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『ブラッディ・カシスオレンジ』







 ……ウルトラマンの三分タイマーってさ。
だいぶ頑張った感あるよね。何かとネタにされがちだけど。

だってあのサイズよ?
あの質量で、毎回ビームだの格闘だの、ほぼノンストップで叩き込んでるわけでしょ。
燃料がハイオクなのか軽油なのか知らないけど、絶対に軽い負担じゃないじゃん。むしろ常時デッドラインって感じ。
なのに皆してさ、「カップラーメンw」とか「逃げ回ってれば勝てるw」とかさ。
……人間って、他人の限界ラインにだけはやたら詳しいよね。自分は測れないくせに。

違うんだって。
あれ、三分しか持たないんじゃなくて、あの状況で三分も持たせてるのが異常なんだって。
人間だったら三十秒で心折れてるよ、絶対。
有名になりすぎて、リスペクトよりイジり倒される対象になっちゃってるのが、なんかいかにも大衆って感じで……不憫っていうか、普通に胸糞悪い。

私はあのお節介なまでの頑張り、嫌いじゃないよ。
もし会えたら、サインの一枚くらいは貰ってあげてもいい。
転売とかしないし。ちゃんと、部屋の隅のどうでもいい棚に置いとくから。
……あの、『報われなさ込みで成立してる頑張り』って、ちょっとだけ好きなんだよね。



……ま、私。ウルトラマン一秒も観たことないけどさ。

……てか今、明確にエネルギー切れ起こしてるの、私なんだけど。



──マジメに喉、超終わってるんだけど。
────アンゴラ砂漠の枯れ井戸。比喩じゃなくてね…………。






 ミーン、ミンミン──

  ミーン、ミンミン────


「はぁ、はぁ………………、………………あづい……」

「…………」 「……」



 ジリジリと焼けるアスファルト。
見上げれば、抜けるみたいな青空──……って、もういいわ、そういうテンプレ夏描写。
社畜でさえ寝ぼけ眼の低血糖なこの時間帯に、太陽は元気いっぱいに働き盛り。……あの塊には労働基準法とかないわけ? って常々思う。

名前言うのもだるい、あの変な外人にボコられて以降、私たちは今、この焼却処分場みたいな町を歩かされている。
……はぁ、なんなんだろ。この暑さ。令和の温度じゃないんですけど。
なにが“日本には四季があるから”だ。…………夏なんて死ねばいいのに。

ぁぁ…………

……ぁぁ、……………………渇く。

 渇く。渇く。渇く。渇く。
 渇く、渇く、渇く、渇く。
  渇くっ渇くっ渇くっ渇くっ、渇くっ渇くっ渇くっ渇くっ、渇くッ渇くッ渇くッ渇くッ……!!
──渇くのが、仕方ないッ────!

口の中、乾いた雑巾食レポしたみたいにカッラカラで……渇くッ。
髪を結んでる赤いリボンも、さっきから首筋にベタって張り付いて、存在主張が……ウザ渇く。
シャツも汗でベタベタに密着してて……ウェットに渇くッ。

面白いよね、ほぼゲシュタルト崩壊しかけてる『渇』って文字。
部首さんずいのくせに、一滴も水脈要素がない。
これ作った平安時代だかどこのお偉いさんか知らないけど、その無責任なネーミングセンスにムカついてくるっていうか……──とにかく、リボンがまとわりついて渇く(うざい)ッ!!

……なんてか、自分でもエグい例えだと思うけど。
今の自分って、南米のジャングルで、巨大なナメクジに全身サロンパスされてる~的な……。…………あ~、想像しただけで最悪。吐きそう。
要するに、推定二十八度のクズ気温に蹂躙されてるのが、今の私だった。


………………はぁ。

……あぁ、……渇き。
というか、もうほぼ痛み。


今すぐ病院に行きたい。
「日射病なんで」とか適当こいて、霊安室で涼ませてほしい。甲子園の汗だく坊主たちを肴に、ジュースイッキ飲みとかしてみたい。
まぁ、そんなのがバカげた妄想だってことは分かってるけど、……許されるなら今すぐセーラー服なんて脱ぎ捨てて、全方位から解放されたい。
でも当然、そんなことできるわけない。
何故って? 法律云々の話じゃないよ?
言ったでしょ。
“私『たち』────は今、この焼却処分場みたいな町を歩かされている。”って。



