『キッズ・リターン(ガキは消えろ)』
……痛っ。
舌で触る。
痛っ。
もう一回触る。
やっぱ痛っ。
「…………最悪」
下唇の裏。
歯が絶妙に擦れるポジションに降臨した、ワンポイント口内炎。
「なんなん、これ。地味に一番イラつくやつじゃん」
鏡を見る。
白い。うわ、普通に白い。
……はい、今日のモチベ完全終了。
……なんかさー、ちょっと悟った風なこと言っちゃうけど。
人生って、こういうしょうもない負けイベント多すぎじゃない?
超どうでもいい傷一つで、一日全部ハズレ確定になることあんじゃん。
しかも私一ミリも悪くないし。100%不可抗力だし。
神様だか知らんけど、性格の悪さ親レベルじゃん。
一周回ってウケるわーー……。
──LINE~~♪
「…………は?──」
「──……あー、はいはい。そっち系ねー。──」
「──オーガスタス🐽」
ほら、追撃きた。泣きっ面にピギー。
私を『友達』判定してるカースト二軍からの通知。
KY・KY・空気読めっての……もう~~……。
いや、用事あるのはいいよ? そこは別にいい。
でも今、朝六時。六時て。
私たまたま起きてたからよかったけどさ、寝てたら普通に殺意湧いてたからね?
そういう"自分しか見えてません"感、あの子、ナチュラルなんだよな~~。
逆に才能だわ、もう。尊敬はしないけど。
「……はぁ。…………返信。だっる」
はいはい。今日も私、ちゃんと大人でした。
えらい。
………………
…………
……
『人生はチョコレートの箱のようだ』
『開けてみるまで中身は分からない』
──なんか偉人の名言ね。
TikTokで流れてきて普通に笑ったけど。
まぁ、一九〇〇年代とかはチョコの箱に一等地でも詰まってたんですか〜? って感じだし、令和風にアプデしてあげるなら、完全にこれ。
『人生はTikTok』
『ウザいやつは即スワイプ。あと私の人生も物理的にほぼTikTok化』
つまりは今現在進行形で、絶賛スワイプしたい人生ランキング第一位なわけ。
「ちょっとトイレ~」……って適当に嘘ついて、『あいつら』から離脱して数分。
もはやこの薄汚い公衆トイレのほうが居心地いい時点で、察してほしいくらいだった。
まず、チルくんね。チルチャック・ティムズ。
こいつはまだマシ。
だって存在感背景だし。私のインスタフォローしてきても、「あぁ、いたんだ」くらいで終わるタイプ。
しかも一応、空気は読めるし気遣いもできる。
陰キャなのに内申点だけは高いっていうか、許容範囲にはいるわ。
次、璃瑚奈。輪田ってやつ。
……まぁ、セーフゾーン? 服から変な匂いもしないし。
TikTokよりYouTube Shorts見てそうな顔してるけど、そこはもう個人の趣味だからスルーしてあげる。
向こうも私に興味ない。私も興味ない。
この距離感、最高。はい、双方オトナ。
……っで、問題。
そうなると、ここまで私の精神HPをゴリゴリ削ってる犯人は誰だって話じゃん?
……もうさ、ほぼイジメなわけ。
「……はぁ、」
────本場切絵。
「『サチ~~💕』『ねぇ見た!!?!?』『渋谷ガチで終わってるwwwww』『ニュースつけて!! はやく!!!』っすか……」
────あと、その横で「わぁ~!」とか言ってるガキ一匹。
「マッジ小陽ちゃんウケるわーー……。はァあ~、シラけ…………」
バトル・ロワイヤルとか、まぁ一億歩譲ってイベントとしては許容範囲。
Apexのヒカル企画版(笑)みたいな感じで、ちょっとはエンタメとして楽しめなくもないし。
────ただし、本場だけは本当に無理。
────存在自体が、生理的に受け付けなかった。
◇────𝕃𝕀ℕ𝔼
……
…………
『小陽ちゃんさぁ』(既読)
<ほらサチ!! 見てって!!>
<あとおはよう~~💦>
『命令』(既読)
『自殺しろ』(既読)
『ガチの意味で』(既読)
<は?>
…………
……
𝕃𝕀ℕ𝔼────◇
「じ・さ・つゥ~~~~♪ ……ぁっ、いっっった…………」
……相変わらず、口内炎がズキズキと自己主張してきてクソ不快。
ニキビならチョコラBB飲みまくって潰せば終わるのに、こいつは潰そうにも芯がないからマジで理不尽。
唾液のついた指を洗い流して、ハンカチで拭き取ったんだけどさ、脳内はさっきから同じ言葉をぐ~るぐる。
“好きの反対は、嫌い。”
──本場チャン。
マジでどうしようもない。
「…………戻ろっと」
あのバカガキ御一行様は、今も律儀に私を待ってる。
本場も、偽善めいてニコニコ壁に寄りかかってると想像つく。
一歩、一歩。
床を踏むたび、靴音だけが無駄に響く。
光の向こうから聞こえる笑い声だけで、口内炎までズキッと疼く気がした。
……痛、
痛い。
マジで、チルくんとか。輪田でも、なんならブタにでもいいわ。
本場の陰口本気で言い合いたい。耐えられない。
ほんとあり得ないんだけどアイツ。
だってさぁ?
