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勝利のテッカマン(前編) - (2013/03/15 (金) 00:44:03) の編集履歴(バックアップ)


勝利のテッカマン(前編) ◆gry038wOvE


 この鬱蒼たる森林に集いしは、憎き運命に突き動かされし悲劇の兄弟。
 共鳴し合う感覚は、すぐにこの森林に、生存するテッカマン全員を揃わせた。たった一人、脱落者がいることを考えると少々遅かったかもしれないが……。
 それでも、そこにいるテッカマンは皆、共通して「彼女」のことを知りながら、彼女のことを考えたり、話題に出したりはしなかった。
 避けているのではない。
 今は、どういうわけかその少女の名前が身近に感じるのであった。
 その少女がいる場所────死後の世界に最も近い場所に、自分たちはいるのだと思わせるほどに、その場は張りつめ、凍り付いていた。

 相羽。

 その苗字から察することができる通り、この場にいる二人の男は血縁者──兄弟であった。体格が良く、華奢という言葉とは無縁。しかし、華奢でも違和感が無いであろう美少年。
 二人分の描写をする必要はない。彼らは双子でほぼ同じ顔だったからだ。
 その顔つきまで非常に似通っているものの、これから彼らが見せる異形は、似てはいるが色合いも造形も違うものとなる。
 相羽タカヤが変身するのは、テッカマンブレード。
 相羽シンヤが変身するのは、テッカマンエビル。
 光と闇の騎士であるのは確かだが、そのどちらが光でどちらが闇なのか、今となってはわからない。周囲への貢献で言えば、間違いなくブレードが光だが、当人の心の持ちようによって光か闇か決まるのなら、エビルが光と見えるだろう。
 ブレードは、人間の味方だった。エビルは、人間の敵だった。
 ブレードの心は、まだどこか曇っていた。エビルの心は、不思議と晴れやかだった。


「兄さん」


 その呼びかけに、タカヤは答えない。
 巡り合いは偶然でも何でもない。モロトフからの情報と、テッカマン同士のシンパシーが起こした必然。
 だからこそ、なるべく早く踏ん切りをつけてきたはずだった。
 両肩が痛む。
 肩が凝るどころの話ではない。肩から血が溢れ、激情とともにその血が噴き出そうとするのだ。森に吹く生暖かい風の煽りを受けて、痛みは増すばかりだ。


「……京水、見ろ。あれがテッカマンエビルだ」


 タカヤと共に来ていた泉京水という男(ただし心は女)が、シンヤの歪んだ顔つきを見て、少しだけ目を大きくした。
 タカヤと全く同じ顔でありながら、険しい表情をするタカヤとは違い、シンヤは妙に落ち着いて微笑んでいた。
 タカヤならば絶対に見せないであろう表情だと思う。
 京水はタカヤとシンヤの二人の顔を交互に見比べた。
 ……まるでシンヤが善玉で、タカヤが悪玉のようにも、見える。
 しかし、どちらも美少年には変わりはない──ということに気が付き、京水は声をあげた。


「シンヤちゃーん! 会いたかったわ!」


 少しは畏怖するかと思いきや、予想に反して相変わらずだった京水に呆れる。
 実際、京水が一切恐怖を抱かないのは、彼がNEVERという特殊な存在だからに違いない。彼は死に対する恐怖を持ち合わせないのだ。


「……兄さん、これは新しいガールフレンドかな? まあいいさ、俺たちの邪魔さえしなければね……」

「お前こそ、その奇妙なペットに邪魔をさせるなよ」


 シンヤの傍らには、ラダムとは明らかに形状が違う、しかしおそらく宇宙にも生息しないであろう奇怪な生物が佇んでいる。
 椅子から生み出されたナケワメーケで、やや巨大な外形である。
 ラダムやテッカマンよりは愛嬌があるものの、シンヤの仲間には違いなしという感じだろうか。


「……勿論。これは俺と兄さんだけの勝負さ。絶対に他の誰にも邪魔はさせない。ナケワメーケ……お前はもう自由だ。ここから離れるといい」


 しかし、ナケワメーケが離れていく様子は無かった。離れたとしても、することがないのだ。主の戦いを見届けたい気持ちがあるのかもしれない。
 シンヤの様子が奇妙であることに、タカヤは気が付いた。
 なんだか、「テッカマンエビル」にしては妙に落ち着いている。──こんなに一対一の勝負に拘る男だっただろうか。
 これまで憎しみの対象としてきたテッカマンとは、まったく違う……そう、例えるならまるで、タカヤが知っている「相羽シンヤ」のような……。
 タカヤが言葉を忘れた間を狙ってか、シンヤが再び口を開く。


