温もり ◆auiI.USnCE
――――私は、僕は、その温もりを、知らない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「死んでるわね……」
「言わなくても解るだろう。これが動き出すと思うのか? 貴様は?」
「そんな訳ないじゃない。そういう貴方こそ随分と含みのある言い方じゃない」
「…………ふん」
真昼の学校の資料室。沢山の本や教材で囲まれた部屋で、少女が二人死んでいた。
一人は血だまりの中で、栗色の髪を赤に染めながら、蹲って死んでいる。
もう一人は両手で胸をナイフを突き立てたまま、天を仰ぐように、仰向けで死んでいた。
その凄惨な光景を、直井文人はつまらなそうに見下ろしている。
彼の隣では充満する血の臭いに耐えられないのか、あるいは死体を見てしまったせいか、それともその両方か。
二木佳奈多が死体から目を逸らし、綺麗に整った顔をしかめていた。
「まだ死体も其処まで堅くは無いか……当然か。始まってそれほど時間も立っていないしな」
直井はそんな佳奈多をつまらなそうに一瞥して、黒髪の少女の死体を触り何時頃死んだかを確認する。
死体は自分がいた世界で見慣れていた。何故ならばそういう世界だったのだから
死体に触れ合う機会も沢山あった。全く嬉しくも無かったが。
ふざけた世界だったなと思いつつ、直井は状況を俯瞰的に見て呟く。
「殺してしまって……自殺……だろうな」
「まあ自殺にしか見えないけど……だとしたら随分と弱い考えね」
「ふん、衝動的に殺したかもしれんぞ。襲われたから殺しましたなど有り得る」
「……それでも、弱い考えよ」
口元をハンカチで押さえながら、佳奈多は死体を見て直井に応える。
なにかしらが起こって、黒髪の少女が栗色の髪の少女を殺した。
そして結果的に黒髪の少女が自殺した。
その推測に多分大方間違っていないだろうと佳奈多は思う。
変な事を言ったら罵倒してやろうと思ったのに。
佳奈多はそう思い、溜息をつく。
そして、ゆっくりと少女の目を閉じさせた。
その行為に憐れみや不憫に思ったなんて感情は無い。
ただ、何となくだ。見開いた目が気持ち悪かった。
それだけ。
直井が自分を興味深く見つめていたのが凄く気に入らなかったが。
「まあ、いい。武器を回収するぞ」
「ええ、互いにたいした物持っていないし」
「ふん、使えん奴だ」
「貴方だって、くだらない仮面に喜んでいたじゃない」
「何だと……貴様」
そして、互いに醜い罵倒を暫くする。
死んでいる少女を無視するが如く。
目の前の少女達に、二人は特に思う事が無かった。
しいて言うならば、死んだのが探し人ではなくて良かった。
それぐらいだった。
ただ、弱い人が死んだ。
それだけの事で、他に思うこともないはずだ。
「このナイフは……使えるな」
直井は少女の胸に杭の様に刺さったナイフから、少女の指をほどいて引き抜いた。
そのまま、ナイフにべっとりとついた血を部屋にあったタオルでよくふき取る。
そして、置かれてあったデイバッグを開き、中身だけを回収する。
直井と佳奈多は靴の裏に着いた血を近くにあった水道で軽く洗い流し、万全の準備をした。
淀みない行動で、やるべき事をすべて終わらせた直井が佳奈多に話しかけて
「よし、行くぞ。もうこの場には用が無い」
「……弔いとかは……必要ないわね」
「何を馬鹿な事を言ってるんだ。死体でも見て臆病さが増したか?」
「別に。貴方こそやけに急ぐじゃない。死体が怖いのかしら?」
「馬鹿な……気になる事があるだけ……別にお前にいう事ではない……ふんっ」
「……ふん」
お互いに鼻を鳴らして、そっぽを向く。
直井が気になってたのは一点。
ゆっくりしている間に、死体が『動き出したり』しないかだけ。
確かめるのもありだったが、それは少し厄介な事になるかもしれない。
そのリスクを考えると、立ち去るのが一番いい。
直井はそう判断し、血の臭いから部屋を立ち去っていく。
佳奈多は、そのまま直井についていくように、退出しようとして。
一度だけ、振り返り、死体を一瞥して。
静かに扉を閉めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……っ、死んでる……な」
