からっぽの心 ◆MiRaiTlHUI



 その日は、満点の星空だった。
 外界よりも空気が澄んで居るからだろうか。
 月も、星も、いつも以上に輝いているように思われる。
 そんな夜空をぼんやりと眺めて感傷に耽ようと試みるが、大道克己の心は微塵も揺れなかった。
 星空を見ても美しいとは思わない。美しいとは何なのかも今となっては分からなかった。
 何が綺麗で、何が汚いのかも、克己にはもう判別すら出来ないのだ。
 克己は死人だ。人としての心は、記憶は、日を重ねるごとに薄れ消えて行く。
 愛情を注いでくれていたという母親をこの手で殺しても、克己は何も感じなかった。
 大切に思っていた筈の仲間が目の前で殺されても、克己の心はがらんどうなままだった。
 憎んでいた筈の財団Xの白服も、今となってはもうどうでもいい事のように思う。

 大道克己はもう、本当の意味で人では無くなっていた。
 人にある筈の記憶も心も、克己にはもうない。
 本物の悪魔に成り果てて、それでも消えないのはたった一つの野望。

 世界に、自分と云う存在を刻み付ける。

 空っぽの克己を突き動かすのは、そんな妄念だけだった。
 だから、この殺し合いに乗る事に異存はないし、文句もない。
 非情の限りを尽くして優勝する。そして元の世界に帰還すれば、今度こそ地獄を創る。
 死人だけが行き交う、何の希望もない絶望の世界を。まずは生まれ育った故郷に齎すのだ。
 そうすれば嫌でも大道克己の存在は世界に刻み付けられる。かくて自分は「永遠」となるのだ。

「そうだろ、エターナル」

 その為の力、その為の相棒。名前はエターナル。
 永遠の記憶を内包した真珠色のメモリを指で遊びながら、克己は嗤った。
 今となっては、心を持たぬこのガイアメモリだけが、克己の拠り所なのだ。
 こいつと残り二十五本のメモリさえあれば、他には何も要らない。愛も友も、必要ない。
 目的の為だけに動くマシンであればそれでいい。いや、それでも死人には勿体ないくらいだろう。
 そんなとりとめの無い事を考えながらも顔を上げれば、克己の生気の宿らぬ瞳に一人の男が映った。
 パンチパーマの厳めしい外観をしては居るが、その眼はどちらかと言えば克己と同じタイプの目だった。

「ハッ……生きてる癖に、死人みたいな面してやがる」

 そう嘲るが、男は答えない。
 首から下を薄汚れたマントで覆い隠した男は、何も言わずに克己を見据える。
 何を考えているのかは知らないが、話し掛けて来る様子も無ければ、仕掛けて来る様子もない。
 体格は先程見せしめとして殺された堂本剛三と同じくらいには引き締まって居るように思われる。
 その気になれば戦う事も出来るのだろうとは思うが、男は何の動きも見せなかった。
 いや、それならば好都合だ。行動を起こす前に殺してしまおう。

 ――ETERNAL――

 鳴り響くガイアメモリ。腰に装着されるロストドライバー。
 克己と驚異的な適合率を見せるそれは、克己が望む「永遠」の力。

「変身」

 ――ETERNAL――

 それがベルトに叩き込まれた時、「永遠」は克己の身体を内部から作り変えた。
 全てのメモリの王者たるその姿こそは、克己だけが変じる事を許された蒼き炎の戦士。
 全身を覆う真珠色の外骨格は蒼き炎に彩られ、最後に漆黒のマントが生成される事で、変身は完了。
 希望の象徴として語り継がれて来た筈の「仮面ライダー」の名は今、地獄からの死者へと受け継がれた。
 その名は、

「仮面ライダー……エターナル」

 そう名乗り、エターナルは固有武装であるナイフを引き抜いた。




 男の名はゼクロス。
 そう。苗字でも名前でもない、ただの「ゼクロス」だ。
 本当はもっと別の名前があったように思うが、今はそれすら分からない。
 ゼクロスと呼ばれるようになるよりも前の事はもう、何も思い出せないのだ。
 記憶とは即ち、人格を形成する為の大切な拠り所でもある。
 なのにゼクロスにはそれが無い。
 一切の拠り所がない男には、人として大切なものが欠落しているのだ。
 つまるところ、今のゼクロスには心が無かった。人の感情が分からなかった。

