どうして。
……どうして?

丸山紗希は語らない。
聞き上手だ、なんて彼女を知る友人は口を揃えて言うけれど、彼女にとって自分はそんな綺麗な一言で片付けられるような、単純な人間ではなかった。
そもそも、彼女は自分の事を聞き上手だと思った試しは、一度もない。
他人の話なんていつも耳に半分で、暇さえあれば蝶を目で追っているし、彼女は自分に、さして他人から答えが求められていない事くらい、疾うに知っている。
けれども丸山紗希という人間には、他人に伝えるべき意見が無い、という話でもないのだ。
彼女とて一人の人間で、考えている事だってある。当たり前だ。
ならば彼女が無口な理由とは何か?
答えは馬鹿らしいくらい至極単純―――“伝える気がない”だけである。

丸山紗希は語らない。
そう、伝える気がない。しかし勿論、言いたい事も思う事もある。何より彼女は意外と、負けず嫌いだ。
ただ彼女が言うべき言葉を選び伝える前に誰かの意見で世界は廻るし、
答えを考えているうちに、いつだって時間切れになるか、周りの友人が意見を代弁してくれる。
彼女はしかし、致命的にレスポンスのスピードが遅いのだ。
無論、代弁された意見が100点満点でないこともあるが、概ね合致していれば彼女は文句を言わない。言う理由がない。
あまつさえ、彼女は周りの意見に流されがちである。その方が上手く楽に生きてこられたからだ。
他人と争わない。平和が一番なのである。
友達の意見に賛同する生き方を、彼女は不自由だとも不服だとも思ったことはない。
幸いにも友人には恵まれていたし、友人にそれを止める者も居なかった。それが彼女の生き方だったのだ。
そして何より、自分の意見は俗に言う“普通”の意見だし、言ったところで言わない時と結果が変わらない事を、彼女は知っている。
結論。彼女は自分の事を――――――――――――“喋っても喋らなくても一緒”だと思っていた。

丸山紗希は語らない。
喋っても喋らなくても結果が同じなのであれば、語る意味がない。
家電だって足並み揃えて省エネする時代だ。人間もできるならそれに徹した方が良いに決まっている。
だから、やがて彼女は諦めた。
なにかを伝えることも、なにかを真剣に考える事も……そして、なにかに一人だけで向き合う事も。
いろんな事を考え過ぎて凄まじくとろい自分の反応を待たせるくらいなら、最初から喋らない存在として、80点満点の翻訳者を隣に置いた方が楽である。
しかし考えすぎ自体もその文字の如く考えもので、結果として彼女は“他人が私の反応に対してするであろう反応”まで考えるようになってしまった。
彼女の頭の中には、親友が住んでいる。
自分がこうだったらこう、ああだったらそう。親友達を頭の中で動かすのは存外楽しい。
しかしそれでもイレギュラーがある。頭の中の親友が、どうにも私の思った通りの翻訳をしないことが稀にある。
そんな時だけ、彼女は喋る事にしていた。
仕方なくではあるのだけれど、言わなかったが為に負けたくもないし、きっとこの言葉は、言わなければ気付いてくれないのだろうと。
彼女は喋り下手だが、それでも懸命に言葉を選び、思った事を呟くように。
……それが仲間内では“突破口”なのだと評判を呼んでいるので、どうにも彼女自身は解せないのだけれど。

丸山紗希は語らない。
そうこうしているうちに、他人の言う事は話半分に聞いて、それっぼい反応をする事が板に付いた。
伝える気はないのに、そんなことばかり上手くなっていく。
そのうち彼女は知ったのだ。
丸山紗希がどんな反応を示すかは読み取れても、丸山紗希が本当のところ何を考えているのかは、誰にも理解されていないのだと。
人とは、隠された残りの20点で本質ができている。100点満点の翻訳者など、存在するわけがなかった。
“伝えること”と“伝わること”。
その二つの間には、どうしようもないくらいに深く暗い溝があったのだ。
気付いた時には、足がすくみ腰が抜けるくらいに深く長い溝。
橋もないのに、渡れるはずがない――――――――あ。わかった~だったら橋を作ればいいんじゃないのお??
作る道具なんて、何処にあるのか。なにせ彼女はそこからずっと逃げてきたのだ。
経験も技術も知識もありはしない――――――――逃げてばかりじゃダメでしょ、紗希!
どうして? 彼女は反芻するように問う。
みんなどうしてそんなことを言うの――――――――今更答えてくれる人なんかいるわけないよ、紗希!
どうしたら答えてくれるの? 立ち上がって問う。
頭の中の親友の頭が弾け飛び、親友だった肉屑になって沈黙した――――――――ネットの人に聞いてみようよ、紗希!
どうしたら……どうしたら? 何処からともなく瞬く間に火が燃え広がって、あっという間に死体は火達磨。
煤の向こうで誰かがけたけたと悪魔のような顔で嗤う――――――――自分で考えなよ、バーカ。

丸山紗希は語らない。
今更生き方を変えることなんかできやしない。馬鹿も阿呆も猫も杓子もそうだ。
しかし彼女は叫んでいた。その術を間違えてしまっただけで、確かに叫んでいたのだ。
声は誰にも聞こえなかったかもしれない。それでも確かに口下手なりに叫んで、問うて、泣いていた。
どうして、どうして、どうして。どうして!
嗚呼分かっている、解っているのだ。結局のところ、その疑問の答えなんてものは……。
……だから、生きる事は、少しだけ煩わしいのだと。
しようがないから、彼女はワイヤーに刃を突き立てた。
もういい。自棄っぱちでそう思った。
彼女の頭の中の親友は壊れてしまった。死んでしまった。彼女の街も燃えてしまった。
無くなってゆく、亡くなってゆく、失くなってゆく、喪くなってゆく、なくなってゆく。
“こたえがでないのであれば、しつもんごとぜんぶきえてしまえばいい”。
今までそうやって生きてきた。伝えるのを諦めて、伝わるように振る舞ってきた。
そう、諦めるのだ。簡単な話じゃないか。
だから彼女はいつもと同じように――――――――――――――――――生きることを、諦めた。

丸山紗希は語らない。
目が覚めると同時に、原因不明の大粒の涙が彼女の目からぼろぼろと溢れた。体内から血と水分を絞り出すように。
嬉しいからでも、痛いからでも悲しいからでもない理由知らずのそれは、しかし酷く彼女を困惑させた。
霞む視界に映る空は遠く、気の遠くなるくらいに、遠く。
まるで知らない世界の空みたいに冷たく、太陽も星も、先もない。
震える唇で息を吸った。熱い。爛れた空気が煤と一緒に、乾いた喉に焼きつく。
身体が鉛のように重い。抉れた足と手の指先はそこに心臓があるみたく脈動し、焼鏝を当てられたように痛い。
なにもかもが燃えてゆく、煤に、無意味な塵になってゆく。
お父さんの記憶。お母さんの記憶、小さな頃の記憶。
毎日の日課だった日記、唯一多弁だった紙の上、好きだった国語。
よく読んだ小説、くたびれた教科書、傷付いた鞄、あまり汚れる事のなかった制服。
庭に咲いていた梅の花。お父さんと食べた蕎麦、友達と飲んだ昆布茶、おみやげで貰った中村屋のきんつば。
塗装の剥げた学校の校舎、錆びた自転車、夜の霧、寂れた喫茶店、おじいちゃんが優しかった団子屋。
いつかお参りした神社、赤い鳥居。揺れる木々、土と砂利、砂浜に灯台、あの日歩いた細長い帰り道。
懐かしいもの、新しいもの。
ここはにせもののせかいなのに、
ほんものの、
おもいでが、
ぜんぶ、
きえてゆく。

「……どうして」

丸山紗希は語らない。
だから、縋るように呟いたその言葉でさえ、誰の耳にも届かないのだ。






ねぇアッサム、“ノイズ”って何かしら?
……はい、ダージリン。
ノイズとは、自らの処理対象となる情報以外の、不要となる要素のことです。
単純に和名で“雑音”とも言いますが。
しばしば工学分野の文章などでは……或いは日常的な慣用表現としても、音以外に関しても“雑音”と訳したり表現したりします。
因みに西洋音楽では“噪音”と訳すしますが、これは“騒音”や“雑音”と区別する為です。……ああ、口では伝わりにくいですけど。
また、音以外の信号等におけるノイズの意味で扱っていることも、ままあります。
ノイズといっても一括りに音楽分野だけの言葉ではないのです。
情報の形態や分野によって、ノイズと比喩されるものは多岐に渡ります。

アッサム。参考までに、その例を教えてちょうだい?
……はい、ダージリン。
例えば映像分野では、電波障害や受信感度が悪い時や、古いビデオテープを再生した際に発生する画面の異常、
また固体撮像素子に生じる異常、非可逆圧縮における異常の事をノイズと表現します。
“モスキートノイズ”や“ブロックノイズ”といった表現をすることがありますね。
テレビの場合はもっと簡単に“砂嵐”と言ったりもしますが。
次に電子工学や制御工学では、機器の動作を妨げる余計な電気信号のことをノイズと言いますし、
天文学分野では、観測をする上で障害となる、人工的或いは観測目的以外の、自然的理由で発生している周波数の電磁波のことを言います。
生活や人間関係の分野では、集中を妨げる、或いは判断に迷いを生ずるような他人の言動、社会的圧力のことを指しますね。
そして産業カウンセラー業界では、コミュニケーションを妨害するあらゆるものをノイズと定義しています。
この分野でのノイズはより深く、“物理的ノイズ”、“心理的ノイズ”、“意味的ノイズ”の三種に分類されます。
“物理的ノイズ”は騒音などを指し、“心理的ノイズ”は送り手のメッセージの記号化、或いは受け手側の記号解読を妨害する心理的な原因を指します。
最後に“意味的ノイズ”ですが、これはお互いが共通理解していない表現や言葉のもたらす妨害により、送り手の記号化と受け手の記号解読にずれを生じさせる意味的要因を指します。
あとは、そうですね。
私達に関係するところで言えば、戦車学上でのノイズですか。“パンツァーノイズ”という表現をしたりもします。
確か学園艦設立当時、つまり戦時中の西住流の考え方だったと思います。
最近はめっきり聞かなくなった表現なのですが……ダージリン、知っていましたか?

いいえ、初耳よ。でも興味深いわ。アッサム、続けて。
……はい、ダージリン。
西住流は火力もさることながら、一番恐ろしいのは言わずもがな、その一糸乱れぬ軍隊のような統率です。
統率がなければ火力など如何様にもなるもの。無論それを知る西住流だからこそ、独裁的とも言える教育を徹底したのでしょう。
しかし、働きアリの法則と言う言葉もあります。統率が取れているように見える隊にも、必ずいつかは綻びが出るものです。
隊の規律を乱す者や、命令に背いた者、少しでも隊の中で動きが悪い者、これらを纏めた当時の言葉が“パンツァーノイズ”です。
戦時下ということもあったのでしょう、本当かどうかはわかりませんが、こんな話もあります。
当時はそのノイズを取り除いて正しく軍靴の音が揃うようにするために“調律していた”……だなんて。
履く人間が動かなくなれば、軍靴の音は二度としませんからね。
ええ勿論、証拠など今となっては何処にもありません。
しかしそういった歴史的背景から、戦車道においての“ノイズ”という単語は、少なからずネガティヴな意味が裏にあります。
ですから、きっと時の変遷につれ廃れた言葉なのでしょう。

それから、ダージリン。ここからは私の想像をもとにした意見……余談です。
今の戦車道は、乙女の嗜みと謳い戦車道をブランディングし、意図的に競技人口を増やすように印象操作していると、私は思います。
過去のネガティヴなイメージは一切語らず、華やかなイメージだけを生徒に伝える……。
花道と茶道に、戦車道? 少し考えれば、並べるのはおかしいと誰にだってわかるのに。
国内では西住流は自衛隊などに効率的に人間を送り出し、島田流はその裏側で人間を利用している。
国外では留学とは名ばかりの外交道具。上と繋がるための駒と、もしもの時の人質。平和の為のお人形さんです。
プラウダの留学生も、実際、父がスペツナズ出身の元将校だと聞きました。スパイの可能性だってあり得る話です。
もしかすると、“パンツァーノイズ”だって、私たちが知らないだけで、今でも――……。

ストップよアッサム。戦車道は戦争じゃあないの。
まったく貴女のデータ至上主義ったら、鬼気迫るものがあるわね。あまりそっちに偏るのも、どうなのかしら?
……はい、ダージリン。
しかし、本当にそうでしょうか。言葉を返すようですが、情報は嘘を吐きませんよ。
“人と違って”。

あらアッサム、私が嘘を吐いたことがあって?
……ふふ。さぁ? どうでしょう?
ところでダージリン、先程私がノイズに関して一つだけ嘘を吐いたのは知っていますか?
戦車学上でのノイズなんて、本当は存在しないのですよ。全部私の作り話、ブラックジョークです。
しかし、私は確かにデータ主義。
情報という面において、こと聖グロリアーナの戦車道履修者の中に、GI6でもある私を疑う生徒は一人も居ません。
従って私の嘘は、嘘だと気付かれる事なく、流布されます。つまりその瞬間は“真実”になるのです。
逆に言えば、“嘘”だと言ってしまえば、それは真実であろうが、“嘘”に裏返ってしまう。
情報操作とは詰まるところ、そういうこと。
ダージリンも、くれぐれも気を付けて下さいね。人とは、少なからず嘘を吐く生き物なのですから。
しかし、バイロンが言ったこんな格言もあります。
“嘘とは何か。それは変装した真実に過ぎない”―――嘘とは、煙が無い場所には決して立ち得ません。
さて、では“パンツァーノイズ”の話は、果たして嘘か本当か、真実はどちらでしょうか?
そうこれこそがGI6の本領……ダージリンも、西住流や島田流の黒い噂……聞いたことくらい、あるのでしょう?