「ええ」
香月恭介と須磨寺雪緒が資料室を訪れたのは、丁度直井達とすれ違うぐらいのタイミングだった。
恭介達が資料室を訪ねたのは偶然ではなく、幾つか要因がある。
一つは廊下にまで漂ってきた血の臭い。
もう一つは接触は出来なかったが恭介が偶然見つけた影。
学帽と長い紫色した髪の少女が部屋から出て行ったのを遠めで確認したからだ。
何かあると慌てて、恭介は部屋に入ったのだが、目の前の凄惨な光景に息を呑むしかない。
「あいつらが……殺した……のか?」
恭介は髪に手を乗せて、唸るように言葉を発する。
目の前の現実が余りにも、酷すぎたから。
殺し合いが始まって三時間足らずのうちに、二人も死んでしまった。
しかもその現場は余りにも凄惨で。
思わず、目を背けたくなってしまう。
けれども、背く訳には行かなかった。
今、目の前にある光景から逃げたら、きっと何もできやしない。
それを恭介は理解して、気を強く持とうとする。
これから起きるであろう困難に負けない為にも。
「でも、冷たいわ」
そう、呟いたのは須磨寺雪緒だった。
黒髪の少女の頬を撫でながら、静かにその顔を見つめている。
雪緒の表情は無く、儚げだった。
「じゃあ、今さっき殺した訳……じゃないのか」
「ええ。多分」
「それでも、殺した可能性は有りえるな……くそっ」
思わず、恭介は舌打ちをしてしまう。
辺りをざっと見回しても、其処に有るべきものが無い。
そう、凶器と殺された人の支給品が入ったバッグがないのだ。
答えは簡単で、あの二人が持ち出した可能性が高いという事。
殺して奪ったと考えるのが妥当だろう。
そう考えると、同じ学校に居て止められなかった事がただ、悔しい。
後悔しても、仕方ないというのに。
「…………でも、この黒髪の女の人。自殺かもしれないわ」
「……はっ?」
悔しそうな恭介の顔を横目で見ながら、雪緒は呟く。
予想外の言葉に、恭介は少しだけ唖然とした表情を浮かべた。
「今は解かれてるけど、何を握ってたみたい。手も丁度胸元の傷の所に」
「それで?」
「血も自分の腕に沢山かかってる。まるで自分で、胸を刺したように」
雪緒は、確認するかのように、呟く。
死んだ彼女を慈しむように。
また、とても羨ましそうに。
とても、その様子は脆く、見えて。
「あなたは、綺麗な世界が見つかった?」
もう、二度と動かない骸に語りかけて。
もう一度、頬を撫でる。
撫でられた顔は、死んでいるのにとても穏やかに見えた。
恭介は、そんな脆い光景が、嫌でしょうがなくて。
「そんなもの……ありやしないっ! あるのはただ凄惨な光景だけだっ!」
強い言葉を吐いてしまう。
この光景の何処が綺麗で美しいというのだ。
充満した血の臭いと、汚れきった赤黒い血で染まった床。
そんな光景は、ただ悲惨で哀しいだけだ。
「そう。あなたはこの光景を見てまだそういうの?」
「ああ。言ってやるさ。二度とこんな光景つくってたまるか」
雪緒は少しだけ怒りを籠めた言葉で恭介に尋ねる。
そんな雪緒を否定するかのように、恭介は言葉を紡いだ。
二度とこんな光景は作らない。
そう、堅く近いながら。
「そう。あなたはそう言うのね……分かったわ。賭けはまだ終わっていないわ」
目を閉じて、雪緒は頷く。
それはこの光景が、綺麗な世界では無い事。
少なくとも、須磨寺雪緒にとっては、これは綺麗なものではないという事。
それだけ、それだけの事だった。
頷いた雪緒の表情がとても複雑で、恭介にはその感情を読み取る事が出来なかった。
「よし……なら」
恭介は、そのまま窓際まで移動して、真っ白いカーテンを力任せに取った。
途端に、日の光があっというまに部屋に充ちる。
雪緒は少しだけ眩しそうにして、恭介の突然の行動に興味深そうに眺めていた。
「今はこれだけしか出来ないが……」
そして恭介はそのカーテンをそっと二人にかけた。
純白のカーテンは瞬く間に真紅に染まっていく。
恭介がおこなった事。
それは、簡易的な埋葬だった。
「このままにしていくには忍びないからな」
少しで、名も知らぬ少女に黙祷する。
どんな人間かは分からない。
