『+1②【-園田の歌 in BR-】』
……これ、あくまで漫画編集者としての老婆心から言わせてもらうけどさ。
あのねえ、君ぃ。
さっきから黙って聞いていれば……君の描こうとしている物語、どうにも薄っぺらい。
まるっきりハリウッドのB級映画なんだよね。
……ああ、そう。嫌いなんだよ、僕は。
特にあのアメリカ産の、大味なやつ。
だってそうだろう?
画面の中のあいつら、何かあるとすぐに抱き合って、大袈裟に愛を囁き合う。
曲は大抵、ホイットニー・ヒューストンの『I Will Always Love You』(笑)。
アメリカ人って、日常であんなにベタベタとスキンシップをとるのが標準なのかな?
朝起きて、歯を磨いて、思いついたようにセックスしてさ。
もし本当にあんな劇伴を背負って生きてるんだとしたら、底知れない国だよ、あそこは。
……リアリティがなさすぎて、胸がムカムカしてくるよ(笑)。
あんなものは、ただの記号だ。
記号にリアリティなんて宿らない。
僕たちが生きているこの薄汚い現実を、あいつらはカラフルなラッピングペーパーで包んで隠しているだけなんだよ。
本当のリアリティっていうのはね、もっとこう……逃げ出したくなるような。
なんだろう。
不潔で、無意味で、だけど忘れられない記憶の中にこそあるんだ。
……たとえば、そうだな。僕のおばあちゃんの話をしようか。
晩年、彼女は完全にボケきっていたんだ。
脳みそが溶けて、世界のルールを忘れてしまったんだろうね。
彼女にとって、台所のコンロの上で煮えている味噌汁の鍋は、もう調理器具じゃなかった。
……彼女はそれを、洗面台だと思い込んでいたんだよ。
ある早朝、僕は見てしまった。
おばあちゃんが鍋を覗き込んで、その温かい汁で口を濯いでいるのをね。
ガラガラ、ペッ。
……そう、鍋の中に、思い切り。
朝食の時間、父さんも母さんも、その味噌汁を啜った。
ズズッ、という音がするたびに、僕は彼らの食道を通っていくおばあちゃんの粘着質な唾液を想像した。
「料亭みたいだな」なんて言いながら、排泄物に近いそれを血肉に変えていって。
おばあちゃんは、自分が何をしたかも忘れて、ニコニコと漬物を齧ってね。
僕はその光景を横で見ながら、こう思ったよ。
──ああ、これが『真実だ』って。
……そんなおばあちゃんももういない。
二人だけの唯一の秘密さ(笑)。
……それとも、もっと分かりやすい例えの方がいいかな?
たとえば……ある日スタバにいたら、僕以外の人間が、一瞬でパッと消えてなくなるとか。
慌てて外を見たら、巨大なバリアのような何かが、この街をまるごと包み込んでいたりとか……。
────あるいは、渋谷の真ん中で若者たちが殺し合いをさせられてるとか……。
……あ、ごめん。今の、忘れて。
少し、疲れが溜まっているのかな。
今のナシ(笑)。
……ともかくさ、いいかなぁ、君。
良い物語を書きたいと本気で願うなら、相応の『経験』を積み上げなきゃいけないんだよ。
実際に自分の手を汚し、泥を啜り、吐き気がするような人間の業を……それこそ至近距離で、じっくりと観察する。そうやって削り出した不純物だけが、言葉にどうしようもない重みを与えるんだ。
結局は経験だよ、作家なんていう生き物は。
おばあちゃんの味も知らない君に、何が書けるっていうんだい?
じゃ、描き直し期待してるよ(笑)。
またね。
……
…………
………………
「……なんて言えたら、スカっとするのになぁ。──」
「──……読むのしんどいんだよ、吉飼センセーの漫画。いっそダイエットルポでも描いたほうが売れるんじゃないの? 豚なんだし(笑)。──」
「──早く打ち切られないかな。もう限界だよ…………ハァ。──」
「──………………。──」
「──さて。じゃあ、そろそろ行くとするか。──」
「────取材に。」
◆
【平成二十八年発生:練馬区内連続殺人及び死体遺棄事件】
本件は、東京都練馬区の静かな住宅街において、無関係な住民複数が極めて凄惨な手法で殺害された連続殺人事件である。
特筆すべきは、遺体の損壊状況だ。解剖学的な知見に基づいたかのように整然としていながら、同時に執拗な猟奇性が混在していた。
犯人は犯行後も現場に長時間留まっていたと推測され、被害者宅のPCを操作した形跡や、冷凍庫のアイスクリームを平らげた痕跡まで確認されている。
夥しい遺留品が残されながら、現在に至るまで、犯人の足取りは一切掴めていない。
◆
────+1
【園田夢二@善悪の屑】
【残り56人】
【🟠STATES🔥】
【1日目/ビル2階/スタバ店内/AM.06:00】
【園田夢二@善悪の屑】
【状態】牛刀(180mm / 現場調達)
【装備】包丁
【道具】B5サイズ・ワイヤーメモ、黒色ボールペン
【思考】基本:【取材】
1:対象を絞り込み、『取材』を開始する。
2:リアリティの欠如した個体から順次解体し、中身を確認する。
最終更新:2026年03月09日 21:27