奈落の花 ◆gry038wOvE



 月影ゆりは、己の持つ限りの知識を利用して考える。
 どうすればこの状況を脱することができるのかを────どうすれば、この10年のブランクを消し去ることができるのかを、ただひたすらに。
 だが、人体を幼児化させる技術など知らないし、やはり対処のしようがないのだ。
 そうなった以上、もはや体を直すことに使う知力はなかった。



 ────食べるとヒーローになれるかもしれない



 その一文は、全くの出鱈目だったということに、彼女は強い後悔を覚える。
 そう、あれは出鱈目。────何故、自分はそんなことに騙されてあれを食してしまったのだろう。
 あの戦いからの全てが、強い後悔にまみれていた。
 変身道具を失った挙句に、元の体まで弱体化してしまった。────彼女は本来、生身でも充分に戦えるほどの戦闘能力を有したプリキュアだったが、流石にこうなってしまってはどうすることもできない。



 主催者の説明が、出鱈目…………?



 ゆりは、はっとその事に気づく。ヒーローになれるなどという説明書きは、まったくの出鱈目だったのである。
 この説明書はおそらく主催者が用意したものだし、それが出鱈目であるということは、主催者の発言は真実でない場合も多々あると────。
 それなら死者は生き返るということも、出鱈目なのだろうか?
 本来、嘘ばかりついている人間が信頼されることなどない。そうなっては殺し合いも円滑には進まないだろうとゆりは思っていた。
 そう思ったからこそ信頼していた部分はあったし、だからえりかを殺した。そう、殺した。
 だが、闇の種については嘘だったし、大道克己にも死者蘇生に関しての疑問点を知らされていたから、その可能性もありえるのではないかと思い始めていた。
 そう、僅かであった不信も、ここで確信へと変わったのである。



(どうして、私は、いつもこんなに、不幸ばかり…………)



 彼女の半生は、思えば不幸が重なってできていたような気がする。
 どうあっても、神は幸福を与えなかった。いや、幸福自体はかつて確かに、ゆりの日常を支えてきたが、それは刹那的なもので、失ってからはドン底だった。
 妖精も、父も、妹も、人生も奪われてきた。
 そして、友達の命を自分自身の手で奪ってしまった────その事さえ、騙された結果の出来事だという可能性もありうる。
 かつて、その真実を知らずに実の妹を実質的に手に掛けてしまったことを思い出す。
 自分はその時と同じようなことを、また繰り返してしまったのだろうか。



(でも、やってしまった以上は、今更後には退けないの…………)



 小学校に上がりたてくらいにしか見えない少女は、純粋無垢さの欠片もない思考を頭の中に走らせた。
 えりかを殺してしまった以上、その出来事を無駄にはできない。このまま元のゆりに戻るなどということは、えりかに対する冒涜ともなりうる。
 退く術など既にどこにもないのだ。


 たとえ嘘であっても、父たちがNEVERとして蘇るのであっても、ゆりは加頭やサラマンダーの言うとおりに殺し合いを続け、その果てに生還と幸福を掴む可能性を追い続けるしかない。 
 そう、「嘘でない」という可能性が1パーセントでも残っているのなら、それを追い続ける以外の道は断たれているのだ。このまま、ここで加頭たちを信頼せずに進む道もあるが、それは結局立ち止まることでしかない。
 ここで方針を変えたとしても、墜ちに墜ちた自分を、救うことにはならない。
第一、彼らが万が一にでも、本当のことを言っているとしたら…………その時はその時で、ゆりの改心は無駄となってしまう。
 ────そうなれば、えりかを殺したことを完全に無駄にしてしまうのではないか。
 せめて、彼女の命を吸って生きながらえたことも、何か意味を持たせねばなるまい。




 そうだ。主催者が嘘を言っていないという可能性は少なからずありえる。



 たとえば、闇の種の説明書きには、「かもしれない」という曖昧な表現が使われていた。断定はされていない。
 あれがもし、…………そう、「闇の種は人間を選ぶ」という意味であったら……? たとえるなら、あれは男性限定だとか、何らかの条件を満たした人間限定だとか、完全に運によるものだとか……そういう可能性もありうる。
 ゆりの体はあくまで闇の種に拒否反応を示され、その結果としてゆりは小学生になった、ということになる。
 まあ、これはあくまで一つの考え方であって、別の理由でこうなったのかもしれない。
 何にせよ、あれが100パーセント嘘であったという保証はない。



