白光の中の叫び ◆auiI.USnCE



「ふう……疲れたー」

腕を回しながら、少女――藤林杏は真っ直ぐ伸びた道を進んでいる。
長い藤色の髪を揺らしながら、大きく伸びをした。
殺し合いも始まって早々壮絶な追いかけっこをしたのだ、流石に杏もくたびれていた。
出来れば、少し休みたい気もしていたのだが、

「おい、杏……あの鉄の馬は放置していていいのか?」
「うんー? ああいいのよ、もう動かないし」
「そ、そうか……ううむ、よく解らないものだな。あれは」

杏の一歩後ろで歩いている怪しい仮面の男が、まだ暫く移動を続けるよう提案したのだ。
襲ってきた敵を撃退したとはいえ、あれだけでの物音を出したのだから他の人間に気付かれている可能性が高い事。
それと、杏達の足でもあったバイクの燃料が尽きた事も含めてだった。
それ故になるべく現場から離れるようにハクオロ達は大通りを只管直進している。

「けれど、ハクオロさん。これからどうするの?」
「知り合いを探すんじゃないのか?」
「それは当然だけど、でも知り合いを見つけるだけじゃ殺し合いは……」
「終わらないな。それは当然の事だ」

杏が思っていた疑問。
ただ殺し合いに乗らない、知り合いを探そう。
それだけでは殺し合いは終わらない。
至極当然の事で、ハクオロも杏の言葉を継いで言う。

「なら、どうすればいいの?」

だから、杏はその答えをハクオロに望む。
未だに半信半疑だが、彼は国を束ねる王らしい。
実際怪しさも半分あるが、風格も杏から見てそれにあったのだ。
そんなハクオロなら、もしかしてという期待。
ただの一般女子高生でしかない杏じゃ辿り着けない答えを持っている。
そう、願ったいたのだが。

「そうだな、首輪を何とか外してあの男を打倒する……そんな言葉が欲しいのか? 杏は?」
「えっ?」

彼は何かを諭すように、杏に言葉を返す。
確かに首輪を外す事は大切ではあるのだろう。
もしかしたら、そんな綺麗な言葉が欲しかったかもしれない。
虚をつかれて、戸惑っている杏にハクオロは言葉を重ねる。

「杏。必要なのはお前がどうしたいのかだ。誰かに縋って得た考えではいけない」
「私がどうしたい……?」
「そう。お前がこの殺し合いの中で、どう考えどう行動していくか……自分の意志で決めて動くのだ。その行動にこそ、意味がある」

ハクオロが杏に伝えたい事。
それは、杏がどうしたいか、自分の意志で考えて進む事。
その行動にこそ、意味があるのだ。

「私は……妹を、好きな人を守りたい」

そして、杏がポツリと呟いた言葉。
大切な妹を、好きな人を守りたい。
本心から出た、意志のこもった言葉だった。

「ならば、それを行えばいい」

その言葉にハクオロはやっと笑みを浮かべ。
杏の頭を軽く撫で、デイバックから何かを取り出した。

「お前は私に武器を与えたからな。今はお前には武器は無いだろう。かわりに使え。守るために」

一丁の自動拳銃と弾倉。
それが杏の手に渡される。
杏は驚き、ハクオロを見る。

「これを使えって……?」
「別に、そうではない。守るため……その心構えみたいなものだ」
「心構え……?」

心構えを、ハクオロは杏に伝えようとして。
その時だった。


「杏、危ないっ!」

わき道から、三人の集団が襲い掛かってきたのは。






     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「居ますね」
「居るね」
「居ます」

三人の人間が同時に同じ言葉を紡ぐ。
視線の先には、二人の人間がいた。
幸い三人には気付いている。

「幸先がいいですね」

そういったのは、眼鏡をかけた少年竹山。
この集団のリーダーである者だった。
竹山の言葉に、二人の少女が頷く。
黄色の髪の少女が笹森花梨。
茶色の髪の少女が古河渚だった。

「さて、前述の通り、僕達は彼らを殺します。いいですね?」

この集団は殺し合いに乗っている。
成仏させて、新たな人生を開く為に。
竹山の言葉に、花梨は頷いて。

「うん、了解なんよ。私も準備できてる」

花梨は少し楽しそうに、スコープ付きの短機関銃を持ち出す。
視線はもう、これから自分が殺す相手に。

「な、渚ちゃんは……?」
「私は……」

渚は一丁のリボルバーを取り出して考える。
視線の先にいるのは、渚と同じ制服を着た少女。
言うまでもない、渚の知り合いである藤林杏だ。
杏はいい人で、こんな自分の面倒を見てくれている。
とても優しい人だ。
それなのに、その人を殺す。
殺そうとしている。