「ハッ……生きてる癖に、死人みたいな面してやがる」

 誰かが言った。
 自分は戦いに敗れ、死んだのだと。
 この身体は生まれ変わった、神の身体なのだと。
 自分が死人であるという実感はないが、生きている実感もない。
 怪我を追ってもすぐに治癒するし、死への恐怖とも無縁だった。
 失った記憶(メモリー)さえ取り戻せば、生を実感する事は出来るのだろうか。
 この殺し合いに勝ち残れば、このがらんどうな心は、隙間は埋められるのだろうか。
 目の前で起こる男の「変身」を、どうでも良い事のように捉えながら、ゼクロスは思考する。

「仮面ライダー……エターナル」

 だが、奴がそう名乗った瞬間、ゼクロスの中で何かが変わった。
 死人同然だったその眼が、ここへ来て初めて眼前にて急迫する敵の姿を捉えた。
 黄色の複眼に、蒼い炎が描かれた真珠色の装甲。漆黒のマントを靡かせたそいつの名は、

「カメン、ライダー……?」

 思わず反芻する。
 カメンライダーとは、何だ。
 知らない。分からない。理解出来ない。
 それを名乗る男達は、一体何の為に戦うのか。
 そして一つだけ思い出す。カメンライダーがやった事を。
 唯一の友が、二人のカメンライダーに蹴り砕かれたあの瞬間を。
 自分なんかを救う為に飛び出したミカゲが、目の前で粉々に砕かれて行く光景を。
 何故かは分からないが、感情が昂る。身体の奥底から、力が湧き上がる。
 ゼクロスの身体が赤く輝き――そして、変わった。

「何っ……!?」

 狼狽したのは、エターナルの方だった。同時に、甲高い金属音が夜の闇に反響する。
 エターナルの刃は、ゼクロスが振り上げた腕、その肘に装着された十字手裏剣で受け止めた。
 間髪入れずに左腕を突き出し、その甲からマイクロチェーンを発射する。
 並の怪人なら一撃で貫通し破壊するだけの威力を誇るそれは、しかしエターナルのマントによって阻まれた。
 ゼクロスは物事を何も知らないが、それでも戦い方だけは熟知している。
 今の一撃が防いだマントが、如何に防御力が高いかも一瞬で理解した。
 ならば、一瞬で敵の懐へ飛び込み、マントの間を縫って本体に攻撃するまで。
 矢継ぎ早に電磁ナイフを引き抜いたゼクロスは、一瞬と掛からずにエターナルの懐へと飛び込んでいた。
 一瞬ののち、キィン、と金属音が響く。マントの間から、エターナルは自分の刃で受け止めたのだ。
 ゼクロスのナイフを弾き返し、エターナルもまた一瞬と掛からずに二撃目を繰り出した。
 だが、通しはしない。今度の一撃も、ナイフで受け止め、鍔迫り合う。
 力は緩めないまま、ゼクロスはエターナルに問うた。

「また、奪うのか」

 友を、仲間を、今度は俺の命を。
 カメンライダーはその刃で、また奪おうと云うのか。
 エターナルは軽く嘲ながらも嘯いた。

「何言ってやがる、世の中奪うか奪われるかだろ」
「……させん」

 感情を忘れた筈のゼクロスの声には、しかし確かな怒気が込められていた。
 こいつとの戦いは、正義か悪かとか、良いか悪いかとか、そんな次元の話では無い。
 大勢の人間を殺して来た自分が、今更他人の命を奪われたところで怒ろうとも思わない。
 だけども、たった一人の友を見殺しにしてしまったという過去は、奪われた過去は、消えない。
 仲間を守れなかった罪の意識は、何も持たない筈のゼクロスに戦う理由を与えてくれた。
 目の前のこいつは倒す。これ以上奪われる前に、この手で殺す。
 カメンライダーには、もう何も奪わせない。



【1日目/未明】
【D-3 採石場跡】

【村雨良@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:健康、怒り、ゼクロスに変身中
[装備]:電磁ナイフ、衝撃集中爆弾、十字手裏剣
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3個
[思考]
基本:???
1:目の前のカメンライダー(エターナル)を倒す。
[備考]
※参戦時期は第二部第四話冒頭(バダンから脱走中)です。
※衝撃集中爆弾と十字手裏剣は体内で精製されます。


【大道克己@仮面ライダーW】
[状態]:健康、エターナルに変身中
[装備]:ロストドライバー@仮面ライダーW+エターナルメモリ、エターナルエッジ
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3個
[思考]
基本:優勝し、自分の存在を世界に刻む。
1:目の前の仮面ライダー(ゼクロス)を倒す。
[備考]
※参戦時期はマリア殺害後です。



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最終更新:2013年03月14日 22:11