狼疾記 ◆wgC73NFT9I


『養其一指、而失其肩背、而不知也、則為狼疾人也』

 其(そ)の一指を養ひ、其の肩背を失ひて知らざれば、則(すなは)ち狼疾の人と為(な)さん。

 ――孟子――


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 一人の男が、白んできた空から身を隠すように、森の中を縫っていた。
 剃り上げた髪を頭頂部で固く髷のようにまとめ、筋肉質の身を革のベルトと鎧に覆っている。
 フォックスという名の拳法家である。
 世紀末の日本でしたたかに生き抜いてきた男であり、とある軍団の最高幹部を務めるほどの実力を持っていた。

 しかし彼の拳法は、世紀末の世の中では取り立てて強力なものであるとは言えない。
 なぜ彼がここまで生き抜いてこれたのかという理由は、ひとえにその残虐な頭脳によるところが大きい。
 人を殺し、奪い、それを楽しむ。
 世紀末では、確かにそれは生きるための一つの手段だった。
 彼は今や、その行為に何の臆面もない。
 躊躇なく、効率的な手法で殺戮と略奪を行なうために、彼はその頭脳を使ってきた。


 そして今、彼は息を潜めて、森の中をゆっくりと進んでいる。
 周囲にどれだけのヒグマが潜んでいるかわからない以上、警戒はしてもし足りなかった。
 事実、彼は深夜に強大なヒグマと、それに匹敵する強さを持つ恐竜らしきものと対面している。
 火山の噴火を始め、その他にもフォックスの肌感覚に不安を覚えさせる現象は多かった。
 逃げるのにも、細心の注意を払わなくてはならない。

 ようやく森が切れて草原が見える。
 目的地である市街に近づいてきたということであるが、同時にここはフォックスにとって最大の難所でもあった。

 ――ヒグマに見つかる可能性が高けぇ……。

 見晴らしのよい草原。
 ヒグマの方が人間より五感が優れている以上、同等の条件下であれば当然ヒグマの方が先に人間に気づくだろう。
 その場合、逃げるのは困難だ。

 そもそも彼が市街地を目指しているのは、住居に隠れ、ヒグマをやり過ごしながら状況を見るためである。
 先刻のヒグマ対恐竜の戦いに巻き込まれた感覚が残っている心情では、これ以上ヒグマと対面するのは御免こうむりたかった。


 フォックスは注意して薄明の草原に目を凝らす。
 背の高い草むらの位置や、風向きを確認して、物陰から物陰へ素早く走っていく。そしてこれを繰り返す。

 恐らくこの作戦は功を奏したと言えるだろう。
 草原の坂の下、動いているものがあった。
 一頭のヒグマ。
 フォックスは先に、その存在に気づくことができたのだ。


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 フォックスがそのヒグマを先に気づけた理由には、彼の作戦以外にも二つの事柄があった。
 一つはヒグマが、その目の前にある肉塊に夢中になっていたこと。
 そして二つ目は、そのヒグマが、人の声で慟哭していたことである。

「おお……袁さん……! 袁さん……!!」

 喉を締め付けるような叫びが、確かにそのヒグマの口から発せられていた。
 昇り来る朝日を受けて、てらてらと赤い膏が光る。
 血溜まりに浮く肉を抱えようとしているのか、ヒグマは前脚でその塊を徒に弄んでいる。
 試みるたびに肉は刻まれ、潰され、人の形から遠のいていった。
 何かの物語から切り取ってきたような、現実離れした景色。

 フォックスが覚えたのは、恐怖というよりもむしろ興味だった。
 なぜヒグマが人語を話しているのか。
 あのヒグマは人間なのか? 羆なのか?
 そしてなぜ、あのヒグマは哭いているのか?
 それなりに頭が良いと自負しているフォックスだったが、この光景は、彼の理解を逸脱していた。

「……誰ぞ、そこに居るのか」

 ヒグマが、ゆっくりとフォックスの方を振り向く。
 知らず知らずのうちに、彼は草むらを踏み出していて、みしりとその一歩が音を立てていた。
 ヒグマと目が合う、その瞬間は静かだった。

 ――やべえ。俺は、死ぬのか?