いいのか。
それでいいのか。

迷い、戸惑う。
でも、自分達はもう死んでいる。
だから、だから。
いい人である杏は、ちゃんと成仏しなきゃダメだ。

「はい、大丈夫です」

だから、渚はコクンと頷く。
はんば、自分を納得させるように。
竹山はその渚の葛藤を知らずに

「じゃあ、行きましょう。相手は二人ですし虚をつけばうまく行くと思います」
「私が先陣を切ればいいんよね?」
「はい、笹森さんの短機関銃が有れば問題ないと思います……本当は僕に渡してくれればいいんですが」
「これは私が支給されたもんなんよ。手放す気はないんよ」
「はあ……そうですか」

竹山はやれやれといったように頭を振って、自分の支給された刀を取り出す。
そして

「じゃあ、いきましょう!」

その合図とともに、三人は駆け出す。
殺す標的の二人が、駆け出した三人に気付き、応戦しようとする。
そして、花梨が短機関銃を撃とうとした瞬間、


「え? きゃあああああああああああああ!?!?」


道に溢れ出る、眩いばかりの閃光。
その白光は花梨はおろか、竹山や渚の視界すら奪いつくす。



竹山の作戦は、愚策ではない。
しかし、唯一の誤算といえば、グレネードランチャーの閃光弾という強力すぎる武器を相手が持っていると気付かなかった事だ。


そして、戦いは混戦と相成っていく。






     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「くっ、まさか」

竹山は苦々しい声を出して、刀を杖に立ち上がる。
未だに光でちかちかする視界で辺りを見回す。
花梨や渚は光に驚いて、随分と自分から離れるように散らばっているようだ。
この状況を不味いと竹山は考える。
離散してしまったら、集団で襲う意味が無い。
各個撃破されてしまうのが落ちだ。

「早く、合流しなければ……」
「悪いがその時間は与える訳には行かない。 お前が頭か」
「なっ!?」
「集団は頭を叩くのが鉄則だ。まずお前からだ」

竹山の前に立つ男。
ハクオロが睨むように竹山を見る。
竹山が刀で応戦しようとするが、

「遅い……悪いがしばらく眠ってもらうぞ」

瞬く間に避けられ、そして手刀が首筋に落とされる。
それだけの事。
それだけの事で、竹山の意識は闇に落ちていった。






     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





あー! また襲撃!?
ハクオロさんが閃光弾使ったのはいいけど、私まで見えないじゃない!
どうしようどうしよう!?

手に持った拳銃。
人を殺せる武器。

これを使うの?
私が?

ハクオロさんが渡してくれた拳銃。
その拳銃がとても重たく感じる。
これで、私はどうする?
どうしたい?

私は……。
私は……。

撃てない。
これは人を殺す武器だ。
最初のアンドロイドじゃない、今度は人間だ。
だからきっと、私は撃てない。
撃ちたくない。


そして、視界が戻ってくる。
眼前にいるのは拳銃を持った二人の少女。
え?
殺される? 私は?
あの二人が拳銃を撃てば、私は死ぬ。

嫌だ。
いや。
そんなのいや。

死にたくない。
まだ死にたくない。
朋也にも会ってない。
椋にだって会っていない。
二人に会いたい。

まだ死ねない。
死にたくない。


そう思った瞬間。

手に持っていた拳銃がとても軽く感じて

銃の引き金を二回引いた。

とても、軽く感じた。


パンパンと軽い音が響いて。
視界も更に鮮明になってきて。


「え…………?」

撃った一人の姿が明らかになる。
あれは、知り合い。
古河渚、私の友達だった。

私は……友達を撃ったの?

