そらに響くは彼女の嘲笑 ◆5ddd1Yaifw



白光に包まれた世界の中、僕の意識は覚醒した。目がチカチカする。頭がガンガンする。
気分は、最悪だ。最初に僕達の襲撃を予測していたのか閃光弾を投げ入れられて皆ばらばらになってしまって。
そして僕はあの仮面男に一撃を浴びさせられて気絶した。

「……っ、ぉ……」

完璧な敗北。それでも僕はまだ、生きている。あの仮面男は止めを刺さなかったのだろうか、甘く見られたものだ。
今度会った時はその甘さを後悔させてやる。

「装備は……奪われましたか……」

戻ってきた視界には古びた廃村が映る。ざっと見た中では僕が持っていた刀は無くなっていた、あの仮面男が持っていたのだろう。
ただ水と食料の入ったデイバックだけはそのままにされていた。情けをかけたつもりなのだろうか、腹立たしい。

「他の二人は、」

よろよろと起き上がりゆっくりと歩き出す。自分が生きているということは二人も生きているだろう。
渚さん……今までは否定され続けてきた僕の名前を初めて認めてくれた人。嬉しかった。
だから、僕は。渚さんと一緒に戦おうと強く、強く思った。この気持ちに偽りはない。

「渚、さん、待ってて下さい」

彼女も同じようにやられて気絶させられているのなら僕みたいにこの廃村の何処かで倒れている可能性もある。
早急に合流しないといけない。ついでに笹森さんも拾っていかないと。
まだ、ゲームオーバーではない。

「渚さーん、いたら返事をしてください!」
「渚ちゃんはもういないよ」

張り上げた声に対して返ってきたのは本命の尋ね人である渚さんの声ではなく笹森さんの声だった。振り返った先に笹森さんはふらふらと立っていた。
顔は別れた時とは比べ物にならない程に青白く、個人的観点から言うと不気味だった。気のせいかどうかはしらないが眼の奥がどす黒くよどんで見える。
加えて一瞬、誰の声かわからなかった。それ程に笹森さんの声を冷たく感じてしまったのだ。

「竹山くん、無事だったんだ」

本当にこの人は笹森花梨なのだろうか? 余りにも全てが違いすぎる。
今、僕が相対している笹森さんは実は別人なのではないかとさえ僕は思ったぐらいだ。

「僕のことはクライストと……笹森さんその怪我は」
「ああ、この怪我? 銃で撃たれちゃってさあ、痛かったなあ、本当に、痛かった……!」

今さらに気づいたことだけど笹森さんの左肩辺りが血に染まっていた。元はピンクのかわいらしい色が今では深い深い赤に染まっている。
でも僕は天使との戦いで戦闘で死んでいく人を見慣れているからそこまで驚きはしなかった。
もっと酷い光景を見た経験があることも要因に含まれる。バラバラ死体とかグチャグチャにひき潰された死体とか。
無駄にバラエティに富んでいるくらいに。

「怪我、大丈夫ですか」
「うん、元気元気。こうして動けているのが何よりの証拠だよ」

そう言って、口を半月にして笑う笹森さんに正直言って恐怖を感じた。何か形容しがたいおぞましさが身体全体に纏わりつくようなそんな恐怖。
足を一歩後ろに進める。この人は仲間であるはずなのに、僕はこの人に関わりたくないと思ってしまった。

「そのさっき言った渚さんはいないってどういう事ですか」
「ん、そんなの簡単だよ。あの女――私を置いて逃げたんだ」

それからは彼女の罵詈雑言の嵐だった。簡潔に纏めると見捨てられた、許せない、など壊れた機械のように繰り返すばかり。
僕から見ると異常といってもよかった。口から出るのは憎悪の言葉ばかり。状況すら話してくれない、これじゃあどう反応していいかわからない。

「ですが渚さんにも何か事情が」
「はぁ? 事情があるから見捨てていいの? 裏切っていいの? 違うよねっ!! そういうものじゃないんよ、仲間って」
「落ち着いてください、まずはその当時の状況を僕に教えてください。でなくてはどう対応していいか」
「対応なんて決まってるじゃん、あの女をメチャクチャにするんよ。たっぷりたっぷり後悔させながら何も考えられなくなるくらいに……! 残酷に殺すだけ」

……狂ってる。何が笹森さんをここまで突き動かすのか。

「だからさ、一緒に殺そ?」
「……え?」

次に出てきた言葉は僕の身体の核を突き刺した。今、何を言った? 渚さんを殺す? 冗談なら勘弁して欲しい。
だけど笹森さんの目は本気だった。憎悪に染まった表情はそれを確信に至らせる。

「殺すんだよ! あの女を! 私の受けた痛みを何重倍にして返してやるんよ!」

笹森さんは尚も狂ったようにしゃべり続けているらしいが聞こえない。僕の頭の中には渚さんの事でいっぱいだった。
最初に出会った時のこと。僕を初めてクライストと呼んでくれた時のこと。あの儚い笑顔を見てつい見惚れてしまった時のこと。
彼女を殺すということはそれらを全てぶち壊すというのと同義。僕はそれに耐えられるか? 無理だ、きっと何かが、とても大切な何かが失われてしまう。
死の価値観よりも、僕の名前よりも。

「で、竹山くんはどうするの?」
「だから僕の名前はクライスト……いえ今はいいです。笹森さん、返答はいいえです」

毅然と僕の意志の刃を笹森さんにぶつける。

「どうしてか聞いていい」
「単純なことですよ。貴方の論には客観的要素が見られません、感情で物事を言ってる節があります」
「ふうん、竹山くんもあの女の肩を持つんだ」
「そういうわけではありませんよ、笹森さんの仰っていることは正しいかもしれない、ですが渚さんにも何か事情があったという可能性だってあります」

笹森さんには客観的要素とか感情で物事を言ってるとか言ったが、僕のほうがよっぽどだ。
彼女を信じたかった。ただそれだけの理由で僕は擁護している。

「ですからまずは対話をしてみるのが」
「もういいよ」

その言葉と同時に笹森さんの持っていた短機関銃の銃口が僕に向き、ああ、これは逃げられない、いや逃げる暇すらない。
僕は殺される、ここで終わりだと悟ってしまった。
至近距離での軽機関銃の掃射を前にして無事に逃れるほどの身体能力も策もない。
絶体絶命? 風前の灯火? そんな言葉で表す状況ではない。あのトリガーが引かれたら僕は消えるんだから。

「ほんの少しでも信用した私がバカだったわ」

何処で間違えたのだろうか。
笹森さんと組んだこと? 確かに組まなかったら僕はここで消えることもなかった。
さっきの戦闘で負けたこと? 負けなければ三人一緒にまだやれたかもしれない。
渚さんと出会ったこと? 出会わなければこんなこ――いやだ。
他の全てが間違いでもこれだけは間違いにしたくない。だって僕は。



「竹山くん」



渚さんに――――



「バイバイ」



恋をしていたから。




【時間:1日目午後5時ごろ】
【場所:B-2】



笹森花梨
【持ち物:ステアーTMP スコープサプレッサー付き(0/32)、予備弾層(9mm)×7、水・食料一日分】
【状況:左肩軽傷、古河渚への憎しみ】


竹山
【持ち物:水・食料一日分】
【状況:死亡】



092:Memento mori/Carpe diem 時系列順 095:袋小路の眺望
093:Liar Game 投下順 095:袋小路の眺望
080:白光の中の叫び 笹森花梨 103:終わりの世界の壊れた少女の小唄
竹山 死亡


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最終更新:2011年09月09日 00:36