『ゆりこん』
ザャバザャバ
ザバッ……
「はぁ、はぁ……………──ぷはっ……。…………………─ぷはっ…」
私は、『うまるさん』が好きだ。
海老名さん、も…。
二人は学校じゃいつも独り身の私に話しかけてくれた優しいクラスメイト。
人と話すことが苦手な私は、これから新しい友達なんか作れないだろう。
もしも…、仮にうまるさんらがある日突然いなくなったとしたら……。
──私は耐えられるはずがない。
だから、私の為。
なにより、うまるさんの為。
なまじ運動神経、そして武術には人並み以上の力がある私は『行動に移さなきゃいけない』のだろう…と。
覚悟を決める瀬戸際にいた。
ザャバザャバザャバ
ザバッ
「………─ぷはっ………。……はぁ、……はぁ…………………。………………─ぷはっ……」
ザャバ…ザャバザャバ……
一方で、私は『水泳』があまり好きではない。
嫌いなのか?──と聞かれたらそこまでではないけども。
…けども、水泳で賞を取ったとき達成感や快感は沸かなかったし、水泳部の顧問やみんなから褒められても、心中『無』で。嬉しさは感じなかった。
私は心の底から楽しんで泳いだことなんか、一回もなかった。
ただ、水の中はすごく静かで、──特に周りに誰も泳いでないときなんかは、ヒーリングさが出るくらい無音の環境で。
心が不思議と落ち着くから、私は悩みや考え事があるときはプールへよく足を運ぶ。
──人間は、何度もいろんなものにぶつかって、それでぶつかった中で「どれを選択しよう?」と思わなくちゃならない時が皆ある。
そういう時、私の場合は「まずは水中」と思って考える。
『水中』っていうのは。私にいつも、人生を教えてくれる存在だ。
だから、────。
ザャバザャバザャバ、ザャバ…
「………─ぷはっ………。……」
だから、今、私はこの湖で夜泳に嵩じている。
私は、参加者名簿からうまるさん達の名前を見つけてしまった時。
衝動的に目の前の湖へと飛び込んだ。
──制服を脱いでスクール水着に着替えるくらいの心の余裕はあったが、あの時私はパニックで焦燥が溢れんばかりだった。
ザャバッ。
私は泳いで、
ザャバッ。
私は泳いで、
ザャバ、ザッ…。
水中へ、ひたすらにひたすらに問い質した。
…
……
────水よ、私に教えて……。私は人を殺したり…とか……そんなことはしたくない………。
「………………ん、──ぷはっ………」
────でも、私が闘わないと、……うまるさん達が……死んじゃうっ…………!!
「………………………………──ぷはっ……」
────私の…かけがえのない友達を……、犠牲にはしたくない………っ!!!
「…──ぷはっ……!!!!」
────この広い…湖……。どうか、教えてくださいっ…………!
────私は彼女らの為に、誰かを犠牲にしなきゃ……いけないのでしょうか……………。
……
…
「………っはぁ、はぁ………。わ、私はどうすべき……、はぁ……ぁっ………。なんでしょうか……。はぁ……」
ボート一つすら浮いていない水面で、私は揺られ動き続ける。
やや欠けた新月が真っ黒い湖に映え輝き、水が火照った全身をひんやり包みこむ。
ふと、対岸沿いの、遠くの浜辺を見てみれば人影が一つ確認できる。
──その人は私の存在に気づいているのか、否か。呆然と座り込んでる様子だった。
「…はぁ…………………、はぁ………………」
太ももを中心に、だんだん疲労で体が重くなってくる。
かれこれ十数分近く、泳ぎ続け…──自問し続けたが、未だに『最適解』は導いてくれない。
…水でさえ、この『生と死の問題』は解くことができないというわけ…なのか。
いつも私の助けになってくれる存在なのに…、本当に一大事の場面では人生を教えてくれなかった。
ならば。
何も考えず自分の直感、一番最初に思った行動をするしかないのだろう。
──ほんとは嫌だけど…仕方ない。
ちょうど向こう岸に一人『犠牲候補』が用意されているのだから。
「はぁ……………。んっはぁ………」
「う、うまるさん…、こんな私のことはもう忘れてください…………」
「…そして、友達になってくれたのに…………。人の道から外れる…ま、真似をすることを…許してください…………」
一呼吸置いた後、────ザバッ。
私は暗い暗い水中へ潜り込む。
腕を伸ばして、足で一定のステップを取り、対象までずっとずっと、ずっと泳いでいった。
陸に上がる『そのきたる瞬間』が恐ろしくて嫌で、胃が痛かったが、私の体は泳ぐこと以外許さなかった──────…。
◆
『東京湾〈とうきょうわん。〉』
『ちいさい こどもたちへ。』
『ここは きけんなので、およいだりするのは ぜったいに やめましょう。』
………。
…ん~~~~~~~っ??
