曲紹介
地獄で逢えたらさ、また恋人ごっこしようよ。
今度は、ふたりきりで。
曲名:『ファントムペイン』
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あらすじ1 |
歌姫になることが夢だった。だがレベッカは、母になる人生を選んだ。 Barマスカレイドの衣装デザイナーを務める彼女は、恋人のリチャードと静かに暮らしていた。 しかし酒癖の悪いリチャードは、仕事の鬱憤をレベッカへの暴力で晴らすようになっていく。 それだけなら何とか耐えられたが、ついにリチャードの暴挙が彼女の連れ子ロゼッタにも向けられてしまう。 レベッカは母として、あるいは女として、最悪の二択を迫られていた。 娘は守らなければならない。でもリチャードと別れることなんて出来ない。もちろん、どちらかが居ない世界なんて絶対に生きていけない。葛藤の末、彼女が選んだのは……。 レベッカは親友のリリアンに頼み、ロゼッタを立派な歌姫に育てるよう強引に約束すると、娘を置いて去ってしまう。 そして彼女は、幼い頃に夢描いた歌姫のドレスで美しく着飾り、愛するリチャードに捧げる”最期の乾杯”の支度をはじめる。
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あらすじ2 |
むかしむかし、あるところに、レベッカという可憐な少女がおりました。 レベッカはパパのことが大好きでした。パパが喜んでくれるから、パパのヴァイオリンにあわせてよく歌っていたのです。 娘の才能に気づいたパパは言いました。 心から音楽を愛し愛された者には、いつか"音楽の天使"が訪れると。 だからレベッカは、パパがオーナーを務める大劇場で、歌姫になる夢を抱くようになったのです。 レベッカは稽古場に通い詰め、仲間たちと夢を追いかける楽しい日々を過ごしました。 ところがレベッカは、ある日を境にまったく帰らなくなってしまいました。
レベッカが帰ってきたのは、半年も経ったある夜の午前0時でした。ひとり身籠った、その大きなお腹を抱えて。 パパは激しく問い詰めました。いったい誰の子なのか、どこに居たのか。 けれどもレベッカは、その生涯を通してただの一度も、真実を口にすることはありませんでした。 まだ16歳の少女はただ、世の中の恐ろしさを何も知らなかっただけなのです。 パパはかんかんになって怒りました。 「言えないのなら、子どもは諦めなさい。まさか産むつもりじゃないだろうな」 ママは穢らわしいものを見る目で吐き捨てました。 「薔薇のように高潔なルルー家の血統に、"雑花"の血が交じるなんて……」 アタシだって、別に子どもが欲しかったわけじゃない。でもこの子には、アタシしかいない。 レベッカは泣きじゃくる弟にだけ別れを告げて、家を出ていきました。 「大丈夫、女は一人でも強いからね……大丈夫」 震える指の爪を何度も噛みながら、レベッカは母として生きる覚悟をしたのです。 歌姫になるという大切な夢を諦めて。
七年後。レベッカは懸命に子育てをしながら、新たな恋人のリチャードと共に暮らしていました。 リチャードもまた、将来を嘱望された若手役者でした。ですが先の戦争で足を負傷。後遺症の痛みを和らげるつもりが酒に溺れ、今では端役すら貰えません。 夢も潰えて、ただ独りでは死にきれない。そんなふたりが出逢ったのは、きっと運命だったのでしょう。 リチャードは帰ってくるなり酒を煽り、左腿に深々と残る傷を何度も殴りつけました。 「ちくしょう、痛ぇ、痛ぇよ……」 仕事もうまくいかず、酒癖も悪くなり、やがて口論になって……いつしかレベッカに暴力まで振るうようになっていました。 けれどもレベッカは、彼の怒りが我が子に向かないよう、その痛みを受け入れることにしました。 そうすれば、彼の痛みを少しでも理解してあげられる。そんな気がしたから。 彼だって本当は優しい人。アタシが支えてあげないと。 そうやって増えた傷の痛みを忘れたくて、レベッカもまた酒に溺れるようになってしまいました。
レベッカを心から癒やしてくれるのは、苦難の末に産まれた可愛い娘の笑顔だけです。 薔薇として産んであげられなかった娘には、せめて名前だけは他の子に負けないよう、ロゼッタと名付けました。 美しい髪、真っ白な肌……そういえばアタシも幼い頃は、そうやって褒められたっけ。 女を忘れて母として懸命に生きるうちに、髪はぼろぼろ、肌は傷だらけ。自分の娘に嫉妬してしまうほどです。 だからこの子だけは、可愛い服を着させてあげよう。大切に守ってあげよう。そう決めていました。 小さな花も可憐な薔薇を演じれば咲く。だからロゼッタ、泣きだしたい時こそ笑ってみせて。 夢を諦めたレベッカのもとに"音楽の天使"はとうとう顕れませんでしたが、いつだって愛娘が笑ってくれるから、母はがんばれたのです。
ところが今夜のリチャードは、いつもより荒れておりました。 リチャードは以前から、ロゼッタが目障りでした。彼にとっては恋人の連れ子。血縁もなければ家族の情すら無いのです。 「おい、邪魔なんだよ!」 振り降ろされた酒瓶を代わりに受けたのは、母親レベッカでした。 「アンタ、何やってんの! この子まで傷つけるつもり!?」 痛みくらい、自分だけなら耐えられる。でも娘にまで手を上げるなんて。それだけは、決して許せませんでした。
