曲紹介
とりとめのない冬の日記
曲名:『日記』(にっき)
- 青屋夏生の17作目。
- 同氏のCD『日記』の表題曲。
- ささやかな等身大を綴るポエトリーリーディング。
歌詞
春はまだ遠く、
吸い込む空気が肺を刺す12月
昨日とよく似た形の夕日が
平たい積雲の裏を通り過ぎた
17時を告げるメロディーと
児童の帰宅を促すアナウンスが
橙色の街に、深く、
深く染み渡っていた
江戸川沿いの土手の上から
夕刻の街を見下ろすと
幼かった頃の記憶が
まるで、昨日のことのように蘇ってくる
特別な日も、なんでもない日も、
間違いを犯した日も
ここからの景色は
変わらずに
いつもただ、そこにある
僕らは息をする
吸い込んだ毒で肺を汚しながら
呼吸を続ける
他人の目を気にしながら
僕らは息をする
両手に余る疑問に怯えながら
適切な距離を探りながら
一つ一つ確かめながら
僕らは息をする
呼吸を続ける
駅からの帰り道
かすかに聴こえてくるピアノの音
いつも同じところで躓いて
くり返し、
くり返し同じフレーズをなぞる
下校の途中に、
こっそり餌付けをしていた飼い犬が
突然いなくなった日のこと
家出をして、
帰り道がわからなくなった日のこと
転校していった友達のこと、
昨日のこと、今日のこと、
今、生きているということ
沢山の文字の中の
忘れてしまったこと
なんでもないこと
あの日も
同じ夕日を見ていたこと
僕らは生きている
少しずつ踵をすり減らしながら
鼓動を続ける
満員電車に揺られながら
僕らは生きている
パンを食べながら
転んだことを恥じながら
一歩ずつ歩みを進めながら
僕らは生きている
鼓動を続ける
しんしんと深まる冬の気配に
息を殺し身を潜めた
太陽は西の空に消え
あたりには夕闇が迫っていた
家々に明かりが灯り
家路を急ぐ車のヘッドライトも相まって
まるで、星空を写し取ったようだ
私も、あの明かりの一つなのだ
冷え切った空気を吸い込むと
心臓は少し、鼓動を速めた
僕らは息をする
とりとめのない冬の日記
私が今、生きていた証
僕らは生きている
なんでもない日常に
必死でしがみつきながら
鼓動を続ける
膝をついて祈りながら
僕らは生きている
昼寝をしながら
無難な答えを選びながら
忘れたことを嘆きながら
本を読みながら
来た道を戻りながら
僕らは息をする
譲れないものを懐に隠しながら
呼吸を続ける
指をさされて笑われながら
僕らは息をする
誰かを手を繋ぎながら
夕日を見ながら、笑いながら、
忘れながら
僕らは息をする
呼吸を続ける
僕らはペンを取る
今日の日をまたいつか
思い出すために
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最終更新:2023年12月12日 22:46