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森の出会い ◆g4HD7T2Nls



森の中、野田は空を見上げていた。
ひたすら熱だけを送りつける太陽にむかって、泥だらけ傷だらけの様相で歩みながら悪態をつく。

「……くそ……」

敗北の二文字は野田の内側へとまるで重石のように沈み込み、全身の痛みが彼に事実を突き付けた。
勝てなかった。
及ばなかった。
力が足りなかった。
己はあの男に負けたのだと。

「…………くそがッ!」

心の内は滾り狂う激情によって支配されている。
腕を振るい、握る拳を木の幹に叩きつけ、拳の裏で潰れていた虫を更に潰した。

「情けない……不甲斐ない……なんというザマだ……!」

彼は悔しがるよりも恥じていた。
戦線のメンバーとして、許されない醜態を晒してしまったと。
自分自身を責めている。

「すまん、ゆりっぺ」

野田は痺れの残る手で懐から一枚の写真を取り出し、沈痛な面持ちで見つめた。
そこには赤い髪にカチューシャが特徴的な女の子が写っている。
仲村ゆり、このバトルロワアイルにおける参加者の一人だ。
野田が愛用していたハルバードは没収されてしまったようだが、この写真は無事だったらしい。

「俺は負けた……しかも、あんなわけのわからん奴に」

野田が敗北を喫した人物。何から何まで珍妙な男だった。
着衣を始めに、獣のような耳、動き、そして何よりあの言動。
まるで生きた人間のような台詞、そしてあの強さ、危険な者であると断じる。
そう、断じて、仲村ゆりに近付ける訳にはいかない。
戦線の力を示さねばなるまい。
にも拘らず今の自分はなんと無様なことか。

「死ねば終わり……だと? 何を今更なことを……俺たちはもうとっくに終わっている……死んでいるだろうが」

死後の世界。
生ある者達にとってはただの空想、空論、夢物語でしかありえないそれは確かに存在した。
生前に未練を残した者がたどり着く場所。未練を晴らして来世に踏み出すための楽園。天上の学校。
そして死の先にある故に、死のない――いや正確には、そこでいくら死んでも無限に生き返る世界。
野田もまた、死後そんな不可思議世界に流れ着いた死人の一人だった。
そして同時に、彼は次の生に歩む事を拒絶した者でもあった。

野田は仲村ゆりが死後の世界で結成した集団――死んだ世界戦線、通称SSSのメンバーである。
神が今更のように振りかざした救いをふざけんなと跳ね除ける。
とってつけたような施しを舐めんなと唾棄する。
そんなゆりの言葉のもとに集まった。神に抗う者達の戦線。
その一員であった野田にとって、いま己がやるべきことは決まりきっている。

「すぐに行くぞ……ゆりっぺ……」

写真にむかって告げる。

おかしなことになったとは思う。
こんな事態は死後の世界ですら今までありえなかった事なのだ。
バトルロワイアル。死人の世界で殺しあえとはこれいかに。
これも神の意志なのか、はたまた別の何かなのか。
少なくともSSS発足以来の大事件であることは間違いないだろう。
しかし野田はそれに関して深く考える事もなかった。そも考える必要性を感じなかった。

SSSは多くの個性的な人物がごっちゃに集まっている。とは言え役割分担は存在するのだ。
陽動はガルデモのバンドメンバーが勤めているし、諜報ならば遊佐、隠密ならば椎名というふうに。
そして作戦立案や情報考察などの小難しい作業はリーダーたるゆり、参謀の高松、ハッカーの竹山、あと野田は認めたくないが音無あたりがこなすべきポジションだ。
野田が請け負う仕事ではない。
彼は作戦実行班である。死んだ世界戦線――通称SSSの作戦を実行に移して実現する。これが野田の役割だ。

リーダーたるゆりを見つけ出して彼女の力になることを第一に、その過程でゆりの敵になりそうなものは容赦なく叩き潰す。
これが野田の担うべき勤めだ。だからこんな所で止まるわけにはいかない。
あの男を追わなければならないのだ。

「…………づっ……」

そうして男を追うために、痛みを黙殺しながらヨロヨロと歩き続けていたのだが。
肺腑への一撃は思ったよりもダメージが大きかったのか、先ほどから思うように進めていない。