「兄さん、聞いてくれるかな……俺は、やっとわかったんだ。なぜ、兄さんとこんなにまで憎み合い、戦わなければならなかったのか」

「何……?」


 タカヤがようやく言葉を発する。
 それは、言葉の出し方を思い出したというよりは、反射的に口から出かかった言葉だった。
 シンヤは、戦う意味がわかったと言った。
 それは、彼が戦う意味を知りたがっていたということ──ただ本能的に戦っているだけのはずのテッカマンが。


「俺は、兄さんと戦い続けることでしか、俺の存在を、俺が生きてるってことを証明できなかったんだよ」


 京水、ナケワメーケ……部外者のすべてが黙り込んでいた。
 相羽タカヤは、憎しみに狂ったよりも、もっと真摯な瞳でシンヤを見つめた。
 一瞬、かつてのシンヤの姿と重なる。
 かねてより持っていたシンヤの、裏の顔なのだろうか。
 彼が兄弟に対して持っていたのは、愛情だけだけではなかったのだ──愛情と紙一重のところにある、もう一つの黒い感情を持っていたのではないだろうか。


「ラダムでも人間でも同じことさ。……たとえ、テッカマンにならなくても、俺はきっと兄さんと戦っていたと思うよ」

「シンヤ、おまえ……」

「────嬉しいんだよ、俺は。こうやって兄さんと決着をつけられるってことが。だからこそ俺は、俺のもつ力を全てかけて、兄さんを倒す」


 タカヤの背筋が凍る。それは、ラダムに支配されたテッカマンとしてでなく、シンヤとしての彼が持つ闘争心から来た言葉だったからだ。
 仲の良い兄弟にあった、もう一つの感情。
 ラダムに寄生させる前からずっと持っていたはずの、シンヤの何か──。


「気にするなよ、兄さん。これは宿命なんだ。俺たち双子が、いや、ラダムと人類ふたつの種族が、未来をかけて戦う……逃れようのない宿命だったんだ」


 ──しかし、そんな気持ちが熱い何かに中和され始めた。
 シンヤの言っていることは間違っていると、タカヤの中の何かが告げる。
 父孝三の死と引き換えに生かされ、シンヤやケンゴといった兄弟と戦い、ミユキという妹の死を経験した男には、それを宿命などと片づけることはできなかった。
 しかし、それを言葉で返すことは、不思議とできないのだった。


 シンヤが、ニヤリと笑った。
 その口元に生まれた微笑を見て、タカヤは、口元を引き締めた。


「京水、お前は逃げろ。……俺たちが全力で戦えば、この周囲すべてが吹き飛ぶぞ!」


 その顔のまま、タカヤは京水に怒鳴るように言った。
 しかし、京水は数メートル引き下がるだけで、一切タカヤやシンヤを視界から外そうとはしなかった。
 シンヤはナケワメーケに何も言わない。
 それが物でしかないこと……それをよく理解していたし、大きな愛着もない。バットショットやスタッグフォンも同じだ。邪魔さえしなければいい。
 タカヤは京水がそう離れていないことにさえ気づかずに、拳を強く握った。
 それが合図だった。
 二人は、ほぼ同時に、変身のための掛け声を叫んだ。



「「テック・セッタァァァァァ!!!!!!!!!」」



 生まれたままの姿になった二人の手から、足から、背中から……体の内部から裏返るように突き破り、生々しい音を立てながらグロテスクな変形を辿っていく。
 人の姿を失い、化け物同然の姿となった戦士。
 ラダムという寄生生物によって、人であることを許されなくなった異形。
 その名はテッカマン。
 その異形がそれぞれの色に光りながら、より完全なものへと変化していく。
 そして、テッカマンブレード、テッカマンエビルも、それぞれの変身を完了させた。
 京水も、ナケワメーケも、────その様子を陰で見守っていたテッカマンランス・モロトフも思わず一歩下がる。

