brother & sister (後編)◆7pf62HiyTE
ティアナ・ランスターには兄がいた。
兄の名はティーダ・ランスター、時空管理局の一等空尉である彼は首都航空隊に所属、簡単に言えばエリートであった。
だが、ある任務――逃走中の違法魔導師を確保する任務の際に追いつめながらも取り逃がしてしまい殉職した。それ自体は悲しい事だが珍しい事ではない。
しかし、その際に上司が彼に対し『死んでも取り押さえるべきだった』、『任務を失敗する様な役立たず』と中傷した。
当時10歳だったティアナが傷つくのには十分すぎる程の出来事であった。
だからティアナは兄が遺した魔法が役立たずでは無い事を証明すべく執務官になろうと考えた。
だが、彼女にはティーダ程の才能が無いらしく士官学校も航空隊も不合格となった。言うなればエリートではなく凡人という事だ。
それでもティアナは自身の夢を諦めず必死に努力を続けた。そして友人である
スバル・ナカジマと共にエース及びその候補ばかりが集まる機動六課へと引き抜かれたのだ。
だが、六課での厳しい訓練の中でティアナが感じたのは焦り、六課の面々は皆がエリート級のエリート、客観的に見ても異常と言える程だ。
同僚のエリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエにしても10歳前後の歳を考えれば同じ様なものだ。
スバルに至っては家族のサポートに加え通常の人間以上の潜在能力を抱えている。
そう、その部隊の中でも自分だけが凡人だったのだ。他の皆が目に見えて成長している一方自身にはそれを実感する事が出来なかった。
それがティアナの焦燥を加速させ――ある任務で誤射するという失敗を犯した。
大事には至らなかったが、スバルからも無茶だと言われていた事だった。
所詮、凡人では無理だったという事なのか?
それでもティアナは諦めず寝る間も惜しみ自主的な訓練を続けた。
才能が無い凡人は練習しなければ上手くはならない、だからこそ努力を続けたのだ。
そして、それを
高町なのはとの模擬戦で証明――する筈だったのに――
ティアナは手数を増やすべく特訓した近距離戦での斬撃を試みた。しかしその攻撃は素手で受け止められ――
『ちゃんとさ……練習通りやろうよ……ねえ……私の言ってる事……私の訓練……そんなに間違ってる……?』
言いたい事がわからないわけじゃない。だがその言葉に従って練習しても才能のない自分には意味が無かったのだ。
『私は! もう誰も傷つけたくないから! 無くしたくないから! だから……強くなりたいんです!』
それがティアナの本心からの想いだ。だが、
『少し……頭冷やそうか……クロスファイア……シュート』
ティアナの想いは無慈悲なる一撃で――いや、一撃ではない。
既に無抵抗状態となったティアナにさらなる追い打ちをかけるかの様にもう一撃――
その二撃はティアナ自身の得意魔法――
つまり、自分の得意なものであっても才能の無い自分が使うよりも才能のあるなのはが使った方が使えるという事を意味するのだろう――
そう、その二撃によってティアナ・ランスターのこれまでの全てが完膚無きまでに砕かれてしまったという事だ――
兄に対する想いも、ランスター兄妹の夢も、自身の努力すらも――
才能の無い者が如何なる想いや夢を抱えて努力をした所で才能のある者によって打ち砕かれる、
つまりどんなに努力したとしてもそれは全て無駄だったという事だ――
そして気が付いたらあの空間で殺し合いをしろという話だ。
真面目な話、直前の一件でティアナの心は完全に折れていた。故に半ばどうでも良いとすら感じていた。
散々、相方や上司に迷惑をかけてきた自分にとってはある意味相応しい末路だろう。
3人の男の首輪が爆破されてもそれは同じ――が、その後の言葉が問題だった。
『NEVERであろうと、砂漠の使徒であろうと、テッカマンであろうと。もちろん外道衆の方々も同様ですし――』
今あの男は何て言った? いや、言葉の意味はよくわからない――だが1つだけ確実に言える事がある。
それはあの場にいる者達が凡人である自分とは違う才能のある超人ばかりという事だ。
その後気が付けば森の中に転移していた。すぐさまティアナは大急ぎで名簿を確認した。
そして名簿にスバルとなのは、そしてエリオ達の保護者でなのはと同等クラスの力を持つフェイトの名前を確認した。何故か
フェイト・テスタロッサ名義になっているが本人に違いないだろう。
それから無限書庫の司書帳でなのは達の幼なじみの
ユーノ・スクライアの名前もあった。長年機能していなかった無限書庫を使える様にした実績を踏まえれば彼がいるのも頷ける。
あまりにも理不尽だと思った。才能のあるなのはやスバル達が巻き込まれるのはまだわかる、だが才能のない自分が何故巻き込まれなければならないのだろうか?