……。……覚えておくわ。ところでアッサム、“道理は全てを支配する”。これは貴女の座右の銘でもあったわね?
……はい、ダージリン。
但し、少し訂正すると私だけではなく、GI6の基本理念でもありますが。
道理とは物事の正しい筋道、人として行うべき正しい道のことです。
中世では一種の法的や思想的な意味をもつ流行語としてさかんに用いられたという記録が残っています。
最も有名なのは北条泰時の“道理好み”でしょうか。
泰時は、御成敗式目立法の基本理念を“ただ道理のおすところ”と表現しました。
彼に限る話ではありませんが、中世の裁判で自己の主張、或いは判決の正当性を理由付けるために用いられた道理は、
法的なものや慣習的なもの、そして道徳的なものばかりです。

成る程。因みにアッサム、その道理は、嘘を吐くことを是としているの?
……はい、ダージリン。
場合によっては法規範や道徳規範と矛盾する道理もありえます。
その時点やその場面にしか通用しえない、心理的且つ感性的な道理も存在するのです。
何故なら、私が言うのもなんですが、クレバーなだけのロジックシンキングのみでは、革命はできません。
ロジックでは語れないアートシンキングによって、新しいものは生まれ、仕組みは作られ、世界は変わってきました。
それによる弊害も……現に私達はそのロジカルではないしがらみにより、満足な車輌編成が出来ていません。
しかし一方で、私達も優雅な戦い方や、紅茶の嗜み、そして車輌編成的には無理のある浸透突破に固執しています。
ロジカル・アート論ではその点において大小の差はあれど、どんぐりの背比べとも言って良いでしょう。
長くなりましたが、従って答えは、是。
道理とは、他人に嘘を吐く事すら許容する、そんな個人の心に寄生する酷く曖昧なものではあります。
が、一つだけ確かなことがあります。

その一つだけの確かなモノって、何かしら?
……はい、ダージリン。
誰かに嘘を吐いても、自分にだけは嘘を吐かないこと―――――――――――たった、それだけですよ。






え? ああ、そうですねえ。結論から言うと、私は、撃鉄を鳴らしました。
アッサム様からの御指示があったので、必死に這いずり回っていたあの二人目掛けて、撃ったのです。
さて……ではここで問題。それがどうして、私は今、大の字になって空を見ているのでしょうか?

“殆どの戦いの勝敗は、最初の一撃が撃たれる前に既に決まっている”―――ナポレオンですね。

「貴女は、どうなりたいの?」ダージリン様は昔、私に言いました。
「わかりません」十秒ほど考えて、私は答えました。

迷ったわけではありませんし、本心を言いたくなかったわけでもありません。素直に判らなかったのです。
どうなりたいか? 即ちそれは来年の事を喩えているのだろうと、それくらいは私にだって理解できました。
しかし、ダージリン様が去った後。そんな事、考えられるわけがありません。
だってついこないだまで、私は中学生だったんですよ。
未来の私がどうなっているのかなんて、私は今を生きているだけなので、さっぱりわかりません。
そんなこと、考える余裕なんて……。
でも、一つだけ。
私は、時期隊長には、ルクリリ様が向いていると思っているのです。

“暴力は、弱さの一つの形である”―――ドミニク・ロシュトーですね。

「いいですわね、ダージリン様のお戦車のお砲手を務めさせて頂け遊ばせるなんて」ローズヒップさんが滅茶苦茶な敬語で、練習試合の時に言いました。
「いいえ、これでも気苦労ばかりなんですよ」私は苦笑しながら応えました。

きっとローズヒップさんは嫌味ではなく本心で言ったんだと思います。あの方はそういう人です。だから苦手なんです。
私にとっては、クルセイダー隊を任されている貴女がどれほど羨ましくて、呪わしいか。
私は、ただダージリン様に可愛がって貰っているだけなのです。
その“だけ”が周りから羨ましがられることも、疎まれることも、理解していますが。
だから、裏でなんと言われていようが、私には関係無い。
私はただ、ダージリン様に任されたことに、期待されたことに、全力で応える。それだけですから。
その為なら、分厚い格言集だって買って読みますよ。
それであの人になれるなら。それであの人を、超えられるのなら。

“戦いには、どんな犠牲を払っても、必ず勝たなければならぬ”―――太宰治ですね。

「貴女は、月夜ばかりなのよ。それが良いところでもあるけれど、悪いところでもあるの」アッサム様があの日、帰りの船の上で言いました。
「月夜、ですか?」私の問いに、アッサム様は答えませんでした。

聖グロリアーナは、政治色が強い高校です。
マチルダ会、チャーチル会、クルセイダー会。この三大OG派閥が、聖グロリアーナの戦車道を支配していると言っても過言ではないでしょう。
資金援助をして頂いているので悪い事も言えませんが、それらの派閥は、現役の私達の車両編成までもを圧力で操作してきているそうです。
そうですというのも、実際にOG会と対面できるのは隊長だけ、という暗黙のルールがあるからです。
私が名前すら知らない先輩方へ、ダージリン様は単身、毎回戦術から編成まで、会議で報告相談しています。
そして場合によってはシナリオを全て変えられてしまうのだと、噂で聞きました。
現役の試合にも関わらず、いってみれば部外者のOG会を忖度しなければならない苦悩は、計り知れません。
しかし私はたまに思うのです。
コメットやブラックプリンスまでではないものの、クロムウェルを導入したダージリン様は、OG会に対して、一体、どのような禁じ手を使ったのでしょうか、と。

“世の中で、最も良い組み合わせは力と慈悲、最も悪い組み合わせは弱さと争いである”―――ウィンストン・チャーチルですね。

「私のことや周りの口は気にするな。ひがむ奴はひがませておけ。私は、お前を認めてるよ」ルクリリ様が私の肩を叩きながら言いました。
「ルクリリ様。私は……」“貴女が隊長になるべきだと思っています”。続くその言葉を、私は言えませんでした。

ルクリリ様は少しドジですし言葉遣いも荒いのですが、とても面倒見が良く、周りを笑わせるのも上手で、人望があります。
内向的な私とは、それはもう雲泥の差です。
思うに、私は上に立つタイプの人間ではないのです。誰かのサポートや右腕が、一番私には似合っている。
ダージリン様の様に人を使ったり、裏表を使いこなしたりは、私には出来ません。
それになにより、私はどちらかと言えば人見知り。ルクリリ様の方がよほど皆から好かれています。
ところで、何故、あの時私は続くはずだった言葉を言えなかったのでしょうか?
何故、言いたくなかったのでしょうか?

“人生において、諸君には二つの道が拓かれている。一つは理想へ、他の一つは死へと通じている”―――シラーですね。

「オレンジペコさん、好きな戦車はなんですか?」ニルギリさんがある日、尋ねてきました。
「センチュリオンが好きです」私は素直に答えました。

嘘をつきました。本当は、クルセイダーが好きです。
咄嗟の嘘でした。ダージリン様がセンチュリオンが好きと言っていたから、出てきた言葉でした。
どうして嘘をついたのかと言えば、きっと、クルセイダーはあの人が乗っているからです。
あの人は……ローズヒップさんは、私と同じ学年ですが、クルセイダー小隊の隊長です。
バニラさんやクランベリーさんを下につけて立派に戦っていますし、私なんかよりよっぽど人望があります。
私はローズヒップさんが苦手です。うるさいし、落ち着きがないし、マナーだってなってない。それに、まっすぐ過ぎて少し怖い。
だけど、何故でしょうか。時折、私はあの人の事が羨ましくなるのです。
そして私が好きな花は、オレンジバラ。花言葉は“無邪気”です。
あの人の方がよっぽど無邪気なんだから、ははは。本当に、笑っちゃいますよね。

“私は辛い人生より死を選ぶ”―――アイスキュロスですね。

「ああ、そういえば、最後に……紅茶は鮮度が命なんですよ」私の声で、誰かが言いました。

一度空気触れてしまったものは、酸化して風味が劣化していくばかり。
あとは日光にも弱いんですよ。眩しい太陽に当てられた紅茶は、風味を失ってしまうんです。
では、それでは皆さんここで、二つ目の質問です。
ソーサーは三つ。ティーカップは四杯。簡単な椅子取りゲーム。
イングリッシュ・ブレックファスト・ティー。知ってますか? 茶葉をブレンドし過ぎると、濁って不味くなってしまうんですよ。
さて、そうすると、弾かれる紅茶はどれでしょう?

“自殺する力を持てる者は幸福なり”―――アルフレッド・テスニンですね。

……答え合わせは、しませんけど。






鳥の話をしよう。

タシギ、という鳥がいる。
普通に生活していれば、特に名前を耳にしない鳥だ。
漢字では田鴫と書き、その名の通り、水田でよく見かけるのが由来と言われている。
尤も、今の時代は水田で見かける事は少ないらしいが。
群れになる事はごく稀で、誰かに似て一匹狼のような性格なのか、単体でよく見かけるらしい。
らしいというのは、私はタシギを見たことがないからだ。
タシギ自体が臆病な性格で人の目に触れにくいということもあるが、なにより私が数年間学園艦で過ごしてきたことが大きい。
巨大な学園艦は実質陸のようなものでこそあるが、あくまでそれはみてくれ、上っ面だけだ。
船の上で独自の生態系を築くまで環境がしっかりしているわけではない。
どこまでいこうが、学園艦は船の枠からははみ出せない。
艦の上にいる鳥など、種類がせいぜい片手で数えられるくらいには知れている。なにせ、まず鳩や鴉が居ないのだから。

あとは地元が、長崎の佐世保市だった事も影響しているかもしれない。
家の周りには、お世話にもあまり大自然と呼べるものがなかった。
そもそも興味もなかった。バード・ウォッチングなんて私のキャラじゃないし、したいと思ったことすらない。
私は鳥類なんかより、爬虫類のほうがずっとクールで好きだった。そういう人間だったのだ。
そんな私がタシギの事を知るのは、遡ること数年前。サンダース大学付属高校に入学した時のことだった。

タシギは全長250mmほどの小柄な鳥だ。
ベージュと黒が混じった羽毛は迷彩の機能もあり、夜に採餌する臆病な性格も合わせて、非常に捕獲する技術が高く必要とされると言われている。
すらりと伸びた嘴がちょっとしたチャームポイントだ。
私は鳥があまり好きではないけれど、その長い嘴だけは不思議と好きになれた。
今思うに、きっとそれは自分の愛機の砲身にその形状が似ているからだろう。
長鼻と揶揄されたりもするが、ファイヤフライはそこがキュートだろ?

……何が言いたいか? オーケイ。要するに、これはスナイパーの話だ。
猟銃がまだ発達していない頃、タシギ猟は高度な技術を要したそうだ。
今でこそ鳥を撃つ技術などさほど要らないが、当時はかなりの猟師泣かせだったらしい。
タシギがそれほどまでに猟師を難儀させたのは、種として臆病な性格だからという理由もあるが、一番はその視野の広さにある。
驚く事なかれ、タシギの視野はほぼ360度。
後方から迫る敵に対しては、故に特に素早く反応できたのだという。
さて、英語でタシギは“common snipe”と言う。
当時はタシギ猟の優秀な鉄砲撃ちの事を、その名前からsniperと呼んで讃えた。
スナイパー。
それが転じて、遠距離狙撃手の事をそう呼ぶようになったというわけだ。

戦車道におけるスナイパーの役割は幾つかあるが、高校戦車道では、公式試合に多いフラッグ戦を基にして考えられる場合が多い。
隠密・潜伏・狙撃。
この三要素は、殲滅戦の場合こそ脅威になるが、いかんせんフラッグ戦の場合はそうとも言えない。
自分が潜伏しているうちにフラッグ車がやられた、なんて事になっては元も子もないからだ。

しかしこの“ゲーム”は、幸か不幸か“殲滅戦”だった。
だが、それもいつもとは勝手が異なる。この殲滅戦には戦車が存在せず、チームが組めるのだ。
さしずめ、3人チームによるサバゲ的変則殲滅戦……とでも言うべきか。
ならば“この殲滅戦”において最も大事なものとは何か―――私が思うに、それは武力ではない。“情報”だ。
誰が死んで、誰が生き、何処に居て、何に重きを置いた人物か。
持っている武器は何か。リーダーは誰か。戦車道のポジションはなんだったのか。趣味嗜好、性格、交友関係。
辺りには何があるか、地形はどうか、死角は何処か。

プラウダのブリザードは、地の利と人間関係を上手く使って、遠距離型の攻めでキルスコアを稼ごうとしていた。
やや回りくどさもあったが、スナイパー的な立ち回りだったと言える。
しかし彼女は、前のめりなきらいがある。
彼女の宗教である地吹雪が絡んでいるからだろうが、このままではいずれ待つのは“死”。
スナイパー的とは言ったものの、それはあくまで前衛がいてからこそ、捨て駒や大将が居てからこそだ。
彼女の派手な立ち回りは、前衛的過ぎるのだ。
それは彼女がある種の全てに泥を塗り蔑ろにしているような、酷く利己的な人間だからだろう。
詰まるところが、彼女は、ブリザードのノンナという人間は――――――自分の神様が生き残れば、あとは自分も他人も大将自体の意思も、全てどうでもいいのだ。

だが……ノーウェイ。それではダメだ。
戦争は、宗教からこそ産まれど、しかし信仰だけでは勝てないのだから。
踏み絵で止まる足など、私には要らない。いいや、まずそれ以前に、私はそこまでは出来ないのだが。
それに私は生憎、盲目なキリシタンではなく、あくまで一人のスナイパーでありたいと思う。
生きる為にタシギを狩る人間がスナイパーと呼ばれたように、私は生きる為に敵を穿つ。

死ぬ為でも、生かす為でもない――――私“達”サンダースが“生きる”のだ。

だから私は、徹する。
だがさっきは、頭に血が上りしくじってしまった。
どうにもまだ甘いのか慣れていないのか、自分の方針にブレがあるが……もうブレない。
仕留め損ねた奴らを早いとこ殺して、再び“隠密”と“潜伏”だ。“狙撃”は期を待つ。
隊長と合流するまでは、“潜伏”すべきだろう。

それに、この町もやがて日が落ち、夜が来る。
電気のない町、海霧、悪天候……目を奪われるのはお互い様だが、スナイパーの方がアドバンテージは高いはずだ。
情報を集めながら、奴等を処分して隠れ蓑を見つけるしかないが……さっきのミスがある。
もし拡散されでもしたらヤバイ。そうするとホテルかタワーに罠を張って籠城一択、隊長を待つしかなくなる。
改心したふりで取り繕ろえる可能性はあるが……相手は戦車道履修者だ。
西住妹やパスタ高校のお気楽隊長のような、よほどのお人好しでなければ、厳しいかもしれない。

しかし……私の獲物がいかんせん心許ないのが問題か。
早い話、こんな時代遅れのライフルでは、オートの現代拳銃には中・近距離で勝てないのは明白だ。
手っ取り早く近接用の銃を手に入れるには―――やはり早くあいつらを殺すしかないか。
けれども、だ。
私達に持たされた獲物は、所詮扱いに慣れない武器……見た目は恐怖に値するが、素人の人間が果たして人を撃たずにその銃の癖が分かるだろうか?
否、私だって何度か撃って漸く癖を把握した。初めて乗る戦車と同じに、人殺しにも慣れが必要である。
それに散弾でもなければ、銃などそうそう当たるものでもない。
だから動き回り方によっては、ライフルとナイフがあればなんとかならなくもない、ないのだが……。

……ここは楽観はやはり避けるべきか。
ならばオーケイ、やっぱり奴等をまずは消す。情報漏洩をシャットダウンするのが先決。
ブリザードのやり方もなかなか尖っていてクールだが、これはハリウッドスターが出るアクション映画なんかじゃない。

私はスナイパー。その役割は、いつだって裏方だった。






何かが壊れる音がした。

銃声。空気を強い衝撃が伝わって、
《生徒諸君。約束通り、放送の時間です。各自スマートフォンは故障していないですか?》
私の鼓膜を横から乱暴に殴りつける。きいん、と鼓膜のハウリング。

空をつんざくような異音。何かが私のすぐ側を猛スピードで走り抜けた。
《それは皆さんの生命線です。この放送も、そのスピーカーを通して行われるのですから》
視界の隅に、墨を数滴垂らした牛乳のように濁った空が見える。少し肌寒い。

目眩のするような白濁とした景色、まるで煙管から立ち上る紫煙のよう。
《そして今回は“プレゼント”も幾つか用意しました》
火柱が両端から登る。赤。私が指を抉ったあの子の血のように。赤。墓地に咲く彼岸花のように、首を落とす牡丹のように。赤。

弾丸、真っ黒な、夜空を塗りたくったような暗く淀んだ弾。軌道が逸れる、スローモーション。
《ゆめゆめ、肌身離さないようお願い致します。 ……さて、状況にはそろそろ慣れましたか?》
人に向ける威力のそれではない、当たれば死だ、避けるのは間に合わない。どうする、どうする。

“ノイズ”が身体を走った。ダージリンのことをふと思い出す。弾は幸い、私の横を通り過ぎて、
《このゲームが夢では無いことを理解しましたか?》
着弾。ぼん。地面が爆ぜる。黄色い閃光、爆音、叫び声。私と、もう一人。……誰?