(とにかく、このまま勝ち残って試してみるしか方法はない……) 



 万が一、殺し合いで勝ち残ったとして、その結果、ゆりが加頭たちの前に立ったとしたら、その時ゆりは殺されるだろうな、と思う。
 それならば、それでいい。────加頭の戯言に騙されて友達を殺した人間として、そのままずっと生きていくよりは、きっと死んだほうがマシなのだから。
 だが、今この時は乗り越えるしかない。
 主催陣を信頼はしていないが、後戻りはできない。そう、殺してしまった以上は絶対に。あの瞬間から、ゆりは主催者の言葉に従順な人間になったも同じだ。
 これからも、彼らに1パーセントの信頼を寄せ、戦っていくのみ。それは変わらない。



(ただ、この姿じゃ満足に敵と戦うこともできないわ)



 何度も言うが、彼女は今、7歳である。力はない。下手をすれば、現状最も弱い立場にある。ネコ一匹殺せないかもしれない。
 更に付け加えれば武器もない。強いて言えば、バードメモリだけだ。それを使ったところで、7歳ではたかが知れている。そもそも、使えるのだろうか。体がこんな状態だというのに。
 そのうえ、デイパックも重いし、服は結局ブレザーを羽織って裸体を隠す形になってしまっている。体全体がほっこりブレザー一着に包まれた今では、自分の成長がどれほどだったのかということが如実にわかった。
 腕は袖から出ない。ゆえに、格闘も無理。
 かといって、流石に全裸で歩き回るわけにもいかない。その方が動きやすいとはいえ、精神面で17歳の少女である彼女は、その方法に抵抗した。制服・下着類はデイパックの中に入れたが、そうすると今度はデイパックまで重く、持つのが辛い。ランドセルなどとは重みが全然違うのだ。
 やむを得ず、デイパックも引きずる形になってしまう。



(少なくとも、積極的に参加者を殺しまわるなんてことはできないわ。誰か、協力者を捜さないと……)



 協力者と言っても、殺し合いに乗っている者のことではない。むしろ、逆だ。つぼみやいつきのような人間を捜したい。
 騙し通して、代わりに戦ってくれる相手が欲しい。その相手には、極力、口数の少ない純粋な7歳児としてふるまっていくべきだろう。
 この近くに、誰かいないだろうか。
 今は、来た道を戻れば大道に捕り殺されるかもしれないので、今まで来た道は戻れない。
 すると、なるべく先ほどの場所から離れつつ、ランダムに移動して逃走し、うまい具合に誰かと合流したい。
 この殺し合いを打ち破る側の人間たちと────


 そして、守られて守られて守られて…………その挙句に、恩を仇で返す。つまり殺す。


 おそらく成功率は低く、どうしようもない作戦だろう。えりかに対して行った行動を、今度は長期的に行わなければならない。
 まず、この付近にそういう人間がいるかどうかだ。大道やダークプリキュアなどという悪人たちと合流してしまう可能性は高い。
 それから、仮につぼみたちのように戦力をもった善人と会ったとして、勝ち進めるかどうかも問題となる。
 つぼみたちも確かに成長はしたが、ダークプリキュアにも及ばない。言ってみれば「ゆり以下の強さ」しか持ってはいなかった。そんな彼女たちでは、幸先不安である。第一、この姿になった理由を色々説明するのも面倒だ。
 では、より強い力を持った善人を捜すか。
 相手が善人ならば、子供の姿は油断させるのに有利だろう。人を殺すほどの勇気を持ち合わせないのだから。そのうえ、子供好きである可能性もある。
 いや、そもそもだ。女の子が相手ならば、ゆりだって躊躇する。ゆりと同様の理由で殺し合いに乗った人間ならば、おそらくゆりを殺しはしないだろうと思われる。その点だけはアドバンテージだ。
 少なからず良心が残っているならば、ゆりを殺しはしないだろう。
 そうして、なんとか綺麗に生き残っていって、なんとか善人に巡り合えればいいのだが…………。



(ただ、そんな人がいて、エターナルやダークプリキュアに勝るほど強いという保証もない……)