 体は苔むした石のようだった。
 呼吸が止まる。
 その一瞬は、とてつもなく長いものだった。

 ヒグマの眼は、どこか哀しげであった。
 彼は、かすれたような人の声で、低くフォックスに語りかけていた。


「人間よ……。自分を、殺してはもらえぬだろうか?」


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 隴西の李徴は博学才穎(さいえい)。
 平成の初め、若くして名を名門大学に連ね、ついでさる市役所の役員に補せられたが、性、狷介(けんかい)、自ら恃(たの)むところ頗(すこぶ)る厚く、一役員に甘んずるを潔しとしなかった。
 いくばくもなく役職を退いた後は、故郷の山麓に帰臥し、人と交流を絶って、ひたすらパロロワ書きに耽った。下吏となって長く膝を俗悪な大官の前に屈するよりは、ロワ書き手としての名を死後百年に遺そうとしたのである。

 しかし、文名は容易に揚らず、生活は日を逐(お)うて苦しくなる。

 数年の後、貧窮に堪えず、自身の衣食のために遂に節を屈して、再び市役所へ赴き、一企業の営業職を奉ずることになった。
 一方、これは、己(おのれ)の執筆業に半ば絶望したためでもある。
 曾ての同級生は既に高官や重要職に進み、彼が昔、鈍物として歯牙にもかけなかったその連中の社命を拝さねばならぬことは、往年の儁才(しゅんさい)李徴の自尊心をいたく傷つけていた。


「……するってえと、何かい。李徴さんよ。
 あんたはロワイアルとかいう小説を書いてたが、認められないで、苦しくて嫌な生活をしているうちに、ヒグマになってたってことか?」
「いかにも……。そして今では、人間の心で居られる時の方が短い。
 遂に自分は、同時期にロワ書き手としてデビューした、最も親しい友をこの手で殺めてしまった。最早自分にはこの世に生を存する価値がない。
 自分が完全に羆となる前に、どうか、人間として、自分の命を絶って欲しいのだ。
 今まで書いてきたロワイアルの地に没するというのも、自分には相応しい最期なのだろう」

 奇異なことであったが、目の前で訥々と語るヒグマの姿をした者は、確かに人間であった。
 フォックスのいた世紀末では、人を内部から爆殺する拳法や、身長20mを越える人間などが存在している。それらに比べれば、人間がヒグマの姿となったところで、何ら驚くべきことではないのかもしれない。
 李徴と名乗る者は、肉塊の傍らにあったデイパックを銜えて持ってきていた。

「袁さんが記してくれた、我がロワイアルのプロットが数十、この中のパソコンに入っている。
 頼み事が多くて申し訳ないが、自分を殺した後、このプロットを荼毘として掲示板に流して欲しい」


 専門用語や古めかしい言い回しが多く、李徴の言葉の意味は汲み取りづらかったが、フォックスはとりあえず彼のことを次のように整理した。

 この男は、ヒグマ並みの力を持ってしまった精神異常者である。
 しかも一日の大半では気が狂い、人殺しに走る。精神の切り替わりはハッキリしており、正常状態では自分の行いを後悔してばかりいる。
 その原因は、ロワイアルとかいうヘンな小説とつまらない誇りにこだわり、自分の生活をまったく省みなかったためである。そしてその根っこは今でも変わってはいない。


 ――ああ、こいつはどうしようもねえ馬鹿だ。


 フォックスには同情の念も湧かなかった。ひたすらに面倒なだけであった。
 自分の持つカマでこの李徴を殺せるかはわからないし、よく解らない文章をわざわざ持ち帰って公開してやる義理もない。
 ただ一点、殺すにしろ放っておくにしろ、李徴という人間が狂い始める前にできるかぎり利用しよう、という考えだけがフォックスには残っていた。

「まあ頼み事はどうあれだ、そのデイパックはもらうぜ。
 あとあんたはさっき、『今まで書いてきたロワイアルの地に没する』と言ったな。
 あんたはこの殺し合いのことについて、何か知っているのか?」
「この殺し合いこそ、『ロワイアル』だ。自分もただ、小説の中のことであると思っていたが、いざ自分が巻き込まれてみると、自分がなんという所業を書き連ねていたのか、恐ろしくなってくる。
 その正体が解らない故に我々が恐怖の感情を以て『偶然』と呼んでいるものが、ほんのちょっとその動き方を変えさえしたなら、そのような所業が自分に起らなかったと誰が言えるわけでもないのにな」

