鷹の爪外伝 北海道周辺より愛をこめて 接触編



巨大鷲頭による突然の本州襲撃。
暴君怪獣タイラントによる大規模な津波発生。


もはやヒグマと人間(一部人外含む)との血で血を洗う抗争を百歩ほど踏み越えたようにも思える現状。
そのカオスな戦場に、新たに足を踏み入れようとする者達がここにもいた。


場所は北海道にほど近い日本海の海中。
先程の大津波の影響か逃げ惑う魚達の中を雄大な姿で泳ぐ巨大な影があった。

絶滅した首長竜・プレシオサウルスを思わせるフォルムの紫色のその巨体。
長きに渡り地球の平和を守るスーパー戦隊の37代目『獣電戦隊キョウリュウジャー』の仲間。
海の獣電竜・プレズオンである。

彼の内部から複数の声が聞こえた。
だがそれはキョウリュウジャーの面々の物ではなかった。
むしろ彼らとは色々と真逆の方向に位置する、かといってデーボス軍のように残虐非道というわけでもない一団。
彼らの名は―――――



「総統、見えてきましたよ。あれが『ドキッ!ヒグマだらけのバトルロワイアル会場』になっている島です」
「いや吉田君、そんな一昔前の夏のバラエティー番組みたいな名前付けても危険なのには変わりないから!」
「もう、いつまでもビビってても仕方ありませんよ総統。別に怪獣退治しに行くわけじゃないんですから」
「いやだって……君もあの時見たじゃろ? ヒグマというのがわしらの知る『樋熊』とは何もかも違う生物兵器
 だとも説明されたし、何だか猛烈に悪い予感がするんじゃよ~」
「大丈夫ですって。こっちには博士や菩薩峠もいますし、何よりヒグマが暴れるなんて島根ではよくある事ですよ」

などと漫才のような会話を繰り広げる赤いコスチュームに身を包んだ二人の人物。
世界征服を企む悪の貧乏秘密結社『鷹の爪団』。
その総統(本名:小泉鈍一郎)と戦闘主任兼怪人製造主任の吉田君(本名:吉田カツヲ)である。
二人の隣には額に『瓜』と書かれたマスクをした男、白衣を着た小柄なクマ、やたら不気味な形相で紫色の顔色を
した少年といった妙な一団も控えていた。

「まあまあ、総統っちが不安がるのも仕方あるまい。なんせわしらが今から向かうのは何が起こるかわからん
 恐るべき死地なんじゃからな」

そんな彼らの会話に加わったのは、恐竜を思わせる紫色のスーツに身を包んだ男だった。

「いえドクター、総統の気が小さいのは今に始まった事じゃありませんからあまり気にしないでください。
 この間だって、布団の中に博士に作ってもらったマウンテンゴリラの剥製を入れてみたら予想以上に
 ビビって慌てふためいていたくらいですし」
「コラー吉田君! あれ入れたのやっぱり君だったのかー!! 軽くトラウマになりそうじゃからやめなさい!」

「しかしお前さんとこの秘密結社は随分と賑やかじゃのう、レオナルドっち」
「まあな、こんなのはいつもの事だ」

ドクターと呼ばれた紫のスーツの男に話を振られ、白衣のクマも人語を介して答えた。
ちなみにこのクマは有富達に作られたヒグマではない。
鷹の爪団の外部契約社員である天才科学者・レオナルド博士である。
明らかにクマみたいな外見だが本人は人間と言い張っているので人間である。



さて、ここで何故彼らがヒグマひしめく北海道の一島に向かっているのか説明せねばなるまい。

―――話は1週間前に遡る。


東京都千代田区麹町にある鷹の爪団がアジトを構えるアパート(家賃月額10万円)。
そこにはその日、彼らが予想だにしなかった珍客が現れる事となった(まあ普段から珍客は多いが)。

「総統! 大変です総統!」
「何じゃね吉田君そんなに慌てて。またDXファイターが昼食でもたかりにきたのかね?」
「違います! 妙なアメフト部みたいなコスプレした二人組が、博士を出せと言って勝手に上り込んだんです!」
「何じゃと~!?」

