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思い願うこと、貫くこと~Several Cross-Point~ ◆5ddd1Yaifw



「おい」
「どうかしましたか、野田くん」
「ずっと考えていた。俺は、あの女が許せない」

ふと、思った。あの小さい女に言われた言葉。
お前は狂っている。その言葉は俺を怒りに駆り立てるのには十分だった。
紛れもない本物の怒りが頭の中に充満していることを自分でも理解している。

「個人的に気に入らんというのもあるがな」

生命なんて軽い。簡単に、人は死ぬ。それは生きていた時から俺にとって不変の事実として在った。

「殺しの痛み、とあの女は言った。殺しに痛みもクソもあるのか?
 有る訳がない、死ねばそこで終り……それ以上は存在しないんだ」

その考えの中核には俺の過去が基因しているのだろう。人からは壮絶、悲惨、その他諸々と哀れみの目で見られた。
俺自身としてはそれが悲しいのか、苦しいのか、楽しいのか、よくはわからなかった。他人の人生をまともに知らないんだ、当然のことだ。
ともかく、まともな人生ではないらしい。俺からすると“まとも”な人生とは何だ? と疑問を投げかけたくなるものだが。

「何の意志も持たず殺すことを許容するのはおかしい……俺からすると可笑しいのはアイツの方だ。
 意志だの信念だのごちゃごちゃと小賢しい。それらを持っていたとしても殺すということには何も変わりはしないだろうが」

意志がどうした。信念がどうした。そんなモノを伴った殺人と俺の殺人に違いなどあるのか。そもそも人を殺すことに違いなんて有るのか。

「まあ、そんなことはどうでもいい。何よりも俺が許せなかったのは俺等の戦線を狂っているの一言であの女が否定したことだ」

俺等に意志がないだと? ゆりっぺを護ると言う俺の信念をただの狂っているの一言で否定しただと? 
ふざけるなよ、余り俺を、いや俺等の『死んだ世界戦線』を嘗めるな。
復讐、ただこのまま終わることを認められずに神との戦いの道を選んだ集まりだった。
それは決して遊びなんかではなく本物だった。

「俺個人のことはいい、いくらでもバカにして構わん。だが、あいつは戦線を、ゆりっぺを侮辱した」

神への復讐を続けていた俺等の今までを、狂っているの一言で終わらせたあの女、到底許せるものではない。
人は何度でも蘇る。俺等が当たり前と思っていた事実。それをありえないとあの女は言っていた。
だからどうしたというのだ。そんなことで俺の進む道は変わらない。

今まで通り、敵は叩き潰す。ゆりっぺに刃が届く前に俺が全て叩き潰す。
そして。

「俺は次にあいつと会ったら、場合によっては殺すだろう」

あの女の戦線とゆりっぺに対しての侮辱は俺の許容範囲を大きくオーバーしている。もう、我慢など出来ない。
もし次に会う時、同じように侮辱をしたら……その時は――殺す。
あの時は動けなかった。動いたとしても日向達に止められて有耶無耶にされてしまうだろうと考えた結果だ。
それに俺一人であの変な武術を使う女と日向を同時に相手取ることは難しいだろう。
今度は違う。一人ついて行った奴がいるが関係ない。邪魔をするのなら叩き潰すだけだ。

「戦線の前線を張る者として、最初期からいる者として、これだけは譲れない」

今進んでいる道はもう止まれないし、戻れない。
自分は戦線の初期メンバーとして長く戦いを続けてきた。故に俺は、戦線を護らねばならない。
あの女は俺達の戦線の絆を壊す可能性がある。あの女が持つ理想は、毒だ。
俺達に対しては効果抜群な猛毒、その毒が蔓延する前に俺が始末する。

「俺は貴様には勝手にしろといった。だが、邪魔立てするなら容赦はしない、斬る」

こいつはこんな俺に対しても“普通”に接してくれた。
絶対に口に出しては言わんがこいつには助けられた。一緒にいてくれて、嬉しかった。
俺から見てもわかるぐらいなんだ、牧村南は、イイヤツなのだろう。
だからこそ、これ以上俺に付きあわせて危険な目には合わせたくない。

