Sの異常/気分しだいの必殺技(前編)◆zvh.p2EMLo



鍔迫り合いの状態から互いに距離をとり、相手の出方をうかがう二人。
先に動いたのはゼクロス。逆手に持った電磁ナイフで胴を薙ごうとする。
エターナルはナイフを持つゼクロスの腕を持ち手では無い方で叩き落とし、肩を斬り付けた。
前かがみになったゼクロス。その状態を逆用して、バッタの足のように伸び上がりナイフを振り上げた。
エターナルは背を反らしかわそうとしたが、胸を斬られた。
追撃にゼクロスはナイフを振り下ろすが、エターナルはエッジを、予測されるナイフの軌道上に置いて防いだ。
再び鍔迫り合うエッジとナイフ。互いに押し合う最中、エターナルの力が僅かに抜かれた。
相手が引いたと思ったゼクロスは、エターナルの顔面にパンチを打つ。
だがそれはエターナルの誘い。ゼクロスの拳を頭を振ってかわし、胴への膝蹴り。
さらに突き出た拳の前腕を掴み、引き寄せ体勢を崩し、脇下にエッジを振るった。
ゼクロスは引かれる勢いのまま、自ら前方に跳びエッジをかわす。
空中で回転、着地するがそのタイミングにあわせたエターナルの蹴りが、ゼクロスの顎に叩き込まれた。

身体スペック上は神の器として設計されたゼクロスに分がある。だが戦いの趨勢はエターナルに傾きつつあった。
その理由として、ゼクロスが電磁ナイフによる接近戦を挑んでいることにある。
ゼクロスとエターナル、両者の間には近接戦闘技術の差が存在する。
ゼクロスには、ナイフ格闘術のみを研ぎ澄ませる必然性が無い。
両手甲のマイクロチェーン、両肘の十字手裏剣、両膝の衝撃集中爆弾やベルトの虚像投影装置といった多彩な武装を生かし、多岐に渡る戦術を行うことが可能だ。
だが現在、その武装の大半はエターナルのマントに防がれると判断して使用していない。
一方、エターナルの装着者である大道克己は、特殊傭兵部隊「NEVER」を率いて各地の紛争地域を戦ってきた。戦場で銃弾が飛び交う中、ナイフ一本のみで。
限定されてこそ磨かれる技術の錬度。ゼクロスがナイフだけで戦う限り、エターナルに一歩上手を行かれることになる。
さらにエターナルの身体を覆うマント、エターナルローブの効果がある。
エターナルローブは高い防御力のみならず、敵のドーパントの固有能力を封じることができる。
アイズ・ドーパントとの戦いでは、アイズの持つ固有能力、相手の筋肉の動きや表情の変化などから行動を先読みする力を無効化していた。
もちろんゼクロスはドーパントではないが、エターナルの腕の甲まで覆うローブはゼクロスの優れた動体視力を阻害し、腕の動き、その予兆を読み取りづらくしていた。

今の状況では、不利だ。
そう判断したゼクロスはエターナルに向かおうとせず、棒立ちのまま足を止めた。
「何のつもりだ?」
戦いを諦めたかのようなゼクロスの行動に、エターナルはエッジを手の内で回し、全身の力を抜く。
一転、後ろ足を爆発させるように一気に伸ばし、一撃で仕留めようと頭を狙い突く。
頭に刺さるはずだったエッジを、ゼクロスはわざと左腕を突き通させて止めた。
エターナルがエッジを抜き取る前に、ゼクロスはエターナルの左腕を右腕で掴む。
「それで? どうする気だ」
せせら笑うように問いかけるエターナルに、ゼクロスは膝を腹に押し当てた。
「何……?」
一瞬ゼクロスの膝が光り、爆発。耳を劈く轟音、音速を超える爆風に二人は吹き飛ばされた。
「お前……膝に爆弾を……!」
エターナルは身を起こそうとするが、腹を押さえ片膝をついていた。
一方ゼクロスも全身から煙が立ち上っているが、ゆっくりと立つその足は、力強く安定している。
衝撃集中爆弾はその名の通り、かなり狭い範囲まで爆風の指向性を絞ることが出来る。
その特性により、ゼクロスはエターナルほどのダメージを負わなかった。
止めを刺すべくエターナルに向かって走り出すゼクロス。
「ぬあああ!」
絶叫と共に立ち上がるエターナル。
疾走の勢いのまま、拳を振り被るゼクロスにエターナルも腕を引き絞る。
「おぉうりゃあ!」
「ゼクロスパンチ!」
青い炎に包まれたエターナルのパンチとゼクロスパンチが、互いの顔面に打ち込まれる。
砲弾が撃ち込まれたかのような衝撃に、二人は正反対の方向へ吹き飛んだ。
両者ともすぐさま身を起こし、目前の敵に向かい疾走からの跳躍。
「ぬうあああ!!」
「うおおおお!!」
飛び蹴りも同時に胸へ叩き込まれ、再び弾け飛ぶ。
「マイクロチェーン!」
今度はエターナルより早く起き上がったゼクロスが、右手甲からチェーンを発射。
エターナルはローブで弾こうとしたが、ゼクロスは腕の動きでチェーンの軌道を調整し、エターナルの身体に巻きつけた。
チェーンを伝ってエターナルに電撃が流される。
「はははっ…生ぬるいな!」
嘲笑するエターナル。ローブ越しの電撃は殆どダメージを与えられていなかった。
エターナルの高笑いに対し、ゼクロスは腕を引きながら、チェーンを全力で手甲内に巻き戻した。
引きずり寄せた相手を刺し殺そうと、ナイフを握り締める。
エターナルは引く力に抵抗せず、逆にその力に乗ってゼクロスに跳躍。引かれる勢いで胴体を地面と平行に回転させた。
纏わりつくローブの内側から、エッジがゼクロスを両断するべく振り下ろされる。
ゼクロスもまたエターナルの胴を輪切りにせんと、電磁ナイフを振り上げた。
「いいりゃあああ!!」
「おおおおお!!」
殺意に満ちた斬撃が交差し、ゼクロスは袈裟懸けに斬られ、エターナルは胴を裂かれた。
着地に失敗し、地面に胴体から落ちるエターナル。片膝をつくゼクロス。
重傷を負いながらそれでも二人は即座に立ち上がる。まるで始めからダメージが無いかのように。
その行動に、両者とも疑問を浮かべた。