 ────爆風によって周囲の木々が乱れていく。

 巨体ナケワメーケが吹き飛びかねないほどの、強風。それは、テッカマンが走り去った後から吹いていた。
 緑と赤の光が、同じ距離だけ走って、中心でぶつかり合っている。
 光でなく、それがテッカマンブレードとテッカマンエビルの形なのだとはっきり認識できた頃には、それぞれのテックランサーが押し付け合っている。ガキン、という鈍い音がそれぞれの耳に入っていただろうが、それは他の人間には聞こえなかった。それより遥かに巨大な爆音が鳴り続けていたのである。
 しかし、それぞれの手元に握られた武器は、一瞬で命を絶つことも難儀ではない武器。──ゆえに、音がどれほど小さくても、その一撃の意味は大きかった。
 両刃のテックランサー。
 十字のテックランサー。
 どちらが圧しているのかもわからないほど、強い力と力を感じるものだった。



「でぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「うわぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 ……が、すぐに十字のテックランサーが圧すようになった。
 能力的には互角でありながら、ブレードの肩はダグバによる傷が残っているのだ。力比べとなれば、あっさり負けてしまうのは当然であった。


「ぐああっ!!」


 ドサッ、と音を立てて地面をバウンドした後に、ブレードの体が数メートル吹っ飛ぶ。
 彼の体が転がった地面は、あまりの熱のためにか、砂埃ではない煙を出している。
 本来なら、地面に尻をついたブレードにトドメを刺すのは簡単なはずだった。
 しかし、エビルは追撃しなかった。


「兄さん……肩を怪我してるみたいだね。これじゃあ、俺の望む決着なんかつかない」


 エビルは、己のテックランサーを使い、あろうことか自分の左肩にそれを突き刺した。
 それを力強く引き抜き、血のような液体が噴き出し、本人も小さく悲鳴のような声をあげる。
 しかし、それだけでは終わらない。
 テックランサーを左手に持ち替え、ひと思いに右肩に突き刺す。その瞬間、左肩からも右肩からも液体が噴き出したが、エビルはそれを何とも思ってはいないようだった。


「……はぁ……はぁ……どうだい、兄さん。これで俺たちは平等だ。正々堂々と戦える」


 兄へのコンプレックスを持ちながら、彼は決して優位な立場から兄に勝とうとはしない。
 それでは、存在を証明することにはならないのだ。
 双子。本来、一つだったはずの存在──わずか三十分の生まれた早さの違いで、生涯タカヤを兄と呼び続ける運命にあった男の、兄の背中を追い、親の愛を求めた男のプライドが、一切の卑劣を許さないのだった。
 少なくとも、シンヤとしての意識が強い今だけは……。


「何をしようと容赦はしないぞ、シンヤ!!」


 しかし、ブレードは容赦をする気は毛頭ない。彼がテッカマンエビルならば、どんな手を使っても彼を倒さなければならない。そして、相羽シンヤなら、兄として全力で彼と戦い、たとえ勝敗がどうであれ────弟の存在を証明しなければならない。
 悲しいかな、タカヤはそのどちらであっても弟を殺す運命になってしまったのである。
 タカヤの言った、宿命とやらは正しかったのだろうか。
 否、それだけは絶対に認めてはならない。
 平和な家族を壊したのはラダム。だからこそ戦える。それがシンヤや自分自身だったというのなら、タカヤはきっと……。


 テックランサーを構えたブレードが、再びエビルに立ち向かっていく。エビルの血まみれのテックランサーが、フェルミオンワイヤーによって発射される。
 エビルの手から離れながらも、真っ直ぐブレードに向かっていく。


「はぁっ!!」


 ブレードがそれを叩き落とすが、そちらに気を取られた隙にエビルがブレードとの距離を縮めている。
 そして、例によって肩から体当たりをした。
 重い体重がのしかかることにより、またブレードが吹っ飛ぶ。
 しかし、今度はただ吹き飛ぶのでなく、倒れる瞬間にブレードもテックランサーでエビルの脇腹に死傷を与えた。


「「ぐっ……!」」

「タカヤちゃん!」

「邪魔をするなっ!!」


 京水がかけた声を、ブレードは突き放す。逃げろ、と叫ぶ余裕さえないのだ。
 だが、誰も邪魔をする気はなかった。事情を知らない京水でさえ、邪魔する気になれなかった。
 もしかしたら、東せつなならば止めようとしたかもしれないが、残念ながら彼女はここにはいない。
 京水は彼女ほど甘くはなかった。どちらかの死を受け入れる覚悟もあったはずだ。
 ゆえに、この一瞬の心配の一声を除いて何かを言うつもりはなかった。