ノイズの正体は、果たして放送であった。ルールブックに載っていた。定刻である。
《私の声を耳に注ぎ、理解する程度に頭の回転は保たれていますか?》
否、と答える。保つのは正気だけで手一杯だ。油断したら、それすら吹き飛びそうだ。

「オレンジペコ!? 貴女なの!?」私は叫ぶ。
《1回目ですから、再説明をいたしましょう》
トランシーバーから返事はない。「どうしたの、ペコ!?」無音。嫌な予感。

彼女以外に居まい。オレンジペコが撃った弾丸。私とローズヒップを掠めて、
《皆さんも知っての通り、この放送では、脱落した者達の名前と》
遠くへ着弾した弾丸。真っ直ぐ地面を抉った、アスファルトに穴。暗い穴、焦げた土。

手元が狂った。そんなはずはない、あの子は優秀だ。動揺。冷や汗が背筋をどろりと伝う。
《これから三時間おきに設置される》
ならば、誰に向けて。私達を狙ったとでもいうの? 疑問、回答者は無し。オレンジペコからの反応、無し。

―――ローズヒップを狙ったのではないか? 予想。かぶりを振って、その考えを否定する。
しかし、嫌な予感はいつだって当たるものなのだ。
着弾地点。一瞥。抉れたアスファルト、砕けて赤錆色の異形丸棒が剥き出しになったブロック塀、爆ぜた木片。
《禁止エリアについての発表を行います》
それらの破片は私達に当たらなかった。運が良かっただけである、確率は低くはなかった、凡そ45%。……体に戦慄が走った。

トランシーバー。黄緑のLEDランプが点灯している、感度は良好。ローズヒップが当惑した表情で私を見る。
《さて、皆さんは友人の安否が気になっているところでしょう》
私はそれに対して、らしからぬ曖昧な表情を返す。ねえお願いよこっちを見ないでその目をやめてローズヒップ。

空に鴉が飛んでいる。カァ、カァ。何かを馬鹿にするような鳴き声。トランシーバーから荒い息が聞こえる。
《しかし、禁止エリアから放送するのが伝統のようなので、》
生唾を飲む音。「ペコ?」当たり前のように返事がない。

黒く淀んだ煤が舞う。まるで鴉の羽根のよう。白い空に黒い煤、モノトーンの世界。
《まずはそちらから発表します》
禁止エリアの発表。今更その重要性に気づく、メモ帳を慌ててポケットから出す。肝心のペンが無い。軽い舌打ち。

「アッサム様ぁ」ローズヒップの間抜けな声。今は話しかけないで。トランシーバーからオレンジペコの呼吸音。
《無論一度しか発表しませんから、命が惜しい生徒諸君は発砲をやめ》
「ペコ、大丈夫?」返事はやはり、ない。胸の奥で誰かの舌打ち。苛立ちを隠せない。

ペンを内ポケットから出す。慌てていたので、手から滑り落ちる。掌が汗ばんでいる。
《よく聞いておくように》
カンカン、カン。アスファルトとグレーチングをペンが跳ねる音。頭がそのリズムに呼応するように、ズキズキと痛んだ。

顔を逸らす言い訳をするように、拾う。ふと見えてしまったローズヒップは酷い顔をしていた。
《それでは、禁止エリアを発表します》
拾った時に、サンダースと大洗、二人の顔が髪の隙間から見えた。当然、まだ気絶している。黒い渦が頭の奥でうねっている。

震える指先、縺れる足、放送だ、メモを、ペンを走らせなければ。言い聞かせるように思う。
《午後1時よりD-4、》
分水嶺、分水嶺。ペコの荒い息がトランシーバーから、止め損ねた目覚ましのスヌーズアラームのように続いている。前頭葉の奥が痛んでいる。

紙にインクを走らせる。立ったままでは上手く文字が書けない。嫌気がさした。背中に視線を感じる、ローズヒップが私を見ている。
《午後2時よりE-4、》
体の内側から音がする。心臓の鼓動、私はまだ動揺していた、さァここで質問ですアッサム氏、動揺しているのは何故ですか?

“情報は、戦場で生き残る上で最も大切な要素である” GI6でまず最初に教わることだ。
《午後3時よりE-5、午後4時よりE-7、》
“逆に最も不要なものが、なにかわかるかしら” これは通過儀礼のような、お決まりの質問らしい。

“わかりません” 当時、確かそう答えた。碌に考えもせずに。
《午後5時よりC-3、》
“感情よ。同情も、激情も、全てを滅しなさい” 先輩は言った。
“はぁ。感情、ですか?” 私は訊く。

“どんな状況でもティーカップの紅茶を零さないようにとは、つまりそういうことなの”
《午後6時にD-3》
……だから、いつものように、大洗の生徒を殺した。私の手は汚れている!



あァ、ああ! この状況の打開率は、8%――――――言い訳が、見つからない!!



咄嗟にローズヒップの手を、取る。取ってしまってから、少しだけ後悔した。ローズヒップが小さく叫ぶ。
《60分おきに追加、計6エリアとなります。D-4に居る生徒は、急いだ方が身の為ですねえ……》
振り返って、縺れるローズヒップの足を無視して、走る、走る、走る。近年稀に見る頭脳派の全力疾走。
何はともあれ、私は迷わず、この場からの撤退を選んだのだった。

逃げ場なんてどこにもない。そんなことはいちいち指摘されずとも知っている。私は頭が良いのだから。
《なお、地図アプリでは、時間が来て禁止エリアとなった部分は赤くなります》
……火が回れば、気絶している二人は放っておいても死ぬはずだ。だから、大丈夫、だいじょうぶ。

思い出せ、優先すべきは、何かを。そう、聖グロリアーナという組織である。個ではない。
《次に、死者の発表をします》
故に、我々のうち誰かが欠けようが、それはさしたる問題ではないのだ。……死者の発表?

ローズヒップが走らされながら呻いている。私が怖いのだろう、理由も言わず言い訳もしない私が。当然だ。
唐突にいきなり腕を握って、この状況の説明もせずに走るのだ、怖くないはずがない。
《死者は計13名》
13人。その数を冷静に反芻する。たかが半日で13人とは尋常ではない。驚異的かつ悪魔的なスピードである。

「ペコ! 見えてるとは思うのだけれど、今、移動してるわ! ペコ、聞いてる?」
トランシーバーに口を当てて叫んだ。
《過去と比べてとても優秀ですよ、皆さんは!》
ゆうしゅう……優秀? はい?

何が? 戦車道が?? 優秀??? 優秀ですって????
《素晴らしいペースです!》
素晴らしい? 馬鹿を言え。
ペコは返事代わりに、荒い呼吸を寄越した。嗚呼、最早私のチームは機能していないらしい。

こんな時、ダージリン、貴女ならどうする? ペコとの会話の成立を諦めて、走りながらトランシーバーの電源を切った。
息が上がっている。肺が痛い。頭脳派の人間に長距離走は向いていない。
《よほど、他校の人間が憎いと見える……》
憎い? 私は自問した。違う。そうではない。生きる為だ。
いきるためにはしかたがなかった……ふふ。まるでドラマの殺人鬼の言い草。

角を曲がって家と家の隙間へ身を隠すと、足を止めて、ローズヒップの手を離した。ちらりと背後を見る。あの二人はもう見えない。
《死者の名前は、》
ししゃのなまえ。乾いた舌の裏側で言葉を転がしながら、メモとペンを出す。

ローズヒップが震えながら耳を塞いでいる。背中ががら空きだ。
黒い感情が喉元まで上がってくるのを飲み込み、肩で呼吸をする。
《五十鈴華》
県立大洗女子学園。2年生。華道家元五十鈴家の娘。Ⅳ号D型の砲手。
命中率が極めて高い要注意人物の一角。あの能力を銃で発揮されたら、たまったものではない。死んでくれて助かった。

ローズヒップの首が、白い肌が、薔薇色の髪の隙間から見える。生娘の綺麗な肌。
《磯辺典子》
県立大洗女子学園。2年生。八九式中戦車甲型車長及び装填手。
大洗女子でも屈指の練度を誇る八九式の統率力は脅威だった。
この殲滅戦ではカリスマ性もモノを云う。戦わずして脱落して貰えたのは有り難い。

生存枠は三人。選択せねばならない。だが簡単だ、この白い首に手を回してしまえば全部解決するのだから。
《近藤妙子》
県立大洗女子学園1年生。八九式中戦車甲型通信手及び機銃射手。バレー部の戦力の一人。
体力のある選手はサバイバルでは脅威だ。早めに落したい人間だったので、勝手に居なくなってくれて非常に助かった。

だから、首筋に後ろから手を回す。私の指は震えていた。怖い、恐い、こわい。
嗚呼なんということだ、私は人を殺すのが怖いのだ!
《カエサル》
……カエサル。脳裏に焼きつく死体、血、内臓、背骨、脳漿、……県立大洗女子学園2年生……。
……Ⅲ号突撃砲F型……装填手、チームリーダー……私達が奪った命。……今から奪う命……私には……。

「嘘ですわ。こんなのっ……」ローズヒップが不意に呟いた。声が酷く震えていた。
汗だくの私は、堪らず首を締めようとした手を誤魔化すように、彼女の体をひしと抱く。
《山郷あゆみ、》
県立大洗女子学園1年。M3中戦車リー主砲砲手。

汚れた手で、貴女を殺そうとした手で、ローズヒップの体を強く、強く抱き締める。
「ローズヒップ、大丈夫、大丈夫だから……」
ローズヒップが涙を浮かべたまま頷く。この子は何でも言う事をきく。

出来ない。そう思った。私には、この子を殺すことなんて出来ない。
ねえオレンジペコ、だから貴女も弾を外したのでしょう。
《園みどり子》
県立大洗女子学園3年。ルノーB1bis、車長及び副砲装填・砲手。視力2.0。
偵察に向いていたが、彼女はあの場で声を上げるくらいには、本当の戦争を知らない熱血馬鹿な阿呆だった。

私は何をメモしているのだろう? 死者の名前を横線で一つ一つ丁寧に潰しながら思う。定規があればもっと綺麗に消せるのに。
びゅうびゅう、海風が吹く、骨の芯まで染みるような冷たさの風が。……汗ばんだ肌が気化熱で冷えて寒い。
《後藤モヨ子》
県立大洗女子学園、2年。ルノーB1bis、操縦手。
彼女は一番哀れだった。自らの敬愛する車長があれだけの目に遭ったのだ、気を違えたとて何らおかしくはない。
そして悲しいかな、彼女には特別評価出来る情報もない。この殲滅戦で死ぬべくして死んだ被害者と言っていいだろう。

ローズヒップがこちらを見上げた。私は思わず目を逸らす。
《カルパッチョ》
アンツィオ高校2年、セモベンテM41装填手。アンツィオの古株で練度も高いが埋もれてしまっている人材。
この死者発表はどうやら学校順らしい。
彼女は素行の悪いアンツィオ連中の中では一番賢しい生徒だった。頭の回る人間が落ちるのはこちらにとって大きな利だ。

カチューシャ
息を飲む。プラウダ高校3年、隊長。T-34/85、車長。
言わずもがな、黒森峰の栄光に泥を塗った実力者だ。僅か半日で彼女ですら落ちるのか。
私達とは何度もお茶会で紅茶を飲み交わした友であり、強敵だった。
それがこうも呆気なく……これで、間違いなくあの副隊長が“狩る側”に裏返るだろう。

「ごめんなさい、ローズヒップ」頭を撫でながら、無意識に謝る。
ごめんなさい? 何が?
《西住まほ》
はたと手が止まる。にしずみ、まほ、だって?

……そうだ、これは戦争だった。
まず落ちないと思っていたはずの黒森峰の隊長の名を聞き、私は改めてそう思った。
頭を潰された学校は、翼をもがれた鳥と同じ。そうなれば後は調理を待つ生の食材と変わらない。
もしくは頭を奪われた群れによる、数の暴力という報復合戦が始まるかだ。

正義とは何だ。
そこまで考えて、ふと頭をそんな疑問が過ぎる。
正義とは、何だ?

煤、煙、火。勢いがない。港町の湿気った空気では、火は広がりきらない。
雲の切れ間から僅かに太陽が覗く。網膜を射るような鋭い光が眩しい。風が吹く。髪がなびいた。
《赤星小梅》
黒森峰女学園2年。パンターG型車長。西住流に隠れてはいるが、彼女も一流の選手だった。

炭になった家屋が見える。その奥で、知らない人形が残火に歪んで燃えている。プラスチックの焼ける臭いが鼻腔をつんと刺す。
《西絹代》
―――――――――――――――――ガシャン。音が鳴る。

肩がびくりと反応する、弾かれるように隣を見た。
僅かに見えていた太陽が、ゆっくりと雲間に消えてゆく。世界に影が落ちた瞬間だった。
ローズヒップの持っていたスマートフォンが、アスファルトの上で沈黙している。液晶画面に蜘蛛の巣のような放射状のヒビが見えた。
《アキ――――おや?》
私の視界がローズヒップの顔を捉える。悲壮感に満ちた、なんとも形容し難い険しい表情。こんなローズヒップは初めて見た。

ローズヒップは呻くように蹲っている。掌から流れる涙、初めて聞いた彼女の嗚咽。困惑。
「ローズヒップ?」
嗚呼、私の理解の外で、
《皆さんはやはりとても優秀だ》
何もかもが、等しく壊れ始めている。

ざざぁ。トランシーバーの電源が付いた。緑の光が再び点灯する。
オレンジペコからの応答願いだった。タイミングがすこぶる悪いことに苛立つ。
「どうしたの、ローズヒップ」
《今、新たに一人の死亡を確認しました》
呼びかけにローズヒップは答えない。辺りには嫌に生暖い潮風が吹いている。

「……知波単の隊長と、会ったの?」
100点満点中、自己評価4点。言葉を選べない自分を殺したいくらい情けない。
《新たな死亡者はクラーラ……》
プラウダの留学生。T-34/85車長及び砲手。ねえ私はこんな時くらい他ごとを考えないことは出来ないの?

