死というものは ◆auiI.USnCE
森林を駆け出て、少し開けた草原に辿り着いたオボロと可憐。
極度の疲れで動けずに居た可憐を少しでも安全な所に運ぼうとしたからだ。
オボロ単独で言えば、視界が暗く、隠れる場所も多い森林の方が安全ともいえる。
しかし、ただの女子の可憐がいるのならば、隠れる場所が少なくても、視界が開けた草原の方がいい。
不意打ちされる可能性も減るからだ。
その配慮ゆえに、オボロは彼女を此処まで運んだのだ。
「あ、ありがと」
椅子になるような石に腰掛けた可憐の顔は依然真っ赤なままだった。
此処まで所謂お姫様抱っこのような形で運ばれたのだ。
殆どそんな経験などない可憐にとってはオボロの行動は恥ずかしくてたまらない。
真っ直ぐオボロを見れないままでいると
「む? どうした? 顔が赤いぞ。熱でもあるのか?」
ぴとと額に当てられる冷たいもの。
それが、目の前の男の手だと可憐が認識するにたっぷり五秒かかって。
そして、相手の顔がとても近いのに、気付いて。
「っ?! っ~~~~~~!?!?」
林檎みたいに真っ赤だった頬を更に真っ赤にさせて、目をぱちくりさせる。
そして、可憐はそのまま後ろに思いっきり後ろに飛び去った。
驚きと羞恥で心臓の鼓動が早くなっているのを感じながら目をぱちくりさせてオボロを見る。
頭から湯気が出てくるくらいに真っ赤になった後、
「ちょ、ちょっと何やってるのよ! 熱なんてないわよっ!」
びしっと指をさしてヒステリックに叫ぶ可憐。
兎に角何が何でも恥ずかしかった。
いきなりこんな事やってくるとは想わなかったからだ。
だから、とりあえずこの恥ずかしい気持ちを発散したい。
「そ、そうか。ならよかったが…………それと名前は」
「……綾之部可憐よ」
「俺はオボロだ」
オボロは少しきょとんとしながらも名前を名乗る。
そういえば名乗ってなかったなと可憐も名乗り、オボロの名前を聞いてから疑問に思った事を口にする。
「あの女……トウカでしたっけ? 仲間だったの?」
先程、オボロと死闘を繰り広げていた者、トウカ。
オボロとトウカの会話は断片的にしか聞こえてこなかったが、知り合いだったらしい事は何となく感じ取れた。
気軽に話しかけていたことから恐らく仲間か何かなのだろうと可憐は踏んでいた。
「ああ……そうだ。信頼する仲間だった」
その予想通り、苦虫を噛み潰したように表情を歪めせるオボロ。
やはり、仲間と戦う事は辛いのだろうかと可憐は思う。
だけど、嬉しそうな表情も戦闘時は見せていた。
複雑な関係なのだろうかとも思っているときに、オボロは言葉を続ける。
その予想通り、苦虫を噛み潰したように表情を歪めせるオボロ。
やはり、仲間と戦う事は辛いのだろうかと可憐は思う。
だけど、嬉しそうな表情も戦闘時は見せていた。
複雑な関係なのだろうかとも思っているときに、オボロは言葉を続ける。
「しかし、あいつは兄者を生かすために殺し合いに乗った……あいつにとってそれが最善だったのだろう」
それは、解っている。
現に可憐は襲われているのだから。
「だが、あいつは迷ってもいる」
それも、何となく解っている。
流した一筋の涙を見たから。
でも、許せるものではないけれども。
「だから、俺はあいつを止めなければならない。弱者の命を奪おうとするあいつを。己の真意に逆らって殺そうとするあいつを」
そう語ったオボロの瞳はとても強く見えて。
確固たる意志を持って。
揺るがぬ信念を糧に。
「……最悪、殺さないといけない事になっても」
そして、悲壮とも思える決意を胸に。
オボロはその理想を可憐に語る。
そんなオボロを可憐はただ、強いと思った。
純粋な強さだからこそ、最後の決意が何処か哀しく響いた。
強くなければ、そんな決意はしなかったのだろうか。
「勿論、お前のような弱者を守りながらな」
そう付け加えられた言葉に可憐は不意をつかれて、また直ぐに顔を真っ赤にさせながら、
「な、何を言ってるのよ! 貴方!」
「何をって、弱い者を守るのが俺たちの使命だ」
「そ、それはありがたいけど……もうちょっと言葉を選びなさいよ……」
「……?」
どうして、こう直接恥ずかしくなりそうな言葉とかを向けてくるのだろう。
きょとんとしているオボロはきっと意味など解っていないだろう。
顔を未だに紅くしながら、解っていないオボロに向けて何かを言おうとした時、
『ぱぎゅうー、マイクのテスト中ですの!!!!』
大きな声が、二人の耳に入ってくる。
それは、正義を宣言する強い言葉。
猪突猛進すぎる少女の言葉だった。
『みなさあああぁぁぁああああぁあああん!!!!!!