「兄さん、とっても嬉しいよ! いま俺は、生きてることの素晴らしさを、この肌で感じているよ」

「シンヤ、お前やケンゴ兄さんがラダムとなり、ミユキが死ななければならなかったのも、すべて宿命で片づけられるのか!?」

「いやだなあ、兄さん。俺はむしろ感謝しているのさ。ラダムになったおかげで、兄さんとの勝負にケリがつけられることをねぇ!」


 起き上がった二人は、何度でも敵に向かう。
 それしかない。
 敵に背を向けるのは、もはや兵法に無い。それこそ、この戦いの意味を無に帰すものとなるだろう。
 ブレードがテックランサーを凪ぐと、真一文字にエビルの体が切れる。
 エビルがテックランサーを突き刺すと、ブレードの腕が血まみれになる。
 しかし、どこか麻痺しているのか、それらは些細な傷としか認識されない。


「最高だ! 最高だよ兄さん! こんなにも充実した時を過ごせるなんて」


 エビルの狂気。
 それは全て、あるひとつのトラウマに起因していたのだった。


「もうラダムも人間も関係ない!」


 シンヤが小さい頃、彼が落としたランプの火がカーペットに燃え移った。ちょっとした不注意だったが、それが取り返しのつかないことになった。
 ランプの火はカーペットの隅から隅まですぐに燃やし尽くしていき、その周囲もすぐに燃やしていった。
 どうすることもできず、動けないまま、必死で「助けて」と叫んで、母はすぐにシンヤを助けに来た。
 しかし、周囲はそのまま火に囲まれた。
 彼女が助けに来ても、結局傍にいる以外はできなかった。
 母の腕の中で、シンヤは放心状態に陥った。
 自分のせいで、自分が過ごしてきた家が焼けていく。このままだと自分も母も死んでしまう。いろんなことで頭がいっぱいで、泣くことしかできなかった。
 母は、何か思いついたように大時計にシンヤを閉じ込めた。丈夫な時計だったから、その中に入れれば助かると思ったのだろう。ちょうど子供一人分のスペースにシンヤを入れて、母は微笑んだ。


「この瞬間が俺のすべてだよ、兄さん!」


 そして、シンヤの目の前で……一つガラス板をこえた向こう側で、母は……母だったものは燃えていった────。

 それが負い目となって、彼は家族に対するコンプレックスを強めた。
 父が愛してくれるはずがない。母を死なせてしまった自分を。
 タカヤ兄さんも、ケンゴ兄さんも、ミユキも……。彼らのあの時の、冷めた表情は忘れられない。
 ずっと、そんな思いにさいなまれて生きてきたシンヤの強い劣等感が、テッカマンとなって爆発したのだろう。
 彼が、「テッカマンにならなくても戦っていた」と言うのは、おそらくこの出来事が原因で家族に接しにくくなったのを薄々記憶しているのが原因だと思われる。己の罪を、兄たちが許してくれるはずがないと……いつか、誰かが突き放していくのだろうと、父の愛は全てタカヤに注がれて、シンヤなど「いなかったこと」にされてしまうのだろうと、そう思ったから、双子の兄に対するコンプレックスは強かったのだ。
 尤も、今の彼はその時の記憶など封印してしまったのだが。


「違う──!」



 タカヤは、シンヤの戦闘意思を拒絶する。
 この戦いがシンヤの全てならば、共に過ごしてきた幼少期は何だったのだろう。
 あの楽しかったはずの日々は、シンヤにとってオマケでしかないのだろうか。
 タカヤの場合は逆だ。
 相羽家の本当の記憶は、忌まわしいラダムとの戦いなどではなく、全て、もう時が止まってしまったあの家で過ごしたものなのだ。
 そこにずっとあったシンヤの気持ちも知らない。
 これは全て、ラダムによる暴走ゆえなのだと信じていた。
 だから、彼はシンヤの言葉を否定した。
 しかし、シンヤは叫び続ける。


「勉強! スポーツ! 親の愛! 何もかもが兄さん一人のものだったのさ! 人間の時はねぇっ!!!」

「そんなことは……!」



 エビルとブレードが対峙したまま叫びあう。
 ブレードのタイムリミットの都合がある以上、長々と話しているのは無駄以外の何物でもないのだが、それでもブレードは、タカヤとして……兄として、シンヤの……弟の言葉を聞かなければならないのだ。


