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Dead of Alive? ◆BnSvfzqr5c



「ぎゃああああああああっ、いやあああああああああ!!!!」
「ぎゃああああっ、きゃああああああああ、なのれすぅ!!!」

お気楽極楽騒がし乙女、三枝葉留佳。
来栖川重工によるメイドロボ、HMX-17cシルファ。

姦しい二人の乙女は、現在奇声を発しながらも北へ爆走中であった。

というのも、事の起こりは少し過去へ遡る。

     ※


「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」

葉留佳は、荒い息を吐きながら大の字になって道路に寝転がっていた。

「はぁっ、はぁっ、このはるちんとしたことが、自分の限界を見誤るたぁっ。先が思いやられるぜ…っ、はぁっ、しんどっ」

メイドロボなどとい奇跡の技術の産物であるシルファと出会ってしまった葉留佳。
ひとりが淋しかったのもあるが、こんなユメのカタマリと出会ってしまっては、はるちんハートがオーバーマンしてしまうのも仕方のないことなのである。

(「アグ○ス!ア○ネス来いよ!神をも恐れぬ者がここに居るぞぉおおお!!」)
(「なんだこのおっぱいはぁああ!ワタシのものを超えているだと、しかもこの柔らかさはなんだぁあああ…!!」)
(「一家に一台、一家に一台シルシルをぉおお!なんでウチにないのこれぇ!!」)

と、しばらく奇声を発し続けていたが、慣れない地、慣れない状況、そして銃を乱射した疲れもあり、ついにはるちんマックスパワーも限界を迎えたのである。

そして、

「うっ、うっ、うぅ…。もうお嫁にいけないのれすぅうう…っ」

件のメイドはすすり泣いていた。
よほど揉みくちゃにされたのだろう。服が少しはだけ、ブラの肩ひもが少し見えていた。

「でもちょっと気持ちよかったでしょ」
「Σっ、ななななななにをいってるれすかぁああっ!!」

ちょっと図星らしかった。

「はぁっ、いひひひひ」

シルファの隣で笑う葉留佳は未だに息を切らしている。
しかも年頃の女子が野外でスカートを履いて大の字になって寝転んでいた。
乱れまくったスカートからはパンツが丸見えだった。
ちなみにストライプである。

「ぅううううう、はるはるはいぢわるなのれす…」
「ひひひ、ごめんねぇ!」

謝りながらも口調は快活で、悪いとは到底思ってなさそうな感じだった。
しかし、汗まみれになりながらも笑う葉留佳の顔はとても楽しそうで…。
それが心を解すキッカケだったのだろうか。

本来人見知りなはずの、
それが転じて、矯正まですることになった気弱な女の子だったはずの、
シルファの心には、もう既に葉留佳を疑ったり怖がったりする気持ちは、とっくに無くなっていた。

「ひひひ」(←手をワキワキさせている)

嘘でした。
セクハラを怖がる必要は、まだあった。

「ねぇ、シルシルはこれからどうすんの?」
「え…?」

葉留佳の方を見れば、やっと息が落ち着いたのか、上体を起こして埃を払っていた。

「わたし…れすか?」
「そう。わたしはさ、友だちやお姉ちゃんがいっしょに連れて来られちゃったみたいなんだ。
だから、みんなを探しに行こうと思ってる。シルシルはどう?知ってる人いない?」

いる。
大事な姉と、ご主人様が。
今頃どうしているのだろう。自分は葉留佳に会えたからいいが、怖い人に襲われたりはしていないだろうか…?

そう考えると、凄く怖く思えてきた。

「そっか、いるんだ…」

コク、コクと頷きを返すシルファ。
葉留佳にもこの頃には、落ち着きを取り戻していた。
シルファを守ってあげたいと思うくらいには、珍しく思考もシリアスになっていた。

「ならさ、わたしといっしょに行こうよ!
 ほら、ふたりでいれば寂しくないじゃん!」

「………め、迷惑じゃないれすか…?」
「へ、なんで?」
「れ、れってわたし、こわがりらし、なんにもれきないし…!」

「いやその理屈はおかしい」
「へ、な、なんれ」

「全男子のロマンたるメイドロボが何言っとるかぁあああああ!!!!
 存在そのものが至高!究極!理想!
 そんなありとあらゆるユメが詰まった存在が迷惑?ちゃんちゃらおかしいわああああ!!!」