優勝者はどんな願いでも叶えると言った。だがそれは何の才能もない自分にとっては無意味な事だ。
どんなに足掻いても才能や力を持つ者達によって蹂躙されるだけだ、願いを叶えられるのは才能ある者達だけだという事だ。
「ふざけんじゃ……無いわよ……」
悔しい、あまりにも悔しくて涙が溢れ出す。
このまま終わって良いのか?
なのは達才能ある者達に自身の兄に対する想いや夢、そして努力を完全否定されたままで良いのか?
役立たずと片づけられて良いのか?
否、断じて否!
ランスターの弾丸は全てを撃ち抜けられる! それを証明せねばならない!
それが出来るのはティーダ・ランスターの妹であるティアナ・ランスターだけなのだ!
「願いなんてどうだって良い……才能や魔力が無くったってランスターの弾丸は敵を撃ち貫ける事を……優勝する事で証明してみせる!」
無論、その手を血に染める事をティーダが望まないのは理解出来る。
だが、人々を守る為に戦っても役立たずと否定された事を考えればやるせない気持ちになる。
それにティーダのいた航空隊からも機動六課からも否定された自分に最早人々を守る側にいる事など出来やしない。
それでもランスターの力の証明だけは成し遂げなければならない、それがティーダの望む形では無いとしてもだ。
それだけがティアナに残された最後の砦、自身が優勝すれば証明され、敗北すれば否定されるという単純な話だ。
決意を固めたティアナは自身の支給品を確認する。そしてある者を見つけた。
――Trigger――
「引き金って事は銃を使うドーパントに変身出来る……という事かしら。銃……私に支給したのは何の冗談かしら」
それはT2ガイアメモリの1つトリガーだ。何にせよ何の力も持たない自分にとっては大きな戦力だろう。
そんな時、遠目に1人の少女が歩いているのが見えた。
丁度良い標的ではあるが、自身とそう歳の変わらない少女を手をかける事に良心の呵責はある。
だが、最早立ち止まるわけにはいかない、ここで立ち止まれば本当に全てが無駄になってしまう――故にティアナはメモリに力を込める。
――Trigger――
それに応えるかの様にメモリはティアナの右手に吸い込まれ、その身体をトリガー・ドーパントへと変化させた。
「右腕がライフル……丁度良いわね」
右腕のライフルを確認しつつ木の陰から少女を狙い撃つ。まだ不慣れなのか、迷いがあるのか僅かに外したものの着弾した所の衝撃の大きさからその力は実感出来た。
右腕が震えるのを感じる。当然の事だろう、こんなものが着弾するだけで普通の人間にとっては致命傷だ。非殺傷設定なんていう気の利いた物も存在しない。
だがそれでも構わない。今の自分に必要なのは人々を守る力ではなく、意志を通す為の力なのだ。全ての迷いを振り切るべく身を潜めながら少女に何発も弾を撃ち込んでいく。
狙撃に気付いたのか少女は自分から距離を取ろうとする。だが多少距離を取った所で射程圏、十分に狙い撃て――
「……! あれは!?」
が、少女が何かの結晶体を構えようとしたのを見て動揺が奔る。
恐らくアレはガイアメモリかデバイスの類、持ち主に甚大な力を与える物だろう。
それを使われればトリガー・ドーパントの力を持ってしても返り討ちに遭うのは必至、
あの模擬戦で自分の攻撃が防がれ、返り討ちにあった瞬間がフラッシュバックする。
「させない!」
そう呟き結晶体を狙い撃つ。上手く結晶体に命中し落とす事に成功、続いて足下の地面を撃ちその衝撃で転倒させる。
大分馴れた事もあり、相手が動かないならば次の一発で仕留める事が出来るだろう。銃口を少女に向け――
「くっ……!」
少女を見ていると言いようのない気持ちがわき上がる。もしかしたら彼女にも兄がいたのかも知れない――そう思うと引き金を引く事に躊躇いを感じるのがわかる。
だが、もう止まれない。もう人々を守る管理局のティアナ・ランスターではないのだから。優勝すると決めた時点でもう戻る事は出来ない。
「シュート……」
その言葉と共に銃弾が少女へと――
だが、青い何かが駆け抜けた事で弾は外れた。
「「誰……?」」
少女も自分も思わず現れた青い甲冑の戦士に問いかけていた。しかし、
「俺に質問をするな」
青の戦士は質問自体を拒否するという謎の返答をした。別に答えを期待したわけではないが、なんだか腹立たしく感じる。
だが冷静になれ、今青の戦士はこちらの銃撃よりも速く少女を救出していた。いくら自身に迷いがあったとはいえ普通ならば間に合わない筈だ。
つまり、青の戦士もまたなのは達同様、才能や力に溢れた者という事だ。恐らく今の自分では勝ち目は無いだろう。
悔しいがこのまま終われない以上、撤退するしかない。
だが青の戦士の速さから逃れる事が出来るのか?