 李徴曰く、このような殺し合いを描いた一冊の小説が事の発端だったのだという。
 人気を博したその小説の設定を借り、人々の中に、様々なキャラクターを使ってその殺し合いを行なわせようと考えた者たちが出始めたらしい。
 それが『パロロワ』であり、『ロワ書き手』であった。

 会場の形態、爆弾入りの首輪などの状況設定からして、現在行なわれているヒグマと人間の殺し合いも、そういったロワ書き手の誰かが画策して実行したものなのではないだろうか、と李徴は語った。
 ノートパソコンの閲覧を勧められ、フォックスは30篇ほどのテキストファイルの一部を適当に読み始める。


「……なんだこの物語は」

 世紀末の世では縁遠くなった、アニメや漫画のキャラクターが寄せ集められ、殺し合いをさせられていた。
 血腥く、一目見ただけで畏怖嫌厭(いふけんえん)の情を起こさせる作品群であったのは、むしろ李徴の文才が確かだったことの証明であろう。

 ――だが、趣味がわりい。

 見習いたくなる残虐さだった。フォックスも、首領であるジャッカルの元で、凄惨な処刑や殺戮を行なってきたことはある。
 だがそれは、あくまでその悪趣味な光景を残党に見せつけ、戦意を殺ぎ、自身の作戦を有利に進めるための戦術的手段に過ぎなかった。
 フォックス自身は、殺人においても跳刀地背拳で作る一瞬の虚を頼みにするのみで、虐殺が趣味なわけではないのだ。
 ロワ書き手とかいう輩の酔狂に付き合わされて死ぬなど、まっぴらであった。


「……人間は、散り際が最も美しい。だから、自分達ロワ書き手は、その美しい死に様を描こうと躍起になった。
 どうせいつかは意味も無く死ぬ身。ならばその死に、自分は幾許かの意味と、少しでも永く後世に残る、感情を与えたかったのだ。
 さあ、自分にも意味を与えてくれ、フォックス。頼むよ。これが隴西の李徴最後の作品なんだ。
 身も心も羆になっちまった哀れな男を、せめて人間として散華させてくれ!」


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 小学校の四年の時だったろうか。
 肺病やみのように痩せた・髪の長い・受持の教師が、ある日何かの拍子で、地球の運命というものについて李徴に話したことがあった。
 如何にして地球が冷却し、人類が絶滅するか、我々の存在が如何に無意味であるかを、その教師は、意地の悪い執拗さを以て繰返し繰返し、幼い李徴達に説いたのだ。

 後に考えて見ても、それは明らかに、幼い心に恐怖を与えようとする嗜虐症的な目的で、その毒液を、その後に何らの抵抗素も緩和剤をも補給することなしに、注射したものであった。

 それでは自分たちは何のために生きているんだ。

 自分は死んでも地球や宇宙はこのままに続くものとしてこそ安心して、人間の一人として死んで行ける。
 それが、今、先生の言うようでは、自分たちの生れて来たことも、人間というものも、宇宙というものも、何の意味もないではないか。


 ――本当に、何のために自分は生れて来たんだ?


 考えても考えても、その迷妄に答えは見えなかった。
 周りのものを見れば見るほど、それが不確かな存在に思えわれてならなかった。
 全然解決の見込のない問題を頭から相手にしないという一般の習慣はすこぶる都合の良いものだ。
 この習慣の恩恵に浴している人たちは幸せである。全くの所、多くの人はこんな馬鹿げた不安や疑惑を感じはしない。

 自分や、今あるありとあらゆるものが、今ある如くあらねばならぬ理由はどこにある?
 なぜ世界はこんなにも不確かで偶然的で、意味にも必然性にも欠けているのか?