ローズヒップが頷く。私は彼女の背を優しく撫でた。私だって慰めることくらいできる、淑女なのだし。
《訂正しましょう》
ああ良かった。我が校は誰も脱落していない。

トランシーバーからペコの息遣い。仮にダージリンが死んだら、果たして私は皆を導けるだろうかとふと思う。
《死者は計14名です》
ローズヒップが私に抱き付いて咽び泣いている。三歳児のように大口を開けて、鼻水を啜って。

ああ、こんなでは、誰かがこの子の心につけ込んで利用することなんて、
《なお、うち、自殺者は1名。その他は全て他殺です》
信じてもらうことなんて……。

「ごめんなさいローズヒップ、さっきの状況を説明しておきたいの」
私は自分の思考を遮るように、言った。口だけでは到底説明がつくとは、思えないけれど。
《ああ……今、いいことを思いつきました》
いいこと。ローズヒップへの慰め? あの二人のうまい処理の仕方? オレンジペコへのフォロー? 私も出来るなら思いつきたいくらいだ。

「私は、ペコとチームを組んでいるの」
《この放送が終わったら、死体の名前と場所を皆さんのスマートフォンへメッセージとして送りましょう》
……酷いことを考えるものだ。

暑い。汗が額から吹き出す。潮風は冷たいが、体温が異様に高い。
「……あの、……」
舌がもたついている。
「……。……あの二人は……私を襲おうとしてきて……」
《さよならを言いたい人も居ることでしょうしね》
嘘。

どうして、ここまで無理をして嘘を言う必要があるのだろうか?
こんなことをしたところで、ルールは変わらない。生存できるのは最大3人。椅子取りゲームはもう始まっているのに。
《まあ、死体が消し飛んでいるものなんかもあるようですから》
ローズヒップが私の言葉に顔を上げる。赤く腫れた瞼、濡れた瞳、私を上目遣いで見ている。

目の中で光がちかちかと瞬くように揺れている。電車から見る、どこか知らない都会の街のよう、儚くて今にも壊れてしまいそうな光。
「だ、だから……」
それを手で掬うように、蛍を優しく掌の中に仕舞うように、私は慎重に口を開く。
《体が綺麗に残っているだなんて保証は》
しかし、意に反して空回りする口、おかしな呂律。

目が泳ぐ。視線が地面を滑る。汗が浮かんでくる。
《どこにもありませんがね》
およそ真実を語るような面構えではない。ねえ嘘は得意だったはずでしょう?

何かがどんどん汚れていく。
殺そうとした仲間へ必死に嘘をついて取り繕う自分は、世界一惨めな存在だと思った。

全身から噴き出した冷汗。肌にまとわりつく下着。気持ちが悪い。
《ははは》
「だから……対処せざるを得なかったの……」
ローズヒップ。貴女を巻き込むのは、計算の外だった。

「誤解しないでくれると嬉しいわ……」
《さて、次にチーム名と》
疲れている。そう思った。喋ることに疲れている。嘘を吐くことに疲れている。この状況に疲れている。

ローズヒップの純粋無垢な仔猫のような瞳、こちらに向いている瞳。二対のそれが、私の胸の柔らかい場所をざくりと突き刺す。
《所属人数を発表します》
ローズヒップの背から手を離した。左ポケットのペンを指先で探る。メモを取らなければ。

「そうですわよね……アッサム様が、悪者になんかなるはずがないのですわ」
ローズヒップが頷く。いいや、頷いてしまった。
その言葉に、いとも簡単に騙されるこの子に、安堵する自分に、私は戦慄を覚えた。
《“青い鳥チーム”、3名》
青い鳥。平和の象徴。私の心に影が落ちていく。

「ええ」
私はなるべく、平静を装って答えた。
《“イングリッシュブレックファースト”、2名》
……私達のチーム……ああ、そうそう。ローズヒップ、ねぇ……知ってる?


イングリッシュ・ブレックファースト・ティーにはね、歴史的にオレンジペコやアッサム、アールグレイが入ることはあっても……。

……ローズヒップティーは、入っていないのよ。


嗚呼、私は薄情だ。
思えば最初から、貴女を招くつもりはなかったのだから。
《“チーム杏ちょび”、2名》
恐らく、角谷杏とアンチョビのチーム。特定され易過ぎるとも思ったが、一方で仲間への安心感を与える効果はある。

だからこそ、その瞳が怖い。貴女は何を見て、何を考えているの?
《“チーム・ボコられグマのボコ”、2名》
ボコられグマのボコ。件の彼女らの共通言語だ。島田流か西住流のどちらかと誰か、もしくは二人組。要注意チーム。

「ねぇ、ローズヒップ―――――――――――――――――――
《“姐さん!ペパロニっスよ!15時にDのT型定規作戦っス!って言えって一緒にいるイギリスの偉い人が言ってましたよ!”、2名》
 ――――――――――――――――――――――――――――――――――」

二の句を失う。
15時、D、T型定規、イギリス、2人。頭の中に並ぶキーワード。
間違いない、メッセージだ。アンツィオの副隊長と、ダージリンが一緒に居るという暗号。
罠の線も捨て切れないが、しかしこの暗号は私達……いいや、私個人に向けたもので間違いないだろう。
おつむが足りないアンツィオの副隊長のアイデアとも到底思えない。

“T型定規作戦”。アンツィオの作戦名だ。各学園艦へ潜入捜査を繰り返してきたGI6の私だからこそ解る内容。
そしてこれは恐らく、私とアンツィオの面々以外は知らない。
T型定規作戦とはタンケッテでの水切りのこと。
馬鹿げた作戦だが、それをこの場で出した理由は、D……Dのエリアだと……湖のあるD3。15時にそこへ集合という意味か。
十中八九、ダージリンの誘導でアンツィオの副隊長に出させた作戦名と暗号だ。
きっと私にはその意味が解ると見越して……。

「アッサム様……」
トランシーバーからか細い声。額に浮いた嫌な汗を拭う。
「ペコ、放送中よ。何かあったの?」
「……ダージリン様は、私達に会いたがっています」
そんな事は言われなくとも分かっているわ! 思わず口が滑りそうになったが、寸でのところで飲み込んだ。
《“†ボコさんチーム†”、2名》
ボコられグマのボコ。まただ。即ち島田と西住は二手に別れているらしい。
敵に回した際に最も厄介な二人が合流していないことが分かっただけでも、この放送には十分な価値はある。

「……ええ、そうね」
《現在、残存チームは以上6チーム》
「ですが三人のルールが」
「言わなくていいわ。さっきの誤射のことも。……今、ローズヒップも隣に居るの」
「……」

ペコが黙り込む。ローズヒップはこちらを疑いもせず、涙を袖で拭っている。私は深い溜息を吐いた。
「……それで? 本題は、二人のことよね?」
《計13名が所属となります》
二人。勿論、大洗とサンダースの、あの二人のことだ。恐らくオレンジペコにはあの二人がまだ見えている。

そのことを考えると胸の奥がじくじくと熱を持ったように痛くなった。私は現実に向き合うことを恐れ、そして逃げたのだ。
《続けて、チームに入っていない人物の》
あの二人が起きれば、私達はおしまいだというのに、炎が回るという希望的観測に任せて、投げ出してしまった。
ローズヒップへの言い訳が出来ないと思ったから。

……どうすればよかったのだろう?
《名前の発表を行います》
ぐるぐると履帯のように回る頭の中で、答えを考える。
“簡単よ。知ってるくせに考えるふりは、やめなさい”
誰かが耳元でくすくすと嗤いながら囁いた。



――――――――――――――――――――二人を殺して、あの子も殺せばよかったのよ。



“ねえ、そうすれば、三人になるでしょう?”
……全身に雷を撃たれたような戦慄が走った。

「アッサム様」
オレンジペコの小声に、はっと我に帰る。
《武部沙織、秋山優花里》
「ローズヒップさんにばれないように、2人は始末しないと……ですよね」
それはまるで紅茶でも淹れるように容易く呟かれた、悪魔の囁き。

背筋にぞわりと寒気が登る。その言葉に頷く事は即ち、“お前が殺せ”と命令することに等しいからだ。
《澤梓》
あぁ、そうか。そうだったのか。あの時の分水嶺は……。

私が選ぶことから逃げたから、オレンジペコはローズヒップを撃ったのだ。
《阪口桂利奈》
私があの場から逃げたから、オレンジペコは二人を始末せねばならないのだ。

別れ道を選ばず引き返せば、別の誰かがその選択をしなければならない。私達はチーム。運命共同体だ。
《丸山紗希》
なればこそ、その軌跡は数珠繋ぎなのだと、気付くべきだった。

「アッサム様」
ペコか小声で急かす。ローズヒップは俯いて泣いている。私は静かにその場所を離れた。
「……」
《ホシノ》
「御指示を、アッサム様」

「ペコ」
だから私は彼女の名を静かに呼ぶ。ペコとて、本当は殺したくなどないはずだ。
《ローズヒップ》
ローズヒップの処遇をどうするべきだろうか、と私は考える。
しかし悩んでいる時間は最早無い。逃げてもまた、いずれは選択せねばならなくなるのだから。

けれども、何が優先なのだろうと、ふと思う。
《ケイ》
基本となる三人ルールを考えるのであれば、秤に掛けられるのはダージリンとローズヒップだ。

ダージリンであれば、迷わずローズヒップを生かすだろう。
《アリサ》
彼女は、ローズヒップやルクリリのような人材が聖グロリアーナに必要だと、常日頃から説いている。

けれどやはり私達にはまだ、ダージリン、貴女が必要だ。
《ナオミ》
暗闇の海に放り出されたとして、灯台がないまま航海出来る人間など、そうそう居やしない。

だから、やはり思ってしまう。
《ノンナ》
いま私だけが考えつく一番堅いプランは、まず目撃者のローズヒップを始末し、動けない丸山紗希とアリサの口を、封じることなのだと。

「ごめんなさい、ペコ……」
私は瞳を閉じて、呟いた。引き金を引かせるはせめて私の役目であるように、と。
《福田、ミカ》
「……お願いするわ……」
こうしてまた、私は汚れていくのだ。

「畏まりました。機会を見て、処理します」
オレンジペコは、怖いくらいに淡白に呟いた。
《計13名です。皆さんもお分かりでしょうが》
処理。私はその言葉に耐えられず、トランシーバーのスイッチを切る。

これ以上あの子と話すと、罪悪感に押し潰されてしまいそうだった。
《この13名は“乗っている”可能性が高いと言えます》
これでは、自分は手を下さないただの屑じゃないか、と。

誰も殺せずに逃げた挙句、結局は部下に殺させる。
《出会い頭に殺してしまった方が》
私はいつから、そんな卑怯者に成り下がってしまったんだろう。

私はトランシーバーを仕舞うと、ローズヒップへ振り返る。
《チーム所属者の身のためかもしれませんねぇ》
……そう、放送だってこう言っている。

チームの為には、殺さなければならない。
だからせめて同胞を手に掛ける罪だけは、私が背負うべきなのだ。
《……さて、最後は“プレゼント”の発表です》
……プレゼント?

貴女には無理よ、首も絞められなかった癖に。私の中で誰かが嗤う。
《君たちのスマートフォンに、一つアプリを配信しました。緑色の本のアイコンをホームに追加しました》
記憶の限りの無所属者を書き殴ると、私は急いでスマホを取り出した。
タップすると、砂時計が五秒。短く舌打ち。

立ち上がりが遅いのはアプリとして致命的だが、急造であれば致し方ないか。
《“学生名簿”というアプリです》
がくせいめいぼ、と口の中で繰り返す。

どれほど偉くなったのだろう。私はもはや人を殺す指示をしたことなど忘れかかっている頭の片隅で思った。
《“学生名簿”では、顔写真入りの名前や》
いつからは私は、人の生き死にを決められるほどの身分になったのか? 何様のつもりだ?
誰のせいでこうなった? ……誰のせい?

私はローズヒップの元でしゃがんだ。
「ローズヒップ、色々大変だったでしょう」
少なくとも、私のせいではない。この殲滅戦が悪いのだ。そう思った。
《簡単なプロフィールが表示されています》
だってこんな状況になったら誰だって、遅かれ早かれこうなるでしょう?

「もう大丈夫よ、私とペコが居るんだから」
《死亡者は写真は白黒になり、名前が赤色になりますが》
「はいですわ……」
ローズヒップが涙を拭いながら頷く。

もし、と、ふと思う。私はローズヒップの頭を撫でた。
《死者表示は放送のたびにしか更新しないことにしました》
もし、生き残れるチームが4人だったなら。そんなIFがあったならば、私は一体どうしたのだろう。

悩むまでなく、その時は迷わずこの子を守っただろう。しかし、もしもそこにルクリリが居たら?
《しかしこの放送以降は、死者が出た瞬間》
多分私はルクリリを生かして、この子を殺す。
私はそういう人間だ。数字でしか判断できない、馬鹿な女なのだ。
今までの思い出や感情よりも、利害できっと判断する……本当にそうだろうか?
私はそこまで徹することができるのだろうか。ならばなぜ、二人から逃げて、首を絞めることに躊躇した?