けれど、失った命が少しでもやすらかになるように。
恭介は、そう願わずには居られなかった。
「あなたは……やっぱり『そういう人』なのね」
その行為を雪緒は眺めながら、恭介に聞こえないように呟く。
恭介を眺める彼女の視線は今までと少し違って。
何処か温かみのある、綺麗なものを見るような、目だった。
「じゃあ、行くぞ。殺人者が居るかもしれないし、此処は危ないからな」
恭介は黙祷を止め、雪緒の手をとって駆け出す。
急に手を取られた雪緒は驚きながらも、恭介に従いおなじく駆け出した。
恭介としては、自殺したかもしれない少女の傍に。
余りにも近い『死』に。
須磨寺雪緒を置いておきたくなかった。
それだけの事。
雪緒はそんな恭介の想いをしってか、知らずか。
一度だけ、死んだ少女の方へ振り返ろうとして、そのまま止めたのだった。
そして雪緒の前には、手を引っ張る少年の姿が居て。
ふっと、少しだけ、表情を和らげたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「二木」
「何よ?」
「いきなりむすっとするな。お前はそんな顔しか出来ないのか?」
「あら、他の顔がお好み? 貴方も似たような顔をしてるくせに」
「ふん」
「ふん」
昼下がりの廊下を、二人は相変わらずむすっとした表情で進んでいた。
会話と言う会話は殆ど無く、ただ黙々と。
そして、たまに口を開くとこうである。
互いの気性もあるのだろうが、何度も続くとお互いに鬱陶しく感じてくるのもあったのは事実だった。
「お前は人を殺した事があるのか?」
「……無いわよ。そういう貴方はあるというのかしら?」
「……あると言えばいいのか。無いと言えばいいのか」
「何それ? 頭可笑しいんじゃない?」
「……」
「あら、否定しないのね? 珍しい」
「ふん、お前に付き合うのが面倒になっただけだ」
直井が佳奈多に聞いたのは、殺人の有無。
この殺し合いの場にて、大事な確認だった。
けれど、佳奈多は当然のように不快感を示しながら否定した。
逆に同じ事を問われた直井はとても複雑な表情を浮かべ、何処か遠い所を見る。
頭が可笑しいという侮辱さえも否定できなかった。
何故なら、直井が居た世界は「そんなもの」なのかもしれないのだから。
「まあいい。じゃあお前は差し迫った時……殺せるか?」
核心を突くように直井は言葉を紡いだ。
佳奈多に覚悟があるかと。
直井の眼差しをとても真剣で、そしてとても冷たく。
佳奈多は心が貫かれそうになるが
「……すわよ…………殺すわよっ」
搾り出すように、声を出す。
思い浮かぶのは大切な妹の顔。
憎まれてるけど、怨まれているけど。
それでも、大切な人の笑顔。
「…………あの子を護りたいから」
護りたいから。
護るべき人がいるから。
だから、佳奈多はそう強く言った。言えた。
「そうか、僕もだ」
直井は皮肉そうな笑みを浮かべて、佳奈多の考えに同調した。
其処に嘲りは無く、心からその考えを賞賛するように。
その笑みに、佳奈多も表情を崩し、
「そう、それはよかったわ」
少しだけ、笑った。
少しだけ、少しだけど。
直井との距離が縮まった気がした。
そして、少しだけ解った気がした。
それだけだった。
互いに、少しだけ笑ったその時、
「此処も収穫無かったじゃね……おう、ガキ二人発見」
「ええ、そうですね」
隣の教室からがらっと扉が開いて。
其処に二人の中年の男が立っていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「じゃあ、おめーらガキ達も学校探索してたって事か」
「ああ……というかガキと言うな」
その中年二人は同じく学校がスタート地点だったらしい。
教室片っ端から探してた所、直井達に遇ったらしい事だった。
話を進めている中年というかそっちの方がガキみたいな男は古河秋生といい。
冴えないいかにも中年の男性と言った風采が、岡崎直幸と言った。
「とりあえず、殺しの方は」
「ええ、乗ってないわよ」
情報交換を平常に直井達はこなしていく。
ここで反抗してもいい事は無いと判断したためだ。
元々、大人の顔色を見続けていた二人だ。
