『死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくないバトロワ』








 AM.1:00。
少女二人が、閑古鳥鳴く深夜の街を練り歩く。
互いにシャワー後である為、火照る肌がツルンと潤しい。
この辺りは都内屈指の光輝街・渋谷といえど比較的暗くどんよりした街裏。
故に、パッと見は小学生の姉妹にしか見えない彼女らが、この時間帯にこの街を歩くとなれば、別の意味で危ないことだろう。
もっとも、今は殺し合い中で、そんなアブないおじさんは町中どこにもいないのだが。
…多分。


「夏菜師匠…、私…臭く…ないですよね?」


「ん? うん。まあ~、あれだけ洗ったし。ヘドロ臭さはないよ~?──」

「──…切絵おねいちゃん、カナはニオい取れてるよね……────、」


(──あっ!!! しまった~!! そんなこと言ったら………!!!)



「…ふへへ……、ふひっ………!」



「ヒッ!!!!」
(や、やっぱり!! 『じらい』踏んだっ!!!)


「…そんなに気になるなら……今私が嗅いであげますよっーー!!!! 夏菜師匠の柔肌の匂いーーー!!! 夏菜師匠の乾かしたてのフワフワ髪ーー!!! ミルキーさ薫る全身……、チェックしてあげますからねーー~~っっ!!!!!!」


 スリスリ、
 スリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリ────────────────ッ


「ぐへえ~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!!! 高速頬ずりぃ~~~~~~っっ」


 鼻息を荒くしながら、幼女へ頬ずりする看護婦──本場切絵は、『看護婦』と呼ぶにはかなり幼い見た目の女子生徒だ。
切絵が何故ナース服を着てるかというと、更衣室にこれ一着しかなかったから、それだけである。
汚水でうっかり制服も汚してしまい、何を着るか困り果てた矢先、見つかったこれ。
小柄な切絵にもフィットするサイズであることから、女児向けコスプレ用の服と推察できるが、それにしてもスカートの丈がやたら短く素肌はスースー露わになる。

そんな彼女にもにゅもにゅ抱き着かれる幼子──折口夏菜はさっそう白目状態。
別に、切絵の力が強すぎて悶苦しているわけではない。
単純な話、ナース姉の愛着ぶりが気持ち悪いだけだ。


「はぁ、はぁ…。…んんっ~~~~…! 可愛いですよぉ…夏菜師匠~!! …失礼ながらこのカワイさ……、こまる師匠に匹敵しますよォーー!! うまるさァーーん!!」

「おまえが埋まれっ!!!」




……
と、そんな感じで犯罪ラインをギリギリ超えかけつつ歩く二人組。
切絵はともかく、被害者の幼女にとっては、言わば『赤ドラ』。
──切りたくても切れないそいつとタッグで心底疲労していた。


「はぁ~あ……。パパ、ママ、…マイク……、助けに来てよォ……」

「…ハハ。夏菜師匠…、月が綺麗ですねー」

「あ? なんか言った?」

「あい・らう゛・ゆー…っ! ほんと、月が綺麗です! ねっ! 夏菜師匠…! ん~~っ!!」


促されるまま、夏菜は真上の星空を眺めてみた。
──もっとも視線を反らした瞬間、抱き着きキスしてくるのも要警戒しながらであるが。


「そんなゆうほどキレイじゃないじゃん。欠けてるしっ」

「もう~~!!! 夏菜師匠ってばぁ~~! 夏目漱石の訳で月はきれい=あなたが好きって意味なんですよー! 月なんかどうでもいんです~~っ!!!」

「カナしらんがなっ!! って、あっ──────、」


「ほ~~んと、ちっちゃい子は可愛いなぁ~……。人類全員幼児なら…、ひ、人と話すの苦手な私でも快適なのに……。…そう思いませ──」



…切絵が見上げるよう言わなければ、夏菜が『それ』を見つけることはなかっただろう。


「────あっ!!!! 夏菜師匠っ??!!」


電気暗転し雑居ビルの屋上にて、『そいつ』が視界に入った夏菜は、慌荒した表情に変わったかと思いきや、
────いち目散にビルへ向かって走り出した!