 だが、やはり計画そのものに無理が大きい。
 その善人たちが何人ものグループになったら、今度は彼らを殺すことにも問題が生じる。一人殺した時点で、次の一人は警戒し、下手をすればゆりに反逆する。そこにいる人間を全員殺すのは、おそらく不可能……。
 殺し合いに乗っていない者ならば、そのように徒党を組む可能性の方が絶対に高い。彼らとて殺し合いに乗ってる者に対抗する必要はあるだろうし、さらに積極的な人間ならば、主催者を倒すために集めるかもしれない。
 これまでも、ゆりは灯台から二人の男女を見ているし、殺し合いに乗らない人間は何人かのグループを作る可能性がとても高いのである。
 そうなれば、行動はしにくくなる。
 また、中にはゆりと同様の考え方の殺人者────言ってみるなら、陰に潜むステルスマーダー────がいることもありえるし、内部で錯乱や誤解が生じて殺しあってしまうこともある。
 リスクは大きい。
 つまるところ、この作戦を行うには無理がある。少なくとも、優勝することは絶対不可能だ。天文学的な可能性のうえでしか成り立たない。



(…………いや、でも)



 それと逆のパターンもありえる。その善人の徒党が、加頭たちを打ち破る可能性だ。
 加頭やサラマンダーの居場所を突き止めることに成功し、首輪も解除され、彼らのアジトへ突入することだって、不可能とは言い切れない。
 とにかく、ゆりは優勝にせよ何にせよ、目的が叶えばいいわけで、そのために加頭たちを倒すという手段もある。
 それが成功すれば、えりかの復活だって望めるし、元の綺麗な世界に全てを戻しかえることだって可能だ。それは誰にとっても、これが最善の一手とも考えられる。
 圧倒的な戦力を使えば、サラマンダー男爵を叩きのめす、或いは仲間に引き入れることだって可能かもしれないのだ。
 だが、やはり首輪なるものがつけられていて、敵も結構な組織力を持っている以上は────



(可能性は薄そうね…………何にせよ元に戻る機会を捜すまでは、そういう可能性を持った相手と一緒に行動し続けた方がいいわ)



 このまま単独行動をするのは間違いなく危険だ。
 殺すにせよ、殺さないにせよ、優勝を狙うにしろ、加頭たちの技術を奪うにしろ、ここでは「力ある善人と行動を共にする」というのが最良の決断であるというのは、彼女にもよくわかった。
 一応、目安としては「元の体に戻るまで」だ。
 何も、絶対に元に戻らないわけではないだろうと考えられる。何か手段があるはずだ。
 闇の種を吐き出すというのは今更だから無理としても、完全に消化した後で変化をきたす可能性だってある。




(……この状況で生還できる可能性自体が、1パーセントも残ってないかもしれない)



 元の体に戻る方法を知る者、殺し合いに乗っておらず高い戦闘能力を有す者、首輪を解除できる者など────必要なものは多種あった。


 だが、月影ゆりという少女は決して、めげない。
 たとえ1パーセントに満たない可能性であったとしても、それを追い続ける。



【1日目・朝】

【B-7/森林】


【月影ゆり@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(大)、ガイアメモリによる精神汚染(微小)、7歳の肉体、命の闇の種を摂取
[装備]:T2バードメモリ@仮面ライダーW
[道具]:基本支給品一式、細胞維持酵素×3@仮面ライダーW、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、歳の数茸×2(7cm、7cm)@らんま1/2
[思考]
基本:殺し合いに優勝して、月影博士とダークプリキュアとコロンとで母の下に帰る。
0:協力できる人間を探し、極力元の体に戻るまでは利用する。
1:ここからホテルを経由して村へ向かう(ただし、直線的でなくランダムに進み、大道を避ける)
2:つぼみやいつきであっても、積極的に殺す覚悟を失わない
3:もし、また余計な迷いが生まれたら、何度でも消し去る
[備考]
※48話のサバーク博士死亡直後からの参戦です。
※精神的な理由からプリキュアに変身してもその力を完全に引き出せません。
※命の闇の種を摂取した事により、ザ・ブレイダーへの変身能力を得た可能性があります。
※歳の数茸により肉体が7歳の状態になっています。但しゆり自身は命の闇の種の効果だと考えています。





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最終更新:2013年03月15日 00:14