 李徴はただ、その答えをロワイアルに求めた。
 彼の性情にとって、いくら他人に嗤われようと、こうした一種の形而上学的といっていいような不安は、他のあらゆる問題に先行していた。

 殺し合いの刹那に輝く生を見ることで、その堆積の果てに、李徴はその答えを見たがった。
 自身の博学、自身の才能ならば、それが可能だという自負もあった。

 そしてその答えは、世の人々にもきっと認めてもらえるであろう、とも――。


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「あんた、この小説を書いた後、小便したくなるだろ?」

 李徴が直に感想をもらえるであろう最後の読者は、ノートパソコンを閉じて一言、そんな言葉を呟く。
 しばらく様子を窺うように彼は黙っていたが、李徴が反応できないでいると、諦めたように溜め息をついた。

「したくならねえんなら、なおさらタチわりぃ。挙句の果てにそれを羆のせいにして最後まで逃げようとしてやがる。
 ご立派で崇高な目的があってこの文章を書いてたみてぇに言うが、そんな気持ちじゃこんな作品はできねぇこともわかってねぇ」

 俺はあんたみたいな、馬鹿のド素人の頼みを聴くつもりはねえから、死ぬなら勝手に死ねよ。

 フォックスは2つのデイパックを背負いなおすと、髷を振り立たせ、その場から立ち去ろうとした。
 李徴は焦った。
 我が身は再び死ぬ機会に巡りあうこともできようが、袁さんがしたためてくれた作品群はもう二度と日の目を見られなくなってしまうだろう。


「ま、待ってくれ! それならばそのノートパソコンだけは置いていってくれ!
 誰か他の者に託さねば、自分の生きてきた意味が……」
「ほら、ようやく気づいたか」


 フォックスは、嘲るような笑みを浮かべながら、李徴に向き直っていた。
 手首のカマを李徴の鼻先に向けながら、フォックスは子供に言い含めるように語る。


「あんたは自分のつまんねえ作品と誇りが、一番大事なんだよ。そしてそれを認めてくれないものからひたすら逃げようとしてきた。
 自分の本心からもな。
 いい加減認めろよ馬鹿」

 あんたは、人殺しが好きなんだ。
 そこに転がってる肉片だって、あんたはご友人の才能に嫉妬してて、ペロリと喰っちまいたかっただけだろ。
 美しい死に様だの生きる意味だの、そんなのはただのお題目だ。
 あんたは、どこまでも人間らしいよ。
 ある意味、俺なんかよりもな。

 訳も無く共食いや争いを起こす動物なんて、俺は人間しか知らねぇ。
 あんたは自分の中の深い人間性が怖くて、見たくなかったんだ。
 だから自分の誇りにすがって、目線をすり替え、文字列で覆い隠した。

 逃げ続けた末に膨らんだ自分の中の人間に共食いされてもなお、口からはみ出た指一本だけで逃げようとしてる。
 羆のせいにしていても見苦しいだけだから、早く俺のような人殺しだと、開き直れよ。
 ああ、あととにかく言っておくが、あのキザな・悟ったような・小生意気な・ものの言い方だけは、よしてもらいたいね。わけわかんねぇし、あんたよりも聴いてるこっちが恥ずかしくなるから。


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「ぐ……、う……」

 李徴は何も言うことができなかった。
 袁さんに述懐した自身の心境が、更に深い地層から掘り返されて自分の前に提示されていた。

 心臓が握りつぶされそうだった。
 溢れた血流が、痙攣する咽喉を通って唸りに変わっていく。
 背骨を通って頭上へと。
 どす黒い血液が眼窩から口腔から、迸っていくように感じた。

「ぐうるるるるるううぅぅうぅぅぅ……」
「あーあ、またそうやってヒグマの振りをして自分から逃げるのか。どうしようもねえ気狂いだぜ。
 熊は死んだ振りしとけばやり過ごせるって話を聞いたことがあるから、そうさせてもらおうかね」
「るうぅぅああああああああああああ!!!!」

 仰向けに寝そべり、死んだ振りをするフォックスに向かって、李徴は踊りかかった。
 黒い巨体が疾駆し、太く鋭いその爪が、確かにフォックスのいた地面を抉っていた。

「ひゅ~……。跳刀地背拳!!」

 フォックスの体は、前脚を振り下ろした李徴の背後に跳んでいた。
 そのまま背中の毛皮を掴み、先だって恐竜に掴まっていた時のようにしっかりと李徴の背にまたがる。
 いかなヒグマの体躯とはいえ、先程フォックスが掴まっていたブラキディオスよりは遥かに小さい。
 両脚と手首のカマをも補助に使い、フォックスは李徴の体へ完全に密着していた。