「俺が……あの日々をずっと楽しく生きてきたと思ってるのかい、兄さん!! 何度も思ったさ……兄さんが憎いって!! でも言えなかったのさ、憎いだけじゃなく、愛してもいたからねぇっ!!!」

「──シンヤ……お前は……!!」

「だから、これは俺にとって最後のチャンスなんだ。兄さんを超え、兄さんを殺す最後のチャンス!! 俺は絶対に負けない……、負けられないんだ、絶対にぃっ!!!」

「──父さんや、母さんに……!!」

「俺は人間をやめるぞっ! ブレードォォォォ!!」


 負ければ、シンヤはタカヤの劣化版という不要物でしかなくなってしまうのである。
 幼少期から、学校生活までのあらゆる場面で、シンヤはタカヤに負けてきた。
 何度も競争して、何度も負けた。野球や空手といったスポーツでも勝てない。
 勉強でも勝てない。親にも愛されない。
 ミユキも、タカヤにばかりべったりで、シンヤに対する態度は少しよそよそしかった。
 同じ顔、同じ日に生まれた双子なのに……。


「……その姿は……進化した、テッカマン……なのか!?」


 テッカマンエビルの赤い異形──その姿はブラスター化していた。
 体中が刺々しい物体が生えて来て、全身をより巨大に見せている。
 不完全なテッカマンの能力を補う進化形態であり、タカヤは彼がブラスター化を果たしていたことなど知る由もなかった。
 これにより、パワーは強化されるが、他のあらゆる面で大きな弊害が巡ってくる。
 しかし、そんなものを今のシンヤが気にするはずがない。
 どうあっても、絶対にタカヤを殺さなければならないのだ。そのためにこの力を得て、寿命を削ったのだから。



「ブラスター化については知ってるみたいだね……さあ、兄さんもなってみせなよ……ブラスターテッカマンに」

「くっ……!!」


 躊躇いたくなる気持ちを忘れてしまったのだろうか。
 声だけは躊躇をしているように聞こえたが、タカヤは一切そんな気持ちがなかった。
 ただ純粋に、シンヤと対等に戦いたい気持ちがタカヤにはあった。
 シンヤを認めるためか?
 いや、タカヤも薄々気づいていたのだろう……。


 ──本当は、シンヤが「勝って」いたことに。


 手をかけずとも勝手に育つ天才・タカヤ。
 手をかけなければ、何をするかわからない努力家・シンヤ。
 親やゴダートが気にかけ続けたのは常にシンヤだった。
 それは、あたりまえのことだっただろう。タカヤを本当に慕っていたのは、幼いミユキだけだった。
 タカヤは、きっとそれを心のどこかで知っている。そして、寂しく思っていたはずだ。


「ぐぉぉぉぉっ!!」


 ブラスターテッカマンブレード──その進化がシンヤへの答えだった。
 あまりのエネルギーに、地面が盛り上がり、木々は激しく揺れる。
 京水も、流石にその場には長居できなくなり、さらに後方へと引き下がっていく。
 ナケワメーケも、尻もちをつく。モロトフは、その場で目を覆う。


 この時系列のテッカマンブレードは、まだブラスターになったばかりだった。
 ゆえに、ブラスター化の経験が薄い者同士となっている。
 ブレードに至っては、そのリスクさえ詳細に知らないのである。



★ ★ ★ ★ ★



「…………やはり、あれは!」


 物陰からその様子を見ていたモロトフが、二人のブラスター化した姿を見て驚愕する。
 ブラスター化したブレードを見ると、かつて撃退された記憶がよみがえったのだろうか。
 その姿を見た瞬間、モロトフの足は自然と後ろに下がった。
 恨みつらみよりも、あの瞬間のトラウマが、モロトフの戦意を奪ってしまった。


(……しかし、奴らはおそらく、戦いの決着がつくまで、私を攻撃することはないか……。だが、もし……ブレードが勝てば……)


 と、少し考えた後、自然にまた一歩下がる。
 ブレードはやはり、その後、自分を殺しに来るだろう。
 だが、それ以上は下がらなかった。
 弱弱しくも、まだラダムの闘争本能や、高いプライド、そして優勝者となる野心を確かに胸に抱いたままなのだ。
 機会があればタカヤかシンヤを殺したい。
 その思いは今も変わらず、胸の中に存在するのだ。

 そして、同時に自然と退いてしまった自分の足元を見る。
 その瞬間、ふと我に返った。


(クッ。私とした事がっ! ……退くわけにはいかない! 私こそが最強のテッカマン……そして、このゲームの勝者なのだ……っ!!)