さっき私が自販機に寄ろうとした時も、超キョドりながら、
“……あ、あの……夏菜師匠にも、その……”とか言い出して。
んで、結局何が言いたかったのかと思えば────、
「あ」 「あ、サチ……」
「サ、サチお姉ちゃん!! や……やめてェェェェええええええええええええええッ!!!!!!!!!」
「……へ?──」
────グチャリッ。
「────────……は?」
靴の裏。
嫌な感触。
湿った鈍い音。
何が起きたのか理解するより先に、夏菜師匠()の悲鳴だけが耳に突き刺さる。
……人間ってさ。
「見るな」って本能が警報鳴らした時には、もう遅いんだよね。
引き寄せられるように視線を落とした、私のローファーの足元。
踏み潰されて。
赤黒い液を滲ませて。
片方の眼球が飛び出したまま動かない。
猫の頭。
「……あ、ぁぁ……」
「か、夏菜師匠…………」
「うわァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!! ミイちゃあああああァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
「は」
本場の悪口?
…………知らねぇよ、もう。
◆
………………
…………
……
「『璃瑚奈ちゃんって東大在学歴長そう』だぜ? 長そう。……それが私の、今までで一番刺さったイヤミだな」
「お、おう。……ほんとリコナって、なんつーか、その~……」
「頭悪そうで芯食ってはいるのが腹立つんだ。留年歴をレベル扱いしてんじゃねーよ!! 東大つけりゃ誉め言葉だと思うなってぇ~~の~~~~~!!!」
「まぁ、『パターゴルフガチ勢』とか言われたオレよりはマシだろ。そう思って諦めろ」
「それほぼ直球じゃねーか。私のは変化量Sだぞ。潮崎のシンカー並みにエグい角度で落ちてんだぞ。……ったく、ほんとダルいもんだぜ~~」
「つか、なんなんだよこの会話」
「おうよ、レベル低すぎて逆にIQ下がるわ」
「ハァ、お前はよ~~。…………。──」
「──サ、サチ。……ハハ、お前は……なんかあるか? そういう、ヤバい嫌み大喜利的なやつ…………」
「…………………」
……あー、市民館。
空調、きっもち。
シーブリーズ使ったあとだから余計に沁みるわー。
……『ヤバいイヤミ大喜利』、ね。
私、なんて返したと思う?
「…………パス。……ごめんね、チルチャック君」
「……お、おう。…………悪い」
「………………。──」
「──空気感すげえ。……ある意味、サチの『パス』が今日イチベスト大喜利だな」
「おいリコナ! 黙れ!!」
……はい、輪田ありがと。
うん、こればかりは皮肉なしに。珍しく、本気で。
チルくんたちなりに、この最悪な空気をどうにかしようと気を遣ってくれてんのは分かる。
盛大に空回ってるのも分かる。
分かるんだけどさ。
さっきから。
さっきからずっと。
ローファーの裏に、──あの感触だけが残ってる。
「………………っ!! ……ぅ、……ッ!」
「さ、サチ!!」
「………………。……大、丈夫……………」
冷房も、窓から差し込む太陽も、ソファに染みついた老人臭も、──二階を探索してるアイツらの騒ぎ声も。
……全部どうでもいい。
もう生涯ずっと、ペットショップに行けなくさせられたのが私だった。
ハハハ、なんか、ウケるわ。
「……チル君さ、」
「え? ……あぁ、なんだ?」
「インコ、五万円」
「え?」
「……ウケるよね。……ハムスターって二万らしいよ。…………安いんだか、高いんだかっていう。…………ハハハ」
「え、え、……ハ、ハハハ! マジかそれ?! オレ、小学生の頃なら三日は悩むわ! ハハハハハ!!!」
「…………」
はい、天丼。輪田ありがと。
今ぜっっったい、『命の値段──』とか言いかけて、飲み込んだでしょ。見え見え。
でも、その空気読んだ判断は嫌いじゃない。
ランクC-。今日だけC+に昇格。
……おめでと。
「……あーサチ。んじゃあさ、オレ。ペットショ…………、…………。……あーそうだ、愚痴聞いてくれないか? オレはいっつも、マルシルってバカに悩まされててよ~~」
「……」 「ふぇ~~。ガキのくせに、いっちょ前に人生相談かチルチャック~~」
「ガキ言うな。オレはお前より長く生きてるわ! ……アイツ、本気でバカなんだ。この前なんかさぁ~~」
………………。
比較的会ったばっかの私に、お気遣い。
チルくんら二人と、私。その間に、見えない分厚い壁。
……おめでとーーー。
どうせ本人らいないんだし、私的には本場の陰口大会でも開催したいんだけどもな~~。
「……まじ、無理……………」
「…………。……でよ! 聞いて驚くなよ? ライオスの野郎、みんな寝てる時に~……」
「……」
カチャ。
カチャカチャカチャ。
机の上には拳銃とか、見るからにヤバそうな金属片とか、飲みかけのペットボトルとか、変なデカいカプセルとか。
あとはマンカラっていう、よくわからない地味なボードゲーム。……それをパチパチ動かしてる、ちびっこ二人の手。
あの本場の提案でここに来させられた私は今、空っぽになったモンスターを持ち上げて、唇をちょっと湿らせていた。
口内炎?
あーアイツ? あんなのもうモブ。
いやモブにしちゃ未だ自己顕示欲ズキズキ発散させてるけど、私の人生にはもうどうでもいい。
TikTokだって、ウザい外国人がピザ作ってるだけのクソ動画がしつこく流れてきても、即スワイプすりゃ視界から消えるでしょ?