「くそ……これしきで……」

声が耳に届いたのはそんな時だった。

「……あ、あの……大丈夫ですか?」

咄嗟に、野田は握っていた写真を懐に突っ込む。
刀を鞘から抜き放ち、声のした方向に突きつけた。

「……誰だ!?」

そこに、木陰から姿を現したのは二十代後半くらいの女性だった。
穏やかな印象を与える顔にかけられた眼鏡は少しずれており、肩にかかるくらいの長さの髪は後ろで一つに纏められている。
見た目から察する年齢のわりに、綺麗というよりはかわいいといった部類の美人である。

「貴様は……?」
「私は牧村南と申します……。それより、あなたその怪我……」

純粋に野田の怪我を気遣っているのか、丁寧に名乗った女性は一歩踏み込んだ。

「待て、近寄るな」

だが野田は警戒を隠さず表し、
無遠慮に牧村南と名乗った人物を凝視する。

「…………」

普通の女。一見する限りはその様にしか思えない。
先ほど戦った偉丈夫とは真逆の存在だ。
SSSにとっての脅威には到底なりえないだろう。
その時点で野田は牧村に対する興味を半ば失っていた。

攻撃する意味は見出せない。害意も敵意も力も無い、そんな相手に力を振るう価値は無い。
放っておいてかまわないだろう。
念のため数減らしのために殺したところでどうせ生き返る、そんなものは労力の無駄だ。
今は構っている時間が勿体無い。
そうと決めれば野田はさっさと女性から視線を切り、もう一度刀をつっかえ棒にして歩き出した。

「ちょと……どこに行くんですか……!?」
「貴様には関係ない、俺は行く」
「でも、そんな怪我で……ちゃんと手当てしないと駄目ですよ!」

心配そうに追いすがる声を無視して進む。
しかし牧村の声は止まなかった。

「……もしかして、喧嘩した人のところに行くつもりですか?」
「関係ないと……ッ……ぐ……」
「そんなの無茶です! あなたボロボロじゃないですか……」
「やかましい、こんなものは放っておいても治る!俺は行かねばならん!」

ゆり以外の者からの指図は受けない。
そんな意地もあり、野田は牧村を振り切ろうとしたのだが、彼女はしつこく追ってくる。
いっそ黙らせるか。という思考すら芽生え始めた。
いずれ生き返るとは言えども、とりあえず殺せばしばらくは黙るだろう。
少なくともこのわずらわしさは改善される。悪くない考えだ。刀を握る手に力が篭る。

「……っ!?」

などと考えていたとき、ふとその体が動きを止める、否、止められた。
野田の肩を掴む女性の手によって。軽い力によって。
今の自分はそれだけで動けなくなるほどの力しか出せないのだと思い知らされた。
急激に脳へと上る血流。つっかえ棒にしていた刀を地面から引き抜く。
野田は振り返り、牧村の顔を睨みつけようとして、

「……ぁ?」

頬がぷにゅっと押される感触に意表を突かれた。
肩に置かれた牧村の手、その人差し指が上げられて、振り返った野田の頬肉を押している。
なんとも古典的な悪戯だった。

「落ち着いた?」

ぐにぐに頬を突っつかれる。
あくまで野田は牧村を睨もうとしていたが、頬を押し込まれた表情では滑稽さが際立つだけだ。
当然、牧村もそんな彼にはほんわかとした表情しか返さない。

「き、きひゃま……」

崩れた表情のままで首を動かし、あくまでも睨む。
逆から振り返ればいいのにそれをしないのは野田がアホであることの表れか。
ともあれそんなアホに牧村は微笑みながら言葉をかけ続けた。

「今から追いかけたって、どうせその人は見つかりませんよ。
 それより、ここでちゃんと手当てして、休憩をとった方が良いと思います。
 今なら私が手伝いますから……」

笑顔だった。

「ね?」

実に笑顔だった。

「ね?」

有無を言わせぬ笑顔だった。

「…………」

頭の熱が冷めていく。今から追ったところでもう遅い。
牧村の言葉はどうしようもない正論である。
やり場の無い悔しさと苛立ちだけが渦を巻き、しかしそれも牧村のゆったりとした声の調子に薄まってしまう。
残ったのは疲労感だけ。
全身の力が奪われていく。支えていた気力が萎えてしまう。
刀が、手の平から滑り落ちた。