総統が驚くと同時に、吉田君が説明した通りのどこかのミステリアスパートナーみたいなアメフト風のスーツに
身を包んだ二人組がズカズカとアジトに上り込んできた。

「ここか、宝田明が足の指を深爪団とかいう連中のアジトは」
「いや、高潮注意報団じゃなかったか?」
「鷹の爪団じゃよ! 何じゃそのむやみに難しい言い間違いは!?」
「おおそれだそれだ。おい貴様、レオナルド博士というクマはここにいるな?」
「は、博士なら今わしらの世界征服の為の新たなマシンを開発するための材料を100円ショップに買いに
 いってるから留守じゃが……それよりお前達は一体何者なんじゃ? 博士の知り合いかね?」
「(チッ、入れ違いか。おいどうする?)」
「(焦って探し回るよりここで待った方がいいかもしれん。あやつの頭脳は我々の更なる『進化』の為にも
 見逃せない要素だ。しくじる訳にはいかん)」

総統からの質問を無視して、二人組はひそひそと会話を始めた。
その様子にさすがに総統もこのコンビを訝しんだ。

「おい、聞いておるのかね?」
「あぁ? ちょっと黙っててくれんか。こっちは今大事な話を――――!?」

呼びかける総統に乱暴に対応する二人の片割れだったが、次の瞬間目を丸くした。
何と自身の身を包むコスチュームがピキピキとひび割れはじめたのである。

「ゲェーッ!? 何故オーバーボディが!! ……ムゥッ!?」
「………」

ふと周りを見渡すと、何やら紫色の顔をした少年がこちらに両手を向けていた。
その少年が何か不可視の力を働かせている事を直感的に彼は感じ取りうろたえる。

彼の名は菩薩峠君。
鷹の爪団のお友達感覚の団員であり、その正体はその気になれば地球の自転を逆回転させ、北海道と九州の位置を
入れ替える事すら朝飯前という怪物クラスのエスパー少年なのである。

「ど、どうしたんじゃ菩薩峠君!」
「そ、総統、見てください!!」
「な、何じゃこれはーっ!?」

総統と吉田君は目の前の光景に目を疑った。
男の来ていたオーバーボディという名のコスチュームは完全に粉砕され、その中から出てきたのは人間―――
否、断じて否!
その巨体と毛に覆われた肉体、これはまさしく――――

「うわぁーーーーっ!! 熊じゃーーーっ!?」
「しかも博士みたいなビジュアルじゃありません! ガチのリアル熊ですよ!!」
「グムーッ、ば~れ~た~か~。まさかこうもあっさり正体を見破られるとは」
「仕方あるまい。見られたからには実力行使あるのみ!」

更にもう片方の男もオーバーボディを脱ぎ捨て真の姿を現した。

「ひぇ~っ、こっちも熊じゃ~! しかも2匹とも喋ってる~!!」
「お前ら、本当に一体何者なんだ!?」
「それを貴様らが知る必要はない。何故なら貴様らは今ここで死nウボァァァァァァァァァ!?」
「あ、穴持たず58号ーーーーッ!?」

台詞をすべて言い終える前に、穴持たず58号と呼ばれた熊は悶絶した。
菩薩峠君名物、相手の背骨をご丁寧に二つ折りにする超能力を食らってしまったのである。
流石にヒグマと言えどこれには素で耐えられなかった。

「今じゃ吉田君、逃げるんじゃ!」
「言われなくてもスタコラサッサですよ!」

その隙に総統は吉田君達と共にアジトから一目散に逃げ出す。
ちなみに菩薩峠君と、ここまで台詞はないがさっきまで近くにいた戦闘員のフィリップも一緒である。

「だ、大丈夫か58号!? 傷は深いぞ、ガッカリしろーっ!!」
「ゴヘハッ……た、頼む59号……俺が死んだら俺の檻に置いてある蜂蜜壺を貰ってくれんか……あれはいいものだ……」
「馬鹿者! 無駄に死亡フラグ満載の台詞なんか吐くんじゃない!」
「な……何だか熱いなぁ……かき氷が喰いたいぜ……キンッキンに冷えたやつが……ガクッ」
「58号ーーーーーっ!?」

などと二匹がやり取りしている間に、鷹の爪団一同はとある路地裏へと避難していた。

「ここまで来ればなんとか大丈夫じゃろう。それにしても何だったんじゃあの熊は?」
「博士を探していたみたいですけど、あの空気は明らかに知り合いじゃありませんよきっと」
「とにかく今は博士と合流して事の真相を確かめねば……」
「俺がどうしたって?」
「あっ、博士!」

噂をすれば何とやら。
100円ショップの買い物袋片手に当のレオナルド博士が背後から姿を現してくれた。

「ちょうどいい所に来てくれたわい博士。実は今妙な二人、いや二匹組がアジトに来てな―――」
「わかってる、ヒグマ共が来やがったんだろ。そろそろ来るんじゃないかと思ってた所だ、オラッオラッ」
「ええっ? 博士、何で知ってるんじゃ!?」
「そいつは―――」


ドゴォォォォォォッ!!