正義は必ずかあああああぁぁあぁあああぁぁぁぁああああつ、悪は必ず滅びるんですのおおおぉぉおおおぉぉおおおお!!!!
だから――ふぁいとなのですのおおおおおぉおおぉぉおおおおお!!!!』
最後に彼女の絶叫とも言える決意が響いて、言葉は止まった。
その瞬間、頭を抱える二人。
思いついたのは『馬鹿だろう、この女』とだけ。
可憐はあたまをかかえながら、オボロに問う。
「……どうするの?」
「当然だろう。弱い者かもしれない。殺し合いに乗ってるものもくるかもしれん。だから――――助けに行く」
やっぱり。
可憐は内心そう思いながら。
自身も危険地帯に突っ込むことに覚悟して。
それでも、苦笑いをしながら頷いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ぱぎゅー! 危ないですの!」
な、なんであたらへんのや。
ウチ――瑠璃――は目の前で、奇声を上げながら銃弾をかわす女にただ驚いておる。
あの、アホらしい宣言を聞いて走って女のまえに。
先手必勝で銃弾を撃ち込んだんけど、避けよった。
何発も撃ってるのにあたらへん。
「な、なんであたらへんのよ」
「見え見えですの! そんなのであたしを倒せると思ったら大間違いですのー!」
なんや知らんけど気配で解るみたいや。
それを証拠にウチが銃を向けた瞬間には、もう回避行動に移っている。
……なんやのん。この化物は。
殺しようが……ないやん……
……いや、せやけど。
せやけど、殺せないじゃ困るんや。
さんちゃんを守らんと。
うちが、さんちゃんを絶対にまもらんといけんのや。
せやから、
せやから、
「ウチが守らんと……だから、死んでや!」
その言葉と共に銃弾を放つ。
けど、目の前の女はその前に横に飛んで簡単に避ける。
「人を殺して守る事に意味なんてありませんの……そんなの正義じゃないですの!」
そんな言葉をウチに言い放って。
何が正義や。
さんちゃんが生きなきゃ意味がないんや。
「貴方が殺人者になって……その人が喜ぶと思うんですの!?」
さんちゃんが喜ばない……?
……せやけど、うちは……
うちは……!
「おっと、加勢だぜ。すばるといったな? 手助けしてやんよ」
そして、突然、目前に現れる青い一人の男。
どうやら、あの宣言に釣られてこの女を助けに来たようだ。
快活そうに笑ったその少年はウチに敵意をむけとった。
こいつも敵や。
何も考えへん。
さんちゃん以外の人間全部全部敵やねんから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺――日向が駆けつけた頃には既に戦闘が始まっていた。
正直間に合わなかったかと思った。
……が、予想とは裏腹に、どうやら放送をおこなった少女の方がかなりの優勢なようだった
動きを見てもとても洗練されている。
というより、襲っている少女の方が全然駄目だった。
気持ちが先走って、まともにうごけてねえ。
このままでも、放送をおこなった少女……すばるだっけ?
兎も角スバルが負けるなんてことはねえだろう。
……あれ、俺必要なくね?
…………かっこよく来たけど、意味なくね?
……いやいや、そんなことはない。
すばるが有利なのは確かだが、銃を警戒して接近できてはいない。
負けはしないものの、攻めあぐねている状況って感じか。
こりゃあ、援護が必要だろ。
手持ちの武装は釘打ち機。
無駄にでかい釘が飛び出るニードルガンのようなもんだ。
これで援護してもいいが、此方の存在に気付いていない少女の邪魔になる可能性も高い。
さてはて……どうしようか?
不意に突っ込んで殺されても、嫌だし。
……いや、待て。
俺は、既に『死んでいる』
それも、あんまり死にたくはねぇが。
でも、死んでもリスクはまぁ低い。
この殺し合いの場が、あの場所と一緒ならばの話……なんだけどな。
正直よくわかんねぇと言うのが俺の意見だ。
死んでいるのは確かだ。
けど、目の前の少女が『死んでいる』かはどうだろう?