それと同じ。
だから私は今、一番大事なことに集中してる。
マンカラのルール説明書。
……へぇ。
ゴールに石入れたら、もう一回自分のターンなんだ。
え、地味。でもちょっと面白いかも。
……ウケる~~。
「切絵だけどもよ」
「…………」
ッ──、
ッッッッ────。
──で、ページをめくろうとした、その瞬間。
忘れてたはずの口内炎が、またズキンと心臓みたいに脈打った。
「正直、めんどくさい」
「……リコナ。…………あー、それお前がめんどくさがってるって意味だろ。アホ」
「さすがチル先生。名通訳~~」
……一瞬だけどもね。
空気死んだの、一瞬。
私の脳内で輪田のランクがF-に爆下がりしたのも一瞬。
でも、そのあとすぐ回復した。株価のボラティリティ高すぎ。
チルくんはものすっごくバツ悪そうな顔しながら、なんかギャグっぽいノリでフォローしてたけどさ……輪田、今の、私からしたら超ナイスアシストだからね?
あ、そういや言ってなかったっけ。
本場と、名前忘れたガキ。あいつら、今は上の階の図書室にいる。
……どうせ「元気出る本読も~!!」とか言って、かいけつゾロリでも漁ってんだろうけどさ。知らんけど。
お花畑御一行様が感動イベント開催中なら、じゃあ今ここ、結構チャンスじゃん?
ほんの少しだけオブラートを三枚くらい厚めに巻いた、ガス抜きタイムの始まりじゃん?
「……めんどくさい?」
「あ?」 「……どうした? サチ」
「いやどういう意味? 璃瑚奈ちゃん、何がめんどくさいって話?」
「……」
……ま、私は新参者だし。最初は聞き役で十分。
あとは向こうが勝手に喋るでしょ。
「あーあー、気にすんなサチ。コイツはなんでもかんでも──」
「そう! 私は万物平等めんどくさい教の教祖だからな!! 息を吸うのもめんどくさい!! 勉強もめんどくさい!! 努力もめんどくさい!! プチプチ潰す暇さえめんどくさい!! それが私だ!!」
「……! ぁあ遮るなアホ!!」
「……」
「美馬、チビチャックは無視しろ。そして私は断言するぞ。──今すぐっ、このチームのリーダーを私に一任すべきだっ!!!」
「はぁ~? なにそれ~ウケる~~~」 「あーまた始まったよ……」
「もちろん私は責任を一切負わないぞ! 責任から逃げ続け、課長補佐で定年退職が真の『勝ち』と、私は定義づけてるからな。文句? あるなら出してみろ、私はそっくりそのまま下請けに丸投げだ!!」
「ハァ……従業員ゼロの株式会社リコナシリーズまたかよ~~……。おいよせって」
「よせもなにもなぁ~~~いッ!!! 切絵の夏菜ファーストは規約違反だ!! 却下だ!!!」
「だからよせ!!」 「……やっば~~~」
ほらね。
輪田の変な口調に、正直「……あぁ、この子……ガチの方──」とは思いかけてもさ、こうして陰口タイムスタート。
三十秒も放っとけば勝手にベラベラ喋り始めるアホ。扱いやすすぎて草はえる~。
マンカラの石を「飴ちゃ~~ん」とか言いながら口に放り込んで、「ゲッ」とか一人で吐き出してさ。
今度は机に転がってた、アシストフィギュアとかいう意味わかんないカプセルをブンブン振り回しながら、
本場がどうだ。
ガキがどうだ。
「夏菜ファーストはやりすぎだ」とか。
「アイツずっと睨んでくる」とか。
「ガキ優先しすぎ」とか。
まぁ出るわ出るわ。
……ハハ。まぁ、途中から私、普通にスマホでインスタのストーリー見てたけどね。
もっとこうドロッドロのやつ。人間性終わってる感じの期待してたからさ。
出てきた町内会の愚痴レベルのしょーもなさは、だいぶウザさはあったけども。
でも、
チル君が「もういいから黙れ!」ってツッコんでる横で、私はリール動画見ながら、
「それはヤバいわ~~」「わかる~、本場ちゃんちょっとそういうとこあるよね~」って、適当に。
優しくお姉さん風の相槌だけ、お買い得セットで打っといてあげた。
「私は予言するぜ。予言ってのはな、適当な奴がボソっと言ったことが大抵当たるんだ。……メモれよ。二〇三八年の与党政調会長は初芝清だ」
「保険かけた割には、やけに自信なさげな予言チョイスだなっ!!」
「あと切絵は十分以内に絶対言う!! 『プールに……移動しませんか?』。チャイルドベイビーッ!! 一〇〇%逃れられないッ!!──」
「──私は移動してたまるかぁ!! めんどくさいんだぁ~~~~!!!」
「だからもう黙れ! キリエに聞かれたらどうすんだよ!」
「あ? 投票権は全員平等だ! 今から切絵を私派に寝返らせる! それだけだな!!」
「アホッ!!」
「も~~璃瑚奈ちゃんギャグセンエグイって~~~~♡ ……まぁでも、本場ちゃんちょっと怖いもんね~~。分かる分かる~~」
「それも込みであとで本人通告だぜ~おい~。……ングッ、ゴクッ、プハァ~~ッ!!」
で、一通りほざいて「ゼェハァ……」のオバカちゃんへ、私はレッドブルをはいどうぞ。
途中から超おもんない漫談路線に切り替えやがったからさ、缶に込めた思いはビタミンB群内容量以下だけど。 ……でも、まぁスッキリしたのは本当。
深夜にお腹空いたとき、冷蔵庫にあるお母さんの雑なラップ飯食べたら、なんか無駄にエモ美味しく感じちゃうあの感覚と一緒。
“アイツに、不満がある。”
“アイツを、この輪から外したい。”
“『アレ』は、──どう考えても、私のせいじゃない。”
「……」
こんなレベルの奴ら相手でも。