「ま、まま、待ってくださいよっ!!! 夏菜師匠ーー!!! どうしたんですかァーー!!!」


これまでの流れからして、さすがの切絵でも「自分から逃れるため」かと思ったが、そうではない。
屋上のフェンス際にて、風に吹かれゆらつく『そいつ』──。
眼下のアスファルトを呆然と眺める『人影』を見て、夏菜は一心に駆られたのだ。


「はぁ、はぁ……切絵おねいちゃん────っ!!!! 急いで!!! 早くっ!!!」

「え?? えー??? か、夏菜師匠?!」


「早くしないとあの人────、飛びおりちゃうよっ!!!!」

「へ?? あ、あの人???? ま、待ってください!!!」



 小麦色の太ももで、揺れるスカートに構わず走る夏菜。そして、追いかけるナース。
わけも分からないまま、切絵は雑居ビル内へと入っていった……。






 十数分前。
パッと見は小学生──チルチャック・ティムズのスタート地点は屋上だった。


「ライオスに、マルシルにセンシ……。おい…、一人でも欠けたらやべぇじゃんかよぉ」


 んぐ、んぐっ


「…ぷはぁー……。おいおい頼むぜぇ…? ──特にマルシル…! 俺らン中で真っ先に死ぬの間違いなくお前だからなぁ?」


 あんぐ、もぐもぐ…

  くいっ、んぐっ、んぐ…


「つか、クソ不味ぃなぁ!? このエール!! 全然冷えてねぇし肉と全く合わねぇ!!」


 瓶ビールをついで、牛皿を口にいれる。
眺めるは、参加者名簿を。──新聞を読むように地下置きでペラリっ。
二十八歳にも関わらず『ハーフフット』という種族の為、容姿はガキそのもののチルチャックは、オヤジさながらの寛ぎをしていた。
泰然自若がモットーの彼は、この有り得ない状況下に置かれようとも、冷静さを保つ。
…頭の中で必死に言い聞かせ、平静を維持していたのだ。

そんなチルチャックの横を、ふと少女が横切る。


「…ったく、現在時刻一時……。今から九時間睡眠しても起きた時にゃあ大遅刻だぜー……。わたしの睡眠どうしてくれんだ無能主催者がっ……」


「…ぁあ……?」


ブツブツと一人、不満を漏らす少女に思わず顔が向く。
大きな黄色リボンを頭に付け、髪はややショート気味。
とにかくどんな事柄にもやる気が出なさそうな、そんな目が特徴の──推定小学生らしき少女だった。
チルチャックが今してるような、けだるい目。
そんな目と不意に合わさった。


「あーー? なんだガキか……。とりあえず、わたしからお先させてもらうぜ……」

「………っ?? 何するか知らんが勝手にしろ」

「んじゃ、さっさと自殺しますかーー」

「おう」


牛玉ねぎをつまむチルチャックを通り過ぎ、少女はフェンスへと向かう。
高い高い壁をどうにかよじ登った後、スタンッと。
遥か下の、真っ暗な地面に向かって飛び降りようとしていた…………。









「って、おいっ?!!!!!!!!!!!」


 ギョッと目が丸くなるチルチャック。
箸を投げ捨てた彼は、大慌てで少女──和田璃瑚菜に向かって急接近するのだった。


「なになになになにっ???!! なにしようとしてんの??!! お前ぇ?!!」

「うおっ! びっくりするじゃねーか!!? ……自殺するに決まってんだろ。4-3-2のジサッツーだぜ。文句あっか」

「大ありだわいっ!! 開幕即決意決めるヤツなんかいねぇよ??!!! 考え直せよっ!!!!」

「あーあーうるせぇなーー…。私のボソボソ声に合わせてボリューム小さくしてくれよ。聞こえてっからよー」

「いやさすがに冷静でいられるかァ────────ッ!!!!!!!!」



 フェンス越しに対峙される一対一。
汗を流す両者。
──といっても、ダクダクに慌て汗をかくチルチャックと対象的に、りこなは軽い引き汗なのだが。

人が目の前で死ぬとこなんて見たくないチルチャック。
故に彼はフェンスを強く握りながら、説得を試みたいのだが…。
先に、『説得』に入ったのは自殺予備軍──りこなの方だった。