……わかんね。
俺たちの常識かんがえればそーなんだけどな。
でも、この殺し合いが行われてる事がある意味非常識なんだし。
じゃあ俺は……どうしようか?
まあ結局でも……やる事はとっくの昔に決まってんだけどな。
例え死んでいても、死ぬ姿は見るのは日常的とはいえ、あんまいいもんじゃねえし。
だから、死んでもいいけど、なるべく死なないようにする。
襲ってきたものには容赦しない。
そんな風に俺は動こう。
で、今はどうする?
まあ、ちょっと命を張る場面だろ。これは。
だから、俺は少女達の間に割り込んで。
「おっと、加勢だぜ。すばるといったな? 手助けしてやんよ」
あの生意気な少女の訛りを真似て、俺は加勢する。
すばるはきょとんとしたが、直ぐに俺に向けて言葉を発する。
「助かりますの! 一緒に正義を……」
「んまぁ、正義かなんか知らんが助けてやるよ」
そして、銃を持った少女の方向を向く。
銃を向けて、俺を睨んでいる。
だから、俺はそのまま、彼女に向かって『走り出す』
「なっ!? 撃つよ!」
いや、そんな事言わないでいいから撃てよ。
距離がドンドン縮まっていくぞ。
10m近くの距離があっという間に5mだ。
「く、なめんなや……!」
そして、彼女はやっと引き金に手を。
だけど、もう遅かった。
「ゲームセットだっ」
俺はその言葉と共に、彼女のリボルバーの弾層を右手で抑える。
その直後に彼女はトリガーを引くが、当然発射される事はない。
そりゃあ、そうだ。リボルバーは回転式の弾層を抑えれば発射なんてできないんだからな。
「なんで、向かってきたんや……」
彼女が漏らした言葉。
確かに、彼女に引き金を引かれれば、真っ直ぐ向かってきた俺は撃たれるだろう。
ある意味ただ向かうだけなら、馬鹿だ。
でも俺はそれをやった。
そりゃあ、単純。
死んでもいいからだ。
痛いけど、それでもこの状況を打破するきっかけになっただろう。
すばるがその後、この少女撃破するだろうしな。
「殺す覚悟も無い奴が戦うんじゃねえよ」
俺は冷たく言って。
釘打ち機を彼女に向ける。
「いやや……死にたくない」
彼女が漏らした言葉。
俺はその言葉に対して。
「――死ぬ覚悟もねぇ奴が戦うんじゃねえよ」
冷たいだろうか。
でも俺達はいつもそうやって抗ってきた。
例え、蘇るとしても命を張ってきた。
死ぬ覚悟を持って皆戦っていたんだから。
だから、彼女が漏らした言葉は結局、俺にとって甘い言葉にしか聞こえなかった。
そして、引き金を引こうとして。
「ぱぎゅーー! 殺す事無いんですの!」
その言葉と共に、俺は宙を舞った。
すばるに投げられた気付いた時にはもう、地に伏せていた。
……っておい、いくらなんでも止める為に俺を投げるなよ!
……猪突猛進すぎるだろ。
……………………はぁ。
……なーんか……貧乏くじひいてねぇか……俺?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
死にたくなかった。
まだ、さんちゃんを守りたかったんや。
でも、覚悟がないと切り捨てられおった。
結局だれも、殺せないままなんやろうか。
「今は寝てくださいですの。考え直してください。貴方の行動は正しくないですの」
そういって、打ち込まれる拳。
意識が遠のく中で、思うこと。
――――正しい事ってなんや?
殺し合いに乗らないのが正しいんか?
それを決める人は誰なんや?
誰もおらへんやろ。
なら、殺し合いが乗ることだって正しいかもしれないやないか。
せやから……正しい事ってなんや?
