Prison ◆ApriVFJs6M
「はぁ……はぁ……」
僕の隣を歩いている女の子が苦しそうに息をしている。
無理もないさっきからずっと深い森の中を歩き詰めなのだ。
綺麗に舗装された道路と違って獣道すらない茂みを掻き分けるように歩いている。
体力の低い女の子にとってそれは過酷な行軍だ。
僕――直枝理樹は前を歩いている『彼』に声を掛けた。
「早間君、少し休憩しよう」
「馬鹿かお前! こんなところでじっとしてたら襲ってくれと言ってるモンだろうがっ!」
「だけど小牧さんがかなり苦しそうだよ……」
「じゃあお前達だけここに残れよ! 武器も持ってないお前達なんて俺がいなきゃすぐ死ぬぞっ。そうだ……俺がお前達を守ってやってんだ……ははは!」
彼は周囲をキョロキョロと見渡して怒鳴りつける。相当精神的に追い込まれ苛立っているのが目に見える。
彼は僕らの中で唯一『武器』を持っているのだ。
彼の両手に握られた銃は拳銃なんかよりもはるかに威力のあるショットガンだった。
「大丈夫……あたしは平気だから」
「小牧さん……」
「ほら小牧も大丈夫って言ってんだろ。ただお前が休みたいだけなんだろ!」
「く……っ」
「んだよ……その目は……! だれのおかげで今生きていられるのかわかってんのかよォッ」
早間は病的な目で僕を睨みつけ黒光りするショットガンの銃口を突きつける。
「俺だろ! 俺のおかげだろ! 俺がコイツを持ってるからみんな無事なんだろうが! そうだ……これさえあれば俺に怖いモンなんてねえ……!」
くっくと笑いながら自らの持つ銃を優しく撫でる早間。
こうも人間とは手に入れた力で、極限状況化で変ってしまうのだろうか。
あの羽の男から
ルールを告げられたあと僕はほどなくして小牧さんと出会った。
彼女は相当怯えていたがどうにか立ち直り行動を共にした。
僕達に与えられたのは全く武器としては使えそうにないもの。
僕は食べられるだけマシとも言える七色のパン。だれがこんな奇妙なパンを作ったのか理解に苦しむ。
小牧さんはその辺でスーパーやコンビニで売ってる普通の缶詰。幸いにも缶切りも一緒に入っておりしばらくは食料に困ることはなさそうだった。
やがて――僕達は彼……早間友則と出会った。
彼は異常に周囲を警戒しており、僕らは最初襲撃者と間違えられそうになり危うくショットガンで撃たれかけた。
その後、僕らが食料を持ってると知ると態度を変えて僕達と行動するようになった。
デイバックに初めから入っている食料では一日分しかない。それ以降は自力で調達するしかない。
だがこの島に食料を調達する当てがあるかは未知数なのだ。
初めは誰もが殺し合いなんてできなくても、食料が尽きてくれば僅かなそれを巡って殺しあうようになる。
そういう算段もいれての食料の少なさなのだろう。
そして僕と小牧さんは身を守るための武器を何も持っていない。
唯一、襲撃者に対抗できるのが彼の持っているショットガンだけだった。
至近距離で放てば木製の扉程度なら簡単に木っ端微塵にしてしまうほどの威力。
そんな物を人体に放ってしまえばどうなるか、想像もしたくない。
人を容易く殺す絶対的な力を手に入れてしまったがゆえに、早間は僕達三人の中で王として君臨していた。
ショットガンは彼にとっての王権の象徴だった。
ドンッと腹に響く大きな音。
見ると近くの木の幹が木屑を巻き上げてへし折れている。
早間がショットガンを撃ったみたいだ。
彼の銃には通常の散弾ではなく威力の高いスラッグ弾が込められていたようだ。
彼はその力を誇示するかのように自信たっぷりな表情だった。
「ははっ……どうだこの威力! 人間なんぞ一発でミンチだ!」
「早間君……そんな闇雲に撃ったらだめだよ」
「っせーなぁ! さっきから何なんだよ直枝ッ!」
彼は明らか僕を疎ましく思っている。
彼を諌めようとする僕を。
彼は危険だ。いつ理性のタガが外れてしまってもおかしくない。
「撃ったら余計に僕らの居場所を教えて――」
「だから! 俺に指図してんじゃねえぇぇよッ!」
ガッと頭に強い衝撃が走り僕は地面に倒れ込む。
早間はショットガンで僕の頭を殴りつけようだった。
あまりの衝撃で思わず意識を手放しそうになる。
「あ……ぐっ……ぅ……」
「いやあっ直枝君! 早間君もうやめてっ!」
「俺に指図するから悪いんだよ。そうだろ小牧?」
「っ……」
「……なあ小牧」
「は、はい……」
「お前って意外とスタイルいいよな、へへっ」
彼は下卑た視線で小牧さんを嘗め回す。
そう……僕は彼の最後の理性の一欠けら。
僕の存在が彼をまだこちら側に繋ぎとめている。
もし僕が倒れるようなことがあれば小牧さんは彼に――
僕は意識を手放しそうになるのを堪え、吐き気を我慢しながら立ち上がる。
殴られた箇所を手で触るとぬるりとした感触が伝わってきた。
「ごめん、僕が悪かったよ」
「分かればいいんだよ分かれば」
「大丈夫直枝君……? なにか包帯のような物があればいいんだけど……!」
「大丈夫だよ小牧さん……こんなの唾つけておけば平気さ」
「チッ……二人ともえらく仲良さそうじゃねえか……」
彼は不機嫌そうな声色で先を進む。
僕は小牧さんの手を引いてやりたいが、そんなことをすればさらに彼の不評を買うだろう。
せめて彼女だけでも彼の支配する監獄から解放してあげたい。
僕の抱えている持病の発作が起こる前に――
【時間:1日目午後2時00分ごろ】
【場所:E-7】
小牧愛佳
【持ち物:
缶詰詰め合わせ、缶切り、水・食料一日分】
【状況:健康】
早間友則
【持ち物:
レミントンM1100(4/5)、スラッグ弾×50、水・食料一日分】
【状況:健康】
最終更新:2011年08月30日 20:37