「……チッ。どこまで歩いても住宅、住宅……。なんかねぇのかよ、そういう施設がよッ…………」

「…………」


 常夏だってのに、空気だけ八甲田山雪中行軍の並び歩きにて。
先頭をいく────『AB型』が、苛立ちを隠さずに声を漏らした。
彼女は、……一言でいえば通好みの一皿って感じかな。
ベリーの酸味が先に来て、そのあとで、じわっと苦みが追いつく匂い。
ミックスベリーのコンポートに、温度の低いビターチョコを差し込んだみたいな。
舌の上でレイヤーが分離して、最後にちゃんと一つにまとまるやつ。
……ウケるよね。ガワはあんなヤンキーなのに、中身は果肉百パーセントとかさ。


「…………う、うぅ……っ、う…………」

「……チッ、クソが……」


 そんなAB型が、汗だくになって背負ってるのがメガネの──『A型』。
はちみつをほんのり垂らしたミルクティーみたいな匂い。
彼が苦悶の呼吸を吐き出すたび、私の喉のメーターは振り切れて、さらに渇きを増していく。
定番で外さない、安心のクオリティ。
疲れてる時に欲しくなる、日常的にストックしておきたい味っていうか。
AB型はともかく、A型は常日頃から摂取してるから、もう鼻腔をかすめるだけで目が血走っておかしくなりそうだった。

で、最後に口を開いたのが、


「……あ、吉田さん。コンビニ」

「あ? ……あ、あぁ」

「…………そこにしよっか。今は一旦」


 ──まぁ、『B型』になる。
うん。私の隣でイヤホンシャカシャカ鳴らしてる、あのチビっ子ね。
……ごめん。この血液型だけは、小さい頃に一回だけ飲んだことがある。
味の感想? 言わないよ。察して。
まぁ喩えるならブレイキング・バッドで密造してるヤバい系ってか。──これが悪い意味じゃないってとこが、余計にタチが悪いよね。

田村ゆり(B型)は、だぼだぼのジャージの袖で汗を拭きながら、ファミマを指さしてた。


「……吉田さん……」

「………………すまん。付き合わせて悪いな、ほんと」

「……別にだけど」


「おい札月、ボーっとすんな。行くぞ」

「……ぁ、あぁ、うん」




────で、以上三名の仲間を、清々しいほどに人間扱いしてない(食料扱いしている)のが私ってわけ。


……クズとか言わないでよね。こっちは生理現象なんだから。
私は好き好んで『キョンシー』に生まれたわけじゃない。
好き好んで投げ出されたわけでもないこんな場所で、
顔も知らない奴が決めた法律だの道徳だのに従うなんて、それこそ道理に合わないって話でしょ。



 ミーン、ミンミン──

  ミーン、ミンミン────



  ──カランッ



「…………はぁ、…………………暑い」


……そりゃ超屁理屈だけどさ。
まぁいいよ、もう。



  ほんとに、渇いて、
 仕方が、
  なかった………………。












 昼休み、どんよりした曇り空のプールサイドでさ。
ニヤニヤしてるいじめられっ子たちに腕を掴まれて、そのまま、ひんやりしたプールの中に投げ込まれて。
血で満たされた真っ赤な水底に沈んで、いつまでも、いつまでも全身を浸していたい。

勝手に突っ込んできたトラックに撥ねられて、大怪我を負って。
救急車の中で、バカになるくらい輸血パックを喉に流し込みたい。

アセロラドリンクの色素の濃度を、極限まで上げたい。

血が、
血が、とにかく──欲しい。


お兄ちゃんから飲む鉄っぽさが、今は喉から四肢が出るほど愛おしかった────。


『帝京平成大学のこォこがすごうぃ!!』

「うっせぇFランッ!!──」


「──…………ぁ」

「え? なに、札月さん」

「いや別に。独り言。……無視してったら、田村」

「…………」



……やば。
私、普通にヤバい。
ヤバ谷園のシャケ抜き。…………つまんな。死にたい。
『頭に血がのぼる』だか知らないけどさ。血なんて一滴も足りてないのにイラついてんの、マジでえぐいわ。私。