葉留佳は、目がマジだった。

「ひぃっ!」

シルファは、本気でビビった。

「わたしはシルシルが居てくれるだけでうれしいよ!
 だから、そんな心配しなくていいの!そうと決まれば行くですヨ!荷物荷物!」
「は、はいなのれす!」

そう言って、葉留佳は89式などの荷物を拾い始めた。

(ありがとうございますなのれす、はるはる…)

そうしてシルファも荷物をまとめ始めるのだが、

(あ、箱…)

そう、シルファが葉留佳と出会った時に被っていたダンボール箱が無かった。

シルファは対人恐怖症である。
そのため、引きこもり先としてのダンボールは彼女にとって必需品なのである。

(箱、箱…。あれがないのらめなのれす…、あ…)

少し辺りを見渡すと、ダンボールは少し離れたところに転がっていた。
葉留佳との邂逅イベントのせいで動きまわったため位置が離れ、
その上に相当イタズラされたためにもう既にボコボコになっていた。

(いくらはるはるとはいえ、ちょっとこれはひろいのれす…)

と頭の中でボヤきつつも、大事な大事なダンボールのために歩き出すシルファ。

しかし、

(え、だれれすか?)

シルファのダンボールを新たな人物が拾い上げた。
長い銀髪に赤い瞳、ブレザー・スカートという女学生らしい出で立ちだ。

もう一度言う。現時点で、ダンボールはシルファに取って必需品である。
しかし、現状唯一のダンボールは、自分の苦手な見知らぬ人に拾われてしまった。

(あ、あれがないとわたしはらめなのれすっ!!)

ダンボール。見知らぬ人。葛藤。

(箱…、で、でも…っ!)

見知らぬ人。ダンボール。やはり葛藤。

(知らない人なのれす、でも箱…っ!)

そして。

「そ、その箱はわたしのなのれす、返してくらさい!」

ここで確認しておこう。
今現在、この島ではバトルロワイアルが行われている。
シルファも、三枝葉留佳も、当の見知らぬ人物も参加者であり、
実感こそ無いものの、シルファも葉留佳もそのことは弁えているつもりだった。

何故、見知らぬ信用できない人物に。
何故、他ならぬ人見知りのシルファが声をかけてしまったのか。

この事態の結末として、シルファとダンボールを拾った人物の目が合った。

そして、闖入者がぼそりと呟くのをシルファは見、聞いた。


「ガードスキル。ハンドソニック」


シルファの箱は、真っ二つになった。
シルファはそれを見た瞬間。悲鳴を上げた。
葉留佳は荷造りを終え、それを聞いた。
シルファが反転し、闖入者も同時に駆け出した。
葉留佳は二人の姿を確認し、やはり悲鳴を上げた。
シルファと葉留佳は逃げ出した。
闖入者はそれを追いかけた。

闖入者の名を、立華奏と言った。
葉留佳とシルファは彼女がHarmonicsという能力による分身であることを、
今はまだ知らない。


――そして時は動き出す――




――よく、考えてみよう――

音無結弦は、思考の海に沈んでいた。

まず、今までの経験からして俺や戦線のメンバーが死者であることは確実だ。
ほぼ全員に自分の死んだ時の記憶があるし、自分が世界にとどまっている理由――
未練がなんであるかを理解している者も多い。

すなわち、少なくとも俺や、巻き込まれているSSSの連中は「死者」だ。


次に、先ほどの少女のことを考えてみよう。

結論から言って、あの少女は確実に死んでいた。
死後硬直も確認したし、既に血も乾ききっていた。
そう、あんなに大量の血が完全に乾いていた。

俺たち死後の世界の人間は、死んでもしばらくすると生き返る。
死んだ時の身体の損壊度や程度差はあるが、だいたい数十分程度で身体に関しては完治する。
少なくとも、あんなに大量の血が乾くまで生き返らないということはない。

つまり、俺たちの基準で考えてみれば、あの状態はありえない。
そして同時に、あの少女が再び息を吹き返す可能性は、ほぼ無い。

ここまでは先ほども考えた通りだ。


あの天使のような男は俺たち120人に「最後の一人になるまで殺し合いをさせる」と言った。
なら当然、俺たちのような死後の世界の人間も死ねば生き返ることはないのだろう。
これはゲームなのだ。なら、キャラクターの「ステータス」はある程度統一させるはず。
仮に、死後の世界のように「蘇生」がアリなら、あの少女もとっくに蘇ってるはずなのだ。