「(いや……まだ私には手がある!)」
そう思いながら青の戦士を狙い撃ちつつ移動しながらある策の準備を進める。
弾がかわされる事、そしてその方角から自身の居場所を割り出し迫り来る事は想定済み。
後は青の戦士が此方の策に乗ってくるかどうかだ。
そして、青の戦士の一撃がトリガー・ドーパントへ――
だが、その瞬間トリガー・ドーパントの姿は消え去った。
「(何とか間に合ったわ)」
フェイク・シルエット――肉眼や簡単なセンサーでは見抜けない幻を展開する魔法だ、衝撃に弱い故に攻撃が当たっただけで消失する程度の脆いものだ。
だが、相手に狙撃位置を錯覚させる程度の役割を果たせれば十分だ。
既に本体は別方向の離れた場所に移動している。そこから今一度狙撃を行いそのままこの場所にフェイク・シルエットを展開し自身は別の所に移動する。
その後可能な限りの幻を展開し本物の位置を割り出させない様にする。そして、全ての幻が消される前に念の為オプティックハイドを使い自身を不可視状態にした上で戦域から離脱するという事だ。
大体の幻を展開し終え撤退に入った後、青の戦士は何かのメモリを抜き放り投げるのが見えた。その直後視認出来ない程の速さで次々と幻を消し去っていくのが見えた。
間一髪、そうとしか言いようのない結果だ。あのまま撤退しなければ青の戦士の攻撃を受け倒されていただろう――
そして、戦域から離脱しようやく変身を解除し腰を落とす。
どれくらいそうしていただろうか、ティアナの瞳から涙が溢れ出る。
「あんな奴らにどうやって勝てって言うのよ……」
撤退するのに消耗した魔力は決して小さいものではない。戦果も上げられなかった事を踏まえれば無駄に終わったと言っても良い。
だが最早退くわけにはいかない。同じ歳ぐらいの少女を殺そうとした時点でもう戻る事など出来ないのだ。
何処となく感情が高ぶるのを感じる、恐らくガイアメモリの副作用だ、このまま使い続ければ身も心も怪物になるかも知れない。
それでも構わない。凡人であり、全ての努力が否定された今の自分には最早禁じ手とも言える手を使わなければ戦いにすらならないのだから。
「スバル……」
だが、脳裏には長年付き合ってきた相棒の姿がよぎる。
恐らくスバルやなのは達が今の自分を見たら止めようとするだろう。今更止まるつもりが無いとはいえ迷いが生じないとは限らない。
しかしそれでは駄目なのだ、結局の所先の敗北も自分の心の何処かに迷いがあったからだ。迷い無く引き金を引ければ青の戦士が来る前に少女を仕留める事だって出来たはずだ。
こんな中途半端な姿勢ではそれこそ何も成し遂げる事は出来ない。故に――
ティアナは懐から自身のデバイスであるクロスミラージュを取り出し魔力刃を展開する。それは模擬戦の為に使用したダガー・ブレードだがなのはには素手で受け止められたものだ。
そしてその魔力刃でティアナ自身の髪を――切り落とした。
その後、自身が着ていた機動六課の制服、そして下着類全てを全て脱ぎ去り生まれたままの姿になりデイパックからあるものを取り出す。
説明書きによれば『小太刀のレオタード』というものらしい。変な名前の女の人もいたものだと思うがそんな事はどうでも良い。
ティアナは迷うことなくそれを身に纏った。
真面目な話、何故こんなものが支給されたんだと理解に苦しんだものの今の自分にとっては都合がよい。
もう管理局機動六課のティアナ・ランスターは死んだ――
今ここにいるのは兄の無念を果たす為に修羅に落ちるランスター家の愚かなる妹なのだから――
才能も力も無い自分が事を成す為には全てを捨てる覚悟が必要だ、それは長年の相棒であっても同じ事だ、
その全てと決別する為にそれなりの長さをもった髪も切り落としスバルよりも若干短いぐらいの長さにした。
もう着るつもりは無いが元の服も一応デイパックに入れ再び歩き出す。時計を見ると1時を過ぎていた。
もう迷わない、全てを否定され評価される事のない少女は最後に残った兄への想いを胸に夜の森を進む――
だが、果たして本当に全てを否定されていたのだろうか?