「…はぁ、ったく。…先天的というべきか。親も教師も友達でさえ、わたしを『常にやる気がない』ように見えるらしく。損ばかりの人生だったぜ…」

「…は?! 実際やる気ねぇだろお前??」

「……まー、その通りだ。すなわち──」


「────わたしはこの『バトル・ロワイアル』にも全くやる気がでない! だから死ぬ。それだけだぜ。じゃ、あばよ」

「いやいやいやいや!!!??? だからちょっと待てつってんだろォーー!!!!! 待て待て待て待て、待てっ!!!!」


 後ろを向いたりこなへ、大慌てでフェンスを揺らさらずを得ない。
よく考えなくても、チルチャックにとってこんな知らない女…、どうなろうが彼の人生に何の影響もなく、止めに入る必要性などありゃしない。
ただ。
三人の我が娘と、りこなで重なり合う物があるのだろう。
自分の娘くらいの歳である少女の自死となれば、おのずと止めに入らずいられない。
その為、血気果敢に声を荒げるチルチャックであったのだが………、


「し、死ぬなって!!! 現実を見ろよガキ!!!! 生きてりゃいいこと沢山あんだよ??!!! おい!!!!」

「…あー? ………現実を、見ろ…………? 生きてりゃいいこと、ある………………?」

「…あぁそうさ!!!! 死ぬなんてバカのやることだぜ…!!! だからよ──…、」

「はい、スリーアウト。チェーンジだぜ」


「………は?!!!」

「『現実を見ろ』…『生きてりゃいいことある』…『死ぬことはバカのやること』……。薄っぺらい三大屁理屈にこりゃお笑い草だぜ……」


 フフッ、と鼻笑いが癇に障る。
りこなは矢継ぎ早、口を開いた。


「いいか? 自分で言うのもあれだけどよ、この何十人もいる参加者の中で一番現実を見据えているのは…わたしなんだよ」

「自殺って一番現実逃避じゃねぇかよっ!!」

「……まぁー………聞け」

「あぁ??!!!」


「あん時、バスん中でお前は隣に誰が座ってたか覚えてっかよー?」

「…………は?? …ハゲメガネのオッサンだけどよ……それが何の関係あんだよっ!!!!!?」

「ほーほー。そいつァ恵まれたモンだぜ……。恵まれていて、そして呆れるな。おいー?」

「何が言いたいんだよっ??!!」


「いいか? わたしの隣に座ってたヤツはよー……」




……

あのときのバスの話だぜ。


──殺し合い……。ヒヒッ!! 殺しまくって、皆殺しにして………。

 『…あー?』


ブツブツ何か独り言をぼやく隣客は大男だった。
熱ぃ中だっつーのに、フード付きジャンパーで厚着だ。
顔は隠れて、見えなかったが…、歯がすげーギザギザなのははっきりしてたぜ。
そいつの独り言…必然的に聞いちまうわけだが……、耳を疑ったよ。


──男はブチ殺して、チンポコを耳塚ならぬペニ塚でコレクション…!!!

 『……あっ………??!!』

──女は両穴をレイプしまくって俺の子供を作ってやらァ!!

 『……………』


 分かるか?
隣に座ってるヤローは分かりやすく殺し合いに乗ってたんだよ!!
あの時点で…、みんなが利根川ヤローと揉めてる中ニヤニヤしながら殺害宣言をぼやいたんだ!!

──ギヒヒヒッ!! …イプ、イプ………


 『………え?』


──レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ、レイプッ!!!!!!