私は堪らず、ローズヒップを後ろから抱き締めた。
《ホーム画面にその情報をポップアップ表示されるようにします》
今度は決して、誤魔化しなんかではない。

ローズヒップの髪に顔をうずめると、微かに紅茶の香りがした。
でももう、それがとても遠い匂いのように感じてしまって、少しだけ切なくなった。
《通知音も強制的に鳴らしますので》
ローズヒップは……いつも紅茶を入れる練習をしては、失敗をしていたっけ。
毎回毎回、いっつも失敗の連続。何度やっても駄目だった。

温度も、時間も、作法も。全然なってないから、教育係の私は叱ってばかりだったけど。
《スマホのスピーカーには十分に注意して頂きたい》
でも、この子はいつも向日葵みたいな全開の笑顔だった。真っ直ぐで、裏表がない。それこそまるで子供のように。
だけど何故だか憎めない、それが貴女。諦めず、努力して。
雨でも雪でも、火砕流や泥の中でもずっと前に進み続ける戦車のよう。

ちょっと前に、アポなしで私の家に来たこともあったっけ。晩御飯拝見ですわ、とか言って。あれは笑ってしまった。
《また、チームに属していない人間は名前が青色になり》
帰りも遅いし、しようがないから同じ布団で寝て。朝起きたら貴女は、私の布団を全部取ってた。
寝相も悪いし、よだれは垂らしてるし。本当、聖グロリアーナとは相入れないような、とんでもない後輩。

いつも私達みたいになりたいと口癖みたいに言って、
《チームリーダーは、名前が黄色になります》
それでも、お行儀が悪くって、賢くなくて、庶民じみてて。
そんなんじゃまだまだ淑女には遠いわよと、いつも言われてた。

ペコは貴女のことが少しだけ嫌いだったみたいだけれど、
《この表示も、放送毎にしか更新しません》
私は悪態つきながらも、大きな妹ができたみたいで、少しだけ嬉しかった。
貴女と居た時だけ、本当に腹の底から笑えた気がしたから。
数字人間の“アッサム”なんて、貴女の前では演じる意味がなかったのだ。

私の冷めきった両手に、ローズヒップの体温が伝わってくる。
《しかしこの放送以降は》
私よりずっと暖かくて、ずっと優しい温度。貴女は最期までそうあるべきだと私は思う。

背中から、心臓の鼓動が伝わってくる。耳を澄ますと、小さく息遣いもする。
《チームが解散した瞬間》
嗚呼、そうだ。彼女は、生きているのだ。

真っ黒な炭に囲まれて、私達は道の真ん中でひしと抱き合う。
《ホーム画面にその情報をポップアップ表示されるようにします》
白い空と海風だけが、私達をじっと無言のまま見ていた。

ダージリン、御免なさい。私は謝った。
《死者発表時と同様の通知音も通知音も強制的に鳴らします》
自らを正当化したかったのだ。これから行うことが悪ではないのだと。
数字人間の“アッサム”は、やはり聖グロリアーナには必要だ。
ダージリンを影から支える為、この殲滅戦を生き残る為。
であれば、断ち切るべきだった。そうなれない理由の糸を、繫ぎ止める要を、鋏で斬ってしまうべきなのだ。

スピーカーから流れてくる場違いな声を聴きながら、私は皆に一人ずつ謝った。
《なお、通知音はマナーモードにすれば鳴りません》
オレンジペコにも、ルクリリにも、ニルギリにも。それから……貴女にも。

赦して欲しいだなんて、そんな贅沢で卑怯な台詞は言わないけれど。
《……ああそれと、今日は16時頃より雷雨となるようです。各自、対策はしておくように》
それで何かが変わるわけでも、ないけれど。

だけど、謝らせてほしい。
《それでは、6時間後まで、さようなら》
ねえローズヒップ。それって、我儘かしら?








ごめんなさい。今から私は―――――――――――――――貴女を殺します。






「まるで、世界の終わりね」

そう呟くと、軋む体を起こし、まず、時計を見た。
時間は定刻を数分、過ぎている。残念ながら放送を聞き逃したということだ。
次に、ちかちかと痛む頭をもたげながら、辺りを見渡した。
人が居ない。静かな事に違和感。何故、自分達は生きているのか……いいや、生かされているのか。
敵が居たはずだが、どこかへ消えている……何故?
頬をゆっくりと抓る―――痛い。夢でもあの世でもなく、此処は確かに現実であった。
少女アリサはその事実に溜息を吐くと、自分の足元に転がる無口な死に損ないを、恨めしそうに見下した。
さて、なにはともあれ、である。

「さ、き……っ。サキ……っ!」

“そうしよう”とアリサが思うまで、時間はさして掛からなかった。
ただそうして起こすには些か乱暴だということくらいは彼女にも分かっていた。
彼女の有様を見て、そう思わない人間も居まい。
ならば何故そうしたのかと問われれば、それは“女の勘”と答える他なかった。

“今しかない”。

別にその思考に、根拠などありはしない。
ただ、アリサは今しかないのだと、そう思ってしまったのだ。
直感で動く彼女にとって、理由はそれだけで十分だった。
目の前の少女が死んでしまうんじゃないかと少しだけ思った事もあるが、それよりも遥かに、第六感が強く働いたのだ。
警鐘。頭の中で何かが騒いでいる。胸が得体の知れない予感にざわつく。
……今、伝えなきゃ。
何でかはわからない。けれど、この子が起きるのを待ってからでは、この気持ちを上手く伝えられない気がする。
鉄は熱いうちに叩け――――不意に、そんな言葉が脳裏を過ぎる。
だからアリサは目玉をひん剥きながら……紗希の頬を思い切り引っ叩いた。

「起きなさい!!!!」

思わず、ぽかんとした。
どの口が叫んだのかと思う。
自棄になってばら撒く機銃のように放ったその言葉は、半ば無意識で、彼女自身を激しく動揺させた。
まるでどっかの母親みたいだ、と頬の内側で自嘲する―――母親はもう居ないけど。
アリサは目前の少女を見る。反応がないことを理解すると同時に、バチン、と大きな音。一秒遅れて、右手がじんじんと痛んだ。
無意識に、手加減なしの一撃が出ていた。
同時に、嗚呼、と一人ごちる。人の顔を叩くのは、こんなにも……痛いのか。

「ぁ、ぅ」

寝惚けたような声を紫色の唇から零しながら、少女が小さな目を開けた。潤んだ双眸がアリサを映している。
アリサは円らな瞳に映った自分を見た。土色の頬は煤だらけで、見れたものじゃなかった。

「よかった、目を覚まして……」

自分の顔の汚れを袖で拭くと同時に、そう口から溢れていた。
意識はしていない。掛け値無しの、本心だった。
あのまま二度と話せないだなんて、そんなの誰だって納得いくものか。
大きな溜息を口から吐くと同時に、アリサは思わず膝をついた。肩に張っていた力がゆっくりと抜けていく。

「でも、でもねぇ……」しかしそう。だが、である。「本当、あんたって奴は……」

安堵と同時に沸いて来たのは、決して純粋な喜びの類なんかではなく、それは果たして、底なしの怒りだったのだ。
こめかみに青筋を浮かべながら、アリサはここで漸く自分の思考の本質を理解する。
彼女に起きて欲しかった理由が何なのか。
何が今しか無いと思ったのか。
何を伝えたいのか。
何を伝えて欲しかったのか。
何に自分は苛ついているのか。

「……本当、なんでっ……」

そうだ。私は、怒っているのだ。
血が頭に登るのを客観的に感じながら、アリサは改めて思った。
それがこの状況に対して不相応な怒りであることも、不適切な感情であることも、理解出来ている。
それでも、言わないではいられない。
何故って、アリサは“馬鹿”だから―――だが勘違いすることなかれ、彼女は決して“阿呆”ではない。
彼女だってまがりなりにもサンダースの作戦の指揮をとる立場にある。そのくらいには賢しい人間なのだ。
しかし理解が出来ているからといって……それが納得に足るかと言われれば、それこそ話は別である。

「なんでよ、サキ!!!!! どうして!!? どうしてっ!!!!!
 なんでっ、なんだってアンタはあんなことッ」

喚きながら、それでも、と拳を握る。
爪を掌に立て、唇を噛んで、背筋を震わせながら。
“不適切”で、“不相応”。嗚呼そんなことは解っている。
説法を聴かない餓鬼でも判る。分かっている、わかっているのだ。
だが、それでもアリサは飲み込まない。
何故ならこの感情は、納得出来ない想いは、彼女にとっては決して“理不尽”ではないのだから。

「……どう、して」

燃え盛る紅の中、逆光にアリサの顔へ影が落ちる。
少女は、丸山紗希は、そんなアリサに対して、けれどもまず一番に疑問を呈した。
純粋無垢な生娘の、真白な疑問である。

どうしてまだ生きているの?
どうして怒っているの?
どうして……泣いているの?

ぱち、ぱち、ぱち、ぱち。乾いた柱が燃えて、墨色になりながら爆ぜていく。
火の粉が散って、食器が割れて、トルソーがダイオキシンをまき散らしながら何か醜い塊になって、制服が灰になって、窓ガラスは砕け散る。
庭の木が燃えてゆく、小さな花が、橙色の金木犀が、甘い匂いを撒き散らしながら死んでいく。
そんな中、焼け落ちた枝のように細い指先が、アリサの頬にゆっくりと伸びていた。
アリサははっとして自分の頬を触ってその意味に気付くと、慌てて袖で拭い……きっと今日は煙が目に沁みる日だったのだと、脳に納得させた。
ああ、けれど。

「……どうして!??」

涙の“その意味”を理解されてしまったことも、分かりきった上で投げられるその疑問の言葉も。
アリサの中の柔らかい場所を守る鱗にとっては、逆撫でられる事に同義だったのだ。

「どうして、ですって!?!?」

丸山紗希は、アリサから見れば圧倒的な弱者である。
社会不適合者スレスレの、半ばコミュニケーション障害者だ。
本来マウントを取りたいそんな相手に怒っていることも、そんな彼女に涙を見せた自分も、
泣いていることを言われて気づいた事実も、全部、全部、アリサのプライドをズタズタに斬り裂くに十分だった。
そして混ざり合った感情は、小さな少女の身体には到底収まりきらない事を、彼女自身が一番判っていた。
どうしようもなくなったのならば、それは盃から溢れるしかないのだと。
自分の情緒すら律せない思春期の少女に、汚泥を呑み込む術など持ち合わせているはずがない。
だから、アリサは震える拳を開き、その激情を叫んだ。
そうして気付いた時には、紗希に馬乗りになりその胸倉を掴んでいたのだった。

「ふざけんな……ッ」

紗希のただでさえ血の気の無い顔が、みるみるうちに更に青褪めてゆく。
物静かで多くを語らず、交友関係も狭い紗希にとって、胸倉を掴まれたのも、馬乗りになられたのも、人生で初めてのことだった。
紗希は恐る恐る、アリサを見た。
揺らぐ焔と飛ぶ火の粉から切り取られたように、痛みに耐えるような歪んだ表情が浮かんでいる。

不意に煙の匂いがした。
白くて苦い、もやもやとした何かが、鼻孔を通って前頭葉の真ん中あたりを漂っている。
頭の中がこそばゆくて、涙腺のあたりが無性に痛くなった。
堪らなくなって、紗希はアリサの双眸から目を逸らす。
言の葉を発さず表情を消した彼女だからこそ、その眼の奥に灯る感情が解ってしまったから。

「ふざけんなッ!!!」

“丸山紗希は聞き上手である”。
何故そう言われるのかを突き詰めると、結局のところはやはり彼女が何かを語らなくても、80点の精度で語ってくれる親友が居たから、というのが解になるだろう。
紗希の気持ちは“優しい”親友達により、彼女達の都合のいいように20点分を曲解された。
逆に言えば、紗希は“20点分を改編されるように余裕を持って反応する術”と、“親友の欲しい20点の解を察する術”を持っていた。
勿論、ただの沈黙ではそうはならない。これは彼女の固有スキルだ。
石の沈黙もあれば、金に化ける沈黙もある。彼女の場合、それは後者だった。
そしてその金の沈黙は、彼女に20点の“嘘”を与えたのだ。
彼女が“聞き上手”と言われる所以は、きっとそこにあったのだろう。
誰かが求める解を嘘でもいいから示し、そしてその嘘を理解しているからこそ、
真実も打開策も、誰よりも冷静に見極められる。物に動じず、辺りを観察できる。
つまるところが、彼女は本質的にはきっと“察し上手”だったのだ。
けれどそんな一方的な理解や解釈が、生憎とアリサは、大嫌いだった。

「ふッッッざけんじゃないわ!! なにが“どうして”よ!!
 こっちのセリフなのよそんなの!! 私がッ、私がどんな思いでッ!!」

燃える家の中から木が弾ける音。熱風が彼女達の柔らかな肌に乱暴に吹き付ける。
息を吸うと、乾いた空気がたちまち口の中の水分を奪っていった。
紗希は恐る恐る、胸ぐらを掴むアリサの目を見る。
黒目が烈火の如き怒りに渦巻いていた。その淵に、悔しさと悲しみが見える……いいや、見えてしまった。
紗希は思わず短く悲鳴を上げる。
目に見える強い怒りの感情と至近距離で対面する事の怖さを、彼女は死の手前で初めて経験したのだ。
これが感情だ。
これが言葉だ。
現実を諦めて放棄したはずの彼女の装甲へ、暴力の機銃が火を噴く。
カーボンを持たぬその肉に、機銃はまさに必殺だった。
驚くべきことかな、彼女は、この死の縁で紗希が初めて出会った―――“100”を要求してくる人間だったのだ。

「……どうしてぇ……」
「だからっ!! なにがよ!?」

うわごとのように繰り返される言葉に、アリサは胸ぐらを掴む腕を揺らした。
思わず出そうになる右手をぐっと堪えて、紗希の瞳を睨みつけるも、次の瞬間、思わず唾を飲み込む。

酷く怯える顔の向こう側。夜、或いは、凍った湖の底。雪の降る廃墟。
もう何日も夜の中に閉じ込められているような、冷たくて深い黒が見えてしまったのだ。
それはまるで深海に咲く花のような、悲しくて美しくて……痛いくらいに切ない色で、次の句を失う。
言葉で形容できない悪寒が、背筋を蠢動しながら這い上がった。
“拒んでいたのだ”。
幾ら走って手を伸ばしても、埋めようがない距離が、自分と彼女の間に茫漠と横たわっている。
まるで地球と月の関係の様に、そこに確かに見えているのに、どれだけ叫んでも彼女には聞こえないのではないかとさえ思えるような。
アリサは悟った―――ああ、彼女はきっと、絶望しているのだ。
自分の怒りがもうその小さな掌にさえ、響かないくらいに。
だから。


「どうして、
 わたしなんか、
 たすけるの」


……だから、その言葉は、まごう事なく最後の綻びなのだと、叫びなのだと、確信できた。

くしゃくしゃに歪んだ表情から、消え入りそうな泣き声が溢れる。
焦燥しきって痩せた頬。紫色の唇は震えていて、瞳は汚く濡れそぼっている。
肩は触れると崩れてしまいそうなくらいに小さく、服は煤で汚れ、まるで雨に濡れた捨て犬のよう。
アリサは胸ぐらを掴んでいた手を、順番に指解く。
ゆっくりと、自分の五本の指にきちんと血が通っているのを確かめるように。
その綻びを見逃せば、彼女はきっとこっちに帰ってこない。絶望の淵に身を寄せたまま、終わりを迎えるのだろう。
だから本来それは彼女なりの最後のSOSの筈で、それを勿論アリサも解っていた。
けれども、嗚呼、何故だろう。

アリサはその言葉を言われたことが、先ず何よりも……死ぬほど悔しかったのだ。

「……バカね」

その名状し難い感情への理解よりも先に、口が開いていた。
吐き捨てるように丁寧に、呪うように優しく。
アリサはゆっくりと離した指で、拳を作る。人差し指から順番に閉じて、今度は覚悟を己に問うように。
裏腹な感情など、理屈など、知ったことか。

解答をしなければならなかった。小さなSOSに、優しい言葉を掛けてやる必要があった。
けれど、とアリサはかぶりを振る。
けれど生憎と……私は全然優しくなんか、ない。
優しさなんかは理解“してくれる”オトモダチにくれてやれ。拳も静かでさぞ居心地良いことだろうよ。
でも残念だけれど、私の拳は、おしゃべりだ。感情まみれで、鞭を打っても止まらないくらいには。
だからそうして作った右拳で、アリサは思い切り――――――――紗希の左頬を殴りつけた。