博士が口を開きかけた瞬間、突如として総統達のいる地面からドリルのように回転する何かが飛び出してきた。
先ほど撒いてきたと思われたヒグマ、穴持たず59号である!

「見つけたぞ貴様ら―ッ! 58号の仇ーッ!」
「ひぇぇ~っ、もう追ってきた~!!」
「ていうか地面から回転して穴掘って出てくるとか、本当に熊なんですかこいつ!?」
「……遂に来やがったかヒグマ。いや『HIGUMA』と呼んだ方が正しいか?」
「……我々の正式な通称を知っているとは流石だな、レオナルド・デカ・ヴィンチ博士」
「お前達の目的はだいたい把握してる。悪いが俺はそんな馬鹿げた計画に付き合うほど暇じゃねえ。第一俺が
 協力した所で最終的にはどうなると思ってやがる? 終わりのない進化という名のジェノサイドを味わうのは
 お前らだぞ? それでもいいのか?」

慌てふためく総統達に対して、博士はつとめて冷静にヒグマに話しかけた。
内容からしてどうやらこのヒグマの目的を理解しているらしい事は伺えた。

「フッ、悪いがそいつは俺の一存では決められないんでな。俺があやつから受けた命令は貴様を拉致してくる事
 のみ。後の事は知らんわ」
「お前の親玉は今どこにいる?」
「答える義務はない。それと横の貴様ら、抵抗しても無駄だ。俺を58号のように始末した所で第2、第3の穴持たずが
 こいつを捕まえに来る事だろう。それも総力を挙げてな」
「ええーっ!? お前みたいなのがまだ何匹もおるのかー!?」
「さて、お喋りはここまでだ。おとなしく俺と共に来てもらおうか博士?」

穴持たず59号は最後にそう告げ、鋭い爪を光らせながら博士たちに近寄る。

「どうするんですか総統? こいつの言ってる事が本当なら、僕達猿の軍団ならぬ熊の軍団に目をつけられた事に
 なりますよ?」
「というか吉田君、何でわしの背中を押すんじゃ! むしろ身代わりにするならフィリップの方じゃろ!」
「あっ、それもそうですね。フィリップなら死んでも幽霊と人間をすぐに切り替えられますし」
「ええっ!?」

と、総統達が色々と酷い事をフィリップに言い放っていた、その時である。

「獣電ブレイブフィニッシュ!!」
『バモラムーチョ!』

「グロガァーッ!?」


後方から聞こえてきた声と電子音と共に、一条の光線が59号の背中に命中したのである。
これにはたまらず59号ももんどり打って地面に転がるしかなかった。

「な、何じゃ今のは!?」
「総統、あそこです!」
「……どうやら間に合ったようだな、ドクター」

見るとそこには、紫色のコスチュームに身を包んだ謎の人物が黄色い銃を手に佇んでいた。

「な、何者だ貴様は!?」

「地球の海は俺の海ッ! 宇宙の海も俺の海ッ! 海の勇者ッッ!
 キョォォォォォォウリュゥゥゥゥゥゥゥウ!! ヴァァァァァァァァァァァイオレットォォォォォォォォ!!」

59号に名を問われ、謎の男は高らかにそう名乗りを上げた。
そのあまりのテンションの高さに、周りにいた面々はただただ気圧されるばかりであった。

「キョウリュウバイオレットじゃと?」
「何なんですかね、あの千葉繁みたいな声のヒーローっぽい人は?」
「いや吉田君、あってるけどメタな事言うんじゃないよ!」
「待たせたのうレオナルドっち、こっちの準備は整った。急いで離脱するんじゃ!」
「ありがとよドクター。おいお前ら、急いであいつの後に続け! 早くしろ! オラッ!!」
「ムム~ッ、何だかよくわからんが、ここは博士の言う通りにした方がよさそうじゃな……」
「そうですね、行きましょう総統!」