……いや、一応ね。努力はしてるよ。
血以外のことを考えなきゃ。
喉の渇きなんて概念、この世には存在しないって思い込まなきゃ。
ダメだダメだダメだダメだ──ってさ。
爪を太ももとか耳の下あたりにギュって立てて、必死に自分を繋ぎ止めてるけども。
……けどもなんだよ、これが。


「……ッ」


「…………うぅ、ぅっ、ま…………る…………」

「…………」


  ──ガチャッ

「……悪ぃ。騒がせたな」

「あ。別に……気にしてないけど。吉田さん」


「………………」



コンビニの冷気も、床に散らばった飲み物類も何もかも。
私の『殺意』へは、なんの保冷材になってくれなかった。



「……はぁ。夏は──」

『夏はポケモン! 最新作ゲームの予約受付を開始しております』
♪〜(軽快でちょっとワクワクする電子音BGM)〜♪

「…………」


 ……あーグッドモーニン。
ポケモン様による爽やか全力ステマをお届けしてくれた現在──六時ニ十分。
いつもなら朝ズバでも眺めながら、お兄ちゃんから『食事』を貰ってるはずのこの時間。私は今、空腹を超越した苦痛に苛まれていた。
商品棚を背にして、ガラスの方を向いての四人並び座り。
左から田村、私、寝込んでるタイヘイさんと、そして今トイレから戻ってきた吉田のヤツ、って並びなんだけど。

ほんっと。ほんとに笑っちゃうくらいウケるのがさッ。その吉田のこと。
左の拳、ひび割れてんの。そこから血ダラダラ出してるわけ。
吉田、さっきなんて言った? 「騒がせたな」でしょ?
つまり、トイレで何かに当たり散らして、そのまんま帰ってきましたって感じなわけね。


……ウケるわ。ほんと。
包帯を巻くなり、手で押さえるなり、いくらでもやりようはあるってのに。
なのに何もなかったみたいに左手をブラーっと下げて。
それ、かっこいいと思ってんのかな?

血……そんなに無防備に、滴らせてさぁ…………ッ。


「おい札月。お前、そろそろ言いたいんだが」

「うわ、嫌な予感。……なによ」

「…………。……いや、やっぱいい。お前も今は寝とけ。私が起きてっから、いいだろ」

「は? ……あんな状況受けてて寝れるサイコパスなら、あんたらとつるんでないし」

「なら勝手にしろ。…………」

「…………」


 ……あぁ、なんだろ。
さっきまであんなにウマが合わなくてイライラしてた吉田が、今では笑えるくらい甘美に見えちゃう。
うん、もちろんリーダーシップに惚れたとか、そういう意味じゃなくてね。
直球の意味での、甘美。
彼女の一言一言が「私を食べないで! おいしくないよ!!」にしか聞こえなくて、……だいぶ詰んでる。
ヘアカラーもよりによってプリン柄だし。美味しそうに擬態してんじゃねーよ。もう余計に詰む。
詰む……。つむつむつむ。ツムツム、死ねよディズニー……。

吉田だけならまだしも、──今の私は、牛一頭分の血を飲まなきゃやってられないってくらい、極限状態だから。
フルコースを前に「待て」をさせられてる現状は、私の喉を、余計に渇かせて、渇かせて……本当に、仕方なかったッ。

 渇く。
渇く。
渇く……ッ。


「………………ッ」


……ヤバ。
ヤバ谷園の揚げ玉抜き。…………天丼ネタ。つまんな。
うん、このままじゃさ。
爪がへし折れるか、太ももが先に逝くかの二択だし。無理矢理にでも違うこと考えて、どうにか気を紛らわそう。
タイミング的にもちょうどいいでしょ。
フラッシュバックとかも。


──《◁逆再生》──


 最後に味わったあの美酒。
あの感覚は、十二時間経った今でも、味覚の本能にこびり付いて離れなかった。
昨日の晩御飯。いつも通り、あのシスコン野郎の首筋からいただいた時のこと。
……多分、アイツ。日々野さんとかなんか凄いお店に行ったんだろうなぁ。
調子に乗ったウキウキした浮かれ具合と、味わったことのない高級感が混ざり合った至高の一品。私は舌をとろけさせながら、反射的に毒づいたわけ。
「調子に乗ってんじゃないわよ、バカ!!」──……今考えると、だいぶ理不尽な平手打ちだったけどさ。

ともかく、柔い舌を包み込むあの甘み。
喉を滑っていく、あの温度。
抵抗もなく、ただ通っていくあの感覚。
──まさに、ご馳走。
ヘモグロビンに愛されたあの時間は、布団に入ってからもちょっと寝付けなくなるくらい、漲るエナジーがあったわけ。

……で、起きたら何?