ここで疑問が生じる。
俺たち死後の世界の住人が、今この場でだけ真に「死に直せる」のはいいとしよう。
だがそうして「死に直した」場合、何処に行くことになるのか。
まさか、そのまま元の死後の世界に行くことはないだろう。
しかし、今度こそ消滅する、というのも素直には頷けない。
死後の世界では、もう死んでるためにこれ以上死に様がないから蘇生するのである。

また逆に、死後の世界の住人が優勝した場合、何処に帰ることになるのだろうか。
元の死後の世界の帰るのか。説得力はあるが、仮定を信じるなら俺は今「生きて」いる。
それで優勝して死後の世界に戻るのなら、それこそ「死に直し」ではないか。
それともまさか、現実で死ぬ前に戻るというのか?それこそナンセンスだろう。

やはり、この場所について正しく知る必要がある。
死者が住むから「死後の世界」であって、生きている者が住むから「生前の世界」だ。
規格は合わせる必要がある。
ここが「死後の世界」なら、蘇生ができないように「設定」されている。
ここが「生前の世界」なら、俺たちは一時的に生き返らされている。
現時点では後者の線が濃厚だが、前者の可能性もある。


それに、気がかりなこともある。
俺の仲間、つまり死んだ世界戦線のメンバーは、この「蘇生不可」について気付いているのだろうか。
俺は運が良かった。たまたま死後ある程度経過した遺体を見つけることが出来のだから。
さらに、俺自身が生前の経験からそれなりの医学知識があるのも幸いした。

だが、全員がそうは行かないだろう。恐らく、多くの仲間はこのことに気づいていない。
根は良いヤツらなのだから、基本的には大人しくしているだろう。
しかし、「どうせ死んでも生き返る」と思い込み、誰かを殺している者がいるかもしれない。
最悪なのは、「死後の世界」を証明するために自殺するパターンだ。始末が悪すぎる。
「蘇生」情報を元々生きていた人間に吹聴するのもマズい。異常な状況だ、信じてもおかしくない。

ただ、この「蘇生不可」は、このゲーム限定だということも考えられる。
元々生きていた人間がこれほどいること、わざわざこんな舞台を用意してること、
手間がかかり過ぎていることを考えると、「蘇生不可」が一時的なものとは思えない。
だが、可能性の一端としてあり得るなら、こう考えるヤツもいるかもしれない。

とにかく、軽弾みな行動はあらゆる意味で危険だ。誰よりも命が軽い俺たちだからこそ。


まずは、なるべく多くの仲間を見つけ、蘇生が不可能なことを伝えなければならない。
特にゆりだ。俺たちの中で最も神を憎悪している彼女が蘇生が不可能なことを知らなければ、
それを保険にかなり無茶なことをしかねない。

次に、このゲームに関する真実を見つけなければならない。
ここは生前の世界なのか。死後の世界なのか。それとももっと別の場所なのか。
今俺たちは生き返っているのか。それ以外の人間は死んだことになっているのか。
死んだことになっているなら、何故死後の世界のように蘇生ができなくなっているのか。
ゲームに優勝したら、本当に帰れるのか。
俺たちのような死後の世界の住人が優勝した場合、「帰る場所」は何処なのか。

より多くの参加者を帰すためにも、正しい情報と信用できる仲間が必要だ。

こうして思考をまとめ、締めくくろうとした、その時だった。

「ぎゃああああああああっ、いやあああああああああ!!!!」
「ぎゃああああっ、きゃああああああああ、なのれすぅ!!!」

耳を劈くような叫び声が聞こえた。

(悲鳴?女の子が追われてる!?)

即座に音無は意識を現実に戻し、悲鳴の方向を確認する。
見ると予想通り、女の子二人がまた別の女性に追いかけられていた。
しかも…

(追っている方…あれは奏!?いや、目が赤い…ハーモニクスか!!)

SSSのメンバーでこそないが、同じ死後の世界の住人である天使・立華奏。
彼女には「Angel Player」というPCソフトを用いて「ガードスキル」という、
魔法にも似た特殊技能を使うことができた。

その中のひとつ、「ハーモニクス」。
これは使用者である奏と瓜二つの分身を作り出すことのできる能力だが、実用化には至らない

未調整のスキルである。
特殊状況下で発動すると、本人にも制御不能な暴走状態の分身体が発生する。

(でも何で…。ハーモニクスは十秒経つと自動でアブソーブが発動するはず…)

「ハーモニクス」と対になるガードスキルが「アブソーブ」である。
「アブソーブ」には「ハーモニクス」で発生した分身を吸収・消滅させる効果がある。
しかしこちらも未調整で、「ハーモニクス」発動の10秒後に自動で発動するようになっているはずなのだ。
しかし、今もあのハーモニクスは動き続けている。オリジナルの奏の姿も見えない。

(奏に何かがあったのか?いや、それよりも…!)