答えは、うちにもわからんかった。
うちは、どうすればええんやろうか。
大好きな、さんちゃんの為に。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「手助け、感謝しますの。日向さん」
「別にいいよ……つーかサッサと逃げるぞ」
感謝の言葉を述べるすばるを尻目に俺は襲ってきた少女の武装を奪って、縛り上げた。
この少女には悪いが置いていくつもりだった。
ぶっちゃけ、面倒見きれねえ。
今、この場に居るのは不味い。
だからさっさと逃げた方がいい。
この少女を抱えて逃げる事は、ちょっと無理そうだったからだ。
まぁ、最悪死んでも蘇るだろうしな。
でも……
「でも、何で殺さなかったんだ?」
当然の疑問を投げかける俺。
殺した方が当面は安全だろうに。
「殺す訳無いですの。確かにこの少女は襲ってきましたの。でも、だからといって、殺す理由にはなりませんし」
なによりと彼女が恥ずかしそうに笑って。
頬をかきながら、それでも気丈に行った。
「誰かが死ぬところなんて……あたしはもう見たくないんですの」
ああ……そりゃあそうか。
そうだよな、俺もそう思ってたし。
……殺せば死ぬ所見ちまうし。
……何やろうとしてたんだ俺。
俺が居た状況は普通に考えれば、『異端』なんだから。
殺せば、蘇るとしても『死ぬ』
その遺体を見なければならない。
それは何よりも色濃い『死』なんだろうから。
きっとすばるはそれが嫌なんだろう。
彼女は気恥ずかしそうに、可憐に笑う。
「…………そりゃあ、そうだな」
……ああ、同感だよ。
俺も、見たくねえや。
結局の所、御影すばるという少女は、強くて。
そして自分を失わない、正義の心を持っている。
そういう事なんだろうと思う。
何か気恥ずかしくなって俺は笑ってしまう。
そしたら、釣られて彼女も笑った。
更に笑いそうになったその時、俺の目には、こちらに向かってくる人影が見えた。
もしかしたらすばるの放送を聴いて、襲い掛かってくる者かも知れない。
だから、俺は急いで
「ほら、さっさとずらかるぞ!」
「ぱ、ぱぎゅ! ちょ、ちょっと待つですの!」
すばるの手を持って駆け出す。
そして、今さっき決めた事を告げる。
彼女の考えに同感したからかもしれない。
「お前の正義ごっこ、手伝ってやるよ」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございますの!」
……なーんか碌な事になりそうもないのはなんでだろうな。
……まぁ、それもいいか。
……お人好しだなぁ。俺って
【時間:1日目午後14時30分ごろ】
【場所: F-5】
御影すばる
【持ち物:拡声器、水・食料一日分】
【状況:健康】
日向秀樹
【持ち物:コルト S.A.A(1/6)、予備弾90、釘打ち機(20/20)、釘ストック×100水・食料一日分】
【状況:健康】
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それで、この状況どういう事なのよ?」
可憐は縛られて気絶している少女を見ながら問う。
この少女が放送を行った者かは、いまいちよく解らなかった。
だから、オボロに意見を求めたのだった。
「俺は此処に向かっている最中、去っていく人が見えた気がしたが、可憐は?」
「……うーん、よく解らなかったわ」
首を振る可憐を見ながら、オボロは考える。
目の前には縛られ、支給品も奪われた少女。
そして、オボロの存在に気付いたか去っていった人達。
考えられるのは
「まず1つ。この少女が放送を行って、襲われて、気絶させられた」
「……ころされなかったのは何故?」
「俺達に気付いて、殺す暇が無かったかもしれん」
一つは、この少女が乗ってない形。
放送によって集まった人に襲われて、気絶した形になる。
最もこれは殺されなかった理由が解らないのではあるのだが。
ただし、オボロ達の存在に気付いていれば、殺す暇が無かったかもしれない。
「そして二つ目は、この少女が放送を聴いて、放送の主を襲って、逆に気絶させれた」
「……この場合。オボロが見たという人達が逃げた理由は?」
「これも、俺たちが殺し合いに乗っていると勘違いして逃げたのかもしれん」
二つ目は、この少女が乗っている形。
放送で集まって返り討ちになったのだろう。
そして、オボロが見た人達はオボロを殺し合いに乗っていると警戒して、逃げたのかもしれない。
しかし、どれも
「全く確証がないわね」
「仕方ないだろう。今の段階では想像しかできまい」
あくまで、状況から想像した事だ。
現状では、確証を持てる証拠など一つも無いのだから。
だから、オボロ達は
「じゃあ、どうするの?」
「この少女から話を聞くしかないだろう」
「それもそうね。じゃあ起きるの……待ってみましょうか?」
「ああ、そうだな」
その言葉と共に、オボロ達は腰を下ろし休憩しながら、目の前の少女がおきるのを待つ事にした。
そして、三人が出逢った先にあるモノは――――?
【時間:1日目午後14時40分ごろ】
【場所: F-5】
姫百合瑠璃
【持ち物:水・食料一日分】
【状況:健康】
オボロ
【持ち物:打刀、水・食料一日分】
【状況:肉体的疲労(小)】
綾之部可憐
【持ち物:
クロスボウ、水・食料一日分】
【状況:肉体的疲労(大)】
最終更新:2011年09月06日 17:25