水雷戦隊出撃
全方位から会場に襲い掛かった津波により水没したビルが立ち並ぶとあるエリアの一区間。
その激流の中をまるでスケートリンクで滑るように軽快にホバー移動する二人の少女がいた。
「あははっ!天龍おっそーいー♪」
「こらー!島風!あんま先行すんな!迷子になっても知らねーぞ!」
「す、すみません天龍さん。私も泳げないことは無いのですが……。」
「気にすんな。アンタが強いのは知ってるけど、流石に海の上じゃあたしたちの方が速いよ。」
艦むすと呼ばれる少女型兵器、熊犬・銀を背負った天龍型1番艦「天龍」と
三体の連装砲ちゃんを肩に乗せた島風型駆逐艦一番艦「島風」である。
浅く水没した街道を移動していた彼女らは先ほど突然発生した津波に驚きつつも、
マップが水没したことで本来の機動性を存分に発揮できるようになったのだ。
このサプライズによりさっきから泣きながらごめんなさいと連呼して落ち込んでいた島風は
まるで遊園地に連れてこられた子供のように目を輝かせて、踊るように水面走行を満喫している。
「ったく、さっきまでわんわん泣いてたのに調子いい奴っ!」
「まあ元気になったから良かったではないですか。」
「そうだな……しっかし、アイツも昔と変わんねーよな。」
「そういえば、あなた達は同種族の様ですが顔見知りなのですか?」
「ああ、よく遠征で新入りの駆逐艦を引率して出撃してたからな。
ただアイツは他の娘と比べてやたら高性能だからっていつも言うこと聞かなくてよ。
まぁ、島風には雷達みてーに姉妹が居ないから人付き合いが苦手だったんだろうけどさ。
……ただ、今の島風が俺が知ってる島風と一緒なのかは分かんねーけど。」
「それは一体?同じ人間は一人しかいないのではないのですか?」
「あたし達は戦いに敗れて沈没しても新しく同系機が生産されたら魂が引き継がれるんだ。
その時前世の記憶も同じように持ち越されるって話だ。まあ、とにかく津波のせいで予定が狂ったけど
どっか休める場所をさがして島風と話しをなねーとな。」
当初の目的を思い出した天龍はタービンに負荷をかけ全速力で島風に追いつこうとする。
―――だが、忘れてはならない。海だろうが空だろうが、奴らはどこにでも出現するということを。
「天龍さん!何かがこちらに近づいてきます!」
「何っ!?な、なんだあいつは!」
荒ぶる波の上に乗って何者かが優雅に直進してくる。
巨大なボードを乗りこなす、サングラスをかけた毛むじゃくらの生物。
「あれは!ヒグマか!?」
「おおー!恰好いいー♪おはようございます!地上のヒグマさん!」
波を制覇し艦むすに匹敵する速度で自由自在に水の上を走り回るそのヒグマの名は穴持たずサーファー。
驚愕する天龍と銀をよそに島風はまるで仲間でも見つけたかのように近づいていく。
「おい待て島風!不用意に近づくな!危ねぇぞ!」
「えー?よく見なよ天龍!この熊さんウォータースポーツを満喫してるだけじゃない!」
「たしかに今はそう見えるけどよぉ……ん?なんだありゃ?」
徐々に至近距離まで迫ってきた穴持たずサーファーの乗っているボードの先端が突然せり上がり、中からマシンガンが飛び出してきた。
「なにぃ!?―――うわぁああ!?」
機関銃の銃口が火を拭き、自分たち目掛けてばら撒かれる弾丸を二人は慌てて高速旋回して回避する。
波に乗りながら二人のいた場所を通り過ぎる穴持たずサーファー。そのまま去っていくのかと思いきや、
今度はボードの両側面が展開し、弾頭にシャークの顔が書かれた二つの魚雷が後ろ向きに発射された。
「くそっ!ほら見ろ!やっぱあのヒグマ殺る気満々じゃねーか!」
「あははっ!過激な挨拶だねっ!」
ホーミング機能で二人の元へと迫ってくる魚雷を、天龍は肩に付いた14cm単装砲から砲弾を連射して
海の上から二つまとめてピンポイントに直撃させる。激しい水飛沫を上げて迎撃される魚雷。
「あー、危なかった……でもよー熊さん、海の上で艦むすと遣り合おうなんて流石に愚かじゃね?