かなり長い距離を走ってきたのか、既に追われている二人には疲れが見えていた。
特に、先導の少し後ろを走る金髪の少女。
こちらは足元も覚束無くなっているようで、今にも転びそうだ。


助けに行かなくてはならない。

過去に。
自分に。
そう、誓った。

(よし、行くぞ。いつかのようには行かないぜ、分身!!)



「ぎゃああああああああ、はぁ、はぁ、はぁっ!!」

なんだろう、今日はよく息を切らせる日だ。
やっぱり本当なんだ、バトルロワイアルって。
こんなことならさっきあんなにはっちゃけなければ良かったかも。
いや、でもアレは浪漫の塊…これで騒がないとは漢じゃねぇっ!!
…ともかく。

わたしたちは追われていた。

「きゃあああああ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、もう、らめなのれすぅっ!」

シルファにも限界が近付いているようだった。
いくらロボだとは言っても、こんな子が体力がありそうには思えない。
運動慣れしてる自分に付いてくるのはやっぱり辛いだろう。

それにしても。
そう思いながらもシルファの手を引き、ちらりと後ろを振り返る。

「………」

無表情。
恐ろしいほどの無表情だった。
猛スピードでこちらを追っているにも関わらず、汗ひとつかいていない。
追っ手は人形らしい整った顔立ちの女の子で、まるで天使みたいに可愛かった。
しかし、この状況と、彼女の袖から覗かせる剣は、彼女を死神に見せるのに充分だった。

隣を見る。

「はぁっ、はぁっ、はあっ!!」

シルファはもう息も絶え絶えという感じだった。
限界は、近い。

(あっちゃー…。
 これは逃げ出しちゃったのがまずかったんデスかね?
 うわぁああああ、あの子全く止まる気無いよぉおおおおお)

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ…」

シルファはもうじき限界だ。
かく言う自分も、長くはもたない。

(フフン、こういう時こそだね!
 はるちぃぃぃぃぃん、マァァアアアアックスパゥワァアアアア!!)

「シルシル!」
「はぁっ、はいなのれす!」
「わたしが合図するから、1、2の、3で止まるよ!」
「えぇっ!本気れすかっ!?」
「いや、はるちんとしたことが…。コレがあるのを忘れてマシタよ!」

そうして目配せしたところには、89式5.56mm小銃。
日本の豊和工業が開発し、陸上自衛隊なので採用されているアサルトライフルである。
先ほどハイテンションで乱射しまくっていたが、かなり強力な部類に入る火器である。

「なるほろ…。えっ、れも、撃つんれすか!?」
「大丈夫大丈夫!さっきいっぱい撃ったし、当たらないようにはするって!」

つまりは威嚇射撃である。
合図と同時に停止と反転。
その際に、後ろの少女に向かって威嚇射撃することで停止を促す。

未だシルファは不安そうな顔をしているが、自分も彼女ももう余裕なんて無い。
目配せをしてやると、ようやくシルファも覚悟を固めたようで、頷いてくれた。

「それじゃ、行きマスヨ!1!」
「2!」

「「3!!」」

合図と同時に全力で慣性に逆らい、真後ろの少女に相対する。
葉留佳は持ち前の運動神経を用いて、重い89式をなんとか構えようとしていた。
が、
しかし。

ガッ!

という鈍い音と共によぎる嫌な予感。
それを振り切るようにシルファがいるはずの隣を見る。
何故か、頭の位置が低い。
それもそのはずである。
だって。

今まさに、シルファは躓いて地面に激突しようとしていた!!!!

「シルシルーーーーーーーーーっ!!!?」
「いやーーーーっ、はるはるーーーっ!!」

そして葉留佳が気を取られた一瞬。

「ガードスキル。ディレイ」

襲撃者は再びぼそりと呪文を呟いた。

「あいらっ!!」

ゴチンとシルファが地面とキスしたのと同時。

「…えっ!?」

襲撃者の姿は消え。

「!?はるはるっ!!」

シルファが倒れている場所とは反対側。
葉留佳の斜め後ろへと潜り込んでいた。





この分身の奏も、実のところは相当疲れていた。
死後の世界での歴戦の強者、立華奏の写し身だけあって運動のスペックは高かったが、
同時に奏の分身である以上、生物的な限界は存在したのだ。

それでもしつこく二人を追い続けていたのは、二人が逃げ切るのを諦めるのを待ち、
止まる、もしくは振り返ったところをガードスキル「ディレイ」で追い詰めるためだった。
もちろん殺すつもりはない。あくまで分身の目的は殺し合いを助長することにある。
だからこそ、この一瞬のために追いかけっこを続けてきたのだ。

まあ、片方がコケるとは思わなかったが…。
おかげで思ったよりも距離を詰めることができた。
これでこのまま、この女の腕の一本は頂戴しよう―――。

そう思い、ハンドソニックの右腕を振り上げた時だった。

パァン!!!