はい、「今日から殺し合いです」「最後の一人になるまで寿限無寿限無」。
うっざい暑さの中、リボンが剥がれない(・・・・・・・・・)ことだけに全神経を注いでたら、はい、吉田と遭遇。
タイヘイさんに、藤原に、ちびっこ田村。それから最初から胡散臭かった、あの偽善者ヅラの外人。
六人でなーんか平和ボケした空気出して、私一人だけが渇きで限界迎えてたら、急に耳障りな大声が聞こえて。
で、あの外人が正体表して、OPS1.100級の大暴れを見せつけたわけじゃん。

……でもさ、
タイミーですら即クビ級の助っ人野郎が私に襲い掛かってきた時、正直ラッキーだと思えたんだよね。……不謹慎なこと言うようだけどさ。
だって、もうやっちゃってもしょうがない状況じゃん?
弁護士センセーも声高に言ってる 『正当防衛』ってやつでしょ?
OPS200.000級の打点王だか何だか知らないけど、私からしたらあれ、ほぼ食事だし。
どさくさに紛れて、血のシャワーに満たされてやろうとか……まぁ、そう思っちゃうくらいには余裕がなかったんだけども。

結果はどう?
……面白いよね。『惨劇から逃れた』ってやつ。
正義の味方・吉田に手首引かれて逃げ出したおかげで、あのタイミー野郎は今でものうのうと、その体の中に血潮を巡らせている。

分かってるよ。
恨んでる私の方がおかしいってことくらい。
吉田の行動は正しいし、一応は仲間だった奴がいきなり狂ったんだから、逃げるしかないのも道理は通ってる。
でもさ。それでも、理屈とかじゃないわけ。
理屈が通じる人生なら、私みたいなの、とっくに解剖台の上だよ。


……ほんと、よく出来てるよね、この殺し合い。
私の唯一の『理解者』、お兄ちゃん抜きのソロプレイ。
「ほら、お互いに利害関係は一致してるだろ?」って、主催者のニヤニヤ顔が透けて見える。


ほんっと、理屈とかじゃなくて。

 かといって何なんだって聞かれたら、答えなんて持ってなくて。

  ……でも、理屈じゃなくて。


   とにかく、

 とにかく…………。





♪シャカシャカ~


「…………」


「……」 「……………ぅぅ……」




「……あっ」



 ──《▷通常再生》────。

……気が付いたら、こう。
吉田も田村も、みんな無防備に疲れきって眠ってて。
私は私で、回想の中に逃げ込んでた『自我の忘却っぷり』に、ちょっと引いてるところ。


「……あ、一応生きてる」


あー、よかった。
べったり肩を寄せて寝てる田村の鼻下に指あてて、ぬるい呼吸、ちゃんとあるの確認して……一安心。
……マジで、無意識の間に全員やっちゃったかと思ったじゃん。
……セーフ。ギリ。ほんと、ギリ。


「…………」



 ……いや、全然セーフじゃねーし。
むしろ今、人生最大級のアウトに足を突っ込みかけてる瀬戸際だし。

もういい加減くどいって思われるだろうけど、私、めちゃくちゃ喉乾いてるの。
喉ッ、渇ッいッてッる────わけッ。
この切実さは何回言っても飽き足らないよ。なんならもう一回言おうか?
喉ッ、渇ッきッまッくッって────もう脳みそ溶けておかしくなりそうなわけッ。
心の中の天使と悪魔が、口調こそ違えど同じ主張囁いてくるけど、そいつらはもう完全無視。


私は今、『人』として地獄を生きるか、それとも『吸血鬼』として天国に堕ちるかの二択に、内臓をかき回されてんだから。


「……ィッ」



……あぐら座りで腕組んで寝てる、AB……じゃない、吉田。
いつまでも悪夢に苦しそうにうなされてる、A……A、タイヘAェ……さん。
それと、……ご馳走B。

 ……血。

 血、血、血。
血ちちち血ちちち血ちちち血……ッ。

 ぃ、ぃぃ……っ、ぃぃ……、


──田…………村ッ………………。



 ……もう、嫌。わけわかんないっ。
というか、なんで私ばっかりこんな目に遭わされてるわけ?
……うん、自覚はあるよ。最悪な被害者面だってことくらい。
でも、それが何?
まだこの場に『真の被害者』なんて出てないんだから、それくらい思わせてくれたっていいでしょ……っ?