大人が喜ぶ事、大人が嫌がる事。
それくらい解るつもりだ。
自分の都合のいい時だけ、喜んで。
反抗したり、機嫌が悪い時だけは直ぐに手を振るった。
そんな、存在。
でも、さからえなくて。
だから、佳奈多達は従った。
佳奈多は葉留佳の為に。
直井は認められたくて。
自分を消してまで、頑張った。
でも、大人は何時でも冷たいそんな存在だった。
それが大人だと思ってた。
「ふーん。じゃあ、さっき廊下で言ってた事、何だ?」
聞かれていた。
直井達は言葉を交わすことも無く目配せして口あわせをする。
こういう罪を咎めようとして自分達を弾劾するのも大人だ。
悪い事をするなと言葉だけ言って自分たちはすぐ手をあげようとする。
そんな連中だ。
「別に。ただの確認ですよ。襲われた時とか殺さないといけない時だってありますしね」
「ええ。そういう時もあると思うので」
実際、今はまだ乗ってないのは事実なのだ。
言葉だけを捉えて殺し合いに乗ってると勘違いされても困る。
だから、直井達は更に弁明をしようとして
「…………でも、その服についてる血痕は?」
ぼんやりとした口調で直幸に尋ねられた。
直井と佳奈多は焦って服を見る。
佳奈多の腕の服と、直井の足の裾にほんの少しだが血がついていたのだ。
あの資料室の時、ついたのだろう。
迂闊だった、迂闊だったとしかいいようがない。
「それは……資料室に遺体があったからですよ」
「ええ。その遺体を見てたときについたかも」
これは釈明ではなく事実だ。
でも、大人はきっと自分の都合のいいように解釈をする。
だから、きっと直井達が殺した。
そう、解釈するに決まっている。
「……じゃあ、とりあえず連れていって貰うぜ。其処に」
「いいですよ」
直井は偽りの笑顔で微笑んで頷く。
隠し持ったナイフを最悪使う事を考えながら。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……?」
「どうした?」
「いえ、今学校に人影居たような気がして」
「……どうする? 戻るか?」
「いや……いいわ。気のせいかもしれないし」
校門から走って出てきた恭介と雪緒。
雪緒は学校の方を見て、人影を見た気がするが、気のせいだったかもしれない。
そう、雪緒は結論付ける。
あの学校は綺麗な場所じゃなかったから。
だから、戻りたくないだけ。
「ねえ、あの二人の事、後悔してる?」
雪緒は資料室で死んだ二人の事を思う。
恭介はあの二人を救えなかった事を後悔していたようだ。
仮定の話だが、雪緒に会ってなかったら恭介は救えたかもしれない。
そんな可能性だってあるのだ。
「……まあ、救えたかもしれないのは確かだ。実際ちょっと悔やんでいる」
確かにあの時、恭介が気付いていれば救えたかもしれない。
だから、後悔は少しだけある。
でも、
「それでも、お前を助けられたからいいさ」
結果的に雪緒にあって雪緒を助けられた。
それもまた、事実なのだから。
だから、今は前を向いて。
救えるかもしれない命だけを考える。
それだけだ。
「そう」
雪緒は、その言葉に短く応えて。
ただ、握られた手を少しだけ、強くした。
【時間:1日目午後3時半ごろ】
【場所:E-6 校門前】
香月恭介
【持ち物:
ハリセン+鼻メガネ、火炎瓶×3、硫酸ビン×2、マッチ、水・食料一日分】
【状況:健康】
須磨寺雪緒
【持ち物:不明支給品、水・食料一日分】
【状況:健康】
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「死んでる……ね」
直幸はそう呟いて、手を合わせる。
秋生を黙って、それに追随した。
けど、そんな大人二人を警戒しながら、直井達は少しだけ驚いて遺体を見ていた。
遺体にかけられたシーツ。
それは直井達の後にかけられたもので間違いないだろう。
つまり、直井の後に着た人が居るという事。
推測できるのは、それくらいだった。
ただ、もしかしたら自分達が出て行くことを見られた事も視野に入れながら。
「畜生……まだガキじゃねーか……」
秋生は悔しそうに言っている。
それは本心からだろうか。
それとも、ただの演技?