 『ひ、ひぃやぁぁあぁ~~~~~……』




あんとき、わたしは存在感を消すことで全神経使ったぜ……。

……



「つまりはだっ!! そんなやつにグチャグチャの色んな意味でメチャクチャにされるくらいなら自分で死んだほうがマシだろーっ?! そうだろーっ!!!」

「な、なな……。いや、よくねぇよ!!!?」

「わたしだって、そら死にたくねーよ!! でもあんな鬼畜に出くわして犯され続けるのと、一瞬の痛みは伴うがそれで楽になれる自殺と、…どっちがいいかって聞かれりゃ後者じゃねーーかぁ!!──」

「──その二択を判断したうえで、最適解を選んだわたし! 一方で起こり得る未来なんか考えもせず日和見主義のお前!──」

「──どっちが『現実を見ているか』明白だろー!! どっちだ?! なぁー、どっちがバカだーー!!!」



「…でっ出会わず生還するって可能性もあんだろっ!!!! 『生きる』って第三選択肢を選べばよっ!!!!?」



「…………………。」


 あっ黙った…。
と、彼女の急な衰弱っぷりにチルチャックは拍子抜けさせられる。
追撃という様に、優しい言葉をりこなへ向けて放つのだった。


「…だから、な? 戻ってこい……。悪ぃこたぁ言わねえからよ」


「…………やだ断る」
「あっ、セリフ間違った。だが断る」


「…チッ!! ぁああ?!!! お前ぇ!!!」


…優しい言葉はあっさり跳ね返されたのだが。
説得はなおも続く模様である。


「………お前さっき、『生きてりゃいいことある』っつったよなー」

「…言ったけど、まだ続ける気かよっ?!!!」

「長生きは得だとか……、人生百年時代だとか…………。要するにお前はテレビメディアの陰謀に踊らされて無思考になってるだけだぜ? 気づけよ…!」

「て、てれび…………?? ともかく長生きはいいことじゃねぇかよ!!!!」

「ならば問うぜ。…これはわたしがつい最近ドライブ中に見た光景なんだがー……」

「…またなんか語りだしたしっ!!!!」




……

 あの日はすっげぇ炎天下で熱中症アラートの昼下がりだ。
カーエアコンでヒンヤリ貴族だったわたしだが、ンなことはどうでもいい…。
工事中の路肩にて、警備員がフラフラ棒を回してたんだがよ。
その警備員……、哀れなことに七十超えの爺さんが汗だくになってやがったんだ!!

普通なら年金暮らしで悠々自宅に籠もるだろうに、爺さんも色々人生があったんだろな。
何時間も立たされ、車を誘導し…、
暫く経ってから一回りの年下土方から烈火の如くキレられても………「すみませんすみません」としか言えず……。
全ては、安定した給料。
お銭のため、年不相応な仕事をこなしてたんだ。

……


「これはわたしにも言えることだぜ?! バァさんになってからシルバー人材でどっかの店に派遣されて、年なもんだから慣れる筈のない作業をミスり続け、怒られる……──」

「──そんな人生をして何が『長生きは良き、生きることは良きかな』だーー?! だったら、若いうちから不摂生なり自殺なりでピリオド打ったほうがマシだろーー!!!」


「…い、いや………、」

「それはまたまた殺し合いにも言えることだぜ!!!? 早いうちからの脱落は、怪我少なく逝けることの裏返しだから死ぬべきなんだよーっ!!!」


「…………………」


 今度言葉がつまったのはチルチャックの方だった。
よく考えればただの屁理屈連発であるのだが、りこなの妙な説得力というか。
間髪入れず発せられる『幸福自殺論』に、凡人であるチルチャックにはもはや甘美な響きさえ感じてしまう。

はぁ、はぁ……。と互いに激論故の体力消耗を見せたが、「もう疲れた」と言わんばかりに行動を移したのは少女・りこな。
僅かばかりの地面を蹴ると、別れも言わず。
そのまま転落へ────…、