「あ~分かるわ」って言い合えるだけで、人間ってちょっと楽になるっていうか。
……なんだろな、『青春』っていうか。笑
「切絵ちゃんもさ、別に悪いコではないと思うから……。あの子も含めて、みんなでもっと仲良くしたいよね~~」
「あーー? それは知らねーよ」 「おいおいサチ~~。……こんなやつに同調すんな! 持ってかれるぞ!!」
「え~~~ひど~~~」
私は若干。
本当に、ほんの若干だけ。
口内炎のズキズキすら、「まぁいっか」で流せそうなくらいには、余裕が戻ってきてた…………。
────だから。
────だからこそ、余計だったんだろうね。
「……ま、悪口大会もほどほどにしとこっか。ねぇチル君、私もマンカ──」
「ぁ、あのっ……み、皆さんっ!!!」
ッ────、
ッッッッッッ──────。
「あ。おうキリエ」 「うぃ~~。……あれ? 夏菜は?」
「あっ、し、師匠なら……その、二階ですっ。……って、そ、それよりっ!!──」
「──夏菜師匠がっ、二階で食堂を見つけてくださったんです!!──」
「……だからなんやねん」 「宮殿の隠し扉か」
「ち、違いますっ!! でも、きっと皆さん喜ぶかなって……。その……朝ご飯、まだですよね? だから皆さんも……い、一緒にどうかなって……!」
「……ま、飯なら行くか」 「うぃ~~~~」
「は、はいっ! じゃ、じゃあ行きましょうっ!──」
「──……そ、それで。……み、美馬さん。──」
ッッ────、ッッ────、
ッッ──────。
ッ──────。
「──……あ、あの。す、少しだけ……。──」
「──お、お話……しても、いいですか……?」
ッ──────。ッ──────。ッ──────。ッ──────。ッ──────。
静かになった私の世界をグチャグチャにかき回した、『ソイツ』の困り顔を見て。
口内炎は、猫に引っかかれたみたいに疼き始めた。
ッ────────────
────
──、
──────、
──────、
「……どうしたのかな。切絵ちゃん」
………………
…………
……
◆
ブーブー、ブー。
…………また来た。性悪デブクソ女・小陽からLINE。
──『ごめんね😅』
たった一枚。BTSのスタンプ一枚。
センターパートの爽やか韓流イケメンが、真っ白い歯見せてヘラヘラ笑ってる。
……うざ。本気でうっざ。
今やそいつの顔は、私の脳内LINEの壁紙に強制固定されて剥がれない。
頭が空っぽで、無駄に汗もジンワリうざくなって、チラチラとチルくんの方を盗み見るくらいしかできない。
そんなダセェ姿を晒してる私の視界は、さっきからもうずっとLINEのトーク画面にジャックされてた。
画面を閉じれば──現実を見れば、済む話なのに。
脳内の指が、勝手にタイムラインをスクロールしていく。
スーッ。
スーッ。
また一件。
また一件。
壁紙と化した韓国アイドルの頬でも撫でるみたいに、指先だけで上へ上へ。
そして一番最初まで戻る。
『……お、お話……しても、いいですか……?』
……あー、ここからか。
私の今日がガチの意味での自殺したのは。全部、この一通からだった。
……
…………
………………
💬 本場切絵
< 🔍 / 📞 / ≡ >
『……あの……。形だけでも、いいので……。あとで、その……。夏菜師匠に、一言だけ……謝っていただけませんか……?』
“……え、ビックリ。……誰に?”<既読>
『……』
“……って言うのもおかしかったね。…………夏菜……ッ、……ちゃんにだよ……ね……?”<既読>
『……すみません』
🤖 AIアシスト:「切絵ちゃん、わざわざギスギスさせるようなこと言わなきゃいいのに……」
それな。サンキューロボ。超わかってんじゃん。
ソイツは私の手を馴れ馴れしく握ってきて、目ぇウルウルさせながら、まだ何か言ってた。
……思うわ。
この時の私、どんな顔してたんだろ。
愛想笑い? いや違う。
真顔? それも違う。
じゃあ一緒にウルウル? ……キッツ。
どの選択肢選んでもゲームオーバーじゃん。
マジで。
──────────────
🤖 AI超訳
『要するに、「サチさんが謝れば丸く収まります」ってことです』
──────────────
……
…………
………………
💬 夏菜なんたらシショー
< 🔍 / 📞 / ≡ >
『あ、サッちゃん……!』
“……あのさ、夏菜ちゃん”<既読>
『……?』
“……マジで。その『サっちゃん』っての、本気でやめ──”
──【メッセージを取り消しました。】──
“…………ちょっと、お話いいかな”<既読>
『うんっ。わたしもおはなししたい!』
「師匠は、お外に……」。
アイツに言われるがまま、私は今この世で一番行きたくない場所へ向かった。
はいはいいましたよ。庭の隅っこ。
……地面の赤黒く染まったディバッグ見つめて、今にも泣きそうな顔してるチビ。
キモ。
……マジ無理だった。全部イヤミ。
それはさ、ガキの露骨なアンニュイ顔もすっごい癪だったんだけども、
……一番イヤだったのが、いないわけ。本場切絵。
「大丈夫ですよ」「信じてますから」って言いたげみたいにさ、……私とガキだけ残してフェードアウトしやがった。
監視すらしない。……ド偽善者。
🤖 AIアシスト:「切絵ちゃん、二十四時間テレビ毎年フル視聴勢~~」
……おい、その煽りちょっと好き。
まぁでもさ、変な話。これ一周回って変なドーパミン出ると思わない?