 ……あー、てかさ。これ、ちょっと哲学っぽいこと言うけど。
血って、液体界隈の中でもここまで嫌われてるの、普通に理不尽じゃない?
そりゃ液体カーストで言えば、だいぶならず者ポジションにいるのは認めるけど。
グロ映画でやたら出演してるからってだけで怖がられてるの、普通に気の毒でしょ??

言い換えるならさ、血って肉汁じゃん。
クリスマスじゃターキーに竹串刺して「おぉ~~!」とか、割と残虐テイストみんなしてるじゃん。
色がついてるかついてないか、ジューシーかどうかだけで簡単に差別すんの、マジでアパルトヘイトでしょ。
私はレイシストじゃないから、喜んで血を受け入れる準備できてるけど?
てかむしろ、あの味を『味』として知らない人生終わるほうが、よっぽど損してると思うけどね。
私はいつまで経っても血の味方でいたいし、世界を敵に回そうとも、絶対、味方でいてあげるつもりだよ。

……あ、本家本元の肉汁(食べ物)は口にできないから、私もだいぶ差別主義者側なんだけどさ…………。
はは。
言ってること、ぐちゃぐちゃだわ。



 てか……あーもう、言っちゃうわ。
なんなの、『キョンシー』って。
その微妙なズラし、いらなくない? ドラキュラでいいじゃん。……いや良くないけどさ。

神様のその謎の配慮はなんなわけ?
『魔人ドラキュラ(1931)』か『幽幻道士(1986)』なら、後者の方が新しいからっていうミーハーな思想なわけ?
ハァア? どっちもネトフリに見向きもされてない映画だっつーの。

てかドラキュラって割と色々食べてるよね?
いや、見たことないから知らないけどさ。
こっちは米、肉、魚、麦、野菜……液体も個体も、全部ダメ。
口に入れたら、ほぼ強制リバースのアレルギッシュなんだけど。
勘弁してくんないかな?
その微妙なズラしのせいで私の食生活が詰んでんだから、神様は責任取って食物連鎖消滅させろよ。

……つか、誰も言わないけど神様ってさ、飯食べてるイメージないよね。
言っちゃえば、あれ、何も食べない存在でいてほしいんだけど。
え? 何? アイツも何か食べるわけ?
全知全能とか名乗ってるくせに、他の生物を下等と見なして殺して、それを口に運んでるわけ?
……それ、普通に傲慢じゃない?
ていうか、めちゃくちゃダサくない? ……これ、私の考えがおかしいのかな。

だからさ、神様には絶対的な絶食者でいてほしいわけ。
食に一切興味のない、からっぽの存在。そういう上でいてくれないと困る。
じゃないと、不公平すぎて私の脳みそがブチ切れて発狂するから。
で、それでもって仮にそんな即身仏様だとして、私にこの食の呪いぶち込んで余計腹立つから、んじゃ結論として神はいてほしくないわけ。
聖書?
あんなの、血の通った人間が適当に書いたコロコロコミックでしょ。
パンとかワインとか優雅にムシャつきながらさぁ。


……ヤバ。
今、食べ物のこと考えちゃった。…………最悪。
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい。
空腹とかそういう次元じゃないのに、明確に胃が何かを求めてくるキョンシー特有のバグ現象が……語彙力死ぬレベルでマジヤバい。


 ……無理。マジでムカつく。
今はもう『血』っていう漢字そのものに、半端じゃない殺意が向いてる。
ねえ、ウケない? 『皿』の上にチョコンと点を乗せて、『血』。
大昔の奴らも、暗に認めちゃってることになんじゃん。「血は食べ物だ」って。
それとも何? 平安だか飛鳥だか知らないけど、当時は皿=食器としてカウントしてなかったわけ??
原始人がどんぐりを石の皿に乗っけて食べるなんか、見た記憶あんだけど?
……まあいいや、歴史の話とか。歴史は考察厨湧くコンテンツだからうざいし。