戦うつもりなら、見せてやるよ!世界水準軽く超えてる俺の実力を!」
「わーい!ヒグマさんすっごーい!ねーねー!私と競争しよっ!」
「あ、こらっ!島風っ!」
突如水面をダッシュした島風は旋回して再びこちらに迫ろうとしていた穴持たずサーファーを両腕を広げて追い抜いてしまう。
ターゲットが前方に現れたことで旋回をやめた穴持たずサーファーは島風目掛けてマシンガンを乱射しながら水面を移動する。
「あははっ!当ったらないよーだ!」
それを左右に高速移動したり水没したビルを盾にしながら可憐に回避する島風。
「だぁぁ!!遊んでるんじゃねーんだぞ!」
「しかし……不謹慎ですが本当に仲良く遊んでいるみたいにみえますね。」
今も全力で殺しにかかってくるヒグマを迎撃しようともせず楽しそうに戯れる島風を見守る二人。
恐らくあの娘にはヒグマに対する恐怖心や警戒心が無いのだろう。
ふいに天龍は
カツラのことを思い出していた。ヒグマードに襲われ命を落としながらも
最後までヒグマを殺そうとせず保護しようとしていたこの会場に来て最初に出会った男の事を。
「共存共栄、か。できればそれが一番なんだろうけどな。」
「そのカツラという人の考えは分かりますが、ヒグマには私達の常識など通用しません。
この会場にいるヒグマは特に。迷いは死につながりますよ天龍さん。」
「ああ、分かってるよ。」
「私は迷わな。ヒグマは一匹残らず駆逐します……んん!?」
「どうした銀?」
「なんということだ……ヒグマがもう一匹こちらに近づいてきます!」
「ええっ!?」
天龍が振り向くと、激しく水飛沫を上げながら二匹目のヒグマが迫ってきていた。
そのヒグマは左右の足を交互に素早く動かして水面を走っている。
……うん、前言撤回。なにがなんだか分からないがとりあえずこいつは倒さねば。
「おのれヒグマめ!遂に水面走行もマスターしたか!だがそれがどうした!!
殺すべし!全ヒグマ殺すべしっ!慈悲はない!喰らえ!絶・天狼抜刀牙ぁぁぁ!!」
銀は天龍の背中を蹴って強烈に縦回転しながら水面を走るヒグマに向かって突撃した。
熊犬に先祖代々伝わるヒグマ殺しの奥義、抜刀牙。
その中でも究極と呼ばれる天狼抜刀牙はかつて
ウォーズマンをスクラップ寸前まで追い詰めた程の実力者、
完璧超人「完力」ポーラマンをも瞬殺した、ヒグマとの戦闘において絶大な威力を発揮する文字通りの必殺技である。
だが、銀がヒグマに当たった瞬間、突如回転力が弱まり、弾き返された。
「なっ!?弾かれただと!?―――がはぁ!!」
そのまま放物線を描いて水面に叩きつけられ大きくバウンドする銀。
「ワン公!?くそっ!!」
急いで銀を回収した天龍に接近したヒグマのクローが迫る。
姿勢を下げて紙一重で回避した天龍は腰に帯刀していた刀型武装を抜いて
すれ違いざまにヒグマを斬りつけた。ちなみにこの刀は
支給品ではない。
なぜこの武器が没収されてないのか知らないが、恐らく実際の戦闘では
使ったことがないのでコスチュームの一部として判断されたのだろう。
大きく斬りつけられた腹から血を流しつつもヒグマは水面を走る速度を緩めず、こちらに向けて方向転換をする。
そして、何かが割れるような音と共に傷口から全身に向かってどんどんヒビ割れが広がっていった。
「……あー、このパターンは……。」
「―――軟弱なッッッ自ら出向かず犬を差し向けるとはッッッ!!!」
激しい爆発音と共にヒグマの体が粉々に砕け散り、中から辮髪で髪を纏めた褐色の男が出現した。
「貴様は中国武術を嘗めたッッッッッッ!!!」
中国拳法において最高峰の達人のみに贈られる海王の称号をもつ拳法家、烈海王が
ものすごい速度で両足を上下に動かして水面を走り、こちらに迫って来る。
「なるほど、最初からヒグマではなかったのですか。絶・天狼抜刀牙が効かなかった訳です。」
「ウンソウダネ―。く た ば れ !」
負傷した銀をおんぶしている天龍は無表情で主砲から魚雷ガールを烈海王(ヒグマ)目掛けて発射した。