先の戦い、青の戦士こと照井は自身の力を察し不利を悟った時点で幻を使い鮮やかに撤退した事を評価していた。
そう、勝利とは言えないものの決して敗北とも言えず、ティアナの実力をちゃんと照井は評価していたのだ。
ティアナの知らない所で見る人は見ているのだ。それは元の世界のなのは達も同じである。
確かになのはのやり方に問題が全く無かったとは言い難い、
しかし模擬戦でわざわざティアナの魔法を使ったのはティアナの魔法が使える事を証明する為だった。
また無茶な近接攻撃とはいえ方法論自体は悪くはなく、実は既にクロスミラージュにはダガーモードが用意されている。無論、ティアナ自身はまだそれには気付いていない。
それ以前に、本当に何もない人間が機動六課に選ばれるのか? ティアナにはティアナの長所がある。この時点ではまだそれが明確になっていないだけである。
そもそもの話、仮に本当に何もなかったとしてもそれを育て上げる事こそがなのはの仕事だ。ティアナはそれに気付いていないのだ。
何より、なのははティアナの想いをちゃんと理解している、兄の為に努力している事は理解しているのだ。
更に言えば、なのはがああいう客観的に見ても過剰とも言える手段を取ったのは自身の経験もあり無茶を諫める為だったのだ。
本来ならばその真意がもうすぐ伝えられる筈だった。だが全てはもう遅すぎたのだ。
それは長い目で見ればささやかな過ちだった、だが最早取り戻せない致命的な過ちとなったのだ。
『Master……』
主人の揺るぎない決意を止める事の出来ぬクロスミラージュの呟きは――
機械なのに、何処か哀しそうだった――
【一日目・未明】
【G-4/森】
【ティアナ・ランスター@魔法少女リリカルなのは】
[状態]:ガイアメモリによる精神汚染(小)、疲労(小)、魔力消費(中)、断髪(スバルよりも短い)、下着未着用
[装備]:ガイアメモリ(T2トリガー)、クロスミラージュ(左4/4、右4/4)@魔法少女リリカルなのは、小太刀のレオタード@らんま1/2
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0~1個(確認済)、機動六課制服@魔法少女リリカルなのは、下着
[思考]
基本:優勝する事で兄の魔法の強さを証明する。
1:とりあえず森の中を進み、他の参加者を打倒する。但し、引き際は見極める。
2:スバル達が説得してきても応じるつもりはない。
[備考]
※参戦時期はSTS第8話終了直後(模擬戦で撃墜後)です。その為、ヴィヴィオ、アインハルトの事を知りません。
Scene04.brother & sister
「お兄ちゃん……」
そう言って、ミユキは意識を取り戻す。どうやらあの青い戦士に助けられた後気絶したらしい。
あの後どうなったのだろうか?
