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目覚めのルサールカ(中編)

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heikoie

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 不可視の斬撃が捩じり跳ぶ。空を引き裂き大気が震撼する。
 月を反射した銀光が搔い潜る。一心に振るわれるそれは、豪速を以て天へと喰らいつく。
 其処は、隔絶された死域である。一歩でも立ち入れば、無情にも五体が千切れ跳ぶ。
 術理と狂気、邪智と暴虐、気迫と鬼迫、三つ巴の要素が戦術が意志が、車輪の如く回転し。彼らの距離が縮まる都度に激突と交錯が繰り返された。
 ドンキホーテ・ドフラミンゴの部下に弱卒は不要であり。自身の目に叶わぬ狂犬などに用は無い。故に殺意を放出する。
 実力を図り、素質を測ると同時に、邪魔者の始末を平行していた。
 力が及ばぬならば死ねばいい。利用価値があるのなら使い潰してやろう。
 どちらにせよ、天夜叉(おれ)の掌で踊れよ悪魔。神たる己に楯突く者などどの道生かす術など存在し得ないのだから──────!

「俗物だね、彼は」

 溜息。
 遠目からでも見えるドフラミンゴのニヒルな笑みを一目見たのみ。それだけで男、『海東大樹』は断言した。
 あの男は、間違いなく危険だ。
 極大にまで肥大化した自我(エゴ)。
自身が世界の中心である、と。自身が世界の支配者である、と。
人一倍に膨れ上がった自尊心とプライド、そして。

「……見ていていい気分じゃあないな」

 藻掻いて、藻掻いて、その先にある渇望(ねがい)をどうしようもなく間違えてしまったその姿が、滑稽にも映った。  
 思い返されるのは、一人の男。
 ……どうしようもなく、世界の救い方を間違えた、兄。
 きっと、あの男が願うものは、そんな優しいものではなくて。きっと、彼とは相反する願いで。
 それでも、貼り付けたような気味の悪い笑みが横顔と重なってしまって、見ていられなかった。

「ところで君は、どうするつもりかな?」

 海東──────ディエンドネクストは、未だ鎬を削る二人から視線を外して、この場に残るもう一人に声をかけた。

「何が」

 透明感のある、声だった。眼前で巻き起こる砲煙弾雨の超常そのもののような戦闘風景による驚愕も興味も恐怖も、今何を感じて考えているのか、その全てが不明瞭な印象がある。
 虚空を揺蕩う蝶のようでいて、陽炎のような捉え所のない、声だった。

「観測都市(ここ)での方針、目的……まあ、そんなところかな」
「目的……」

 “四皇”。悠久に広がる海を統べる皇帝が一人。 
 “天候を従える女”、シャーロット・リンリン。或いは、“海賊”ビッグ・マム。
 一国をすら容易く彼女の機嫌で滅ぼせる彼女の船団……海賊団の主な点は、その主戦力の大半が実子であるということ。
 “ルーク”、カポネ・ベッジの如く例外こそあれど。
 やはり彼女の他に恐れるものがあるとすれば、次男カタクリを筆頭としたその血族であろう。 
 異なる世界より招かれた海東には預り知らぬことではあるが。
 その末席にこそ名を連ねるのが眼前の女性──────『シャーロット・タフィー』である。

「………………帰りたい」
「なるほどね」

 彼女もまた、例に漏れず“ビッグ・マム海賊団”として数多の修羅場を潜り抜けてきた猛者であり。
 彼女もまた、れっきとした海賊であるが。

「………………あなたは?」
「この世界に存在する“オタカラ”、と言ったらどうする?」
「宝……別に、興味はない」

 実に無欲。タフィーは、宝、というワードには興味を示さず、しかし言葉を続けた。

「もしかして」
「?」
「もしかして、あなたも海賊?」

 海賊、と来たかと海東はバイザー越しに苦笑いしながら答える。

「海賊、なんて前時代的で野蛮なものと一緒にしないでくれたまえ。僕は怪盗さ」
「怪盗」
「略奪じゃない、盗むことこそ僕の──────」

 空気が、変わった。長ったらしい講釈を垂れそうになった海東が、瞬きの間に瞠目した。
 あれは、なんだ。

「創生せよ、天に描いた星辰を―――我らは煌く流れ星」

 それは至高。それは究極。
 たちまちにしてむせ返る程の殺気が、二人を包んだ。
 言紡ぐのは、男の声。低くくぐもったその声が、滅殺の一心にて放出するは、殲滅光。
 海東とタフィー、二人が立つ廃ビルの屋上から数キロ先──────、歓楽街と廃墟群を隔てる壁上に立つ軍服の偉丈夫が、腰に差している刀を抜いた。
 紡がれるランゲージ。
 起動するアステリズム。
 天に掲げられ月光に照らされる刀身が、銀色、否。否である。刀身が纏う輝きは金であった。雄々しく、また猛々しい黄金が烈火の如く荒れ狂い、辺りの夜闇が蒸発するかのように搔き消えていく。
 海東は、その光に太陽の輝きを幻視した。終ぞ手にすることが無かった“お宝”の一つである、赤色の甲虫にして天を歩む機構、カブトゼクター。眩い輝きの中に立つ男に対して感じた既視感は、正にそれだった。

「こ、れは──────!」

 刀を覆う極光のような鮮烈な輝きを印象付ける金髪が、風に揺れる。左右に振れる頭髪から覗く眼光は一重に、貴様らを逃がさぬと告げている。
 謂れのない唐突な死刑宣告に、海東は身体を震わせた。何を思って、あの男はこちらを狙っているのか?もしや、彼が件のルイ・サイファーとやらであるというのか?
 いいや、それはどうでもいい。そんな“くだらない”ことよりも、軍服の男の持つその刀は。
 刀に纏わせているエネルギーが放たれたら、海東やタフィーはもちろん、この廃墟群は木端微塵に破壊される。恐らく、視界の外で交戦を続ける彼ら二人も巻き添えだろう。
 そんな実感が、男から発せられる殺気のみで分からせられる。目を焼くほどの光量で理解させられる。たったの刀一本の一撃のみで、自身の五体が砕け散るという、どうしようもないイメージが想起させられたものだから。

 「超新星―――天霆の轟く地平に、闇はなく(Metalnova──────Gamma-ray Keraunos)」

 満を持して放たれる殲滅の光。数瞬にも満たない時間で光の奔流が廃墟群の大半を文字通り塵へと消失させていく。

「ああ、なんて」

 故に、海東はその光が眼前に迫る最中、遺言めいた一言を呟いて。

「素晴らしい“お宝”なんだ」

 ──────こうして、廃墟群は滅却された。

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