とにかく目の前のヒグマから逃げるため、総統達は急いで博士の後に続いてその場を離れる。
だがそれを黙って見逃すヒグマではない。

「待てぇーっ、逃がさんぞーっ!!」
「そうはいかん。悪いがお前さんはご退場願おうか。ブレイブイン!」
『ガブリンチョ! オビラップー! プ~ン!!』

するとバイオレットはすかさず腰のバックルから取り出した電池を銃にセットし、銃後部をヒグマに向けた。
この電池の名は獣電池№17『オビラップー』。
オビラプトルの特性を持つガーディアンズ獣電池であり、その能力は強烈な催涙ガスを噴射して敵の戦意を喪失
させる事である。

「おわぁ~~~~~っ、くっさ~~~~~~~!!」

あまりの匂いに悶絶しながらのた打ち回る59号。
人間より数倍五感が発達したヒグマだけに感じる匂いも数倍なのだから仕方ない。
そして気付いた時には、その場には彼らの姿は完全に消え去っていたのだった。

HIGUMA計画じゃと? それが奴らの目的なんじゃな、Dr.ウルシェード?」
「やっぱり千葉繁じゃなかったんですね」
「よく似てると言われるわい。まあそれはさておき、奴らの計画はさっきも軽く説明した通りじゃ。
 スタディという組織が行っとるそのプロジェクトのせいで、今世界中から様々な人物が無作為に拉致され、
 奴らの生み出した『ヒグマ』という名の生物兵器の実験のモルモットにされようとしておる。わしは連中の
 計画を察知して密かに調査を進めておったんじゃが、その結果レオナルドっちも狙われている事を知って
 駆け付けたという訳じゃ」

鷹の爪団の面々に事のあらましを説明するのは、先ほどの戦士と同じ声の老人。
彼こそかつて獣電戦隊キョウリュウジャーの9人目、キョウリュウバイオレットを務めていた人物である科学者、
Dr.ウルシェードその人なのである。
現在は彼の孫娘である弥生ウルシェードに2代目バイオレットの役目を引き継ぎキョウリュウジャーの後方支援に
徹している彼だが、今回再び動かざるを得ない理由ができ、こうして活動している。
先日キョウリュウジャーの基地であるスピリットベースより、ガブリボルバー一丁と獣電竜アンキドンの獣電池が
紛失するという事件が突如発生したのだ。
デーボス軍の仕業ではない事が調べにより分かった後、ドクターは獣電池が紛失した期間と世界各地の拉致事件の
期間が一致する事に気が付き、歴代のスーパー戦隊のネットワークも駆使して今回の事件の黒幕に行きついたのである。

「奴らの目的からいって、レオナルドっちの『プロメテウスの宮殿』を狙ってくるのは必然じゃったからな。
 正直間に合って助かったわい」
「ところで博士、ドクターとは知り合いなのかね?」
「ああ。歌舞伎町の居酒屋で知り合ってからダチになってな。今回の事も既にドクターから連絡済だったぜ」


ここで補足しておこう。
レオナルド博士の持つ『プロメテウスの宮殿』とは、博士の頭脳に存在する『必要な時に必要な知識を与える』
という叡智の泉とも言うべき物であり、かつてはこれを狙って博士自身が狙われた事もある。
この宮殿の知識により、博士の実家であるヴィンチ家は自動車から携帯、布団圧縮袋の開発まで文明の発達に
代々寄与してきた。
博士自身もこれまでに、カレーライスからスクーターを、粗大ゴミから量産型ロボットを、100円ショップの
商品から宇宙船を、昨日のご飯の残り物から駆除不可能なPCウィルスを、ティッシュペーパーから原子炉を、
しまいには土星を材料に超弩級の大型ロボット(CV:大山のぶ代)を作り出すというもはや錬金術レベルの
チート染みた発明を生み出し続けている。
もっともこれだけの科学力を味方につけていながら、鷹の爪団は未だに世界征服できていないというおかしな
状態ではあるのだが……


「さて……鷹の爪団の諸君、わしから折り入って頼みたい。奴らのHIGUMA計画を破壊するため、どうか
 力を貸してはくれんか?」
「いや、事情は理解したんじゃが……ドクター、一応断っておくが、わしらは世界征服を企む悪の秘密結社なん
 じゃよ? ヒーローの側にいるあなたがわしらに協力を求めてもいいんですかな?」
「そうですよ。それにドクターの仲間のキョウリュウジャーには頼めないんですか?」