でも、分かる?
皿に点チョコンで『血』なんだよ?
絵にしてみなよ。
真っ白なディッシュの中央に一滴だけ乗せて「はい、完成です」って……どこの三ツ星レストランだよ。
そんな意識高い系の一皿で、腹満たされるわけないじゃん。
こっちは料理食べに来てんの。芸術家気取りのシェフの気まぐれ一品とか、一ミリも求めてないっつーの。
ほんと誰か弾劾裁判してよ、『血』のデザイナー。
歴史から消えろって。消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ……。


……ほんとにきつい。
なにもかも消えてほしい。



シャカシャカ~♪

「…………」


 ……そのシャカシャカも、無理。
やめてよ、田村。なんのためのイヤホンなわけ?
一日三食、当たり前みたいに食べてる音楽家サマがさ。
こってり系で腹満たした帰り道に「おっ、このフレーズいいなぁ!」とか、ヒラメキ舞い降りた『曲』って概念そのものが、無理すぎる。

『真っ赤なお鼻のトナカイさん』も無理。それ、ただのうっ血じゃん。
「夜道照らす」じゃねーし。テカってるだけでしょ。鳥肌立たせんなバカ。

やなせたかしも無理。
「♪掌を太陽に透かして見れば~~、真っ赤に流れる~~」……はい、もう続き聴かせるの野暮でしょ。地獄かよ。
あのさ、ミミズもオケラもアメンボもみんな生きてて友達なら、少しはアンパンマンに分けてやれよ。
愛と勇気しかいないボッチなんだけど? あの子。責任取れよ作詞者。

あと、一番無罪放免にできないのが『血みどろ革命☆ロックンロール』。
……いや、そんな歌があるのか知らないけどさ。
とにかくJASRACもnicozonもASMRも、.mp3だろうが.wavだろうが、全部この世から消えてほしい。
音なんて、一秒もいらない。
この世の作曲家全員、例の耳の聞こえない奇跡のゴーストライターになればいいのに。


鼓動が嫌。
心臓が嫌。
ドクンッ、バクンッ、って。その音が、その振動のすべてが鼓膜の敵。


──この場に流れる『三つ』の鼓動が、とにかく嫌……ッ。


嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、嫌、

 イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、

いや。いや。いや。いや。いや。いや。いや。いや。いや。いや。いや。いや。いや。いや。いや。


 ear。



「────嫌。…………自分が」




 シャカシャカ、シャカ────。

……自己嫌悪が不意に晴れた時。
イヤホンのシャカシャカ音がすぐ目の前で鳴ってることに気付いた。



「…………嫌。嫌。嫌」


牙に少し力を込めるだけで、溢れ出してくるB型の幼いカクテル。
あと数秒。
ほんの数秒待てば、私はこれまでの我慢が全部報われる『あの味』に満たされる。
心が、浮く。
渇きが、消える。
数秒後の自分にハイパー嫉妬しちゃうくらい、私は今、ある種の幸福の絶頂にいた。


「……嫌。……ゃ」


ぷに、とした柔肌。純粋無垢な毛先。きっちり結ばれたおさげ。
なんだろ、面白いよね。……いや、面白いって言うか、……なんていうか。
疲れてるのは分かるけど、幼稚園のお昼寝の時間みたいにリラックスして、スースー寝息を立てちゃって。
で、次に目が覚める頃には『無』にいるんだから。…………面白いって表現はおかしいかもしれないけど、他に言いようがないでしょ。


「……ぃ」


……うん、デスノートの死神が言ってた。
死んだあとに行くのは『無』だ、とか。…………ま、そんなのどうでもいいけど。


「ィィッ」


“どうせこのあと、即自殺するから。”
──そんな、何の免罪にもならない理由で、自分を押し切って。
私は、田村の浮き上がった頸動脈に、ゆっくりと歯を当てた。


……ほんとさ──。
……『それなら血吸わず身投げろよ』、ってのが超正論なんだけどもね──────。











『♪ハッピーバースデー!!』




「え」



 シャカシャカシャカ……。
  シャカシャカ……。


「…………ぇ」



 ……不思議だね。
一瞬だけ、熱い空気がすうっと抜けた気がした。

血を吸おうとした直前、どういう奇跡が働いたのか分からないけど、大きく聞こえた──イヤホンからの音楽。
曲名なんて知らない。邦楽なのか、どこの国の歌なのかもどうでもいい。
でも、その一節は、紛れもなく私を止めた。