「ほら、とりあえず座ってください。立ったままでは怪我も見れませんし」

「………………くそっ…………不愉快だ」

最後に一言だけ悪態をつく。
そしてようやく野田は力尽きるようにして座り込むのであった。


ーーー ーーーーー    ーーー


静かだった。
風が木々を揺らす音と湿布をぺたりと貼る音だけがここにある。
座り込んだ少年と背後から軽い治療を施す女性。
会話は無い。二人ともずっと無言だった。

牧村南の支給品は救急セットだった。
身を守るにはいまいち使えない物だけれど、
銃を握ったりするよりはよほど気が楽だと彼女は思う。

南は少年を手当てする手を動かしながら、ここに至るまでのことを思い返していた。
彼女は元来、こみっくパーティーという年に数度に渡って開催される同人誌即売会のスタッフであった。
辛い事や困ったことも絶えない職務だが、同時に素晴らしい出会いがたくさんある。
そも漫画好きということや、誰かを助ける仕事を好んでいたこともあり、彼女はそこで働く日々を楽しんでいた。
けれどそんなあたりまえで素敵な日常は一瞬にして一変してしまった。バトルロワイアル、殺し合い、殺人、暴力、死。
それこそ漫画の中だけのワードであったことが、津波のように一気に押し寄せてきたのだ。
昨日までは凄く遠い場所にあったそれらが、気が付けばすぐ隣にあるという不条理に直面している。

しかも、それは南一人だけではなかったのだ。
親しくしていたサークルの人、時たま事務所を訪れてくれる人。
一緒にこみパを盛り上げてきた友人達が自分と同じように巻き込まれている。
それに関して南は、『自分一人じゃない』というプラス思考よりも、『どうして彼らまで』といったマイナス思考の方が大きく感じていた。
自分が一番年長者であるということはもちろん、自分が元々彼らをサポートする立場であったという事もある。
どうにかしなければならない。
それは分っているのだが、いかんせん事態のスケールが大きすぎて処理しきれないというのが今の本音だ。
行動する取っ掛かりが何一つ掴めない。
そんな中、出会ったのが目の前の少年だった。

「はぁ……困ったことに……なっちゃいましたね……」

心配で疲れきったような呟きは独白に近いものだった。
返事は期待していない。
だが意外にも、少年は応えてくれた。

「ふん……まあ確かに、多少厄介な事態ではあるだろう」

南は沈ませていた顔を上げる。
少年は振り返らない。しかし会話をするつもりはあるようだ。
今はそんな些細なことがとても嬉しく思える心地だった。

「あなたは、これからどうするつもりですか?」
「そうだな」

先ほどまでは冷静さを失っていた少年。
けれど今は逆に南以上に落ち着いた佇まいを見せている。
気性の激しい性格は冷却するのも早いのもしれない。

「俺は俺の仲間を探す。俺や仲間にとっての障害は叩き潰す。それだけだ」

叩き潰すとは物騒な言葉であったが今は聞き流す事にした。
刺激したくなどなかったし、転じて言えば南はまだその障害の勘定に入れられていないという事なのだから。
それに潰すという意はあるが殺すとは言っていない。
だから大丈夫、この時の南はそんなふうに単純に考えていた。

「あなたも、知り合いがここに連れてこられているんですか?」
「ああ、仲村ゆりという人物を見なかったか……?」
「ごめんなさい。私がここに着てから出会った人は、まだあなたで一人目ですから……」
「そうか」

そう言って少年は水を飲み始め、会話が途切れる。
再び沈黙が降りたものの、空気の色合いは最初に比べて少し違っていた。
一度会話が成立したからか、どこか居心地の悪い感覚が消え、悪くない静寂に満ちている。
南が動かす手も、少し軽くなった心地だ。だから同時に口も軽くなる。

「その仲村ゆりって人は、あなたの恋人?」
「ぐほォァ!!」

少年は盛大にむせこんだ。

「あら、違いましたか?」
「げほっ……げほっ……断じて違うッ!」
「そうでしたか。随分と思いつめた顔で女性の写真を見つめていましたから、もしかしたらと思ったのですけど……」
「なっ!? き、貴様それをいつから見ていた!?」
「ええっと、具体的には……『すぐに行くぞ……ゆりっぺ……』の辺りからですけど……ってあのっ……そんなに悶えられると泥が傷口に……」
「だあああああああ!!忘れろ、いいか、今すぐに忘れろ、いいな!?」