と、すぐ近くに赤いジャケットを着た男がいた。
「……あれ? 私名乗っていない様な」
「寝言で何度も『タカヤお兄ちゃん』と呟いていた」
名簿を確認する限りその人物は
相羽タカヤに違いない。更に名簿の中に相羽という名字を持つのは他に2人、少女の名前である事を踏まえるならばミユキと考えるのが自然だ。
ともかく、寝言を聞かれていた事に僅かに赤面するミユキである。
そんな彼女の心中を察したかどうかはともかく照井は警察手帳を向ける
「照井……竜さん?」
「ああ、風都署超常犯罪捜査課の刑事だ」
ミユキの頭にはクエスチョンマークが浮かんだ。声から照井があの青い戦士に変身したのはわかる。
だが軍ならばともかく警察程度の組織がソルテッカマンの様なものを開発したとは思えない。
「え、警察の人があのテッカマンみたいなのに変し……」
「俺に質問をするな……ちょっと待て、今テッカマンって言ったな? 君はテッカマンが何か知っているのか? もしやこれを使って変身するものなのか?」
そういって回収していたクリスタルを見せる。
「!! お願いです、そのクリスタルを返してください、それが無いと……」
「君が何者かが解らない以上返すわけにはいかない、知っている事を話してくれ、それが先だ」
話してもクリスタルを返してくれるという保証はない。だが、少なくとも照井に敵意や悪意が無いのは解っている。
それに自身の知る事を伝える事は当初からの目的だった、信頼出来る相手ならば伝えない理由は無い。
「わかりました、その代わり竜さんもあの姿について話して下さい」
「ああ……」
かくして2人の情報交換は進む。だが、それは互いにとって大きな衝撃を与えるものだった。
まず、前提として両者は異なる地球、あるいは世界からの出身らしい。
ミユキの世界では宇宙開発が進んでいて軌道エレベーターやオービタルリングも建造されているが照井の世界ではそこまで発達はしていない。
一方の照井の世界ではガイアメモリや仮面ライダーの存在が確認されているが、ミユキの世界にはそれらがない。
この事実から考え、両者の世界は違う世界と考えて良いだろう。
「宇宙か……」
照井達の世界でもそう遠くない未来には人類は宇宙に飛び出すだろう。もしかすると仮面ライダーが宇宙に行く日もそう遠くは――
「……いや、そんな事はどうでも良いか。それより肝心な事は何も聞いていない、君の知り合いやテッカマンについて話してくれ……少なくとも名簿が正しいなら
相羽シンヤも君の家族の筈だ、彼についてはどうでも良いのか?」
「そうじゃないんです……竜さん、ここから話す事はさっき話した事よりも信じられない事です……」
ミユキは語り出す、自分達の身に起こった過酷な出来事を――
ミユキ達相羽兄弟に彼女達の父親である相羽孝三、そして多くの仲間達を乗せたアルゴス号が未開発だった土星やその衛星を調査する為に向かった。
そんな中、土星衛星付近で地球外から飛来してきた巨大宇宙船と接触した。
唐突ではあったものの地球外生命体エイリアンとの接触にミユキ達の胸は高まった。悪夢の入り口である事を知らず――
接触による損害はほとんど無く安堵する一方、相手側からはコンタクトどころか生命反応すら見られず、強い植物の反応はあった。
「それが悪夢の始まりでした。私達一家が引き裂かれる悪夢が……」
「ちょっと待て、そのアルゴス号には君の家族が全員乗っていたのか?」
「はい、ケンゴ兄さんの婚約者のフォンさんやタカヤお兄ちゃん達の師匠だったゴダードさんも乗っていました」
まだ核心には触れていない。だがミユキの口振りから照井は薄々その先に待ち受ける結末を予感していた。それでも聞かないわけにはいかない、
「……続けてくれ」
その後、タカヤ達は調査の為宇宙船へと入っていった。
その内部には見た事の無い木の様な生命体があった。
が、突如として木から生命体が飛び出し調査に入っていたタカヤ達を捕らえるべく動き出した。
この異常事態にブリッジにいたミユキはスリープ状態のケンゴ達を起こそうとしたが――
調査をしていたタカヤ達、それだけではなく連中はアルゴス号にも乗り移りミユキ達をも捕らえたのだ。
その後、連中――ラダムはアルゴス号を完全に支配しタカヤやミユキ達をテックシステムに取り込んだ。
テックシステムには体質的に合う者と合わない者がおり、不適合者は次から次へと死んでいった。
何とか生き残ったタカヤ達はラダムの知識や本能を植え込まれていったのだ。ラダムの有能な兵器テッカマンにする為に――
「……それで、どれぐらいがテッカマンになれたんだ?」
「知る限りでは……私を入れて8人です」
「8人……それ以外は全滅ということか……」
「はい、私達のお父さんも……でも」
孝三もまた不適合者という形でシステムから排除された。
しかし、孝三は最期の力を振り絞りタカヤが抵抗する際に落としたであろう銃を使い、唯一精神支配を受けていなかったタカヤをシステムから解放した。