無音、無音、無音。
どこを見渡しても、遠くのビルの角に助けを求めても、聞こえるのはこのガキのハナをすする音だけ。
世界に誰もいなくなって、……ほんっとうに私とこいつ二人きりって感じでさ。
マジで最悪な恋愛ドラマのビターエンドかよって感じ。
『サっちゃん……』
“……”<既読>
『……、うんっ……! 気にしないでね!!』
“………………あ?”<既読>
夢みたいだった。悪夢って意味で。
宇宙みたいだった。酸素ゼロって意味で。
つまり、息が詰まるくらい、無理。
……私だってさ、なんだかんだ普通のJKなんだから。
限界突破したら──やっちゃうじゃん?
さっきも言ったけど、ちょうど本場いねぇんだし。
“……何を、気にしないで?”<既読>
『……いわない』
“は?”<既読>
『もう、いわないから』
『でも……!』
『ミイちゃんもね、お空で、きっと!!』
『サっちゃんのこと、ゆる──』
────、
──────。
『……え』
うん、殴った。
平手打ち一発。
加減? そりゃするよ、猿じゃないんだし。
絶対痛くないだろうに、頬押さえて固まるガキへ、私は優しく笑顔を向けた。
“泣かないで。お願い。お姉ちゃんを困らせないでほしいな。ね?”<既読>
『…………え?』
“このことは切絵ちゃんにはナイショね。……うん、ヒミツ”<既読>
『……さ、サっちゃ──』
“そう、仲良くしよ。”<既読>
“だからさ、”<既読>
頭、グシャグシャって撫でて。
“もう私にもう話しかけなくていいよ。ばいばい♪”<既読>
『…………え……』
はい、終わり。
胸糞イベント回収完了。
ガキをその場に放置して、即玄関に直行~~。
……ん?
なんで、最後に頭なんか撫でてあげたのかって?
仲直り? 違う違う。
──チル君に見られたから。
ただのシステム的な反射。ポーズ。
──────────────
🤖 AI超訳
『切絵じゃなくて助かった~~~~』
──────────────
……
…………
………………
💬 チルくん(まとも枠)
< 🔍 / 📞 / ≡ >
『……サ、サチ。さっきの……どういうことだよ。ワケ、話して──』
“私だって!! いや被害者じゃん!? 被害者じゃんって!!!”<既読>
『……あ?』
“……もう嫌なんだって。こんな殺し合い放り込まれてさ……自分が分からなくなるっていうか…………もうワケ分かんないんだって……”<既読>
『サチ、お前何言って──』
“ねえ、チル君はなんで……私にこんな優しいの? ねえ、教えてよ……”<既読>
『な……!? お、おい!! サチ、は、離せって……!!』
“怒んないでよ……”<既読>
“お願いだから……”<既読>
“もう怒らないでよォ……”<既読>
『サ、サチ! サチ……』
🤖 AIアシスト:「……この辺、スワイプします?」
……うん、見んな。画面を覗くな。
いやまぁ多少? 多少は盛った。
……っていうか、チル君を丸め込むための主演女優賞タイムだった感は否めない。
…………。
はい、パス。
ここガチでパス。
黒歴史保護機能、緊急オン。超高速スクロール。
──
────
──────
────────
──────────
…………
……
『……分かった。誰にも言わねぇ。約束する』
“……信じられないんだけど”<既読>
『…………っ、じゃあどうしろっていうんだよ……!!』
“……誓約書”<既読>
『はぁ?!』
“嘘。……ゴメン、何言ってんだろ。うわ私キッツ……”<既読>
『……』
“………………”<既読>
“まだ聞いてないよね、答え”<既読>
『あ?』
“なんで、私なんかに優しくするの”<既読>
『……』
『意味なくちゃダメなのかよ。……理由とか付け始めたら、めんどくさいだろ……』
“なにそれ。意味わかんない”<既読>
『分かんなくていいよ。……ほら、飯行くぞ』
“……は? アハハ。ウケる~……”<既読>
……あー、あーーーーー!!!
やっば!
無理! 自殺!!
無理無理無理!!!
長押し!!
全選択!!
削除!!
ゴミ箱送り!!!
サーバーからも完全抹消して復元不可にしろ!!!!
──────────────
🤖 AI超訳
『サッちゃんガチ照れじゃんウケる〜〜〜〜〜wwwwwwww』
──────────────
………………
…………
……
既読。
既読。
既読。
…………広告。
━━━━━━━━━━━━━━
『人生はLINE。次に届く通知は、誰にも分からない。』
【フォレスト・ガンプ/一期一会】
▶ 今すぐ観る
━━━━━━━━━━━━━━
……へえ。
チョコの中身がどうのこうのとか知らないけどさ、人生ってマジでバグ多めの劣化ゲーだからウケるよね。
たった一通の送信ミスで、積み上げてきた関係が一瞬で崩壊する。
ちょっと前もそうだった。
小陽ちゃんがマキの彼氏のこと「アゴ尖りすぎて凶器じゃん」とか言って、私がつい爆笑しちゃったら……はい、次の日ブロック。
今でもスマホのフォルダには残ってる。四人で制服ディズニー行った時の、加工ゴリゴリの写真。
消そうと思えばいつでも消せるよ?
でも、アルバム開いた瞬間に目へ入る。だから消せない。
……人生ってさ。
その辺のUI、ガチで終わってんだよね。
ウザい奴の通知はミュートできても、現実の肉体は目の前から削除できない。
非表示にもできない。
何回説明しても、バカは同じこと繰り返すし。
🤖「……サチ?」
────ウケること言うわ。
🤖「サ、チ、?」
────今さ、
🤖「サ、、、、、チ、、、、、、? み、美馬」
────私。
🤖「み、美み、み、みみみ、馬、mmmmmm、み、ま──」
「────美馬さんッ!! ……ど、どうして…………どうして夏菜師匠に、ひどいことしたんですかッ!!」
「……」
「……ひぐっ、うぅっ!! もういいからぁ……! 切絵お姉ちゃん、もういいからぁっ!!