「ふざけんじゃないわよぉぉぉぉぉ!!!!!!ゆるしまへんでぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
存在自体がフザけている者を決して許さない魚雷ガールは激怒しながら烈海王に突撃する。
対峙する烈海王も水面を走りながら右手を前に突き出し迎撃の姿勢を取った。
「近代兵器対中国武術……中国武術の圧勝でしょうッッッ!!!!破ァァァッッッ!!!!」
烈海王は元々の力にヒグマの力を加えた究極の崩拳を繰り出し、突進する魚雷ガールを止めようとする。
だが、健闘虚しく右拳が当った瞬間、烈海王は大きく体を吹き飛ばされた。
ボーボボの仲間の中で最強の実力をもつ伝説のボケ殺し魚雷ガール。
あらゆる不条理を封殺する彼女の突撃の前では中国四千年も一溜まりもなかった。
だが、魚雷ガールも無事では済まず、顔を歪ませて放物線を描いて吹き飛ばされる。
大きな音を立てて水の中に叩きつけられる二人。
「走っていないと、流石に沈むな――――救命阿(ジュウミンヤ)!!!」
「がはぁ!効かないわ!そんな攻撃!何故なら私は魚雷だから!!―――――ゴバァッ!?」
全ての力を使い果たした烈海王と実は泳げない魚雷ガールはそのまま溺れながら海流に飲み込まれて沈んでいった。
「やりましたね。」
「くそぉっ!!虎の子の兵器が無くなっちまったっ!!」
「まあ勝ったからいいでしょう。やはりオーバーボディを脱ぐと弱体化するヒグマが多いようですね。」
「ああ、そうだな。……早く島風に追いつこうぜ。波乗りしてる奴も中に何が入ってるかわかんねーし……。」
規格外のヒグマであるヒグマドンから逃げ回っていた彼女らはもはや大抵の事態には驚かなくなっていた。
島風と穴持たずサーファーから大分離れてしまったが、まだ追いつけない距離ではない。
「出力最大で島風に追いつく。しっかり掴まってろよ!」
「ええ、わかりました……おや?」
「今度はなんだ?」
「島風さんが腰のポケットから何かを取り出しています。あ、どうやら携帯で誰かと電話をしているみたいですね。」
「……なにぃっ!?」
『もしもし!無事かい?ぜかましちゃん!?』
「ぐすっ…ごめんなさい、提督。任務が果たせなくなっちゃいましたぁ。」
『いや、それはもういいんだ。次元の歪みが無くなって脅威は去ったみたいだし、今シーナーさんが
後始末に向かってくれているからね。我々も出撃させるのが遅すぎたんだ。許してくれ。』
「提督が謝る必要はありません!私が遅かったからいけないいんです!」
『ぜかましちゃんより速い者などこの世に存在しないさ。それよりも新しい任務だ!今、問題になっているのはこの津波だよ!
このままではゲームに支障が出るからなんとか発生源を突き止めてほしいんだ。』
「はい!わかりました!」
『あ、あと今身に付けてる首輪の事なんだけど、そのままじゃ帝国に帰ってこれないから指定のポイントに向かってくれ。
そこで首輪を外すことが出来る筈―――――』
電話の声の主、ヒグマ提督がそこまで喋り終えた直後、オーバーヒート寸前までエンジンを吹かした天龍が島風の手から携帯を取り上げた。
『どうしましたぜかましちゃん!?』
「……はぁ、はぁ、追いついたぜ……軽巡なめんな!」
「あっ!こらー!天龍!提督とお話し中だぞっ!」
『そ、その声はもしや!?軽巡洋艦、天龍殿ですか!?』
「―――おい、誰だ、お前?」
今、正式参戦者の艦むすが、ヒグマ帝国の提督と電話越しに接触を果たした。
【烈海王(水面を凄い速度で走っていたヒグマ)@グラップラー刃牙 死亡】
【魚雷ガール@ボーボボーボ・ボーボボ 死亡】
【E-4:水没した街/朝】
【島風@艦隊これくしょん】
状態:健康、テンション上昇中
装備:連装砲ちゃん×3、5連装魚雷発射管
道具:ランダム支給品×1~2、基本支給品
基本思考:誰も追いつけないよ!