「いやだから死ぬなっつぅの!!!!」


 ぐいっ

「ぐへっー!!!!!」


…落ちようものならこれまでの説得は何だったのだと。
チルチャックはりこなの襟袖を力いっぱい引っ張り、万有引力に逆らってみせた。


「さっきからさっきから自分のことばかり……。…お前はわかんねぇだろうがよ、死んだら親が悲しむんだよぉ!!!!! お前だけの命じゃねんだよ」


「………ぐぐぐ…。…そら……悲しむだろうさ…。──つまりは遅れてんだよなぁ~~、日本社会はよ!!」

「…はぁっ???!!!!」


「インドでは死は輪廻転生の過程に過ぎず、何百回も転生するわけだから一々悲しまないんだぜ??! それに、キリスト国家では死はむしろ輝かしい物として嘆くべからず、との教訓だ!!!──」

「────ってネットサーフィンしてたら知ったが…」


「…よくわかんねえが、お前ぇ自前の知識じゃないんだなっ!!」

「要するに、神が『死はいいよ』つってんのに、下々の人間風情が何故勝手に『死=悪』とするっ??!! 究極の背徳行為じゃねーーか!!! 神の教えについてこいよ仏教国家ジャパニーズ!!!!」


「…あの、…くそっ……。えーと、…か、神なんかいねぇよ!!!」

「…それ禁句だろーが!!!」

「お前ぇが言い返せないからかっ??!!」

「ちげーよ!! …もういいっ、こんな奴と一緒にいられるかっ。わたしは先に死ぬとするぞ」

「死ぬ前提の死亡フラグ立ててんじゃねぇーー!!」


 蝉無き静かな夏の夜。
汗べったべたになりながらチルドレンの口論は止まりを見せなかった。
平行線に次ぐ平行線。
水掛け論がマシに見えるぐらい不毛な戦いだが、かといってチルチャックが言い負かされた場合待っているのは絶望だ。

この議論に決着をつけたい…。

そんな思いで、チルチャックはこれまでの薄っぺらい人生論を一切取り除いた『本音』を吐くこととした。



「…あぁもうっ!!!! 迷惑なんだよっ!!!! アホがっ!!!!」



「……あー………?」


「せっかく酒飲んで……、いい気持ちで一人宴したのに………。うざってぇお前ぇのせいで酔いが最悪なんだよっ!!!!」




「………ぁ…………?」


「だからさっさとこっち来いっつうの!!! 自殺とか見てて気持ち悪ぃんだよっ!!!!!」







「………………………………」


「……結局……、自分主義かよぉーー……」




「あぁっ??!!!!!」


 気持ち悪い、と言われたのが心にクリティカルヒットしたのか。
りこなのその目には、分かりやすく大粒の涙が生成され、
ひぐっ、ひぐと小さい肩を震わす中…そして、



「お前の悪酔い事情とか知るかぁぁーー!!!! うわぁぁあーーんん!!!! 死んでやるよーー!!!!」



結果、事態が余計悪化した。



「ちょ???!!! 待て!!!! 待て!!!!! お、俺が悪かったから待てよっ!!!!」

「うわぁーーん!!! 知るかぁー!!! やっぱ早死は最高だぜおーい!!!」

「頼むから!!! お前は死ぬなって!!!!! おいー!!!!!」

「やめろぉ!!! 離せぇっ!!! 死にたーい…! 死にたぁーーい!!!! 死にたいぃーー!!!!」


 もはや、議論、論破、建設的な会話……糞もない。
泣き狂う自殺志願者と、それを力付くで止めるキッズの攻防へと発展したが…、もはや不毛では片付けられない事態。
口から大きく飛び出る舌に、細かな唾液が跳ねる様。…まるで葛飾北斎の『波』が如しだった。