「そんなの――――――」


鈍い音に、思わず目を蹙める。
……私はどうしようもないくらいに、不器用だ。
感情を整理して、咀嚼して、優しく言葉を選ぶことなんかできやしない。
本当、嫌になる。だけどしようがない。それ以外に思いつかないのだから。
だから私にできるとことといえば、無様に感情を喚き散らして、馬鹿みたく、真っ直ぐに伝えることだけ。
いつだって、それだけだった。


「――――――――――友達だからでしょうが!!!」


振り切った右手に走る痛みに耐えながら、アリサは腹の底から叫ぶ。

悔しかったのは、友達だって思われてなかったから。
怒っていたのは、自分に相談してくれなかったから。
泣いていたのは、理由を説明してくれなかったから。
寂しかったのは、あんたが一人で全部を抱えたから。

わたしだって、私だって。あんたと、たくさんお話ししたかった。

「とも、だち」

殴られて暫く、紗希は呆気にとられたように目を丸くする。殺意を向ける友人など、彼女はとんと知らなかったのだ。
対するアリサは頭を掻きむしりながら、舌を打つ。
だから似合わないのだ、と。タカシにだってこんな気持ち吐いたことがないのに、どの口が。
続く気の利いた台詞すら用意出来ないくせして、柄にも無い事を宣うもんじゃない。
後先考えないから、あの時だって無様に負けてお仕置きされたのだから。

「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!! もう!!! 私だってねぇ、こんなこと言いたくないわよ!!
 なによその顔! 文句あるっての!? だいたい、そもそも最初はあんたらが言ってたんじゃない!
 戦車道で一回戦ったら、もう友達なんだって! 私は、私はッ」

息を、飲む。
零してしまいそうな感情も、流れそうな何かも、そうして一緒に飲み込む為に。
頭蓋骨の内側は、カラフルなパンケーキで一杯だ。
余計なことを言うなという気持ちの砂糖、嘘というスパイス、それから少しの本音。素敵な何かなんて小匙一杯もありゃしない。
少女の中身なんてそんなもんだ。どれだけ取り繕って砂糖をまぶしても、中身はただの肉の塊なのだから。
その中身全部が陳腐なベーキングパウダーと一緒に混ざり合って、知恵熱で膨れ上がって、アリサの頭を内側から圧迫する。
目と耳からずぶずぶと溢れる虹色の生地を想像すると、酷い目眩と吐き気がした。

「……私はね!! 本当にッ、そーゆーのッ! 気に入らないわ!!」

アリサは強張った肩を上げ、拳を握り、目を瞑って叫んだ。
気に入らなかったのだ。ずっと、ずっと、ずっと。
ぬるい練習してるくせに、いけしゃあしゃあと勝ち抜いていくその理不尽な御都合パワーも、
すぐに誰とでも……うちのマムとも仲良しこよしみたいになる、そのずうずうしさも、
私みたいな卑怯者も恨まず認めてくれる、そのむかつくくらいに真っ直ぐな純朴さも、
つまるところそれが嫉妬なのだと理解しながら、一番大洗で“地味”なこの子に喚いている、自分も。

「だけど、あんたらにしたらそうなんでしょ!?
 そっちからしたら友達なんだったら、こっちだって友達にならなきゃ気持ち悪いじゃない!!」

素直に言えばいいのに、いつも私はこうだ。アリサは肩でぜえぜえと息を吸いながらそう思う。
不意に吐き気がした。胸が苦しくて、頭がくらくらする。
酸欠だった。辺りが火事なのだから、そうなるのは当たり前だ。
下手を打てば死ぬ。そうでなくても、このままでらもうすぐ私は死ぬ。
この子だって手当がなければやがて死ぬ。だから逃げなければならない。そんなのとっくに知っている。
呑気にこんなことしている場合じゃない。それも知ってる。
知っているのだ。

「わたし、私っ、私はねぇっ。ここにきたとき、最初……」

けれど、捻じ曲がった感情が、駆け出すべき足を邪魔していた。
しかも邪魔をしたそいつは真っ直ぐに気持ちも伝えられないし、かと言って気持ちを割り切って黙りも出来ない。
そんな奴にまた腹が立って、結局周りに八つ当たりをしてしまう。まるで小学生だ。
そんな風ではいつまでも人生上手くいくはずなんか、ないのに―――――じゃあ、なんで逃げない?

ふとした疑問に、アリサは次の句を言う前に口をまごつかせた。
今更、である。
震える少女の唇へと目を滑らせながら、アリサは胸倉を掴んだ手を緩めた。
死にかけの無口な人間に対して、それを言ったところで何が解決するのか。それが判らないほど、彼女だって馬鹿じゃない。
だけど、本心だった。
そんなでも、捻じ曲がっていても、素直じゃなくても。
これだけは、伝えておかなければならなかった。
いわば通過儀礼の様な……これは、ああ……多分、そう。
きっと、彼女へ望む為に、己が吐露しなければならない、小さな覚悟のかたちなのだ。
そう思った瞬間に、不思議とまごついていた口が、油を差された戦車の様に動きだす。

「……最初はっ、あんたらにっ、大洗にっ! かっ、関わんなきゃよかったって思ったッ!!
 だってそうでしょ!? あんたらに関わんなきゃこんな事に巻き込まれなくても済んだかもしれない!
 あんたらに出会わなければ、私達は素直に上に勝ちあがれたかもしれない!!
 あんたらが戦車をもう数台追加していたら、“あのお人好し隊長”は全車輌で攻めていたかもしれない!!!
 そしたら私はタカシに振り向いてもらえたかもしれない!!!!
 “大洗のあの子”じゃなくて、私に!!!!!」

言い切った瞬間に、嫌な汗がぶわりと吹き出し額に張り付くのを感じる―――ずっと、こうして誰かのせいにしてやりたかった。
お母さんが居ないのも、あの時負けたのも。
タカシがどこかの花道の娘に夢中でこっちを振り向いてくれないのも、泣き虫なことも、こんな場所に来たことも、支給品がゴミだったことも。
けれど不思議と、今までそれをしてこなかった。
思いはすれど、態度に出しこそすれど、面と向かって誰かに言ったことはなかったのだ。

「そう、そうよ。はは、ははは。だから全部あんたらのせいよ、あんたらの!!!」

アリサは、自分がどちらかと言えば、嫌われやすい人間である事を知っている。
けれど、彼女は自分が思っているほど性格が悪い女なんかじゃないのだ。
周りより少しだけずる賢くて、けれど周りが思うよりずっと弱い、そんな一人の普通の、いいや、誰よりも人間らしい生徒だった。
自分の力だけで勝つ自信がないから無線傍受をし、価値の無いと思っている自分の価値を少しでも上げたいから嘘をつき、
そして自分が悪いことを知っていたから、反省会では涙を流して謝る。

自信に溢れて勇気があって力もあって全てが正しいヒーローなんてものは、幻想だ。そう思っていた。
勿論アリサはそんな自分が好きではなかったが、それを何かのせいにはしなかった。ずっと、その一線は超えなかったのだ。
それは本当の意味で、皆に見放されたくなかったから。
それを超えると今まで積み上げてきた全てが決壊する事を、アリサは知っていた。
……けれど。

「どう、呆れた? 嫌な奴だって軽蔑した!? でもね生憎、私はそういう人間なのよ! そういう人間なの!!
 頭のてっぺんから手足の先まで染み付いたこの嫌な性格も! 言葉遣いも! 泣き虫なとこも! 今更ちょっとやそっとじゃ全然直せない!! 
 すぐに口が出るし、手も足も出る!! 文句も言うし、感情が制御できない!!
 でも、でもねッ!! これが私なのよ!!!」

けれど、それをアリサは自分から棄てる。
唾を撒き散らしながら、土気色の肌をした死に損ないの胸倉を掴みながら、目を血走らせて哄笑しながら。
……あの試合のあと、アリサを叱った父に怒ったのは、悔しくて泣いたのは、何故だったのか? 答えは単純明快。

“理解されたかった”。それだけだった。

ずっと、理解者が欲しかった。
自分が必死にもがき苦しみながら、皆の為に頑張っていることを、分かって欲しかった。
わざと口を開いて感情を喚き散らして、自分という人間の存在を、認知してほしかった。
自分からマウントを取りに行くことで、自分の価値を周りの友達に、見せたかった。
無理をしてでも功績を残すことで、組織の中の役割を、与えてほしかった。
黄色い声を喚いて目立つ自分を、特別な何かになれたのだと、誰かに自慢したかった。

「それに比べりゃそっちは随分いいわよね、呑気にぼーっと生きてりゃ周りの人がなんでも察してくれるんだから!
 すごいわよね! 人生イージーモードで尊敬しちゃうわ!! それで生きていけるってんだから随分幸せよね!!!」

私を認めて。私を見て。私を知って。私を解って。
意味をください。奪われないように大切にするから。
役をください。喪わないようにちゃんと演じてみせるから。
価値をください。落とさないようになんだってするから。
ねぇ、そうしたら、足りない私も“何か”になれるかな?

「でも……でもね……」

アリサは胸倉を掴んだ手を、弱々しく離す。得体の知れない汗をぼたぼたと流しながら、鼻水を無様に垂らしながら。
初めて吐露した気持ちは、酷く“痛かった”。
それは何も自分だけの話ではなく、息を荒くしたまま押し黙る目の前の少女の心も、きっと痛めつけていることだろう。
嗚呼、けれど、その痛みに抉られて初めて、全部“知れた”のだ。


「でも、私は……そんなの全然分からない!!」


だから私は、何もせずに理解されているこいつが――――――――――――――――――――――――――どうしても、許せないってことを。


「だって友達になったばっかりなんだもん! わかるわけないじゃない!!
 ―――――――――――――――言ってくれなきゃ、なにもっ、わかんないのよ!!!」

アリサは叫んだ。声を裏返して、腹の底から魂を絞り出す様に。

……それは、簡単過ぎて難し過ぎることだった。
言わなければ、分からない。
愛していようが信じていようが、最後は結局、言葉だ。行動だけでは何事たりとも伝わりきらない。
憶測の想いほど、行き違うものはない。言うことで互いの想いの認識を“100にする”のだ。
勿論それがずっと100とは限らない。人間は気紛れだ。
今日宝物だったものが、明日にはあっというまにガラクタになっているなんて事も珍しいことじゃない。
それでも、その瞬間は100であることは真実だ。
いいよ、だめだよ、好きだよ、嫌いだ、愛してる、楽しい、辛い、悲しい、嬉しい、信じてる、信じてくれ。些細なことでも何だっていい。
相手に対して思っていること、自分が思ったこと。それを素直に、まず相手に伝える。
どれだけそれで救われる人が居るか。
そしてそれだけのことが、どれほど人にとって難しいか。

「私、馬鹿だから! 馬鹿ってのはね、伝えてもらわないとわかんないのよ!
 だから伝えなさいよ、言いたいことがあるなら!! 言いなさいよ、不満があったら!!!
 ――――――――――――――――――――――周りがお前をわかってくれる人間ばかりだと、思うな!!!!」

太陽が、照りつけている。
焼け落ちる家屋の隙間から、煙の狭間から、痛いくらいの日差しが、アリサの横顔を、体を、じりじりと焼いている。
その影の中で、紗希はアリサの歪んだ顔を見ていた。
想い出達が焼け落ちて塵になってゆく堪え難い不協和音の中で、その苦悶の表情だけが、けれども決して想い出には無い、眩しい現実に思えた。
“言わなければ分からない”。
紗希にとって、その言葉は確信を突いた一閃だった。
丸山紗季はそういう女なのだと、いままでの思い出の中の知り合いは、彼女の特性を優しく許容してきた。
彼女は、言わなくても許されてきたのだ。
故にそれは初めての、彼女の彼女らしさそのものへの反発だったのだ。

「ねえあんたはどうしたい?? なにがしたい!?? なにがしたかったの!???」

紗希の頭の中で、アリサの言葉が電気信号の様にチカチカと点滅している。
ふと気付けば、両手で肩を揺さぶられていた。
思わずまた目を逸らそうとして、意図せず太陽が目に入りそうになる。
眩しい、つらい、頭が痛い。
脳みそが今にも内側から膨れて破裂してしまいそうで、これ以上、何も考えたくなかった。
紗希はアリサの影に身を隠す。彼女のような太陽に身を焦がす様な生き方は、自分は到底出来ないと思った。

「……なに、が、し、たい、か」

ぐるぐると黒い煙が廻る頭の中で、汗を垂らしながら絞り出した言葉は、たったそれだけ。
息を一文字ごとに吸いながら、吐きながら、応える。
考えれば考えるだけ、酷い目眩と吐き気がした。
だから嫌なのだ、逃げたいのだ、喋りたくないのだ。
嗚呼、こんなにも辛いのなら、痛いのなら、いっそのこと。

「そうよ! なにをしたいのか、言いなさい!
 自分の口で言いなさいよ!! 言え、言えッ――――――――――――――――――――言え!!!!!!!!!!!!」

アリサが叫び切って、静寂が辺りを包んだ。
“出し切った”のだ。彼女が丸山紗希に求めるものは、それが全てだった。
そして、素直じゃない彼女が必死になって選んだその本音は、この瞬間、確かに紗季の心に届く。
喧しい叫び声が、けれども心地良い音で、確かに。
この偽物の世界の中で、それだけは、紗季の胸を打ったのだ。


「もう、いなく、なりたい」


嗚呼、けれど、残念でした。
その言葉も、感情も。彼女にとってはもう全て“終わりたかった”ことなのだから。
それが届こうが、届くまいが、彼女の選択は変わらない。アリサの言葉は、無意味だった。

―――丸山紗季は、死んでいた。

この日この場所あの時に、あの爆発に巻き込まれて、魂が消えてなくなっていたのだ。
アリサの言葉は、故に、彼女の心に届いても、彼女の魂にまでは響かない。
簡単な理屈だった。何故なら死人に魂なんてものは、ありはしないのだから。

「……そう」

アリサは胸倉を掴んだ手を解き、ふらふらと覇気なく立ち上がる。
紗季はその様子を、目を細めてどこか遠くを見るように見上げた。
きっと自分に彼女は絶望しているのだろう。説得も諦めたのだろう。
うんざりしていた現実も、これで漸く終わるのだ。
もういい。たくさんだ。早く何もかも終わりたい。
そうして紗季は、影が落ちたそのアリサの表情と、垂れた前髪の隙間から見えたその目と、歪んだ口を見て……けれども、思わず息を飲んだ。

絶望した?―――否、彼女の目は光っている。
諦めた? ―――否。彼女の口は笑っている。
これで終われる? ―――否。彼女の顔はまだ前を向いている。

言葉が無意味だなんて言わせない。
もう終わりだなんて誰が決めた。
お前の意思がそこまで硬いというのなら、私の覚悟はここでお前の魂を超えていく。
アリサの体はそれを物語るように、堂々と、紗希の前に立ち塞がっていたのだ。