拳銃が重たくなっていく。
身体の震え止まらなくなっていく。
血の気が引いて、たっていられない。

心が折れそうだ。

そう、だ……私は撃ったんだ。


撃ってしまったんだ……


大切な、友達を


撃った。


そんな……


私は……


「いやぁああああああああああああああ!!」






     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







「いやぁああ!? 目が!」
「笹森さん、落ち着いて……落ち着いてください」

突然の光で私達は混乱していました。
私は直接見なかったからよかったものの、笹森さんはじかに見てしまって目が殆ど見れなくなっている状況になってしまている。
笹森さんを落ち着かせようと思って、声をかけるも効果が無い。
私はどうしようか戸惑ってしまって、その場でおろおろするばかり。
その時、

「ひぐっ!?」
「え……?」

二つの乾いた音。
それが銃声と気付くのに大分かかって。
私の頬が軽く切れていたことに気付いて。
頬に血がしたった時、私は顔が蒼ざめて。
そして、

「痛いよぉ……」

花梨さんの制服が血に染まってるのを見ました。
そして、鉄の臭いが鼻をついて。


私は思ってしまう。

ああ、これが死だと。
生きていて、そして訪れる死。
今自分が、藤林さん達に与えようとした死。
それが余りにも自分が身近に感じて。


……あ。
もしかして、自分も死んでしまう?
いえ、でも自分はもう死んでいる。



……………………違う。

この頬の痛みと。
この血の臭いは。
この死の空気は。


現実に、あるモノだ。


つまり……私は死んでしまう……の……だろうか。


いや。

いや。

……嫌。


「嫌ぁああああああ」

漏れる絶望の声。
私はこの場に居たくなくて逃げ出そうとする。

「待って渚ちゃん! 置いていかないで! 私を置いていかないで!」

引き止める声。
それすらも、私は振り切って私は闇雲に走り去る。

怖かった、死が。
嫌だった、死が。

だから、私は逃げさっていく。


私は何処に行くのだろう?



藤林さんを殺そうとした私は



一体何処に行く事ができるのだろう?



でも、ただ、私は


死がとても嫌だった。



 【時間:1日目午後3時半ごろ】
 【場所:B-2】

古河渚
【持ち物:S&W M36 "チーフス スペシャル"(5/5)、.38Spl弾×30、水・食料一日分】
【状況:頬にかすり傷、恐慌状態】







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「ちっ……杏!?」

竹山を気絶させ、その武装を奪ったハクオロが次に聞いたのは、乾いた音と杏の悲鳴。
そして、地に伏せている少女一人と逃げ去っていった少女一人が見えて。
ハクオロは走って、杏のもとへ向かう。

「杏、大丈夫か!」
「は、ハクオロさん……わ、わた……わたし……う、撃っちゃ……た」
「おい、しっかりしろ!」
「わ、わた……し」

杏の瞳は虚ろで。
ただ目の前の事実が信じられないようにうわ言を呟いている。
ハクオロは舌打ちをしながら、杏の状況を感じ取り、

(くっ……撤退するしかないか)

眼鏡の少年や地に伏せているの事も気になるのは事実だ。
しかし、これ以上戦場の臭いが色濃いこの場所に杏を置いておく訳がいかない。
そう判断したハクオロは、苦虫を噛み潰すように

「杏、逃げるぞ!」
「わた……」
「ちっ、抱きかかえるが、文句は言うなよ!」

未だに虚ろな目を浮かべる杏を抱え、そのまま逃げ去っていく。


だから、ハクオロは気付かない。

地に伏せていた少女が怨嗟の声をあげていた事に。








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







痛い。
痛くてたまらない。

それなのに。

逃げた。
逃げられた。

あの女に。

私が怪我を負ったのに。
彼女は逃げたんだ。
自分の命可愛さに。

私だってまだ生きているのに。
あの女は、逃げちゃった。

私だって、怖い。
痛いのは嫌だ。

そんなん、皆一緒なのに。


古河渚は、一人で逃げ出した。


撃たれた肩がじくじくと痛む。
血が止まらない。
涙が溢れてくる。

それなのに、頭は沸騰するくらい熱かった。
それなのに、心は真っ黒く染まっていくのを感じる。


「……せない」


この感情は何だろう。


「……許せない」


怒り。
怨み。
そんなのだろうか。


「絶対に、許さない」


一人で逃げ出したあの子が。
私を置いていったあの子が。


「絶対に……絶対に……」



古河渚が



「絶対、殺してやる」




殺したくなるほど、憎い。



 【時間:1日目午後4時ごろ】
 【場所:B-2】



笹森花梨
【持ち物:ステアーTMP スコープサプレッサー付き(32/32)、予備弾層(9mm)×7、水・食料一日分】
【状況:左肩軽傷、古河渚への憎しみ】


竹山
【持ち物:水・食料一日分】
【状況:気絶】







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「ほら、水だ……落ち着いたか?」
「……ありがとう、ハクオロさん」