 そう、勝てないはずがない……はずだ。
 たとえ、至近距離からのボルテッカが効かないとしても、エビルとの戦いで弱ったブレード──それも、30分の変身制限で人間の姿に戻ったブレードならば何の問題はないはずだ。
 もし、エビルと戦いになったとしても、あの様子ではブレードとの勝敗以外には興味はない。
 どちらにせよ、あそこまでの死力を尽くした戦いの挙句に、きっと二人は簡単に死ぬだろう。
 そうだ、テッカマンランスが死ぬことはない。
 エビルよりも、ブレードよりも強き戦士──テッカマンランスは、漁夫の利を拾い、テッカマンの頂点となることができる。


 ……。


 ……………。


 ………………しかし、本当にそれで良いのだろうか?


 ……………………それが、完全なテッカマンのやることといえるのだろうか?


 モロトフは自分の力に絶対の自信を持っている。
 本気になれば、ブレード、エビル──いや、ブラスターブレードやブラスターエビルさえも消し炭に変えられるはずだ。


(そうだ、弱気になるな……。私の力さえあれば、姑息な真似を使うことなく、奴らを倒すこともできる……!!)


 モロトフは、拳をぐっと握った。
 ここから見える二人は、己の存在証明のためだけに、平等な条件で正々堂々戦っている。
 では、モロトフは何のために戦っているのだろうか。


(私はオメガ様に知ってもらいたいのだ。エビルよりも私の方が有能であることを……ならばっ!!)


 前へ前へ、今度は自然と足が動く。
 ────彼もまた、己の存在をかけて戦うテッカマンの一人だったのである。
 蟻と称する人間相手なら、一対一は時間の無駄になるゆえ、どんな卑怯な手でも使っただろう。
 しかし、テッカマンという同条件の相手に、卑劣な真似を使うことは、ブレードやエビルを卑怯な真似を使わなければならない弱い存在であると認めてしまうようなものだ。



「テック・セッタァァァァァァァァァァッ!!!!」


 テッカマンランスはかつての雪辱を晴らすため、再び無謀な戦いに身を寄せようとしていた。
 あの時とは違う。
 返り討ちの可能性もあると考えている。
 しかし、それでも、テッカマンブレードに敗北した弱い自分を消し去るには、今しかないのだ。


(エビル……約束が違うが……貴様らの兄弟喧嘩を邪魔させてもらう。私にも、貴様と同じく果たさねばならない因縁があるのだっ……!)


 二人のテッカマンは、もう一人のテッカマンが近づいてくるのを感じ取っていた。
 それがテッカマンランスであるのは二人ともわかっているはずだ。
 しかし、ブラスター化した以上、戦闘には大きな影響をもたらさないだろうと考えていた。
 互いが感知し合い、三人のテッカマンが集結することになった。



★ ★ ★ ★ ★



 物陰から現れたもう一人のテッカマン。その名はランス──人間名はモロトフ。
 先ほどから認知してはいたが、二人のテッカマンはこれまで一切彼に気を回すことはなかった。
 しかし、こうして戦闘に介入する気でやって来た彼を前に、エビルが思わず口を出す。


「……モロトフ! 邪魔をするな──約束をしたはずだっ!!」


 ブラスターエビルが、ランスに喝を入れたが、ランスはそんなものを聞き入れようとしなかった。
 一瞬で、二人のもとへ現れたランス。
 先ほどまで、明らかに漁夫の利を狙っていたランスが、何故ここにきて急に現れたのか、ブレードにもエビルにもわからなかった。


「……身勝手なことを言うな! 私もオメガ様の為に戦うテッカマンの一人……」


 身勝手なのは明らかにランスの方だったが、彼は彼なりの思いがあった。
 もはや約束など関係はなかったのだろう。
 約束など大事なことじゃない。彼にとって大事なのは、何より己の強さ、それに対する絶対的なプライドと威厳だったのだろう。