そしてタカヤにラダムに支配されたシンヤやミユキ達を自身の手で倒す様に言い脱出させたのだ。
「つまり相羽タカヤだけがラダムの精神支配を逃れそれ以外のテッカマン……相羽シンヤはもう……」
「はい……」
実の家族や仲間と戦う事が過酷な事はミュージアムと戦った
フィリップを見てもわかる通りとても辛い事なのは照井自身理解している。
本当ならば戦わないで済むならそれにこした事は無かっただろう。だが、ラダムに支配された彼等を放置すれば地球に住む人々が悲しみに暮れる事になる。
ミユキの話からテッカマンに対抗出来るのはテッカマンだけだ、タカヤ以外に対抗出来る者は居ないだろう。
タカヤはどんな想いで戦い続けてきたか――想像するに余りある話だ。
「それで、ここにいる君の知り合いは相羽タカヤとシンヤ……」
「それとランス……
モロトフさんで全部です……」
つまり、タカヤだけは人々を守るテッカマンで、シンヤとモロトフはラダムのテッカマンとして他の参加者を蹂躙する可能性が高いという事だ。
「……待て、さっきの話が事実ならば本当なら君もラダムの精神支配を受けている筈だ……だが君の様子を見る限りそれは無……まさか……」
「竜さんの想像通りです、私もお父さんと同じ排除されたテッカマン……」
「そういう事か……」
ずっと疑問に感じていた。殆どダメージを受けていないにもかかわらず今にも死にそうなぐらい衰弱していた事に、
だが、今の言葉でそれは氷解した。ミユキもシステムの不適合者、不適合者に待つ末路は――死だ。
「だからお願いです、私はどうなっても構わないから、タカヤお兄ちゃんを捜して力になって下さい! きっとお兄ちゃん無茶するだろうから……私の代わりに……」
本当ならば自分自身の力で助けたい。だが、自身の身体ではそこまで保たないだろう。だからこそミユキは照井に全てを託そうと願うのだ。
そんなミユキの懇願に対し――
照井はクリスタルを投げ渡す事で応えた。
「え……? 竜さん……?」
「今、自分はどうなっても構わないと言ったな。だがそう思っているのは君だけだ、少しは周りを見ろ……心配している家族……相羽タカヤがいるだろう」
そんな事は言われなくても解っている。だが、
「でも、私の身体はもう……」
「そのクリスタルは本当にいざという時、君の身を守る為に使うんだ、生きて相羽タカヤと再会する時までな……それまでは俺が君を守る」
「竜さん……」
「よく話してくれた……今度は俺の番だな」
今度は照井の知り合いについて話す。
照井同様風都で仮面ライダーをしている探偵
左翔太郎、彼は少々頼りない所はあるものの心強い味方である事を語った。
次に
園咲冴子、ガイアメモリを流通させている組織ミュージアムの幹部だった女性、それ故に殺し合いに乗る可能性は高い、
続いて
園咲霧彦、厳密に言えば照井自身面識があるわけではないが、翔太郎の話では冴子の夫にしてミュージアムの幹部だったが彼自身は風都の未来の為に戦っていたらしい。
それを踏まえるならば殺し合いに乗る可能性は高いとは言えないだろう。
更に風都を危機に陥れたNEVERである
大道克己と
泉京水、先の事件を踏まえるならば殺し合いに乗る可能性は高い。
「だが……」
「竜さん?」
「いや、後から話す。そして最後に井坂深紅朗、奴は自らの目的の為に多くの人々を殺害し悲しませていった凶悪犯罪者だ、奴だけは何としてでも俺の手で倒す」
これまでは比較的冷静に話してくれた照井ではあったが井坂の事を話す時だけは強い激情が込められているのをミユキも察した。
その理由は不明――いや、ミユキにはどことなく既視感があった。
似ていたのだ、ラダムに対し敵意をむき出しにするタカヤの姿に、恐らく井坂は照井自身の大切な家族を殺したのだろう。
それを理解出来たからこそ、ミユキはそれ以上問うつもりはなかった。
「しかし……井坂も大道達も俺の知る限りは死んだ筈だ……あの場で殺された堂本もそうだったが」
「竜さん、実はあの中に私たちと同じテッカマンダガー……フリッツさんがいたんです」
「それがどうした?」
「確かダガーはお兄ちゃん、テッカマンブレードが倒した筈なんです……それに私も……」
ミユキはここに来る前に起きた出来事、自身がタカヤを守る為にその命を燃やし尽くした事を話した。
「やっぱり、死者を蘇らせて……?」
「ああ、それは俺も考えた。だが……信じがたい話だが、別の時間から連れてきた可能性もあるだろう」
「別の時間?」
「井坂が死んだのは3ヶ月前、園咲霧彦が死んだのは7ヶ月前だ。蘇生手段があるとしても、そんな長い間保存するのは面倒だろう」
連中に死者蘇生の能力があるとしても、殺し合いのタイミングまで保管しておくのは色々手間がかかり非現実的だ。
もちろん、絶対に無いとは言い切れないが異なる世界の存在情報を得た現状では違う可能性がある。
異なる世界から参加者を集める事が出来るのであれば、異なる時間から参加者を連れてくる事も出来るのではなかろうか?