「ヘンなのっ! こんなクサくてきたない湖に入ろうとする人なんかいるわけないじゃん!!」
目の前のおっきな看板を読んで、あたし──カナはツッコミをいれちゃうのだった。
「…てゆーか……。ふわぁ~~あ~ぁっ……」
「こんな時間に起きてるの…、カナはじめてなんだけどっ……」
ついでに、あくびで涙もこぼれちゃうのだった。ほわ~~あ~…。
普段じゃ、おそくても九時にはパパにベッドへ入れられるから。
ほぉ~んとっ、とにかく眠たくてしょーがない。
…なーんかよくわかんないけど、起きたらバスの中にいて。
それで、またよくわかんないお話をされて…、周りのみんなの頭がスイカ割りみたいにブチュブチュブチュってなったぁ~~と思っていたら……。
気づいたら、このまたまたよくわかんない場所にいて。
…そんで、近くにはカナの、リコーダーが飛び出たランドセルも落ちてて。
ほんとに意味が…わからわからわからわからわからわからわからわから…わっかんなかった!
「ころしあい、……って?? カナなにすればいいわけ~~??」
ぜ~んぶ、わけがわかんない…。
今なにしてんのか説明できないくらいわかんないや。
だから、『夏休みの日記帳』にはどう書くべきか……。すっごいムズかしくて思い悩んじゃうのだった!
いやほんとどうすべきなのこれっ?!!
ひざ小僧のバンソウコウを掻きながら、わたしは考える…。かゆっ。
だって、たとえばだよ?
──しち月なな日。はれ。
──きょうは、わたしは、ころしあいを、させられました。みんな、いたそうだったです。おわり。
…とか??
そんなん書いたとする、と。
そしたら、絶対先生にやり直しされるわけじゃん?!
意味わからないことを書かないでください~~、って。おこられちゃうわけじゃん!!
じゃあ、そうなると。
──きょうは、よるに、ひとりで、とうきょうわんにきました。パパが、つかったトイレより、くさかったです。おわり。
…って書いたとしても………、してもだよ!????
……それもそれで、先生から「なに危ないことをしてるんですか?!」っておこられそうだし……。
しかも職員室にまで呼び出されて激おこされるかんじでしょ。──…ともやくんみたいに……。
「いやっ!!! 絶対おこられたくないし!! カナ絶対なくもん…!!」
「てゆーか、なんで事実かいただけなのにおこられなきゃならないわけ?!!! もうほんとにいやだよっ!!!」
…いやー、こまったよ…。
小学生ながら、このゆゆしき事態にちょくめんして……。
うーむ頭がいたいぃい~~っ…。
いったい、カナはどうすんのが『最てき解』……なのかな………。
────ザバアッ
「──ぶはっ…!!!!」
…うわっ!!??
「え?! な、なにっ?! びっくりした!!!」
だなんて、考えていたら、とーきょー湾からいきなり人が出てきた!!!
考えるのに夢中~だった分、カナ、ちょ~ビックリしたんだけどっ!!
え?!
てことはつまり………。お、およいでたの??!
この人…??!
「はぁ………、はぁ……………。んっ、はぁ…………………」
…その人とすっごい目が遭っちゃったカナ……。
…たしかに、今はものすごくあっつい。
カナも半そでにミニスカートの軽装?で来ててよかったな、って思うくらいあつい。
だから、泳ぎたい気持ちも…わかるけどさぁ……。
…目の前のビショビショなおねいさん。
身体中ヘドロみたいな…、黒い油??とか藻が、足とかスクール水着とかにまみれていて……。
めちゃくちゃきたなすぎるんだけど~~っ!!
そんなのになるくらいなら入らないほうがマシじゃん!!そう思わないっ?!!
…てゆーか、さっきからニラんできててちょっとコワイし……。
カナ、なんかおこらせちゃったりしたの…かな?
一応、きいてみよっか……。
「ねえ! おねいちゃん。…もしかしてカッパさん??」
「………………………」
…って!!
カナなに意味わかんない質問しちゃったんだ!!?ねえほんと…なんで?!
そんなことより聞くことはあるっていうのに…。
ヘンなことしゃべっちゃったんだけど~っ!!!
あが~~~~~~~~~~んっっ!!!!
「……………………………カ……、」
…うぅ~っ。
おねいちゃん、なんかビミョ~にふるえながら「…カ」とかいいだしたし~~。
ほんとはじかしいこと喋っちゃったんだけど……。
──…いや、まてよっ。
おねいちゃん、何を言い出そうとしてるのかって…。
「カ」に続く言葉といえば……、「カッパ」……じゃん…?