地面を転げまわっていた少年は急に起き上がると、南の肩をがっしりつかんできた。
ひとまず、これでは手当てが終わらないので承諾する。

「はい、了解しました」
「よし」

満足そうに頷いた再び少年が背をむけて目を閉じた。
作業再開である。

「そうですか、片思いなんですか」
「だああああああああああ!」

そうして勢いよく振り返った少年に、南は自分でも気づかないうちに、少し儚げな微笑を返していた。

「ほんとに、見つかるといいですね。お友達」

その言葉と表情に少年は毒気を抜かれたように、黙り込み。

「そうだな」

とだけ言って腰を下ろした。

見かけほど悪い子じゃない。普通の子だ。南は彼に対する認識をそんなふうに捉えていた。
最初、南は少年と関わるかどうか躊躇してしまっていた。
少年が傷だらけだったのもある、思いつめた様子だったのもある。
彼が握っている刀が怖かったというのも、もちろんあった。殺されるかもしれないという恐怖があった。
下手に関わらずに、その場を離れようかとも考えた。
なんだかんだで声を掛けてからも南が安心していたはずがない。
刺されるのではないか、危害を加えられるのではないか、そんな不安を抱えたまま接していた。
彼女もまた、疑心暗鬼に陥っていたのだ。

けれど少年と少し話をして、関わって、幾つか分った事がある。
まず少年は仲間を大切に思っている。そして仲間の為に行動を起こそうとしている。
それだけで、十分だった。南の中から少年に対する恐怖が消えた要因など。
目の前の少年の姿は凶暴な男から仲間思いの青年に変わっていた。
人の認識とは極限状態ではこうまで偏ってしまうのだなと思い知る一方で、同時に少年に関わってよかったと思う。
あのまま誰とも関わらないまま彷徨っていれば、疑心を抱えたままでいれば、南とていつまでまともな神経を保っていられたか分らない。
ここでこうして、人間と接することが出来たのは紛れもない幸運だったのだ。

(ありがとう、いてくれて)

そんな感情は言葉に出さずに、
南はただ少年へと、丁寧を心がけた治療を施し続けた。


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「はい、これで全部終わりましたよ」

手当てが完了したときには十分ほどの時間が経っていた。

「………………世話になったな」

少年は南を振り返らなかったものの、前を見据えたまま固い口調で礼を言った。

「いえいえ、お粗末さまです。どこかおかしな所はないですか? 違和感とか、きついとか」
「大丈夫だ。というかそもそも放っておけば治るのだから、最低限傷口を適当に塞げていればそれでいいだろうに。丁寧すぎるくらいだ。
 貴様、こういうのは慣れているのか? 随分と上手いが」
「私はこみパのスタッフをしていますから、お客様がトラブルにあわれた時に対応しなくちゃいけませんし……。
 …………放っておけば治る?」
「こみパ?」

「…………」
「…………」

両者の認識の違いが衝突したのは、ここが初めてのことだった。

「えと……はい、あのこみパですよ。同人誌即売会の」

少年が答えないので、南が先に答える事にした。
対して少年はまったくピンと来ていない様子である。

「……すまん。ちょっと俺には分らん」
「そうですか、まあ全然マンガに興味がない人もいますしね……それはしょうがないですけど。
 でも機会が有れば一度きてみてください、楽しいところですよ。
 最初はちょっと戸惑うかもしれませんけど……って、ごめんなさい。そんな場合でもないのに……」
「いや、いい。こみパ、か。憶えておく」

すぐに忘れると思うが、と語尾に付きそうな表情だった。

「それで、貴様はどうする?」
「私ですか?」
「ああ、俺はこれからゆりっぺを探す為に行動する予定だが」

これからやること。
南はもう一度だけ考えてみる。
けれどその前に、

「ちなみに、むかう方角とかはどうやって決めるつもりなんですか?」
「勘だ」

その回答までは一秒も掛からなかった。
南にも、この子は大丈夫だろうかという意識が沸き起こってくる。
一度だけ軽いため息をついて。
やっぱりそうしよう、と南は決めた。

「私も知り合いを探す事にします」

友人達を放ってはおくことはできない。
彼らもまた、南にとっては今日まで一緒にこみパを作り上げてきた大切な仲間なのだ。
年長者として助けたいと思う。
こみパスタッフとして、これからも共にいたいと思う。

「そうか。見つかるといいな、貴様の知り合いも」
「はい、一緒に頑張りましょう」
「ああ……それじゃあ達者で……いやちょっとまて、一緒に?」
「ええあなたと一緒に行くんですよ?」
「おい貴様……知り合いを探すんじゃなかったのか?」
「それはもちろん」