「……あっそ!! ふ〜〜〜〜ん! あっそう!!」

どうして?
紗希は吹っ切れたように吐かれたアリサの声を聞きながら、酷く混乱した。
これだけ拒絶して、これだけ自棄になって、何故まだこの人は立ち上がって笑っているのか、と。
ちゃんと伝えたはずだ。お前の相手はもうしたくないと。ちゃんと言ったはずだ。もう終わりたいのだと。
理解してないはずがない。なら、どうして……。

そこまで考えて、思わず、ぁ、と間抜けな声が出る。
なんてことはない。彼女は……アリサは、丸山紗希に“自分の考えを言うこと”を求めていたのだ。
そして紗希は、それに応えた。
言ったのだ、自分がどうしたいのかを、その口で。
伝えたのだ。今まで動かしてこなかった、その舌で。
紗季はここで漸く気付く。それがアリサにとっての“勝利”だったのだ、と。





「――――――――――――――――――――――死なせてやんないわよ、ゔぁ〜〜か!!!!」





アリサは笑った。
嗤いではなく、微笑いなんかでもない。心の底から楽しそうに、笑った。
死んだ心を、その魂をもって否定することが、アリサにとっての紗希への答えだったのだ。
回答は聞いた。ならばそれに答えなければならない。当然だ。何故ならそれが、“会話”なのだから。
納得できないならば、食らいついて否定すればいい。
分からないのなら、素直に尋ねればいい。
嫌なら嫌と、面と向かって言えばいい。
とことん話して話し尽くして、決めればいい。
それが対話だ、それが言葉だ、それが意地だ、それが私だ。

「聞いたからには口答えさせてもらうわよ。生憎と私は馬鹿で、我儘なの。
 だからこの先、私を納得させるまで、死ねると思うな!!!!!!!」

黒煙がとぐろ巻く天に向かって中指を突き立て、アリサは世界へ吐き捨てた。
呆気に取られる紗希を見て、にたりと浮かぶはしたり顔。やってやったと胸を張ると、アリサは鼻から息を吐く。
その笑顔は、半ば狂気に近かった。
自殺未遂をした挙句、拷問されたような死にかけの人間に、納得させなければ死なせないとほざく人間が、どこの世界にいるものか。
狂っているのだ。そうでなければ、この後に及んで笑えない。

「どーよ。初めてでしょ。否定されるの!
 そりゃそうよね? だって今まで“やりたいこと”、言ってこなかったんでしょう!?」

思わず、紗希は二の句を失った。
“やりたいこと”。それが早く死にたいという碌でもない答えだったとしても、まんまと言わされてしまったのだ。
全くの無自覚だったが、それでも、会話をした。
やりたいことを確かに伝えた。その事実は変わらない。“負けた”のだ。
アリサはしゃがむと、文字通り鬼の首を取ったように紗希の首根っこを掴む。
そうして肩を貸すと、吐き捨てるように言った。

「……ほらっ、行くわよ!! 掴まりなさい!」

―――今更、何処へも行けないと思っていた。

紗希は、自分を小さな体で背負うアリサをぼやけた目で見ながらそう思った。

自分はもう、何かへ向かって進めない。何処かを目指して歩けない。
そう決め付けていた。だって死んだと思っていたから。
向かうべき場所は、焼け崩れて無くなってしまった。
一緒に居た戦友は、弾丸に貫かれて亡くなってしまった。
帰る場所は、偽物に攫われて消えてしまった。
目指す場所は、真っ黒な虚無に潰されてしまった。
だから、自分ではもう歩けないのだと。
故に選んだのだ。消えてしまうことを。終わることを。魂を亡くすことを。
見えなくなったのなら、進むための足も壊してしまうしかないと思っていた。だから、罠を踏み抜いた。

だけどこの人は……アリサは、そんな私をおぶってどこかへ進もうとしている。私に勝負で勝った“つもり”でいる。
もう消えてしまいたい私を無視して、偽物の世界から這い出そうとしている。
こんなにも小さい体で、あんなにも大きな“オオアライ”の町に、挑もうとしている。

もう諦めて消えたかった。死にたかった。終わりたかった。
なのに、この手は。この、自殺を選んだ汚い手は、この人の小さな背中に未練がましく、しがみ付いている。
立ち止まったこの身体は、どこにもいけやしないのに、何かに期待してしまっている。

どうして、どうして……どうして。

疑問が浮かんで、馬鹿みたく繰り返す。
ふつふつと湧くこの感情は、なんだろう。私はなにがしたかったんだろう。
勝負に負けたからだろうか、と考えて、ふと気付く。
ああ、私は、そういえば、此処に来る前は“戦車道”をしていたんだったっけ。

みんなが困っていたとき――助言をしたかったのは、どうして?
格上の戦車を倒さなきゃいけないとき――薬莢を捨てるとこ、そう言ったのは、どうして?
味方が遊園地でピンチのとき――観覧車を使えばいい、そう呟いたのは、どうして?

「逃げるわよっ、逃げるの!
 他のことなんかどうでもいい、今は生きることをまず考えなさい!!
 石に噛り付いて、泥ん中這って、生ゴミ食べてでも、生きなさい!」

紗希はアリサの声を聞きながら、小さく息を吐く。
丸山紗希の戦車道は、決して、誰かに敷かれたレールの上にあり続けていた……わけでは、きっと、なかった。
だからまだ、死にきれていないのだ。







ならば最期に、question――――――――――“それは、どうして?”







  うん、やっぱりこの人を納得させるのは無理だと思う―――ちょっと待ってよ。死にたいんでしょう、紗希!?

   死にたくても死なせてもらえそうにないから―――紗希、そんなことないよぉ〜舌でも噛めばまだ間に合うんじゃない?

    でも逃げるっていったって、そんなのどうするんだろ―――その体じゃあ無理だよね! いま手を離して突き放せば、わかってもらえるかもよ! 紗希!

     でも、死なせてくれないなら、いっそ生きてみるのはどうかな―――魂死んでる身で、そんなこと言っちゃダメだよ、紗希!

      だけどこの人、私に勝ったつもりでいるけれど、私はまだ……―――ほんっと優柔不断だよね、紗希は。そうやって手のひらクルクル返してるから、こんなことになったのに!

       そういえば、私の戦車道って、なんだっけ―――えっ?







answer――――――――“だって私、負けっぱなしは、嫌だから!!!!!!!!!!”







「……。……ぃ……き、………る」

だから、生きてやる。必死に生きてみる。
生かすことが勝利だというのなら、こうすれば、まだ、イーブンだから!!

「いき……たぃ……生きたい……っ……」

紗希がぼそりと、藁に縋るように、アリサの耳元で呟く。
その声は息を飲むくらいに弱々しくて、耳にかかった吐息は、ぞっとするくらいに冷たかった。
それが意味する悪い予感を振り払うようにかぶりを振ると、アリサは息を大きく吸い、一度だけ頷いて歩き始める。
ぽたぽたと、アリサの首筋に紗希の涙が落ちた。涙の理由は知らずとも、それが悔し涙だというくらいはアリサにも理解出来た。
背に立った爪も、鼓膜を揺らす嗚咽も、震える小さな体も、全部背負ってアリサは歩く。
前を見て、土を踏んで、鼻の穴を広げて、目を見開き、下唇を噛みながら。
目の前には、途方も無いくらいに、真っ直ぐな道が続いている。
真っ赤な炎を背に、煤を浴びながら、アリサはそこをしっかりと進んだ。
何処かへ、何処か遠くへ。ただひたすら、真っ直ぐ。
愚直に伸びた、くろがねの砲塔のように。

「……あんた、親は!」

アリサが叫んだ。

「おとーさん、ひとり」

紗希が応える。

「……。……あっそ! ……なによ。できるんじゃない、会話」

アリサは苦しそうに笑った。

「……お父さんだけなら、余計に生きなきゃダメよ!
 生きて謝りなさい。自分が友達にメーワクかけたって! 私のことも紹介しなさい。命の恩人だって。約束だからね!
 死にたいって思って自殺未遂したこと、私を巻き込んだこと、全部ちゃんと謝りなさいよ? 勿論、土下座でね!」

紗希はアリサの背に顔を埋める。金木犀の匂いがした。
香水なのかボディクリームなのかは分からないが、優しくて、懐かしくて、落ち着く匂いだった。

「いい? だからまずは生きるの。勿論生きてたら、辛いことも、悲しいことも、痛いこともあるけど。
 でもね、生きて生きて、生き抜いたんなら、それで勝ち!!
 生き抜いて、それから謝るのよ。そうしてから死になさい! 謝ってから死ぬなら止めない。私が許すわ!!
 死んだらお父さんに謝ることも、誰かと友達になる事だって、出来ないんだから! そんなのあんたが良くても私が嫌!!!」

紗希はゆっくりと瞳を閉じる。
暖かい背中だった。記憶はないけれど、うんと自分が小さな頃、こうしてお母さんに背負われていたような、そんな気がした。

「はいくらい言いなさいよ、しまらないわね。
 あのね、私だってお母さんはもう居ないの。アンタと一緒でお父さんだけよ! なんもないわよそれ以外!!
 私には、なんにもない!!!」

ふらつく足を気合いで進め、歯を食いしばりながら、アリサは吐き捨てるように言う。
なんにもないから、“何か”になりたかった。きっと誰もがそうなのだ。
そのエゴを押し付けてでも歩くのか、それを隠して生きるのか、その二択だ。
彼女達はきっと、お互いに負けず嫌いではあるけれど、そういう意味ではとびっきりの正反対。
互いの行動は互いの理解の範疇を超えていて……だから嫌い合って、だから面白くて、だから惹かれ合う。

「なんにもないのよ。友達だっていないし、頭も大して良くないし。
 隊長みたいにカリスマはないし、優しくないし、背もないし、癖っ毛だし、そばかすだし。
 すぐ怒るし、すぐ泣いちゃうし、女っ気ないし、性格悪いし、可愛くないし、ズルしちゃうし、お父さんと喧嘩しちゃうし。
 ナオミみたいにかっこよくないし、西住や島田みたいな強さだってない!」

言い切って、アリサは肩で大きく息を吸う。
そうして、もう一歩踏み出すと同時に、


「――――――――でも、まだ生きてる!!」


誰かを納得させるように、背を丸めて叫んだ。
月並みな台詞だと、自分でも感じる。
生きているからなんだっていうんだ、と頭の中でもう一人の自分が嗤った。私だって、そう思う。
漫画もアニメも小説も、ラノベも舞台もドラマも、映画もそう。
どいつもこいつも、死に損ないを見ると決まり文句みたいに“生きなさい”と言っていた。いつの時代もこれだけは変わらない。
それを薄っぺらくて陳腐な台詞だと、どこか斜に構えて見ていた自分が、まさかそのクソダッサイ台詞を言う側になるだなんて、と胸の奥で自嘲する。
だけど、と苦虫を噛み潰したような顔で一歩踏み出して、再び口を開いた。

「なんにもないけど、まだ、生きてる!!!
 それだけあればっ、喋る〈戦車道する〉理由になるでしょ!!!」

死にたい人間の身にもなれとか、死ぬより生きる方が地獄のこともあるとか、どこか斜に構えてそんな風に思っていた時もあった。
だけど、言う側になって、一つ分かったことがある。
そうじゃない。理屈なんかじゃなかった。そんな現実、知ったことか。だって私にはそんなのわかんない。
“私がこの人に生きて欲しい”、それだけだったのだから。

「あんたもまだ生きてるんでしょう!? だったら喋りなさい、喋りなさいよ!! 喋れ、喋れ! 喋れ!!!」

声が掠れるまで叫びながら、けれどもアリサは、どこか胸にあったしこりがなくなってゆくのを感じていた。
自分にとって一番フラストレーションなのは、きっと感情を出さないことなのだろう、となんとなく思う。
けれどそれは、そんなすぐ口に出る自分が嫌いという感情とはあまりに遠くて、少しだけ、笑えた。

……全部、結局は我儘で自己中心的な押し付けだとは思う。
だけど、しょうがない。しょうがないじゃないか。
そう思ってしまったら、言うしかない。すっきりするには、伝えるしかない。
だってそうでしょう。生きて欲しいと思った事に、その気持ちに、嘘なんかつけるもんか。
そのために、この口はついている。
そのために、この頭はついている。
ああそうだよ、私は、誰かと、話したいんだ!
それが、私の戦車道だから!!



「――――――――ありがとう」



ぽつり、と。
春の晴れ間に降る時雨の様に切なく、さわやかな声色で、紗希は答えた。
荒い息のまま、アリサはなけなしの力を振り絞って、笑ってみせる。
顔は、目は、前を向いたまま。声には出さず、表情だけでも笑うのだ。
一言でも、構わない。だってそれは、喋ることを諦めた少女がした立派な“会話”なのだから。
ああ、だから、自分がすべき返答なんて決まっているのに。
それを私が許さないのは、困ったものだ、とアリサは苦笑する。
やっぱり、素直じゃないのが、“私”だから。

「ふん、やっと話した言葉がそれ!? 私だけに感謝してどうすんのよ、バカ!!
 とにかく勝手に死ぬなんて許さないから!!! 聞いてんの!?
 あんたが諦めても、私は諦めない!!! 私は諦めが悪い女だから!!!!」

だから、続けようよ。
続けよう。
話そう。
私は会話が下手だし、気持ちのいい言葉を選べるような器用な人間じゃあ、ないけれど。
それでも、まだ二言くらい会話しただけ。
それじゃなんにもわかんないよ。
全部知った風な顔して、何もかも諦めたような顔して黙ってないでさ。
あんたのかわりに、私が色々ちょっかいだして教えてあげるから。
私があんたの分まで、諦めずに走るから。
ありがとなんて、やめてよ。
もうなにもかも終わりみたいじゃん。
別れの言葉みたいじゃん。
とっととかかってきなさいよ。
負けたくないんでしょう。
私に殴りにきなさいよ。
あんたの戦車道、見せてみなさいよ。



「……あっ、ちょうちょ」



紗希が力無く、呟く。
けれどアリサには、それはとても優しい声色に聞こえて。
小さな頃の楽しい想い出を喋っている時のような、切なくて、柔らかくて、懐かしくなるような声。
それが意味するものをきっとアリサは分かっていたし、紗希もまたなんとなく、自分が見たものの意味を理解していた。
一歩、また一歩、アリサは燃え落ちる町の中を進んでゆく。
そのたびに揺れる背中はまるで揺り籠のようで、紗希に少しだけ、眠気が襲った。
アリサは紗希の言葉に、ふと空を見る。
生き物なんて、煙だらけの空のどこにも居るはずがない。見る前から、解っているのに。
だからやっぱり、何もない。ぽっかりと口を開いた、空虚な曇天がそこにあるだけだ。
紗希には、けれども蝶が見えていた。
ウェディングドレスのような、真っ白で汚れ一つない無垢な蝶が。
中空を泳ぐそれを眠そうな目で追いながら、紗希は表情だけで笑うのだ。
それはまるで粉雪のように、陽に焼かれて溶けてしまいそうな儚い笑みだった。