ドクターからのまさかの頼みを聞き、至極もっともな疑問を総統と吉田君はぶつけてみた。
当たり前である。
どこの世界に悪の秘密結社に堂々と協力を求めるヒーローがいるのか。

「何を言うとるか。鷹の爪団の事はレオナルドっちから隅々まで聞き及んどるわい。お前さん達が何のために
 世界征服をしようとしておるかも含めてな。それに今キョウリュウジャーもデーボス軍との戦いに手一杯で
 動けんから、こうしてわしが出張っておるんじゃ。それとわしがお前さん達、特にレオナルドっちに協力して
 ほしいのは……こいつを完成させる為じゃ」

そう言ってドクターが取り出したのは一枚のディスクだった。

「こいつはわしが開発したデーボス細胞破壊プログラムをアレンジするための基盤じゃ。こいつを基に今から
 『ヒグマ細胞破壊プログラム』を新たに作り出す!」
「ヒグマ細胞破壊プログラムじゃと? そんな物が作れるのか?」
「連中の細胞を構成する要素解析と、猛烈な進化スピードを更に上回る細胞破壊酵素のパワーさえ満たせれば理論上は
 十分可能じゃ。それにはまずヒグマの細胞が欠片でも必要なんじゃが……」
「それならもう既に手に入れてあるぜ」
「ええっ、一体いつ手に入れたんですか博士?」
「さっきヒグマが撃たれたドサクサに紛れて、奴の鼻毛を数本抜きとっておいたぜ! オラッ!」
「うわぁっ、しかも7本も抜いてある! 想像しただけで痛そう!」

ここまでのやりとりを見ていた総統は、おもむろにドクターに向き直った。

「ドクター、このプログラムが完成すれば、あのヒグマとやらを倒す事はできるんじゃな?」
「完全な補償はできんがな。もしヒグマの進化のスピードがプログラムを上回っておればその時は……」
「……わしは決めたぞ吉田君。これより鷹の爪団は、スタディのHIGUMA計画を阻止するためにドクターに
 全面協力するぞ!」
「ええっ、本気ですか総統!?」
「ドクターにはわしらを助けてもらった恩がある。何より連中の非道な計画を見過ごすわけにはいかん!
 それにわしらはこれより上の修羅場に何度となく首を突っ込んで、知らないうちにどうにかしてきたではないか。
 今回だってきっと何とかなるわい!」
「総統……」
「……そう言ってくれると思っておったわい。よろしく頼むぞ総統っち!」
「いやドクター、総統っちって……」
「何だかたまごっちのパチモノみたいですね」
「しかし……問題がまだ一つある」

そう呟き、ドクターは顎に手を当てて吉田君の方に顔を向けた。
問題はこのプログラムを完成させるまでの時間である。

「吉田っち、本当にここなら奴らに見つからないんじゃな?」
「任せてくださいドクター。この場所なら絶対に奴らにも気づかれませんよ」
「まあわしらもこれまで何度となくこの場所に潜伏した事がある、問題はあるまい」



島根県雲南市吉田村。
現在鷹の爪団が潜伏している、吉田君の故郷である。


総統達はヒグマからの追撃をかわした後、吉田君の提案でこの地へと隠れ潜んでいたのである。
ちなみにここまでの移動は以前博士が開発した、どこからでも一瞬で島根へと移動する事が可能なスマホアプリ
『ドコデモ島根』を利用して行ったためほぼ確実に足はついていない。

その頃、後にロワ会場となる島では。
穴持たず59号がスタディ研究員にしぶしぶ連絡を取っていたのだが。
「何ぃ~? 奴らを見失っただと!?」
「穴持たず№59、貴様ちゃんと探したのか?」
『も、もちろん探した。しかしどこを探しても奴らは見当たらん、もしかしたら日本にはいないのかも……』
「この役立たずが! 後は我々が探す!レオナルド博士を見つけるまで貴様は帰ってこんでいい!」
『そ、そんな! 待ってくれ~!!』

その後彼らの全力を持ってレオナルド博士達は捜索されたが……
ヒグマロワイアル開始までの間に遂に博士は発見できないままであった。


「まさか本当に見つからんとはのう……」
「当たり前ですよ。島根県と言えば『日本一どこにあるのか分からない県』として有名ですから」
「おかげでプログラムは完成したぜ、オラッオラッ」