レベッカが迫られた二択は、残酷なものでした。 母として、ロゼッタは守らなければならない。 女として、リチャードと別れることなんてできない。 もちろん、どちらかが居ない世界なんて、絶対に生きていけない。 ……ごめんね。こんなアタシを許して。 レベッカは、大きな決断をしました。 それは自分勝手で、現実逃避で、誰にも理解してもらえないでしょう。それでも。
人の痛みは、その人にしか分からない。 他人がいくら理解しようとも、それはただの幻肢痛[ファントムペイン]なのです。
レベッカは、自身がデザイナーとして働くBarマスカレイドを訪ね、少しだけロゼッタを預かってほしいと頼みました。 ですが親友のリリアンは気づいていました。レベッカは、もう二度と帰らないつもりだと。 「待てレベッカ、本当に君はそれでいいのか!?」 いいわけないでしょ。嘘でもいい。ひどい母親で構わない。ただ娘には、何も知らずに笑って生きてほしかったのです。 そして小さな声で、将来ロゼッタを立派な歌姫にしてほしいと告げます。 納得できないリリアンに、レベッカは言いました。 「……いつかアンタにも分かるよ、そんなイイ男に出逢えたらね」 最高の親友に最悪な捨て台詞を吐かれたリリアンは、それでも彼女を追って角を曲がりました。しかし。 懸命に生きた母親の姿は、もうどこにもありませんでした。
レベッカは、ロゼッタが産まれた日のことを思い返しました。 娘のことは心から愛している。何よりも大切な宝物。 けれども、ふと考えてしまうことがある。
もしも子どもが産まれていなかったらアタシ、憧れの歌姫になれていたのかな。
ひとり帰宅したレベッカは、本当に久しぶりに化粧をしました。 そして身に纏ったのは、いつか歌姫になって着るはずだった秘密のドレス。 スズランのように清純な白。トリカブトのように猛毒の紫。 薔薇として咲けなかった女が、薔薇よりも強かに生きるための色なのです。 全部ぜんぶ、アタシだけの着道楽。
今夜だけは一児の母じゃなく、一人の女。 そんな最低な罪悪感が、たまらない命の感触を思い出させてくれました。
帰宅したリチャードは驚きました。ドレスを纏う恋人と、豪華なディナー。 だが、たまには悪くない。何せ今しがた、役者としての大仕事が決まったのだから。 リチャードは彼女に贈る小さな薔薇を懐に隠し、静かに乾杯。いつも通り他愛もない会話をしながら、その報告をするタイミングを見計らっていました。 そして、ちょうど二杯目のワインが口に注がれた……その時。 リチャードが椅子から崩れ落ち、喉を押さえて激しくのたうち回るのです。 悶絶するリチャードを背後から優しく抱きしめて、レベッカが言いました。 「アンタ……もうすぐ痛くなくなるからね。がんばったよね、もういいよね、アタシたち」 男を愛することでしか、男を支えて必要とされることでしか、生きている実感が得られない。レベッカは、そういう人なのです。 レベッカだって本当は、リチャードに愛されたかった。 ただレベッカは、愛し方しか知らない。愛され方が分からないだけなのです。
やがて動かなくなった恋人に、レベッカは最期のキスをしました。 そして彼の口から垂れ流される唾液と猛毒を口に含むと、一息に飲み込みました。 喉奥からまもなく込み上げるのは、確かな死の味。 「安心しなよ。アンタだけは独りにしないから」 まるで欠損していた半身のように、愛した男を胸に抱き寄せて、レベッカは静かに目を閉じました。
「地獄で逢えたらさ、また恋人ごっこしようよ。今度は、ふたりきりで」
Barマスカレイドに預けられたロゼッタは、キャストたちの前で愛らしく笑いました。 「ロゼッタといいます。どうぞよろしくお願いします」 傷一つない可愛い服を身に纏い、少女は深々とおじぎをして、また笑いました。
まるで"音楽の天使"のように、ずっとずっと、笑っていたのです。
(YouTube固定コメントより転載)
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歌詞
(作者によるコメントより転載)
だから、こんな女を許して。
ひとり啼き濡れる、この蜜の花。
でも愛した貴方の気が済むのなら、
この痛み……受け入れるわ。
今夜はもう少しだけ酔忘せて。
一杯が痛みを和らげるの。
愛してる、許せない。
忘れたい、離れられない。
そうやって遺った傷痕が、この夜もまだ痛むのよ。
ねぇ、こんな女を許して。
殴りつ蹴る声と、悲鳴る声。
でも小さな愛娘を守るためなら、
この傷も……耐えられるわ。
嫉妬するくらい綺麗な愛娘の身体に、
傷ひとつ、つけはしないと覚悟たの。
だから今夜は口紅を塗って、
貴方と最期の乾杯をしましょう。
もう誰も苦しまぬように、
痛みのない毒で――。
「仮面の裏」を見知ないように、
愛娘の遠くで、決着をつけるわ。
傷をつけられようが生別れられないの。
"愛しているわ"
ねぇ、こんな母を許して。
午前0時には帰ると偽った。
でも心配しないで大丈夫よ。
今夜はもう、傷が痛くないの。
コメント
- 「嫉妬するくらい綺麗な、あの子の身体」なのか「嫉妬するくらい綺麗なあの子の、身体」なのかどっちなのかなってふと思った。 -- 名無しさん (2026-07-06 22:55:04)
最終更新:2026年11月01日 11:11