0:ヒグマ提督の指示に従う。
1:ごめんなさい提督、次は頑張るよ!
[備考]
※ヒグマ帝国が建造した艦むすです
※生産資材にヒグマを使った為ステータスがバグっています
【銀@流れ星銀】
状態:軽傷
装備:無し
道具:基本支給品×2、ランダム支給品×1~3、ランダム支給品×1~3(@銀時)
基本思考:ヒグマ殺すべし、慈悲はない
0:島風さんを落ち着かせる。
1:天龍さんと島風さん、二人の少女を助ける。
2:休息の取れる場所を探す。
3:さっきのヒグマはなんだったんだ……?
【天龍@艦隊これくしょん】
状態:小破
装備:日本刀型固定兵装 主砲・ランダム支給品1~3 副砲・マスターボール@ポケットモンスターSPECIAL
道具:基本支給品×2、(主砲に入らなかったランダム支給品)
基本思考:殺し合いを止め、命あるもの全てを救う。
0:島風を落ち着かせられるところに運ぶ……つもりだったんだけどな。
1:島風の話を聴くく。てか今から提督とかいう奴から話を聴く。
2:銀の配慮がありがたい。やるなぁワン公。
3:世界水準軽く超えてる先輩としての姿、見せてやるよ。
4:モンスターボールではダメ。ではマスターボールではどうか?
[備考]
※艦娘なので地上だとさすがに機動力は落ちてるかも
※ヒグマードは死んだと思っています
※水の上なので現在100%の性能を発揮しています
【穴持たずサーファー@穴持たず】
状態:健康
装備:スタディ産改造サーフボード(内臓:機関銃、対艦魚雷)
道具:無し
基本思考:目の前の餌を喰らう
0:荒ぶる波を制覇する
※天龍、島風、銀と交戦中です
一方その頃。
氾濫する水の流れを丘の上から呆然と見つめる一匹のヒグマと抱きかかえられた小さなネズミの様な生き物。
電気ポケモン・デデンネ(通称フェルナンデス)とその友達になったヒグマは高台に登って津波の影響をやり過ごしていた。
「
デデンネ!?デデンネ!?」
「やれやれ、これではゲームにならんなフェルナンデスよ。
なぁ、いっそこのまま波に流されてこの会場から出てしまおうか?」
「デ!デデデンネ!??」
「あ、そうか。まずその首輪を外さないといけないのだったな。はっはっは。」
殺し合いやヒグマとの戦いなどどこ吹く風と楽しそうに戯れる二匹。
だが、幸せな時間はそう長くは続かなかった。
「……デデ?デデンネ?!」
「ん?なんだあいつは?隠れていろ!フェルナンデス!」
流れる水の中から何者かが二匹の居る丘の上に這い上がってきた。全身がずぶ濡れになりながら、
丸太のようなものを手に待つ異常に筋肉の隆起したボディビルダーのような風貌のそいつがゆっくりとこちらに近づいてくる。
「貴様!?一体何者だ!?」
(あの顔……見覚えがある!?ま、まさか!?)
その男は全身に斑模様があり、目はまるで薬でもやっているかのように常にぐるぐると渦巻いている。
地下の帝国から解き放たれたそれは人間ではなくポケモンだった。スタディが趣味でヒグマの他に一体だけ試作していた生物兵器。
ステロイドの投薬によって最高密度の筋肉を身に付けた
パッチールがデデンネの元へと迫っていた。
――――第一放送を乗り切ったデデンネちゃんに今、最大の危機が訪れる!!
【H-3 森の中の高台になっている丘/朝】
【デデンネ@ポケットモンスター】
状態: 健康
装備:無し
道具:気合のタスキ、オボンの実、ランダム支給品0~1
基本思考:デデンネ!!
【デデンネと仲良くなったヒグマ@穴持たず】
状態:健康
装備:無し
道具:無し
※デデンネの仲間になりました。
※デデンネと仲良くなったヒグマは人造ヒグマでした。
【パッチール@ポケットモンスター】
状態:健康、ステロイドによる筋肉増強
装備:丸太
道具:なし
基本思考:キングヒグマの命令により増えすぎた参加者や乱入者を始末する
0:とりあえずデデンネを殺す
[備考]
※投薬によって種族値合計が670を越えています
最終更新:2015年12月27日 17:29