そして1週間後、ヒグマロワイアルが開始して最初の朝を迎えた頃。
鷹の爪団とDr.ウルシェードを乗せた獣電竜プレズオンは、一路日本海から北海道を目指していた。
本来なら大気圏内外を飛行できるプレズオンなのだが、空中からの迎撃を視野に入れたドクターの提案により
海中から侵入する事となった。
元々プレズオンは海の獣電竜、むしろ本来の庭で活動するも同然なので、行動には一切支障はなかった。

「弥生からの連絡によると、どうやら日本政府もようやく重い腰をあげてエージェントを数名送り込んだらしい。
 キョウリュウジャーも目的の島から現れた謎の巨人と交戦中だそうじゃ」
「ドクターも言っておったが、本当に何が起こるかわからんぞ、この戦いは……」
「さっきも急に津波が起きたりして、危うく死ぬかと思いましたよ」

いい加減目的地も近づいてきた所なので、総統も腹をくくった様子で団員たちに向き直る。
恒例のアレをやるつもりなのだ。

「鷹の爪団の諸君! これよりわしらはヒグマ達の巣喰う島へと向かい、連れ去られた人々を救出し、ヒグマ達を
 退治に向かう! 何が起こるか本当にわからんから、気を引き締めて行くんじゃー!
 た~~か~~の~~つ~~め~~」
『た~~か~~の~~つ~~め~~(オラッオラッ、イシクラッ)』

幸い襲撃に会う事も無くプレズオンは島の西側の崖下に設置し、総統達は周囲をサーチした映像を見ながら
方針を練る事にした。

「見てください総統、さっきの津波のせいで島中が水没しちゃってますよ?」
「んん~っ、何という事じゃ。これでは果たして何人生きているかもわからんぞ?」
「ついでにヒグマも溺れてくれれば助かるんですけどね」
「それはないじゃろう。普通の熊はカールルイスより速く走り、木登りを得意とし、さらには泳ぎも達者という
 万能選手。まかり間違ってもヒグマにそんな個体はそうおらんじゃろうな」

吉田君の淡い希望にそう付け加え、ドクターはサーチ結果を見ながら言葉を続けた。

「……どうやらこの島一帯に、巨大な物体を縮小させてしまう謎の干渉波が張り巡らされているらしい。これでは
プレズオンで内部に突入するという手は使えんな」

彼らは知らなかったが、これまでの戦いにおいて怪獣や巨大ロボットはすべからく人間大の大きさに縮められて
しまう制限をかけられていた。
迂闊に突っ込んでいたら、参加者であるイエーガーのパイロット達と同じような状況に陥ってしまう所だった。

「総統っち、すまんがわしはここでプレズオンと待機する事にする。島の中の事はお前さん達に任せたぞ」
「ええっ? 一緒に来てくれないんですか?」
「わしがここを離れたら、脱出の綱であるプレズオンに何か会った時対応できんじゃろ。わしも通信でできる限り
 サポートする。レオナルドっち、中の事は頼んだぞ?」
「任せておけ、ヒグマ細胞破壊プログラムはスマホから常にアップデートできるようにしてある。準備は
 万全だ!」

博士は腰に自分用のガブリボルバーをセットしてドクターにそう答える。
既に開発済みの破壊プログラムはプレズオンとリボルバーにそれぞれインプットしてあるため、大小いかなるヒグマにも
対応できるようにしてある。
後は自分達が内部で上手く立ち回れるかだが―――

「吉田君! ヒグマ対策用に用意しておいた蜂蜜が、なんで水飴になってるんじゃー!」
「すみません、あまりにもおいしそうだったんで、つい全部舐めてしまって、代わりに詰めときました!」
「あれほど『つまみ食いするな』と念を押しておいたのに、なんで食べちゃうんじゃ!」
「だって総統があんまり食べるな食べるなと念を押すもんだから、てっきり食べてほしいのかと思ったんですよ!」
「芸人の熱湯風呂の前フリじゃないんだから! ガチじゃよ!」