「私自身のプライドにかけて……! ブレード、貴様を殺す!! ……私の邪魔をしたいのなら、二人まとめてかかってもらっても構わん!!」


 ランスはそう叫んだ。もはや、ブラスターテッカマンを前にしても一切恐怖などなかった。
 二人纏めてでもいい。
 それで勝利すれば、テッカマンランスの名前に箔がつくはずだ。
 テッカマンも、プリキュアも、魔法少女も倒しつくし、加頭さえも倒す。
 そして、無事オメガ様のもとに帰還し、全てを報告するのだ。
 そのために────


「ボル・テッカァァァァァァァッッ!!!!」


 木々を巻き込み、テッカマンランスの首からボルテッカが発される。
 ブレードに向けて一直線に向かっていく光の粒子の束。
 次の瞬間、ブレードの体がその光に包まれたが、光が消えると、そこには何事もなかったかのようにブレードが立っている。


「……これが、ブラスターテッカマンの力か!!」


 ブレードは驚いているようだったが、それについてはランスもエビルも経験済みだった。
 ブラスターテッカマンの圧倒的な強さに、やはりボルテッカは効かない。
 しかし、それも計算済み。
 土埃や煙の中にいるブレードの影へと、ランスは突っ走る。


「──テックグレイブ!!」


 彼は自分のテックランサー──テックグレイブを構え、そこに立つブレードへと突き立てる。
 しかし、ブラスター化した彼の表面は、そんなものを通さない。
 そして、そんなランスの真後ろに、エビルが迫っていた。ランスは、はっとして背後を振り向くが、エビルが真横に百八十度回転させた手刀でランスを吹き飛ばす。


「……何っ!? ぐああああっ!!」


 ランスの体は、ブラスター化したテッカマンの圧倒的な力を前に、数メートル吹き飛ばされてしまう。
 ダメージも半端ないものだっただろう。
 起き上がるのに時間がかかるし、起き上がった後もすぐには戦えないのが容易にわかる。


 そう、どれだけ強い決意を固めたとしても、テッカマンとブラスター化したテッカマンの間には決定的な実力の開きがあった。
 かつて一瞬で吹き飛ばされたことを思えば、十分まともに戦った方だっただろうか。


「さあ、兄さん……続きだぁっ!!」


 エビルは、すぐさま振り向いて、テックランサーを抜いた。
 そして、それをブレードへと突き刺そうとする。


「ぐっ!!」


 しかし、ブレードもまた、すぐにテックサンサーを抜いて、エビルの攻撃を一瞬で防いだ。



「はぁっ!!」


 二人は、それを弾きあうと、同時に後方へと引く。
 そこへまた、エビルがテックランサーを投擲する。
 ブレードはそれを避けるが、その顔面へエビルは拳を突き出す。一瞬で、そこまで駆けぬいたのだ。


「ほぁぁぁぁっ!!」


 ブレードの体は、その一撃でまた後方へと吹き飛んだ。
 だが、そこにエビルが追撃していく。
 またしても回り込んだエビルは、右腕を前に突き出す。
 それを読んだブレードは、そこにテックランサーを翳した。
 エビルはテックランサーにパンチを繰り出し、彼のテックランサーに指を切り裂かれる。


「うっ……!」


 ひるんだエビルに、ブレードが右足で一撃、キックを放ってエビルを後方へ吹き飛ばす。
 バランスを崩したエビルは地面を転がるが、すぐに立ち上がり、ブレードの追撃を回避する。
 ブレードの方を向いたまま、少し浮き上がって後方へと下がっていく。
 遠距離攻撃。
 その意図はわかっている。
 テックランサーを投擲してしまった今、エビルの遠距離からの攻撃方法は一つ。
 ブレードもまた後方へと下がって、エビルの方を向いた。


「……これで最後だ、ブレード!!」

「……シンヤ!」


 それぞれの肩に、エネルギーが集中していく。
 テッカマンの必殺技にして、ブレードにとってはたった一度しか使えないはずの攻撃。
 それを使ってでも、早く決着をつけなければならなかった。
 時間が迫っている。それに、またランスがいつ攻撃してくるかもわからない。
 だから、己の肩に集中したエネルギーを使い───


「「ボルテッカァァァァァァァッッッ!!!!!」」


 肩から発された二つの光が、中央でぶつかり合う。
 あっさり弾けたりはしない。
 互いが必至に力を込め、保たせよう保たせようと必死だった。



★ ★ ★ ★ ★


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