つまり、死亡しているたのを蘇らせたのではなく、死亡する前から連れてきたという可能性だ。
勿論、ミユキの様に蘇生したという可能性もある。だがそれも死亡前後のタイミングで連れてくる事で蘇生を行うという事だ。
死体が完全消滅した井坂達であってもそのタイミングで連れ去ったのならばまだ間に合うだろう。
「……だが、今はこれ以上言っても仕方ない。連中がとてつもない力を持っている程度以上の事は不明だ」
「あの加頭って人ガイアメモリを使っていましたよね。竜さんは何かあの人について知らないんですか?」
「俺に質問をするなと言った筈だが……悪いが俺も1度だけ園咲冴子と会っていた時に見かけただけだ、それ以上の事は何も知らない」
「じゃあ冴子さんなら何か……」
「俺もそれは考えた。だがわざわざ彼女を参加させている以上、彼女から情報を聞き出すだろう事は連中も想定済みだ、そうそう都合良く事は運ばないだろう」
後、推測出来る事は3人居た見せしめの最後の1人が砂漠の使徒に属する者という事ぐらいだ。
3人についてNEVER、テッカマン、砂漠の使徒という風に呼称していた事からの推測である。
何にせよすべき事はある程度見えている。仲間を集め殺し合いに乗った危険人物を打倒し、最終的に加頭達を打倒すれば良い。
もっとも自分達が知るだけでも危険人物は相当な人数だ。2人のテッカマンに、井坂といった凶悪犯罪者、そして先に遭遇したトリガー・ドーパントの持ち主もそうだ。
他にも殺し合いに乗った人物はいると考えて良い、その道は困難と言えよう。
その為、当面の目的は情報と仲間を集める事だ。
「まずは君の兄、相羽タカヤを探す」
「ありがとうございます……でも良いんですか、翔太郎さんを探さなくて……」
「奴はハーフボイルドだ、1人でもやる時はやる男だ」
「ハーフ……いや、ハードボイルドなら聞いた事あるけど……」
「それに左を探すにしても手がかりが無い。だが……」
テッカマンであるミユキ達は互いの存在をある程度感知出来る。
とはいえ、この場では相当近くまでいかないと反応しないだろうし、下手をすればシンヤあるいはモロトフに遭遇するリスクを伴う。
ミユキから聞いた話通りならばアクセルの力を持ってしても厳しい相手だ、放置はしておけないが無用な交戦は避けたい所である。
それでも、ミユキの現状を考えればタカヤを最優先で探すのはそう悪い選択肢ではない。
かくして森を出た2人は道路へと出る。時刻は1時半を過ぎた頃だ。
ミユキの状態を踏まえ多少距離はあるものの北の村でいくらか道具をそろえて置いた方が良い。
無論、デイパックで持てる容量には限度がある為、全部持っていく訳にはいかないだろうが――
可能であればタカヤ、翔太郎、あるいは見知らぬ仮面ライダー達と合流したい所だ。
2人の足は静かに北へ向いていた。
「(お願いだから無事でいて、タカヤお兄ちゃん……私は大丈夫だから……)」
ミユキは星空に兄の無事を願う中、照井は、
「(それにしても……相羽タカヤか……聞いた限りでは精神支配を受けていないらしいが……本当に大丈夫なのか?)」
無論、ミユキの話を疑っているわけではない。
だが、孝三の手により解放されたとはいえそれは半ば強引な手段であった。
故に何かしらの不具合を抱えていてもなんら不思議ではない。それこそミユキ同様にテッカマンの力に耐えきれず滅びてしまう可能性もあるだろう。
それでも照井自身、タカヤのラダムに対する戦いを止めるつもりは全くない。
タカヤがラダムを憎む気持ちは痛い程理解出来るのだ、出来るならば奴自身の手で決着を着けさせたい所だ。
そしてそれは照井自身にも言える事だ、どういう理由かは不明だが倒した筈の奴が参加者にいる。無論既に触れた通り自身の手で再び地獄に送り返すつもりだ。
だが、それは容易な事ではないだろう、1度倒したとはいっても強敵である事に違いはない。
