“観測都市”壁外の治安は、基本的に悪い。スラム街ではひっきりなしに犯罪が横行し、酷い時には死体が街中に転がっていることもある。街中の辺り一帯に糞尿の悪臭が漂い、家なき人々に孤児が至る所で物乞いを繰り返す光景など、日常茶飯事だ。
そんな壁外の中でも、スラム街などよりも余程危険と目される一帯が存在する。人ひとり住み着くことのない、廃墟群だ。今を生きる“観測都市”の住民達が知りうることといえば、ただ、昔、いつ頃昔かも分からないが、とにかく昔。ビル群のコンクリートが風化し、時折倒壊音が聞こえる程に朽ち果てる程昔は、そこが栄えていた、ということと、住民達は何らかの原因でその栄えた都市を放棄せざるを得なかった、ということだけが“観測都市”で暮らす人々の共通認識だった。
そして、何よりも有名な廃墟群にまつわる話として、未だにその住民が都市を投げ出す“原因”が残っているのではないか、という噂は今やスラム街の子供から壁内の老人までもが知っていた。スラム街の厳しい生活に耐えかねて廃墟群に逃げ出した者は誰一人として帰らず、果てには幾度も壁内より調査隊を送り込んでも全貌すら解明されずに消息を絶ち、上空から、ヘリコプターの撮影を試みるも、廃墟群の真上に来た途端に墜落事故を起こしたこともある。度重なる異常事態。これが、“観測都市”全体に廃墟群の迷信じみた噂が流れるきっかけであった。一時は、壁内にて壁を挟んで廃墟群と隣接する家々の家賃が大幅に下がったのも、一時期社会問題にまで発展したのも、また。
そんな、魔境と噂される廃墟群は、静かだ。生き物という生き物が存在しない。人の声も無ければ動物の鳴き声も、虫の羽音も木々のざわめきも、何一つ音の無い空間。これが、この廃墟群の常である。しかし、今宵の廃墟群には、人の声が、二つ。確かに存在していた。
「フッフッフッ……フッフッフッフッ!!」
そのうちの一つが、男の笑い声だ。含み笑いのようにくぐもった、しかし大声で発せられる高笑い。独特極まりないその甲高い声は、人ひとりいない、ボロボロに朽ち果てた廃墟群。その中心にあるビルから響いている。
ガコン、と音がした。声の主である男が力強く朽ち果てたビルの屋上の四方を囲う鉄格子を思いきり足蹴にした音だ。
「“観測都市”?並行世界?フフフフッ、随分と面白ェことになってるじゃねえか、ええ?」
ガコン、ガコン、ガコン、ガコン──────
笑みを深めて、面白くて堪らない、と靴裏で鉄格子を何度も何度も何度も踏みつける男。桃色の羽織を身に付けた偉丈夫、『ドンキホーテ・ドフラミンゴ』は、廃ビルの屋上に立っていた。
笑みを深めて、面白くて堪らない、と靴裏で鉄格子を何度も何度も何度も踏みつける男。桃色の羽織を身に付けた偉丈夫、『ドンキホーテ・ドフラミンゴ』は、廃ビルの屋上に立っていた。
つい先ほど、ドフラミンゴの脳内に語りかけられたルイ・サイファーなる男からの通達。お前達を私の為に“観測”させろ。つまりは、どこか遠くで、このドンキホーテ・ドフラミンゴの動きをルイは把握している、ということになる。
──────面白い。そこまでおれを舐め腐ってやがるのか、ルイ・サイファー。このおれすらも、てめェにとっちゃ見世物にすぎねェとでも言いたいか。
瞬間、ビル群、その一帯が“縦に割れた”。まるで、切り分けられたケーキのように。それでいてケーキのスポンジなどよりもよっぽど柔らかい材質でビルのコンクリートは作られているのではあるまいか、とすら錯覚させられる程に。十階もあるビルが、丁度真ん中から裂けていく異常極まりない光景。その切断面は、美しかった。柔らかい果物を買ったばかりの鋭利なナイフで切っても、これほど鮮やかに切れはしないだろう。一切の粗がなく、凹凸がない平面だ。
異常は、それだけには留まらなかった。何かによって二十を超える建物が切り裂かれ倒壊していく、そのうちの一つ。ドフラミンゴのいたビルすらも専断され瓦礫となり徐々に地面に落下し始めている。と、いうのに。彼は、“空に立っていた”のだ。故に、彼だけは落ちることはない。彼にしか見えない翼でも持っているのか、と思わせるくらいに悠々と彼は上空で直立していた。
ドフラミンゴよ。お前は、如何なる手法を用いてこの神業を成したというのだ。
ドフラミンゴよ。お前は、如何なる手法を用いてこの神業を成したというのだ。
「能力の制限も無しか……野郎、どこまでおれを見くびって……」
額に青筋を立てて怒りを露わにする、ドフラミンゴ。そんな彼の表情は、言葉では表現しつくせない程の怒気が噴出していた。
「………ほう?」
ドフラミンゴの催した、廃虚の大量破壊。それに伴っての、地を揺るがす崩壊音。それを、かき消すように。
「コロォス!!!」
雄叫びを、聞いた。こちらを向く、仮面の男。それが、ドフラミンゴの真横、今にも倒れそうなビルの真横から、飛び掛かって来たのだった。
“観測都市”その一角にて、異なる世界の住人達の邂逅、その一幕であった。
【D-3/ドンキホーテ・ドフラミンゴ(ONE PIECE) /一日目・午前0:00】
【D-3/ロデム(噓喰い) /一日目・午前0:00】
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