お姉ちゃんの3乗~殺×殺×殺~ ◆5ddd1Yaifw
ビルが立ち並ぶオフィス街にビュウと風が一陣吹いた。めくれるピンク色のスカート。たなびく燃えるような赤の長髪。
「殺しあいねぇ……」
そのつぶやきは風の吹く音によってかき消される。
向坂環は簡単に言えば迷っていた。
(私はどう動くべきなのかしらね? 大事な幼なじみと弟を護るためにこの殺し合いに乗るべき?
それとも抗うべき?)
自分の大切な人達を一人だけでも確実に生き残らせる為に進んで殺し回る闇の道。
全員一緒に協力して笑って元の日常に帰れるよう頑張る光の道。
環の行動方針は大切な人達を護るためだけにあり、後はどうでもいい、勝手に殺し合っていればいい。
(最も、どっちにしろみんなに害意を持つ存在は私が排除するけどね)
環は殺しを否定しない。大切な人達を護るためなら殺しを許容してもいいと思うほどだ。
別にこれは環が非道な人物というわけではない。ただ、大切なものへ掛ける比重が他の人に比べて重いだけ。
それに加えて自分は幼なじみの中では年長者だという自負もある。
私が頑張って皆に対する危険を取り除かないと。その意志が環をこのような考えに導いた。
「さてと、どうしましょう」
思考が最初に戻る。どちらを選択するか。どれほど考えようとも答えははっきりとしない。
ぐるぐる迷路をさまようような、小骨が喉に引っかかっているようなもどかしさが環を悩ませる。
「“これ”で決めましょうか」
環がポケットから出したのは何の変哲もない一枚の十円玉。
つまるところ、コイントスでどちらの方針にするか決めようと思ったのだ。
「表が出たらこのゲームに乗る、裏が出たら抗う……」
人差し指にコインを乗せる。弾いて数瞬後、地面に落ち、キンと甲高い金属音が鳴り響いた。
「……私の選ぶ道は――」
◆ ◆ ◆
視点が変わる。環と同じオフィス街に一人の女性がいた。
女性は白のローブを身に纏い、清楚な空気を醸し出してはいるが、どことは言わないが出ているところはしっかりと出ており女性としての色気はある。
しかし何よりも目立つのは背中の天使のような白い羽。
女性――ウルトリィはこの人道から外れたゲームからの脱出を考えていた。
「ハクオロ皇……どうかご無事で」
頭の中で思い浮かべるのは、このような非常事態の時でも諦めずに人の為に最善の行動を行うであろう一人の男。
今も一人でも多くの者を救おうと動いているはずだ、と推測する。
「私も動かないと。少しでも助けになってあの人を支えないと」
だが悲しい、現実は――
「あっ……」
――尊き思いなど平気で踏み潰される。
腹部が紅く染まる。流れ落ちる生命の元である血。
「な……に……が」
ウルトリィは何をされたかすらわからなかった。周りには誰もいない、腹に矢が刺さった痕もない。
認識が不可能な攻撃? だめだ、理解不能。
「あ、が、」
ドサっと大きな音を立てながら仰向けに身体が倒れていった。ああ、地面と擦れて痛い、と人事のように呟く。
だがその言の葉の続きはもう紡がれない。死んでしまったのだから。死人に口なし。
オンカミヤムカイの第1皇女、ウルトリィはあっさりと死に堕ちた。
◆ ◆ ◆
「少し狙いが外れたけど上々か、うん、使い心地はそんなに悪くない」
ウルトリィからそれなりの距離が離れたビルの屋上で。
手には狙撃銃を持ち、向坂環は冷たく呟いた。
「命って軽いわね、こんな普通の女子高校生でも殺せる」
ただ銃を構え、スコープで狙撃対象を覗いて。
「撃てばそれまで、か」
トリガーを引いただけ。この僅かな動作だけで人はあっさりと死んだ。
「人を殺した、私が人を……」
嗚呼、何ということか。これで立派な人殺しだ。
だけど不思議と後悔はない。大切な人達を護れることに満足感すら覚える。
「さてとあの女のところにでもいって何か漁りましょうか、役に立つものが入っているかもしれないしね。
タカ坊、雄二、このみ……お姉ちゃんが護ってあげるからね……!」
コイントスの結果、向坂環の選んだ道は――先が見えない闇の道だった。
【時間:1日目午後1時30分ごろ】
【場所:G-1】
向坂環
【持ち物:USSR
ドラグノフ (9/10)、予備弾倉×3、水・食料一日分】
【状況:健康】
ウルトリィ
【持ち物:不明支給品、水・食料一日分】
【状況:死亡】
最終更新:2011年08月30日 20:30