「お前……死人みたいな面だったが本当にNEVERか? そんな筈無いが」
これほどタフな奴など、俺達NEVER以外存在しない。だがこいつがNEVERのはずがない。
NEVER研究が財団Xから打ち切られて以後、自分以外のNEVERは俺自ら選別して、お袋のマリアに蘇生させていたのだ。
だから俺が知らないNEVERは存在しない。その筈だ。
もしいるとすれば財団Xの仕業だろう。打ち切った後でも研究データくらいは残しただろうから、それを使って生み出したのか。

「キサマ……俺と同じ、バダンに?」
俺が今まで戦った相手には全員痛覚があった。カメンライダーでさえ。
例外は胴を両断されても平然としていた、ガモンと名乗ったあの軍服男だけ。
だがこの目の前のカメンライダーは、あの男とは違うように思える。
まるで自分のように、痛みという記憶そのものを知らないかの様な戦い方。
ならば奴も俺のように、一度敗れて死んだのか。バダンは再び俺の様な奴を作り出したのか。

相手が素直に返答するとは思えない、だが聞き出したい。互いにそう思い質問をぶつけた。

「まあどうでもいい、どうせ俺が全て死人の世界に変えるんだ」
先に動いたのはエターナル。一撃でゼクロスの首を刎ねようとエッジを水平に振るう。
首を薙ぐエッジをゼクロスは身をかがめてかわし、たわめた膝をバネに宙へと高く飛び上がる。
空中で反転し、左腕を右斜め下、右腕を右斜め上へ伸ばすポーズ、決め技のスイッチとなる動きをとった。
「ゼクロス…キック!」
叫ぶと同時に、ゼクロスの体が赤く光り輝く。
あれが奴のマキシマムドライブ、切り札と判断したエターナルは、ローブの裾を摘まみ腕を振り上げ、身体全体を包み隠した。
ローブに被さった肩を盾代わりに突き出し、斜に構えて腰を落とし堅固な防御の態勢を作る。
鉄壁の防御を打ち破らんとゼクロスが裂帛の気合を込め急降下する最中、異変が起こった。
「……光が!?」
ゼクロスを包む赤い光が胴体から消え、右足に残った光も腿から足先の順に消えていったのだ。
それでも命中の瞬間、蹴り足を突き出せばダメージを与えられたかもしれないが、ゼクロスは足を伸ばしきったまま踏みつけるようにして技を放っていた。
結果、その蹴りは十数m上空から自由落下したゼクロスの質量分の威力しかなく―――それでも人間一人を殺すには十分すぎるが―――エターナルに軽々と受け止められた。
「あ……」「はあ?」
両者とも予想外の出来事に、気の抜けた声をあげた。
「おい……何だそれはよぉ!」
期待外れの技に激昂したエターナルは、ゼクロスの足を掴み力任せに放り投げた。
ゼクロスの体が地面と何mも擦られる。
滑る身体をゼクロスは頭上に手を当てて止め、ヘッドスプリングで跳ね起きた。
だが先ほどの意外すぎる現象に、愕然として右足を見つめた。

「光が……消えただと!?」
あの赤い光、カメンライダー二人を纏めて倒した、あの力の消えるのが速すぎる。
脱走して以後、バダンの調整を受けていないとはいえ、ここまで俺の身体は……!

「何を呆けている!!」
複眼を右足に向けたまま、身じろぎ一つしないゼクロスにエターナルが突進した。
走る勢いを止めずに反転、後ろ向きから踏み切ってのトウジャンプ。
空中で身体を螺旋状に捻り、コークスクリュー回転から蹴り足がゼクロスへと突き出される。
キックがゼクロスの胸に直撃する寸前、エターナルの右足が青い炎に包まれた。
「グウッ……!」
渦状の炎が爆発し、再びゼクロスは撥ね飛ばされる。何か砕ける音がゼクロスの胸の奥で鳴った。
「先に地獄で、遊んで来い」
ダメージが限界に達したのか、倒れたままのゼクロスに、エターナルはマキシマムドライブを発動させようとロストドライバーのメモリに手をかけ―――
瞬間、ゼクロスとエターナルの間の地面が爆発した。
「「何っ!」」
突然の珍事に何者かの襲来かと、驚く二人。
もうもうと土煙を上げる中から、地面を砕き現れたのは。
「ここはどこだ」
頭にバンダナを巻いた男―――良牙だった。





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最終更新:2013年03月14日 22:23