嗚呼、飛んで往く、翔んで逝く。
手を、指を伸ばして、紗希は触れようとする。
白く可憐な、真っ直ぐに太陽を目指して羽ばたく、その蝶に。
けれど、指先を掠めて。焦げた空を舞って。
そうして蝶は太陽に届くことなく――――真っ赤な焔に、飲まれて消えた。

「……サキ、ねぇ……サキ。まずは生きるのよ。全部そっからなんだから。私達は、生きるの。何に変えてもよ」

沈黙が、数十秒。
それから暫くまただんまりが続いて、耐えかねたアリサが口を開いた。紗希は答えない。
アリサの背中を、温い血が流れている。一歩進むたびに背筋を垂れ、足を伝って、地面に滴った。
進むたびに何か大切なものを喪っているようで、アリサは酷い吐き気に襲われた。

シャツが鮮血でねっとりと肌に張り付いている。
口の中はからからに乾いている。
前髪が汗と油で額にくっついている。
がらがらがら。丸山紗希が居た町が、音を立てながら崩れ、黒いゴミの塊に変わってゆく。
虎が唸るように荒ぶる真っ赤な焔が、天へと昇る。昇る、昇る。

「聞き逃した放送の情報誰かから貰って、チームの名前だってちゃんと決めなきゃ。
 そう……そうよ! 今更だけど私達でチーム組むんでしょ!? 当たり前よね!?」

アリサが口調を強めた。紗希は答えない。
背中にずっしりと、力の抜けた、いのちの塊がのしかかる。
華奢な女の子一人といえど、背負って歩くにはそれなりの気合いと力が必要だ。そもそも、アリサは手負いだった。
膝が笑っている。骨が軋んでいる。筋肉が悲鳴を上げている。乳酸が太腿に溜まっている。関節が震えている。
額から吹き出した汗が流れて、顎を伝ってアスファルトに弾けた。
歯を食いしばって、拳が白くなるくらいに握って、死に物狂いで前に進む。
生きなければならない。生かさなければならない。

「それとも何? まさかあんた私を一人にする気じゃないでしょうね!? 許さないわよそんなの!!
 私達はもうトモダチなんでしょ!? あんたトモダチ残して死ぬつもり!? 冗談でしょ!?
 トモダチなんだからもっと色々話すのよ! 私だってあんたのこともっと知りたいし!
 最初も言ったけど、これからよ! 全部、これから!
 好きな物や趣味や、恋愛の話も! 色々するんだから!
 それで、それでねっ」

下の根が乾かぬうちに畳み掛けるように言って、アリサは一旦、息が上がりそうになって空気を唾ごと飲んだ。紗希は答えない。
まだまだやりたいことがある。
沢山話したいことがある。
色々怒りたいことがある。
ぜんぜん、全ッ然、やれてない。
これっぽっちも出来てない、少しも足りてない。
これからだった、これからだ、これからだったのに。

「それで――――――来年は本気で戦うのよ!
 ズルは無しの真剣勝負よ! 首を洗って待ってなさい! 今度はうちが勝つから!
 大洗なんかもう秒殺通り越して瞬殺、いや刹那殺よ! 今に見てなさい、コテンパンにしてやるわ!」

アリサはだらりと垂れた足をぎゅうと握って叫んだ。紗希は答えない。
来年。来年といえば隊長は誰がやるのだろうとアリサはふと思う。

……私? いいやそんなガラじゃない、皆がこんな程度の低い人間についてくるとも思えない。
やるならナオミだ。ナオミなら皆も一目置いてるし、実力もあるし、同性にもモテるし、信頼だってされている。
あれ、そういえば今日はまだ何も食べてないな。お腹が減ったな、レーションはなんだったかしら。水もそろそろ飲みたいな。
ハンバーガーが食べたいな、アボカドとパイナップルが入ったやつ。この前はスーパーギャラクシーの中で隊長に食べられて、ちょっと嫌だったし。
コーラも飲みたい、コーラはダイエットコーラじゃない方が私は好きだ。製氷機に入れて凍らせたやつが好きで、夏はよく家で食べてたっけ。
ナオミはいつもルートビア飲んでたな。あれのなにが美味しいのか私にはさっぱりだ。
ああ、疲れたな……早く、うちに帰りたい……。ごめんね、お父さん……。

アリサは汗をダラダラとアスファルトに垂らしながら、そうしてなるだけどうでもいいことに頭を回した。
背中を流れる血は止まらない。靴の中まで真っ赤な血が掻き乱して、底の無い沼の中を歩いているような気分になった。
逃げなければならない、と思った。……でも、どこへ?
目の前がだんだん真っ赤になる錯覚。足元のアスファルトがぐにゃりと歪んで、足がとられて落ちてゆく。口の中に蕩けたモルタルが注がれる。
苦しい、辛い、やめたい、嫌だ、逃げたい。
嗚呼でも果たしてこの町に、逃げ場なんてものがあるのだろうか?

「だから生きて!! サキ!!! お願い、生きて! いきてよ! 死ぬな、しぬな、しぬなしぬなしぬなッ!! いぎろッ!!!」

アリサはがらがらの喉を潰しながら、気力だけで叫ぶ。紗希は答えない。
背中が冷たい。足が縺れる。視界がぼやける。息がうまく出来ない。
限界が近かった。自分の体のことは、自分が一番知っている。人間一人担いで走って運べるほど、彼女には力がなかった。
サンダースの日課のマラソンとトレーニングをきちんとやっていればそれなりの力はついたはずだが、アリサはよく仮病でそれをサボっていたのだ。
ケイやナオミの様なバケモノ体力には、彼女はとてもじゃないが、ついていけなかった。
いつもはそう感じていたが、今になってみればもっとちゃんとやっておけばよかった、とアリサは思う。
身体中の関節が、筋肉が、臓器が、悲鳴を上げていた。
誰かの為に何かをするだなんて、アリサは自分で自分が信じられなかった。

今していることに、一体なんのメリットがあるのだろう? ふと、アリサの頭の中で何者かが小首を傾げる。
このコミュ障の死に損ないを捨てて私だけ逃げれば、私だけは絶対に助かるよね? 頭の中のそいつが眉一つ動かさずに言った。
黙れ! アリサは喉の奥で眼を血走らせながら叫んだ。
鼓膜の内側から、けたけたと小馬鹿にするような笑い声が聞こえる。
五月蝿い、煩い、うるさい!

「ちょっと、まただんまり? ちゃんと聞いてるんでしょうね。ねえサキったら」

アリサが訊く。紗希は答えない。
次第に、足が進まなくなってゆく。アリサは少し休憩しようかと思ったが、それでは彼女を降ろさなければならない。
……降ろさなければならない? アリサは訳もわからず、自分の言葉を反芻した。
降ろせばいいじゃないか。少し休憩して、また歩けばいいだけの話だ。
疑問が浮かぶと同時に、不意に息が荒くなる。考えてはならないことだと、本能が警鐘を鳴らしていた。
いつの間にか、ばくばくと心臓が飛び跳ねている。気分が悪くなったので、それ以上考えるのをやめた。

「もう、まったく、口数が、少ないのも、大概に、しなさいよ」

アリサが呟く。紗希は答えない。
足を静かに止めて、つま先に視線を落とす。ブーツの先まで、血で真っ赤に染まっていた。
湧き上がる感情に、表情が崩れそうになる。砕けてしまいそうな何かをぐっと堪えて、鼻水を啜った。気付けば視界がぼやけていた。
背中がぎくりとするくらい、冷たかった。紗希から流れ出た大量の血が、アリサの背後に道を作っている。
息が荒くなる。酸素、酸素が足りない。アリサは口をぱくぱくと動かした。空気を求め水面に浮かぶ金魚のようだ。
腕に入っていた力が、ゆっくりと抜けていく。
紗希を背中から降ろしたくない気持ちとは裏腹に、見なければならない現実がアリサの頭の中をきりきりと締め付ける。
やめろ、やめろ! 頭の中で誰かが叫んだ。

「ねえ。サキ、サキ……」

アリサがかぶりを振りながら言う。紗希は答えない。
大粒の涙が、アリサの瞳からぼたぼたと溢れてくる。地面に跳ねて、血溜まりに滲んだ。

「……ねえ……。何か、言ってよ……。言ってくれなきゃ、わかんないわよ……」

アリサが膝を折りながら、縋るように呟いた。紗希は答えない。
ゆっくりと、おんぶしていた腕を解く。二の腕がずるりと力無くアリサの腕から落ちた。
視界に紗希のだらりと伸びた手が映る。白く綺麗な手。蝋人形のような、血の気の無い手。
目眩がするような光景に、アリサの視界はぐらりと揺れた。
震える手でその指を握り締めて、アリサはそこで初めて、ぞっとするような肌の冷たさに気付く。
全てを理解したアリサの全身に、氷水をかけられるような戦慄が走った。

「………サキぃ……」

嗚咽交じりに、消え入りそうな声が溢れる。紗希は答えない。
本当は知っていた。呼吸が聞こえなくなったこと。だんだん冷たくなっていったこと。
背から降ろせば、その意味と向き合わなければならないこと。
血溜まりの中、アリサは大口を開けて涙を流した。嘘のような涙が、ぼろぼろと瞳から溢れる。
煙の向こう側から、僅かに光が漏れた。アリサの背の上で、幸せそうな死に顔が、太陽に照らされる。
無口な少女の物語は、そうして、幕を下ろすのだ。
最後まで想いを語り尽くさず、けれども大切な想い出を抱いたまま。

ここは自分の故郷に似た、よく出来た偽物の世界だと、丸山紗希はかつて思った。
されどその笑顔だけは紛れもない本物で、救いの証だったのだろう。

……夏が終わる。

汗と泥と油にまみれて、掴んだ大きな優勝旗。友と乗り越えた思い出、戦い。
青空、飛行機雲、蝉時雨、風鈴の音に流しそうめん。キンキンに冷えた麦茶に、塩を振りかけた真っ赤なスイカ、シロップ多めのかき氷。
もろこし畑には紋白蝶が飛んでいて、遠く聞こえる蛙の合唱、鳩の歌。
夕暮れ時はすこし肌寒くて、ひぐらしの声は切なくて。ふと見上げた茜色の夕焼けは嘘みたいに綺麗で、言葉を失った。
夜のとばりが降りてきて、線香花火が弾けたならば、打ち上げ花火が闇夜に上がる。ぱあんと弾けて、流れ星。瞬く星は一瞬の夢。
提灯の中に小さな満月が浮かんでいる。小さな出店、友と巡れば色恋沙汰で盛り上がる。
祭囃子が流れてくれば、盆に踊るよ人の波。真夜中の駅のホーム、電車が来ないことは知っているのに、少し座って何かを待った。
黄昏、星空、青春、大洗。親友、うさぎ、戦車道。涙と汗と、パンツァージャケット。火薬の匂いと、鉄の質感、涙の味。

終わる、終わる、終わる。

彼女の夏が、しじまに終わる。












もう二度と―――――――――――――――――――――――――――――――――丸山紗希は、語らない。












【丸山紗希 死亡確認】

【残り 25人】




【C-4・民家前/一日目・昼】

【アリサ@フリー】
[状態]顔全体に火傷と裂傷 深い悲しみ
[装備]血の飛んだサンダースの制服
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:わからない。
1:置いて、行かないで。

[備考]
二人の支給品は近くに転がっています。

【☆アッサム@イングリッシュブレックファースト】
[状態]左側背中に軽いやけど 覚悟?
[装備]制服 支給品(組み立て前ジャイロジェットピストル 5/6 予備弾18発) 支給品(ツールナイフ)モーゼルC96@カエサル支給品
[道具]基本支給品一式(スマートフォンは起爆装置化している) 支給品(M67 破片手榴弾×9/10) 無線機PRC148@オレンジペコ支給品 工具
[思考・状況]
基本行動方針:『自分たち』聖グロリアーナが、生き残る
1:もう、ノイズを挟んだりしない?
2:後始末を行う。
3:ダージリンとの合流を目指すが、現時点で接触は目的としない。影ながら護衛しつつ上の行動を行いたい。
4:病院、ホテルなど人が集まりそうな場所へ待ち伏せし撃破したい
5:スーパーでキャンプ用品や化粧品売場、高校の科学室で硝酸や塩酸他爆薬の原料を集め時間があるなら合成する
6:同じく各洗剤、ガソリン、軽油など揮発性の毒性を有するもの・生み出すものを集める
7:ターゲットとトラップは各人のデータに基づいて……

【ローズヒップ@フリー】
[状態]健康
[装備]軍服
[道具]基本支給品一式 不明支給品-い・ろ・は
[思考・状況]
基本行動方針:ダージリンの指揮の下、殺し合いを打破する
1:今は何も考えられない


【C-4・アパートビル/一日目・昼】

【オレンジペコ@イングリッシュブレックファースト】
[状態]健康 深い喪失感と虚無感 
[装備]制服 AS50 (装弾数2/5:予備弾倉×3 Mk.211 Mod 0) 不明支給品(ナイフ)
[道具]基本支給品一式 支給品(無線機PRC148×2/3及びイヤホン・ヘッドセット)
[思考・状況]
基本行動方針:『戦争は誰が正しいかを決めるのではない。誰が生き残るかを決めるのだ』……ラッセルですね。イギリスの哲学者です。
1:『もし地獄を進んでいるのならば……突き進め』……チャーチルですね。
2:『戦争になると法律は沈黙する』……キケロですね。
3:『なに人も己れ自身と同レベルの者に先を越さるるを好まず』……リヴィウスですね、そうでした。
4:『自分の不完全さを認め、受け入れなさい。相手の不完全さを認め、許しなさい』……アドラーですね。私だって……
5:『理性に重きを置けば、頭脳が主人となる』……、…………カエサルですね。
6:『人間は決して目的の為の手段とされてはならない』……カントですね。…………ごめんなさい
7:『徳なき恐怖は忌まわしく、恐怖なき徳は無力である』……ロベスピエールですね。私は……
8:『カーテンをおろせ、道化芝居は終わった』……ラブレーですね。……もう終わりにしましょう。


【C-4・???/一日目・昼】

【ナオミ @フリー】
[状態]健康
[装備]軍服 M1903A4/M73スコープ付 (装弾3:予備弾10) スペツナズ・ナイフ
   ワルサーP38(装弾7:予備弾0) ドイツ軍コンバットナイフ(WWⅠ)
[道具]基本支給品一式×2 不明支給品(その他×2) チューインガム(残り8粒)
[思考・状況]
基本行動方針:サンダースの仲間を優勝させるため、自分が悪役となり参加者を狩る
1:???
2:愛里寿と桃を殺す






登場順
Back Name Next
042:太陽に身を焦がす アリサ -:-
042:太陽に身を焦がす 丸山紗希 GAME OVER
042:太陽に身を焦がす アッサム -:-
042:太陽に身を焦がす オレンジペコ -:-
042:太陽に身を焦がす ローズヒップ -:-
033:搭乗人数制限有 ナオミ -:-

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最終更新:2019年05月01日 12:59