「………………、……」


 私は、自分の誕生日が苦手だった。
友達はみんな、デコレーションが際立ったケーキを貰って、ニコニコしながら頬張るのに。
私が口にするのは、あくまでケーキの『味』。
お兄ちゃんがホイップクリームを喉に通して、それが血肉に変わった後の──甘い、血の味。
そりゃ、美味しいよ。
五千円相当のお高い、特別な味。
……お兄ちゃんに不満なんてないし、ずっと人生これだったから、今さらケチをつける気もさらさらない。

でも、それでも。
……プレゼント貰うたびに、思ったりするんだよね。

“妹、欲しいな”って。


「…………っ、た……田村…………」

「…………」


誕生日ですら、お兄ちゃんに迷惑をかけて。
痛みの上に成り立つ甘さで祝われて。

普通の。
ごく普通の──『お姉ちゃん』として、自分より小さい子を支えたいな、とか。
バースデーだってのに、来世のこと、考えちゃったりして。


「………………いゃ、…………私、は──」

「…………私も、嫌だけど」

「え?」


「……智子………………」

「…………」



……私は、田村の小さな寝言を、ただ静かに聞くだけでいた。




 ミーン、ミンミン──

  ミーン、ミンミン────


「…………ごめん。……っていうのもおかしいか。何もしてないんだし」



 音が妙にはっきりと聞こえる、真っ白で虚無なコンビニの店内。
ガラスの向こう、外の陽炎は血潮が流れるみたいに、どろどろと揺れ続けている。
周りを見れば、相も変わらず深く眠る三人。


吉田。
タイヘイさん。

……田村。


……無防備に。
信頼なんて、重たいもの預けて。
私に。


「……うん、ごめん」


ギルティ。
罪は生きてこそ償われるなら、私も生きて終わらせるつもりだ。
今この瞬間の、どこか別の私。
泣きながら、血みどろに塗れている並行世界線の『私』が背負った罪を、全部私が引き受けるつもりで。
取れかかっていた赤いお札を、もう一度、きつく結び直して。

──うん、私は。



 ミーン、ミンミン────…………




………………
…………
……



 間違いだった。
明白に、間違いだったと断言できる。


「……あ? 札月ならあそこだよ」

「あそこ?」


寝ぼけ眼をジャージの袖で擦って、数分。
気づいたらいなくなっていた札月さんの姿がなんとなく気になって、私は吉田さんに訊ねた。
吉田さんが顎で指した先は、コンビニの向かいにある、これといって特徴のない民家。


「なんか用があるんだと。……すぐ戻るって言ってたし、まあ、いいだろ」

「……用?」


吉田さんはそれ以上何も言わないで、面倒くさそうに、また手を頭の後ろで組んだ。
……別に、心配とかじゃない。
疑心暗鬼、っていう言葉も、たぶんしっくりこない。
ただ、なんていうか。……本能的、っていうのかな。
あの札月さんが、あんな何の関係もなさそうな民家で何をしようとしているのか。
それが、どうしても引っかかって。
自分でも説明しにくい変な感じだったけど。
イヤホンを止めた後、私はポケットに手を突っ込みながら、その家のほうに向かった。



──それが間違いだった。
──明白に、間違いだったと断言できる。



【Bela Lugosi's Theme】

【白鳥の湖】




「ハァ……ハァハァ………………。んんっ……、──」

「──……ごめんんっ……ごめんねぇっ…………。……何言っても、言い訳になるから…………うぅっ……言えないけど…………。──」

「──と、とにかくっ…………。ごめ……、──」


「──美味しぃっ!!!!」



 ──ビチャビチャ、ジャバッ。
  ──ビチャビチャビチャ。


 ……札月さんは、いた。
脱衣所には乱雑に脱ぎ散らかされた制服と、下着。──それと、赤いリボン(お札)
まるで乾ききった全身を潤すみたいに、彼女は浴室で、思う存分雨を浴びていた。
外の暑さなんて全部忘れたみたいに。
ただ冷たい液体の中で、野性のまま、光悦とした表情を浮かべて。
扉は、まるで見てほしいと言わんばかりに開け放たれていて。