このまま、りこなは望み通り死ぬのか──。
それに反してチルチャックは彼女を救うことはできるのか──。
結末は霧中が如く。予想などできない現状だが……、


ここで一人。──いや二人。

純真な心を持つ【エンジェル】の囁やきが、割とあっさり収束に走らせた。





「カンタンにしぬなんて言わないでよっ!!!!!!」






「「………え?」」




「ちょ……、か、夏奈師匠?! え…?? なに??? この子らは………??」

 屋上出口にて、息を切らす女児とナース。
特に女児の声が、大きく大きく、鋭く発せられた。




「…しんだら……、終わりなんだよ…………?」



「カナのパパの弟も……、一生けん命生きてたけど……、最期は病気になっちゃって……………」



「マイクも、看取った病床でたくさんないた………って言ってた…………。つらいんだよ……」





「「……………」」





「しんだらダメなんだよっ!!!!! う…、うわぁあぁぁん!!!! わぁあんんわぁぁああん!!!!!!!」




 …女児の泣き声と、それをあやす声だけが延々と木霊していく。
チルチャック、りこな共にこの突然の第三者が誰か知らなかった。
知らない上に、いきなり怒られ、泣かれるものだから思考停止に陥ったことだろう。



ただ、天使の涙というのは絶大な効果があった。



「……ったく、しょうがねーなぁ。…そこまでされて、折れないわたしじゃねーぜ…」

「うおっ! あっけな…」


 フェンスをよじ登り、こちら側へ戻ってきたりこなは鼻を掻く。
汗を垂らすチルチャックをよそ目に、萌え袖越しでナデナデと。
名前も知らない女児をあやすのだった……。


「うぐっ………ぐずっ……ひっぐ……………」


「ガキンチョ。お前の言葉……、どっかのヤツと違い一発で身に沁みたぜ。すまないな……」

「…お前ぇな…………………」


「ひぐっ…ひぐ…! うへぇん……ひぐっ」


「あーあー!! あ、え、えと………、う、うちの夏菜師匠が………す、すみません…………!!」

「いやいや……、むしろ有り難いもんだぜ……。だから、泣くなよー? …かな…ちゃん……!」

「いやお前ぇが泣くなって言うなよ!!!?!! 元凶じゃねぇかっ?!!! 畜生ォっ!!!」



「うぐっ……、うぐ………。…そうだよね………! しなないで、みんなで協力して助けあわなきゃね!!!──」


「────だって…、この場にいる四人全員たまたまみんな小学生なんだからっ!!!」






「「「……………………………は?」」」



「「「いや、小学生じゃねぇーーわいっ!!!!!!」」」





「……………え?? え~~~~~????」




 と、まぁ。
なにはともあれだ。




 カン────。


 ──────│東│東│東│東│




四人グループが、ビル屋上にて結成された。





【1日目/G5/マンション/屋上/AM.01:27】
【しぶや防衛隊、ファイアッー】
【チルチャック・ティムズ@ダンジョン飯】
【状態】健康
【装備】???
【道具】牛皿ビールセット@牛丼ガイジ
【思考】基本:【静観】
1:小学生じゃねぇよ!!
2:ライオス一行が心配
3:りこなに憤慨

【璃瑚奈@空が灰色だから】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:小学生じゃねーし!!
2:一旦自殺は諦める
3:ガキンチョ一行と行動すっかぁー…

【本場切絵@干物妹!うまるちゃん】
【状態】健康、ナース服@うまるちゃん(3巻だか4巻でサイレントヒル風ゲームやったときのイメージ映像の服)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:小学生じゃないですよっ!!
2:夏菜師匠をお守り

【折口夏菜@弟の夫】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???(一式ランドセルに梱包)
【思考】基本:【静観】
1:『死』だけは絶対…ダメ!!
2:小学生男児に、リボン小学生、そしておねいちゃんも高学年の小学生じゃあ…?


前回 キャラ 次回
020:『少女と異常な冒険者 022:『徘徊老人かな?
チルチャック 053:『ゲーム生還の糸口♂♀
りこな 053:『ゲーム生還の糸口♂♀
008:『ゆりこん 折口 053:『ゲーム生還の糸口♂♀
008:『ゆりこん 切絵 053:『ゲーム生還の糸口♂♀
最終更新:2025年03月11日 20:55