──ほれ。即オチ。
──────────────
🤖 AIサービスが終了しました。
『デ🤖🤖gt゙ィウ🤖🤖🤖🤖🤖🤖🤖🤖🤖🤖🤖🤖🤖🤖🤖🤖🤖🤖🤖🤖🤖🤖🤖』
サービスが終了しました。
サービスが終了しサービスが終了した。ました。
サが終た。
──────────────
「答えてくださいよ!! み、み……美馬さんっ!!!」
「………………」
「……」 「…………」
……はい、こっから画面スクロール不可の、強制お気持ち表明イベントね。
ガキ死ねや。
「か、夏菜師匠に……全部聞きました…………っ! どうして、そんなことしたんですか………………」
「……」
「しゃ、喋ってください。説明してくれなきゃ……わ、分からないですから……!」
「……」
「……美馬さん」
「……」
「美馬さんッ!!!」
「…………」
「うぅっ……うっ…………!」
「……なあよ。チルチャック」
「喋んな。今は黙っとけ」
「……お、おう」
…………ハア。
この茶番、……なに?
本場、肩ガックガク揺らしながら必死だけど。
そんなに? そんなに人って震える?
……でさ、一番「ちょっと待てボタン」押したいの、あのガキなんだけど。
秒でチクったんだ。すご。報連相の申し子じゃん。
しかも、なんでお前が一番被害者ぶって泣いてんの。
ちょっとペチって一発叩かれただけでしょ。
……いや、手を出した私も悪いのは認めるけどさ。
なんか。
全部、私だけが100%悪者になるこの流れ。
それはそれで、ちょっと違くない??
「……美馬さん、……お願いです。説明を──」
「ごめん」
「…………え?」
「夏菜ちゃんにも、ごめん」
「…………」
「……以上」
「…………」
「美馬さん。それ、本気で言ってるんですか」
「…………。……まあ」
「まあってなんですか」
「……」
「いい加減にしてくださいッ!!!」
「…………」
あー思い出すわ。
中学、バド部のあたおかコーチ。
「もう謝らなくていいから」って突き放すように言われたあの日の空気。
……じゃあ何喋ればいいんだよ。
謝るな。でも何も言うなとも違う。ああいうの、一番嫌い。
……まぁ、今となってはどうでもいいけど。
でさ、ガキも本場の「人は分かり合えるんです!」みたいな空っぽ説教も、正直だいぶ萎えるんだけど。
一番キツいのはアイツら。
「……」 「…………」
チルと情緒不安定輪田。この二人の視線。
説教なんてさ、内容だけ聞けば大したことない。
威圧感もないし、怒鳴られてるわけでもない。
下手したら、「頑張って怒ってるなぁ」くらいで終わる。
……でも、周りの目だけは別。
あの、「うわぁ……どうすりゃいいんだよ、この空気」って顔。
「助け舟出してあげたいけど、さすがにこの状況じゃ入れないわ」って顔。
「可哀想だけど、見てるしかない」って顔。
あれ。
あれが、世界で一番無理。
ストレートに哀れまれるより、いっそ軽蔑されるより、あの「他人事だけど気まず〜……」って顔で見守られてる瞬間が、一番キツい。
もうさ、どっちでもいいから派閥作ってくれよ。
切絵派でも反切絵派でもどっちでもいいから。
全員が「困ったなぁ……」って顔してんのが、一番地獄。
────ッッッッ────────。
「……」
……痛い。
本当に、無理。
────────────ッッ、────。
「……」
私が完全に死んだ目して固まってる横で、誰も何も言えないまま。
ただただ濃縮された気まずさだけが、その場の空気そのものになっていく。
痛すぎる。針のむしろじゃん。
────────────ッッ、────。─────────ッッ、────。
────────────ッッ、────。
「…………」
痛い。
痛い。
痛い。
痛い。
口内炎が。
ズキッ。
またズキッ。
小さい頃。
「すぐ治るから」って、お母さんに爪楊枝で突かれた時みたい。
あの、逃げ場のない痛み。
────────────ッッ、────。─────────ッッ、────。
───────────────ッッ、────。─────────ッッ、────。
────────────ッッ、────。─────────ッッ、────。
「………………」
痛……。
……い。
もう。
痛いのが口なのか。
頭なのか。
「…………──」
「もう一度言います……っ。し、師匠に……みんなに謝ってくださいッ!!!」
────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────。
…………それとも、この冷え切った空気そのものが痛いのか。
……途中からマジで、わかんなくなってた──。
「……すぅ。♪サッちゃんはね~~」
「え?」 「……うぇ?」
「…………え、師匠?」
「………………は?」
「サチコっていうんだ~ほんとはね~~♪」
まぁ、そんなタイミングなわけ。
よくあるじゃん。
大人がギスギス喧嘩して、そこへ子どもが「もうケンカしないで!」って。
純粋な笑顔で全部丸く収まりま~す、みたいな。
たぶん、あの子なりに、そうしたかったんだろうね。空気なんか読めないから。
私と本場の間へ、ちょこんと割り込んできて。
二人の顔を何度も見上げながら。
ぎこちない笑顔で、必死に歌い始めた。
~♪だけどちっちゃいから~、
~♪じぶんのことサッちゃんって、
~♪よぶぅ~~んだよ!