戦場から大分離れた民家に、ハクオロと杏は居た。
ハクオロの懸命な語りかけの結果、杏は大分落ち着きを取り戻してきている。
しかし、友人に向かって撃ってしまった。
その事実が杏を苦しめている。

「私……渚に向かって撃っちゃった……そんなつもり無かったのに」

杏の手が震えている。
当たり前かもしれない。友達を撃ってしまったのだから。
殺すつもりはなかったなんて言葉は免罪符にすらなりえない。
延々と杏を苦しめるだろう。
銃を不用意に渡してしまったハクオロにも非はある。
それをハクオロ自身が理解している。
理解しているからこそ、彼女に言葉をかけなければならない。
あの時、伝えられなかった心構えを。

「杏。人は余りにも呆気なく死ぬ。私とて例外ではない」

人は簡単に死んでしまう。
どんな人であれ、致命傷を負えば死んでしまう。
意志を持っていても、それすらも捻じ伏せて。

「そして、人を簡単に殺してしまうのは、その武器でもあろう」

例えば刀、例えば斧。例えば弓矢。
そして杏が持っている拳銃もそうだ。
刀ならば、切れば死ぬ。
拳銃ならば、撃てば死ぬ。

「武器は余りにもあっさり殺してしまう事ができる」
「……じゃあ、なんでそんなモノを私に渡したのよ……」

杏の若干怨みも篭った声。
そんなモノを自分に何故私渡すのかと。

「しかし、武器を使うのもまた人だ」

ハクオロは語る。
武器を使うのもまた人だ。

「それをどう使うのかを決めるのも、また人でしかない。杏」
「どう使うって殺すしか……」
「意志の問題だよ。武器を護る為に使うのか。それとも殺すために使うのか」
「言葉を変えただけじゃない」
「そうかもしれないな。けれど、それでも自分が持てる意志は違うぞ?」

人は意志を持つ事ができる。
武器を護る為に使うのか、それとも殺す為に使うのか。
他にも使い道があるのかもしれない。
それでも、それを決めるのはまた人だ。

だから、

「武器に使われる事は決していけない。杏」

武器に、使われてはならない。
それでは、何の意志も無く人の命を奪ってしまう。

「君が友達を撃ってしまったのは変わらない事だ。だが」

変わらない罪。
けれども

「それを受け止める事は辛いが……けれども、君はそれ受けて、どう生きていく? どうしたい?」


撃ってしまった事実。
それを受けて、藤林杏はどう生きていくのか?
ハクオロの視線は慈愛に満ちていて。

杏は、その言葉を受け止め考える。
撃ってしまった友達。
悔いても悔いても悔やみきれない。
だけど、そのことは変わらないのだ。
泣いても泣いても、変わらない。

なら、

「謝りたい……撃ってしまった事……渚に謝りたいよ……」


その撃ってしまった事を友達に謝りたい。
それが、杏に今出来る事。
杏が今したいことだった。

ボロボロに泣きながら、それでも決めた、杏が今したいことだった。


「なら、それをすればいい」


ハクオロは笑う。
そして。


「お前がそれをしたいのならば、私はお前が為すべき事に全力で手を貸そう」


力強く放たれたその宣言は。
杏から見ても、正しく王たるものの言葉だった。




 【時間:1日目午後4時ごろ】
 【場所:B-3 民家】

 藤林杏
 【持ち物:H&K P2000(15/16)予備弾倉(9mm)×6、水・食料一日分】
 【状況:健康】


 ハクオロ
 【持ち物:ゲンジマルの刀、エクスカリバーMk2(0/5)、榴弾×15 焼夷弾×20 閃光弾×18 水・食料一日分】
 【状況:健康】

※ミニバイクはb-2の近くに放置されています



078:Strange encounter 時系列順 081:be ambitious
079:Full Metal Sister 投下順 081:Hariti
035:Machine Heart 藤林杏 128:枯死
ハクオロ
040:「クライストとお呼びください」 古河渚
竹山 094:そらに響くは彼女の嘲笑
笹森花梨


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最終更新:2011年09月06日 18:29