奴に勝利出来たのは奴が必要以上に照井を見下した事と、トライアルの力に対応しきれなかっただけと言える。
逆を言えばその要素が無くなれば照井が圧倒的に不利になる。
奴が倒された記憶を持っているならば、トライアルへの対策は確実に取るだろうし油断もしないだろう。
持っていないとしても、奴がこの地でさらなる力を得てあの時以上の強敵となる可能性はある。
だが、それでも照井のすべき事に変わりはない。復讐だけで戦うつもりはないが、己の欲望の為に人々を悲しませる奴を放置するわけにはいかないのだ。
これは翔太郎にも他の誰にも譲れない事なのだ。
ところで、何故照井はあそこまでミユキの力になろうとしたのだろうか?
ミユキは兄であるタカヤを守ろうとしていた。それこそ自分が死ぬ事もいとわずにだ。
その姿を見て不意に重ねてしまったのだろう、井坂によって惨殺された照井の妹、春子の姿を――
何時も兄の事を想い昇進した時にはペンダントを贈ってくれた妹の姿を――
そしてミユキが体験した悪夢とも言うべき非常な現実、それを知りどうしても守りたいと考えたのだ――
無論、彼女の身体がそう長くは保たない事は理解している。少なくとも照井にはどうする事も出来ない。
だが、せめて彼女の想いだけは守りたい、照井はそう考えたのだ。
彼女を兄である相羽タカヤの元に連れて行く形で――
「(彼女……相羽ミユキがお前の元に行くまで……死ぬなよ、相羽タカヤ……)」
【G-2/道路】
【
照井竜@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(小)
[装備]:アクセルドライバー@仮面ライダーW、ガイアメモリ(アクセル、トライアル)、エンジンブレード+エンジンメモリ
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3個(確認済)
[思考]
基本:仮面ライダーとして人々を守り加頭を打倒。
1:ミユキと共に村に向かう。
2:タカヤ、翔太郎、仮面ライダー2人といった仲間との合流(タカヤ優先)、情報を集める。
3:井坂は自分の手で倒す。
4:シンヤ、モロトフ、冴子、大道、泉、トリガー・ドーパント(ティアナ)を警戒。
[備考]
※参戦時期は第47話冒頭~加頭遭遇前の何処かです。そのため、劇場版(AtoZ)の事件も経験済みです。
※テッカマン世界について把握しました。
※参加者が異なる世界、異なる時間軸から集められている可能性に気付きました。
【相羽ミユキ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:疲労(中)、テックシステム不適合による肉体崩壊
[装備]:テッククリスタル
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3個(確認済)
[思考]
基本:タカヤを守る
1:照井と共に村に向かう。
2:タカヤ、翔太郎、仮面ライダー2人といった仲間との合流(タカヤ優先)、情報を集める。
3:信頼出来る人に自身の持つテッカマンの情報を伝える。
4:シンヤ、モロトフ、井坂、冴子、大道、泉、トリガー・ドーパント(ティアナ)を警戒。
[備考]
※参戦時期は死亡後(第26話終了後)です。
※W世界について把握しました。
※参加者が異なる世界、異なる時間軸から集められている可能性に気付きました。
1人の妹は愛する兄を命を懸けてでも守ろうとし、
1人の兄はその少女に亡き妹の姿を重ねその想いを守ろうとし、
1人の妹は亡き兄の力を証明すべく全てを捨てて修羅へと墜ちた。
兄と妹、その想いは――
殺し合いという巨大な壁に静かに響く――
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最終更新:2013年03月14日 22:10