「♪たのしいねっ~!」
「し、師匠ぉ~~……っ!」
「「サっちゃん……っ♪」」
……追加で、二番まで歌い始めやがった。
本場は泣き笑いみたいな顔で歌ってる。
夏菜は私たち二人の手を握って、ぶんぶん振りながら歌ってる。
チルは笑ってた。
輪田も笑ってた。
両方、妙に渇いた笑い声だった。
花畑。見えたわ。
「♪仲良くね~~、──」
「「──サっちゃん♪」」
……うん、いーじゃん。
これで全部解決じゃん。ハッピーエンド。めでたしめでたし。
だから私も胸の底から湧いてくる黒いドロドロを押し込めて、
あのガキの笑顔だけ見ようとしてさ。
「……ぁ、ありがとう。…………ハハハ、優しいね。夏菜ちゃ──」
────────────ガリッ。
口内炎、
思いっきり、
噛ンジャッタ。
◆
【アシストフィギュア】
【北条さん@からかい上手の高木さん 召喚確認】
◆
【♪Mima's Theme】
【-誰にも見せない顔】
………………
…………
……
『あれ』から、────まぁまぁ時間は経った、かな。
チル君たちと並んで座る、市民館の長机。
さっきまで胃の中でグツグツ煮えてた黒い何かも、今じゃもうだいぶ冷めて。
私はスマホ片手に、インスタのストーリーをぼんやり眺めてた。
「なんつーか、……私がこんなの言うのも柄じゃねーけど。美馬、……どんまい」
「おいバカ! リコナ!!」 「はぁ? なにが~~?」
「いや共感性なんたらってやつだろ。深くは言わないけど。……もう『みんなのうた』見れないの超ドンマイだろうがよ~~」
「なにそれもう~~~。てかみんなのうた、結構子供向けじゃないシュールな曲も流れるんだよ~~~?」
「……なんだよサチ。そんな、思ったより、なんてか……」
「ま、チルくんは見るべきだと思うけどね~? Eテレで毎晩20:55ジャスト~~~」
「おい!! ンだそれ!! ガキじゃねぇよオレは!!」 「ハハハァ~w情操教育~~~ww」
うん、なんだろ。
スカッとした。
……いや、スッキリ? どっちでもいいや。
チル君と輪田のアホ会話に適当にツッコめるくらいには、もうどうでもよくなってた。
インスタ開いてお気に入りの投稿に適当に♡。
飽きたらTikTokに切り替え。
油圧プレス機でコスメをぐちゃぐちゃに潰してる動画。
韓国の人がブルダックソースを正気じゃない量かけて麺をすすってる動画。
犬。
猫。
知らん外人。
スッ。スッ。スッ。
動画なんか半分も見てない。
でもなんか、画面見てるっていうより、窓から差し込む朝日を浴びてる方が、気持ちよかった。
…………ハハ。意味わかんね。私、キッツ。
ブタのLINEももうブロック済み。
LINEの着信音も、お気に入りのマカロニえんぴつに変更。
ブタが「陰キャバンド(笑)」とか上から目線で言ってた、アレね。
マキやノリとの記念写真もこの際だから消した。
……うん。全部、消えた。
胸につっかえてたヤバイやつを、全部ゴミ袋にまとめて出したみたいな、そんな朝だった。
「つーかマンカラなくね? おいチルチャック、……お前もさぁイカついよな~~~」
「ハァ?! 負けそうだったから片付けたわけじゃねーし!!」
「いや私何も言ってねーじゃん。おつ」
「いやほんとだわっ!! オレ知らねーし!! どうせキリエが片したんだろ! 支給品一式よ~~」
「はは~~ん?」
「死ねッ!!!」
ふん、ふふ~~ん♪
ふふ~ん♪
……ウケるよね。
さっきまで口内炎ひとつで世界終わってた私が今は鼻歌。
情緒、ジェットコースターかよっていう。
……でもさ当然っちゃ、当然じゃん?
「あーでもそうなると厄介だよな」
「は? 何がだよ」
「え、だって切絵。掃除好きそうだしウッカリ──」
「み、みなさんッ!!! か、夏菜……師匠…………どこにいるか……し、知りませんか……ッ!!?」
「「え?」」
だって、夏菜ちゃん。
普通に殺しちゃったから。
「ト、トイレ…………ぜ、全部見たんです……!──」
「──ど、どこにも……いなくてぇ……っ」
「お、おい、落ち着けって……」
「この……この靴だけ……! 靴だけ、片方しかなくてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!」
「……は?」
「お、おい待て待て待て……! キリエッ!!」
「どこにもいなくてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!」
……。
ウケる。
……いや厳密には私がキルしたわけじゃないし。
つか、死んだかどうかも分かんないけど。
「靴片方しか~~」って、トトロかっつうの。
「わ……わけわかんないじゃない……おちつ、お、落ち着けるわけ……ないじゃないですか!! た、確かめたん……見たんですもん……!! こ、ここには、……誰も、誰も、いなくて…………」
「だ、だから落ち着けって!!!」
「さ、三十秒……し、師匠が…………トイレいくって……。み、見張ってたのに……いなくてぇええ!!!」
「キリエ!!」
「私が……目ぇ離したからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」
「キリエってッ!!」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
……あー、うっせ。
♪テトラポッドの上で~~かよ。サビしか知らんけど。
ま、ここらへんでネタバラシ。
私、口内炎、二個できちゃったわけじゃん?
余裕でカチンってくるっていうか、マジ死ねって感じじゃん?