「ぐるおおおぉおおおおおおぉおお!!!!」

 背中の男を振りほどこうと、李徴は滅茶苦茶に腕を振り回す。
 しかしヒグマの腕は、指は、その肩背にまで届くことはなかった。

「ああぁあああ……るううううぅぅぅぅぅううう!!!!」

 化生とも人間ともつかない叫び声を上げて、李徴は走った。
 草原のまばらな木々に体を打ちつけ、叢をなぎ倒し、自分自身を痛めつけるようにして走った。
 それでも背中の男は落ちない。
 李徴がどこまで逃げても、背中から『人間』がぴったりと追いかけてくる。
 李徴がどこまで逃げても、闇の中からしきりに自分の声が呼びかけてくる。


 慟哭に押しつぶされたかすかな思考の中で、彼は昔読んだある小説のことを思い出す。


『俺が脅されているのは、外からの敵ばかりではない。
 大地の底にも敵がいるのだ。

 俺はその敵を見たことはないが、伝説(いいつたえ)はそれについて語っており、俺も確かにその存在を信じる。
 彼らは土地の内部に深く棲むものである。
 伝説でさえも彼らの形状を画くことができない。
 彼らの犠牲に供せられるものたちも、ほとんど彼らを見ることなしに斃(たお)れるのだ。

 彼らは来る。
 彼らの爪の音を(その爪の音こそ彼らの本体なのだ)、君は、君の真下の大地の中に聞く。
 そしてその時には既に君は失われているのだ。
 自分の家にいるからとて安心している訳に行かない。

 むしろ、君は彼らの棲家にいるようなものだ。』


 ひた走る李徴の目からは、とめどなく涙がこぼれていた。


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 李徴がどれだけ速く走っても、木立に衝突しても、爆発を起こす恐竜に振り回されていたフォックスには、その程度の自棄は問題にもならなかった。

 正気に戻ったら戻ったでこの殺し合いについて知ってる知識をありったけ引き出せばいいし、狂ったままなら狂ったままで、手当たり次第に他の参加者やヒグマを食い殺してもらえばいい。
 利用できるものはとことん利用するのが、彼のスタンスだった。
 たとえ相手が、自分の境遇を哀れだと自賛して陶酔している馬鹿な人間であっても、である。

 黒く暖かな羆の毛皮に身をうずめながら、フォックスの心に去来した感情が一つだけあった。


 この李徴は、自己の属性の一つだけを、極度に、他との均衡を絶して、醜いまでに発達させた人間だ。
 そしてそれは、自分自身にも言えることである。
 曲芸まがいの拳法一つのために、自分は血のにじむような努力をして世紀末を生きてきた。
 ただ単に、この羆のなりをした男と自分の違いは、その自分の愚かさ・自分の性状を、見つめなおすことができたかできなかったかだけなのではないだろうか。


「……確かに、哀しいヤツだな。あんたは」


 フォックスがこぼした呟きは、李徴の耳元を転がって、涙と共に朝日を弾いていた。


【D7・草原/早朝】


ヒグマになった李徴子山月記?】
状態:健康・狂乱
装備:なし
道具:なし
基本思考:羆羆羆羆羆羆羆羆羆羆
0:羆羆羆羆羆羆羆羆羆羆
1:虚しい
2:人間でありたい
3:自分は一体、何なのだ?
[備考]
※かつては人間で、今でも僅かな時間だけ人間の心が戻ります
※人間だった頃はロワ書き手で社畜でした


【フォックス@北斗の拳】
状態:健康
装備:カマ@北斗の拳
道具:基本支給品×2、袁さんのノートパソコン、ランダム支給品×0~2(@しんのゆうしゃ) 、ランダム支給品×0~2(@陳郡の袁さん
基本思考:生き残り重視
0:正気だろうが狂気だろうができる限り李徴は利用する
1:あの場(C-8)から離れ、一度街の建物で休んで状況を見る
[備考]
※勲章『ルーキーカウボーイ』を手に入れました。
※フォックスの支給品はC-8に放置されています。
※袁さんのノートパソコンには、ロワのプロットが30ほどテキストファイルで保存されています。


No.090:論理空軍 本編SS目次・投下順 No.092:ラディカル・グッド・スピード
本編SS目次・時系列順 No.093:風になれ~みどりのために~
No.045:山月記 ヒグマになった李徴子 No.113:文字禍
No.066:むなしいさけび フォックス

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最終更新:2015年03月22日 13:58