「貴様とは、此処でさよならだ」



◆ ◆ ◆



「お断りします」

私の答えははっきりと決まっていた。
余りにも簡単すぎる問いかけ。こんなの初めからわかっている出来レースみたいなものです。

「なぜだ……」
「なぜも何もありませんよ。お断りします、私はそう言ったんです」

苦々しく顔を歪める野田くんの目を真っ直ぐと見つめる。ここで目を逸らしたら駄目だ。
野田くんは私のことを真剣に案じてくれたんだ、私もそれに対して真剣に向き合わなければいけない。

「俺は貴様を斬るかもしれないと言っているのだぞ!? 怖くはないのか!!!!」
「怖いですよ」
「なら……ここで別れた方がお互いの得になるだろう」
「私は怖いとは言いました、ですけどそれとこれとは別です」

それに私は知っている。言動はガサツで後先考えずに行動する。人を殺すことにも躊躇はない。
だけど、野田くんが本当はとってもいい子だってことを私は知っているんだ。
思えば森の中を歩いている時も歩くのが遅かった私に気を使ってかペースを合わせてくれたりしていた。
そんな粗暴だけど優しい子をこのままほっとける訳がない。

「住む世界が違う俺と貴様では息が合わん」
「そんなの私が野田くんと別れる理由になってません。私は自分の意志で野田くんと一緒に行動するって決めたんです」
「ぐぬぬ……だが、俺はあの女を……!」

一番の問題はそれだ。野田くんの生きた世界を狂っているの一言で否定したあの子――クーヤちゃん。
クーヤちゃんと野田くんの確執を解消しない限り先は見えない。

「そのことなんですが、野田くんと話す前に私とあの子……クーヤちゃんとお話をさせてください」

だから私が間に入ってこの二人をとりなさなければいけない。
あの一緒に付いて行った子は雰囲気を見るかぎりではクーヤちゃん寄りだ。今の野田くんにとっては気を逆なでするだけだと思う。
それに私自身もクーヤちゃんには思うところがある。

「私も野田くんの怒りはもっともだと思っています。野田くんは野田くんなりに精一杯戦ってきたんでしょう?」
「当たり前だ……! 俺等の戦いは狂っているの一言で否定されるものじゃない!!!」

なぜあんな頭ごなしに否定したのだろう。『狂っている』。その一言は野田くんの全否定に他ならない。
そんなことを言われたら誰だってあんな風に敵意を持ってしまう。
もっと中立の立場でものを言えたのではないか。和解の道があったのではないか。
できれば彼女には感情に身を任せずにいてほしかった。

「私もそう思います。例え野田くんの戦いが間違っていたとしてもそれを安易に否定していい資格はありません。
 だから、私がクーヤちゃんに謝るように説得します。それで手打ちにしてくれませんか?」
「ふん、あいつがそんなことをする奴だとは思わんがな」

野田くんはそっぽを向いて鼻を鳴らす。一度張り付いた敵意はそう簡単に剥がれはしない。
態度から見てわかるように野田くんはクーヤちゃんを心底嫌っている。

そして、クーヤちゃんも野田くんを好いてはいない。

「じゃあ、もしクーヤちゃんがきちんと謝ったら野田くんも同じように謝るんですよ」
「むぅ……何故だ!」
「今までの常識で人が生き返るとしてもいきなり殺すのは駄目です。
 ここでは野田くんのいた世界と同じだとは限らないんですから。ね?」
「だが俺は!!!」
「ね?」
「戦線の前線を担っている身として!!!」
「野田くん」
「っ…………………………努力する」

うん、やっぱり野田くんはいい子だ。話したらちゃんとわかってくれた。
これで後はクーヤちゃんと出会った時……私がきちんと説得できるかにかかっている。

「いいだろう、今は貴様を信用してやる。だが、次に奴が戦線の侮辱をしたら……俺は抑えない」
「させませんよ。その時は、私が野田くんを止めちゃいますから」



 【時間:1日目午後5時00分ごろ】
 【場所:G-4】


野田
【持ち物:抜き身の大刀、水・食料一日分】
【状況:軽傷】

牧村南
【持ち物:救急セット、太刀の鞘、水・食料一日分】
【状況:健康】


106:漆黒の羽根にさらわれて 時系列順 071:Rebirth Syndrome
111:少年の主張、あるいは言訳 投下順 113:doll
076:死と狂いと優しさのセプテット 野田 131:キミとは致命的なズレがある
牧村南


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最終更新:2011年09月09日 02:08