一発の銃声と共に、右肩に走る痛み。
撃たれたのだと気付く。
続く攻撃があるだろうと予想し、未だ効果を発揮している「ディレイ」を使って退避する。

そうして先ほどの撃たれた角度を考えて乱入者の姿を確認すると…

「っ、――よう」

そこには、自分の見知った顔があった。





間に合った――!

音無は息を切らしながら、汗ばむ手でコルトパイソンを握り締めていた。

(今回ばかりはSSS様様、だな)

死後の世界で天使と戦い続ける毎日が無ければ、
最低限の動きで、素速く移動する対象に弾を当てることはできなかっただろう。

さらに言えば、音無は奏が習得しているガードスキルはほとんど把握している。
この状況で、ハーモニクスが「ディレイ」を使用することは簡単に予想できた。

「ディレイ」は高速移動のガードスキルである。
発動すると一定時間、短い距離を目にも止まらない速度で移動することができる。
一見戦闘において万能に見えるスキルだが、弱点がある。
それは、点から点への移動しかできないことだ。
いくら高速で動けても、地点Aから地点B、地点Bから地点Cへの断続的な移動である。
スキルが効果を発揮している間この「高速移動」はいくらでも使うことが出来る。
しかし、点から点への断続的なものである以上、移動と移動の間に必ず停止する一瞬が発生するのだ。

音無はハーモニクスの「ディレイ」発動を予測し、次にハーモニクスがどこに移動するかを予測したのだ。
少し離れた場所にいる音無には3人の状態が手に取るように見える。
葉留佳の反転、シルファの転倒もしっかりと見届けた。
この状況で狙うとすれば何処か。
普通に考えれば、転んで無力化しているシルファは後回しである。
ならば。
ハーモニクスが「ディレイ」で現れる場所は、シルファの対称になる場所。
葉留佳の斜め後ろしかない。


「っ、――よう」
「………、音無、結弦…」

銃撃から、ディレイで退避したハーモニクスに向け、再び音無がコルトパイソンを構える。


「俺のことがわかるのか。まあいいや、お前分身だろ?」

ハーモニクスが頷く。

「奏はどうした?なんでアブソーブが発動してない」
「……あの子の今は知らない。
 あの時あなたたちが設定したアブソーブの自動発動ならとっくに解除してるわ」
「…そうかよ…、おいっ!」

音無はハーモニクスとの会話を打ち切り、葉留佳へ声を投げかける。

「ええっ、わたしデスカっ!?」
「ああ!早く撃てる準備をしてくれ!俺よりあんたの89式の方が強い!!それと!」

言われた葉留佳は、慌てて89式をハーモニクスに向かって構え直す。
そう言い、今度は再びハーモニクスに言をかける。

「ディレイは使うんじゃないぞ?
 今お前が誰のところに移動しても、それ以外の誰かが即座にお前を撃てる!」
「…わたしが死ぬのを怖がると思う?」
「思わない!でも!」

そう、暴走したハーモニクスは奏の攻撃性を抽出した存在。しかし。

「お前さっき俺に撃たれた時逃げたよな?
 例え死ぬのが怖くなくたって、自分の身を守る気があるってことだろ!!」
「………」
「もっと言ってやろうか!
 今、お前自身はハーモニクスのスキルが使えない!
 使えればこんな膠着状態を許すはずがないし、お前一人であの二人を追いかけるなんてこともしない!」

事実だった。分身のスキルの状態は、常時オリジナルのスキルの状態とシンクロする。
オリジナルの奏がハーモニクスのスキルを使えないことからも当然のことだった。

「さあ、どうするハーモニクス。ここは退いた方がいいんじゃないか?
 味方を増やせない以上、ここで無理に戦っても良いことは無いと思うぞ?」
「…そうね、わかったわ」

遂に出た退却宣言。音無は、安心しつつも緊張の糸を解かずに銃口を向け続ける。
ハーモニクスはハンドソニックを解除し、少しずつ後退していく。しかし、

「ところで、」

赤い瞳で音無を睨みながら、ハーモニクスは口を開いた。


「わたしがこうしている理由、あなたに見当は付かないかしら?」


「な…にっ!?」
「ガードスキル。ディレイ」

その一言を最後に、ディレイを使ってハーモニクスは姿を消した。
警戒はしたが、本当にハーモニクスはこの場から去ったようだ。

(ハーモニクスが暴走してる理由だって……?)