だから、あのあと私の中でスカっとジャパン開幕。
輪田がブンブン振ってたあの『アシストフィギュアカプセル』。……こっそりパクっちゃってたからさ。
それ召喚して。で、出てきた女子を、トイレに潜ませて一言。
“夏菜ってガキ来たら、どっか連れ去っちゃって”
……今思えばさ、若干後悔かな。
だって出てきたその北条ちゃん、まぁまぁ普通そうだったし。
……若干後悔。
それだけが、後悔要素だったり……。
「……美馬さん、ですよね」
「は?」
「…………美馬さん、……あのあと、少しだけ戻るの……遅かったですから」
「……はァ~?」
「なっ!!? おいキリエ!!」
「しょ、正直に言ってくださいよッ!!! ど、どこに……どこに師匠をやったんですかァッ!!!」
「…………ヤバ」
……。
…………。
いや、知らん。
あの北条って奴に聞けよ。
私関係ないし。バカが勝手にやっただけじゃん。
つか、そんな心配ならAirTagとか持たせとけよ。
そう言う時代でしょ。
……マジで、こういうとこなんだよな。
人が忘れたいこと。もう終わったこと。
そこを延々ほじくり返して、周りが困ってる空気まで読めなくなって。
チル君も輪田もめちゃくちゃ居心地悪そうじゃん。
……まぁ。
分かんないよね。そういう子だから。
本場切絵。
────とは、ぶっちゃけないとこがさ。
──私、ちゃんと教育されてきたんだな~~って思う。
言うわ。
「……探したいなら、自分でやれば?」
「え」
「人を疑うのは、そのあとでも遅くなくない? だったら、今ここで私と喋ってる時間、もったいないじゃん」
「……え」
「私たちは待ってるから。ゆっくり探しておいで。──」
「──ね、切絵ちゃん~?」
「え、え……」
ウケるよね。
──“私『たち』は待ってるから”。
本場は「一緒に探してください」とは言わなかった。
まず、チラッと輪田を見る。
「…………」
はいスルー。そりゃ当然でしょ。
で、次はすがるような目で、チル君を見た。
「チル君なら」「絶対裏切らないから」「なにより夏菜ちゃんを気にかけてたから」
……そんな期待が、その目に全部書いてあった。
「………………」
「……あ、の…………。チル……さ──」
「……」
「……っ、…………」
ほら。スルー。
いいね、連係プレイ。
世の中は誰かの仕事で回ってるんです~~。
そんなこんなで四面楚歌になっちゃった本場ちゃん。
最後は、私に目を──……まぁ、合わせることなく。
「…………お、おかしくないですか。……皆さん」
「……。あっ、キ、キリエ!!」
木刀ひったくってそのまま走ってった。
……あぁ。結局探しに行くのは、一人なんだって感じ。
残った私たちにはどうすることも、もうない。
気まずさだけ残った部屋で誰も目を合わせなくて。
みんな、自分の膝とか机とか、どうでもいい場所ばっか見てる。
……真犯人の私を挟んで、空調だけが、平等に風を送ってくる。
本場は最後まで「夏菜師匠」「夏菜師匠」「夏菜師匠」。
周りなんか見えないまま、一直線。
はい。めでたしめでたし。
……ほんと。めでたし、だわ。
……いや、なんで。
私まで、こんな気まずい思いしなきゃいけないわけ……?
「……チルチャック」
「言うな」
「いやお前はさ、どうなんだよ。……キャラ的に追いかけなくていいわけ?」
「……」
「……ゴォ~~~じゃねーし、空調~~~……」
「……。──」
「──探して、全滅じゃ元も子もねぇだろ」
「……」
「サチが待ってるつってんだ。……だったら、オレも待つ」
…………。
「……お前」
「悪いなサチ、巻き込んじまってよ……」
………………。
「……うん。見つかるといいよね、……誰も悪くないんだから。誰も」
「………………」
……。
……何も、間違ってない。
そう何回も言い聞かせてるのに。
口内炎だけは、ずっと痛かった。
……まぁ。
身体って、空気読まないから。
【🟠STATES🔥】
【平成少年ダン】
【1日目/渋谷公民館/AM.06:59】
【美馬サチ@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】罪悪感(大)、口内炎、首輪解除
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【優勝狙い】
1:チル君と輪田とは当面つるむ。ウザくなったら即ブロ。できればまともな女子か、盾になってくれそうな陽キャへ乗り換えたい。
2:TikTok、……見よ。
3:……てか眠。
【チルチャック・ティムズ@ダンジョン飯】
【状態】健康、首輪解除
【装備】なし
【道具】メビウス@煙草
【思考】基本:【対主催】
1:戦力になりそうな参加者を探す。首輪解除を交渉材料に仲間を増やしたい。
2:……キリエ、カナ、……悪い。
3:サチは、なんとなく娘に雰囲気が似てる。……だから特別扱いする気はねぇけど、今は放っとけねぇ。
【璃瑚奈@空が灰色だから】
【状態】健康、首輪解除
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【静観】
1:面倒事はカット。
2:……チルチャックが探しに行くって言ったら、私も行ったんだけどな~~。
3:……いや、本気で探したんだぞ。
4:…………嘘じゃない。今回は、本気。
【1日目/渋谷公民館付近/AM.06:59】
【本場切絵@干物妹!うまるちゃん】
【状態】焦燥、首輪解除
【装備】木刀
【道具】画材一式
【思考】基本:【対主催】
1:師匠……ッ!!
2:お願いですから、無事でいてください……!!
【1日目/???/AM.06:59】
【折口夏菜@弟の夫】
【状態】不明
【装備】なし
【道具】ランドセル
【思考】基本:【静観】
1:不明
最終更新:2026年07月06日 22:59