…じゃあ、「そうです私はカッパなんです」とか。ワンチャン喋ってくる可のう性は────…、
「カ……カワイすぎるッ…!!! はぁ……はぁ……、かわいい…!!!」
…ん?
「…え?」
「…はぁはぁ……………、かわいい…、かわいすぎるよっ…!!! このコ────────っ!!!!!」
……んんっ??
「…へ…???」
「…小学生特有のサラサラとしていて、黒一色のいい匂いしそうな髪が──か、かわいいっ!!!」
「…やわらかそうでプニプニで、…顔の中でも特にやわらかそうなその出っ張り部分……、ピンクの唇が触りたくて──かっかわいいっ!!!」
「膝についている絆創膏……、白いソックス…、そして『魅惑の域』をギリギリ隠している赤いスカート……!! すべすべした白くて肉感たまんない太ももが──か、かか、かわいいっ!!!」
「あとその髪の結び目も──かわいいっ!!! というか顔が既に──かわいいっ!!! かわいいよっ!!!」
……え????え????
なんかいきなり喋りだしたんだけど…。
おねいちゃん、自分の胸部分をギューってにぎりながら……。
なにっ??
──…てゆーか。「カ」って、「カワイイ」の「カ」……??
「…うぇ~…????」
「んっ!!! き、キュンってきた!!! …あぁ~~~か、かわいすぎる……! キミはかっ、か、かわいいっ……………──」
「────…もう私堪えきれないっ……!!」
「え?? な、なにが…、」
「かわいすぎるよオーー!!!!!!!!」
──ぎゅっ、
…むぎゅうううううううううううううううううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっっ!!!!!!!
「ぎゅえっ!!!!」
ぐるじ~~~~~~っ!!!!
おねいちゃん急に飛びついてきて、カナをすごい抱きしめてきたっ?!!!
…いや抱きしめるどころじゃないよ!
すっごいほっぺ擦り合わせてきたり、もにゅもにゅと足をいろいろ揉んできたり、すっごい高速でなでなでしてきたり……、カナのおさげ嗅いできたり……、
とにかくカナにいろいろしてくるんだけど??!
「いやくっさぁ!!!!」
…全身べたべたギューしてくるから、カナのいたるところにヘドロが付くしっ!!
「ちょっとはなしてよ!?!! やめてぇってばっ!!!」
「んーー!!! やっぱ小さい子供は可愛いよ…可愛いよーー!!! …わ、私が、お姉ちゃんが絶対守ってあげますからねーっ…!! んんっ……! かわいいーー!!!!」
「はなし…、…いやすっげくっざぁああぁぁあーーっ!?!!!?!」
…ほんと、誰か説明してよ!!
これどんなじょーきょーなワケ???!
初対面なのに急に気にいられて…、犬みたいにじゃれられて……。
カナにとっては、理解不能………!!!!
「ぼ、防犯……ブザー………」
「かわいいかわいいかわいいかわいいーーっ!!! ランドセルも可愛すぎるーー!!! …殺し合いとか怖くはないですからね?? あ、安心してくださいね!!!!──」
「──だって、悪い人からキミや皆を…守るんですから!! 絶対に…私が!!! だ、だだ、だからすっごい大好きですよーー!!!……!!!!」
…ただ。
これにて日記帳の書くネタだけは出来上がったわけで…。
それはたしかだった。
──きょうは、わたしは、カッパのおねいちゃんに、だきつかれました。ぜったいに、おふろに、はいろうとおもいました。
…的な、ね……。
「可愛いは正義!!! 正義が勝つ!! だから私と一緒に行動しましょうーー!!! いいです…よねっ?!!! んん~~っ!!! 好き好き好き────────っ!!!!!!!!────」
△【18歳未満の者との、みだらな性的行為は、犯罪です。】△
児童が心身ともに健やかに成長するために、児童の権利や支援内容、児童に対する禁止行為などを定めた法律です。
青少年を誘惑・威迫・欺罔・困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交・性交類似行為、
青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交・性交類似行為は法律違反にあたります。
ただし、被害者が13歳以上16歳未満の場合には、行為者が5歳以上年長である場合に限って、処罰の対象となります。
違反には、2年以下の懲役刑又は100万円以下の罰金刑が課せられます。
【1日目/B3/東京湾/AM.00:30】
【本場切絵@干物妹!うまるちゃん】
【状態】全身ベタベタ、スク水
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:快っ感~~…っ
2:うまるさんたちが心配…
【折口夏菜@弟の夫】
【状態】いたるところベタベタ
【装備】???
【道具】???(一式ランドセルに梱包)
【思考】基本:【静観】
1:ちょっとこのおねいちゃんナニっ??!
※この小説はフィクションです。実在の場所や場所、場所などとは関係ありません。
最終更新:2025年03月04日 23:09