しかし、と南は続けた。

「探そうにも、私には当てなんかどこにもありません。
 だからあなたについて行くのも、一人で行くのも一緒です。
 闇雲に探すよりも、他に目的のある人と行動した方が上手く行くかもしれませんし」

それに。と南は続ける。

「私は頑張っている人のお手伝いをすることが好きですし、むいているんです。
 ずっと、そうやってきましたから。得意なんですよ。
 だから私はここでも誰かをサポートする役目を担いたい」

いいですよね?
と、その言葉で南は締めた。
そして言葉には出さなかったが、この少年はどこか放っておけない感じがする、とも南は考えていた。
危なっかしいというか、見ていられないというか。心配させるというか。
それをアホだからの一言で片付けるには少々、牧村南は優しすぎたのだ。

「…………ふむ。入団希望か」

少年は再び南を値踏みするような視線でしばし眺めた。

「まあ確かに、我らがSSSは戦力を募集している」

いきなり南にとっての新出単語が飛び出した。
どこか話が飛んでいる気がする。
しかし説明はなく、尋ねる間も無く少年の言葉は続いていく。

「だがそこで貴様が戦力になるかと言えば……微妙だな……」

なんだがよく分らないが、役にたたなそうだと言われている事は伝わった。
少しへこむ。

「貴様、武器は持っているのか?」

南は首を振った。

「銃を撃ったこともないか?」
「……はい」

撃った事も握った事もない。

「正直言って……現時点で貴様は戦力として役に立たない、と俺は考える」
「…………」

シビアな意見だが間違ってはいない。
南は人を殺した事もなければ、殺そうと思ったこともない素人。
戦う力など、何一つありはしない弱者だ。
だからこそ少年は南になんら危害を加えなかったのである。

「SSSに入れるというのは、俺は反対だな」

少年は刀を拾い上げ、南に背をむける。
それはつまり、仲間には出来ない、という意なのだろう。
合理的な判断だったが、南はやはり寂しい心地だった。

「そう……ですか……」
「まあな、だがそれを決めるのは俺じゃない」
「えっ?」
「決定権はゆりっぺにある」
「それって、つまり」
「だからまあ、ゆりっぺの所までついてきたいと言うのなら、お前の好きにしろ。
 ただし、俺に守ってもらえるなどとは思わんことだ。貴様は現時点では仲間でもなんでもないのだからな。
 あてにされては困る」

少年は最後まで振り返らぬままにそう告げて、抜き身の刀を片手にぶら下げて歩き始めた。
意を解するのは少々間が空いたものの、要するに同行の許可が下りたということである。



「ええ。分かっています」

少年の背を追いながら、南はもう一度思う。
やっぱり、ぶっきらぼうだけど悪い子じゃない。

「でしたらこの、鞘は……」
「それは貴様が持っておけ。俺にはこっちの方が手に馴染む。ハルバードがあればそれが最高なのだがな……貴様持っていないか?」
「ハルバード……いえ……あの斧と槍が合体したような武器のことですよね?」
「詳しいな」
「以前、こみパで貰った同人誌に書いてありましたから……」
「ほう、よくわからんが。……ああそれと、野田だ」
「はい?」

そこでようやく、少年――野田は背後の牧村南をチラリと振り返った。

「いつまでもあなたあなたと呼ばれ続けるのは落ち着かんからな……」

今度はすぐに意図を理解できた。
少年との距離がまた少しだけ縮まったような気がして、南は暖かな気持ちで呼び返す。

「はい、よろしくお願いしますね。野田くん」

これは第一歩なのだと南は思っていた。
暗闇しか広がっていない状況における確かな前進。

けれど彼女は未だ知らない。

死者と生者。

自分と目の前の少年との、そのあまりに乖離した認識の違いを。



【時間:1日目午後2時ごろ】
【場所:F-4】


野田
【持ち物:抜き身の大刀、水・食料一日分】
【状況:軽傷】

牧村南
【持ち物:救急セット、太刀の鞘、水・食料一日分】
【状況:健康】




060:アンダードッグ 時系列順 040:「クライストとお呼びください」
061:がんばれエルルゥさん 投下順 063:この身の全ては亡き友のために
006:DISTANCE 野田 072:意志を貫け-Braveheart-
GAME START 牧村南


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最終更新:2011年09月03日 10:39