ガードスキル「ハーモニクス」は元々未調整のスキルである。
川釣りでの一件から少しは進展したはずだが、あの時の暴走の理由は未調整に加え、

(奏が…攻撃的になっていた。なら今度は…
 奏が…、奏が、殺し合いに乗っている!!?)

まさか、とは思う。
それに、あの時の暴走は奏が自分たちを守ろうとして起こったものだ。
その程度の攻撃性で暴走してしまうのがスキル「ハーモニクス」なのだ。
だがしかし、あの分身は言ったではないか。

(「あの子の"今"は知らない」)

当然だ、あれは立華奏が作り出したハーモニクスなのだ。
オリジナルの奏のことを知らないはずがない。

(ここに来る前には会ってたのか…!!)

ハーモニクスは平気で人を殺す。ここで逃がしたのもマズいとは思ったが、
これは思ったより、マズい相手を逃がしてしまったかもしれない。

「はあっ…」

音無はその場に座り込んだ。頭を抱えたい気分だった。
そこで、葉留佳から声がかかった。

「あ、あのー…」
「ああ、さっきは助かったよ。ありがとう」
「い、イヤイヤ、助かったのはわたしたちの方デスヨ!!」
「いや、あんたの89式が無きゃあそこまで上手く止まってくれなかったかもしれない。
 それよりあんた、土壇場に強いんだな。感心したよ」
「えー、マジですかー、ぶっちゃけ何にも出来てなかったような気がする…
 それに、あの瞬間移動はホントチビリそうになりマシタヨー…」
「ああ…あれか、ディレイだな。………ん?」

そう言えば、さっきまでいっぱいいっぱいだったので気付かなかったが。

(なんで…ここでガードスキルが使えるんだ?)

ガードスキルは死後の世界において、奏がゆりたちの銃火器に対抗するために創ったものである。
つまり、名前の通り自衛の技能なのだ。
しかしゆりたちの銃と同じく、その精製は死後の世界の仕組みを用いて行われたものである。
ガードスキルは、死後の世界でしか使えないもののはずなのだ。

(ここは…死後の世界なのか?)

わからない。それに。

(なんで、あいつは自分自身がハーモニクスを使えなかったんだ?)

分身のスキル状態はオリジナルと同期する。
つまり、分身がハーモニクスを使えないなら奏もハーモニクスを使えないということだが、
それならば、どうやって奏は分身を作ったのか。

(これも、調べる必要がある…!)

課題が増えた。奏に会い、ガードスキル使用の謎を解かなければならない。
それに、奏がゲームに乗っているなら止めなければ。

こうして、音無が決意に溢れている時。



「うぅうううううう………」

「いいかげん、こっちも気にしてくらさいよぉ………」

おでこと鼻が赤くなったメイドロボが涙目になっていた。



 【時間:1日目午後4時30分ごろ】
 【場所:F-6】


 音無結弦
 【持ち物:コルトパイソン(5/6)、予備弾90、水・食料一日分】
 【状況:疲労小】
 【目的:SSSメンバー・奏を探す、ゲームの謎を探る、多くの人を脱出させる】


 三枝葉留佳
 【持ち物:89式5.56mm小銃(20/20)、予備弾倉×6、水・食料一日分】
 【状況:疲労大】
 【目的:佳奈多を探す】

 シルファ
 【持ち物:不明支給品、水・食料一日分】
 【状況:疲労大、額に軽度のケガ(?)】
 【目的:貴明、イルファ、はるみを探す】

 harmonics1
 【持ち物:なし】
 【状況:右肩に銃創、出血】



070:ただ、幸せな、笑顔 時系列順 079:Full Metal Sister
072:意志を貫け-Braveheart- 投下順 074:イキカエル
044:Noisy Girl/Machine Maiden 三枝葉留佳 090:音無き世界の果て
シルファ
032:ハッピーエンドを目指して 音無結弦
005:101匹天使ちゃん? 立華奏(harmonics1) 113:doll


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最終更新:2011年09月06日 18:43