「(このバカ共じゃ期待できねぇな)」

こいつらは何をやらかすかわからない。
毎度の事ながら、そう思う博士であった。



【海上外・西側崖下/朝】
【Dr.ウルシェード@獣電戦隊キョウリュウジャー】
状態: 健康、キョウリュウバイオレットに変身中、プレズオンに搭乗中
装備:ガブリボルバー、ガブリカリバー
道具:獣電池(プレズオン)×3、ガーディアンズ獣電池×数本(内容は不明)
基本思考:殺し合いを止め、参加者を助け出す
1:外部から鷹の爪団をサポートする
2:謎の干渉波をどうにかせんとなぁ……
3:巨人と交戦中のキョウリュウジャーも心配
[備考]
※プレズオンが島の西側の崖に待機しています。
※プレズオンにはレオナルド博士とDr.ウルシェードの競作『ヒグマ細胞破壊プログラム』が搭載されています。

【ヒグマ細胞破壊プログラムについて】
  • デーボス細胞破壊プログラムを基盤としてレオナルド博士が開発した対ヒグマ用プログラムです。
  • ヒグマの進化スピードを超える数倍のスピードでヒグマ細胞を分解し、完全に生命活動を停止させるように
 作られていますが、プロトタイプの為場合によっては通用しないかもしれません。
 ただしレオナルド博士の持つスマホからのデータ更新により随時強化は可能です。

数分後。
Dr.と別れた鷹の爪団一行は、なんとか崖を登って会場内に潜入成功した。
だがあたりは見渡す限り水浸し。
とてもまともに行動できる状態ではなかった。

「どうします総統? これじゃ参加者を探すどころじゃありませんよ?」
「ムム~ッ、博士、この水没した海上を移動するための船とか何かを作ってはくれんか?」
「そう言うだろうと思って、もう既に作ってあるぜ」
「流石博士、天才すぎー!」


ババーン!


「水上移動用小型船舶型メカ『鷹の丸』だ!!」
「って博士、これどう見てもただのイカ釣り漁船にしか見えんぞ!」
「そう見えるのは外見だけだ。船体は特殊合金で覆われ、迎撃用魚雷やヒグマ探知レーダーも搭載。さらに
 内部はリビング・キッチン・バス・トイレ完備、収納スペースは50か所以上の快適空間だ!」
「素敵!こんな船に住みたかった!」
「1週間前に買ってきた100円ショップの材料で作ったぜ!」
「よし、ならばこの船に乗って、生き残った人々を、助けに行くんじゃー!」

と、総統が号令をかけた時である。



たすけてくれ~~~ たすけてくれ~~~



どこからともなく、誰かの救いを求める声が聞こえてきたのだ。
まるで親友に顔面をぶち抜かれ、悪魔騎士に内部に侵入されたロボ超人のような声である。


「何じゃ、今の声は?」
「そ、総統、あそこを見てください!」
「ムゥッ、あれは!?」

吉田君の指差す方向を見た総統の視界に入った物は――――


大型の流木にまたがり枝をオール代わりにして漕いでいる黒い熊と。
同じく流木にしがみつき、なんか頭にアンテナが刺さり口に釣り針を引っ掛けて助けを求める熊だった。
どうやらこの2匹は、先ほどの津波から辛くも逃れて生き残っていたようだ。


「あ……あれは熊本県のゆるキャラ、くまモンではないか!」
「なんか後ろにAAみたいな変な熊も引き連れてますね」
「ま……まさかゆるキャラまで殺し合いに参加させられているとは……吉田君、とりあえずあのくまモンと
 接触してみるんじゃ!」
「どうする気ですか総統? まさかくまモンに島根県のゆるキャラとして鞍替えしろとか言いませんよね?
 駄目ですよ、島根には既にしまねっこ、い~にゃん、活イカ活っちゃん、あしがる君といった人気者が
 いるんですから!」
「いやいやそういう事じゃないから! くまモンもきっと巻き込まれたうちの一人のはずじゃから助けて
 話を聞こうというんじゃよ!」

などと言いつつ、総統達は急いで鷹の丸に乗り込み、くまモンとの接触を試みようとエンジンを起動させた。

―――超展開ってレベルじゃないモン。
そう思いながらくまモンは懸命にオール代わりの枝で水面をかき分けた。
場所を移してクマーから話を聞こうと思い、移動していた矢先にとんでもない事態が起き続けた。
火山から巨大な人間が出てきたかと思ったら、今度は島中が突如津波に襲われるという未曽有の展開。
こんな状況では穴持たず達との戦いもへったくれもない。
あげくに後ろに控えている熊は偶然同じ流木にしがみついたものの「俺はハンマーなんだ~!」と弱弱しい声で
ビビって助けを求める始末。
―――それを言うならカナヅチだモン。
そうツッコみつつ現在に至る。