それで、彼女は死体からグチャグチャに搾り取るようにして、その真っ赤な海を飲み干していて。



「…………美味しい、美味しいから、ごめん……。知らない人だけど……あぁ知らないからごめんっ……んんっ、はぁ……んっ!!!」


血飛沫一つたりともはじき返す、その真っ白なロングウェーブが異様に印象的だった。
本来なら白が基調のはずのバスルーム。
その白が、今や異端か何かに見えるくらい、血生臭いペインティングが視界を埋め尽くしている。

湿気でぐしょ濡れになった床には、一秒も欠かすことなく、新しい赤が滴り落ちていく。
ベタついて仕方ないはずのその華奢な裸体は、愛おしそうに、誰かの……女子の頭を抱えていた。

だるそうに瞼を永久に閉じて、口の半開きな首。
その鎖骨下の断面から、キーホルダーみたいにジャラジャラと赤い連結材がぶら下がっていて。
ふとその一部らしい、赤黒い硬質なものが、タイル上のミンチへ落ちた時。
乾いた音が響くと同時に、……札月さんは、むさぼるように断面の蛇口から、赤をガブ飲みしていて。


「んぷはっ…………!! ……ごめん、ごめん……なさ──」



「──あ」

「…………あ」



彼女の、まるでイメージとは程遠いその泣き笑いと──ふと、目が合った刹那。


……私の脳が、ようやく、この光景は映画のワンシーンなんかじゃないんだって、現実を突きつけてきた。



「………………ぁ、……ぁ。……………ゅ、ゆり……ちゃ──」

「……ごめん」

「……ぇ…………」

「……吉田さんたち、心配してたから。……その、……一応それだけは伝えておく」

「…………、っ、あ………………。わ、私……は──」


「私は待ってるから。……一応、だけど」



 ──ガチャンッ……


 ……おかしなことじゃないのは、分かってる。
だって、札月さんは吸血鬼らしいから。
現実味ないのは分かってるけど、それが彼女だから。
私は、何もなかったかのようにしたい彼女の行いに、責める理由はなかった。

……だからこそ余計に。自分の言ったことが正しかったのかどうか。
それが胸の奥にこびりついて、……どっちでもない感じで、残り続けた。



扉の向こうから、シャワーの音が聞こえ始める。
それと重なるように、か細いすすり泣きも響いてくる。
「ごめん」「ごめん」って。
何度も。誰に返す必要もない、謝罪の声が。


私はしばらく、脱衣所の音の死んだ秒針に射抜かれて、一歩も動けなかった。



【🟠STATES🔥】

【チーム・キョンシーズ】
【1日目/民家/AM.06:41】
【札月キョーコ@ふだつきのキョーコちゃん】
【状態】潤い100%、素直モード(←→ツンデレモード)
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【静観】
1:…………ごめん、なさい。生きてて、ごめん……なさい。
2:ゆりと、……みんなと、どうにか心から信頼したい。

【田村ゆり@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!!】
【状態】疲労、小児体系、ジャージ
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【静観】
1:見なかったことにしたい。
2:吉田さんたちには何も言わない。
3:…………眠りたい。

【1日目/ファミマ店内/AM.06:41】
【吉田茉咲@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】暴行痕複数、疲労
【装備】木刀
【道具】タイムマシンボール@ヒナまつり
【思考】基本:【対主催】
1:遅ぇ。何してんだあの二人……。
2:メガネくんの目が覚めるのを待つ。
3:……マイクの野郎、何があったんだ……ッ。
4:このクソみてぇなゲーム考えた野郎を、留置所ぶちこんで殴り飛ばすッ!!

【土間タイヘイ@干物妹!うまるちゃん】
【状態】意識消絶、精神崩壊?、背中に痣(軽)
【装備】なし
【道具】ボイスレコーダー
【思考】基本:【静観】
1:…………。


※長名なじみ、黒崎義裕の死体は完全損壊されました。



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096:『黒船《ペリー》がやってきた! 098:『キッズ・リターン(ガキは消えろ)
075:『人畜無骸 キョーコ
075:『人畜無骸 ゆりちゃん
075:『人畜無骸 吉田さん
075:『人畜無骸 タイヘイ
最終更新:2026年04月21日 17:37