疑うように直井達は秋生を見つめている。
「おい、お前達が見たときにはもう、死んでいたんだよな?」
「ええ。其処の栗毛の人はうつ伏せに。黒髪の人は自殺してました」
「黒髪の少女が自殺につかったナイフは僕が回収したんだよ。何分自衛に使うものが無かったですから」
見たままの事実を告げるだけ。
嘘をつく必要なんて無い。
でも、と佳奈多と直井は思う。
どうせ
「ふぅーん……」
「疑ってますか? 私達が殺したって」
大人ってそんなものだ。
あざけ笑うように佳奈多は言う。
事実を言ったって、大人はそうやって悪い方に考える。
悪い子供だって、思うんだって。
「そりゃあそうですよね。僕達がやったようにしか見えませんから」
直井も追随して、言葉を紡ぐ。
状況的にもそうしか見えないから。
だから、大人は殺したって思うんだ。
そうして、悪い子供だと。出来損ないの子供だと。
勝手にレッテルをつけるに決まっている。
「そうか」
秋生が二人に近づいて見下ろす。
直井は背後に隠してあったナイフに手をかける。
そして
「悪い子ぶってんじゃねーぞ、このクソガキ共っ!」
「いてっ!?」
「いたっ!?」
秋生は、二人に思いっきりデコピンをする。
力を籠めたデコピンは思いっきり二人にヒットして、二人とも悶絶する。
何が起きたか、解らない。
「何が、疑ってるだ。私達が殺したようにしか見えないだ。バーカッ!」
「……な、何?」
「いいか、よく聞けよっ」
秋生は困惑する二人に向かって、言葉を紡ぐ。
「てめーらみたいなガキが懇願してるように言ってる事、信じてやるのが大人の役目だ。馬鹿野郎っ」
懇願している?
自分達が?
そんな風に見えたのか。
「そんな簡単に殺しなんて、出来るもんじゃねえんだよ。怯えるようにしやがって。
いいか、てめーらみたいな悪い子ぶったガキはな、もうちょっと大人を信じやがれ」
「信じられる……もんかっ……実際殺してたら、どうするんだよ」
「その時は沢山叱ってやる。そして一杯叱った後許してやるよ」
「殺されるかもしれないのに?」
「しるかっ、そんなもん。第一、てめーらみたいな悪ガキに殺される秋生様じゃねえんだよ!」
食い下がっても、全て否定される。
こんな大人は見た事が無い。
こんな、厳しくも優しい言葉なんて、大人から聞けるなんて有り得ない。
可笑しい、そんな訳が無い。
「全く……ガキみたいな古河さんが言っても」
「なんだぁ? 岡崎さんまで何を」
「でも、直井君、二木さん」
今度は直幸が自分達を見つめてくる。
その瞳は何故かとても優しく温かく見えた。
「子供はもっと自由にしていいんだよ……そんな大人の顔色ばかりみないで……真っ直ぐに自由にね
……私は今まで出来なかったけれども……そして、そんな子供の自由を守るのも、また大人の役目だよ」
ぽんぽんと頭を撫でてくれる。
その手が大きくて、大きくて。
とても、温かった。
これが、大人?
こんな温かさが大人だというのか。
じゃあ、自分達は一体今まで……?
「解ったか、ガキ共。ころしてねーんだったら、はっきりそう言いやがれ」
秋生の言葉が響く。
大人の優しい視線が注がれる。
解らない。
解らない。
これが、温かいもの?
これが、優しいもの?
こんな、存在が大人?
解らないけど。
「僕(私)達は、やっていない」
そう言えた。
そしたら、大人たちは。
「じゃあ、信じてやる」
笑ってそう言ってくれた。
それだけの事だった。
でも、確かな変化だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「よし、なら少し休むぞ」
「そうだね、死体を見て疲れてるだろうし……」
大人たちがなにやら話している。
子供達は戸惑いながら追随している。
「ねえ」
「何だ?」
最初にあげた三人から四人になっている。
それなのに、そのまま行動している。
「正直……戸惑っている?」
「ああ、僕もだ……ただ……」
直井は何かくすぐったいように、言葉を紡ぐ。
「解らないんだ……今まで、こんな事無かった」
「ええ……私もよ」
前を進む大人を見て、とても輝いてるように見える。
「……こんな時、どうすればいいか…………解らないんだ」
「………………そうね。私も解らない」
笑えばいいのか。
喜べばいいのか。
解らなかった。
「……本当、こんな所まで似てるなんてね」
「……ふん……そうだな」
佳奈多が諦めたように笑い。
釣られるように、直井も笑った。
すこしだけ、互いに親近感が出て。
前を進む大人たちを見て。
また、少しだけ笑った。
【時間:1日目午後4時半ごろ】
【場所:E-6 学校】
古河秋生
【持ち物:不明支給品、水・食料一日分】
【状況:健康】
二木佳奈多
【持ち物:大辞林、水・食料二日分】
【状況:健康】
直井文人
【持ち物:マスク・ザ・斉藤の仮面、不明支給品(有紀寧)、ボウイナイフ、水・食料二日分】
【状況:健康】
最終更新:2011年09月06日 18:49