そんな中、くまモンの視界に入る者が一つ。
何やら赤い服を着た中年の男の率いる一団が船に乗ってこっちに向かってきている。
彼らも参加者なのだろうか?
何やら白衣を着たクマも傍らに控えているが、彼も穴持たずなのだろうか?
疑問は尽きないが、この状況ではとにかく足がつく陸地を探すのが先決。
彼らが何者であれ、まずは対話をせねば話は始まらない。
後ろにいる奴の処遇は追々どうにかすればよいだろう。


そう思いつつ、くまモンは近づきつつある彼らに手を振ったのだった。


彼らとの出会いが果たしてどういった結果を生むのか――――



【B-7/朝】
【くまモン@ゆるキャラ、穴持たず】
状態:健康、ヒグマ、流木にまたがって移動中
装備:釣竿@現実
道具:基本支給品、ランダム支給品0~1、スレッジハンマー@現実
基本思考:この会場にいる自分以外の全ての『ヒグマ』、特に『穴持たず』を全て殺す
1:あの一団(鷹の爪団)と接触してみる。
2:ニンゲンを殺している者は、とりあえず発見し次第殺す
3:会場のニンゲン、引いてはこの国に、生き残ってほしい。
4:なぜか自分にも参加者と同じく支給品が渡されたので、参加者に紛れてみる
5:ボクも結局『ヒグマ』ではあるんだモンなぁ……。どぎゃんしよう……。
6:メロン熊は、本当にゆるキャラを捨て去ってしまったのかモン?
7:とりあえず、別の場所に連れて行ってクマーの話を聞くモン
8:あの少女は無事かな……

※ヒグマです。

【クマー@穴持たず】
状態:健康、アンテナ、釣られ、ビビり
装備:無し
道具:無し
※鳴き声は「クマー」です
※見た目が面白いです(AA参照)
※頭に宝具が刺さりました。
※ペドベアーです
※実はカナヅチでした

【総統@秘密結社鷹の爪】
状態:健康、鷹の丸に搭乗中
装備:なし
道具:なし
基本思考:参加者達を助け、殺し合いを止める
1:くまモンと接触するんじゃ!
2:他の参加者達を探し、救助する


【吉田君@秘密結社鷹の爪】
状態:健康、鷹の丸に搭乗中
装備:なし
道具:水飴入り壺、リモコン(フィリップの人間と幽霊切り替え用)
基本思考:参加者達を助け、殺し合いを止める
1:とりあえずくまモンを助ける
2:でもやっぱりしまねっこの方が可愛いよな


【レオナルド博士@秘密結社鷹の爪】
状態:健康、鷹の丸を操縦中
装備:博士用ガブリボルバー(ヒグマ細胞破壊プログラム内蔵)
道具:スマホ、工具一式
基本思考:殺し合いを粉砕し、ヒグマをぶっ潰す
1:くまモンを助けて話を聞く
2:ヒグマの戦闘力が気になる

※どう見ても見た目クマですが、ヒグマではありません。
※材料さえあればほぼ何でも作れますが、ヒグマを直接的に破壊する発明はデータを収集しないと作れません。


【菩薩峠君@秘密結社鷹の爪】
状態:健康、鷹の丸に搭乗中
装備:なし
道具:なし
基本思考:総統達に着いていく
1:パパ……


【フィリップ@秘密結社鷹の爪】
状態:健康、鷹の丸に搭乗中
装備:マイク
道具:なし
基本思考:殺し合いを止め、参加者を助ける
1:くまモンを助けて話を聞く
2:何だか猛烈に嫌な予感がする



※水上移動用小型船舶型メカ『鷹の丸』について
  • 見た目はただのイカ釣り漁船です。
  • 船体は特殊合金で覆われ、迎撃用魚雷やヒグマ探知レーダーも搭載。さらに
 内部はリビング・キッチン・バス・トイレ完備、収納スペースは50か所以上です。
  • 他にも何か機能があるかもしれません。


No.103:不明領域 本編SS目次・投下順 No.105:Sister's noise
本編SS目次・時系列順 No.106:水雷戦隊出撃
Dr.ウルシェード No.116:水嶋水獣
鷹の爪団 No.115:羆帝国の劣等生
No.087:喪女だって話の中心になれる くまモン
クマー

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最終更新:2015年11月27日 12:30