ハッピーエンドを目指して ◆5ddd1Yaifw
深緑の森に一人の少年が存在する。オレンジ色の髪に、ブレザーの制服とスラックス。
少年、音無結弦はぼーっとただその場に立っていた。
「今度は何だよ? 殺し合い? どうして?」
自分が現在進行形で巻き込まれている事態に頭が適応しない。
「巻き込まれる覚えなんてないぞ……」
それに、どうやって連れてこられたなど知る由もない。ただ夢ではないということは音無は理解はできた。
(これもまたゆりのミッション絡み……リアリティ重視のやつか?)
ついさっきみた名簿には死んだ世界戦線の主要メンバーがほぼ揃っていた。
ならこれはいつものミッションと同じなのではないか?
あの解説の天使の男と最初に死んだ女の子はゆりが用意したNPCであろう。
音無はひとまずそう仮の判断をした。
(だけど最後に残るのは一人だけか……いくら生き返るとはいえ感じが悪いな。仲間を殺すなんて……)
このミッションのクリア条件は最後のひとりになること唯一つ。
イコール、此処に呼ばれている他のメンバーとも争わないといけないわけだ。
それ以外にも名簿にはたくさんの名前があった。死んだ世界戦線はここまで大規模だっただろうか?
加えて、自分達のリーダーであるゆりがこんな仲間割れしそうなことをするのか?
メリットよりデメリットの方が多いと音無は感じた。
そこに一握りの疑問が残る。だが、考えてもわからないのは仕方がない。一旦その思考を止めた。
「幸いのことに俺にはちゃんとした武器が配られたようだな……さすがに悪ふざけでハリセンとかだったら困る」
音無が手に持つのはずっしりとした重さを感じさせる黒光りのする金属の物体。
コルトパイソンというリボルバーだ。
(コルトパイソンか……欲を言えばアサルトライフルとかサブマシンガンの方が良かったんだが。まあ仕方が無いか)
はぁとため息を吐きながら付属で付いてきたホルダーを腰につけてコルトパイソンをそこに差す。
いつまでも此処にとどまってはいられない、何にしろ人を探さないと始まらない、そう思い森の中を音無は歩き始めた。
(誰もいないな、120っていう大人数なんだからそろそろ人とあってもおかしくはないと思うんだが)
歩いても歩いても人が見つからない。あるのは頭上から照る太陽の光と延々とそびえ立つ木々のみ。
これはやっぱり夢なんじゃないのかと再び考えはしたが、地面を踏みしめる感触も草木の匂いも本物だ。
頬をつねってみても普通に痛い。頭の思考もクリアだ。
「本当にこれは現実……なんだよな……」
いくらたっても何も起こらない現状に疑問を覚える。周りを見ても人の影は見られず、辺りは静寂を保っている。
(もうしばらく歩いてみるか……)
そして歩いて数分後、音無はやっと人を見つけた。
「っ……やっぱり夢じゃねえのか」
人は人でも死人であったのだが。音無が見たのは黄色のセーラー服の少女――藤林椋が生を終えていた姿だった。
仰向けに倒れているその様からは顔など見れないが、ポッカリと真ん中に空いた傷から即死と判斷。
胸から流れ出していた血は固まっているが、血のむせ返るような鉄臭い匂いはまだこの辺りに残っていた。
周りにあるおせちは血飛沫が飛び散っていてとてもじゃないが食べる気が起きない。
「最も、死人の近くで食欲なんてわかないけどな」
直に復活すると音無は思い、そのままにしておこうと――
「おい……ちょっと待てよ……!」
足を止めた。
おかしい。何かがおかしい。引っかかることが音無にはあった。
(血が固まっているってことはそれなりに時間が過ぎたって事だよな? そしたらもう復活してもおかしくないはずだ)
そして音無は確認として椋の身体を触ることでますますその疑問を深くする。
(死後硬直が始まっている、嘘だろ……こいつ本当に“死んでる”じゃねえか!)
生気が感じられない顔、傷口の痕の部分の変色、血の乾き、死後硬直、死後の世界で見たことがない制服、名簿の人の多さ。
頭の中でピースが組み合わさっていく。
(これは……ミッションじゃない!? この子は“生きていた”?)
音無は先程のこの殺し合いがミッションだという仮説を破棄し、これが本当の殺し合いだという仮説に変更する。
(じゃあ俺らはどうなる? もしかして!?)
この子が“生きていた”とするなら自分達も“生きている”。まだ仮説ではあるが信じる価値は十分ある。
音無は思わず顔が綻んでしまう。もう一度やり直せるかもしれないという希望を考えてしまったから。
(だけどそのためには――)
ここに居る自分以外の人間を皆殺しにしなければならない。それも“生きた”人間を殺すのだ。
「出来るわけねえだろうがっ!!」
自分の根幹たる意志が許さない。無論、生きて帰りたいとは音無は思った。それでも駄目だったのだ。
妹である初音の死をきっかけにこの身体は他人のためにと誓いを立てたから。
どうしても破れなかった。
――――あの■■い■■での■のように――――
それは一種の“呪い”としてこびりついている。
自分の幸せのために他人を犠牲にするな。お前に幸せになる権利はない。
ある種の強迫観念じみたものだ。だけど、空っぽだった音無がやっと見つけた生きるための“呪い”――人を救うこと。
今更この“呪い”を消すことなんてできない。
「俺は、救わないと。一人でも多くの参加者を」
人を救う過程では当然この殺し合いに乗った人物との戦闘もある。
音無はもう殺し合いを楽観視していない。
乗る参加者の方が多いこともあると最悪の仮定はしている。
「だけど人を救うためには殺すのも覚悟しないといけない、か。矛盾しているな、人を救うために人を殺すなんて」
そして音無は歩き始めた。ここからは行動有るのみ、振り返る必要はない。ただ前を向いて走るだけ。
「俺の一回だけの命……この使い方でいいんだ」
目指すは多くの人がここから生きて脱出をするハッピーエンド。
そこにあるのは多くの笑顔。
しかしそのヴィジョンに――
「例え、最後は孤独の中で死んだとしても」
――音無の姿はない。
【時間:1日目午後3時00分ごろ】
【場所:F-7】
音無結弦
【持ち物:コルトパイソン(6/6)、予備弾90、水・食料一日分】
【状況:健康】
最終更新:2011年09月06日 17:29